タイトル:チューリップと小人マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/03 22:50

●オープニング本文


 切花を中心に卸売りをしている生花市場。
 早朝そこへ訪れたLHの花屋店員、ケイト・レッティ(gz0208)は、仲買人の口から興味深い話を聞いた。

「咲いたチューリップから親指サイズの小人が? って、何処かにありませんでした、そんな話?」
 切花を抱えつつ、首を傾げるケイト。

 その人の話では、『あるチューリップ畑で小人が目撃された』との事。
 それが可愛らしい姫様であるならば、メルヘンだ御伽噺だ‥‥と笑いながら話を終えることもできるのだが。
 どうやら”姫様”という類の可愛い小人では無いらしい。

「で、その小人がチューリップ畑を荒らしているんですね? 毎日何本ものチューリップの花が切り落とされるのですか‥‥それは、見過ごせません」

 花開く時期は、その花の一生で一番美しい時だろう。
 それが‥‥不自然に花軸を捻り切られ、無残な姿を晒しているという。

 そして、チューリップ畑で飛び跳ねる小人がいるという目撃情報。
 状況から察するに、その小人は『キメラ』ではないかとケイトは思う。
 なぜそのようなキメラが居るのか、何を目的に花畑を荒らすのかなど知る由もないが――やがて人が襲われる可能性もある。

「花の為にも、花を育てる人の為にも――原因のキメラを探しましょう」

●参加者一覧

神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
鍋島 瑞葉(gb1881
18歳・♀・HD
ミルファリア・クラウソナス(gb4229
21歳・♀・PN
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER

●リプレイ本文


 能力者達がチューリップ畑へと到着する。
(「チュ−リップですか? 綺麗ですけど、花を切り取られるのはもったいないですね。早く見つけて被害抑えないと、いけないわね」)
 移動艇を降りてすぐ、眼前に広がった景色を見て神森 静(ga5165)は考えた。この間にも、花は被害にあっているのだろう。
「またお手伝いに来ましたよ、ケイトくん」
 と、小笠原 恋(gb4844)はにこやかに挨拶し、ケイト・レッティ(gz0208)もペコっと頭を下げ挨拶した。
「がんばって小人キメラ見つけましょう!」
 そう、まずは探すところから。
 赤色チューリップも沢山植えられたこの花畑で、赤い服の小人を見つけるのは難儀な事だろう。が、
「ああ、何で花を切って回ってるのかは知らねぇが。そんな悪い奴は、遠慮なく叩き潰すに限るな!」
 まかせろとばかりに、テト・シュタイナー(gb5138)の威勢良い声が響く。実に頼もしい。
 そして、美崎 瑠璃(gb0339)も頷いた。
「チューリップは今が見ごろだってのに、花を切るなんて無粋なヤツ! そんな無粋なキメラは、きっちりお花畑から叩き出して! 皆で、ピクニックするぞーっ♪」
 瑠璃の手荷物は弁当だ。そう、討伐の後はピクニックも待っている!
 最上 憐 (gb0002)はお弁当に熱い視線を注ぎ、コクリと頷いた。
「‥‥ん。サンドイッチの為に。頑張る。ピクニック。楽しみ」
「ふふ、甘い物も用意しましたし、張り切っていきましょう」
 そして、鍋島 瑞葉(gb1881)もピクニックという言葉に心惹かれ、わくわくしながら和菓子を用意。淑やかに微笑み、チューリップ畑を眺めた。



 能力者10人による『小人キメラ殲滅』作戦は開始された。
 まず、瑞葉の案で『トリモチ』が用意される。
「上手く捕まれば‥‥いいですわね‥‥」
 フリルパラソルで陽の光を遮りつつ、ミルファリア・クラウソナス(gb4229)は罠の設置を手伝う。
 そして、『花が切り取られている箇所や花の色を記録した分布図』も作成された。
「被害箇所が集中しているな‥‥」
 アンジェリナ(ga6940)はマップを手に、キメラが居そうな場所を絞っていく‥‥あとは、監視班の情報と自身の肉眼頼りだ。
 準備が整うと、能力者は覚醒を遂げた。
「御伽話じゃないんだ。ほのぼのするのは、後だ。綺麗な物を汚した代償は、高くつくぞ」
 と、静は氷のような冷たさで、言い放つ。
 アズメリア・カンス(ga8233)は覚醒により、右腕に黒炎模様を浮かび上がらせて。
「小さくて見付けづらいのは厄介ね。見落さないように注意しないと」
 呟き、涼しい眼差しで花畑を見据える。

「‥‥ん。良い眺め。畑が。良く見える」
 一方、憐は小屋の上に登って双眼鏡を手にし、ケイトにも双眼鏡を渡す。
「頑張って探そうね〜」
「‥‥ん。あの雲。サンドイッチに似てるかも。お腹空いた」
 今にもお腹の音がきこえてきそうな憐の呟きに、ケイトはくすっと笑った。
 この二人を『監視班』とし、残りの者は、
  ・捜索A班 アズメリア・瑠璃・ミルファリア・恋
  ・捜索B班 静・アンジェリナ・テト
 と分かれ、ニ方向からキメラを追い詰める作戦だ。
 瑞葉はどうやら、独自に畑に隠れ物陰から監視を行うらしい。トリモチ付きのハエタタキを自作し、張り切って畑へと向かっていった。
「集中‥集中‥目をピカピカ光らせて集中です」
 エキスパートの恋は『探査の眼』を発動。キメラを発見する為神経を研ぎ澄ます。
 そして移動開始――花を踏みつけないように、注意を払いながら。
 咲いたチューリップは鮮やかだが、切られた跡を残すものは痛々しい‥‥被害を広げぬために、能力者達は進む。
 アズメリアは赤いチューリップ地帯を注意深く探索した‥‥が、動くものは見当たらない。
 なかなか直ぐには見つからぬようだった。

 そして――1ヘクタールの畑の捜索を開始し、15分が過ぎた。

 瑠璃が探索中に小銃を空砲で撃つと、キメラに動きがあった模様。
 双眼鏡を手にしていた憐が、ふと動きを止める。
「‥‥ん。赤いのが。見えた気がする」
 そして無線機を手に、A班へと連絡を入れた。
 連絡を受け、恋は探査の眼を再び発動しさらに注意深く畑を探っていく‥‥すると、黄色いチューリップに紛れ高速で移動する赤いモノが視界の隅に入った――!
「――いました! あそこです」
「‥‥ん。赤いのが居た。小人。見付けた」
 恋の声と、無線機からの憐の声がほぼ同時に響く。
 さぁ、戦闘開始だ!

「あら、小さいですわね‥可愛いかも‥」
 ミルファリアはその姿を見つけ、思わず呟く。
 そして真っ先に動いたのは、アズメリアだった。
「一度捉えた以上、逃がしはしないわ」
 氷雨を手に、キメラへと突進するアズメリア。――しかし、小人キメラは素早い上に、花の茎につかまりトリッキーな動きでそれを避けた。続けて突きを繰り出すが、動きの軌道が読めず寸でのところで外してしまう。
 せめて使い慣れた月詠であれば‥‥とアズメリアは思う。しかし花を気遣えば使いづらく、仕方が無い。
 続いてミルファリアがゲイルナイフを逆手にもち、キメラへ一撃を加えようと走った。
「キメラは、キメラ‥‥ここで終わりにしましょうか‥‥」
 アズメリアの攻撃に続くように、何度も突きを試みる。
 ――だが、キメラは跳ねて花から花へ移動し、予測不能な動きで避けるのだ。
「もう! すばしっこい!!」
 瑠璃はイアリスで突きを繰り出したが、キメラは瑠璃の頭を超え後ろに回っていった。
「あ! そっち! そこです! あ〜違います! 後ろ後ろー!」
「えぇ〜どっち!?」
 恋がアドバイスをくれるのだが、前に後ろにくるくる回り余計に混乱してしまう瑠璃だった‥‥。

 そこへ、B班の皆が駆けつける。
「大は小を兼ねるとはよく言うが‥‥これだけ大きさに差があるとどちらに優位性があるのか分からんな」
 初めて目にする小人キメラの小ささに驚くアンジェリナだが‥‥すぐに先手必勝を発動。
(「‥‥仮に相手方が有利でも負けるという選択は存在しないが」)
 漆黒のオーラを纏ったアンジェリナは、鋭い視線でキメラを威圧する。そして鍛えられた脚力で高く跳ね上がり、空中から苦無を投げつけた。
 ――トスッと地に刺さる苦無。キメラからは外れたが、驚かせることには成功だ。
 動きを止めたキメラの頭上で、アルティメットおたまが唸りをあげる――!
「遠慮なく、このおたまの餌食となるがいい‥‥!」
 不敵な笑みと共に叫ぶテト。だが‥‥スカッと空振り。キメラは次の花へと飛び移る。
「この野郎〜〜!!」
 テトは更に何度も振り下ろすが、そのたびにキメラは跳ねながら花々の間をすり抜けていった‥。
「逃さん‥」
 静が追い立てる。だが、ノミのように跳るキメラはトリモチ地帯へと逃げていった。

 ――トリモチ地帯で待っていたのは、瑞葉である。
 トリモチにくっつかないかと見守るも、キメラは身軽に花から花へ。
 ちょっとがっくりする瑞葉、でもめげない。
 瑞葉はハエタタキを持ち、立ち上がった!
「ふふ、こう見えましてもモグラ叩きの瑞葉ちゃんと地元で言われたことがあるんですよ」
 トリモチハエ叩きを手にニッコリ。そして全力でバシバシと振るいだす――!
「てい!」
 何かに当たった感触――しかし残念、虫だった。


 やはり花畑では本来の動きが出来ないのだろう。
 彼女らは一方向だけ開けるようにしてキメラを囲み、畑の外へと出そうと追い立てていく。
「逃がすと思うか、この豆野郎っ!」
「逃がすか、こンのド阿呆ーーーーッ!」
 テトが叫ぶ。
 そして淑やかなはずの瑞葉も怒鳴る。
 ――この畑には、ケイト以外女の子しか居ないはずなんだけど。
 そして、
「憐さん、ケイトくん。そちらに追い込みます!」
 恋は小屋の上の二人へ連絡を入れた。
「‥‥ん。こっちに来る。ケイトは監視をお願い。私が行く」
「わかりました!」
 やってきたキメラを確認し、憐は小屋からくるりと飛び降り‥‥そして、着地と同時に瞬天速を発動した。
 畑から飛び出したキメラを狙い、肉薄――!
 そのまま憐は秋刀「魚」を手に瞬即撃を叩き込んだ。
 ‥‥命中はしなかったが、全く別の方向からの不意打ちにキメラは驚き――ふっとんだ。竜の翼を使い飛び出してきた瑞葉の横を通り過ぎ、その先には瑠璃の姿が。
「必殺剣・天誅ストライク! 丹精込めて育てた人たちの努力と苦労と愛情、身をもって味わえーっ! なんて、ね♪」
 かっこいいセリフと共に全力で粉砕! ‥‥しかし空振った。
 『‥‥空気読んでよ!』と、瑠璃はつい思ったとか。

 畑の外に出てもキメラの素早さは健在。
 しかし身を隠す花は無く、障害物がない分能力者も全力が出せるのだ。

 アンジェリナは、さらに苦無でキメラを狙う。
「――終りだ!」
 飛び上がり投げつけると、刃先が地面を抉った。そして――小人キメラの赤い服を僅かに裂く。
 アンジェリナの攻撃で、動揺したキメラに大きな隙が出来た。
 その隙に、月詠を手にしたアズメリアが、広々とした場所でやっと本来の命中力を発揮する。
 キメラを狙い、横に一閃――!
 ――ザシュッ!
 ‥‥という小さな音と共に、アズメリアの刃がキメラを捉えていた。
 横に薙ぐように斬られ、殆ど手ごたえもなく胴を真っ二つにされる小人キメラ。

 素早い分脆かった‥‥散々逃げ回った挙句、こうして悪戯キメラは殲滅されたのだった。




 あっけなく死んだキメラに微妙な気分になりつつ、テトは花畑の修復をする。
「何はともあれ、荒れた花畑をなんとかしねーとな。‥花に練成治療って効くのかねぇ?」
「多分効きませんわ‥‥」
 テトと並び、ミルファリアもぽんぽんと土を叩いた。
 憐はケイトに教わりつつ、修復を手伝っていく。
「‥‥ん。畑の修復。ケイト。教えて。どうすれば良い?」
「ここにこうして‥‥土を盛って下さいね」
 憐の飲み込みは早い。
 そして静が足跡をならし、ゴミも片付けて。落ちた花は仕方がないが、ほぼ元通りの花畑になる。
「これで畑はOKですね」
 最後に地面をポンポンと叩き、恋が笑った。
 そしてチューリップを眺めつつの、ピクニックが始まる――。

 原っぱに敷物を広げて。
 その上に用意されていたものは、花畑の持ち主の感謝の気持ち。サンドイッチの山だ。
 皆で囲み、それぞれ弁当も出していく。
「ふふ、合作お弁当作ってきたよ♪」
 瑠璃の弁当箱には、沢山のコロッケが。中はかぼちゃ、カレー、ポテトと3種類もあり、その全てが瑠璃と恋の合作だ。
 ふたを明けた瞬間に、良い香りが鼻腔を擽る。
「わぁ‥‥美味しそうですね〜」
 ケイトが目を輝かせていると、沢山のパイが詰まった恋のお弁当が差し出された。
「どうぞ、皆さん召し上がってくださいな。このパイは瑠璃さんと一緒に作ったんですよ」
 そう言って、恋は皆にカボチャパイとチョコパイを振舞う。
 もちろん飲み物も。瑠璃は濃い目に淹れたアッサム・ミルクティーを注ぎ、恋の水筒からはコーヒーが注がれた。 
 瑞葉はお団子を取り出し、うきうきとお花見の用意。
「お団子もありますよ」
「‥‥ん。花を見ながらは。食が進むね」
 と、憐が早速団子を口にする‥‥『花より団子』になりそうな予感。

 ミルファリアの持ってきたお弁当は、開けてびっくり『フランスパンとバターだけ』というシンプルかつ豪快な内容だ。
「フランスパンとバターのみ‥‥それが僕のロック‥‥」
 と言って、エレガントにフランスパンを口にするミルファリア。
「シンプルなのもいいですね。それにしても‥‥皆さん、料理上手いですね? 慣れていますねえ‥‥」
 美味しそうにコロッケやパイを食べながら、静が言った。食べる専門の彼女だが、鮭・梅・たらこのおにぎりは手作りだ。
「‥‥ん。体を動かした後の。ご飯は格別」
「うふふっ、おいしいです。なんだかケイトくんの所に来ると何時も食べてばっかりですね」
 それらを皆で囲み、談笑する。

「ピクニックなんて、最後にやったのはいつだったっけか‥」
 テトはふと空を見上げた。‥‥随分久しい気がする。
「まぁ、なんだ。こういう所で、飯を食いつつのんびりと過ごせるのは最高の贅沢だと思うんだぜ」
「そうですよね。景色も綺麗ですし、食べ物はどれも美味しい‥‥」
 テトの言葉を受けて、瑞葉はうっとりと呟いた。
 そして瑞葉は次のコロッケへと箸を伸ばす。
「ふむ。ふむふむ。こらちもなかなか」
 ‥やっぱり花より団子。
 テトはふっと笑い、今度は自分の弁当を出して。
「ってーことで。俺様が用意したコレを、一緒に食う奴はいないか? 美味いぞ」
「なんですか‥‥? ‥‥っ!」
 テトが弁当を開けると、刺激的な香りが漂った。
 これは‥‥テトの好物、激辛料理系オンリーのお弁当だ!
「うわ‥‥すごいっ、辛いっ!」
「美味しいぞ?」
 思わず口にしたケイトは撃沈したが、テトはそれを美味しそうに食していたとか。

「‥‥ん。おかわり」
「憐さん、もう食べちゃったんですか?」
 憐の為に沢山作られたカレーコロッケ‥‥それが無くなっていて、恋は目を丸くする。
 その隣では、静も良い食べっぷり。
「あれ、静さんもですか? 御二人とも相変らず凄いですね」
 と言いつつも、恋は微笑んだ。残さず食べてもらえると作り手も嬉しい。
 そして、戦闘後の休息をとるアンジェリナへ、瑠璃はお皿を渡した。
 皿には色々なものが盛られ、まるでオードブルのよう。
「アンジェリナさんも、どうぞ♪」
「ああ、有難う、瑠璃」
 皿を受け取り、アンジェリナも食事をはじめた‥‥そして守り抜いた花畑を眺める。
 その景色はとても色鮮やかで、美しい‥‥。
 アズメリアも同じようにサンドイッチを口にしながら、風景を楽しんでいた。
「春ね‥‥」
 アズメリアは呟く。
 戦いの中ではあまり気づかないけれど、こうして暖かな季節は巡っているのだと。今肌で感じていた。



 そして、好評のうちにお弁当が無くなり‥‥食事に専念していた人もチューリップを愛ではじめる。

 小腹を満たした瑞葉はのんびり花を観賞し、目を細めて呟いた。
「チューリップというのも良いものですね‥‥」
「‥‥ん。チューリップは。食べられないのかな?」
 ――憐らしい反応だ。

 ミルファリアは黒い日傘を差し、ゆっくりとチューリップ畑を歩く。
 小高い丘に辿り着くと、そこで暫しの休息を取って。
「‥‥一面チューリップ‥‥綺麗ですわね‥‥」
 思わず呟くミルファリア。
 周りをチューリップに囲まれる機会など滅多に無く、新鮮な気持ちになる。
 そして色とりどりのチューリップに囲まれたミルファリアは、実に絵になっているのだった。


 そして‥‥そんな風景を眺めながら。
(「これからも戦いは続くけれど、心の中の花は失わないでほしいな、なんて」)
 満腹感から眠りに誘われつつ、ケイトはぼんやり思うのだった。