タイトル:シロツメクサの思い出マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/20 15:55

●オープニング本文


●ある少女の回想

 昔住んでいた家の、近所には空き地があって。
 春になると一面に、シロツメクサが咲き乱れていた。
 ‥‥だから、春が好きだった。
 四葉のクローバーを探すのも。
 花冠を作るのも。


 ――
 けれど、久しぶりに戻ってきた故郷には。
 シロツメクサの空き地は無かった。
 代わりに出来ていたものは、巨大な建築物。
 ‥‥というと大げさね、所謂ただのマンションなんだけど。
 子供の頃に遊んだ思い出の場所では、今は沢山の人々が生活している。


 ――それまではなんとも思わなかったのに、無くなると急に恋しくなるもの。
 私は新しいシロツメクサ咲く野原を探して、そして見つけた。
 まるで子供の頃にもどったように、クローバーを探し、花冠も作って。
 たまにはスケッチブックを持っていって、風景画を残していく。
 私だけの、幸せな時間。


 だからもう、壊さないでね。

 ‥‥‥壊さないでって、お願いしたじゃない。



●オペレーターの話
 モニター並ぶUPC本部では、オペレーターが能力者達へ依頼の説明を開始していた。

「キメラが出現しました‥‥場所は住宅街から少し離れた場所にある野原です。
 体長3m程の巨大なカマキリの形をしたキメラで、実際のカマキリのように前脚は鎌状。
 そこに棘と鋭い刃があり、なぎ払う事で人の首すら跳ねてしまうほどの殺傷能力を持っています。
 ――数は3体。
 キメラが住宅街に近づかぬように注意しつつ、殲滅して下さい。
 それと‥‥一つ気になる情報が入っております。
 キメラの傍に、血にまみれで倒れる15歳くらいの少女の姿が見えるという事です。
 目撃者の話によれば、勇敢にもキメラに立ち向かって行ったそうですが‥‥。
 ――生きているならば助けて頂きたいのですが、生死は確認できていません。
 どうか、彼女のこともよろしくお願いします」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
ティルヒローゼ(ga8256
25歳・♀・DF
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
神城 姫奈(gb4662
23歳・♀・FC
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG

●リプレイ本文


「悪いが、切迫している状況なので運転が荒くても文句は言うなよ?」
 仲間達に言い、インディーズに乗り込んだ須佐 武流(ga1461)はアクセルを踏み加速していく。
 この狭い道を抜けた先に、キメラが出現したという野原があるはず。
(「生きていればいいが‥‥いや、絶対に生きていてくれ‥‥!」)
 ハンドルを握る腕に力が入る。‥一刻でも早く、駆けつけたい。
 スピードを増すインディーズに体を預け、サンディ(gb4343)も少女の安否を思った。
(「キメラに立ち向かっていった? どうしてそんな無茶を‥‥」)
 能力者ですら、時には束になってかからないと敵わない相手だと言うのに。――とにかく今は救出を第一に、皆で頑張ろう。
 そして、ティルヒローゼ(ga8256)が飄々とした表情で窓の外を眺める。ありふれた展開だと冷静にしつつ、急げば間に合う事を祈った。

 もう一台、ジーザリオの運転席でファブニール(gb4785)もアクセルを踏み込んでいた。
「どうか無事でいて‥‥」
 みなの気持ちを代弁するように、呟くファブニール。急ぐ事が救出に繋がるはずだからと信じて。
(「必ず、助けてみせるから」)
 遠石 一千風(ga3970)は一見平静を装いつつも、内心焦って仕方が無い。手遅れになる前に、救いたい。自分はこのような人々を救うために能力者になったのだから。
 一千風の隣のシートでは、神城 姫奈(gb4662)が何時もの快活な表情を潜めさせ、祈るように目を閉じる。
(「‥お願い神様、あの子の未来を繋げてあげて。私たちでできることはするから‥‥ね?」)
 彼女達の想いは、届くのだろうか。
 その中、少女の確保役を担う瞳 豹雅(ga4592)は、
(「責任重大ですが‥‥重大でない役目なんて大概ありゃしません」)
 と、心落ち着かせた。作戦開始の時は――近い。

 人々が避難を終え、不気味なほどに静まった住宅街の細い道を2台の車は駆け抜けた。
 そして、車と並走するバイク型AU−KVを駆る鳳(gb3210)が声をあげる。
「見えたで――!」
 視界の先に映るやや開けた空き地。そしてそこには――巨大な鎌を振り上げる、3体のキメラが。
「‥住宅地‥‥随分近い‥‥」
 窓から外を眺め、眉を顰めてウラキ(gb4922)が呟く。そして戦闘前の最終確認とばかりに、新調したボルトアクションライフルの動作を念入りに確認するのだった。



 キメラを視界に捉えた能力者達。
 3体のカマキリキメラは、ほぼ固まった状態で野原に居た。まるで、1体が仕留めた獲物に残りの2体が群がっているようで。
 ――嫌な予感がする。

 車を停車させた武流は瞬時覚醒し、瞬天速でキメラとの距離を一気に詰めた。目にも止まらぬ脚力で1体のキメラに肉薄し、胴を目掛け蹴り上げる。まだ攻撃も防御の体勢もとっていなかったキメラは、隙を突かれそのまま後方へ弾かれた。
「さぁて‥‥テメェらの相手は‥‥俺だ!」
 宣言し、武流は回し蹴りの連続攻撃をくらわせた。――刹那の爪に胴を裂かれ、体液を散らしつつジリジリと後退していくキメラ。
 ――キメラの傍に少女の姿は無かった。それを不安に思いつつも、武流は目の前のキメラの相手をする事だけに専念する。
 捜索は、他の仲間に任せたのだから。
(「救出の進行も気になるけれど‥‥今する事は違う」)
 同じく覚醒を遂げたウラキはキメラに近づかぬよう立ち回る。
「‥‥目標を視認した。情報通り‥‥3体だね‥‥」
 隠密潜行を駆使し、背丈の高い草叢の方へ身を潜ませるウラキ。そして、武流が攻撃を加える相手を、ライフルの射程内に捉え。
(「ここからなら良く見える‥‥。逃がさない」)
 鋭い眼光を放ち、小銃の引き金を引いた。

 一方鳳はリンドヴルムを身に纏い、竜の翼で一気にキメラとの間合いを詰める。
(「倒すより移動させないこと優先や‥‥!」)
 両手の鎌攻撃を受けぬよう正面を避け、側面へ回りグラーヴェで攻撃。
「どこ見てんねん。相手は俺や!」
 挑発的な笑みを浮かべる鳳。キメラは鎌を振るうが、寸でのところで身を引くとその切っ先はAU−KVの装甲を掠った。
 やや遅れて、エンジェルシールドを構えたサンディが参戦する。
「もう触れさせない!」
 キメラの攻撃を受け止めつつ、引き付けていく。

 残る一体のキメラは。
 ハルバートサイズを手にしたティルヒローゼが対峙していた。
「二つに裂けろ!!」
 スマッシュと両断剣を併用した大振りの一撃を、キメラの胴へ横薙ぎに放ち注意を惹く。
 その一撃はキメラの表皮を裂くが、キメラはもがく動作も見せず反撃で鎌を振り下ろす――。
(「‥‥っ、なかなか‥‥!」)
 ティルヒローゼの腕に薄らと血が滲んだ‥‥だがまだ余裕だ。一千風と合流するまでの間、一人で相手が出来るはず。


 一方ファブニールの車では。
 豹雅が停車をまたず車から離れ、刹那覚醒すると爪先が地面につくなり瞬天速を発動した。疾風のように駆け、少女の姿を探す‥‥。
 続いて一千風も車から飛び出した。
「たのみます‥‥」
「まかせて」
 ファブニールと言葉を交わし、一千風も瞬天速で駆け出していく。
 少女が生きていて、彼女らが無事少女を保護してくれると信じて――ファブニールと姫奈は、今はただ無事を祈った。

 豹雅と一千風は仲間とキメラの間を駆け抜け、少女捜索を続ける。
 そして――キメラ達が居る場所から数メートル離れた位置に、点々と血が落ちているのに気づいた。その点々を追っていくと、やがて。
「‥‥血溜りが‥‥!」
 一千風が叫び、豹雅は「見つけた」と皆に伝える。
 草叢で少女はうつ伏せで倒れていた‥‥完全に意識は無く、微動だにしない。鋭利な刃物で斬りつけられたような傷跡があり、出血が酷かった。
 一千風は少女の容態を確認――呼吸は、している。‥‥生きていると一千風は安堵し、かつて医師を目指していたという知識を生かして、少女への対処を待機する二人へと伝言した。
「‥‥その少女のこと、任せた。キメラは手早く片付ける」
「了解」
 短く答えた豹雅は少女の傷の具合を確認し、傷口が開きすぎぬよう注意しつつ胴へと腕を回した。そして完全に体を持ち上げると、逆の腕で少女の傷を固定するようにしながら移動を開始する。
 その後姿を見送った後、
「これ以上、誰も傷つけさせるものか」
 一千風はキメラを視界に捉え、鋭く見据えると武器を構えた。

 キメラを引きつける仲間達を時には盾にし、豹雅はファブニールの車へと少女を運ぶ。
「瞳さん!」
 それを、心配そうな表情の姫奈が迎えた。
 一千風からの伝言を話す豹雅。生きている‥‥だが、容態は危険極まりない、と。
「血は見慣れてるつもりだったけど‥‥これは‥‥」
 青ざめる姫奈。彼女には本格的な医療技術はない‥‥だが、応急処置ならば。今は出来る精一杯のことをするのみである。
 救急セットから包帯を取り出し、間接圧迫止血法での止血を試みる姫奈。
 隣ではエマージェンジーキットを手にしたファブニールも、応急処置を試みていた。
「がんばって。‥‥キミの守りたかった景色は僕たちが守るよ‥‥だから、もう一度あの景色を見に行こう!」
 意識の無い少女に、必死に話しかけるファブニール。
 そして姫奈も励ましの声をかけ――少女の命が燃え尽きぬよう、何度も祈った。



 少女が運ばれた事を確認し、能力者達は一斉に反撃を開始する。

 未来ある少女の命を絶とうとしたキメラに、武流は口にこそ出さないが怒りに燃えていた。
 キメラの反撃を回避し、ジャックによる牽制を加えていた武流は本格的な攻めの体勢へと移行。獣のように四つん這いになり、四肢の力で空中高く跳躍する。
「‥‥ぶっ潰す‥‥!」
 急所突きを発動、キメラの脳天へかかと落しを叩き込み、再び跳躍すると武流は地面へ着地した。そして、獰猛な獣のようにダッシュしキメラの背後へと回り込む。
 武流の一連の動作の最中、ウラキは援護射撃を続けていた。
「意外に速い‥あのキメラ‥」
 言いつつも、ウラキの強弾撃はキメラの関節を撃ち抜いていた。弾を一発ずつ装填し、撃鉄を起こす。
「‥武流! ‥キメラの足を撃つ‥‥仕留めてくれ」
「‥‥ああ」
 叫び声と共に放たれたウラキの銃弾はキメラの後足を貫き、動きが止まった隙に武流は鎌に狙いを定めた。前肢の付け根を狙った急所突きを繰り出し、鎌を叩き落し、無防備になった頭へ強烈な蹴りを入れる。
 連続攻撃に耐えれず、キメラが派手な音をたてて転倒した――そしてそのまま、動きを止める。
 こうして一体は葬られた。

 鳳は武器のリーチを活かし、キメラの腕を狙う。
「全力でいくで!! まずは腕からや!」
 手数を減らせばこちらが有利になるはず――と、グラーヴェで何度も斬りつけ。弱った部分に強めの一撃を加えると、程なくしてポトリと鎌が地に落ちた。
「一気に畳み掛けるで!」
「――ええ!」
 鳳の言葉に頷き返し、スパイラルレイピアを構えるサンディ。二人で連携をとりつつキメラを追い詰める。
 何度もキメラを斬り、時には反撃を受け‥‥鳳は率先してキメラの攻撃を槍で受け止め、サンディが止めを刺しやすいようにする。
 ‥‥やがてキメラの動きが明らかに鈍くなった。
 暫し睨んだあと、サンディは大きく息を吸い込み。
「インテーク開放。スパイラルレイピア、リボルビング!」
 その叫び声と共に、武器を高速回転させる。
「一気に貫き通す! 螺旋の連撃(スパイラル・コンテニュアス)ッ!!」
 二連撃とスマッシュを使ったサンディの連撃は、深々とキメラの胴へ突き刺さった。そして――剣先を抜くと同時に、大量の体液を撒き散らしたキメラは、程なく絶命するのだった。

 一千風はティルヒローゼと合流し、二人で連携をとりキメラを翻弄する。
 一千風が軽い身のこなしでキメラの鎌を避け隙を作ると、そこを狙いティルヒローゼが両断剣を叩きつけた。
 何度も胴を斬りつけるティルヒローゼ。その攻撃が途切れると、一千風が鎌や足の弱いところを狙って急所突きを決める。
 お互いの動きを補助しつつ、攻撃を途切れさせず‥‥キメラの反撃を許さない。
「‥‥く」
 しかし、瀕死のキメラは我武者羅な攻撃を繰り出してきた。ハルバートサイズをかざし何とか鎌の直撃を逃れたティルヒローゼだが、そのまま防御体勢に入る。
 そして、ティルヒローゼとキメラの間に一千風の体が躍り出た。
「ここで、終わらせる」
 鎌には鎌を‥‥しかし一千風の持つ大鎌「蝙蝠」の方が、大きく鋭い。横に振ってキメラの腕を斬り飛ばし、縦に構え頭を叩き割る――!
「‥‥ふう、やったか?」
 ティルヒローゼが問うと、一千風はキメラの死体を確認しつつ、頷いた。

 ――こうして、3体のキメラは葬られるのだった。



 能力者の中にサイエンティストは居なかったが、彼等は医療機関と連絡を取り安全な場所へ救急車を待機させていた。
 最初躊躇っていた彼等を、
『お願いします! 少しでも可能性があるなら、それに賭けたい‥‥命を見捨てることなんて出来っこない!』
『自分に出来る全てをもって皆さんをお守りしますから、どうか‥』
 と、ファブニールは必死に説得していたのだ。
 連絡により、駆けつけた救急車は瀕死の少女を搬送していく。
「ここからはプロのお仕事、です。後は頼みましたよ‥!」
 できることはやった‥‥どうか助かって。
 姫奈はファブニールと共に、去っていく救急車を見送っていた。

「どうだった‥」
 と、ウラキが救護班に訊ねた頃には、少女は既に手術室。
 やがて――適切な応急処置、救急隊との連携により少女は一命を取り留めたという報告が入った。
 ただ失血が酷く、意識は沈んだまま‥‥暫く目を覚まさなかったという。
 少女が目を覚ましたという連絡が入ったのは、救出から数日経ってのことだった。



 病室へ入る能力者らを見て、少女は目を丸くしていた。
 母親が『この人たちが助けてくれたのよ』と言うと、『有難う』と消え入りそうな声で少女が呟く。
「目、醒めたんやな!」
 そんな病室に、明るい声を響かせたのは鳳だった。その手には『白詰草』の花冠が握られている。
「よくあそこに通ってたって聞いたから‥‥作ってきたで」
 白詰草咲き乱れる野原で、女の子がする事といえばこれだろうと、鳳が一つ一つ編んでいった物。その花冠を、鳳はぽふっと少女の頭の上に乗せた。
 そして、
「よくがんばったね。もう恐いキメラはいないから、早く良くなってね」
 サンディはニッコリと笑み、「お見舞いだよ」と手にした手作りパン、白詰草を活けた小さな花瓶‥‥それらを横に設置されたテーブルへと置く。
 続いてウラキも、テーブルへ見舞いの果物籠を置いた。
「‥‥経過はどうかな‥‥元気そうに、見えるけどね‥‥」
 少女の顔を覗きこみ、呟くウラキ。少し見舞いが苦手で思わず言葉に迷ったが、気持ちは届いただろう。
 そしてティルヒローゼは四葉のクローバーを、そっと少女の目の前差し出した。
「あの野原で見つけた」
 幸せを呼ぶように‥‥そのような願いも込められているのだろうか。
 皆からの嬉しい贈り物に、少女は『有難うございます』と、先程よりも元気な声で、微かに笑いながら言うのだった。

「どうしてあんなところにいたんだ? 今後無茶はしないでくれよな?」
 問う武流に、少女は「ごめんなさい」と謝り恐縮した。
「今度キメラを見つけたら、逃げて下さいね」
 姫奈はやんわりと注意しつつも、表情は微笑んでいた。少女はコクリと頷く。
「早く良くなってね」
 一千風も柔らかい言葉を贈る。そして、戦う中疑問に思ったことを問った。
「‥どうしてキメラに立ち向かったりしたの?」
 その問いに、『今度は、守りたかったから‥』と、失われた過去の『場所』思う少女。
 それを見て、ファブニールは微笑む。
「キミの守った景色を見に行こう‥‥いつか必ず」
 優しい笑顔を少女にむけ、彼女の回復を祈った。

 こうして少女を見舞い、病院を出る能力者達。
 病室を見上げると、窓に張り付くように顔を寄せた少女が手を振っていた。
「‥帰ったら祝杯‥だな。ファブニールの新車購入祝いも含めて‥‥ね」
 そう口に出すウラキの顔には、珍しく『本当の』笑みが浮かんでいる。

 ただ、その場には――豹雅の姿だけがない。
 『そういう顔じゃないので遠慮しときます』。それが見舞いを断った理由だった。けれどあの場所から少女を抱えて、守ってくれたのは豹雅である。会えない事を知ると、少女はかなり残念がっていたようだ。
 豹雅は病院ではない場所で、助けた少女とあの場所を思う。
 そして、ふいに呟いた。
「諸行無常ですよ。壊れても、なくなるわけじゃない」
 ――この世に永久不変のものは無い。
 少女がかつて愛した花畑も、何もかも。
 無くなってしまっても、思い出は残るのだから。