●リプレイ本文
●秋でなくても食欲
「‥‥ん。これ終わったら食べる。ひたすら食べる」
すでに空腹気味の最上 憐(
gb0002)。『春』の時もそうだったが、いや遊園地に限らず彼女は『食べるため』に依頼に参加しているようなもの。今回はついでに『ラフレシアを見る』というのもあるのだが。
「‥‥ん。キメラだけど。気にしない」
確かにそいつはパッと見は『ラフレシア』である。とくにその特有の『匂い』は、長時間そばにいることを赦さないほどである。が今回は、ケイト・レッティ(gz0208)が指摘したように怪しく蠢く、複数の葉を供えている。本物のラフレシアにそんなものは存在しない。
遊園地はすでに閉園時間を過ぎ、一般の観客はいないので残っているのは関係者だけである。ケイト含め。
「皆さん。早く避難してくださ〜〜い。花壇にラフレシアのようなキメラがいます」
手際よくテキパキと関係者を安全なところに避難誘導しているケイト。その間にもその『キメラ』はゆらゆら葉をうごめかしつつ、時にはその蔓を鞭のように伸ばしたりしている。一刻も早く安全を確保しなければならない。
「サイエンティストの力を見せましょう」
決意する国谷 真彼(
ga2331)。今回彼はその胸にもうひとつの『目的』ともいえる『約束』のようなものを秘めていた。パートナーは最上。さっさと退治して彼女の胃袋を満足させてやらないといけない。戦闘前には
他のメンバーへの練成強化も忘れない
幸いなことに。『春』と違って、キメラ自体は狭い地域に密集している。そこは20m×10m程の敷地の中。周りにはケイトが植え替えたばかりの植物。そこで、そういった草花に被害を出さないためにも、どこか花壇から外へおびき出して退治したいのだ。相手が4匹ということで、傭兵達も4つに分かれる。
2人ずつのペアでキメラの『誘導役』と『そのバックアップ役』を勤めることとなる
さあ、さっさと片付けて、夜の遊園地を満喫するのだ。
●たかが花、されど花
「花壇にラフレシア。あまりに単純。どうせならもっとわかりにくいものに」
と小笠原 恋(
gb4844)とペアを組む美崎 瑠璃(
gb0339)。手にはアサルトライフルが。
「あれがラフレシアですか。初めて見ましたけど本当に、おおきいですね。でも汚れるといやですけどね」
ラフレシアに感心する小笠原。
(「さっさと片付けて遊ぶ!」)
美崎が心で叫び手ごろなラフレシアにまず一発お見舞いする。その間隙を縫って、花壇の外へ誘導する小笠原。
意外とすんなり、その葉を蠢かせながら彼女たちの方へやってくるラフレシア『キメラ』。だがその移動で、周囲の花壇の草花は踏みにじられ無残な姿に。そして巧みに自分の方へ誘導する小笠原。
「秘技! 五枚おろし!」
その必殺剣がラフレシアに向かう。『五枚おろし』? 三枚におろすのは魚だが、などと感心している場合などではない。さらに
「必殺! 夜をも切り裂く瑠璃色一点射−!」
美崎が続く。覚醒し、髪の毛と瞳が瑠璃色になるからそういう必殺技の名前なのか、即興で考えたとすればかなりのセンスの持ち主と見たが。
残骸となったキメラ。だがキメラが踏んづけた後は無残な有様。まだ根付かない植物もあろうかというのに。
で、早速それを丁寧に直す小笠原。手馴れたものである。
●過激に乱入
こちらではひときわ高い金属音を奏でながら1台のバイクが花壇を避け通路を爆走中。別に暴走族が乱入したわけではない。レミィ・バートン(
gb2575)と柚紀 美音(
gb8029)のペアである。バイク形態のAU−KVで『キメラ』を誘導中なのだ。なるべく広い場所へ。
がその音におびえたわけでもないだろうにこのキメラ。なかなか花壇から出てこようとはしない。ので、仕方なく敵の蔦攻撃をあえて受け止め、トリコロールカラーのバイクで引きずり回す荒業に。あかげでせっかくの花壇はメチャメチャに。あ〜あ。ケイトが見たらなんと言うだろう。だが状況が状況だ。後片付けが大変なのは目に見えているが。
こうして無理やり花壇から引きずりだしたラフレシア『キメラ』をツインブレイドで文字通り『切り刻む』レミィ。
(「キメラとは言え、花を切り刻むのは心が」)
思いつつも遠慮はしない。キメラだから。さらに刃つきの【OR】AU専用レッグブレード装着の脚で回し蹴りしなぎ払う、といういささかながらも荒っぽい展開。これはこれで有効なのである。
でそんなレミィを2つの銃でバックアップするのは柚紀 美音(
gb8029)。戦闘は不慣れであるのだが、
(「でもがんばります」)
心に誓い、レミィのサポートに回る。銃弾が命中するたびに、いやな音を立てて飛び散るキメラの『何か』。
それをテキパキと片付けるのも柚紀のお仕事、というわけである。
それにしても。こんな退治にあったキメラにわずかでも同情したい気分にもなったりするから不思議である
●やはりスマートに
(「見た目はラフレシア。さてどこまで本物か」)
距離をとってハンドガンで攻撃する藤堂 紅葉(
ga8964)、ペアを組むのが白雪(
gb2228)である。
「匂いがつくのはごめんこうむりたいね」
接近してくる茎や葉があれば剣でなぎ払いつつ、である。誘導役の白雪が動きやすいように立ち回る。
その白雪。一応外見上は『1人』なのだが死産した双子の姉『真白』の人格のみが脳内に宿ったといういわば『人格双子』。なので行動や言動に顔すらしらぬ姉『真白』の人格が時たま顔をだす。大事な花壇を傷つけぬように『キメラ』を外へと誘導する。
(「お願いだからさっさと退場して」)
心で叫ぶのは姉『真白』の人格。2本の刀が、得物の血を求め空を舞う。飛び散るラフレシアの断片と液体のようなもの。あたりには無数の切り裂かれた花びらが舞い散るように落下した。
●秋はやはり食欲
「‥‥ん、うぞうぞしてる。おいで、おいで」
ラフレシア『キメラ』を見つめ誘導を試みる最上。だがその匂いは彼女の嗅覚を強烈に刺激したらしい。
「‥‥ん、臭い、凄いらしいけど、鼻を閉じて口で呼吸する」
匂いに耐えつつ接近。だが相手がなかなか外へ動いてくれないのをみるや、スキルで一気に間合いを詰めると『急所突き』で『キメラ』を吹き飛ばす。
かなりハデに花壇の外へ吹き飛ばされたキメラ。そこへ国谷が支援の一撃。伸びてくる蔦を切断する。必要ならエネガンを放つ。国谷のサポートを受けた最上。その『大鎌』をキメラに一閃する。飛び散る断片、切れ切れになった蔦。いかに相手が植物形態ではあってもかなり強烈な光景。
やがて、残骸になったキメラを眺めつつ最上。
「‥‥ん。食べ歩きの旅に出発する」
言うが早いかさっさと己の胃袋を満たすべく、食べ歩きの旅に。なにせ彼女、覚醒中は尋常ではないレベルの空腹感を覚えるらしいので、食べるまくることはすなわち『必然』なことなのである。
●終われば
こうして4体のラフレシアもどきの『キメラ』はすべて巨大な断片と化し、あたりを埋め尽くした。それはケイトが丹念に植え替えた美しき草花の上にも覆いかぶさっている。多少レミィが過激にやりすぎたので、何個かある花壇は踏みつけられたような痕跡があちこちに残るものとなった。
「あ〜あ。こわれちゃいましたね。でもしかたないかあ。修復しなくちゃ。皆さんとにかくありがとう」
すでに暗闇が支配しつつある園内。無事に『キメラ』がいなくなったことが確認できたので、かつてソレがいた場所に戻ってきたケイト。しかしながらその表情は安堵に満ち溢れている。人間の手で植えられたものはすぐに元通りに植え直され、荒れた花壇はまた丁寧に直される。
「さあ、皆さん。ここからは園内無料解放。屋台食べ放題ですよ〜。どうぞ楽しんでいってくださいね」
ケイトがうれしそうに叫ぶ。こうして晴れて‥‥、遊園地内が傭兵達に無料で解放されたのだ。そのときはすでに闇があたりを多い尽くそうとしていた。誰もいない園内。しかも食べ放題だ。
「‥‥ん、花壇修復するの手伝う。その前に、先に、全速で、腹ごしらえ」
申し訳なさそうな表情をみせつつまず己の空腹の解決が先である最上。あっというまに走り去る。
●貸切で絶叫
クリスマスを控え、イルミネーションこそまだ準備中だったが、それでも園内のアトラクションは照明があかあかとともり、ムード満点である。
絶叫系、回転系、観覧車、等小さいながらもほぼすべての施設が整っているこの遊園地。そして今はそれが貸切状態である。
「これでお姉さまがいれば」
なにやら思うところがありそうな紅葉。『お姉さま』という言葉がさりげなくでてくるあたり、紅葉の嗜好を正直に物語っている。園内にいる従業員の中で若い気に入った娘がいないか、などと物色している様は女王様気質全開のようにも見える。
そういった若い娘に施設内を案内させ、すきあらば‥‥‥な行為をたくらんでいるのがその表情から見て取れるのだ。あっちの世界は奥が深い。余人にはその全容を理解することはなかなかにして困難。それはそういった嗜好を持つ物にしかわからない世界なのだとも言われているようだが。
「絶叫系制覇するよ〜〜」
なにやら勢いがいいのは美崎。柚紀の手をぐいぐい、と引っ張る。小さな遊園地なので決してアトラクションの種類が多い訳ではないのだが、それでも2度3度乗ることもいとわない意気込みである。
「瑠璃さ〜〜ん。待ってくださ〜〜い」
とテンションのリミッターがキレたような美崎にうれしそうについていく柚紀。まるで幼い子供に帰ったかの様である。見ているだけでほほえましくすら思える光景が展開される。白雪、紅葉、レミィらも巻きこんで絶叫系マシーンのハシゴは続く。
(「聞こえない。聞こえない」)
真白は絶叫系が苦手の様子。
「これこそ遊園地の定番、鉄板ですよね。一度は乗っておかないと」
(「え? 最近の若いこの定番って」)
そんな会話がなされていたのかもしれない。
「ひとりで行動するよりいいね」
うれしそうなレミィ。夜の闇にけたたましくもうれしそうな歓声が長いこと響き渡っていた。
これまた絶叫系でお楽しみ中の小笠原。と、何を思ったのか花壇修復中のケイトの元に走る。
「ケイト君。絶叫系はいかがかな?」
いうが早いかケイトの返事も待たずにその手をグイっと無理やり引っ張りマシンの方へ連れ出す。
「白雪さん、私と悲鳴勝負よ!」
などといいながらケイトを巻き込んでの絶叫系対決。
「キャーーーー!!」
すさまじい?悲鳴が沸きあがる中、どうやらこの勝負白雪に軍配があがったようである。
「ケイト君。死なばもろとも」
そういう彼女の目はすでに据わっていたように見えた。
そんな彼女たちの表情に思わず身震いを覚えた、そう紅葉。ジェットコースターのハイスピード感に気分が高揚したのか、同乗している女性たちの表情に思わず、本性が目覚めたのか、
「いいねえ。思わずゾクゾクするよ」
ついにその女王様属性のスイッチがオンすることに。絶叫が続く中、そんなちょっとアブナイ光景が展開されていたのである。
●花壇修理中
ちょっと危ない? 傭兵達に引きずりまわされ、半分フラフラになりながらも花壇の修理に戻ったケイト。そこへお土産持参でやって来た最上。相変わらず食べ歩きを続ける彼女。無料解放された売店、レストラン、屋台は彼女にとって、アトラクション以上の楽しみ。
「‥‥ん、とりあえず、これ全部。ほしい。大盛で」
従業員の方々もさぞや驚いたことだろう。まるで『ブラックホール』の如く食いつぶすのだから。
そんな彼女。まだ修復中の花壇があると知るや、手土産持参でお手伝い。
「‥‥ん、そろそろお手伝い。これ、全部。もてるだけ。テイクアウトする」
なんていいながら持ってきた大量の食料と共に。
多少派手に壊してしまった感があるので、修復には多少の手間と時間がかかったがそれでも丁寧に植え替え、植え直し、体裁を整えていくうちに立派なしつらえの花壇ができあがりつつあった。満足そうなケイト。彼の真心を込めた傑作である。
●観覧車で
観覧車。それは若い男女が愛を夢を語り合う場所ともなる。そしてこの解放された夜の遊園地の観覧車もまた然。
「この眺め‥‥、やっぱり『お姉さま』と」
観覧車からの鮮やかにライトアップされた遊園地の夜景を眺めつつ一人思う紅葉。
(「次は絶対に2人で」)
硬く心に誓う。
「す、すご、い‥‥、きれー!‥‥」
観覧車からの大パノラマに思わず今日の出来事すべて忘れてしまいそうになる美崎。その彩られた夜景は見たものにしか表現できない感動を与えてくれる。しばしその光景に体が釘付けになる美崎。
「うわあ。高いね。すべてが見えるよ」
(「星にも手が届きそう」)
白雪と真白。2人が見つめるその先には何があるのだろうか?希望?夢?それとも‥‥。
「できれば恋人と乗るのがロマンティックなんでしょうね」
遠い目で空を見つめる小笠原。その思いはいつか必ずかなう日が来ると思う。そんな恋に思わず相槌を打つ美音。彼女の思いも同じ。
(「次に来るときは依頼ではなく、恋人と」)
その瞳はそう言わんとしているかのように見えた。
●何を思う
そんな女性たちの騒ぎや喧噪を眺めつつ、園内を巡り、一人想いを馳せるのは国谷。キメラ退治が目的だった彼。いつしか、
(「女の子がどういうものを喜ぶのか見てまわろう」)
そういう想いに駆られるように。
園内を散策し、歓声やため息、絶叫が聞こえるさなか、『想い』を馳せる。燐やその他の女性たちの仕草や表情に『彼女』を思い出す。
かつてなくしてしまった、取り戻せない『モノ』。あの日のあの『約束』。それは戦うことでしか報われなかったはずなのだが、今僕はここで‥‥、と国谷
缶コーヒーをゆっくりと飲む。
(「まあこれからもこうやって生きていくしかないでしょう」)
虚空に誓う。
幸せへの願いとそれが失われる恐怖。どちらもかつて直面した事実として受け止め、これからも歩いて行く。いや行かなければならない。
(「まっすぐ、歩けますか」)
それは自らへの自問。そして『歩く』ことがその答え。誰かのために‥‥
●花壇修復完了
遊園地で皆が様々に楽しんでいる間、そう夜もすっかりふけた頃にやっと修復が完了したケイトの花壇。それは『キメラ』にあらされる以前にもまして色鮮やかに見るものを魅了することになる。
「なんて美しいのかしら。空の星、地上の星」
(「静寂もいいものね」)
白雪と真白。彼女らの心にこの彩りは何を伝えたのであろうか?
「心いやされるよね〜〜」
とはレミィ。ライトアップされた花々が闇の中で艶やかに己を誇示するかのようで。
『紅葉はお姉さまとお会いできなくて寂しいです。今度遊園地でデートしましょう』
紅葉は『お姉さま』宛にこうしたためている。
了
(代筆:文月 猫)