タイトル:花びら舞う秘湯マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/04/29 14:57

●オープニング本文


 山間部に立ち込める湯気。
 周りに宿の影は無く、簡単な脱衣所さえ無いという、秘湯中の秘湯がある。
 その秘湯の傍にあるものといえば、ちらちらと淡い桃色の花びらを散らす桜の樹のみ。
 ――もう数日早く其処へ辿り着いていたならば、その桜は丁度見頃を迎えていただろう。

 この『何もない』のが良いのだと言って、毎年桜の季節に限らずこの秘湯に訪れる者も居た。
 秘湯に浸かりつつ見上げる夜空はとても澄んでいて、星の輝きも、月の淡い光も、全て自分のものに出来るような‥‥そんな錯覚に陥りそうになるのだと。この秘湯を愛するものは語っていた。
 一人で静かに疲れを癒す者にも、恋人との愛を育む者にも――ここを訪れる全ての者に、温かな湯と美しい夜空を与えてくれる秘湯だった。



 誰が言い出したのかは分からないが。
 『今行けば、夜空に舞う桜の花吹雪が見れるだろう』と、LHの一部の傭兵達へその『秘湯』の話が伝わった。
 ‥‥もし興味があるのならば、足を伸ばしてみるのも良いかもしれない。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
ルシオン・L・F(ga4347
19歳・♂・ER
藤堂 紅葉(ga8964
20歳・♀・ST
サイト(gb0817
36歳・♂・ST
ルトリス(gb5547
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

●〜幽玄の世界で杯を〜
 闇夜の中はらはらと散り、月明かりに薄く照らされた桜の花弁が作り出す『幽玄の世界』。
 吸い込まれそうな風景に目を細め、リディス(ga0022)は静かに腰を下ろした。見上げると木々の隙間から、欠けた月が淡く輝いている。
(「最近休んでいる暇もありませんでしたし、丁度よかった‥‥」)
 こうしているだけで、心癒される。花見酒もよいかもしれないと、リディスは薄く笑った。
 ――そこへ、同じく夜桜に惹かれた者が。
「‥‥少し、ご一緒させて頂いて宜しいですか?」
 サイト(gb0817)はリディスへ声をかけ、微笑みを見せた。
「ええ、どうぞ」
 振り返るリディスの銀髪が風に揺れ――サイトは一瞬息を止める。‥‥美しい人だ。
 提灯を置き、自己紹介をしてサイトは日本酒を取り出した。
「宜しければ、一杯いかがですか?」
 それを、リディスはにっこりと受け取る。
「夜桜を眺めながらの花見酒‥‥やはりこういう風景には日本酒があいますね」
 互いに注ぎあい、ゆっくりと喉を通過する熱さを愉しむ。そして静かに、夜桜のある風景を眺めた。会話こそ少ないけれど、居心地は良く。
 ――時間すら忘れてしまいそう。
 やがてリディスはほろ酔いながらも顔色はそのままに、共に杯を交したサイトに話かけ。
「夜桜は一人で眺めるのもいいですが、誰かと一緒に酌み交しながら見るのもいいものですね。サイトさん、お誘いいただきありがとうございました」
 ‥‥と、和やかに笑った。
「こちらこそ。‥‥ご縁がありましたら、またどこかで」
 スラリと立ち上がり、去っていくリディスの後姿を見守るサイトは。
「綺麗な方でした‥‥」
 ほうっと息を吐き出し、呟いていた。


 そして、ルトリス(gb5547)も又暗い夜道を歩き夜桜を見つけ出す。
 一瞬目を見開き、すぐに嬉しくなって微笑む。もしかして誰もいないのだろうか‥‥と、ゆるりとした足取りで桜へと歩み寄る。
 ‥‥けれどそこには先客が。
「初めまして」
 少し頬を上気させたサイトがルトリスを手招いた。彼は既にほろ酔い加減のよう。
 陽気に自己紹介をし、ルトリスを交え静かな酒盛りが始まった。
「僕一人では飲みきれませんので、もしよろしければ呑んでくださいな」
 カラになったサイトのお猪口に日本酒を注ぎ、「キレイな桜ですねぇ」と花を見上げるルトリス。
「何か、良いことありました?」
 その間中、少し機嫌の良いサイトに首を傾げ、ルトリスは酒を嗜むのだった。


 それぞれが思い思いに、夜桜を堪能する中で。
(「夜の闇に浮かぶ‥月と‥星と‥桜‥」)
 何もかもが初めてで、美しく‥‥ルアム フロンティア(ga4347)は一人、息を飲んだ。
 そして、静かに覚醒を遂げる。
 赤かった髪と瞳は金と碧へ変わり‥‥その背には、折れた不死鳥の翼があった。
(「許される‥なら‥‥。今度は、もう、消えて、しまわない、よう、に‥‥。今日見る風景を‥記憶に‥焼き付けて‥おきたい‥」)
 ルアルは目を見開いたまま、想う。

  ――この散りゆく桜の様に、全ての命は儚く尊いもの。
  ――壊れるのは、ほんの一瞬あればいい。
  ――逝った彼らの魂が、安心して眠れるように。
  ――今まだ命ある者が、安全に暮らせるように。
  ――この風景を、この世界を‥‥消させるわけには‥‥いかない。

 ‥‥と。そしてこの祈りの時間は。優しい声と共に終わりを告げた。
「ルアムさん?」
 ――ルトリスの声だった。ルアムははっと我に返り、覚醒を解く。
 邪魔しちゃったかな? と心配しつつ、ルトリスはおっとりとした笑顔をルアムへと向け。
「折角ですから、足湯でのんびりしましょう」
 と言った。その言葉に、ルアムは頷く。
 ランタンを傍に置き、やや高い温度の湯に、疲れきった足先を浸す二人。
 のんびり夜桜と月を楽しみ、物思いに耽る。
(「ルアムさんも、いろんな想いを抱いてここに来たのでしょうか。‥いろいろあると思うけれど、ほんのり暖かくなってくれるといいなぁ」)
 と、チラリと彼を見つつ考えるルトリスだった。

 そこへ、先ほど杯を交したサイトの姿が。
「また会いましたね。足湯ですか‥‥私も少しご一緒させて下さい」
 挨拶し、雪駄を脱いだサイトはルアムの横へ。
 しかし、二人に挟まれたルアムは、やや困惑気味である。
 会話が少なくても、心地よい時間がながれるので‥‥つい、三人で花見をするのも良いかな、と。思ってしまうのだ。
(「人と慣れ合う資格が‥ないのは‥判ってる‥けど‥」)
 つい後ろ向きに考えてしまうルアム‥‥。
 そんな彼の様子を察し、サイトは子供にそうするように、ルアムを優しく抱きしめた。
「何があったか分りませんが、大丈夫ですよ」
 そのサイトの姿は、父親のようでも、先生のようでもあったという。

「‥ふしぎな‥‥ひと」
「‥ですね」
 サイトが去ったあと、ルアムとルトリスは顔を見合わせた。
 そして又二人、ゆらゆらと足先で湯の感触を楽しみ。
 ルトリスは傍にある桜の木を撫でて月を見上げた。
「ありがとうございます」
 と、小声で感謝を伝える。横で、ルアムは首をかしげていたが。
「綺麗な、和む風景を見せてくれたんですから♪」
 ルトリスは楽しそうに、ルアムにそう伝えるのだった。

 二人が去る頃、目的の場所へたどり着いたサイトは徳利にお酒を移し、御猪口とともに湯へ入っていく。
「‥幽玄‥と言うのでしょうか‥」
 再び日本酒を呑みながら、桜を愛でる。心行くまで、春の幻想的な景色を堪能していた。



 その頃夜桜の見える秘湯の一角では、神無月 紫翠(ga0243)が友人の榊 紫苑(ga8258)と共に酒を飲み交わしていた。
 二人は邪魔をされることもなく、ゆっくりと語り合う時間を得る。こういう場所ででもないと、滅多に無い事だ。
「いいお湯ですが‥‥もう酔っていませんか?」
「酔って無いぜ。これくらいじゃ、酔えないな」
 紫苑はぶっきらぼうに言いつつ杯を投げた。‥‥お銚子をもう一本。投げられた杯を受け取り、紫翠は紫苑の杯へ酒を注ぐ。
「そう言えば‥‥ザルでしたね‥‥あなたは」
 クスクスと温和に笑う紫翠。
 いつもと同じ、のんびりとした調子だが‥‥ただ紫翠の背中に、左上から右下に向け斜めに深く切られた傷だけが、いつもとは違い隠されていない。
 それが妙に生々しく感じ、紫苑は酒を口にしつつ問う。
「久しぶりに、その傷見たが、痛々しいな」
 その言葉に、一瞬紫翠の瞳が揺らいだ。自ら肩に手を置き、傷跡を辿る。
「傷ですか‥‥あまり見せたく無いですね‥‥治す気無いですし‥。すみません‥‥何せ子供の時の大怪我‥ですから」
 それは幼少時、弟を守って出来た傷だった。
 名誉の傷なのか、癒えぬ古傷なのか‥‥紫翠は少しだけ表情を曇らせたが、「この話は終わりです」と、紫苑の空になった杯に再び酒を注ぐ。
 その時――風に舞った桜の花弁が一枚、杯の中へと落ちた。
 互いを見ていた二人は、再びゆるりと夜桜を見上げる。
「しかし、月夜の花吹雪か、幻想的だな? たまには、のんびりするのも良いかもしれないな」
「そうですね‥‥たまには‥‥ゆっくりするのも‥‥良いですね。月夜に舞う、桜吹雪‥‥綺麗です。この世の物とは、思えません」
 目を細める紫翠は「のぼせてきました」と笑って、岸へと腰掛け。
 彼の傷口を塞ぐ様に、幻想的な花吹雪は風に乗って舞い散る。
 他人が入れぬ雰囲気の男同士の語らいは、そのまま遅くまで続いていた――。


 闇が深さを増した頃、リディスは一人、秘湯へと浸かった。
 見ているのは仄かに明るいお月様だけ。彼女の白磁のような肌を隠すものは無かったが、遠慮する必要もない。
(「月の光と夜桜と‥‥実に風流ですね。これを独り占めできるのですからなんと贅沢な時間でしょうか‥‥」)
 再び日本酒を口にしながら、体の芯から温まってゆく。
 そしてふと――この時間を一人で独占するのは勿体無いと思った。けれども、一番共有したかった人は既にない。
(「風流な光景は、しんみりとした感情も呼び起こすのですね」)
 リディスは散り行く桜に、愛した伴侶を想った。
 新婚旅行は日本に行きたいと言っていたあの日‥‥今はもう叶わぬ夢だけれど。せめて代わりに、この風景を目に焼き付けていたい。
「この戦いでロシアを‥‥故郷を取り戻したら、日本酒を土産に持って行きますから。それまで待っていてくださいね、あなた」
 リディスは目を閉じ‥‥呟いた。そこに、愛する人がいるかのように。
 すると――
 舞う花弁と共に一迅の風がリディスの頬を優しく撫で、通り過ぎていく。
「‥‥あなた?」
 リディスの問いに返事はなかったけれど。
 かつて与えられたような、温もりを此処に感じた。



 闇夜を舞う桜の花弁は、大人たちの心に静かに染みていく。
 ――ある者は感謝し、ある者は誓いをたて、ある者は癒されていく‥‥それほど幻想的な夜桜は、きっと皆の脳裏に焼きついただろう。









●〜夜桜よりも〜
 静かに穏やかに楽しめるのも夜桜の醍醐味だが、賑やかに楽しむのも悪くは無い。


「えへへ♪ ノエルンと温泉にデートなのだ☆」
 神崎・子虎(ga0513)は着こんでいたセーラー服をぽいっと脱いだ‥‥実は男の娘だと、現れた絶壁の胸が物語る。
 一方、こちらもどこか中性的なノエル・アレノア(ga0237)は長い髪を結び、躊躇いがちに服を脱いでいく。
「ほら、ノエルンもささっと脱いじゃおうよー♪ 後、温泉にタオルは駄目だからね☆」
「‥‥わっ、脱ぐよ、脱ぐから!」
 ノエルのボクサーパンツに手をかけ半ば無理やり剥ごうとする全裸の子虎に、脱がされるくらいなら脱ぐ! と覚悟完了したノエル。
 桜のシャワーを浴びながら、二人は温泉へ一緒に入っていった。

「夜の桜って‥‥こんなに綺麗なんだ。うっとりしちゃうくらい‥‥」
 桜の美しさに目を奪われつつ、ノエルは呟いた。
 ‥‥その横で、子虎はノエルを見つめうっとりしていた。
「でもなんだか、散る頃って哀しいね‥‥美しいけど、そんな気がする」
 と、少し寂しそうな顔をするノエル。
 その顔をみて子虎はうっとりしていた。‥‥もっと桜も見ろ。
「でもノエルンが桜初めてだったのは驚いた。来年は一緒に花見に行こうか♪」
「うん‥‥満開のときにも、行きたいね」
 気の早い約束にクスっと笑うノエル。
 子虎はさらに恋人の如くノエルに肌を寄せ、「喉かわかない?」ともってきたジュースを渡した。
「花見酒と行きたいけど流石に未成年だしね♪」
「僕もミネラルウォーターを持ってきたよ。湯上りはフルーツ牛乳が良いと聞いたことがあるのだけど‥‥本当?」
 ノエルの言葉に頷き、子虎は「沢山飲んでね♪」と牛乳を渡した。用意周到である。
 こうして、可愛い飲み会が始まり、上がったり浸かったりしながら、子虎とノエルは長く温泉を楽しんでいた。
 特にノエルは、この桜を忘れまいとしっかりと目に焼き付けている。
 熱い視線を注がれ、桜も赤面してしまいそうだ。
「‥‥もう、僕と桜とどっちが魅力的なの?」
「え、子虎君の魅力? そ、それはどうなの、かな‥‥?」
 桜に嫉妬しちゃった子虎の問いかけに、つい目を逸らしてしまうノエルだった。

 ‥‥やがてその顔が赤くなり‥‥滅多にスキンシップを求めないノエルの体が子虎にしな垂れかかる。
「あれ? ノエルンどしたのー? ‥って、逆上せてるし!?」
「ぁぁ、なんだか少しくらくらしてきたような‥‥夢中になりすぎた?」
 子虎はしょうがないなと言いつつも嬉しそうに、彼に肩を貸すと湯から脱出。てきぱきとタオルをひいて、ノエルの体を横たえた。
「もう、そこまで入ってないでもー。ノエルンったらうっかりさん♪」
 手でパタパタと仰ぎつつ、子虎の顔はによによ笑顔。ここぞとばかりにノエルの体を隅々まで見て堪能中。眼福である。
 自分と同じで細いけれど、しなやかに筋肉がついていて、肌はきめ細かくて‥‥。
(「やん♪ ノエルンってばやっぱりいい身体☆」)
(「今、ちょっと悪寒が‥‥!」)
 全裸で見詰め合う二人の少年。やがて子虎は、見てるだけでは足りなくなったのだろうか。
「て。ちょ、ちょっと子虎くん‥‥何するの? 介抱でも普通に介抱してくれると嬉しいな‥‥! た、愉しんでないですか‥‥っ?」
 ノエルの困惑した声が響く‥‥だが、何が起こっているか詳しくは書かないでおこう。彼の名誉のために。



 少年らが仲良くする一方。
 闇で互いが見えぬほど離れた場所では、一人の魅力的な女性が温泉へと訪れていた。
「こんな機会は滅多に無いからね」
 うさ晴らしを兼ねてやってきた藤堂 紅葉(ga8964)である。
 花弁舞うシチュエーションに興奮し、獣の視線を意識しつつ‥‥ゆっくり見せ付けるように、張り詰めた胸のボタンをはずした。露になった弾む胸の頂を軽く手で隠し、湯に体を浸す。
「『久方の、ひかりのどけき春の日に‥‥』といった所か」
 静かに酒をのみ、つまみは大胆に口にする。
 こうして夜桜を楽しんでいると、誘っていた人物が現れた――高村店長である。
「相変らず良いスタイルだ」
 紅葉は高村の体を舐めるように見つめ、手招いた。「あなたもね」と笑う高村。
 そして、温泉を舞台にしたマッサージ技鍛錬が行われる――。
 まるで挨拶のようにボディタッチし、腰や足だけでなく胸の部分にまで二人の手は伸びた。興奮気味に肌の感触を堪能する紅葉を、高村は上手くなったと褒め、今度は紅葉の体を岩に押し付ける。
 そのゴツゴツとした岩の感触で、紅葉のスイッチが入れ替わった。
「お姉様‥‥もっと‥お願いします‥‥」
 あらゆる部分を手荒く揉まれ、昇天しそうな程の気持ちよさと熱気に朦朧としつつ、紅葉はお姉さま、お姉さまと叫んでいた――。

 それから数十分。
 二人の激しい運動で一時波だった水面も、今は静かなものだ。
 紅葉は再びお酒を楽しみつつ、自分の過去の話を高村にきかせていた。
「密輸組織時代の方が実入りが良かった」
 成功後には高額報酬。失敗すれば捕まり手荒く扱われてこれはこれで堪らない。
 それに比べて傭兵の報酬はどうだろう? 豊満な肢体を堪能したり踏まれたり打たれたり、確かに役得もあったが‥‥と、思い出しているうちに虐められたくて疼いてくる紅葉。
「もっとイイ思いの出来る仕事があれば文句は無いんだがね」
 顔を紅潮させつつそう言ってみても、もう遅い。なら私がイイ思いをさせてあげるとばかりに、高村は紅葉の顎を二本の指でそっと固定するのだった。



 二人と二人の夜はやがて明けていく。

「はぁ‥‥いいお湯だったね♪ また一緒に入りにこようね♪」
 と、子虎はノエルを見つめて微笑み。
 紅葉は高村と別れた後、
「明日からまた稼ぐか‥‥」
 と、傭兵の顔に戻る。


 ――そんな、繰り広げられる人間模様を。
 夜桜様はただじっと見下ろしているのだった。