●リプレイ本文
「よし、これで全員揃ったな‥‥」
全員が集合した時、須佐 武流(
ga1461)が言った。
「今日はよろしくお願いしますね♪」
にこっと笑って青髪の少女が言った。ハルトマン(
ga6603)である。とかくキメラと戦いたく、自分自身を認めて行く為に参加したらしい。
「剣士のサンディです。よろしく」
コルデリアに向かってサンディ(
gb4343)が言った。
「カンパネラのコルデリアよ。こちらこそよろしくねっ」
傭兵達は各自挨拶をかわす。須佐はサンディと話している少女へと目をやって問いかけた。
「お前さんが、案内人のコルデリアか?」
「ん? ええ、そうよ! あたしがコルデリア=ドラグーンッ! よろしくねッ!」
何故か胸を張ってコルデリアは答えた。
「そうか。ま、実力あれば関係ないが‥‥これだけ一言‥‥よろしくな、ちびっ子さん」
「だっ、誰がちびっ子ですってぇ?!」
むきーっと眉を逆立たせてコリデリア。
「はは、お互い、怪我しないようにがんばろうな?」
「ってちょっと、待ちなさい、ちびっ子ってのを訂正しなさいよっ!」
などと言いつつ傭兵達は大尉の元へゆき、言葉を受け、指令を受け取る。
「廃村の寺に立て篭もるキメラですか、変に頭の回るキメラですね」
資料を受け取ったコルデリアからの説明を受けて二条 更紗(
gb1862)が言った。長い黒髪と碧眼が美しい、スレンダーな体躯の少女である。
「四天王か‥‥そんなゴツいキメラが蔓延ってちゃ、そりゃあ迷惑なこったな」
杠葉 凛生(
gb6638)がリボルバーを点検しつつ低く深みのあるハスキーボイスで呟いた。弾倉を回転させ、止める。
「知恵を使って此方の裏を取るとかしてくるかなぁ、寺に必ず居るという固定観念は拙いかな?」
口元に指をやって小首を傾げつつ二条。
「んー、まぁ、そこにいるのが多いってだけで、ずっといるって訳じゃないでしょうね、やっぱ」
イキモノだしー、とコルデリア。
「でもキメラだし。そこまで頭良い訳でもないんじゃない? 誘いこんで挟撃、くらいならやりそうだけどさ」
「そうか。しかし、まぁある程度は慎重に行っておいても損はないだろう」
白鐘剣一郎(
ga0184)が言った。
「なかなか強いと聞いたが‥‥どれほどなのかな?」
ま、強ければ、それでいいんだけどな、と言いつつ須佐。
「さて‥‥曲がりなりにも四天王を模した人型だ。強化人間並みと見ても良いかもしれない」
と白鐘。
「そうですね」
頷いてミンティア・タブレット(
ga6672)。
「ただこちらにも強力な仲間達がいます。コルデリアさんの言うとおりとっとと片付けて村を開放してあげましょう」
口調は淡々としているが言葉はなかなか過激である。
「うむ‥人は‥食っても‥不味い‥‥だから人型‥キメラも‥不味い‥‥さっさと‥倒して‥ごはん‥食べよう‥‥」
キメラを主に食料としてみなしている発言をするのは九頭龍・聖華(
gb4305)だ。過激とかそういう問題ではない。
「まぁ置き土産、特にナマモノは‥‥速やかに片付けるに限ります」
閃光手榴弾に細工をしながらヨネモトタケシ(
gb0843)が言った。
「しかし、中国で甲冑で四天王ならその装備は少し違うだろ? とツッコミを入れたくなるような連中だな〜」
九条・縁(
ga8248)がややのほほんとした口調で言った。まあ四天王じゃない別名称の四人組なら該当するのは有るが、と男は言う。
「‥そう‥なの?」
「うむ、中国でこの武装の四人組といえば古来よりの伝承に語られる――」
男はなにやら蘊蓄をたれはじめた。九条縁、イマイチ活かしきれてない感があるが知識は割と豊富らしい。
「コルデリア、寺院の地図はあるかい?」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が問いかける。
「んー、これかしら。でも場所が場所だし、あんまり精度は良くないみたい」
資料の中から紙切れを取り出して「はい」と男に渡しつつコルデリア。
「ふむ」
ホアキンは地図に目を落とす。描かれているのは村の全体図だった。UPC軍も内部構造までは掴んでいないようだった。
傭兵達は手順を打ち合わせつつ進み、やがて村へと辿り着いた。
車両から降りると、未だ古めかしさを残す佇まいの廃村が傭兵達を出迎えた。朽ちかけた木造の家屋が風に吹かれて音を立てている。車輪が外れて崩れ、錆びたリアカーが転がっていた。一行は村内を抜け、外れにある寺院へと向かう。
ある程度接近すると、天原大地(
gb5927)を始め、傭兵達は望遠鏡を取り出し、遠間から様子を見やる。朽ちかけているが、なかなか大きな寺院だ。以前はそれなりに立派な物だったのだろう。
寺院は塀に囲まれている。外からでは境内の中は、門から覗ける部分しか窺えない。一周してみると塀には所々に穴があいていて、そこからある程度は窺えたが、全てを把握するには至らなかった。
「閃光手榴弾に供えて耳栓はしておこう」
白鐘は言って耳に栓を入れた。
「行きましょうか」
SMGの点検を終えたハルトマンはそれを手に言う。傭兵達は武器を抜き放ち警戒しつつなるべく音を立てないようにして接近した。杠葉は探査の眼を発動させている。一行は門を潜り境内へと侵入する。寺院は静寂に包まれていた。
「‥‥中か?」
傭兵達は武器を構えつつ、低い階段を上り、本堂の内開きの扉を押し開く。
堂の中には甲冑姿の四匹のキメラがそれぞれ武器を構え、ポーズを取って立っていた。まるで置物のようである。予想と違い、あまり動き回らないタイプらしい。彫像でもモデルにしてたのだろうか。
キメラ達の八つの目が一斉にぎょろりと動いて傭兵達を見る。同時、剣と盾を構えるキメラが剣を一閃させた。音速の衝撃波が迫り来る。
「退くぞ」
杠葉が言った。数の有利を活かすのには狭い屋内は適していない。白鐘、ホアキン、須佐、ヨネモトの四人は飛び退いている。音速の刃が走り抜け、閉まりかけた扉を木っ端に破砕して抜けて行った。
傭兵達は境内へと後退し、それを追って四体のキメラが踊り出て来る。ヨネモトは退きながら閃光手榴弾を取り出し放り置いた。境内に傭兵達が展開し、杠葉は練力を全開にし先手必勝と影撃ちを発動させ閃光銃をキメラの進路先の大地を狙って射撃、閃光が下方から炸裂した。キメラ達の足が止まり、白鐘、須佐、ホアキン、ハルトマン、ミンティア、九条、ヨネモト、二条、九頭龍、天原の眼が眩んだ。二秒から三秒の間、次いでキメラの眼前で閃光手榴弾が炸裂する。轟音と閃光が吹き荒れた。キメラ達が閃光と爆音にスタンし、須佐、ホアキン、ハルトマン、ミンティア、九条、二条、九頭龍、サンディ、天原、杠葉、が爆音の影響を受けた。距離があるのでキメラ達程ではない。
杠葉は練力を全開にしたまま貫通弾を込めラグエルで発砲。爪キメラへと向け、銃弾を叩き込む。貫通弾が甲冑の継ぎ目をぶち抜いて中を穿った。
サンディは脚部を光輝かせながら盾を構えて突っ込み、爪キメラへとチャージする。赤壁が展開し、キメラが吹き飛んだ。ハミングバードを手放しつつ踏み込み、抜刀・瞬を用いてラジエルで斬りつける。紅蓮の光を発する剣が爪キメラの甲冑を切り裂いた。
視界が徐々に回復してゆく。
「お前の相手は私達だ! 他の援護にはいかせないぞ」
サンディはラジエルで剣閃を巻き起こす。爪キメラの装甲が削られ吹き飛んでゆく。キメラは身を削られつつも爪をふりかざして反撃。サンディはラジエルを合わせて受け流してかわす。
「うちの敵‥‥こいつはうちの敵なの‥‥」
猫が威嚇するが如き闘争心をにじませハルトマンはSMGを構える。目が霞み、耳鳴りがしているが歯を食いしばりつつ移動し発砲。側面から銃弾の嵐を爪キメラへと叩き込む。サンディと爪キメラが飛び退き、銃弾が宙を抜けてゆく。杠葉はシエルクラインを猛射して弾幕を叩きこんだ。爪キメラの甲冑から火花が散る。
ミシティアは槍キメラへと練成弱体を発動させ、エネルギーガンを二連射する。槍キメラは槍を一閃させて一発の閃光を切り払い、一発を身に受けた。
「さっさと終わらせるか‥‥」
九頭龍は練力を解放しその身を淡く輝かせると瞬間移動するが如き速度で槍キメラの懐へと飛びこまんと突っ込む。槍キメラは振り向きざまに槍を突き出した。カウンター。九頭竜は咄嗟に身を捻りつつバクラーをかざす。盾と穂先が激突し、強烈な衝撃が少女を襲う。独楽のように回転しながら少女の身が右方の宙へと吹っ飛んだ。
(「‥‥っ! 意外に当てて、来るのぉ‥‥!」)
宙で身を捌いて足から着地する。
須佐は爪キメラへと駆けると肉薄し、頭部を狙って回し蹴りを放つ。爪キメラは右腕をあげてガードする。脚爪と甲冑とが激突して火花が散った。反動に切り返して下段へと蹴りを放つ。靴の爪がキメラの脚部へと炸裂する。
「コルデリア、同時攻撃だ。行けるな」
「あいよっ!」
白鐘剣一郎が言った。剣と盾を構え剣キメラへと突っ込む。耳栓で声がよく聞こえなかったが、ついてくる気配を感じるに恐らく了解だろう。
迎撃に繰り出される音速波をスライドしながら回避。紅蓮の輝きと共に剣を上段に振り上げ、落雷の如くに打ち降ろす。
「天都神影流・降雷閃っ」
剣キメラが咄嗟に掲げた盾と月詠の刃が激突し轟音と共に激しい火花を散らす。猛烈な破壊力に剣キメラがたたらを踏むように一歩後退する。キメラの右手側へと低い姿勢で踏み込んだAU−KVが身を捻りつつ槍槌を構えている。スパークを発生させながら振り抜く。キメラが剣でブロックする。インパクトの瞬間に猛烈な衝撃が発生し剣キメラが吹っ飛んでゆく。
吹っ飛んでいるキメラへと向かってホアキンが一刹那に九つの剣閃を巻き起こした。間合いの外、しかし次の瞬間、空間が断裂し、風の嵐が巻き起こった。ソニックブームだ。音速の空刃が嵐となって剣キメラへと襲いかかる。その身に次々に直撃し、装甲を削り飛ばしていった。
「さあ! 死んで俺の経験値になれぇぇぇぇぇ!!!」
お馴染みの台詞と共に全身鎧に身を包んだ男がクロムブレイドを構え槍キメラへと突進する。
槍キメラは剣の間合いに入るより前に突いた。九条は練力を解き放ち、両断剣とスマッシュで叩きつけるように槍の柄を狙い薙ぎ払う。払うというよりも、そのまま切り落とさんとする勢いだ。
槍の柄と剣の刃が激突し、槍が回転するように横に流れる。同時にキメラは勢いのままに槍を回転させ、踏み込んで石突を突き出してきた。九条の胸部に切っ先が叩き込まれ強烈な衝撃が身を貫いてゆく。男は一歩後退しつつも左手に持つエネルギーガンを構え連射した。閃光が槍キメラの重甲冑に激突し装甲を削り飛ばす。その隙に態勢を立て直した九頭龍が横手から肉薄し斬りかかった。蛍火が甲冑を叩き火花が散る。
ヨネモトと天原は練力を全開にすると斧キメラ目がけてソニックブームを連射していた。音速波を追いかけるように突っ込む。斧キメラはソニックブームを大斧を掲げてガードする。二人の男が突っ込む。斧キメラは薙ぎ払うように大斧を繰り出した。ヨネモトは左の手甲をかざして受け止める。猛烈な衝撃が男の身を貫いてゆく。ヨネモトは歯を喰いしばって耐えると、そのままさらに前進し肩口からぶちかましをかけた。激突し、赤壁が展開し、キメラが一歩よろめいて後退する。そこへさらに天原が踏み込んで肩をぶちあてて押しやる。
「吹き飛べ」
AU−KVに身を包む二条は、竜の翼でチャージすると全身からスパークを発生させて槍を繰り出した。槍撃を受けて斧キメラがついにふっ飛ばされてゆく。本堂へと続く階段にその身が激突した。
●
コルデリアは槍槌を地に突き刺すとブラッディローズを背から引き抜き吹っ飛んだ剣キメラへと構える。発砲。散弾の雨が飛んだ。剣キメラは盾を翳して銃弾を受け止め、剣を一閃させて衝撃波を打ち放つ。AU−KVに音速波が炸裂した。
両サイドよりホアキン・デ・ラ・ロサと白鐘剣一郎がキメラへと迫る。
「村を荒らすな」
ホアキンが言った。両刃の直刀を構え突きを放つ。高速の三段突き。ここは人間の生活圏、人の形を模していようとも、キメラには渡さない。
強烈な突きに対しキメラは盾をかざして受け止めんとする。盾の表面に激突し火花が散った。突き抜ける衝撃がキメラに襲いかかる。
白鐘が掲げる太刀に爆熱の耀きが巻き起こる。裂帛の気合と共に地を破裂させる勢いで踏み込み、袈裟に一閃。キメラは咄嗟に剣をかざして受けんとする。紅の閃光が走り抜けた。
「天都神影流『奥義』、白怒火」
キメラの右腕が切断されて宙を舞い、さらにその胸部から鮮血が吹き上がる。
「極楽往生しろ」
ホアキンは両刃の直刀を寝かせると紅蓮の色に輝かせた。平突き一閃。キメラは咄嗟に首を横に振る。捕えた。首のど真ん中をイアリスの切っ先が貫通する。ホアキンはそのまま横に引き斬る。半ばから首が断裂し、勢い良く鮮血が吹き出した。
白鐘が太刀を振り上げて振り降ろし、ホアキンが剣で薙ぎ払い、剣キメラは解体されて倒れた。
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爪キメラと交戦する須佐はフェイントを交えつつ蹴りの嵐で猛襲をかける。キメラは上体を逸らし、ステップして蹴りをかわすが、その全てはかわしきれずに頭部に、脚に直撃を受けて行く。キメラはステップインして間合いを詰めると須佐の喉元を狙って爪を繰り出す。須佐は腕で払ってベクトルをそらしてかわすと、一歩踏み込んで体を当てた。赤壁が展開し衝撃にキメラが後退する。サンディは機を逃さず、天剣を振り上げると剣閃を巻き起こしてキメラの装甲を削り飛ばしてゆく。
ハルトマン、スコールを構える。杠葉、シエルクラインで照準する。前衛とキメラの距離が近い。遠間から射撃で狙うのは少しきついか。味方に当たる。
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九条は真っ向から槍の柄を狙って斬りかかり、エネルギーガンで本体を狙って猛射する。槍キメラは持ち手を滑らせて中頃を持って剣をかわし、閃光は甲冑に当てるに任せ、穂先と石突を用いて左右から連撃を仕掛ける。閃光が爆裂してキメラの甲冑を抉り、槍の連撃が男の鎧を強打して痛烈な打撃を与えた。
九条が正面で踏ん張っている隙をついて九頭龍が蛍火で斬りかかる。刃が甲冑に激突して火花が散る。弱体が入っている筈だが、それでも硬い。
ミンティアは九頭龍に一重、九条へ二重に練成治療を飛ばした。女と男の身から傷みが引いてゆく。
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二条は全身からスパークを発生せると、吹っ飛んだ斧キメラへと向かい低く弾丸の如くに駆け突っ込んだ。
「刺し穿ち貫け!」
裂帛の気合と共に竜の角の威力を乗せて槍の穂先を伸ばす。斧キメラは斧刃を横に払って槍を横に弾き飛ばす。二条の身が流れる所へ、斧から手を離し、その手甲で顔面を狙い薙ぎ払うように殴りつけた。二条は素早く盾を上げて受け止める。轟音が鳴り響いた。
「我流‥‥剛双刃!」
ヨネモトは間合いを詰めると練力を全開にして左右の天魔で十文字に斬りつけた。キメラの胴に刃が激突し火花が散る。さらに天原が突っ込んで蛍火で袈裟に斬った。猛攻を受けつつもキメラは甲冑に当てるに任せ、長柄斧を振りかぶって竜巻の如くに薙ぎ払う。ヨネモトは前に出ると手甲で受け止め、天魔で突く。
「中々硬いですねぇ‥‥羨ましい甲冑だ!」
轟音と共に火花が散った。
●
(「この爪キメラ‥‥強い脚力から生み出されるスピードが持ち味か‥‥」)
須佐は爪キメラと交戦しつつ胸中で呟く。
(「だが、接近されて組み合いになればその速度も爪も、どうにも出来まい?」)
男は爪キメラからの爪撃を低く踏み込んでかいくぐると、タックルをかけるようにして組みついた。よろめくキメラの腕をとる。男とキメラが激しく揉み合いを始めた。
サンディは剣を手に接近し、ハルトマンと杠葉も間合いを詰める。
須佐は押しながら足を払った。キメラに効くかどうか解らないが、関節技を狙う。爪キメラがバランスを崩し転倒する。須佐はそのまま上になり抑え込まんとする。近寄ったサンディはしゃがみこむと、狙いを澄まし、須佐と激しく揉み合っているキメラに対し、横から剣を差し込んで首を切り落とした。
●
槍が蛇のようにうなりながら左右から襲いかかって来る。九条の頭部の側面を石突が打ち抜いた。轟音と共に兜が変形し陥没する。衝撃に視界が揺らいだ。九頭龍は練力を全開にすると刹那を発動させ渾身の斬撃を打ち放つ。装甲の薄い部分に打撃が炸裂し槍キメラの身が揺らいだ。キメラは身を切り返すと、九頭龍へと向かって槍で薙ぎ払う。少女は後方に飛び退いて回避せんとする。槍が速い。少女の首元がパッと裂けて血飛沫が噴出した。キメラが追撃に向かわんとし、九条がエネルギーガンを猛射しクロムブレイドで斬りかかる。キメラは光線を受けつつも槍を回転させて剣撃をかわし、カウンターの一撃を入れる。穂先が男の脇腹に叩き込まれ、引き斬られる。血飛沫が吹き上がった。
ミンティアは九頭龍と九条へと練成治療を継続して発動させている。少女と男の身から血が止まり、九頭龍は蛍火を、九条はクロムブレイドとエネルギーガンを構えた。
キメラの甲冑にはあちこちに穴があき、血も多く流れている。削り合いだ。
キメラが咆哮をあげ、鎧の男と太刀と盾を構えた女が突っ込んだ。
●
ヨネモトが右の天魔を捨てた。
「我流‥‥剛速刃!」
左腰に隠し持つ金属の筒を引き抜くと居合いの要領で斬りつける。蒼い光の刃が出現し、斧キメラの胴を逆袈裟に斬り抜いた。キメラが咆哮をあげ一歩後退しながら長柄斧を振り降ろす。ヨネモトは踏み込み、手甲で柄を払うようにして受け流す。
天原が両手で蛍火を構えて強打し、二条が腕部と頭部からスパークを発生させて赤紫の槍で突きを放つ。甲冑の肩部装甲の隙間を刺し貫いてその奥にある肉体を貫通する。
ヨネモトは狙いを定めると装甲の亀裂を狙って左の天魔で刺し貫いた。キメラの動きが止まる。
天原は蛍火を最上段に振り上げるとキメラの面を狙って落雷の如く打ちつけた。
キメラの額が割れ、その瞳の光が揺らぐ。
三人の傭兵は猛攻をかけると滅多打ちにして斧キメラを打ち倒した。
●
槍キメラの後背からホアキンと白鐘が迫る。キメラは肩越しに振り向き、囲まれまいと動く。その脇腹に閃光が次々に突き刺さった。ミンティアが攻撃に転じて猛射している。撃たれつつもキメラが槍で薙ぎ払う。ホアキンはがっしりと盾で槍撃を受け止め、白鐘が太刀を振り上げて斬りかかった。二人の男は凄まじいまでの剣閃の嵐を巻き起こし、キメラの身を甲冑越しに切り刻む。その身が大きく揺らいだ。
九条が両断剣を発動させ、九頭龍が刹那を発動させる。四方からの猛攻を受け、滅多斬りにされて槍キメラは鮮血の海に沈んだ。
●
戦後。
「これで片は着いたか。皆、お疲れ様だ」
白鐘剣一郎が周囲を見渡して言った。
「うち‥‥全力でうごけたの‥‥です‥‥かね」
覚醒を解き地面に座り込みつつハルトマンがぽつりと呟いた。飛び道具は強いが乱戦だと少し扱いにくい面もある。
「‥‥お腹すいたな‥‥」
手当てを受けつつ九頭龍はそんな事を呟いている。
(「さて‥‥ちびっ子はちゃんと無事かね?」)
須佐が視線をやるとちびっ子はAU−KVの兜を脱いで寺の階段に腰掛け一息ついていた。どうやら無事らしい。
ヨネモトはキメラ達の甲冑を回収していた。全ては持ってゆけそうにないので兜だけを持ってゆく事にする。基本的に軍に渡す事になるのだが、何かの研究の一助にはなるかもしれない。
「宗派はカトリックだが‥‥」
そう呟くホアキンは寺院の内外を掃除していた。
「人間型のキメラは、材料が人間の場合が多いらしい」
男は言ってスコップで穴を掘った。キメラ達を埋め、その持っていた武器を墓標とする。
杠葉は寺を見て回っていた。大陸の雄大な地に立つそれは、荒れ果てて朽ちかけてはいたが、未だ荘厳の残滓を感じさせていた。
「水墨画の世界だな‥‥こんな場所にローマのレギオンは無粋ってもんだ」
男は一つ嘆息しつつ、そう言った。
かくて中国の廃村を占拠していたキメラ達は退治され、村はバグアの呪縛から一応の解放を得た。
しかし、周辺には未だキメラが残存している場所も多く、この地方に人々が戻って来るのはまだ先の事のようにも思えた。
されども一つの問題は確実に片付き、周辺でもマウルの言葉を受けた傭兵達が活躍している事だろう。この地は人類側への回帰へと向かっている。
傭兵達は再び車両に乗り込むと、任務成功の報を手に帰還の途についたのだった。
了