タイトル:山へ降りるは機械の巨人マスター:MOB

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/02 04:00

●オープニング本文


 数や戦闘力に劣る軍勢が、大軍に打ち勝つ。ヒロイックな話であるが、そういった事はけして物語の中だけの出来事ではなく、地球上の歴史の中でも散見される。だが、多くの者が知っての通り、そういった事は割合としては当然少なく、数や戦闘力に劣る場合は地形を利用して、時には来るはずの無い援軍を待って、ただひたすらに耐え凌ぐ、華やかさなど何処にも無い戦場が殆どだ。
 南米のアンデス山脈中に存在する小基地。ここもかつては人の住む集落であったが、今はそれを利用してUPCの拠点となっていた。慢性的な物資不足は南米のどこの基地でも悩みの種、その他にも基地毎に抱える問題は色々とあるが、前述の基地は前日新たに問題を抱えた。
 基地の前方にある窄まった地形を利用して張られた防衛線上の拠点、そこへ以前からバグアが散発的に攻撃を仕掛けてきていたのだが、前日のバグアの襲撃は周辺の戦力を集めたものであり、拠点の一つが陥落させられた。この基地が防衛を受け持っている拠点は他に一つ。
 既に他の基地へ報告を行っているので、他の基地は同様の襲撃を防ぐために一時的に拠点の戦力を増加させているだろうが、この基地でも同様に残った拠点の防衛に努める必要があった。というのも、襲撃を行ったバグアの戦力は一部を残して全て撤退し、残された戦力は地上用のワームが4機に大型のビートルタイプのキメラ、リーダー機と思われるゴーレムのみ。今回と同様の襲撃が、他の拠点に来る事は十分考えられる。
「次の襲撃も、拠点から報告を受けた敵戦力と同様であれば、この基地の戦力を割いて残りの拠点は防衛出来る。しかし、相手が奪い取った拠点へ殆ど戦力を残していないのだ。取り返してしまいたいものだな」
「周辺の基地へ報告を行った際、指示を受けていたタートルワームについて確認致しましたが、やはり少し前から敵戦力から姿を消しているとのことです」
 奪われた拠点は、陸路から進むには非常に地形が悪く、攻めるならば空から。一般的には‥‥いやバグア襲来までの常識では、それでも地上から進んだ方が被害が少なくなるものだが、ヘルメットワームにはそういった事は関係が無い。
「今回の襲撃にも加わっていなかった、どう見る?」
「奪われた拠点にはこちらも対空兵器を多数配備していました。おそらく、相手も同じく対空攻撃能力のあるタートルワームを配備するつもりでしょう。今は、タートルワームの足が遅い為に配備が遅れているものと思われます」
「バグアも手際が悪いな。いや、バグアの不自然な手際の悪さは今に始まった事ではないか」

 場所は移り、ラストホープのUPC本部。
 そのスクリーンの一つに、先頭に【緊急】と赤く表示された依頼が増えた‥‥。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

■その巨人と巨獣は翼を持つ
 アンデス山脈へと飛ぶKVが8機。青と白のツートンカラーに色地が逆になったタイガーストライプ、機体を縁取る陽光、そして朱漆の具足を纏ったかのような機体。この作戦に参加した能力者達は機体に思い入れのある者が居るのか、特徴的な機体色を含んだ編隊となっていた。
 基本的な機体チェックを済ませて早々に基地を飛び立つ事になった彼等だが、不思議なほどに彼等は落ち着いていた。
(「緊急、ね。余裕なく駆り出されるのは別段珍しいことでもないか‥」)
(「軍ってーのは、相変わらず人使いが荒いねぇ」)
 だが、それも当然のことかもしれない。ミア・エルミナール(ga0741)や鹿島 綾(gb4549)が思っているように、傭兵にとっては緊急だ何だといっては戦場に駆り出される事は、こうしてバグアと世界中で戦っている今では、日常茶飯事といっても差し支えない。
「空中変形の上での強行着陸による強襲作戦か‥‥随分と無茶な事を考えてくれたモノだな」
 通常なら榊兵衛(ga0388)の懸念はもっともな事だ。だが、この拠点に待ち受けている敵戦力には、有効な対空火器を所持した機体は存在しない。状況が変われば普段有効ではない手段も有効になる。

「そろそろ目標地点ですね。僕達はここで少し後方へと下がりますので、前衛の方、お願いします」
 拠点まであと少しとなって時点で、能力者達は二つに別れる。先行して拠点前に降り立つ部隊と、その前衛部隊が橋頭堡を確保した後に降り立つ後衛部隊。シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)はその内の後衛に属していた。
「我等と、全ての生命に幸あれ‥‥」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)が祈る。前衛として先行した部隊は拠点へと到着し、降下を開始。拠点奪回の為の戦闘は開始されたのだ。


■ひしめく甲虫へ煉獄を
「拠点内中央にゴーレム、ワームとキメラはそこからこちら側の方向に固まっているわ」
「あれが確認された敵‥‥。難しくはないと思いますが、油断は禁物ですね」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)からの通信が、前衛部隊の中でも先に降下を完了した榊兵衛とミアに届く。拠点内部の施設‥‥といっても先の戦闘で殆どが崩壊してしまっているが、それらが視界を遮ってしまっていて、拠点前に降りた二人の機体からでは拠点内部の敵戦力の詳細な位置が分からなかった。
 先の通信を行ってからすぐにラウラと叢雲(ga2494)は変形・降下を完了、叢雲は後に続く者の為に煙幕弾を放つ。
「ランディングパスを送るわ。後は表示に従って降りて」
 先に2機に降りられた事に気づいたのか、今張られている煙幕のせいで仕掛けるタイミングを失ったのか、どちらにせよ敵が攻撃を行って来る様子は無い。だが、相手も全く動かないほど馬鹿ではなく、煙が晴れた拠点入り口から内部を見やる能力者達の目に映ったのは、狭い拠点内にひしめくラージビートルだった。
「建造物を壊さないよう気を配りたいところだったのですが‥‥」
 その必要が殆ど無いことは先に述べた通り、基地の施設は殆どが崩壊している。だが、地理的な理由からこの拠点は奪還する価値がある。
「これなら都合が良い、グレネードを使う。許可を」
 元々も狭窄した地形を利用して作られた拠点。その内部は思っていたより狭く、こうしてキメラに拠点内に固まられると、能力者達が想定したようにゴーレムを優先して撃破するのはほぼ不可能だ。ならば、ということでドッグがグレネードの使用を提案。先手の利を失ったかに見えた拠点奪回作戦は、2発のグレネードによって展開された煉獄によって、再び能力者達がイニシアチブを握ることから開始された。


■峡谷の拠点
 煉獄を武者が往く。この程度の小バエ相手に得物は使うまでもないのか、ガドリング砲とレーザー砲にてキメラを薙ぎ払って、往く。共に歩む巨獣に襲い掛かったラージビートルは派手に喰い散らかされていた。味方がそうして一触に払われる中で側面へと回り込んだワームが飛び掛かるが、機体に触れる遥か手前でロンゴミニアトに貫かれ、遠方より飛来する銃弾に撃ち抜かれてその活動を止める。
「狙撃手がいるのに死角から‥‥なんて、余計なお世話だったかな?」
 PRMシステムによって射撃精度が上がっている事を肌で感じなら、鷹代 朋(ga1602)は榊兵衛に声をかける。茶から金へと変わった瞳は既に次に狙うべき相手を捉え、ライフルのリロードが終わるのを静かに待っていた。そして、PRMシステムの効果が切れない内に再度、銃弾を放つ。
「本来は格闘戦がメインだけど‥‥今日は狙い撃たせてもらうっ!」
 一部のキメラ以外ではKVの相手は務まらない。ラージビートルとの戦闘は一方的なものだった。また一匹、ミアの駆る阿修羅に噛み砕かれて絶える。彼女の機体『王虎』は、榊兵衛の『忠勝』に比べて防御面に不安があったが、やや後方から後方から援護を行うドッグがその不安要素を掻き消す。
「鷹代さん、2匹左へ回りました。こちらからでは拠点施設の壁で射線が通りません、頼みます」
「了解。PRM起動‥‥オファニム、目標を狙い撃つ!」
 彼の援護は単純にヘビーガトリング砲によるものだけではなく、前衛周囲に居る敵の動きを良く見定め、僚機である朋のオファニムとの連携を密に取り、優先的に排除しなければならない敵を確実に排除していった。

「そちらに回り込んで挟み撃ちに!」
 その叢雲の言葉を受け、SESエンハンサーを起動したラウラはワームの右側へと回り込み、その勢いのまま片足を軸に回転してビームコーティングアクスを振り切る。水平に大きく切り裂かれ、崩れた体制を立て直そうとするワームだったが、それは叶わずに、頭上よりメトロニウム製の杭の落雷を受けて沈黙した。
「もう! 群れると気持ち悪いから虫って嫌なのよ!」
 沈黙したワームから注意を離し、周囲の確認を行うラウラの目に移るのは、未だに結構な数を維持しているラージビートルの群れ。
(「こういう事なら、私もグレネード等を用意しておくべきだったか‥‥」)
 先程から前衛の機体に対して積極的に左右へ回り込もうとしてくるキメラを、レーザーとスナイパーライフルで的確に排除しながら思考を巡らせる。拠点の保護を第一に考えていたシンの機体には、周囲へ影響が考えられる広範囲攻撃用の武器は積まれていなかったのだ。
 しかし、ラージビートルが数を頼りに襲いかかろうとするも、綾の機体に積まれた2門のアテナイによる圧倒的な弾幕によって、容易には一斉攻撃に移れないでいた。そうしたラージビートルの動きを犠牲に、なんとかワームがその嵐を潜りぬけたが、叢雲のシュテルンに掴まれ、瓦解した施設の壁に叩きつけらて、虎砲を撃ち込まれる。
「砕け散りなさい」
 既に消耗していたワームにそれを耐える力はなく、これで機能を停止したワームは3体。

 しかし、一方的に見える戦いも、狙い通りに戦えていないという意味では能力者達は苦戦していた。先程の叢雲の行動も、機杭のリロードが間に合わなかったための行動だったのだ。狭窄した地形の拠点、KVの相手にはならないが20体近い数のラージビートル。能力者達は突出しないことを第一に考えていたが、ある意味それが裏目に出ていた。だが‥‥
「見えた。往くぞ忠勝」
 その武者の足元には、巨獣に喰われた甲虫の骸が転がっていた。
「レイブン。リロードはこれが最後で十分だな」
 その骸の上に薬莢が散らばる。その傍らでは、斧から剣へと武器を持ち替えた者が居る。最後のワームが綾のスラスターライフルに撃ち抜かれた時には、敵後方にて全体の指揮を行っていたゴーレムまでの道が切り開かれていた。
 その道に僅かに残ったキメラをミアやドッグのガトリングが撃ち払う。ゴーレムは最後の抵抗を試みるも、銃を構えた手は光の刃に落とされて、その装甲は杭に穿たれる。喉元に槍が突き刺さるとその首は、穂先に止まった蜻蛉とは違い、中空へと吹き飛ばされた。

「これで一匹残らず殲滅ってとこだな!」
 最後に残ったラージビートルを、綾がレーザー砲で焼き払う。
「ドッグ君、周囲に敵影や反応は?」
「ありません」
「そう、ですか‥‥。皆さん、タートルワームを迎え撃つ準備をしつつ、少し休みましょう」
 自機のレーダーとドッグの報告を受け、シンはその身に浮かんでいた幾何学模様を消す。他の能力者達も一旦覚醒を解き、敵増援部隊を行う為、基地で受け取ったデータを元に拠点周辺の地形の確認に移る。能力者達のKVが負った損傷はそれほど深くない。ゴーレムからの射撃を受けた箇所は流石に無視できないが、この程度であればタートルワームを撃退ではなく、ここで撃破してしまうことも可能だ。


■鈍足の亀、故に逃げる事適わず
 山道を行くタートルワームの前方で、機影が2つ空へと舞い上がる。タートルワームの砲撃がその機影へ放たれるが、これまでのKV相手なら容易に撃ち落していたであろうその砲弾は、しかし標的を捉えない。そのまま、朋と叢雲のシュテルンはタートルワームの上空をフライパス。彼等を追って後方へと向きを変えたタートルワームの背後には、6機のKVがブーストを使用して一気に距離を詰めていた。
「リミッター解除。なーんてねッ」
 ビームを帯びた斧に頭部を潰されたタートルワームにストライクシールドを構えたS−01Hが吶喊し、弾き飛んだ所へヘビーガトリング砲が撃ち込まれる。向き直るも間に合わず、脇に突き刺さった槍の穂先が爆ぜる。角を振りかざした突進を受けると、体勢を整える事などとても出来ずに、その尾が突き刺さった。
 早々に撤退を開始したタートルワーム達の前方には、シュテルンが既に降り立っていた。
「さてと‥‥本領発揮といきますかっ!」
 PRMシステムを起動して砲弾を回避すると、ソニックブレードで敵を斬って捨てる朋。その脇を抜けようとした相手には、叢雲が機杭を撃ち込んだ。最後に残った敵へとシンの銃弾と綾のレーザーが届くと、逃げる足を止めたタートルワームはその場に崩れ落ちた。

 数時間後、再編成を終えた部隊が拠点へと到着すると、能力者達は入れ替わりに拠点を後にして基地へと帰還。増援のタートルワーム部隊の撃破を確認した基地の司令は、能力者達への報酬の追加を指示したのだった。