タイトル:海岸のサンドマンマスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/08 12:16

●オープニング本文


 九州南部のとある砂浜は、3月だというのに沢山のビーチパラソルが立ち多くの人々で賑わっていた。
「‥‥わ、すっごい汗でてきたっ!」
「本当だー」
 浴衣のまま砂に埋もれた二人連れの女性が、驚きの声をあげる。
 ――ここは『砂風呂』で有名な海岸。この二人の女性は旅行客で、砂風呂は初体験なのだろう。空を見上げながら楽しげに会話をし、10分ほど汗を流すと砂を払ってシャワーへと向っていく。

 旅行客だけでなく地元の人も、皆がのんびりと砂風呂を楽しむ海岸では平和な時間が流れている。
 そう、奴が現れるまでは‥‥。



 場所は変わってUPC本部。一人の女性オペレーターが新たな依頼の説明をはじめる。

「海岸沿いの砂浜にキメラが出現しました。
 キメラは砂の山のような外見をしていて‥‥『サンドマン』と名づけられています。
 手足が無くスライムのように不定形で、主に体当たりを使うキメラです。
 体当たりの他は‥‥砂に潜ったり、砂を飛ばして目潰しする事もありますので注意して下さい。
 数は3体、体長1mでそれ程強いキメラではありませんが、被害が拡大する前に殲滅を御願いします」

 オペレーターは説明を終えると丁寧にお辞儀をし、依頼を受けた能力者達は早速移動艇へと向っていく。
 ――そして現地では、『砂風呂でのまったり休暇をキメラに潰された能力者達』の戦いが、既に始まっていた‥‥。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
ティル・エーメスト(gb0476
15歳・♂・ST
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
アーシェリー・シュテル(gb2701
16歳・♀・DG
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG

●リプレイ本文


 砂風呂に現れたキメラを退治する為に、現場に急行する能力者――その数、二人。
「急ぎましょう。まだ逃げ遅れた人達がいらっしゃるみたいです」
 移動艇から降り、全力で走りながらティル・エーメスト(gb0476)が言うと、アーシェリー・シュテル(gb2701)がコクリと頷いた。
 しかしいくら現地に能力者が居るとはいえ、二人での出発は珍しい。
「‥‥二人で大丈夫でしょうか?」
「大丈夫であります」
 問いかけるティルに、はっきりとした口調で答えるアーシェリー。
「そうですね‥‥現地の仲間と協力しましょう!」
 ティルも力強く言う。
 混乱する砂浜が見えると覚醒を遂げ、ティルは探査の眼とGooDLuck発動し戦闘準備を整える。
 アーシェリーは覚醒と共にパイドロスを身に纏う。砂地という慣れぬ戦場で、彼女はどのような戦いを見せるのだろうか――。



 ――時は少し遡る。
 まだ混乱を見せぬ砂浜には、休暇を楽しむ能力者の姿があった。
「‥‥暑い。気持ち良いねぇ」
(「‥‥話しかけないで」)
 朝顔の浴衣を着、アイマスクには『心眠』の文字。パラソルの下、デトックス目的で埋まりっぱなしの白雪(gb2228)は姉・真白と会話中。
「‥お姉ちゃん‥本当暑いの駄目だよね」
 問う白雪に対し、『こんなところで一時間も埋まってられる貴女が異常なのよ‥‥』とうんざりな姉。同じ体に宿った人格とはいえ、好みは全く違うらしい。

 このように浴衣OKな砂風呂は、当然混浴だった。
「これなら‥‥大丈夫‥‥かな」
 ビーチパラソルを用意してきた幡多野 克(ga0444)はそれを砂浜に刺し、影の下に自分も埋まる準備をする。
 手荷物を傍に置き、横たわった上に砂をかけられ体が熱に包まれた。
(「あつい‥‥」)
 汗がじわりと滲む――効果は抜群だ。
 暫く空を眺めながらのんびりする克。この後に控えた普通の温泉も密かな楽しみだ。

 一方女子更衣室では。
「丈は丁度いいんだけど‥‥」
 胸元を合わせながらレイチェル・レッドレイ(gb2739)が呟いた。身長にあわせた小さめ浴衣ではどうしても胸の弾力に布地が負けて、胸元が大きく開いてしまう。
 そこへ、佐倉・咲江(gb1946)が顔を出した。
「レイチー‥準備できた?」
「‥‥うん、OK。じゃあいこっか♪」
 結局『ま、いっか』に落ち着くのだが、動くたびに弾む胸はどう見ても危うい。
 しかしレイチェル自身はあまり気にすることなく、軽い足取りで砂浜へ向うのだった。


 そして二人が丁度外に出たときの事――。
「きゃー!? 砂お化け!?」
 ――なにやら騒々しい。
 悲鳴の方へ目を向ければ、浴衣姿で逃げる人々と、彼らに砂を飛ばす『キメラ』の姿が映る。
「む、せっかく楽しもうとしたところなのに‥‥キメラ邪魔‥‥」
 眉根を寄せ、不機嫌そうな咲江。
(「もう‥‥折角のサキとのデートが台無しじゃない‥‥」)
 レイチェルも同じように、無粋なキメラにお怒りだ。
「レイチー、さっさと倒しちゃおう‥」
 頷きあい、護身用にと忍ばせた武器を手に取る。
 依頼を受けたわけではないけど、キメラとくれば見逃せない――逃げる人々も助けなければ。
 防具どころか全裸の上に布一枚の彼女らだけど、その姿は勇ましい――!

「‥‥人の悲鳴?」
 白雪も流石に騒動に気付いたようだ。そしてデトックスなら白雪の出番だが、戦闘となると姉の出番である!
「お姉ちゃん、お願い!」
(「良いけど‥‥武器は?」)
「ええ‥‥と‥‥なんかあったかなぁ?」
 砂の中から脱出し、手荷物を覗く。すっかり休暇用の遊び道具ばっかりで、白雪は困った顔をした。何か、何か武器になりそうなものはないだろうか‥‥。
「あ、あったよお姉ちゃん!」
 やっと見つけた白雪が笑顔で掲げた物は、ゴルフバッグ。
「‥‥ま、これでいっか‥‥」
 覚醒と共に吹雪を纏う『真白』の視線は、客を追い掛け回す砂男一匹をしっかり捕らえていた。
 砂地といえばサンドウェッジ。気だるそうにUPCゴルフクラブを取り出して、真白は口もとだけ笑ってみせた。
「さてと、とりあえず殴ろっか」

 そしてまどろむ克の傍にも、3体目の砂男が忍び寄っている。
「キメラをこんな場所で‥‥暴れさせる訳には‥‥いかない‥‥」
 さっと砂を払って立ち上がり、克はビーチパラソルを引き抜いた。
(「手早く終わらせなければ‥‥。貴重な休暇の為にも‥‥ね‥‥」)
 キメラは克に狙いを定め、高速で這っている‥‥一方迎え討つ克には武器が無い。さぁ、どうする――!?
「こんな事もあろうかと!」
 答えはビーチパラソルの中にあった。
 このパラソル、ただのパラソルではなく仕込みビーチパラソルなのだ。
 柄の部分から刀を抜き迎撃する克は、キメラが飛び上がったところで刀を振り下ろす。
 カウンターは見事に決まり、砂を撒きながらキメラは形を崩していく。
「――今のうちに」
 逃げていくキメラは追わず、克は温泉客の避難を優先させた。監視員用の拡声器をちょっと拝借し、避難する先を指示していく。

 克の一撃を受け逃げ出した砂男を捕らえたのは、依頼を受けてやってきた二人だ。
「皆様、慌てずに避難してください!」
 時には手を差し伸べ、ティルは逃げ遅れた人々を安全な場所へ導いていく。
「安心してください。必ずお護りいたします。」
 不安を取り除くように、少年らしい柔らかな笑みをむけるティル。しかしキメラを見据えると表情は一転、騎士のものになる。
 そして避難状況を見ながら、アーシェリーは小銃で牽制攻撃を加えつつキメラの注意を引き付けた。
「さあ、キメラよ、私たちが相手であります」
 弾が撃ち出されるたびキメラの体に穴が空く。しかしアーシェリーに撃たれながらも、ソレはじわじわと近づいてくる。
(「案外素早いでありますね‥‥」)
 リロードした瞬間、砂男は一気に距離を詰めた――が、狙いはアーシェリーではなくティルと避難者の方であった。
「危ないであります!」
「――止めて見せます」
 アーシェリーの声を聞き刹那に自身障壁を発動したティルは、体当たりをクライトガードで受け止めた。少し後方へ押されるが、しっかり踏ん張って耐え凌ぐ。
 攻撃を終え怯んだキメラに、竜の翼で肉薄したアーシェリーがイアリスを振り下ろす。衝撃でキメラの体が弾け、砂がサラサラと崩れていった。
 二人は客を避難させつつ、キメラも追い詰めていく――。

 一方。
「避難完了‥‥」
 皆の安全を確認し、咲江は静かに呟く。
「砂風呂楽しみたいからさっさと倒れて‥‥」
 殺気を感じて砂に潜ってしまうキメラを見逃さず、少しでも不自然に動けば‥‥手にしたエレキギター型超機械から超音波衝撃が飛んだ。ダメージを受けたキメラは砂地から飛び出し、今度は砂をばら撒いていく。
「もぅ、目にはいっちゃうじゃない」
 しかし砂攻撃はサングラスでがっちりガードするレイチェル。すぐさま反撃でキメラを突き刺し、剣先を抜くと続けて切り払う。
 ――見事な攻撃だ。しかし弾む胸に耐え切れず、浴衣はどんどん肌蹴て防御力はとことん落ちていた。
「うーん‥‥浴衣だとちょっと動き難いなぁ」
 このままだとポロリしちゃいそう‥‥気にしないけどね! と思いつつふと横を見ると、ギターを掻き鳴らす咲江がいた。‥‥彼女の浴衣は乱れていない。
「‥‥あ、サキ、帯緩んでるよ」
 レイチェルは小悪魔的な笑みを浮かべ、咲江の帯に手をかけた。


 子供を抱えて安全な避難所に辿り着き「もう大丈夫」と、克は少しだけ表情を柔らげた。親と再会して泣き出す様子を見、安堵するがまだ戦いは終わっていない。
 再び砂浜に出れば、3体のキメラがはっきり確認できた。
 一体はレイチェルと咲江が、二体目は白雪が、三体目はアーシェリーとティルが相手をしているようだ。
 克は一人でキメラと対峙している白雪の元に駆けつける。‥‥が、そこで目にしたものは。
「暑いのは! 嫌いだって!! 言ってるでしょうが!!!」
 思わず本音を零しながら、手にしたゴルフクラブでキメラの頭を滅多打ちにする『真白』だった。武器自体の殺傷能力は少ない筈なのに、彼女の純粋なパワーでボコボコにしている‥‥その姿はまさに鬼神。
(「‥‥こっちは大丈夫かも」)
 殆ど原型を留めていないキメラを確認し、克は素早くアーシェリーの元へ加勢に向う。

 アーシェリーはキメラを追い詰めていた。
 竜の爪で一気に畳みかけようとするが、かわされ砂中に逃げられる。
「む、もぐったでありますか‥‥ティルさん、お願いするであります」
「お任せください!」
 その時にはティルも避難誘導を終えていた。戦闘に加わり、スキルの力を借りてキメラを探す。
 直観力を高めると、砂中でのキメラの動きが感じ取れた。
「‥‥――後ろにいます!」
「ここでありますか!」
 ティルが叫ぶと、連携してアーシェリーが動く。僅かに盛り上がった箇所に剣を突きたてると、もがくキメラがずるりと体を出してきた。
 こうしてじわじわと体力を削るものの、砂男はなかなか弱った様子を見せない。もしかすると、他より強い個体なのか。
「しぶといでありますね‥‥」
 アーシェリーが反撃に備えていると、横から浴衣姿の人が現れた――。
「――!」
 仕込み刀を持った克が紅蓮衝撃を発動し、重い一撃をキメラに叩き込む。衝撃で砂が飛び散ったが、眼鏡をかけているので問題ない。
 続けて豪破斬撃を放つと、怯んだキメラに大きな隙が出来る――チャンスだ。
 克は反撃をバックステップでかわし、続いて盾を構えていたティルが攻撃に転じる。
「あと一息です」
 ゼフォンで一閃するティル。更にニ撃、三撃と斬りつければ、キメラは殆ど動きを見せなくなった。
「これで終わりであります」
 確実に仕留めるべく、アーシェリーが剣を振り下ろす‥‥!
 3人の攻撃それぞれが致命傷となり、砂男は崩れ落ち砂浜と同化するのだった。


 そして白雪はというと。
「暑い! まだ暑いわ!!」
 砂男をどついていた。しかもどつけばどつくほど、暑くなっていくような気がする。
 この暑さはかなわないと、『真白』もついに攻撃を止めた。
「はぁ‥‥貧血なのか、脱水症状なのかわからないわね」
 体調の悪さを訴えつつふらりとよろめく‥‥と。
「大丈夫ですか!?」
 加勢にやってきたティルが目を丸くする。そんな彼にやんわりと、大丈夫だと真白は伝えた。
(「真の敵は暑さね‥‥」)
 ‥‥そう思わずにはいられない。

 時同じくして、怒涛の攻撃を繰り出す咲江とレイチェルのペア。しかしキメラも最後の力で反撃を繰り出した。
 勢いを増した体当たりは、レイチェルを狙っている――!
「レイチー‥‥あぶない‥‥!」
 咄嗟に庇う咲江。衝撃で何かが解けた。
「――がぅ!? 浴衣が‥‥」
 気付いた彼女は酷く赤面する。体には辛うじて纏うだけの浴衣が‥‥帯が解け肌の大半が見えているではないか。
「‥‥うー、でもまずはキメラを」
 一体何処で帯が緩んだ‥? 隠したいけれどそれどころではない。
 しかしレイチェルは『サキってば可愛い♪』なんて反応を楽しみつつ、連携して斬撃を加えていく。激しい攻撃で胸が暴れ出し、こちらも大変な格好になっている‥‥!
 そしてチラリズムを超えたものを晒しつつも――二人はついに不届きな砂男を退治し、真の休暇をGETした!
「がぅー‥‥誰もみてないよね? 見てたら忘れる。忘れないと潰す‥‥」
 咲江は慌てて浴衣を着込み、遠巻き眺めていたおっさん達をギンと睨む。両手で潰すような仕草をすると、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていくのだった。



「終わりましたね!」
「良かった‥。休暇の続き‥するね‥」
 温泉へ歩いていく克を見送るティル。
「僕とアーシェリー様は休暇ではないので‥‥しっかりと報告を終わらせてからですね」
「そうであります」
 折角だから温泉バカンスに加わろうと思いつつ、二人は最後の仕事‥‥報告へ向う。

 キメラ駆除のされた砂浜は、元の平穏な時間を取り戻した。

「砂風呂気持ちいい‥‥。眠たくなr‥‥ZZZzzz」
 言葉途中に眠りだす咲江。
 その隣で「あ、凄い濡れてきちゃった」とレイチェルが呟く‥‥もちろん汗で、だ。
 汗で濡れ濡れなる感覚が、癖になりそうで堪らない。
(「流しちゃう前に、このカラダはサキにも味わって貰わないとね‥‥勿論、サキのカラダも目一杯‥‥♪」)
 なんて事を考えつつ、20分が経過――砂風呂には丁度良い時間だ。
「サキ、起きて。そろそろ汗流そー?」
「シャワー? うん、行く‥‥って、レイチー。顔がニヤけてるよ‥‥?」
 二人は連れ立って去っていく。
 ‥‥きっとシャワー室では体を押し付け汗のぬるぬるを楽しんだり、砂で僅かにざらついた猫の舌のような感触を楽しんだりするのだろう。
(「その後は二人で温泉入ってー、それから一晩中‥‥ふふふ♪」)
 ――彼女らの本番は、ここから先のようだった。


「砂地での戦闘データとパイドロスの整備も終わったことでありますし、温泉にでも行くでありますか」
 と、アーシェリーは温泉へ向う。戦いの後の温泉は格別だろう‥‥ゆっくり浸かって、しっかり汗を流したい。
 細めな体にタオルを巻いて入ると、温泉は思いのほか広かった。
 そして先客の姿がある――白雪だ。
「‥‥ごめんね? ‥‥そんなに嫌いだとは思わなかったから」
(「ああ‥‥いいのよ。キメラがいたし、とりあえず八つ当たりしておこうかなってぐらいだから」)
 どうやら姉に謝っているようだ。
 アーシェリーは邪魔しないようにそっとお湯に足先をつけ、慣れてきたら全身浸かっていく。
「ふむ、なかなかいい湯でありますね」
 疲れが溶け出していく。アーシェリーの顔はほんのり赤く、相変わらず無表情ではあったがどこか楽しそうに見えた。
 白雪も彼女に気付き微笑むと、まったりとした時間を過ごす。

 男湯にも能力者の姿がある。
「あった‥‥露天風呂」
 克は一番景色の良い場所を探し、そこでじっくり温まる事にした。高い場所から見下ろす海も、また格別だ。
 暫くすると、「いらっしゃったんですね」とティルがやってくる。
「うぅ〜気持ちいいです‥‥景色も良いですね」
「‥‥風景を眺めながら癒されるのは‥心地良いね‥‥」
 ティルの言葉に、克は頷いた。
「今度はぜひ小隊の皆様と遊びに来たいです」
「それも‥いいね‥」


 ――こうして能力者達は、それぞれの休暇を楽しんだ。
 流石に再び砂風呂に行く者は居ない――と思いきや。
(「で‥‥また埋まる‥‥のね」)
「体に良いんだよ?」
 砂浜に浴衣で現れた白雪‥‥良いにも限度があるのだが。
(「‥‥私の心には悪いわよ‥‥暑い」)
 うんざりする姉にわるいなと思いつつ、まったり埋まり続ける白雪だった。