●オープニング本文
前回のリプレイを見る とある小さな武器研究施設――その一室で、ふぁ‥‥と大あくびをする白衣の女、羽柴・千鶴(gz0264)は。
「これで全部‥‥一応形になった、か」
と呟き、机上に散らばった資料をのろのろとかき集めた。その緩慢な動作はどう見ても寝不足、疲れが溜まっている証拠だろう。
二月程前に、能力者達を集めて意見交換も行った、『水中用生身武器』の開発――それもいよいよ大詰め。
まだ量産できるかどうかは決定していないが、試作品は形になった。実戦で使っても問題ないレベルだ。
後は試作した水中用武器で簡単なテストが行えないかどうか、再び依頼を出し能力者を募集するだけ‥‥なのだが、その前に。
「さてと‥‥たまには自分で海の様子でも見てこようか。何もかも『依頼』ですませたくは無いからね」
そう言って千鶴は助手に何かを頼み、部屋を出て行く――向った先は、更衣室だった。
●
ウェットスーツを身に纏い機材のチェックを済ませると、千鶴は相方と共に船から海へダイブする。そしてゆっくり、ゴーグル越しの景色を楽しみながら潜水していった。
東南アジアの海に残る珊瑚礁の状況を定期的にチェックする事は、千鶴の『趣味』の一つ。
誰に頼まれた訳でもない。何故ここまで拘るのかときかれれば、『子供の頃に見たここの海が綺麗だったから』と、苦笑しながら答えるしかない。
あれからバグアの襲来があって、地上の様子は変わり果てた。
人の世界を守るため、数々の技術が発明され、武器もKVも進化した‥‥けれど。
(「‥‥良かった、ここはまだ変わってはいない‥‥」)
青い世界、浅い海底に形成された珊瑚礁は、今も沢山の生命を守り育んでいた。
色とりどりの魚が乱舞し、青いヒトデが珊瑚に貼りつき、岩上に転がるナマコさえも可愛く見える。
大きな戦闘が一つでも起これば、全て吹き飛んでしまいそうなこの小さな楽園を。
――守りたかった。
普段あまり人の目が向けられぬ場所、だからこそ、だ。
――此処を守る上で何が不足しているか考えて、やはり『水中生身武器』というジャンルで開発が遅れているのではないかと思った。
ようやく、その問題が解消できるかもしれない。
その事もあってか、千鶴は珍しく上機嫌でルリスズメダイの群れを眺める‥‥名前の通り全身が鮮やかな瑠璃色のこの魚は、案外テリトリー意識が強く攻撃的な性格だ。見かけに騙されてはいけない。
そしてこの直後、千鶴は異様な光景を目撃する。
(「――何だ? あれは‥‥」)
思わず顔を顰める千鶴。その視線の先には――瑠璃色の魚。しかし体長6cmほどのルリスズメダイとは違い、その大きさは5倍‥‥いや、10倍だろうか。近づけば近づくほど大きくなる。
(「形はルリスズメダイだな‥‥しかし」)
大きさが、異常だった。
そして、辺りのルリスズメダイもその大きな魚に気づき、テリトリーを守るために攻撃を仕掛け始める。
小さな体が、大きな体にぶち当たった瞬間――攻撃は易々と弾かれ、瑠璃色の体が僅かな赤に包まれたのを千鶴は見逃さなかった。
(「‥‥フォースフィールド‥‥キメラかっ。‥‥とうとうこんなところにまで――!」)
千鶴は唇を噛む思いでバディに浮上するよう告げると、冷静に辺りを見回した――刹那、視界が気泡で遮られる。
(「‥‥しまった――」)
瑠璃色のキメラが千鶴の姿に気づいた。水中を優雅に泳いでいた姿も一変、獲物を追い詰める猛禽のような機敏な動きに変化する。
口から吐き出される気泡、そして水の塊――キメラの全ての攻撃は、千鶴を狙っていた。
●
「――ああ、どうしたらいいんだ!」
その頃研究所では、先に浮上したダイバーの報告を聞き助手が右往左往していた。
まずは依頼をするべきかと震える指先でボタンを押したところで、バンと扉が開く。
そこには――ずぶ濡れの千鶴が居た。
「おお、無事だったんですね!」
「当たり前だよ」
これでも能力者の端くれだと、フンと鼻を鳴らす。そして、
「それよりも、予定変更だよ。‥‥初めは簡単に水中で慣らしてもらう予定だったんだが‥」
独り言のように呟き、千鶴は机上の試作武器をかき集める。
「いきなり実戦に投入するのもどうかと思うが――丁度データも欲しかったところだ。この試作水中武器で戦ってもらうように依頼を出すよ。いいね?」
「はい、今すぐ連絡をっ」
●
UPC本部。そこに、『試作した生身用水中武器でキメラを討伐して欲しい』という依頼が掲示された。
倒すべきキメラは、大きなルリスズメダイ型のキメラ、6体。大きさは60cm程度、直接攻撃の威力は確認できなかったが、水中を自在に動いて視界を濁したり、水弾で遠距離攻撃する様子が確認された。
遭遇時の水深は15〜20m、水温28℃程度で周りは珊瑚礁。目立った障害物も少なく、潮の流れも穏やかな為比較的戦いやすいだろう。
しかし一つ、気をつけて欲しいことがある。
キメラと遭遇した時、逃げるので精一杯だった千鶴は良く確認できなかったが‥‥、その海域には、以前発見された『ダツキメラ』のような魚影も複数見えたという。
ダツキメラまで流れ込んできたのだとしたら、敵戦力が膨れ上がることになるだろう。又、ダツキメラの能力が以前と同じだとは限らない‥‥強化されている可能性もあるのだ。
対抗する為の水中用の武器は、様々なものが用意されている。
それらを使うことで、水中での新たな戦いが見出せるかもしれない――。
最後に「よろしく頼む」と、千鶴は頭を下げるのだった。
●リプレイ本文
「羽柴さんっ、大丈夫ですかっ?!」
遅れてブリーフィングルームにやってきた羽柴・千鶴(gz0264)の姿を見、橘川 海(
gb4179)は思わず声を出した。
「襲われたって聞いて、すごく心配してましたっ」
目尻には透明な雫。まさかここまで心配されていたとは、千鶴は少し困惑気味だ。
その様子を眺めていたクロスフィールド(
ga7029)は、笑いを堪え。
「無事で何よりだ、水中装備の先駆者がいなくなっては困るからな」
そう言うと、千鶴は苦笑した。
――部屋には計8名の傭兵の姿。
「ふふん、このボクが来たからには大船に乗ったつもりでいたまえ!」
姉の代わりに駆けつけた鯨井起太(
ga0984)が、自信に満ちた表情で胸を反らせる。
そして自己紹介の後、試作水中武器が運ばれる。
「色々出来たんですね」
リュドレイク(
ga8720)が興味深そうに眺め‥そして水弧と海雪を手に取る。
「あとはラッシュガードを‥水着より防御力ありますよね」
武器と共に作られた試作防具や水着も、試してみるつもりだ。
「やっと出来たんだね」
カナロアを持つルンバ・ルンバ(
ga9442)は、少年らしい笑みを浮かべる。たがその目は笑っていない。
「んじゃこれで‥絶対倒して見せないとね」
これ以上海中で好き勝手される訳にはいかないと、闘志を滲ませる。千鶴が襲われる事態が起きた事、状況がそれ以上に悪くなっている事に焦りさえ感じた。
隣では、遠藤鈴樹(
ga4987)がゴム手銛を持ち、軽く構えて。
「いきなり実戦に出せるって事は、稼動は全く問題ないってことよね」
やるわね‥と千鶴に向けて言った。
(「あとはこの武器を活かしてあげる戦いができるかどうか。こっちも期待に応えないとね」)
そんな思いも、胸に秘め。
そして沖田 神楽(
gb4254)は刀を握る。
「これが、海雪‥」
手に馴染む感触。水中で上手く扱えるかが問題だけれど、それでも長く修行を重ねた彼女に迷いは無い。
一方クロスフィールドは、ニードルライフル『水狐』を入念にチェック。
「お、予想以上の出来だな。流石は羽柴だ」
銃身の耐久度、マガジンの大きさ‥ほぼ提案通りに完成している。そして顔を上げ、
「ところでちゃんと連射できるんだよな?」
問うと、もちろんだという返事が届いた。
そして傭兵達は討伐ポイントへ。今回も船からのエントリーだ。
「こういうの初めてで、わくわくしてます」
紅桜舞(
gb8836)が、陽を浴びた海面のように瞳を輝かせて言う。
今回のバディは、起太&舞、クロスフィールド&鈴樹、海&ルンバ、神楽&リュドレイクの4組。
「さて、そろそろ行くとしようか」
起太が手にした武器は巨蟹鉄鋏という片手爪。舞と共に、片手でマスクを押さえ蒼海へと飛び込んだ。
「おい、遠藤、ちょい相談だ」
「ええ、何かしら」
「手信号と意思疎通の合図を決めておく。お前とは背中を預けることになるからな」
エントリー寸前まで打ち合わせをするクロスフィールドと鈴樹。水中では意思疎通が困難だ、この時間が無駄になることは無いだろう。
「海、よろしく」
ルンバが声をかけると、海はAUKVを纏い頷いた。そして飛び込む寸前、千鶴の方へ振り返る。
「行ってきます! 試作水中用装備、使いこなしてみせますよっ!」
「じゃ行ってくるよ」
――二人も又、海中へ潜っていく。そして、
「それじゃ早速、テストを兼ねて‥‥海を荒らす不届き者を退治してしまいましょう」
と、リュドレイクがエントリー。最後になった神楽は、
「千鶴さん、珊瑚礁は守って見せますよ」
力強く言って、笑みを浮かべた。
「ああ、頼んだよ」
と、千鶴は8人の姿を見送る。
彼らはこの海域の守護者となるのだろうか。
●
(「さて‥‥キメラは何処に居ますかね」)
海に潜ると、リュドレイクは探査の眼を発動。周囲を警戒する。
(「わ‥綺麗」)
神楽は鮮やかな魚に一瞬目を奪われ――だが直ぐに警戒し、海雪を握り締める。
一方、バハムートを纏った海は海底へ到着。
(「うー、私も泳ぎたかったなあ」)
バディのルンバの姿を眺めながら、残念に思った。
緩やかな潮流の中、起太は流れに体を預け、防具のフィット感をチェック。
戦闘前に確認すべき事は沢山ある。実際に傭兵たちの手に入る段階になって、不具合が出てはならないのだから、その分慎重だ。
――やがて千鶴が襲われた地点へと到達する。
(「確か‥この辺りね」)
合図を送る鈴樹。皆は頷いて、珊瑚の群れに潜む瑠璃魚キメラを探し始めた。
‥そして探すこと数分。
(「居そうですね」)
リュドレイクはサインを出した。待ち伏せるキメラの気配を捉えたのだ。
ボードで会話しつつ、海はタクティクスゴーグルの倍率を使用し、じっくりと観察を始める。
そして‥予想通り、珊瑚に隠れ死角になった場所から瑠璃色の頭が覗いた。その瞬間、群れていた小さな魚達は危険を察知し散らばっていく――。
(「やば‥見惚れそう」)
鮮やかな瑠璃色が、神楽の眼を惹く。だが彼女は首を振り、あれはキメラだと言い聞かせた。
先手を取ったのは、クロスフィールド。
(「さて‥こいつの性能を確かめるとするか」)
攻撃の意思を鈴樹に伝え、水狐を構えると先手必勝を発動。瑠璃魚キメラに銃口を向け、その圧倒的な射程で捕捉する。従来の武器ならば、届かなかった距離。
(「射程内‥いける」)
トリガーを引くと共に、ニードル型の銃弾が放たれる。それは軌道を変える事無く真直ぐキメラへ向い――命中。
頭が砕かれ、赤い血が海水に溶けた。弱弱しくなるキメラの動き。
そこへ鈴樹が詰め寄り、手銛の先を向けた。この武器は見た目槍のような漁具であるが、巨大な針が飛び出す仕掛けの『弓』だ。狙いを定めて射ると、針は刃となり瑠璃魚キメラの側面に突き刺さる。
悶えるキメラ。手にした武器の殲滅力の高さを確かめ、クロスフィールドはニヤリと笑むと止めの連射を始める――。
残るキメラも一斉に能力者の存在に気づく。だがその時には、傭兵達も既に戦闘体勢は万全。
バディごとに別々のキメラに狙いを定め、リュドレイクは水狐で銃撃を開始する。
(「近づかせませんよ!」)
開いた口へニードルを撃ちこんでいく。
そして銃撃するリュドレイクの横を、神楽は素早く通り抜ける。肉薄し、水流ごとキメラを斬る――手応えは充分。キメラの肉が裂けけ、苦し紛れの水弾が吐き出された。
(「‥ッ」)
水弾を避けようとするが、被弾してしまう神楽。痛みは少ないが体勢を整える為一度退く。
追撃するキメラ――だがその動きはパタリと止んだ。
(「ルリスズメダイ‥通常サイズのを観察するだけなら、綺麗なんですけどねぇ‥」)
思いつつ、海雪に持ち替えたリュドレイクが死角から刀を振る。‥避け切れないキメラ。
更に神楽が迅雷で突進。刹那を発動し渾身の一撃を放つと、キメラは反撃ままならず命を散らした。
ほぼ時を同じくして、海は竜の息で伸ばしたAR射程にキメラを捉えた。牽制攻撃しつつ、入り組んだ珊瑚からキメラをおびき出していく。重いAUKVは浮きはしないが、海底に佇み安定した攻撃が出来ることは利点だろう。
誘き寄せたところで、海は流水棍『鳴門』を構えようとする。――しかしその隙にキメラは水弾を放った。
(「――!」)
直撃するかと思われたその時、ルンバがカナロアの爪先を翻す。
(「今度はこっちから行かせてもらうよ‥さあカナロア、力を見せてくれない? 名前の通りにさ」)
一撃目はキメラの口先を掠ったが、ニ撃目は急所突きで目を深々と抉る。
ルンバの爪で裂かれ、暴れ出すキメラ。闇雲に吐き出された水弾を、海は今度こそ棍についた盾部で受け止め。
『反撃ですよっ』
攻撃を押し返し、棍が纏う水流の力を借りて振り回す。――二人は連携しつつ、キメラを追い詰めていく。
一方で、起太は鉄鋏を振る。シオマネキのように片方だけ巨大な蟹鋏は、威嚇する程のインパクトがあった。キメラが怯む、‥起太はその隙を見逃さない。
刹那にキメラの尾びれを切り刻む。
(「いい感じだね」)
そして防具。ウェットスーツはフィット感を維持しながらも動きを拘束するような事は無い。相性の良さを確認し、再び派手に鋏を振った。
鉄鋏はキメラの骨すら断ち、後には水中を漂うだけの肉塊が残された。
一方舞は、起太に近づく瑠璃魚キメラを発見する。
(「きましたね」)
手銛の射程まで泳ぎ狙い撃つと、刃は易々とキメラの腹部に突き刺さった。
(「うーん、地上とさほど変わらない感覚でいけますね。いい感じ」)
手応えを感じる舞。だがそれは致命傷には至っていない――反撃で放たれたキメラの水弾は、舞の小さな体を直撃する。
大丈夫と問うように起太は舞を見ると、彼女はゆるりと手を振り『大丈夫』だと合図。
続けざまに、キメラは起太目掛けて体当たりを放つ。
(「‥く」)
鉄鋏で受け止めるが――ズシリと重い衝撃が走る。
だが痛みは少ない‥これも鉄鋏の防御性能の為だろう。それを確かめた起太は、反撃を開始する。
順調に瑠璃魚キメラの数を減らしていく能力者達。
しかし討伐が進む中――新たなる敵が迫っていた。
気づいたのは、探査の瞳で警戒を絶やしていなかったリュドレイク。
(「――新手!?」)
至急手信号で仲間に伝え、迎撃の体勢を整えた。現れたキメラは‥‥巨大なダツ。
しかし以前と比べ物にならぬ程、ダツキメラの泳ぐスピードは速い。
――避けきれない。
そう思った瞬間、リュドレイクは自身障壁を発動していた。
尖った口先が皮膚を掠る‥幸い軽傷だ。彼はすぐさま海雪を振り、キメラを斬る。だがそれは寸でのところでかわされていた。
襲撃を見、目を丸くした神楽は泳ぎ寄る。
(「あれは‥ダツ?」)
同じく海雪で斬り込む――が、外してしまう。『速い‥!』と、彼女の中に生まれる僅かな焦り。
やや遅れて、海とルンバが駆けつけた。
(「これ以上勝手なことっ!」)
再び姿を現したダツに飛び込むルンバ。思考はあくまで冷静に、ダツの突撃をかわして紅蓮衝撃を発動、カナロアで流し斬る。
――細長い胴に、深い傷が刻まれた。
しかしキメラの口先も、ルンバの腕を刺している。
『ルン君‥!』
駆け寄る海。彼女は水中錬剣『海神』に練力を注ぎ込み、刃を具現化させ斬り込んでいく。
『いっけー!』
竜の角の発動と共に、剣先がダツの鰓部を裂いた。キメラは体をうねらせ、痛みに悶える。その間、一旦退いたリュドレイクはロウ・ヒールで傷を癒した。
神楽は合図を出し泳いでいく。最初こそ始めての海中戦闘に戸惑ったものの、仲間の行動を見て次第に立ち回りを覚えた神楽。
(「‥こう使うんだねッ」)
フィンから水の刃を出し、円閃で口先を斬る――ためらいの無い、華麗な動きだった。攻撃を終えた神楽を狙ってキメラは突進するも、割って入ったリュドレイクに阻まれる。
(「もう痛くありませんよ」)
鋭い口先の折れたキメラは、それほど脅威ではない。
さらに海が竜の尾で、固い装甲を破り追い討ちをかける。
そして攻撃の途切れぬうちに、ルンバのカナロアが唸った。体液を撒き散らし、ダツキメラは絶命する。
一方で、残る瑠璃魚キメラを狙うクロスフィールドと鈴樹。
(「視界が‥悪いわ」)
逃げるキメラが海底の砂を巻き上げ、鈴樹は一旦浮上。視界が遮られる中、クロスフィールドは素早く周囲を見回す。
(「やばいな、あっちからも来たか」)
起太と舞に迫るダツの姿を見‥‥だが今は目の前の敵を排除しなければ。
(「これで止められたらいいんだが」)
放たれた水弾目掛けて銃を撃つと、軌道が逸れた。軽くサイドに避け、クロスフィールドは鈴樹へ合図を送る。
(「隙が大きい‥今ね」)
それは連携の合図。
水中槍「紅牙」を持った鈴樹が、深度を下げて思い切り突き進む。砂の幕を越え、レーザーポインタでキメラの姿を捉えると、腕を突き出す。
鈴樹の一撃が決まると同時に、強弾撃を乗せたクロスフィールドの連撃。致命傷を負ったキメラは血を撒き散らし、息絶える。
そして二人は、ダツと交戦する起太らの援護に向った。
――最初こそ突撃を受けたが、起太は次第にダツの動きを見切る。
攻撃をかわし、そこに叩き込まれるカウンター。鉄鋏が口先をへし折った。マスク下の起太の表情は、フフンと得意気だろう。
続いて舞が肉薄し、クルリと回転するようにフィンエッジでダツを斬る。
(「これいい感じ」)
素早く距離をとり、反撃をかわす舞。
駆けつけた鈴樹が反射光でキメラの意識を逸し、そこへ狙撃眼を発動したクロスフィールドの援護射撃も届く。
‥4人の連携で追い詰められるダツ。
(「これで仕留めるよ!」)
最後に起太が鋏で一閃、ダツの息の根を止めるのだった。
穏やかになった海に、小さな魚達が戻ってくる。
――こうして、この蒼海は平穏を取り戻した。
●
能力者達を迎える千鶴。武器も壊れず、戦果も上々‥やっと安堵する事が出来た。
「どうだい、ボクにかかればこの通りさ」
鋏の性能を堪能し満足げに言う起太に、「妹に負けてはいないな」と声をかける。‥彼女は誉めたつもりだ。
一方ルンバは、ダツキメラを報告し少し疲れた表情。
「あのキメラが強化されてたって事は、相手も似たようなことしてるのかもね」
呟くルンバの背を軽く叩き、千鶴が飲み物を差し出す。それを笑顔で受け取って――ルンバは海原を眺めた。
差し入れは、暖かなココア。
それを口にし、舞は千鶴と視線を交わす。
「なかなかいい感じでしたよ。また機会があれば呼んでくださいね」
ニッコリ笑う舞。暫くして『ああ』という短い声が返った。
船の甲板には、AUKVの点検をする海の姿。
千鶴が大切にしてるんだな、と、声をかければ、
「私、こうみえてもバハムートの開発に、関わっているんですよっ?」
と、元気な声。やっぱり海は泳いで、眺めてこそですよねーと言いつつ、水洗いの続きを始める。
そして短い沈黙を挟み、口を開いた。
「私考えました。水に浮くAUKV‥これがまずドラグーンには急務だと思います。‥あ、や、ほら、作戦行動に支障が出るからですよっ?」
自分の趣味ではないですよっと主張しつつ、「いつか水中用のAUKVも作りましょうねっ、羽柴さん!」と、太陽のように笑う。
AUKVは専門外だからな――困った千鶴は、思わず頭を掻いていた。
その隣で、クロスフィールドが水狐を入念に点検している。
「リロードできないとはいえ十分通用するな‥これ貰っていいか」
顔を上げてニヤリと笑う。が、千鶴は「‥今回はこれで我慢してくれ」となにやら土産を渡し。武器が量産体勢に入れば連絡するからと皆に告げて、頭を下げる。
「今までの協力、有難う。――感謝しているよ」
もう一押し。あとは自分が頑張らねば。
ここまで手伝って貰ったのだ、良い結果を残そう‥‥と、千鶴は心に誓った。