●リプレイ本文
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青空の下、ボランティア活動に集まった能力者達。
「今日はよろしくね?」
クマのきぐるみを着て、朔月(
gb1440)は手を差し出す。子供はその手をにぎり、ぶんぶんと振る。
その施設では他にもスタッフ女性らが待機しており、笑顔で能力者達を迎えていた。
「少しでもお役に立てるように、頑張りたいと思います」
以前ボランティア依頼を受けた遠倉 雨音(
gb0338)は懐かしい顔を見つけ、再会を喜んだ。そして、手にした包みをシャオラ・エンフィード(gz0169)に渡す。
「これは‥‥お弁当ですか?」
「はい。多めに作っておきました」
それは雨音が子供達、そして参加者のために手作りしたお弁当。中には筍ご飯をメインに、春野菜のおかず等が入っている。
「春空の下、皆で食べるお弁当は格別なものがありますから、ね」
代表し、シャオラがペコリと頭を下げて礼を言う。
そんな二人を見つけ、
「こんにちは。この度はお招き頂きありがとうございます」
白雪(
gb2228)も又お辞儀をし、挨拶を交わした。
「お会い出来て嬉しいです。素敵な一日になりそうですね」
そして今度は、姉の『真白』が挨拶を。二つの人格が宿ることを知らず、雰囲気の変わる白雪に首を傾げつつ挨拶するスタッフ達であった。
ネオリーフ(
ga6261)は声をかけられ、早速ミシン運びのお手伝い。身長2mを超える青年は、裁縫より力仕事が得意そうなイメージなのだが。
ミシンを設置し、シートに座ると空を見上げるネオリーフ。
「いい天気‥‥なんだかとろけちゃいそう」
と、幼げな目を細める。のんびりオーラ漂う青年だ。
そして、建物内で布を選んでいたドニー・レイド(
gb4089)がやってくる。
「俺も折角だから‥‥作るのは屋外にしようか」
この青年は、裁縫と刺繍は学生時代からの趣味らしい。もちろん、腕も中々の物。
祖国にも送られるし、子供達の夢も叶えたい。この技が役に立つならばと依頼に参加したドニーだった。
そして、ナレイン・フェルド(
ga0506)は女の子用に化粧ポーチが作りたいと言う。
「女の子にとっての必需品でしょ♪」
正直手先は不器用だが、仲間と協力して作り上げるのは楽しそう。
「きっと喜びます♪」
頷くシャオラ。もちろん、彼女も手伝うつもりだ。
こうして準備が整うと、皆が思い思いに作品を縫い始める。
「私はズボンにするざます。偶に違う趣向も面白いざますね」
オホホと笑い、キャル・キャニオン(
ga4952)は優雅に腰を下ろして裁縫を始めた。ドレスを纏いお嬢様らしい独特の喋りをするキャルは、一見このような作業には疎そうだったが‥‥実は裁縫が好きな努力家だ。
「暑い季節向けに、キュロットズボンを縫うざます」
と、裁断を終えた後電動ミシンに糸を通し、動かし始めるキャル。
まずは股下。そして裾。片方を表に返し、股上を縫う。ここは力が掛かるので2度縫いをした方が安心らしい。そして縫い代にはジグザグミシンをかけ、前中心のヒダを縫う。
キャルがミシンをかけ始めてからは、瞬く間にキュロットの形が仕上がっていっていた。
「皆さん、器用ですね? 羨ましいです」
その中、榊 菫(
gb4318)はキャルの様子を見、その後皆の様子を見回して‥‥溜息をついた。彼女が手がけるものは『巾着』だが‥‥どうやら裁縫は必要最小限しか出来ないらしい。
菫は小さな長方形の布の縦と横をミシンで縫い、紐を通す。
「巾着も素敵です」
菫の作品を見て、雨音が微笑んだ。そして裁断した布を両手に乗せ、ミシンへ。
「学校の被服の授業で習った程度のことしかできないんですよね、私も」
と言う雨音が手がける服は、花柄の生地を使ったワンピース。そして中国の施設に居る少女の事を思いながら、ミシンを動かす。
(「あの時出会った、トラウマを抱えた女の子‥‥元気にしてるでしょうか。皆と一緒に遊べるようになったでしょうか‥?」)
元気になっていると信じ、是非その子に届けてほしいと。雨音の気持ちも織り込まれた、柔らかなワンピースを縫製していった。
一方ポーチ作りに悪戦苦闘するナレイン。
「まぁ、かわいい〜!」
ネオリーフが手がける作品に目を輝かせる。
「簡単だし‥‥とってもかわいいからお気に入りなんですよ」
えへへと無邪気に笑うネオリーフの掌には、約15cmの小さなクマさんが。
「作り方、教えて頂けますか?」
「はい、もちろん」
白雪が問いかけると、にっこり即答するネオリーフ。彼のがっしりとした体格で小さい物を縫う姿も、ちょっと可愛いかもしれない。
そして、
「採寸するよ?」
着ぐるみ姿で仲良くなった女の子の腰へ、メジャーを当てる朔月。
一瞬で計り、着ぐるみの頭をとると、涼しげな朔月の顔が現れた。『欲しいものが無いから作る』――そのスタイルを貫いてきただけあって、朔月の裁縫の腕は良い。
採寸を終えた後は着ぐるみを脱ぎ、早速型紙の作成にとりかかる。
まずはワンピース。花柄の布に型紙をあて、マチ針で止め、裁断していく。
その後は――足踏みミシンの出番だ。
野原に運び出されたアンティークな足踏みミシン。それは一昔前の型のミシンで、今では滅多にお目にかかれない物。上手く踏まないと針が逆に進むのだが‥‥朔月は調子よくペダルを踏んだ。カタカタと音が響き、狂い無く布が縫い合わされていく。
年配の女性が「まあ、上手ね」と朔月の腕を誉める程。
子供らの興味も集まる中、朔月はピンクの花柄ワンピースを完成させ、続いて白い布を使ったエプロンドレスにとりかかる。
「時間内には余裕で出来るでしょ♪」
そう言って微笑む朔月だった。
ミシンは使えないから手縫いで、白雪は姉と交代しつつ服を作る。
丁寧に縫われた白のワンピースにフリルをあしらい、さりげなく四葉のクローバーを刺繍した。
「最近、手元が霞むのよね」
と珍しく眼鏡をかけている真白。
(「老眼‥‥?」)
「遠視!!」
白雪の言葉につい真白は怒るが、外から見ると独り言のようで。
面白くてドニーはくすっと笑った。
そんなドニーの手元には、シックな色合いの布がある‥‥これから刺繍を入れるらしい。
「ポンチョですか?」
「ああ、これなら普段着の上から着れるし体温調節もし易い。特別な服じゃないけど、普段から着る服でお洒落が出来るっていうのは素敵だろう?」
問いかけに答えるドニー。
そして刺繍を終え、シンプルなポンチョを仕上げた。これは長く使えそう‥‥と、年配の女性もその出来に感心する。
(「次はセットになるような、子供向けのベレー帽を作ろう」)
休む暇もなく、次の作品へ。昔からの趣味の一つなので、連続作業も苦にはならない。
そして、白雪もワンピースとストールを作り終えたらしい。ハイヒールや麦藁帽子と共に、にっこりスタッフへ渡す。
「あまりお洋服はなれないんですが、よろしければどうぞ」
本来和裁の得意な彼女が作った洋服に込められた思いは、きっと海を渡って届く事だろう。
その後白雪は、やはりポーチに悪戦苦闘しているナレインの元へお手伝いに入る。
「両手こぶしが入るくらいの大きさで、花柄と無地の生地でストライプ模様のポーチが作りたいの〜」
ナレインの希望を聞きつつ、懇切丁寧に教えていく白雪。
「指先を怪我されないように気をつけて細かく縫ってくださいね。一針一針丁寧に縫えばきちんとできますよ」
「ん〜難しいわ‥‥」
うっかりすると手を刺してしまいそうで、苦笑しつつナレインが呟いた。
しかしゆっくり時間をかけ、最後に花の形のボタンを縫い付けて‥‥完成!
「できたわ〜」
思わずポーチを抱きしめ、叫ぶナレイン。
そんなナレインを待つもう一人の人物が居た――。
「ミシンの使い方も覚えないとね♪」
エプロンドレスを作り終えた朔月だ。手にはポーチ用の型紙、そして裁縫用便利グッズも。
「裁断と角を縫う際のポイントは‥‥」
ナレインを連れて、丸い型紙を手に角の処理を説明していく。
今度はミシンと格闘するナレインだったが‥‥ポーチの外側にフリルやリボンもつけ、何とか可愛く出来たようだ。
そして服を運ぶシャオラは、作業に没頭するネオリーフの横を通り、思わず足を止める。
「‥わ、すごい数のくまさん‥」
その身を屈めて縫うネオリーフの横には、ミニくまさんが溢れていた。その数十数体。そして大きさも様々。
声をかけられ、ネオリーフはハッと我に返り、
「あはは‥‥作りすぎちゃった」
困惑顔の後、照れ笑いを浮かべた。
「可愛い!」
「作ってみる?」
クマさんに興味をもった白雪とシャオラ、二人に作り方を教えつつ、ネオリーフはクマさん作りを満喫する。
白雪は出来上がった花柄クマさんを手に乗た。
「‥可愛く出来たでしょうか‥?」
「うん、可愛い」
と、更に増え続けるクマさんでした。
次々作品が仕上がり、ラッピングされていく中。
菫は得意な編み物で小さなコースターを作り始める。鈎針とリネンの糸を使い、レース編みに。
「やっぱり、慣れている道具の方が、やり易いです」
これも送ろうかと思いつつ、菫は楽しみながら編んだ。
「レース編みですか?」
「‥‥あの、とても見せられるものじゃないです」
スタッフが覗き見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめる菫。
そして、キャルは既に何着ものキュロットを仕上げている。
「ベルトの後ろに回る方を耳にすると楽ざます」
傍では興味を持った年長の少女がキャルに教わりつつ、縫い上げていた。 ――仕上げはベルトを付け、折りミシンをかけ、ゴムを入れて完成。
よく出来ました、とキャルは少女を誉め。
「次はビキニを縫うざます。正方形の布を対角線で切り、頂点を縫い合わせ股下にするざます。腰を結べば宜しくてよ」
残り布も無駄なく使うキャルであった。
服を縫い終えると、雨音は野花の押し花を使いメッセージカードを作り始める。
ワンピースにそのカードを添えて、春風と共に送りたかった。
「これをあの少女に。‥‥技術はありませんが、その代わり、気持ちだけはしっかり込めたつもりです。喜んでくれると良いのですが」
「確かにお預かりしました。きっと、想いも届きます」
雨音の手から服とカードを丁寧に受け取り、シャオラは答えるのだった。
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裁縫が一段落し、子供達は早速服に腕を通しきゃっきゃと騒ぐ。その様子を微笑ましく見つめる能力者。
そこへ、ナレインと白雪からさらにプレゼントが。
「喜んでもらえれば嬉しいわ♪」
「少しでもお洒落を楽しんでください」
ナレインからは10個のぬいぐるみ、Tシャツ、オリム化粧品、そして手毬。白雪からは女の子用にハイヒール・メイクセット、ヘッドドレス。そして、
「私の友人からです。どうぞお持ち下さい」
男の子には友人から預かったスニーカーと時計を渡した。子供達は皆、嬉しそう。
こうして子供とも打ち解け、皆で遊び始める時間。
菫は子供達へ花冠と花の鞠を作ってあげた。
鞠は花を同じ本数に分け、交差させ、真ん中をクローバーで縛り。茎を引き、花を中央に寄せ。反対側も引き、円形に整え。飛び出た茎を千切り、出来上がりだ。
そして子供の頭に花冠を乗せ、鞠を渡す菫。
「――久し振りに作りましたけど、上手く出来て良かったです」
可愛い笑顔の子を見て、菫もにっこり。
菫や子供と共に、ナレインとシャオラも花冠を作っていたが、
「あはは‥‥ちょ〜っといがんじゃった、かな?」
「ですねぇ‥‥」
二人は少し歪になった花冠を手に、クスっと笑った。
一方少年は『お兄さん』と遊びたいらしい。が、ちょっと怖くて近寄れないでいた。
そんな子供に、ネオリーフは出来るだけ小さく屈んで、目の高さを合わせて話す。
「‥怖くないよ? おにーさん、優しさには自信があるんだ」
と言うネオリーフの穏やかな表情に安心して、少年は手を伸ばす。その子を肩に乗せ、ネオリーフは気持ちの良い散歩に出かけた。
そして元気な子供に両手を引っ張られるのは、着ぐるみ姿の朔月。子供を追いかけたり、追いかけられたり、楽しそう。
追いかけっこの後着ぐるみを脱ぐと、裁縫をやり方をせがまれ、今度は簡単な小型ポシェットタイプのカバンを教えてあげる。
「こんな時代だからこそ、身につけておいて損はないしね?」
朔月がベダルを踏むと、再び足踏みミシンは動き出した――。
続いてナレインのメイクアップ教室が始まった。
「‥‥ふふ、もちろん化粧も教えてあげるわ♪」
プレゼントのメイクセットからファンデーションにチーク、口紅を取り出し、ナチュラルなメイクを少女へと伝授する。
「好きな人ができたら、キレイにして会いたいでしょ♪」
囁くように言うと、僅かに頬を赤くする少女。
そして少女に化粧を施すナレインは、裁縫するときよりも生き生きして見えたとか。
キャルはドレスからキュロットに着替え、「あてくし、これでも野外派でしてよ」と散策へ。
雨音とドニーはスタッフを手伝い、各地へ送る荷物の荷造りを終えた。そして雨音はシャオラと共に、掃除の手伝いへむかう。
ドニーは一息つき、再び刺繍を始めた。余った布をハンカチにし、屋外に咲いている野草や花を観察しながら、綺麗な草花を縫いとめていく。
――世界にはまだまだ綺麗なものがあって、尚且つそれが決して自分達に無縁な物では無い事。それを、受け取った子供達に知っていて欲しい。
‥‥と、願いながら。
やってきた少女に刺繍も教えつつ、ドニーは沢山のハンカチを作る。
その傍では、白雪が子供と一緒にビーズアクセサリを作っていた。
「素敵なアクセサリ、大事にしてあげてくださいね」
淑やかに笑む白雪‥‥きっとこれも、女の子の宝物になるだろう。
午後になると、雨音のお弁当、そしてサンドイッチを囲んだ昼食が始まる。
旬の物で作られた雨音のお弁当は、ボリュームもある上にとても美味しく、子供にも大人にも大好評。「おいしかった!」と笑顔で礼を言う子供に、雨音は「おそまつさまでした」と優しい笑みを返した。
キャルが狩った山菜で作ったお粥も、美味しく食され‥。
そして仕事をした能力者達も、遊んだ子供達も、この陽気に眠くなってくる。
「ん〜あっかい日差しが気持ち良い‥‥」
ナレインが草の上にごろんとすると、折り重なるように子供も倒れて。
――いつの間にか、眠りの世界へと誘われていた。
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能力者達はまったりとした一日を過ごし、やがて別れの時間となる。
「今日は有難うございました。とても楽しかったですし、嬉しい一日でした」
子供達と共にシャオラが礼を言い、
「私達からもプレゼントですよ、これはみんなで作ったものです」
と、差し出したものは‥‥手作り『薔薇のサシェ』と、子供達が作った『押し花のキーホルダー』。
手作りのお礼には手作りを。
思い出として持っていてくれるならば、これ程嬉しいことは無い。