●リプレイ本文
●7人の料理人
「‥‥ん。キメラは。沢山。食べて来た。審査は。任せて」
最上 憐(
gb0002)は料理を作ろうかと思ったのだが、やはり食べるのが良いと審査員を買って出た。
審査員席について憐が待っていると、料理人が入場してくる。
「私の記憶が確かなら‥‥何だっけ? まぁいいや。炎の料理人、ザ・ドラゴンシェフ。ここに推参!」
中途半端な台詞を吐きながら竜の着ぐるみをきた白雪(
gb2228)は扉からドライアイス噴射を受けながら現れた。
着ぐるみの上からはエプロンとコック帽を被っていて、子供に好かれそうな出で立ちである。
「何故でしょうか、キメラ料理と聞くと血が騒ぐのです」
夏 炎西(
ga4178)は柳葉刀とアーミーナイフをこすり合わせながら登場し、笑みをこぼした。
はっきり言って怖いのだが突っ込むべき人間はいない。
「さぁ、皆さん。あの謎君とマグロ君を生け捕りにしちゃましょう!」
小笠原 恋(
gb4844)は無駄に気合をいれて謎くんと勝手に命名した沢山触手を生やした何かを指差した。
タコやイカのほうが外見からしてまともそうなのだが、関係ない。
「二人はプリコック! レイチェルと!」
「サキですよ!」
メイド服のレイチェル・レッドレイ(
gb2739)と佐倉・咲江(
gb1946)がポーズを決めた。
どちらもミニスカートで露出の多い深夜番組のような格好をしている。
料理をするような格好とはまったく持って見えなかった。
「あはは、あはははっ♪ メイドとして、やるしかないですね! 全力全壊(注:誤字非ず)で逝かせて頂きますですよ♪」
伊万里 冬無(
ga8209)もメイド服を着ているが、エプロンやカチューシャや下着にいたるまでオーダーメイドの戦闘用という拘りのコーディネートで登場する。
「あれ、こんな大会何時の間に参加したんだっけ? んー、よく分からないけど何だか楽しそうだし。折角だから楽しんで行こうっと!」
料理人として最後にでてきた蒼河 拓人(
gb2873)はどこか場違いな空気をかもしだしつつも、両手にはアルティメット包丁にアルティメットフライパンの殺[や]る気は十分だった。
『それでは調理スター‥‥あ、ダメ‥‥マイクとっちゃらめぇぇぇ』
しばらく説明をしていた司会者がタコキメラの足に襲撃されて、いやんな状態になる。
7人の個性豊かな料理人達は司会者の悲鳴を合図にコロシアムへと駆け出すのだった。
●放送事故ぼっぱつ
「アハハハハッ♪ 燃えて、来ましたです‥‥んふぅっ♪」
ガチムチなミノタウロスキメラの右腕が鋏状の武器である金蛟剪が色っぽく微笑む伊万里によって斬りおとされる。
『ぶもぁぁぁぁ! ふぉぉ、ぶひゅるるぅ!』
叫びを上げるビキニパンツのミノタウロスは鼻息を荒げながら伊万里を片手に持った斧で潰そうと攻めてきた。
「うふふ、良い味ですわ。新鮮な血の香り、ゾクゾクします♪」
ぺろりと刃についた血を舐めた伊万里は斧の一撃でメイド服がサックリ引き裂かれるのも気にせずに懐に入り込んで腹部に鋏を突き立てる。
「その生命。破壊[りょうり]してあげますですよ♪」
突き立てられた刃が開かれると肉が裂けて血が噴出し、内臓が転げ落ち‥‥。
≪大変、お見苦しいシーンがございました。しばらくお待ちください≫
画面には花畑が写り、綺麗な景色が流れるがBGMの合間にズシャ、グチャ、ブチャチャチャなどお食事中には聞くに堪えない音だけが響く。
「活きが良いのは良いコトです♪ はぁぁ、興奮しました」
戦闘が終わったところで再び画面が写りモザイクの塊を前にギリギリ放送できるくらいの半裸で血まみれな伊万里が笑顔でたっていた。
その顔は激しい食材との格闘に恍惚としたものとなっており、漏れる吐息には色気さえあった。
「はぁ〜スッキリです♪ さぁ、後はお料理です♪」
モザイクの塊となったカートを引いて伊万里はキッチンの方へと進む。
「がぅ!? 流石に数が多い‥‥あ、こら、変なところ入らない‥‥がぅん!?」
「サキ、今助けにいくからね」
「がぅん! れいちー、どこさわって‥‥くぅん」
一方、触手キメラを相手にしていたプリコックの二人だが触手に全身を絡めとられて、粘液まみれになっていた。
「‥‥ん。料理人が。触手の。餌食に。‥‥自分から。絡め取られに。行った様にも。見える」
審査員兼実況になっている憐が冷静な突っ込みをするように困っているというより二人は楽しんでいるようにも見える。
特に『履いてない』咲江にいたっては‥‥。
≪再び、お見苦しいシーンがございました。しばらくお待ちください≫
画面に花畑が再び映るがペチャペチャチュルチュルなど怪しい水音が響き余計にイヤンな空気をかもし出していた。
このときの二人は伊万里とは別の方向で子供はみちゃいけない映像そのものである。
服が脱げたりして、カメラマン(♂)からは「役得でした」との声がもらえたほどだ。
その後、二人は脱出したのだがその姿があまりにもあまりだったために番組はCMに移る。
「‥‥ん。調理が。始まった。何が。出来るか。楽しみ」
そんな酷い光景が流れる中でも憐はマイペースに料理の完成を楽しみにするのだった。
●コンビネーションアタック
CMがあけると、カメラは他の料理人を追いかけている。
タコキメラに向かっているのは白雪と恋、夏、そして拓人だ。
「援護します、気をつけて!」
得物を魔創の弓へと持ち替えた白雪が矢を放つ。
いやんな姿のままに振り回されている司会者をつかんでいた足に矢が刺さり緩んだ瞬間に夏がアーミーナイフで足を斬りおとした。
落ちてくる司会者を恋が助けるが、司会者の手をぎゅっとつかんで離さない。
「えーっと、何故握っているのでしょうか?」
「ほら、ここまできてしまいますと傍にいるほうが安全ですからね?」
柔らかな微笑みを浮かべている恋に司会者は流されてしまった。
アルティメットフライ返しを片手に恋はタコキメラをにらむ。
伸びてくる足を華麗なるフライ返し捌きで恋がいなしていると、コックコートを翻す拓人が戦場に舞い降りた。
くにゃくちゃっと曲がりながら跳ね上がった足を拓人の持つアルティメット包丁が捕らえて切り裂く。
「今日はタコキメラのカルパッチョだよ。もう少し貰いたいかなっ♪」
残った足に着地すると、隣の足をアルティメット泡だて器で刺し貫いた。
まな板やフライ返しを持ち替えては追撃を逃れ、拓人は新鮮な食材をしっかりと手に入れる。
「やりますね、拓人さんも‥‥さて、私達も次の獲物に向かいましょう」
夏が恋や白雪と顔を見合わせて確認をすると、柳葉刀をぐっと握り締めて跳躍した。
足を多く切られたタコキメラを後にし、人間の足が生えた不気味なまぐろくんを相手に3人は駆ける。
「大人しく、食 材 に な〜れ〜」
包丁を振りかざして嬉々としてまぐろくんに襲い掛かる白雪。
「何で私も一緒なのぉぉぉ〜」
そして、なぜか恋に引っ張られて助けられたはずの司会者も同行させられていた。
●調理タイム
「‥‥ん。調理が。始まった。何が。出来るか。楽しみ」
放送事故がありながらも、各々の料理人は食材を確保してキッチンで調理をはじめている。
料理が趣味である夏の手際はすばらしく、タコやイカキメラの足がじゅわっと油で揚げられると香ばしいかおりが漂ってきた。
上げている間にもまぐろくんからとったトロの叩き風カルパッチョの調理を続ける。
岩塩と黒胡椒をふり軽く炙り焼きにしたトロ身をスライス、とまろんの微塵切りを入れXO醤を効かせたビネガーソースをかけた。
元がキメラであることを忘れそうなほどに綺麗にしあげている。
「‥‥ん。おいしそうな。匂いがして来た。味見に。行きたい。気分」
調理の様子を眺める憐は思わずたれる涎を拭いて調理の様子を眺めていた。
「がぅ、苦労したけどなんとかなった‥‥。じゃあ調理開始‥‥」
妙に照れてもじもじしながら佐倉は触手を刺身のように細くきったり、とまとんを同じく薄く切る。
食材確保の最中はどうなることかと思ったが、調理はどうやらまともそうだ。
「ん、斬るのはこれくらいで‥‥そろそろお皿の用意するね‥‥」
何を思ったのか佐倉は服を脱いでマイクロビキニ姿になるとキャリーの上に寝そべる。
「じゃ、レイチー飾り付けはよろしく‥‥」
頬を朱に染めながら上目遣いで相棒のレイチェルに佐倉は身をゆだねた。
「先に茹でて冷水でしめなくてはだめでしょう? いけない子ね」
横たわる佐倉の体を触り、焦らす様にレイチェルは微笑む。
その指になぞられるだけで、佐倉の体が小刻みに震え、朱色を浮かべた。
「‥‥ん。何やら。凄い事に」
もだえる佐倉の上に刺身を乗っけるレイチェルを眺めても憐は普通のコメントをしていた。
「さすがにこの足はそのままには出来ないよね」
カラカラと台車を舞台裏に運んでからグシャッと切り落としてから拓人がキッチンへ戻ってくる。
作っているのは鯛キメラの生き造りだ。
まぐろくんの親戚なのか人間の足が生えていてグロテスクな姿だったためにそこは捌き、身を丁寧に刺身にする。
「‥‥ん。活きが。良いね。まだ。動いている」
パクパクと口を動かしている鯛キメラを眺めて、憐は涎を拭いた。
付け合せにはタコキメラの足によるカルパッチョが並び、鮮度の良い料理ができあがりそうである。
次にカメラが映したのは伊万里だ。
グロテスク過ぎて放送事故になったが、調理の光景は実に普通である。
ぐにぐにと力を込めてミンチになった肉をこねてハンバーグを作る姿は甲斐甲斐しいメイドそのものだ。
ただし、服が半裸で血まみれでなければではあるが‥‥。
「メイドとして全身全霊、丹精を込めて作ります♪」
ふふふと笑顔を浮かべるものの、口元に付いた血が可愛さよりも不気味さを演出していた。
「‥‥料理人が怖いけど。気にしない。重要なのは。味」
大量の肉をつかった大きなハンバーグステーキと付け合せに牛スープ、そしてサラダにライスとバランスよく用意する。
『料理の見た目』であればどこにも引けをとらない完成度だ。
「‥‥ん。一部。何か。錬金術みたいに。なってるけど。気にしない」
憐がコメントをしながら見つめる先では、鍋にとにかく食材を突っ込む恋がいる。
謎の触手とまぐろくんを鍋に入れて出汁をとり、まぐろが触手にからまれて足掻いたらイアリスでとどめを刺した。
食材確保の最中はそうでもなかったが、調理中の恋の姿は放送ギリギリである。
「もう、出汁をとるのだから静かにしてください」
優しくいうだけで恐ろしさが際立った。
鍋の大きさは100人前くらい作れそうな大きなものを選んでおり、巨大タコをさらに無造作に投げ込む。
ぐつぐつと茹りだしたところで、とまとんの微塵切りを突っ込み、赤いスープを作り出した。
ぷかっととまとんの白い目玉が浮いてきたような気もするが恋はスルー。
「イカ素麺もいれましょう。イカを細く切って、イカ墨もいれて」
ボチャボチャと投下される食材と煮込まれる鍋は錬金術というよりは黒魔術を彷彿させた。
「さて、仕上げてに‥‥」
ドキューン!
ダダダッ!
隊長ー!!
みゅいんみゅいんみゅいん
俺、この戦争が終わったら結婚するんだ…
世界征服ビーーーム!!
ドカーン!
メディーーックッ!!
パオ〜ン
「はい、『トマトソース風タコ入りイカスミそーめんパスタ』の完成で〜す♪」
最後に起きた一連のことは何だったのかと突っ込みたかったが、誰も突っ込めなかった。
●実食開始
調理が全員終り、最初に料理を持ってきたのは白雪だった。
「河豚キメラを使い、生命と生命の戦いの一品目がこれです!」
かぱっと銀色の蓋を開けた先に出てきたのは河豚の刺身が入ったカレーでる。
「ん‥‥。カレーは実にいい。ポイント高い」
大のカレー好きと自他共に認められている憐はサムズアップをするとぺろりと平らげた。
「次は至高の食材キメラ『マチュタケー』を使った土瓶蒸しですよ。香りが高いのですばらしいできです」
土瓶蒸しの蓋をあけると出てきたのはカレーである。
「ん‥‥。土瓶蒸しは? でも、カレーならだいじょうぶ」
ぺろりと食べる憐だったが、味も先ほどと変わらないような気がした。
「最後に出すのは、全ての料理の味を超える至高のスープを今ここに!」
もったいつけながら銀色の蓋の中から姿を見せたのはスープカレーである。
「あれ? ちゃんと作ったはずなんですけどね‥‥」
「ん‥‥。カレー天国、まんせー」
ちゅるちゅると飲むようにスープカレーを平らげた憐は無表情ながらに満足げだ。
その後は佐倉の女体盛り(レイチェルいわく「反応も楽しんでくださいね♪」)や、よく分からない恋のパスタを食べていく。
「‥‥ん。見た目に。反して。凄く。繊細な。味。素材を。100%活かしている。感じ」
どちらに対してなのか良く分からないコメントを憐は残して次の料理へ。
拓人のカルパッチョと夏のアンカケが先に並んだ。
「ん‥‥どちらも。美味しい。調理。仕方が。いい」
もぐもぐと手につけてあっさりと平らげ、次にでてきた生き造りもサックリと食べ終える。
小さい体のどこに入るかは正直言って謎だ。
「さぁ、私の料理を召上がれ。『生』魂込めて作りましたです」
いろいろなニュアンスをこめた言い方をしながら伊万里はハンバーグステーキセットをだす。
「‥‥ん。かなり。インパクトある。味。普通の人なら。一口で。倒せるかも」
一口食べた憐はその味を高評価した。
全ての料理がで終り、審査員の憐に判定が任される。
「‥‥ん。キメラは。沢山。食べて来た。今回は。皆。美味しい。一番を。発表する」
ドラムロールがなり、スタジオが暗転した。
ライトがぐるぐる回るなから、憐の言葉に誰もが集中する。
「ん‥‥。一番は。白雪の。カレー。カレーは。正義。ぶい」
あまりにも普通の結果に誰もがずっこけた。
そんな夢を8人の能力者が見たという、そんなお話。
<代筆:橘真斗>