タイトル:【BV】地底の偵察隊マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/21 21:42

●オープニング本文


 ゴッドホープより北に八〇〇キロ。
 氷の最果ての地にその基地はある。対グリーランド・バグア軍の前線基地だ。
 バフィン海を西に臨む、その海岸沿いに彼等はやってきていた。
「まぁ、当然っちゃ当然だけど、真っ暗よね。君は海をみたか? いいえ、見てません。地下にいますからー!」
 妙なテンションで言うのは黄金の髪のコルデリア=エルメントラウド。年の頃一五、六のカンパネラ学園在学の女生徒であり、そして例に洩れずドラグーンだ。改造リンドヴルムに身を包んでいる。今回の調査隊の隊長であるらしい、一応。
「こういう時はドラグーンって暗視能力あるから便利よね」
 彼女達が現在居るのはバフィン海沿いの海岸地帯――の、その地下だった。
 グリーンランドの地下には大小合わせた様々な空洞、亀裂が蜘蛛の巣のように広がっている。UPC軍は近々行われる大規模な戦の為にその地下空洞の詳細を必要としていた。
「もっと詳しく言うなら、前線基地から北方向、海岸沿いの地帯の地下地図って事らしいわね」
 隊員からの質問に答えて少女はふふんと得意そうに胸を張って言った。
「UPCは次の戦いは地下からバグア基地へと侵攻したりとかするつもりなのかしらね? まぁ守るにしても周辺地形は把握しておかないと不味いでしょうけど」
 と小首を傾げつつ少女は言う。
 戦の第一は情報であり、情報の中でも特に重要な物の一つが地図だ。戦場の地形が解らずに戦いに出るというのは、暗闇の中に灯もともさず歩き出すのに等しい。
 故に、コルデリアを隊長とした偵察分隊はその地形の調査の為に派遣されていた。また敵性体を発見した際にはこれを排除する役割も兼ねている。
 学生である彼女が隊長というのは、はっきり言えばベストな人選ではない。しかし、今後も見据えての人事であろう。学園としては若い人材に経験を積ませておきたいのだ。これからさらに激化するであろう戦いの為にも、戦闘能力に秀でる者達を育てておきたい。消耗する一方では勝ち抜けない。
 軍では新人の士官を隊長に据えた場合は、熟練の下士官がその補佐にあてられるものだが、今回のこの調査隊でも高い依頼達成率を誇るULTの傭兵達が隊員としてつけられていた。
「ま、無茶はやらないから安心しておいて。堅実慎重迅速をもっとーに、ちゃっちゃとお仕事完了しましょ。いくわよ皆ー」


「‥‥X点付近で能力者の存在を感知した、と?」
 地下要塞の一室、部下から通信を受けた銀髪の少女は無表情で呟いた。ディアナという名の強化人間だ。ハーモニウムの一員であり、古臭い制服に身を包んでいる。
「はい、駆動音からしてドラグーンが混じっているものかと思われます」
「あからさまに囮だな」
 ディアナは断言した。コルデリア達にはハッキリとは知らされていないが、それは事実であった。静粛性に欠けるドラグーンは致命的なまでに隠密行動に向いてない。学園はそれを承知でコルデリア隊を送り込んでいた。隊長のコルデリアは戦闘能力だけなら高いが、大局を左右するほどでもなく、指揮能力は低い。成長してくれれば良し、消されても別段惜しくは無い。囮とするにはうってつけと言えた。良い迷惑なのは、そうとは知らずに同行するはめになった傭兵達であろうが、まぁ古今東西、傭兵の扱いなどそんなものだ。
「‥‥しかし、放置する訳にもいかんな。X点周辺の地形詳細を取られるとこちらの優位性が随分と低下してしまう」
 ディアナは呟き、考える。
「キミの隊に配備されているキメラはどの程度だい?」
「ミュルミドゥンナイトが三に、エウリュメドゥサが一です」
「‥‥解った。そのキメラを全部ぶつけて。他に本命が居るのだろうけど、まずはそれから」
「了解しました。吉報をお待ちください」
 その言葉を最後にぶつりと通信が切れた。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
トレイシー・バース(ga1414
20歳・♀・FT
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG

●リプレイ本文

 出発前。
「よぉー久しぶりじゃないかちびっ子〜!」
 須佐 武流(ga1461)が片手をあげ言った。
 その声に振り向いたのはバイクに跨った金髪の少女だ。須佐がちびっ子と呼ぶだけあってなかなか小柄である。
「あら、あんたまた会ったわね。お久しぶり! 確かブリュウだっけ?」
「タケルだコラ」
 こめかみをひきつらせて須佐が言う。どういう間違いだ、と思う。
「ちびっ子言わない事ね!」
 ふん、とそっぽを向いてコルデリア。どうやらわざとらしい。
 須佐はやれやれと嘆息すると、
「まぁ、今回は俺も一緒だから、仲良くやろうぜ?」
「仲良くねー‥‥まぁ無駄に喧嘩する趣味はあたしだってないけどさ。だったらちびっ子言わないでよね」
「えー?」
「あんたね!」
 グリーンランドのUPC軍基地に集合した一同はそんなこんなな挨拶をかわしている。
「コルデリアさん、お久しぶり。といっても、昨年氷狼を倒した時以来ですから‥‥覚えてらっしゃらないかもしれませんが」
 折り目正しく挨拶するのはシャーリィ・アッシュ(gb1884)だ。こちらもコルデリアと同じくカンパネラの生徒でドラグーンである。
「覚えてるわよ、お久しぶり! あの時は結構大変だったわよね」
 とコルデリア。
「そういえばあの時はトレイシーも居たっけ?」
「居たわねー、あの時は寒かったわ」
 と頷いてトレイシー・バース(ga1414)。彼女も聴講生として雪原での氷狼退治に参加していた。
「今回は地下だけどやっぱり寒そうね」
「うん、風が無い分いくらかはマシでしょうけど――あれ? それスプレー缶?」
「YES、ちょっと使ってみようと思ってね」
 ふふふと笑ってトレイシー。彼女はグリーンランドに来る前にLHのホームセンターで塗料を購入していた。何やら悪だくみをしているようだ。
「今回は地下のマップ作製、ですか。裏方作業ですけど必要なお仕事ですね」
 リュドレイク(ga8720)が言った。長身の男だ。エキスパートとして銃と剣を良く振るう。
「地下空間か‥‥どんな所なのかしら。ドキドキするわね!」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)は未だ見ぬ地下空間に対しそんな好奇心を燃やしている。
「お久しぶりです、緋沼さん」
 叢雲(ga2494)が眼帯をかけた青年――緋沼 京夜(ga6138)にそう挨拶をした。
「ああ‥‥」
 緋沼はちらりと叢雲をみやるとそうとだけ返事をした。
「‥‥京夜? 何か、あったの?」
 ケイが怪訝そうな表情を浮かべて問いかけた。以前とは随分と緋沼の雰囲気が変わっているように彼女には思えたのだ。
 緋沼はその問いかけに沈黙を以って答えた。
 微笑して叢雲が言った。
「ケイさん、β班の方のマッピングは私がやりますから、αの方、よろしくお願いしますね」
「え? ああ、そうね、任せておいて」
 頷いてケイ。叢雲はケイと打ち合わせしつつ胸中で呟く。
(「変わりゆく者、変わらざる物、か‥‥」)
 彼は最近の事も色々と耳にしていた。しかし、それでこちらの応対の何かが変わるわけでもなし、とも思う。それもまた彼だと。
「緋沼さん、頼りにしてますよ」
「‥‥ああ」
 叢雲の言葉に男は頷く。黒い瞳の奥に見えているのは何か。
――バグアは全て、狩り尽くしてやる。
 眼帯をかけた男の瞳はそう語っているように見えた。


 グリーンランドの地下洞穴への入り口。黒々とした穴が積雪の大地に顔を覗かせている。
「さて皆さん、宝の地図とランチのバスケットは持ったか?」
 須佐がそんな軽口を叩く。「ピクニックに行くんじゃないんだからね」とコルデリアが文句を言っていた。
(「ドラグーンによる地下の探索か」)
 大神 直人(gb1865)はちらりとコルデリアを見やり呟く。
(「十中八九、囮扱いだろうけど彼女は気付いてないだろうな、きっと。裏事情とか考えるの苦手そうだしな」)
 告げておくべきかとも思ったが、こういうのは自分で気付かないと意味がない、依頼が終わるまでは黙っておくかと大神は思う。
「アースクエイクを駆使したバグアならこんな所に巨大な基地を作っていてもおかしくないのですけど、いざ探索するとなると‥‥頑張ってみます」
 辰巳 空(ga4698)がそんな所感を述べた。医者を本業とするビーストマンである。
「ところでさ、二班に別れて探索する訳だけど、敵に襲われたりした時はどうするの?」
 コルデリアが小首を傾げて問いかけた。
「その時は‥‥他班に連絡を入れて合流を優先させた方が良いでしょうね」
 と辰巳は答えて言う。
「でもさ、地下って結構入り組んでるって話でしょう? 無線は通じる範囲で行動すれば良いと思うけど、口頭で言ってお互いの位置が解るかしら?」
「迷う可能性があるか‥‥」
 黒いグラスをかけた男がハスキーボイスで渋く呟いた。杠葉 凛生(gb6638)だ。
「‥‥前もって予めベースポイントを設定しておき、襲撃された際にはそこまで敵を引き付けてから戦う、というのはどうだ?」
「あ、それ良いわね、採用!」
 杠葉の提案に頷いてコルデリア。一同は他の諸々も打ち合わせると、
「んじゃ、手筈はそういう事で――準備は良いな? 行くぞ」
 須佐が言って穴の中へと向かう。
「穴倉探検に出発、といきますか」
 叢雲がそれに続き、一同もまた地下へと降りて行ったのだった。


 バフィン海を西に見るグリーンランド雪原の地下深く、傭兵達は北上を続け、やがて調査指定領域に到達した。
 傭兵達は早速調査に取り掛かり一つ目の空洞を調査し終えるとさらに北へと進んだ。亀裂の中に入る。この辺りの地下空間は幾つかの巨大なドーム状の空洞と無数の細い亀裂からできる通路から成っているようだった。
 通路の途中にあった別れ道でα班は右へと向かい、β班は左へと向かう事にする。一つ目の空洞を第一のベース地点と定め危急の際にはそこに集まる事に決めた。
 右手に向かったα班で計測を担当するのは大神だった。ホイールメジャーを転がして距離を計り、十メートルごとにケイに報告してゆく。
 報告を受けたケイは方眼紙を手に一マスを十メートルとして記入してゆく。腰にはランタンをぶら下げていた。地形に難がありそうな部分は塗りつぶしまた射線を引き注意書きを加えてゆく。
 計測者とマッパーを中心に前方は緋沼と杠葉が立ち、後方は辰巳が固めて警戒している。
 緋沼はハンドライトをベルトで腕に固定し前方を照らしている。杠葉は探査の目を発動させて罠や急襲に備えていた。ワイヤーや赤外線センサーなどのトラップ、盗聴器やカメラの類も警戒していたが今の所バグア軍の手が入った形跡は無い。UPC軍のそれも感じられなかった。自然のままの空洞だ。
 辰巳は自前の懐中電灯を使って後方を照らして警戒し、時折ケイに言って作成中の地図を見せてもらい、携帯のカメラを使ってメモリに記憶している。
 計測に多少の誤差はあったがα班は順調に地図を製作していった。
 一方のβ班。
 計測を担当するのはトレイシーだ。計器に注意を払いながらホイールメジャーをひたすらに転がしてゆく。
 β班のマッパーを務めるのは叢雲。こちらもα班と同様に方眼紙一マスを十メートルとして地図の作成にあたっている。足場の悪い地点などにはやはり注意のマークを入れておく。
 β班の前方で警戒に当たっているのは須佐とリュドレイクだ。須佐は壁、床、天井に注意を払い、音や匂い気配などを感知しようと五感を澄ましている。リュドレイクはハンドライトを使って周囲を照らし探査の目を発動させて周辺の警戒を強化していた。
 班の後方を守るのはドラグーンの二名、シャーリィとコルデリアだ。シャーリィはできるだけ動きを控えて駆動御を減らさんと試みている。
 β班は左手に曲がった先にあった二つ目の空洞を調べ終わるとまた奥へと進み亀裂の中に入った。しばらく進むとまた別れ道に出る。とりあえず左へと向かった。しかし右の方も放置する訳にはいかないので、後で探索する必要があるだろう。地下空洞はかなり北方まで伸びているようなので手の法則で外周をなぞってゆくと、北の果てまで行く事になってしまいそうだったからだ。司令部からの指定領域内で探索は済ませるべきだろう。
「‥‥行き止まり、ですね」
 通路の最奥まで進んだ時リュドレイクが言った。地下通路は蟻の巣のように入り組んでいる。なかなか厄介だ。
「‥‥何やってるんです?」
 叢雲はトレイシーが塗料を壁に吹きつけているのを見て疑問に思い問いかけた。リュドレイクなども別れ道で蛍光カラーのペイント弾を撃ち込んだりしていたが、トレイシーの塗料はそういった目印とはまた違うように思えた。
「あ、これ?」
 トレイシーが振り返って笑った。眼がきらきらと輝いている。
 叢雲がライトを当てて覗きこんでみると『上を見てみろ』と英語で書かれていた。その間にトレイシーは上部の岩壁に塗料をまた吹きつけている。そちらも見やると壁には『jackass!!』と書き込まれていた。分岐点の所でも何やらやっていた様子だったから、きっとそこにも何がしら指示が書いてあるのだろう。
「最終地点がここという訳ですか」
 やれやれと嘆息して叢雲は言い、トレイシーは笑った。
 そんなこんなをやりつつβ班の面々は前の分岐点まで引き返し右の通路へと向かったのだった。


 調査を開始して大分経った頃、リュドレイクは空洞の彼方、走査するライトの中に影がよぎったのを見た。黒の甲殻、鈍く光る槍の穂先、蟻人だ。
「キメラです!」
 男は注意を発し傭兵達は調査の手を止め踵を返し走りだす。
「ベースポイントまで走れッ!」
 須佐が言いコルデリアは無線を用いて他班に連絡を入れた。辰巳から了解、との報が返って来る。
 その間にもキメラ達は猛然と傭兵達へと突進してきていた。三体の蟻人よりは傭兵達の方が速い。しかし鎧兜に身を包んだ女戦士は別だ。蟻の翼を開いた女戦士は闇の宙を風のように翔けみるみるうちに距離を詰めてくる。
「亀裂の中に、急いでくださいっ!」
 天井が低く狭い場所へ入れば飛べはしない筈だ――叢雲はそう考えて声を発する。
 だが撤退に移る傭兵達が通路に飛び込むよりも前に、距離を詰めた女戦士は激しく明滅するプラズマの槍を手に出現させ投擲してきた。狙いは最後尾を走るリュドレイク。
 光の槍が闇を切り裂いて稲妻の如くに奔りリュドレイクの背に激突した。猛烈な爆裂が巻き起こる。リュドレイクの背の装甲が吹き飛び肉片が散り、焦げ臭い匂いと共に煙が吹き上がった。
 激痛と突き抜ける衝撃に駆ける男の身が傾ぐ。
「リュドレイクさん!」
 シャーリィが振り返って声を発した。
「――大丈夫ですっ!」
 リュドレイクは歯を喰いしばって足を踏みだし転倒を堪え、全霊を振り絞って駆ける。咄嗟に張った自身障壁が幾分かダメージを和らげていた。また基本的に彼はなかなか頑丈だ。簡単には倒れない。
 二撃目の雷撃が放たれた瞬間にはリュドレイクも仲間達と同様に通路の中へと飛びこんでいた。雷撃の槍が後方で炸裂して爆風を巻き起こす。
 β班の面々はベースポイントを目指して駆けた。


 一方、α班がベースポイントの空洞に辿りついた時には彼等以外に動くものはまだなかった。
「‥‥あちらは無事なのかしら?」
 ケイが銀の銃を抜きつつ呟きを洩らす。
「通信は先から切れてますね‥‥」
 辰巳が無線機を手に答えた。
「ジャミングが強くなっているのか、かなり切羽詰っているのか、もしくは」
 やられたのか。
「簡単に死ぬような連中じゃない」
 緋沼が言った。
「‥‥そうですね」
 大神が頷く。
 杠葉は言葉を発する事なくじっと闇の彼方を見据えている。
 待つ事しばし。実際はさほどの時ではなかったがα班の面々には恐ろしく長く感じられた。不意に闇の中を見据えていた杠葉が声を洩らした。
「おいでなすったようだ‥‥行くぞ、緋沼」
 男は言ってリボルバーを右手にオートマチックを左手に動き出す。
 闇の彼方から数名の人間が走って来ていた。先頭を走っているのは須佐か。α班の面々はβ班の面々の方へと駆け出す。
「来るぞ!」
 α班と合流したβ班の面々は踵を返し向き直る。通路から次々に女戦士と槍を持った三体の蟻人騎士が飛び出して来た。鎧兜に身を包んだ女戦士は大空洞に出ると跳躍し蟻の翼を広げて宙へと舞い上がる。
 辰巳はS‐01拳銃を取りだすと宙の女戦士エウリュメドゥサへと銃口を向けた。軌道を予測し発砲。跳ね上がる反動を抑えつつ連射。轟く銃声と共に怒涛の勢いで六連の弾丸が飛び出す。次々に女戦士の鎧に命中し装甲に傷を与えた。しかし突き刺さるまでは至らず弾かれる。
(「硬い‥‥!」)
 辰巳は胸中で舌打ちする。効いてない訳ではないだろうが効果が低い。考える。装甲の隙間を狙うか威力自体が高い攻撃に切り替えるべきだろうか?
 緋沼、シャーリィ、リュドレイク、コルデリアはそれぞれ剣と槍槌を手に駆け出す。
「蟻人は酸を吐きます、気をつけて!」
 駆けつつ竜の瞳を発動させたシャーリィが一同に注意を飛ばした。
 須佐は機械巻物「雷遁」に呼びかけるとエウリュメドゥサへ向けて電磁嵐を解き放った。エウリュメドゥサは回避動作に入ったが、しかしかわしきれず蒼光の電磁嵐に呑まれてゆく。七連の電撃が激しく装甲を焼き焦がす。かなりの破壊力だ。
 女戦士は怒りの咆哮をあげると爆裂する光槍を手に発生させ須佐へと次々に投擲した。稲妻と化して閃光が迫り来る。須佐は冷静に軌道を見切るとコンパクトに機動して悉くを回避してゆく。大地にプラズマランスが激突し猛烈な爆発を巻き起こした。
 叢雲は十字架銃を構えると宙のエウリュメドゥサへと向けた。甲冑の継ぎ目を狙う。猛射。嵐の如く弾丸が飛び出し女戦士の身に命中してゆく。何割かの弾丸が甲冑に当たって火花を巻き起こしながら弾かれる。残りの弾丸は狙い違わず甲冑の隙間に滑り込みその奥の身をぶち抜いた。鮮血が吹き上がる。叢雲は十字架銃を構え直し素早くリロードする。
 ケイ・リヒャルトはエネルギーガンを構え練力を解き放つと宙の女戦士へ猛射した。眩く輝く閃光が飛び出し女戦士に炸裂する。閃光が装甲を穿ち融解させてゆく。強烈な破壊力だ。
 トレイシーもまたS‐01拳銃を構えると宙の女戦士へと火線を合わせ連射してゆく。銃声と共に拳銃弾が飛んだ。エウリュメドゥサは猛攻を受けながらも旋回する。二発の銃弾を回避し、残りを装甲の厚い部分で弾き飛ばす。拳銃で狙うには少し分が悪いか。
 大神はエネルギーガンでエウメリュドゥサの腕へと狙いをつけ閃光を連射する。女戦士は急降下して一撃、二撃とかわしてゆく。三撃目が炸裂し四撃目が外れた。光が装甲を削り取る。悪く無い破壊力だ。当てられれば効く。エウメリュドゥサは猛攻の前に既にボロボロになっている。撃墜までもう一押しか。
「お前の憤怒の業火を乗せ、奴らを喰らい尽くせ」
 杠葉は緋沼の背に声を投げると男が向かう先、三体いるうちの中央の蟻人騎士へと左右の拳銃の銃口を向けた。狙いは膝の鎧の継ぎ目。練力を全開にして発砲。轟音と共にリボルバーとオートマチックが焔を吹き上げ嵐の如くに弾丸が飛び出してゆく。五連射。
 蟻人は迫り来る弾丸に素早く反応すると左足を前に大地を踏みしめ半身となり大楯の陰に身の大半を隠す。弾丸が盾の表面に激突して激しく火花を散らした。
「おおおおおっ!」
 裂帛の気合と共に闇の剣と盾を構え緋沼が飛び込んだ。真紅の隻眼が黄昏の赤に輝き全身からも焔のオーラが吹き上がる。緋沼が戦う理由は奴らにけじめをつけさせ、自身の憎悪にケリをつける為だ。それで初めて先へ進める。立ち塞がるバグアの尖兵は潰さねばならない。男は猛然と蟻人騎士の側面に踏み込み業火に燃える切っ先を鋭く突き出した。荒れ狂う憎悪を鋭利な殺意へと研ぎ澄まし、容赦も慈悲もなく、一秒でも早く。
 蟻人が深く身を沈める。
 闇火の剣が紅い軌跡を描く。
 切っ先が蟻人が纏う重厚な胸甲に激突し切っ先が火花を撒き散らしながら滑ってゆく。蟻人騎士は口を開くとその咥内から散弾の如くに酸の球を吐き出す。緋沼は盾をかざして酸を受けかわす。蟻人はその隙に一歩後退すると右手に持つ槍で緋沼の膝裏狙って鞭の如くに薙ぎ払った。緋沼は片膝を上げるとベリアルの脛甲で刃を受け止める。強烈な衝撃が脚部を貫く。だが耐えられない程ではない。冷静に衝撃を流しつつ踏み込み、練力を全開にして闇剣を振り下ろした。刃が槍の柄に命中し喰い込む――硬い。中に何か合金の芯が入っている。容易くは切断させては貰えないようだ。蟻人が酸を吐き出し緋沼は盾でかわし剣を打ちこむ。蟻人が大楯をかざして受け轟音と共に刃と盾の間で火花が散った。
 コルデリアが槍槌を構えて駆け右端の蟻人騎士へと向かう。蟻人は顎を開くとドラグーンへと向けて酸を嵐の如く連射した。
「うわっと?!」
 数発をかわしたコルデリアだったが残りをかわしきれずその身が焼かれて白煙が吹き上がる。速度の鈍った少女の脇をシャーリィ・アッシュが追い抜いてゆきバスタードソードを手に蟻人騎士へと迫った。
「いくら装甲とフォースフィールドがあろうと‥‥衝撃までは完全に殺せまいっ!」
 裂帛の気合と共に練力を解き放ち全身からスパークを発生させて斬りかかる。竜の咆哮だ。蟻人が盾をかざす。長剣と盾が激突し猛烈な衝撃が蟻人を貫いてゆく。蟻人の身が浮き上がる。吹き飛んだ。
 重厚な鎧兜に身を包んだ蟻人の身が木の葉の如くに舞い飛び、背から岩壁に叩きつけられる。シャーリィは竜の翼で加速しスパークを纏ったまま突っ込んだ。咆哮を乗せて片手半剣で薙ぎ払う。蟻人は慌てたように身を投げ出し辛くも一撃を掻い潜った。次の瞬間、長剣の切っ先が岩肌に激突し爆砕して破片を周辺に撒き散らす。
 蟻人は岩石の破片が宙を舞う中、素早く身を切り返し、シャーリィへと鋭く槍を突き出す。女ドラグーンは剣を素早く引き戻し正面に立てると穂先を逸らすように払った。甲高い音と共に槍が横に流れてゆく。シャーリーは払った剣の手首を返し、蟻人の首元の隙間を狙って袈裟に斬り込む。蟻人は素早く盾を翳して受け止めた。
 横合いからスパークを纏ったドラグーンが突っ込んで来て槍槌を蟻人騎士の膝裏に叩き込んだ。鈍い音共に蟻人騎士の身が揺らぎ、隙を逃さずシャーリィは長剣を突き込む。刃が蟻人の装甲の隙間に入り鈍い手ごたえをシャーリィに伝えた。
 リュドレイクは鬼蛍を手に左端の蟻人を目がけて駆けている。蟻人が口を開き酸を飛ばす。液体の嵐がリュドレイクの身に命中し激しく身を焼き白煙を吹き上げた。リュドレイクは間合いを詰めると太刀を八双の位置に振り上げ袈裟に斬りこむ。蟻人が大楯を翳して受け止める。リュドレイクは再度太刀を振りかぶり斬りつける。盾と刃がかみ合って鈍い音を立てた。蟻人が一歩踏み込み盾をぶつけるようにして男を押し飛ばす。間合いを広げると猛然と穂先を繰り出した。リュドレイクは鬼蛍を振り上げて打ち払う。周囲に鈍い音が鳴り響いた。
 辰巳は朱鳳を引き抜くと練力を全開にして五連の剣閃を巻き起こした。黒い衝撃波が嵐の如く巻き起こり宙のエウメリュドゥサへと突き進む。黒い嵐が女戦士を呑み込み、その翼を砕いて地へと叩き落とした。撃墜。
 叢雲は横手に回り込むとリュドレイクと斬り合っている蟻人へ狙いを定め発砲。弾丸が蟻人の鎧に激突し衝撃を伝えてゆく。
 リュドレイクは動きが鈍った瞬間を狙い澄まし鬼蛍を叩き叩き込む。刃が炸裂し隙間から体液が吹き上がった。
 蟻人が叫び声をあげながら酸を吐き出す。リュドレイクの身に酸が命中し白煙が噴き上がる。衝撃に揺らぐ男へと蟻人が猛然と槍を振り上げる。須佐が跳躍しながら飛び込んできて目にも止まらぬ速度で蟻人の槍持つ腕を蹴り抜いた。打ち抜かれた槍が手から抜け明後日の方向へと飛んでゆく。
 態勢を立て直したリュドレイクが太刀を振り上げて打ち込み、蟻人は後退しながら予備の剣を抜き、須佐が脚爪「オセ」を用いフェイントを織り交ぜて蹴りを放つ。太刀と盾が激突して火花を散らし爪が蟻人の側頭部を強打した。
 緋沼が剣を打ちこみ蟻人が盾で受け、反撃の槍を緋沼は飛び退いてかわす。瞬間、ケイ、トレイシー、杠葉からの射撃が中央の蟻人騎士に襲いかかった。六連のエネルギー弾が炸裂し四連の拳銃弾が飛び、六連の弾丸が勢い良く飛び出してゆく。強烈な閃光が蟻人の盾の表面を溶かしてゆく。杠葉は隙間を狙っている。サイドから放たれた弾丸が首や脇の関節部に滑り込みその奥までを貫いた。射撃の嵐に晒された蟻人は体液を噴出し白煙を吹き上げながらよろめく。
 緋沼が闇剣を翳して突っ込む。蟻人は咆哮をあげながらカウンターの酸を繰り出す。男はそのまま突っ込んだ。強酸に身を焼き焦がされながらも首を目がけ刃を突きだす。紅い光が宙に凶悪な軌跡を残し切っ先が蟻人騎士の首を貫通する。間髪入れずに突き刺した刃をそのまま横に払う。蟻人の首が半ばから断たれ噴水の如く体液が噴出した。
「砕け散れ――お前達が失い、奪われる番だ」
 緋沼は昏く赤い隻眼をギラつかせ、まだ足掻こうとする蟻人の頭部を力に任せて叩きつける。砕かれもげた頭部が吹っ飛んでゆき蟻人の身が大地に叩きつけられた。撃破。
 シャーリィとコルデリアは左右から挟みこむようにして蟻人に攻撃を仕掛けている。蟻人は槍槌を盾でかわし剣を槍で払い猛攻を防ぎ、顎を開いて酸を乱射し反撃する。
 大神直人は銀銃の銃口をキメラの咥内へ向けて閃光を連射した。一閃が蟻人の顔の横を通り過ぎて壁に突き刺さり続く二撃目が首をふって回避される。三撃目も外れ。練力を全開にして解き放つ。ドラグーンの頭部に激しく明滅するスパークが巻き起こった。竜の瞳だ。
(「これなら‥‥どうだ!」)
 出し惜しみは無しだ。全霊を込められた一射は宙を焼き焦がして走り、蟻人の咥内へと吸い込まれるように突き刺さってゆく。次の瞬間、咥内で光が爆裂し肉片が飛び散った。蟻人がよろめく。コルデリアがすかさず踏み込んで槍槌で蟻人を殴りつけ、シャーリが練力を全開にして長剣を振り抜いた。剣が首元に入る。渾身の力を込めて引き斬る。体液が勢い良く噴出した。シャーリィとコルデリアは連打を浴びせて蟻人を打ち倒す。
 左端の蟻人騎士。須佐は細かくステップし盾の脇に回り込みつつ中段、下段と蹴りを打ち分けフェイントを織り交ぜて蟻人騎士の注意を逸らし、リュドレイクが鬼蛍を振りかぶって斬りつける。蟻人が剣で太刀を受ける。須佐は回し蹴りを放って蟻人の頭部へと爪を叩きつけた。
 リュドレイクが練力を全開にした。
 太刀に爆熱の輝きを巻き起こし渾身の力を込めて逆袈裟に振り抜く。刃が蟻人の剣持つ右腕に炸裂し、切断した。蟻人の肘から先が切断されくるくると回転しながら宙を飛んでゆく。
 蟻人はそれでも酸を吐き出し抵抗せんとしたが最早最後のあがき、他方を片付けた傭兵達も殺到し集中攻撃を受けて沈んだのだった。


 キメラの一団を撃退した傭兵達はその後も地下空間の調査を続けやがて指定域の一通りの作成を完了させた。
「よし、だいぶ地図も書けたか?」
 ベースポイントに集合し両班が作成した地図を見やりながら須佐が言った。
「うん! 良く出来てると思う。これなら司令部も文句言わないわ!」
 と満足そうに言うのはコルデリアだ。
「そうか、じゃあこれで任務は完了かな。今回も無事で何よりだ。‥‥なぁ、ちびっこ? よくがんばった、偉いぞ?」
「‥‥だっからちびっこって言うなって言ってるでしょうがっ!」
 きー、と叫んでドラグーン少女。
 そんなこんなやり取りを傍目に緋沼は地に転がる岩に腰を降ろす。空洞の闇の彼方を見据えていた杠葉は煙草を取り出して一本咥えた。そのままシガーケースを緋沼の眼前に差し出す。
 緋沼は一本の煙草を譲り受けると口に咥えた。手で防風を造り煙草に火を灯している杠葉を見上げる。
「火‥‥もらえるか?」
 杠葉は無言でジッポを差し出した。緋沼は受け取ると煙草の先に火を灯し、深く息を吸って吐いた。
 煙がライトに照らされる空洞を流れてゆく。
 やがて先の闇に呑まれて消えた。
――憎悪の先に何を見るのか。
 無言のまま男達は戦いの意味を噛み締める。
 緋沼は思う。憎悪は悪であり、自身のために他者を殺す、バグアと変わらず、戻るものも掴むものも無い。
 杠葉は煙の先を見ている。
 しかし、心は煙よりも闇よりも遠い過去の彼方へ。
 全てを捨て去り、ただ1つの目的のために生き、最後に残るものは何も無い。


 地下深く、闇の中に灯る小さな光の円の中、賑やかな喧騒の傍らで紫煙が静かに流れてゆく。
 光と闇と、行きつく果ては何処なのか。
 それはまだ、誰も知らない。



 了