●リプレイ本文
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バベルダオブの調査を行う為、白石ルミコ(gz0171)と能力者達はガラスマオ州の港へと集まっていた。
そこではピュアな瞳を輝かせ、夢姫(
gb5094)が人懐っこい笑みを浮かべている。
「みんなでバベルダオブ島探検‥‥楽しそう♪」
ウィンドブレーカーにTシャツ、ハーフパンツという軽装でウキウキする夢姫。そしてルミコを『すごい建築士さん』だと憧れ、超懐いている。もっと上の人に憧れて欲しいと思わずにはいられない。
又、足元をスパイクシューズで固めたワンピース姿の白雪(
gb2228)は、
「おはようございます。楽しみで寝不足気味ですが‥‥よろしくお願い致します」
と、お辞儀をしつつ欠伸を堪えた。遠足前に眠れなかった子供のような、意外な一面。
「今日の名目は一応『調査』ということなんですが‥‥まあ、たまにはこういうのもいいですよね」
眠そうにする白雪を見、穏やかな表情でシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)が言う。普段殺伐とした依頼が多い中、こんなのも悪くはないだろう。
だがシン自身はデザートコンバットブーツに防水加工を施し、万全の調査体制だ。
そして、「動きやすい格好で来ちゃいました」と言うのはルチア(
gb3045)である。無線機に方位磁石、水筒はしっかり準備して。
「楽しい依頼になりそうですね」
と、太陽のように笑う。同じ兵舎の白雪とシンも参加しているから、とてもリラックスした様子だ。
冴城 アスカ(
gb4188)は黒のキャップを被り、キャミソールに七分丈のジーンズ姿で現れる。
「お久しぶり、ルミコさん。今回もよろしくね」
ニコっと笑って挨拶。どんな冒険が待っているのかしら‥‥? と、好奇心を擽られるアスカである。
そして鍔付き帽子を被りなおし、鯨井起太(
ga0984)はルミコに手渡された地図を広げて見た。
「ガラスマオの滝に至るトレッキングコースは面白そうだね」
何せ、地図にほとんど道は記されていない‥‥。ジャングルを歩く機会など滅多にないし、楽しめそう。
「そうよ、とってもデンジャラス! さぁ出発しましょ。みんなよろしくね〜」
こうして7人は島の調査へと出発した。
キメラ出現の可能性は低いけれど、何気に強力なメンバーが揃っている。素人が一人くらい居ようが、なんとかなりそうだ。
道の向こうからやってきたトラックは‥‥潮風で錆びまくった中型トラック。
「さぁ乗って乗って! お尻痛くなるけど我慢してね♪」
見れば分かる、ここの荷台に乗る訳だし。これしかなかったのよ〜と舌を出しつつ、ルミコは皆の背中を押していく。
「‥‥酔い止め、ありますっ」
気分が悪くなったらプレゼント、と、早速荷台に乗り込む夢姫は振り返って言うのだった。
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悪路に加え、運ちゃんの運転は想像以上に荒かった。ガンガン揺れるトラック荷台。
――出発して30分、この依頼に真に必要な物はクッションだったのではないかと、誰かが思い始めた頃‥‥。
「到着!」
ルミコが示す先に、トレッキング道の入口が見えていた。
ここからは約40分程、歩いて行く事になる。
「暫くは尾根道が続くのね‥」
切り立った尾根に作られた細い道を見て、アスカはほぅと声をあげた。これは、暑い旅になりそうだ。
コースに入り、真白は率先するように進んでいく。
「‥暑いわね。あ、白石さん足元、気をつけて」
道に張り出した枯枝を雪月花で斬り開きつつ、段差の酷い部分はルミコの手を引きひっぱり上げる。
開始10分にして、「これはハード」と息のあがるルミコだったが、そんなの彼女だけ。
「普通に歩くだけでも、十分楽しめるね。慣れた人や、能力者向けということであれば、難易度を少し上げても良いかも」
坂道を涼しい顔で進み、早速能力者向きアクティビティを考える起太。とりあえず「これ以上あげるの!?」とお疲れ気味のルミコを見て、休憩を提案する。
皆で尾根道に座る中、ルチアは紙コップに水筒の中身を注ぎ皆へと配っていった。
「スポーツドリンクです、どうぞ〜」
「ありがと♪」
ドリンクで喉を潤し、今度は夢姫が『遠足に必須です』とおやつを取り出す。
和気藹々と尾根道を進んでいくと、やがてジャングルの入口へと到着した。ここから先は一変、木々生い茂る森を、そしてマングローブ茂る湿地を進むことに。
「‥綺麗ね‥‥この風景はバグアには渡したくないわね‥」
深い緑をカメラに収めながらアスカは進んだ。
ジャングルの中は辛うじて道はあれど、人が通る事が稀な場所は蔦で塞がれている。一筋縄ではいかないようだ。
シンはアーミーナイフを取り出し、切り開きながら歩きやすい道を作っていった。曲がりくねった道は方向があやふやになりそうな物。
「南は‥‥こちらでしょうか」
方位磁石を確認しつつ、進む方向を示すルチア。――次第に水音が近づいてきた、川が近いのだろう。
「方向は間違ってないみたい。ルチアちゃん、地図を」
真白は渡された地図を見て、更に奥へと進んでいく。
二度目の休憩は、木陰で涼みながら。
「そう言えば、マモル君が少し寂しそうにしてたから‥‥構ってあげてね。白石さん」
真白に弟の名前を出され「へ?」と驚くルミコ。話をきくと、依頼で弟に会ったという。全くそろって良く巻き込まれる姉弟だ。
「色々思うところはあるんだと思いますが、なんだかんだ言ってルミコ君やニキ君のことは気になっているようですよ、マモル君も」
「そんな事あったのね‥‥」
タオルを渡しつつ、シンも気にかけている様子。別に弟との仲は悪くないが‥‥たまにはお土産もって帰るかと、心に誓うルミコだった。
ジャングルウォークを再開すると、とうとう川へ辿り着く。
「秘境トレッキング‥‥楽しいっ♪」
跳ねるように川の傍まで駆け出した夢姫は、その水を掬ってみた。冷たいかと思いきや、温かい。そして透明の水に住まう魚を見つけ、目を輝かせる。
「森あり、川ありで、バラエティに富んでいるところが素晴らしいね」
頷く起太。最初は尾根道、続いてジャングル、そして川。表情を変える自然が、素晴らしかった。
足場は次第にゴツゴツした岩道へ‥。
起太は時折振り返り、
「るみちょん、そこの石滑るよ」
‥‥と、言うなりルミコは滑っていた。
「自然の中と、舗装された道を歩くのでは勝手が違うからね。気をつけて」
エスコートしつつ、川の難所を越えていく。
そしていよいよ、両サイド岩壁に挟まれた部分に差し掛かる。むき出しの岩は、今崩れてもおかしく無い危険な雰囲気だ‥。
常に頭上を意識していた真白は、石が崩れる小さな音を見逃さなかった。
「‥‥危ない! 頑張って、ディッツ君一号!」
ルチアの頭の上に【OR】ディッツ君一号を翳し、小石を見事跳ね除ける――! 何かがぐぇっと呻いた気がしたが、気のせいだろう。
「わわ、お怪我はないですか!?」
練成治療を施そうとするルチア。しかし、真白は無傷である。
「犠牲は無駄にしません‥‥」
身代わり犠牲となったディッツ君一号を見て、シンは両手を合せるのだった。
危険な道を進むこと10分。
「川の中歩いた方が楽じゃない?」
ふとアスカは靴を脱ぎ素足になると、バシャバシャと水を跳ねつつ川の中を歩いた。
その楽しそうな水音をきき、夢姫も真似て素足になる。
「気持ちいい♪」
うっとりと呟き、写真もとりながら最後の道のりを楽しむ夢姫。
次第に水が落ちる音も大きくなっていき、滝が近いことが分かる‥‥。
「あと一息ね、がんばりましょ!」
ルミコもつられるように靴を脱いで、転びそうになりながら歩いていた。
やがて川を抜けた先に、浅く広い滝つぼがあり。
そこでは何十メートルも上から落ちてくる水が、花嫁のヴェールのような半透明の水の幕を作っていた。
まるで絵画のような世界。これが、『ガラスマオの滝』――!
「‥‥‥」
目の前に広がる壮大な滝を眺め、アスカは息を飲み言葉を失った。
そして同じようにシンも、静かに興奮している。
「‥‥壮観ですね」
川、湖、そして滝。あまり知られていないが、シンは水辺の名所が好きなのだ。目に焼き付けたあと、デジタルカメラでその景色を写していく。
「素敵なところね‥‥来てよかったわ」
「心が洗われるってこう言う事なんでしょうか」
真白とルチアも暫く壮観な景色に心奪われて。動くのを、忘れてしまう。
「これは‥‥素晴らしいね」
水飛沫の当たる位置まで歩き、起太は空を見上げた。水音に混じり、小鳥の囀る声も届く。
皆が立ち止まる中、夢姫は。
「素敵! 滝の裏側‥‥見てみたいっ!」
好奇心を抑えきれず、真っ先に滝へと突入していった!
「わぁっ‥‥」
水のカーテンをくぐると、陽射しを浴びて輝く水流がはっきり目に映る――どの世界も、美しい。
この壮大な滝の下、休息を楽しむ7人。
「凄い、美味しい〜」
夢姫の準備した手作りお弁当を食べ、皆で舌鼓を打つ。
「ルミコさんには素敵な物建てて頂かないと」
キラキラ瞳で言う夢姫‥‥ルミコは思わず喉におかずを詰めそうに。
そしてお腹を満たした夢姫は、滝つぼのウナギを見つけて大はしゃぎ。アスカに至っては、滝の上へ登っているではないか。
「おー! ここからの眺めも中々いいわね」
見下ろす滝というのも、味がある。とにかくアクティブなアスカだった。
白雪は暫し休憩の後、ふいに思いついて言う。
「折角ですから、みんなで写真を撮りませんか?」
兵舎の記念にと、シンとルチアに向けて。
「いいですね」
滝の水質調査をしていたルチアは、微笑んで答える。
ルミコも交えて、滝をバックにシンのデジカメでパシャリと撮影。――4人ともとても良い笑顔でそこに写っていた。
「あとで皆さんに送っておきますね」
シンは三脚をしまい、思い出を大切に持ち帰る。
その中、起太は書きごとに熱中しているよう。
「で、オッキーは何してるの?」
「ああ、生息する動植物や、ちょっと変わった地形なんかをリストアップしてみたよ」
背後から覗いてみると、レポートのようなものが出来ていた。
「時間内にどれだけの対象を撮影してこれるか‥‥なんて要素をトレッキングに付け加えても面白いんじゃないかな」
――真面目にアクティビティを考えていたようだ。ルミコですら秘境に夢中で忘れていたということは、秘密である。
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名残惜しくも滝を後にして。
再びトラックに揺られ、延々と続くマングローブの景色にも慣れてきた頃。
「大富豪でもしませんか?」
と、白雪がトランプを出した。
こうして風に気をつけつつ、始まったトランプ勝負‥‥。
「初心者なんですが、よろしくお願いしますっ!」
何故か緊張しつつ、ルチアは曖昧にルールを把握し挑む。――だが恐るべしビギナーズラック!
「あ、これであがっちゃいましたっ♪」
何故か一番にあがってしまう強運のルチア。そしてシン、アスカと次々あがる大富豪。
「あ〜。また貧民だ〜」
何度遊んでも苦手な白雪はガックリとカードを落とす。『馬鹿ね。相手の表情と作戦を読みなさい』という姉の声が聞こえてきそう。
(「ここ最近は本気を出していませんでしたが‥‥相手にとって不足なしです」)
あまりに運が強いルチアもさることながら、この面子、中々面白い‥‥と、シンの軍師気質火がついた。カウンティングや小さな傷でのカード特定、手から札を切る位置、視線、出す順番、全て統合し全プレイヤーの手札予想までできることはすべてやる。だが‥‥。
「っ! それでも付け入る隙がない‥‥!?」
またしても運の前に敗北か‥‥。シンの意外な熱中っぷりには、ルミコも苦笑して眺めている。真白は『ルチアちゃん‥‥凄い強運ね』と別の意味で苦笑していた。
「お姉ちゃん、これでいいと思う?」
そして問いかける白雪。自分で考えなさいといいつつ、ヒントを与える姉だった。
「ババ抜きなら負けないわ!」
続いてアスカの提案したババ抜き勝負が始まる――。
しかしこちらは、起太が「はい、あがりだよ」と、手札0枚。提案者は勝てないの法則か。
「うーん、勝てない‥・」
ポーカーフェイスは苦手らしい、ルミコと夢姫に負けが続き、やがてトラックは次の目的地、ストーン・モノリスへと辿り着いた。
そこは、古代への夢が膨らむ遺跡群。
一枚岩が50基以上、海が見渡せる草原に雑然と並んでいる。
アスカはそっと岩に触れ、
(「バグアが来る前も‥‥宇宙人はここに来たのかしら‥‥?」)
悠久の時に思いを馳せて。
「これって何のために作られたのか不明なのよ、一説では神と精霊の集会跡とか」
「神様と精霊の集会所の跡なんだ‥‥すごい神秘的☆」
ルミコの説明をきき、夢姫は身の丈ほどもある岩に触れた。見ると、顔のある岩がある。
「どれが一番美人さん?」
顔立ちは様々、一番可愛い顔を捜してはしゃぐ夢姫。
その様子を眺めながら起太は呟いた。
「この手の人面を模した石造彫刻で有名なものは、他にモアイがあるね」
じっとストーンフェイスを見つめ、そしてある発見に至る。
「‥これは、凄い秘密に迫ってしまったのかもしれない。このストーンフェイスにしろ、モアイのある島にしろ、バグアの本格的な攻撃を受けていないという共通点があるんだ」
――ただの偶然かもしれないが。
「もしかしたら、この石像には何かバグアを寄せ付けない力があるのではないだろうか!」
‥なんて、ドーンと言われるとうっかり納得してしまいそう。
「‥え、そうなの?」
触ればご利益ある? と思いつつ、ルミコは岩を触った。
「折角ですし、お茶いかがですか?」
白雪が水筒からお茶を出し、最後の休憩を取る。名残惜しいが、そろそろ帰らなければ。
――最後に皆で海を眺めて。
この遺跡は立ち並ぶ岩も見所だが、丘からの眺めも素晴らしい。
「大パノラマの風景も‥‥きれい!」
高台から見渡して、夢姫が叫ぶ。
「記念撮影しましょ、みんなでね」
カメラを手にし、アスカがニッコリと笑った。沢山撮った写真の中に、全員の姿を映した記念の一枚が加わって。
「お疲れ様。今回も楽しい時間を過ごせたわ」
「記念写真も撮りましたし、いい思い出になりましたっ!」
‥‥皆がパラオの新たな魅力を発見し、調査の一日は終りを告げた。
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「キメラも居ないし良いところでした、と」
――報告書を書き上げ、ルミコは受け取った写真を眺めながら笑っていた。
上手く魅力的な景色が写されたものもあれば、ほぼ人物メインで遠足のような雰囲気のものも‥‥これは、夢姫だろうか。
しかし全部含めて、立派な調査結果である。
この写真を元にしてパンフレットでも作ろうかな‥‥と、原稿を執筆しつつルミコは眠りに誘われるのだった‥‥。
そして普段運動しない彼女は、時間差で襲い来る筋肉痛に悲鳴を上げていたという。