●リプレイ本文
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イベン島の海辺で寛ぐ赤褌のマグロ達――照りつける太陽の下、そろそろ鱗が乾いてないか。
このまま奴が干乾びてしまえば前代未聞、傭兵達の不戦勝‥‥だが、流石にそう上手くはいかない。
「ここがイベン島‥? 不思議な島の名前‥」
夢姫(
gb5094)は目を瞬かせる。不思議な名前だが砂浜と海が美しく、そのギャップに驚いていた。
「素敵な所。――白い砂浜。青い海。そして紡がれる幾多の想い出‥‥」
移動艇から降りた篠森 あすか(
ga0126)が夏の一日を思い浮かべる。ロケーションだけは最高だ、そこにまぐろが居なければ。
「‥そんな貴重な時間のためにも! よくわからないまぐろ君一家には、速やかに退場してもらわないとっ!」
ビシッとあすかが指差した先では、まぐろくん20号が褌を締めなおしていた。
微妙に視線を逸らせ、望月 藍那(
gb6612)は恒例のタロットカードを引く。
結果は‥‥『力』の正位置。
「‥忍耐、か‥‥。確かに見た目変態でもキメラだし‥‥油断禁物ですけどね‥」
ふっと溜息をついて顔を上げると、視線の先で子マグロが棒を振っていた。
「アレを前にどれだけ耐えられるかな‥」
正直自信ない。
そして夢姫の視線の先では、ナイスバディがメタボに寄り添っている。
「‥‥。ますますバグアの目指す方向性がわからなくなってきたかも」
けれど、こんな夫婦いるよね。
まぐろと聞いて馳せ参じた香原 唯(
ga0401)は別の意味でがっかりだ。
(「大トロ・中トロ・小トロ‥‥。まぐろくんがお魚ボディでない事が非常に悔やまれます」)
さようなら、脂の乗ったトロ刺身。さようなら、鮪のかぶと焼き‥‥。食えない鮪なんてただのまぐろくんだ。
鯨井昼寝(
ga0488)はキメラ研のセンスにがっかりだ。
(「すいかんは分かる。とまとんも分かる。では何故まぐろんではないのか。どうしてまぐろくんなのか」)
哲学者モードで考える。まぐろくんよ、どうして君はまぐろくんなのか‥‥!
――その時、昼寝の目の前にこれでもかと水筒を携帯したマグローン(
gb3046)が。
(「あの程度の鮪モドキを仲間だと認めたくありませんし、仲間だとも思われたくありませんので、消えて頂きましょう」)
なんて、微笑みながら考えている。
ここで、昼寝の脳内に一つの説が。『まぐろん』だとマグローンの名と間違えやすいから、キメラ研が配慮して『まぐろくん』にしたのだと。
「‥まぐろくん‥‥まぐろちゃん‥‥うーむむむむむ」
唸る昼寝さん。一方、
「まぁ、今から倒すキメラの名前なんかどーでもいいですけどね?」
と興味無さそうに振舞いつつ「少しは捻ろよ」とボソリ毒つく藍那さん。
――真相はキメラ研のみぞ知るのであった。
「シュールよねぇ。もう少し可愛げがあれば良いでしょうに」
と、男前な姿で言うはロボロフスキー・公星(
ga8944)だ。おねぇ言葉なのは気にしてはいけない。そして、
「にゅふふ♪ 変なキメラはさっさと倒して海で遊ぶのにゃ〜♪」
笑顔眩しい西村・千佳(
ga4714)がドレスを脱ぐと、その下には猫の肉球柄のビキニ。泳ぐ気満々である。
そしてナイスバディ9号をびしっと指差し叫んだ。
「とりあえずあの大きな胸は敵にゃ! だから僕はあれの相手をするのにゃっ」
すると9号は、そのボインを寄せあげる――生意気な! 一部能力者の闘争心に火がついた。
こうして、キメラ退治が始まる――!
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――腹が減っては戦は出来ぬ。
開戦と同時に、4体のまぐろくんは転がる『とまとん』を掴んだ。そして――
「まさか‥‥いきなり共食い!?」
能力者の目の前で、まぐろくんはとまとんを齧る‥‥好物だったらしい。
確かに6つ存在した赤い球は、開始5分も経たず残り2つに減少した。
とまとんの存在意義を考える一同。しかし、
「とまとん‥‥残り2つね」
昼寝はトマトカウンターとしての仕事を全うしようとしていた。
――気を取り直していこう。
とまとんを食ったからって腹が満たされただけで、まぐろくんがパワーアップしたわけじゃない。
あすかは冷静に先手必勝を使用、最初の一手を奪った。
「海には近づけさせないから」
小銃で1号の足元を射撃。牽制攻撃を加えていく。
あすかが1号を相手する傍らで、千佳も先手必勝を発動。瞬速縮地で一気にまぐろくんへ肉薄する――ターゲットはもちろんボインだ。
「魔法少女マジカル♪ チカ参上にゃ♪ これ以上の悪行は僕が許さないのにゃ♪」
マジシャンズロッドを振り魔法少女のようにポーズ!
「‥でもあまり悪行らしい悪行はしてないにゃ‥‥ら、その大きな胸が悪にゃ!」
千佳の目の前で揺れるボインが目障りで仕方ない。
「いけ、マジカル♪ シュートにゃ!」
ロッドから電磁波が迸る――!
直撃を受けたボインは一瞬怯み、防御行動をとった後口から水弾を吐いた。それを飛び上がって避けた千佳は、華麗に着地する。
一方唯は2号を海から引き離すように、スパークマシンでチクチク攻撃しながら時折トマトをちらつかせた。
(「普通のマグロの餌は魚みたいですが、これって効果あるでしょうか‥」)
とまとんが好物だとしたら、普通のトマトもありかもしれない‥‥その唯の予感は的中し、2号はふらふら誘き出されていく。
「‥‥今のうちです、マグローンさん‥! ‥あれ?」
唯がマグローンに向け叫ぶ‥‥が、彼の姿は既にない。
それもそのはず、マグローンは覚醒を遂げる前に皆から離れ、物陰から海中に入っていたのだ。
――思春期の少年じゃあるまいし、9号のボインを見て人前に出られない姿になった訳ではなさそうである。
20号の足元を狙い水中から放たれる銃弾が、彼が海中にいると教えていた。
(「陸上に上がる時は水分必須ですのに、愚かですね‥‥」)
‥‥なんて思いつつ、エラから溜息を吐き鮪思考を漂わせる紳士マグローン。
彼が海の中でどんな姿でいるか、何となく想像出来そうだ‥‥。
一方とまとん班。
獅子を模った紋章が浮き出た手にハングドマンを持ち、電波増幅を使用する藍那。
「こう、いかにも雑魚っぽい敵の方が思わぬところで邪魔になるんですよねぇ‥」
気だるげに言い、電磁波を放つと――とまとんの体から体液が吹き出る。
そこへ夢姫が、機械剣を振り攻撃を繋げた。
「えいっ」
2回、3回と切り刻まれ、とまとんはあっけなく輪切りにされて倒れてしまった。
「‥‥残り一つ」
トマトカウンター昼寝が叫ぶ。こう、もう少しとまとんが強ければ遣り甲斐ある仕事だっただろうに‥‥。とまとんという名前は納得なのだが、その存在意義を考えてしまう昼寝である。
最後のトマトは、ロボロフスキーが相手をしていた。
「こんがり焼きトマトにするわ」
手にした超機械から電磁波を出す――しかしとまとんは奇跡的にその攻撃を避けた。反撃の体当たりへと移る――!
だが懐に飛び込んできたとまとんを、ハエタタキでぺちっと叩き落すロボロフスキー。
勢いでとまとんは地面にたたき付けられ、そのまま潰れてしまった‥‥。
その時「え、もう終りなの?」と、とまとん班の誰もが思ったらしい。
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「遅くなってごめんなさい」
「‥うわぁ‥‥直接見ると予想以上に酷いですね‥‥」
謝るロボロフスキー。げんなりしたように言う藍那。夢姫と昼寝も加え、いよいよまぐろくんを本格的に討伐だ!
「みんなそろったね‥‥全力でいくよ」
あすかは本格的な攻撃へ移行、まず強弾撃を使い1号の腕を銃撃する。
連続で放たれた弾は全弾命中し、1号は腕から血を吹き上げる。
(「たとえ子供であってもキメラはキメラ。手はもちろん、気を緩めるつもりもありません」)
続けて1号に容赦ない追撃を加えるロボロフスキー。相手がいくら許しを請おうとも、その顔はまぐろだ。動揺はしない。
不利を感じ、1号はあすかとロボロフスキーの間をすり抜け海へ逃げようとする‥‥が、それを許さぬ昼寝。
「逃さない!」
‥と、瞬天速で回りこみ、道を塞いだ。そしてオロオロする1号に、あすかの銃撃が放たれる。
弾丸は1号の胸を貫通し、体は砂浜に倒れた。
――残り、3体。
藍那は手近にいた9号に練成弱体をかける。
「さて、変態退治っと‥」
弱体をくらった9号は、相変わらず豊満な胸を揺らしている‥‥顔はまぐろのクセに。
「‥なんでか知らないけど、見てるとイラッとするんで‥。‥‥さっさと逝け」
ボソリと呟く藍那の目は据わっていた。千佳の攻撃に加え、二人分の超機械が炸裂する!!
‥一部能力者の怒りを買った9号は、そのナイスバディで誰をも誘惑することなく砂浜に倒れた。
「次はどのマグロにゃー!」
千佳の叫び声が響く。
――残り、2体。
「メタボなまぐろくんはいただきます!」
夢姫は20号を狙い二連撃を発動、機械剣がメタボな腹にクリーンヒットした。ぼよんとした腹から血飛沫が迸る!
さらに水中からはマグローンの銃撃、そろそろエラも乾いてきた、20号は息も絶え絶えである。
だが最後の望みをかけ、20号は皆の隙をつき海へとダイブ――!
(「きましたね‥‥!」)
そこで待ち構えるマグローン。水中に潜るメタボな体を確認すると瞬速縮地で急接近、アロンダイトで脳天に一撃を叩き込む!
――渾身の一撃で頭を粉砕された20号は、海面にプカリと浮かび上がった。
ホッとエラ呼吸するマグローン。しかし、
「にゃ!? 海に逃げるのにゃ!?」
「私も追う!」
千佳と夢姫の声がする。
マグローンが物陰からそっと水面に顔を出すと、海へ逃げ込もうとするまぐろくん2号と、それを追う千佳、さらにアロンダイトを持ち海へと迫る夢姫――。
‥‥覚醒姿を見せたくないマグローンにとって、とても不味い展開だ!
海中でバタバタするマグローン‥‥水底の砂が巻き上げられ、僅かに海が濁る。目を凝らすと、手足とか生えた巨大な鮪っぽいフォルムが見えるかもしれない‥‥誤魔化せるか?
と、マグローンはドキドキしていたが。
2号は海に飛び込む寸でのところで、瞬天速使用の昼寝に捕まっていた。そのままフルボッコされる2号‥‥ご愁傷様である。
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「頭だけ出して浜に埋めておけば少しは風情があるかな‥‥」
気分爽快な気持ちで遊ぶため浜辺の掃除をしながら、唯がぽつり。
‥‥いや、流石にそれはちょっと。
「やっと泳げる♪」
この為に来たといっても過言ではない! まぐろくん退治を終え、夢姫はウキウキとチュニックを脱いだ‥‥その下には自前の水着。
既に水着姿の千佳も遊ぶ機満々だ。
「海にゃ〜♪ 思いっきり遊ぶのにゃ♪」
「‥‥遊ぶ前に治療しておかなくていいんですか? 海水は傷に沁みますよ」
と、自分もちょっと遊びたい気分を抑えつつ、藍那は千佳と夢姫に練成治療を施した。
「ありがとにゃ! にゅふ、ついでに‥‥お姉ちゃん達の抱き心地ちぇ〜っく♪」
お礼をいいつつ藍那に抱きつく千佳。
「‥‥何、新手のお礼!?」
「ふにゅ、なかなか‥‥」
急にハグされ戸惑う藍那の抱き心地をチェックする千佳。‥‥何点がついたかは、千佳だけの秘密。
その後夢姫をハグし、全女性陣の抱き心地をチェックした千佳は満足して海へ飛び込んでいった。
「さ、泳ごう♪ 最近はパラオに行ったり、色んな海で遊べて幸せ☆」
続いて夢姫が波打ち際からエントリー。流石は沖縄っ子、泳ぎはお手の物。
「‥‥行きますか」
そしてビキニに着替えた藍那は、大きな浮き輪を浮かべた。真ん中の穴に体を沈め、ぷかぷか浮かびつつ波に流されていく――。
「ふふ‥‥みんな元気ね、平和っていいわ‥‥」
海に繰り出す3人を眺め、ロボロフスキーは鉛筆を手に取った。能力者になる前画家だったという彼は、この風景をスケッチブックへと残す。もちろん、楽しく過ごす皆の姿も一緒に。
芸術の季節には早いが、こんなリゾートも良いだろう。
その横で、あすかは砂遊びを始めた。
「浜辺の砂を使って、お城を作ってみようかな」
‥‥うまく作れるかわからないと思いつつも、やるだけやってみるあすか。海水を汲んできて、砂にかけて固めて‥‥着実に砂アートが完成していく。
「出来た♪ 砂のお城とまぐろ♪」
あすかの砂像は、城の横に何故か砂のまぐろが添えられて。携帯カメラで記念写真をパシャリ。
「なかなかの力作ね」
ロボロフスキーもスケッチを終え、砂像を眺めてニコリと微笑んだ。
掃除を終えた唯は焚き火をパチパチ‥‥マグロのかぶと焼きに、超後ろ髪を惹かれながら。
(「彼らはあれだけとまとんを食べていたので、齧ったらきっとマグロじゃなくトマトの味なんですよ‥」)
と、自分に言い聞かせる唯。ああ、きっとそうに違いない‥‥。
唯はかわりに飯ごうで御飯を炊いて、ハムを焼き始める。
「ハムもこうして海を眺めながら焚き火で焼けば、また一味違った美味しさです」
焼きたてハムに息を吹きかけ、齧り付く‥‥うん、美味しい。唯は続いてマシュマロを焼き、ニコニコ笑顔で皆に配っていく。
「今日は一日お疲れ様でした。焼きマシュマロ、如何ですか?」
「有難う、いただくわ」
ロボロフスキーに手渡し、砂だらけで手の使えないあすかの口元にもマシュマロを運ぶ。甘い物は皆の疲れを癒していく。
そして、何やら考え事をする昼寝にも。
「考え事ですか?」
「ええ、まぐろくんは何故まぐろくんなのか。何故まぐろんじゃないのか‥‥」
ぶつぶつ呟きつつ、ゆっくり考えを巡らせる昼寝。ある意味答えが導き出せたら負けのような気もするが。
「そういえば、マグローンさんは何処にいらっしゃるんでしょう?」
いつのまにか消えていた人物を思い出し、唯は首を傾げるのだった。
当然マグローンはまだ海に居る。覚醒は解いているが。
「やはり海は安らぎますね‥‥」
と、クロールで遠泳を楽しんでいた。はじめはゆっくり、だが襲い来る波にテンションが上がり、いつのまにか再び覚醒したマグローン。猛スピードで海中を回遊する!
しかし、
「‥‥何、あれ」
「サメかにゃ?」
藍那と千佳が異常なテンションで回遊するまぐろのようなものを発見していた。
「あれ? まだまぐろくんキメラが‥‥? 依頼説明にはいなかった種類のキメラ‥‥?」
海中に潜っていた夢姫が肉眼で覚醒マグローンを捉えた。ゆっくり潜水しつつ、その怪しい魚影に向う。
「あ、逃げた!!」
だが、水棲マグローンの逃げ足(?)はとんでもなく速かった。
夢姫の気配を察すると同時にさらに沖の方へ、猛ダッシュで泳ぐマグローン。
後にはただ、誰かさんの水着だけが残されていた‥‥。
それぞれが海辺で過ごし、やがて移動艇がやってくる――。
――さらばまぐろくんの浜辺。さらばイベン島。
その時覚醒の解けたマグローンは辿り着いた岩場の上で、
「どう回収しましょうか‥‥」
水着すら着けていないという問題を抱え、頭悩ますのであった。