●オープニング本文
前回のリプレイを見る「そえば、昔、なんかの劇で誰かが言ってたっけ」
黒輝の翼で空を切りルミス・マクブルースは呟いていた。
人生は難問集で、解は揃って複雑で、選択肢はとても酷くて、ついでに制限時間まであると。
そう言ってた役者の顔は思い出せるのだが、劇中の彼が最後どうなったのだったか、よく思い出せない。
ただ思うのは、
「あんたの言う事はまったく以って正しいね。くたばれジーザス!」
飛来して来た鋼鉄の巨人KV・フェニックスを睨みながらそう叫んだのだった。
●
独房の中、鮮血を口から吐きだして女がのたうちまわっている。
コルデリアは超機械を手に女の治療をしていた。彼女等以外に牢の中には人はいない。囚人は強化人間で、危険だからだ。
息荒く大粒の汗を浮かべて身を横にしている女はまだ若い。一見した感じでは十七のコルデリアと似たような歳か、若しくはそれより下だろう。
「‥‥収まった?」
吐血が収まるも、未だ痙攣している手を握ってやってコルデリアは呟く。
「ああ‥‥‥‥すまない」
ひゅーひゅーと息を吐き、涙を流しながら女は言う。症状には個体差があるものだが、ここまで酷いのも珍しい。
「あんた、長くは保たないよ」
コルデリアが言うと女はびくりと身を震わせ、そして見上げて来た。視線が合う。真紅の瞳には感情の色は無い。
「知ってる」
「そう」
コルデリアは視線を合わせたまま呟いた。皆殺しにされた先遣隊のメンバーの家族の嘆きを彼女は忘れていなかった。
「なんでこっちに来たの?」
「生きる為だ」
「でも、あんた」
「最後に、賭けてみたかったんだ。自分の意志で。渡された物に応えたかった。賭けが外れたならそれまでの事。その結果で死ぬなら悪くない。生まれも、育ちも、生き様も選べなかったが、死に様くらいは選べたようだ。私も、最後くらいは、光に向かって歩けた」
「‥‥‥‥何、弱気になってんのよ」
血まみれの女の言葉にコルデリアは目を伏せた。勝手だ、と思う。
「あんた、まだ生きている。まだ生きてるわ。生きてる限り、人は立ち上がれる。あんたまだ死んで無い」
「君は優しいな――いや、迷っているのか? 感情に振り回されている。罪悪感を抱いていて憐れんでいる。だが、君の本心にとって私は死んだ方が清々する筈だ」
「‥‥うるさいわね!」
コルデリアは声をあげ腕を振り払って立ち上がった。憤然と見下ろし睨みつける。
「あんたなんて‥‥!」
輝く程に瞳が焔を放っていた。そして涙を溢れさせて零し始めた。
「なんでよ、なんでこんななのよ、あたし、家族を辛い目に合わせたくなくて能力者になったのよ。こんなのする為になった訳じゃないわ!」
「いや‥‥それは、そういう事だろう? 君、覚えておけよ。治療の礼に教えてやる。今の私が、敗者の姿だ。何もかもが全て、蹂躙されて消える」
ディアナは言った。
「だが――覚えておけよ君、君と君の家族が私のようになっていないのは、君達が迫る危険を打ち破り排除しているからだ。負ければこうなる、いや、多分、もっと酷い」
「何時までこんなの続くのよ‥‥」
「戦争が終わるまでだろう」
「‥‥そうね」
金髪の少女はうなだれると膝をつき、汚れた諸々を清潔にしてから牢の外に出て鍵をかけた。鈍い金属の音が暗い地下に響き渡っていった。
●
「‥‥はぁ?! キミ、正気で言ってるの?」
ルミスはまじまじと目の前の女を見据える。女、ベルサリア・バルカ曰く、
「ディアナを助けにいきたいのです」
との事。
「彼女は先日の交戦の末に敵に捕らわれてしまって‥‥」
「上からのソレ、きみ、マジで信じてるの? 状況的に裏切ったに決まってるじゃん」
「‥‥解っています。それでもです。彼女は調整を受けられていない。きっと助けを求めています! 貴女には翼がある。SSの使用許可が下りなかった以上、助け出すにはどうしても貴女の協力が必要なんです! お願いします!」
「はぁ? それに付き合って僕に一体何の得があるの? 敵になった奴を君が言う所の助け? にいってもし僕やキメラが死んだら君はどう責任取ってくれるの?」
「わ、私の命を‥‥」
「いやぁ素晴らしい。帰れ」
「た、ただとは言いません‥‥協力していただけるならこの剣を貴女に差しあげます」
「‥‥これって弟君に譲られた奴だろ? 君が強化しまくってた奴じゃん。良いの?」
「それで協力していただけるなら」
「‥‥条件がある。報酬は前払い、僕は無理はしない。キメラも無理させず飛行型だけ。無理と思ったら僕等は引き上げる。それでも?」
「お願いします‥‥!」
「‥‥解らないな。なんでそこまでするんだい?」
ガリガリと頭を掻きながらルミスは言った。
「大切な仲間、でしたから」
涙を浮かべてベルサリアは言った。
「大切な仲間ねぇ、僕は八つ裂きにして殺したよ」
●
「あははは! 潰れろ蟲ケラァッ!! ここに強化人間がいる筈だっ、出しなッ!!」
爆雷が荒れ狂いKVが超爆発と共に粉々に爆散した。
基地は恐慌状態に陥っていた。精鋭達ではないのだ。その昔、開拓村にキメラ寄せて来たら戦わずに放棄せざるをえなかったくらい弱い。KVは虎の子だった。それが、一瞬で破られた。司令官は基地の数少ない能力者であり強化人間の監視と応急処置を担当させていた士官候補生へと言った。
「奴等の狙いは強化人間だ‥‥奴にはまだ喋って貰わねばならん事が山ほどある。死んでも渡すな。万一奪われたり殺害された場合、第一級の損害を出したとして君の首を刎ねる」
「‥‥首を刎ねる、ですか」
力なく笑う。ここは何処で何時代だ。北の果てで地獄の世か。コルデリアはいっそ清々しい気がした。
「貴君等は戦力としては信用する‥‥だが、意志の面でここ一番、信頼できない。下手に同情でもされてわざと逃がされたらたまったものではない。故に‥‥君には血肉の枷となってもらう。半ばとはいえ軍人なら、人類の為に命を賭ける覚悟はあろう? ここはグリーンランドで、この基地の司令官は私だ。一人くらいなら道連れに出来る」
「疑いませんよ。やると言ったらやる。でもその策には欠点があります。傭兵が私の命に価値を置いていない場合、簡単に無視されますよ」
「なに、物理的に飛ばすなら、私の首よりはまだ君の首の方が効果はあるさ」
「司令も大変ですね」
「皆そうだよ」
絶対零度の視線を両者は交わす。
「凄く‥‥なんていうか、やる気でないんですけど。これがここのやり方ですか。それで私を殺したいんだったら殺せば?」
「別に君を殺したい訳ではない。君は、なるほど、学生だな。ご家族の事についても聞いているよ。兄弟がいるようだね。一番小さな弟さん、学校へいく途中、人気が無い道を通らないといけないとか‥‥最近は物騒だ。注意しておいた方が良い」
少女は目を見開いてわなわなと震えた。
「そこまで、やりますか」
「私もね、文字通り命がかかってるのだよ。そんなに不思議な事かね?」
●リプレイ本文
(「先の依頼での苦労を水の泡にされるのは業腹だな。だから「調整」ってのの詳細を聞き出せればと考えていたが‥‥」)
極北の大地の基地の地下、館山 西土朗(
gb8573)は思う。
(「その提案に全員が異を唱えず、どころか――こう来るとはな」)
彼とその仲間達の選択、凄まじい選択。やれるのか。この敵戦力と味方の頭数、かなり、普通は、正気ではないが――しかし、
「OK、上等だぜ」
盾を手に取り立ち上がる。男は部屋の出口へと歩いてゆき扉のノブに手をかける。
何かが問いかける。
――続く先は、何処か?
「とびっきり上等な展開にしてやろうじゃねえか!」
館山西土朗はノブを回し引く。扉は、開かれた。
●
「一つだけ確認しておく‥‥戻る気は‥‥無いな?」
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)は独房の扉越しにその中の人物へと声を投げかけた。
「‥‥無、い」
咳と共に返答がかえってきた。あまり多くを喋れる状態ではなさそうだ。
「そうか」
しかしシャーリィにはそれで十分だった。廊下に具足の音を響かせつつ去ってゆく。
時枝・悠(
ga8810)もまたやって来ていた。扉の上に僅かに四角く空けられた穴より、格子越しに覗きこんで言う。
「生きる為なんて言ったからにはさ」
会話できる体調じゃないと知りつつ言うのは卑怯だと思うが、一方的にでも喋っておく。
「一度や二度選んだ程度で、やるべき事はやったなんて面してくれるな」
その言葉に伏せて咽ていたディアナが顔をあげる。赤瞳に少し、光が宿ったように見えた。言葉は、届いたか。時枝は一つ手を振って去ってゆく。
ディアナは吐血しつつ笑った。ディアナがしてきた選択の回数、その全てを時枝は知らないだろう。しかし、
(「なるほど、正論だ」)
まだ、足掻かなくてはならない、そう思った。時枝がしてきた選択の回数、その全てをディアナも知らない。しかし、傭兵だ。百戦錬磨の。
人は皆、何かを選んで生きて来ている。彼女達はどう生きて来たのだろうと思いつつ、ディアナは浅い呼吸を繰り返しながら、ぼぅっと壁を眺めていた。
●
爆音が鳴り響き、警報もまた鳴り響き、赤いランプがくるくると回って光を投げている。兵士達が声をあげ銃を手にホールを駆けてゆく。
傭兵達の待機所。
「迷う事なら後でいくらでも出来る。絶対に死なせねぇから、援護頼むぜ。頼りにしてんだからな!」
アレックス(
gb3735)はヘルメットを脇に、ボディスーツ姿の少女の肩を叩いて言った。コルデリアはびくりと肩を震わせてアレックスを見上げると、
「あ‥‥ああ、うん‥‥御免‥‥なさい。有難う。少し、迷ってた‥‥UPCとか、私が守ってきたものって何? 一体なんだったんだろうって」
そんな事を言った。
(「血生臭い話には‥‥慣れた心算だった‥‥けど」)
霧島 和哉(
gb1893)は胸中で呟いた。やはり、軍人という人種は好めない。
「ディアナ‥‥あの投降はガチの覚悟だったンだな‥‥」
すらりとガラティーンを抜いてヤナギ・エリューナク(
gb5107)が呟いた。思う、この状況。どうすべきか。
「此処が次の選択肢だ。なんて、戯言か」
時枝が呟く。
「――方針についたなんだが」
館山が言った。
「一つ思いついている事がある」
一同の目が男に集まり、そして彼はそれを述べ始めた。
●
黒焔の翼を持つ女は、片手に女を抱え飛行しながら雷光波を撒き散らして軍兵達を潰走させて頭上を越え、施設内部の通路を奥へ、奥へと竜人達と共に飛んでいた。鋼の通路の彼方、ホールへの入り口が見えた。その奥でAU‐KVに身を包んだ男がリボルバーを構え、長身の赤髪の男が小銃を構えている。
「ああ、くそ、忌々しい。よりにもよって『アレ』か!」
知った顔らしい。
「ベルサリア、僕は次より奥へはいかない。道は開いてやる。四匹つけてやる。四十秒だけ待ってやる。でもそこまでだ」
「有難うございます」
「愚か者め。死ぬ気で駆けな!」
ルミスが黒焔を噴出して加速し先頭を切って突っ込む。七連の雷光波がAU‐KV目がけて飛んだ。稲妻が弾け男の装甲が爆裂と共に吹き飛ばされてゆく。しかし、倒れない。傷ついた傍から再生してゆく。爆雷の中で炎のドラグーンがリボルバーを構える。轟音と共に焔が噴出し六連の弾丸が迫り来る。ベルサリアは咄嗟に腕を突き出した。赤のフィールドが展開し弾丸と激突して鬩ぎ合い、次々に弾き飛ばされてゆく。小銃を構えている男、何時の間にか位置を移している。金色の鋭い眼光。怒りの火。何かを呟いている。
「お前ェらにディアナの覚悟が分かンのかよ‥‥っ!」
轟く銃声と共に弾丸が空を貫き、ベルサリア達の側方を通り抜けてゆく。瞬後、鈍い音と共に、竜人の苦痛の叫びがあがった。
(「覚悟‥‥?!」)
何の事だ。ベルサリアは胸中で呟く。ルミスはホールの隅を目指して突っ込んでゆく。地下への入り口。遮るものはない、届く――ベルサリアが思った瞬間、視界を激震が揺らした。信じられない程の壮絶な衝撃が身を呑みこみ貫いてゆく。目の前、一瞬で地面が迫り、身が投げ出される。受け身を取って転がる。何が起こった? 解らない。咄嗟に振り返る。竜人の六匹が怒吼をあげ駆ける。向かう先、ホール入り口に何時の間にか大太刀を振りかぶった少女が居た。猛然と大地に太刀を叩きつける。床が爆砕され不可視の衝撃波が迸り破片を巻きあげながら一瞬で迫り来た。ベルサリアは光を纏って間一髪で飛び退く。
「行けッ!」
ルミスの叫びが聞こえた。黒焔を纏ったルミスが宙へと跳び上がり、それを追って少女が跳躍し大太刀を振り降ろす。剣と剣が激突して轟音と共に火花を巻き起こした。視線を横に走らせる。通路への道、空いている。
「どうかご無事で‥‥お願いします!」
ベルサリアは叫ぶと光を纏い加速した。
●
ルミスが宙へとあがり、時枝は着地すると、地下へと向かう四匹の竜人兵のうち一匹の背へとSMGを向けた。冗談のような破壊力の弾丸が一瞬で竜人を蜂の巣にし、赤色をぶちまけながら事切れたそれが転がる。
六体の竜人が剣を振りかざして一斉に時枝へと迫り、うち一体へとヤナギが迅雷で突撃した。男は一気に竜人へと肉薄すると爪を一閃させ、竜人を切り裂く。間髪入れずに弧を描く軌道で太陽剣を振るい、切り裂かれながらも機敏に振り向いた竜人は盾で一撃を受け止める。竜人はパワーで強引に跳ね返しながらヤナギの首を狙って袈裟に斬り込み、ヤナギは斜め前へと低く踏み込んだ。刃光が奔り抜け赤髪の先が宙に舞う。かわした。刃を掻い潜った男は下方から竜の喉元目がけて伸びあがるように切っ先を繰り出した。火の剣が竜人の顎をぶち抜いて脳天までを貫いてゆく。クリティカルヒット。
「眠れ」
ヤナギは手首を返し刃を捻ると、掻きまわしながら引き抜いた。鮮血が噴出し竜人の瞳から光が消え、倒れる。撃破。
「潰れろムシケラァッ!!」
他方、ルミスは通路を塞ぐコルデリアへと豪雷を撃ち落とし、間合いを詰めて烈閃を巻き起こしていた。少女の両手から血飛沫が吹き上がって光銃、光線剣が転げ落ち、さらに肩口から鮮血が吹き上がり、脳天への途中、横合いから付き出された槍が追撃の黒雷剣と激突して火花を巻き起こした。
「ルミス・マクブルースッ! 何で手前ェがそれを持ってる!?」
竜の翼で突っ込んだアレックスだ。黄金の炎を纏ったドラグーンはルミスの動きを見据えて先を読みつつ、爆槍を高速で振り上げ、薙ぎ払い、切っ先を回転させて突きを放って猛連撃を仕掛ける。
「ああっ?! ‥‥あー、そうかそうか、バルカ弟やったのお前等だったのかぁっ?! あはははッ! 誰が、お前になんか、死んでも教えてやらないねッ!!」
ルミスは黒い焔を全身から吹き上げつつ後退しながら大剣で穂先を払い、いなし、身を捻ってかわしカウンターを放つ。一瞬で空間を縦に断裂する、黒雷の刃。次の瞬間、
「野郎ッ!」
ランスの柄と刃が激突して轟音と共に猛烈な衝撃波が巻き起こる。アレックス、止めた。
女が眼を見開く。青年は竜紋を青く輝かせ槍を回転させ突き降ろす。切っ先が爆炎を巻き起こしながら女の肩先を掠め抜けてゆく。ルミスが剣を振り上げ、黒い閃光の嵐をアレックスは後退しながら止めて、止めて、止める。紙一重だが、
(「――見える!」)
剣聖破りの剣も、蒼龍の静寂の眼を以ってすれば、最早捌けない領域ではない。予測すれば止められる。止めても腕が圧し折れそうだが、すぐに回復してゆく。光線剣の筒を咥えたコルデリアが練成治療を発動させ連打していた。
「ああ‥‥面倒な。いつもの事か」
時枝、五匹からの三十連の猛撃を受けて鎧から火花を散らしつつも、まったく倒れる気配を見せずに剣劇を発動、残像すら残す動きで炎の大太刀を振るって八連の剣閃の嵐を巻き起こして黄金の竜人を滅多斬りにして血河に沈め、さらに流れるように八連斬を放って二体も斬り倒し、三匹目へと一撃を放って壮絶な破壊力を叩きつける。強いってレベルじゃないぞ。
ヤナギが生き残りの竜人へと斬りかかり、ルミスがコルデリアへと斬りかかり、アレックスがブロックし爆槍を繰り出す。ホールは瞬く間に灼熱していった。
●
足音が近づいて来る。通路の彼方、女と三匹の竜人の姿を認めた時、シャーリィ・アッシュは聖剣を構えた。背に持つ真紅の竜翼が威圧するように広がってゆく。前方を見据え、言う。
「守らなければならないものが二つもある‥‥ここから先には通さん!」
赤竜の竜騎兵がワルキューレを手に駆け出す。コルデリアの命とディアナの意思、どちらも譲る気は無かった。氷霧の竜騎兵がそれに並んで剣と盾を構えて走り出す。館山は霧島とシャーリィへと練成強化を発動させその聖剣と氷剣に淡い光を宿し続く。
薄暗い地下道、両陣営の距離が詰まる。ベルサリアが光を纏って加速し、シャーリィがスパークを巻き起こして加速する。
「押し通ります!」
「行かせは‥‥しない!」
聖剣の女ドラグーンと鋼剣の女戦士が轟音と共に激突した。一瞬のうちに剣閃と剣閃が交差して奔り抜け、シャーリィが血飛沫が噴出して後方に押され、ベルサリアの身が木の葉のように通路の彼方へと吹っ飛んでゆく。次の瞬間、入れ替わるように三匹の竜人が入った。空中。霧島は全身からスパークを発生させ跳躍すると氷霧の剣を猛然と振り降ろした。刃が炸裂して猛烈な衝撃が発生し黄金の竜人が吹っ飛んでゆく。後続の一体が避けきれず激突し、二体の勢いが止まって落下し着地する。
「紛い物が私の前に立つな‥‥目障りだ」
シャーリィは滑空して来た竜人の剣を聖剣で弾き飛ばし、咆哮を地に叩きつけて飛び上がる、カウンター。体を竜人へとぶちあて翼を狙って切っ先を放つ。天井へと竜人が叩きつけられ大剣が入って翼が裂かれ落ちる。他の二体の竜人が霧島とシャーリィへと突っ込み、着地したベルサリアが再度光を纏って加速する。
「迅雷!」
館山、ベルサリアの進路上へ盾を構えて踊り出る。剣が迫る。激突の瞬間、男は僅かに逆手の側へと僅かに回り、そちらから盾を突き出す。大剣が盾に激突し壮絶な衝撃が巻き起こった。館山、重心低く体格を活かして構えて踏ん張り、衝撃を分散する。男は圧倒的なパワー差を前にしても吹き飛ばなかった。盾と大剣を噛み合わせて踏みとどまる。
「ディアナさんを担いだ状態で‥‥戻りたいなら‥‥僕達の事は‥‥無視、しないで‥‥ね?」
霧島が竜人を無視して切り返し、竜の翼で加速してベルサリアの後背へと急行する。
「それは――」
女は振り向きながら横へと飛び退いた。
「ディアナは動かせる状態じゃない」
館山も後退しながら自身とシャーリィへと練成治療を飛ばし言う。
「上から何を言われたのかは知らんが‥‥彼女は自分の意思で投降してきた。それを渡すわけにはいかない」
「貴方達は‥‥」
「仲間を、助けたいって気持ちは‥‥わかるけど‥‥連れて帰って‥‥どうなるの?」
霧島が言った。
「解りやすく言うなら‥‥『貴女に何が出来るのか』‥‥ていう、お話。バグアの技術が無くちゃ‥‥調整できない、とか。そういう、他人任せな理屈は‥‥どうでもいいから」
「‥‥少し、話しましょうか?」
ベルサリアは何かを取り出しつつ後方へと飛び退き押した。三体の竜人達がもまた後退して止める。
「戻ればただでは済まないでしょう。ですが、死ぬよりはマシな筈です」
「投降してきた時『私が命を放り投げたら、あいつは、なんの為に死んだんだ?』‥‥ディアナはそう言った。助けられた命を無駄に捨てることを良しとしなかったのだろうな‥‥」
とシャーリィ。
「ディアナを連れ戻せたとしても、彼女が彼女として生きることが出来るのか? 洗脳して駒扱いということは無いのか‥‥?」
「それは」
「投降して、ディアナを助けるために力を貸してくれ‥‥友の意思を重んじることも、友のすべきことだとは思わないか?」
「彼女は私達の仲間です。だから、その為なら私は命だって賭けましょう。ですが私は彼女だけの為に生きる訳にもいきません」
ベルサリアは言った。
「でも、ここから私が私の第一目的を達成するのは、残念ながら不可能のようですね‥‥取引、しませんか?」
「なに?」
館山は女を見る。
「貴方がたは、あの子を助けたいのですね? それを利用させていただくようで申し訳ありませんが、私がここでハーモニウムを去る訳にはいきません」
言ってベルサリアは懐から銀のケースを取り出した。
「これはQという名の男が開発していた試験薬です。開発者がいなくなってしまったので、作られたのはこの一ケースのみ。どれだけ効果があるかは解りません。ですが、これを投薬すれば、強化人間の細胞劣化を抑える事が出来るそうです。これと引き換えに私達を見逃していただきたい。軍兵の目がある所でまで手出しするなとは言いません。ルミスさんは撤退されたようなので――ホールの外に出るまでの間、あちらに居た仲間の方を含め、私達に手を出さないでいてくれたら、お渡しいたします。ホールを出る前に攻撃を受けたらケースの自壊装置で爆破いたします」
「‥‥あんたが言ってる事が本当だっていう証拠は?」
館山は淡々と問いかける。
「無いですね。でもこれに効果があれば、あの子が生き延びる可能性は、きっと僅かでしょうが。零ではなくなる。貴方達は何を選択しますか?」
ベルサリアはホールから外へと向かい、傭兵達はそれを見送った。その後は知らないが、討たれたという話も入ってこなかった。
戦後。
「教えろ」
金属の音が鳴った。アレックスは独房の扉に手をかけて言う。
「強化人間の調整施設とかあンだろ? くたばる前に、生きる道を探そう」
しばしの沈黙の後、咳き込みながらもディアナは以下の内容の事を言った。
「私達はチューレという名の基地に定期的に集まる」
と。
了