タイトル:【共鳴】TigerHeadマスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/24 13:24

●オープニング本文


 北極海と北大西洋の狭間に浮かぶ地球最大の島グリーンランド。雪原の地下には膨大な量のレアメタルが眠っていると言われており、近年その開発が盛んになりつつある。
 しかしバグア側もグリーンランドのレアメタルには注目していたらしく、既に地下にも手を伸ばしていた事が先日判明した。
 地球人類側は地下を北上し、バグア側は地下を南下する。これが激突するのは最早運命とさえ言える程に自明の理であった。
 地下での第一の遭遇戦はバグア側に軍配があがり、UPCの調査団は全滅した。
 UPCはバグア側も地下へと勢力を伸ばしていた事に気付くと、ULTの傭兵を募り攻撃隊を組織して送り込んだ。
 十二名の傭兵は地下を進みバグア側勢力と接触し、交戦に入った。キメラを率いていたのは古臭い学生服に身を包んでいた銀髪の少女だった。少女はディアナと名乗った。
 銀髪の少女は強化人間であったらしく、彼女が振るう斧槍は猛威を振るったが、傭兵達の銃と剣の前には及ばず、やがて追いつめられて敗走した。
 昨年の十二月末の出来事であった。
 一応の脅威を退けたUPC軍は地下の要所に防衛施設の構築と、それに平行してレアメタルの採掘を始めた。地下に大出力のライトがあちこちに取り付けられて暗闇を照らし、大掛かりな機械が持ち込まれて日夜鉱石が地上へと運び出されていった。地下では岩を砕く音がひっきりなしに鳴り響き、作業員達の喧騒と熱気が満ちていた。
「ここに眠っている資源の量はかなりの物だ。このまま採掘を続けられれば、きっと人類の役に立ってくれるだろう」
 現場の責任者であるUPC軍の将校はそう希望を瞳に宿して言ったのだった。


 地下。広大に広がる空間に巨大な要塞があった。
「よぉ、ディアナ。聞いたぜ、お前、下等生物どもにボコボコにされたんだってな?」
 要塞の中にある一室。AU−KVによく似たパワードスーツを着込んだ男が言った。剃髪していて眼光鋭く褐色の肌を持つ大男だ。
 ディアナと呼ばれた銀髪の少女は無表情で男を見る。
「数で負けていたとはいえ、情けない奴だ。それでも貴様、ハーモニウムの一員か?」
「‥‥面目ない」
 少女が言うと男はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「プロテインが足りんのだ。強化の力に頼って筋力を疎かにするからそういう事になる」
「‥‥我々にはそれはあまり関係ないと思うのだが」
「何を言う、最後にモノを言うのは質量であり、パワーだ! 話にならん。おい、次回の出撃の指揮は俺に採らせろ!」
「君にか?」
 大男は手首を捻り両腕を上に曲げると言った。
「ニンゲンどもなんぞ俺の拳とロックイーターで粉砕してやるッ!」
「ロックイーター‥‥なるほど。ではファルコン、君に任せるが‥‥ニンゲン達を甘く見ない方が良い。多くは脆弱だが、中には使う連中もいる」
「使う連中だと? ふふん、面白い。どいつもこいつも脆い敵ばかりで飽き飽きしていた所だ。俺を満足させられるだけの奴が出てくれば良いのだがな」
 大男はそう言って野太い顔に不敵な笑みを浮かべたのだった。


 地下の巨大空洞。設備が持ち込まれたそこには、線路が縦横に走り、隅の壁では作業員達がドリルで岩壁に穴をあけレアメタルを掘り出し、トロッコに乗せて運んでいる。
 ドリルを振るう作業員の前で不意に岩壁が吹き飛び、直径三メートルはあろうかという巨大な口が飛び出してきた。作業員は悲鳴をあげ、次の瞬間、口の中に呑み込まれ、内側に生える牙に噛み砕かれて粉々になりながらその奥へと消えてゆく。
「き、き、キメラだーっ!!」
 付近の作業員達は悲鳴をあげるとドリルを放り捨て、瞬く間に蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
 現れたそれはアースクエイクに似ていた。巨大な身をくねらせながら前進し監視塔のライトが照らす発掘現場へと進み出て来る。
「ふん、ここがニンゲンどもの作業場か!」
 開いた大穴の奥から、虎を模した兜とパワードスーツに身を包んだ大男と、両手に長爪を備えたニメートルサイズの虎頭の獣人達がわらわらと現れた。
「者ども! 薙ぎ払え!!」
 タイガーヘッド達は顎を開くとその奥からプロトン砲に良く似た淡紅色の閃光を撃ち放った。閃光が咲き乱れ、鉱石を積んだトロッコや大型の発掘機械、線路等が吹き飛ばされてゆく。
「がははははは! 脆弱な奴等め、この俺がいる限り、この地より資源を取り出す事など出来ぬと教えてやるわッ!!」
 大男は盛大に笑いながらバイザーを輝かせ、爆裂する赤光を発生させると空間を薙ぎ払った。


 採掘現場の北、UPC地下戦陣。
「くそっ、まさか通路を通ってではなく、岩壁を突き破って進んで来るとはな」
 襲撃の報を受けた守備隊の隊長はただちに能力者からなる傭兵を集めた。
「傭兵隊、全員揃ったか? 後方の採掘現場に壁を破ってキメラと強化人間が出現したらしい。防備が手薄なのを良い事に暴れ回っているとの報告が来た。全軍で排除に向かいたい所だが、我々はこの守備地点も守らねばならない。故に今回は貴君等で撃退に当たってもらいたい。敵はロックイーターが一にタイガーヘッドが六、そしてパワードスーツを着込んだ巨漢が一人だ。至急現場に急行し、彼奴等を血祭りにあげろ。我々がここにいる限り、舐めた真似は出来ぬという事を敵に教えてやれ」

●参加者一覧

M2(ga8024
20歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鳳凰 天子(gb8131
16歳・♀・PN
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 予想外の箇所からの敵の襲撃だ。
(「でもバグア相手に予想通りなんてありえないしね」)
 蒼河 拓人(gb2873)は胸中で呟く。
「それじゃ、行こうか。何時も通りとっとと帰って貰おう」
 傭兵達は後方の採掘地を目指して駆け出す。
「久々のグリーンランドッスね」
 あの制服女はどーしてっかね? などと思いつつ駆けるのは六堂源治(ga8154)だ。地下の攻防には前回も参加していた。
「‥‥肌を刺すような冷気が何とも言えず心地いいわね」
 追走しつつ白雪(gb2228)が言った。否。背からは一対の翼と見紛う程の吹雪が出ている。この状態の彼女の人格は姉の真白なのだと人は言う。彼女は心に二つの人格を宿しているのだと言われていた。
「血の滾る戦場で頭を冷やすのには丁度良い‥‥と言ってしまうと風情が薄れてしまいますかね?」
 というのはシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)だ。地下は地上に比べれば随分とマシだが、やはり寒い事に違いは無い。
「地下にこんなモン在ったとはねェ」
 グリーンランドの地下採掘場の事は聞いていなかったようで、ヤナギ・エリューナク(gb5107)は感慨と共に呟いた。しかしその重要性は理解できる。
「強敵相手ですけど‥‥お二人とだったら、きっとうまくいきます‥‥頑張りましょうっ」
 夢姫(gb5094)が少し言葉を弾ませて言った。ヤナギとは久々に一緒なので少し嬉しかったりする。曰くステキでカッコいいお兄さんらしい。
「うむ。心してかかろう」
 鳳凰 天子(gb8131)が頷いて言った。夢姫とは年齢が近いが大分、大人っぽい雰囲気だ。初対面であるのも手伝ってちょっとドキドキであるらしい。
「ああ、譲れない闘いになりそうだな」
 ヤナギは守備隊長から受け取った採掘場の見取り図に視線を走らせながら言葉を返す。
「ここは此方にとっても貴重な場所‥‥早々渡せませんよねぇ」
 米本 剛(gb0843)が言った。彼もまた六堂と同じく前回の攻防に参加していた。この採掘場は人類にとって貴重な資源地である。奪われる事はなんとしても阻止したい。
「石ころ一つだってくれてやるかよ‥‥奪われるばかりはもう沢山だぜ」
 鈍名 レイジ(ga8428)が言った。その声は静かだったが、響く物が籠っていた。彼はバグアの襲撃によって大切なものを失くしていた。傭兵になったのは、自らにできること、すべきことを探して、である。今すべき事はキメラの襲撃を防ぐ事だと、鈍名は考えているのかもしれない。
 冷涼なる地下を駆ける。闇の通路を抜け、大空洞へと出る。各所に設置された見張り台に備えられたライトが辺りを照らしていた。爆音が彼方より響いてくる。
「あっちだ」
 傭兵達は音を頼りに進む。
「鬼が出るか蛇が出るか‥‥って両方出てるんだっけか」
 館山 西土朗(gb8573)が言った。
 採掘現場を駆け抜けると、虎面の獣人やアースクェイクのようなキメラが閃光を撒き散らして採掘現場を爆砕している光景が視界に飛び込んで来た。
「‥‥大分ハードになりそうですね」
 黒瀬 レオ(gb9668)が言った。僕も腹を括ろう、と思う。
「よくもまぁ虎だのワームだの、こんだけ出たものだね」
 M2(ga8024)が言った。
「頑張って退治しますか」
 傭兵達は各々武器を構える。バグア軍の方でも接近する傭兵達に気付いたらしく、首を回して視線をやると散開した。
「がははははは、来たなニンゲンの戦士ども! 貴様等の力、この俺の前に示してみろぉッ!!」
 野太い声が響いた。パワードスーツに身を包んだ大男がかぶりをふって叫んでいる。
「‥‥暑苦しいのが来たな」
 時枝・悠(ga8810)が目を細め、呟いた。
(「このヒト‥‥」)
 夢姫はファルコンを睨みつける。
 人間は、夢姫たちは、生きるためにバグアと戦ってる。だがバグアの多くは戦うこと自体に喜びを見出しているように見えた。
(「弱者を踏みにじって、悦に入る。
 快楽のための利己的な殺戮。
 必死に生きようとする人たちの命を、戯れに奪う行為‥‥絶対に許せない!」)
 少女は胸中でそう決意を固めた。
「こんな地下にまでご出張か? ほんと、仕事熱心だよな。バグアってのは」
 鹿島 綾(gb4549)はぶっきらに言った。
 それに時枝が二刀を抜き放ち答える。
「招かれざる客だ。早々にお引取り願おう。行くぞ!」
 地下の採掘場で傭兵達とグリーンランド・バグア軍が激突した。


 ヤナギは練力を解き放つと、地を蹴って猛加速した。淡い残光を宙に引きながらロックイーター目がけて突撃する。迅雷だ。ロックイーターは頭部を回して口を開くと突撃するヤナギへと向けて石弾の嵐を撃ち放つ。石礫の嵐が次々にヤナギへと突き刺さってゆく。男は激痛を堪えつつ、練力を解放し斜め前方へと迅雷で駆け抜け石弾の嵐から脱出する。カッと音を立てて大地を蹴り、方向を切り返すと再度迅雷で突っ込んだ。
「今晩は‥‥随分と賑やかね。私も混ぜて下さる?」
 真白は言うと魔創の弓を構えた。120センチの大弓に矢を当てつつ頭上に向け、降ろしながら弦を引き開く。左の人差し指を伸ばしパワードスーツを着込んだ男の胴へと向けると、裂帛の呼気を吐き出しつつ鋭く矢を放った。矢は斬り揉むように回転しながら飛びファルコンへと迫る。大男は迫り来る矢に対し、手甲で薙ぎ払うようにして弾き飛ばした。真白に向かって駆ける。
 鈍名、六堂、M2、黒瀬はタイガーヘッドへと駆けている。館山もまたグッドラックを発動させつつタイガーヘッドへと駆けた。秋月 九蔵(gb1711)は隠密潜行を発動させ外回りに破壊された資材置き場の方向へと向かう。
 夢姫、鳳凰、時枝はロックイーターへと向かい、米本は正面からファルコンへと向かった。シンはファルコンの側面へと回り込まんとする。蒼河は待機。
 黒瀬はシエルクラインで撃ちたい所だが携行してきていないので、黒炎を抜き放っている。
 六匹のタイガーヘッドはそれぞれ顎を開くと間合いを詰めて来た鈍名、六堂、M2、黒瀬、館山へとそれぞれ一条の閃光を撃ち放ち、光を追いかけるように駆け出す。鈍名には二匹向かった。
 鈍名は迫り来る閃光に対し、二匹の虎頭の顔の向きに注目して光の道を見切る。突進しながら深く身を沈めて一発をかわす。二発目が肩をかすめて抜けて行く。突っ込んで来る一匹に対し大剣を振り上げ、振り下ろした。間合いの外。しかし直後に爆風が発生し音速を越えて飛んでゆく。タイガーの一匹は爪をクロスさせて受け止めた。猛烈な衝撃が弾けた。もう一匹が左右の爪を振りかざし迫る。鈍名は横に跳んで右爪の一撃を避ける。虎人は即座に切り返して追尾し左の爪を振り下ろした。鈍名はコンユンクシオを立てる。爪と刃が激突して激しい火花が散った。ソニックを受けた残りの一匹が遅れながらも踏み込んで来て左右の爪を振るう。鈍名は後方へ飛ぶ。もう一匹が爪を左右に振り回しながら突っ込んだ。打ち払ってかわす。その隙に別の一匹が追撃を繰り出す。捌き切れず、爪先が身に叩き込まれる。男の身が衝撃に揺らいだ。二匹の虎人は連携すると鈍名へと猛ラッシュをかける。嵐の如くに爪が振るわれ、男の身から鮮血が吹き上がった。
 一方の六堂は身をかわしつつ閃光に対し籠手を翳して受けとめ、突っ込んでいた。
(「光線を気にしても仕方ねぇ‥‥今できる事は、兎に角間合いを詰める事だけッス!」)
 両手で太刀を構え、矢の如くに走る。虎頭人が両手の爪を左右よりふりかざして迫り来た。右より振り下ろされる爪を太刀を振るって叩き落とす。左の爪も素早く切り返して受け流した。切っ先を巻くと旋風の如くに袈裟に斬りかかる。虎頭人は両手の爪を交差させる。刃と爪が轟音を巻きあげながら激突し火花を散らす。連撃。虎頭人は唸りをあげ後退しながら太刀を捌く。
 M2、迫り来る閃光を身を捌いてかわす。隙を狙って虎頭人の足を斬りたい。移動速度を落とした。館山は自身障壁を発動させ、護法陣で閃光を受けながらも前に出る。気勢をあげて挑発する。虎頭人が二匹、そちらへ流れた。
(「かかったな!」)
 館山はメイスと盾を構え防御を固める。自分に注意が集中すれば他が空く。その読みは正しい。だが、耐えきれるか? 館山に対して二匹の虎頭人が猛然と襲いかかる。巨漢は振るわれる爪に対し、盾を持った腕を振るうようにしてぶつける。パワーで勝負だ。爪と盾が激突し、激しい火花が散った。重い。互いの剛腕が炸裂し、反動で館山と虎頭人が仰け反る。純粋な筋力は虎頭人の方が上だが館山はそれに備えて全力をぶつけている。互角。即座にもう一匹が踏み込み、喉を狙って鋭く爪先を伸ばしてくる。館山は咄嗟にメイスで打ち払う。態勢が悪い。館山はさらに弾かれ、たたらを踏んで後ろに下がる。押されている。低く、側面より回り込んだM2が左の虎頭人の脚をレーザーナイフで薙ぎ払った。虎頭人の肉が焼き切れる。右の虎頭人は態勢を崩した館山へと左右の爪を振り上げ、放つ。閃光の如くに走った。防げない。
「ぬぅっ!」
 左右のラッシュに男の身が切り裂かれ、堪え切れずに吹き飛んだ。鮮血が宙に舞う。M2は左の虎頭人の反撃をかわすと蒼刃の剣閃を巻き起こす。虎頭人の身が切り刻まれて白煙が噴き上がった。
 黒瀬は放たれる閃光に対し、顔に着目して回避行動を取っている。紅の烈破が、青年の肩をかすめながら空間を貫いてゆく。直撃はかわした。虎頭人が踏み込んで来る。
「こんなのに噛まれたら、絶対泣くって‥‥」
 青眼に焔の太刀を構え、相手の動きを真っ向からよく見据える。虎頭人の肩が動いた。太刀を払う。突きだされた爪の切っ先が甲高い音と共に太刀に当たり首の横をかすめてゆく。連撃。太刀を上に翳す。振り降ろされた爪と黒刀が激突し炎の中に火花が散った。猛烈な衝撃が身を貫いてゆく。
(「隙、隙、隙、隙‥‥」)
 後退しつつ防御を固め、爪を高速で振り回す虎頭人を見据える。確実に当てられそうな隙を狙う。虎頭人は口を開くと近距離から閃光を爆裂させた。黒瀬は咄嗟に全力で飛び退いてかわす。虎頭人が鋭く追尾しラッシュをかけてくる。
(「隙、無いって!」)
 太刀と爪が激しく激突し轟音を巻きあげた。
 他方。ファルコンはバイザーを輝かせて真白へと紅蓮の光線波を撃ち放つ。連射。高速で振動するかのような音を立てつつ三連の光が飛ぶ。真白は素早く横に動く。一撃目が回避しきれず胴をかすめ、二撃、三撃と光が女の身に激突した。猛烈な破壊力。
「撃たれたら撃ち返す‥‥わかり易くて楽しいわ」
 女は両手に太刀を抜刀して、連射されてきた光を裂き、笑った。挑発だ。表情の上ではあまり効いていない様子。実際、真白は無傷ではなかったが、まだまだいける。素晴らしく頑強だ。
「ほぉ?! ほざきよるわッ!!」
 ファルコンはそれを感じ取ったのか、牙を剥いて笑った。その横っ面へと光弾が迫り来る。シン・ブラウ・シュッツの射撃だ。ファルコンは素早く首を振って顔面への一撃を避ける。次の瞬間、その脚部に次々に猛烈な閃光が炸裂した。
「しゃらくさいわッ!!」
 ファルコンは頭部をまわすとシンへと紅蓮の閃光を撃ち放った。シンはダブルエネルギーガンをクロスさせて防御する。エネルギー波が銃に激突し、スパークを起こした。衝撃が身を貫いてゆく。一方の米本は二刀を構えて鋭く踏み込むと、右の天魔で斬りかかった。
「ぬぅん!」
 ファルコンは左の拳で太刀を打ち払う。大地を爆砕しながら踏み込み右拳を突き出した。米本は身を沈めると左の手甲で受け止める。轟音が鳴り響き、猛烈な衝撃に身が押される。逆らわず、後方へと下がって衝撃を流す。二刀を構え直して言う。
「前の方とは対称的な雰囲気‥‥名乗って頂けますか?」
「名だと? ハッ、俺様の名はファルコン! 貴様等に死をもたらす破壊の翼よ! 魂に刻んで砕け散れッ!!」
 ファルコンはバイザーを赤く輝かせ突っ込む。米本は爆裂する閃光を天魔をクロスさせて受け止める。衝撃が身を貫く。ファルコンは側面へと踏み込むと竜巻の如く身体を回転させて蹴りを放った。米本の膝裏に鋼鉄の踵が炸裂する。骨が嫌な音を立て、がくりと膝が落ちた。ファルコンは米本の顔面へと拳を突き込む。米本は鉄甲で防ぐ。凶悪な衝撃力。吹き飛ばされて後方へと転がった。後転しながら勢いを利用して立ち上がる。追撃の閃光が飛来して米本の身に次々に炸裂してゆく。猛攻だ。男の装甲が吹き飛び身が爆ぜてゆく。
(「成程、手強い‥‥!」)
 米本は激痛の中、ぎりと歯を食いしばり、活性化を発動させて凌ぐ。此方も負けてはいられない。
 ロックイーターへと迅雷で駆け寄ったヤナギは二段撃を発動させ刀と爪で斬りつけた。岩喰虫の身が連撃を受けて削れる。蒼河は虎頭人が味方と激突しているのを確認すると、岩喰虫の側面へと回り込まんと動いた。岩喰虫が巨体を素早く蠢動させる。それを見た鹿島は駆けながら声を発した。
「ヤナギ!」
 全長八メートルの大芋虫の身が宙に舞った。ライトの陰が遮られてヤナギの周囲に影が落ちる。青年は横っ跳びにとんだ。岩喰虫の巨体が大地を叩きつぶし地響きを巻き起こす。青年は腕をついて前転しつつ起き上がる。岩喰虫は逃さず頭部を素早くそちらへと向けた。
 蒼河は練力を全開にするとアラスカ454で岩喰虫の頭部を狙って猛射する。制圧射撃だ。エミタサポートを加えた的確な射撃は岩喰虫の身に強烈な衝撃を与え、その動きを鈍らせた。
(「これ以上、好きなようにはさせない‥‥! ここの人たちの命は、必ず守ってみせる!」)
 夢姫は身体から光を発すると稲妻の如くに加速して突っ込んだ。横手から肉薄し銀色の直刀と莫邪の宝剣を振るって強烈な斬撃を浴びせかける。光剣が岩喰虫の肌を破り斬り裂く。
 鳳凰もまた岩喰虫の側面に肉薄していた。迅雷を発動させて身を低く、残光を引きながら瞬間移動したが如き速度で間合いを詰めると金属の筒を握りしめ光の刃を出現させた。レーザーナイフだ。二連撃を発動、疾風の如くに多段攻撃を繰り出す。岩喰虫の身が削られ表皮が吹き飛んでゆく。
「隊長殿は血祭りをご所望でな。出し惜しみは、無しだ」
 時枝は鹿島と共に、蒼河の援護射撃を受けながら左右から挟みこむように踏み込んだ。二段撃を発動、左右に構えた紅炎と月詠を振るって猛烈な剣閃を巻き起こす。鹿島もまた二段撃を発動、右に短槍を左に光の刃を伸ばし嵐の如くにラッシュをかける。左右からの猛撃に岩喰虫が切り刻まれ肉片が飛び散り、体液がぶちまけられてゆく。
 岩喰虫が石弾を発射する。ヤナギは迅雷で飛び退いてかわすと、間合いを詰め斬りつける。六名からの猛攻を受けてロックイーターは急速に削られてゆく。
「これでも一端の剣士のつもりだ‥‥手前如きに遅れを取る訳にはいかねぇんスよ!」
 六堂は虎頭人と斬り合っている。爪を打ち払い、かわし、反撃の太刀を繰り出し、徐々にペースを掴んで虎頭人を押してゆく。虎頭人は後方の宙へと跳躍して顎を大きく開く。六堂は間髪入れずに音速波を飛ばし衝撃を直撃させた。読んでる。撃墜された虎頭人は膝立ちで地へと着地しつつも光を放つ。六堂は放たれる閃光に対し斜め前方へ踏み込む。
「その攻撃は読んでるッスよ?」
 言葉の通り、キメラの戦法を悉く読んでいるようだ。経験則か? 六堂は紙一重でかわしつつ踏み込んで側面を流し斬った。虎人の身から鮮血が吹き上がる。畳みかけるように左の機械剣で抜刀様に一閃、虎頭人は糸が切れたように鮮血の海に沈んだ。
 先に集中攻撃を受けた館山は血まみれで倒れている。気合いの唸り声を発し歯を喰いしばって立ち上がらんとする。
 M2、左右から二匹の虎人の猛ラッシュを受けている。一匹が口内からの閃光を爆裂させた。M2は全力で身を捻る。赤光が顔のすぐ隣を貫いて抜けて行く。かわした。間髪入れず別の一匹が迫り、M2へと剛爪の連撃を振るう。素早く上体を反らして一撃をかわすも、もう一撃の爪が少年の身に喰い込む。M2は激痛を堪えつつも後退しながらホルスターからラグエルを抜き、虎頭人の目を狙って素早く発砲した。虎が反応し首を横に振る。ペイント弾は虎の眉に炸裂、塗料をまきちらした。その片目が塞がる。右の虎人が踏み込んでM2の腹に爪を叩き込まんとする。左足を引いて半身になり、すり抜けるようにかわす。その隙に左の虎人がM2の頭部目がけて剛爪を振るった。集中打に回避が間に合わない。爪が激突し轟音と共にヘルメットが陥没した。衝撃に目がくらみ、M2の膝が折れる。
 館山が咆哮をあげて踏み込み、右の虎人へと槌を振り下ろした。虎は素早く後退して一撃をかわす。左の虎人が爪でM2へと追撃をかける。剛爪が炸裂し少年が吹き飛んだ。右の虎人が館山へと爪を繰り出す。男は盾を振るって受け止める。爪と盾が激突し火花が散った。
 鈍名は二匹の虎頭人と斬り合っている。一匹が顎を開く。鈍名はその瞬間を狙い澄ましていた。間髪入れずに練力を全開にし大剣に爆熱の色を巻き起こして、稲妻の如くに突き込む。
(「赤と黒の衝撃だ、とくと味わいやがれッ!」)
 吐き出された閃光を大剣の切っ先が突き破り、その喉の奥までをもぶちやぶって貫き通した。必殺の一撃。同時、もう一匹の虎頭人がその隙を狙って鈍名の頭部へと横殴りに剛爪を叩きつける。猛烈な衝撃が炸裂し、兜が吹き飛んだ。鈍名の目蓋の裏に星が瞬く。
 瞬間、虎頭人の胴に弾丸が突き刺さった。秋月の射撃だ。秋月は横手の物陰からよくよく狙いを定め――味方に当てる訳にはいかない――強弾撃を発動させクルメタルP‐38で発砲する。
弾丸は空を裂いて精密に飛び、虎頭人の身に次々に直撃し衝撃を与えてゆく。
 虎頭人は後方へと飛び退くと、弾丸が飛来した方向へと閃光を爆裂させた。秋月は身を低くしながら駆ける。トロッコが閃光の直撃を受けて爆ぜ飛んだ。
 その隙に衝撃から立ち直った鈍名は大剣を横に払いながら引き抜く。貫かれていた虎頭人が鮮血をぶちまけながら倒れた。素早く駆けて大剣で斬りつける。
 黒瀬は周囲の様子を視界の端に入れつつ、防御を固めている。全体の行方はまだ解らない。最低限、眼前の相手はひきつけておきたい。閃光を全力を以ってかわし、振るわれる左右の爪を太刀でブロックする。
 シンは側面を取れるように走ると、二丁のエネルギーガンを用いてファルコンの胴と脚部を狙って閃光を連射する。猛烈な破壊力にファルコンの装甲が融解してゆく。
「ちっ!」
 ファルコンは舌打ちするとシンへと閃光を撃ち返す。シンは避けられぬと見て防御を固める。猛烈なエネルギー波が身を貫き、防具が爆ぜ飛んでゆく。激痛が走るが、まだまだ健在。スナイパーとは思えぬ頑健さだ。
 真白は疾風の如くに駆け寄ると二刀を振るって強烈な斬撃を放った。ファルコンは腕を翳して連撃をブロックする。米本は隣に並ぶと練力を解放した。
「我流‥‥剛双刃!」
 裂帛の気合と共に十字の閃光が走る。太刀と手甲が激突して猛烈な火花が散った。閃光が側方より飛来してファルコンの身に突き刺さる。衝撃によろめく大男に対し真白と米本は嵐の如くに猛撃を重ねてゆく。ファルコンは後退しつつ太刀を捌いてゆく。防戦一方だ。
 ロックイーターは身を蠢動させると激しく身体をくねらせて周囲を薙ぎ払う。ヤナギ、夢姫、鳳凰、鹿島、時枝はぱっと四方に散ってかわす。蒼河が銃器をリロードしつつ制圧射撃を叩き込み、その動きを封じ込める。拳銃弾で八メートルを抑え込むのはSESとエミタの為せる業か。さらに鹿島と時枝の援護となるように射撃してゆく。
 夢姫が挑発するように岩喰虫の前を走る。虫は口を開いて石弾の嵐を飛ばした。夢姫は脚部を淡く輝かせると加速して石弾をかわしてゆく。なかなか速い。
「その口、今すぐ閉じさせてやっからな!」
 ヤナギは迅雷で加速すると円を描くようにして刃を振るった。斬撃が岩喰虫の身を切り裂き、黄色の液体が飛ぶ。鳳凰は巻物を広げると猛烈な雷光を招来した。電撃の束が一直線に飛びロックイーターの身に突き刺さる。四連の爆裂が巻き起こり岩喰虫の表皮が爆ぜて体液が噴出した。夢姫は迅雷で稲妻の如くに踏み込むと駆け様に銀の長刀を振るいそう表面を薙ぎ斬ってゆく。
「でかすぎる悪い子は――輪切りにしようか!」
 鹿島が言って先に広げた傷跡へと駆けた。再度天槍で猛連撃を仕掛ける。時枝もまた挟みこむようにして反対側から岩喰虫の身を削り取ってゆく。芋虫の巨体が掻っ捌かれ大量の体液が噴出した。
 六名からの猛攻を受けたロックイーターは鹿島の言葉の通りに左右から削り切りられ、その身を二つに分けて動かなくなった。
 館山は自身障壁とロウ・ヒールを発動、護法陣とメイスで防御を固めて二匹の虎頭人の攻撃に対する。閃光からのラッシュがきつい。二匹からの集中打を受けて鮮血の海に沈む。その隙にM2が立ち上がってラグエルで射撃する。弾丸を受けて動きが止まった虎頭人へと、六堂が背後から駆け寄り、頭部へと太刀を叩きつけて爆砕した。赤い色をぶちまけながら虎頭人が倒れる。
 秋月は強弾撃を継続しつつ拳銃を両手で構え虎頭人へと向ける。胴体に狙いをつけて発砲。轟く銃声と共に上へと跳ね上がろうとする反動を抑え連射。拳銃弾が唸りをあげて飛び次々に虎頭人へと突き刺さってゆく。
 鈍名は秋山の援護射撃を受けつつ虎頭人に対する。複数を同時に相手取るのでもなければ押されない。大剣を竜巻の如くに振るって連撃を浴びせ斬り倒した。
 虎頭人と対する黒瀬。左右より振るわれる右の爪を太刀を掲げて受け流し、左の爪を横に払って弾く。隙が無いなら作るまで。虎頭人の身体が流れたのを見計らい振り抜いた太刀を返し、逆袈裟に振り抜いた。虎頭人は右の爪を振るって太刀を受け止める。衝撃と共に火花が散った。虎頭人が左の爪を繰り出す。黒瀬は後退しながら太刀を引き戻し受け流す。
「ぬぅっ!」
 ファルコンはバイザーを輝かせて首を振り周囲を薙ぎ払う。エネルギー波が米本と真白の身に炸裂した。二人は太刀を交差させてガードし、堪える。双方共に頑強だ。身から白煙をあげつつも太刀を振りかざして斬りかかる。
「ふふっ‥‥その程度なの?」
 真白が艶然と笑みを浮かべつつ二刀で烈閃を巻き起こす。
「ニンゲン如きがッ!!」
 ファルコンは怒声を発しつつ、太刀を弾きつつ大地を爆砕して踏み込む。空を切り裂く鋭い音をあげて右の剛拳を繰り出した。真白は太刀を交差させて受け止める。瞬間、視界がぶれた。全身を壮絶な衝撃が貫き、女の身が後方へと吹き飛ばされてゆく。苦悶の息が肺から漏れた。
 しかし、その瞬間、ファルコンの動きが止まった。
(「隙あり、だ」)
 シンは練力を全開にし、二連射と影撃ちを発動させる。左右のエネルギーガンを目にも止まらぬ速さで猛連射しファルコンの頭部へと閃光の嵐を叩き込む。凶悪な破壊力が爆裂し、男のバイザーがひび割れ破砕されてゆく。
「吹き荒べ‥‥剛双刃『嵐』!」
 米本がすかさず練力を全開にして踏み込むんだ。裂帛の気合と共に文字通り嵐の如くに猛烈な剣閃を巻き起こす。一刹那の間に十二連の閃光が叩き込まれた。猛烈な衝撃に大男がパワードスーツの破片を撒き散らしながら吹き飛んでゆく。
 真白が体を捌いて地を削りながら足から着地し、ファルコンもまた体を捌くと膝から着地した。膝をつきつつ大男が唸る。
(「この俺様が‥‥押されているだとっ?」)
 三対一とはいえ、従来から考えればありえない話だ。ディアナの言葉を思い出す。なるほど、手練だ。連携も取れている。一人で相対してはとても勝ち目が無い。
 ヤナギ、夢姫、鳳凰はタイガーヘッドへ、鹿島、時枝、蒼河はファルコンの方へと駆け出す。
「くっ‥‥!」
 ファルコンは憤怒に顔を染め上げ、歯ぎしりし、しかし素早く踵を返した。東へと目指して高速で駆け出す。シンはシエルクラインに武装を切り替えると猛弾幕を解き放った。制圧射撃でその動きを封じ込めんとする。
「白雪! 頼む!」
 激しく振動する小銃を構えつつ、逃がすな、と男は言った。ファルコンの能力自体は高い。ここで逃がすと厄介だ。驕りのあるうちに始末するのみ。
 白雪は二刀を携えて駆ける。逃げる大男の背に女が迫りそうになる頃合いにシンは射撃を止めた。ファルコンが彼方へと加速する。
「八葉流終の型‥‥八葉真白」
 練力を全開にして真白が双刀を振るった。一刀目の切っ先がファルコンの背を火花を巻き起こしながら掠め斬る。二刀目の先端は空を切った。パワードスーツに身を包んだ男は快速で駆けてゆく。ぐんぐんと距離が離れる。ファルコンは真白よりも随分と足が速かった。ダークファイターは多少、速度に劣る。
 真白は剣を納めるとリボルバーを引き抜いて連射した。轟音と共に弾丸が飛び出し大男の脚部に炸裂する。シンの射撃で装甲が削られている。弾丸は装甲を突き破り、鮮血を噴出させた。もんどりを打って男が転倒し、地面に叩きつけられる。米本が真白を追い抜いて駆けてゆく。
「‥‥私も、剛は剛で絶つのが好きなのよ?」
 真白は銃を納めると再び太刀を抜き、ふふっと笑みを浮かべて駆ける。
「こ‥‥この俺様が、こんな、ところで、こんなところでぇッ!!」
 大男は血走った眼で身を捻り上体を起こす。米本が駆け寄りざまに天魔を振るって横殴りに叩き倒した。米本と真白は転倒している男に再度立ち上がる事を許さず、太刀で滅多打ちにして鮮血の海へと沈めた。
 六堂は後背からタイガーヘッドに接近するとその頭部へと向かって太刀を振り下ろした。太刀が虎の頭部を強打し、その身を揺らがせる。M2はレーザーナイフを閃かせると五連の蒼嵐を巻き起こし斬り倒した。
 黒瀬もまた鈍名がやって来たのを見て攻勢に転じる。後背から迫った鈍名の大剣が虎頭人を強打し、その態勢を崩させる。黒瀬は水平に炎の太刀を一閃させる。刃が虎頭人の首の右から入る。体重を乗せつつ引き斬った。虎頭人は首を半ばから断裂させて噴水の如くに鮮血を吹き出させる。二人の戦士は前後から太刀を振るって最後の虎頭人を滅多斬りにして鮮血の海に沈めた。


 かくて傭兵達は地下採掘場を襲撃してきたバグアの一隊を撃滅し、その安全を取り戻した。
「ファルコンがやられたか‥‥」
 報告を受けた銀髪の少女は瞳を閉じて思う。
 彼は、最後の時に何を見たのだろうかと。