タイトル:コルデリアドラグーンマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/22 16:55

●オープニング本文


――Learn from yesterday、live for today、 hope for tomorrow.
 過去から学び、今日のために生き、未来に希望を持て――大意はつまり、そんなとこらしいわ。
 これってシンプルだけど結構、良い言葉よね。うん、シンプルで良い言葉っていうのは、つまり凄く良いってことよ。
 LFY‐LFT‐HFT(勝手ながら略させていただくわっ)があたしが通ってる学園の基本理念らしいの。これを実践してる人はきっと凄いと思う。今の時代ってとっても希望が持ちづらいもの。
 かくいうあたしも希望を失いかけてた。今年の誕生日に受けた能力者の検査で適正ありって出たから。
 千人に一人の素晴らしい幸運じゃないかって? ――冗談! あたしはね、選ばれた戦士だとか、英雄だとか、そんなものには興味がないの。
 適正ありって出たら能力者になってバグアと戦わなけりゃならない。強制じゃないっていうけど、世間での居心地悪すぎるもの。適正があるのに戦わないってなると多くの人から白い目で見られる。
 別にあたし自身はそんなの知ったこっちゃないけど、パパやママや弟や妹達、あたしの大切な家族が近所や職場で白眼視されて肩身の狭い思いをさせられるなんてあんまりじゃない? 特に一番下の弟なんて気が弱いから絶対これをネタに学校でいじめられちゃうわよ。ママなんて自殺しちゃうかも。
 そんなの嫌だ。だから私は、行かなくちゃならない。でもやっぱり出来る事なら、戦争になんて行きたくない。
 だってさー、あたしまだ十六歳なのよ?! 何が悲しくて血みどろの戦いで青春を棒にふらなけりゃならないんだっていうのよ!
 異星人との戦争に人生の全てを捧げる? 冗談じゃないわ!
 人類の為に身を粉にして戦え?! やってらんないっての!
 そりゃちょっとくらいなら人助けだって悪くはないと思うけど、それだって限度があるわよ。
 聞いた話じゃ学生でも人によっちゃ毎日毎日激戦地でぼろぼろになるまで戦わされるらしいじゃない。格好良いとか誰かは言ってたけど、それが自分の身にふりかかるとなると寒気がするわ。
 なんであたしなの?
 あたし、バスケの大会で全国制覇したかったのよ。その為にずっと努力してきた。自慢だけどチームの中じゃエースだったわ。最近は他のメンバーも調子よかったから、今年こそはいけると思ってたのに。
 あたし、一生に一度しかないスクールライフって奴をエンジョイしたかったのよ。友達と学校帰りに食べあるったりさー、綺麗な服来て皆で街に繰り出したりさー、それでもってどっかの素敵な王子様と恋とかなんかしちゃったりして、えへ。まぁ、生憎、それっぽいのは故郷にはいなかったんだけどね‥‥でも、でも、可能性くらいはあった筈よね。
――全部それもありえなくなった。
 あたしが望んだ未来は消えた。あの日から、適正ありと診断されたその日から、あたしの人生の全ては、変わったんだ。
 知ってる。それはそれほど特別な事じゃない。
 あたし達の生活はバグアと戦っている人達によって守られている。今度は、あたしがそっち側にいくだけ。
 だから諦めた。
 でも、願わくば。
 ああ、願わくば。
 もう私以外に、私の家族から、能力者なんて存在がでませんように。



 と、まぁそんな訳で当時は随分とへこんじゃったもんだけど、今じゃすっかり慣れたわ。偶に悲しくなる時もあるけどね。でも存外、能力者の生活ってのも想像していたよりは悪くないみたい。
 なんでも幼い能力者達のその生活が随分酷いっていうので、近年ではせめて教育くらいはと能力者向けの学園が設立されてたのよね。それのおかげで随分と変わったと聞くわ。
 その学園ってカンパネラっていってラストホープにあるの。あたしが通ってる学園っていうのがそれ。
 最初は軍事学校だからどんなものかと身構えたけど、存外にフツーな雰囲気なのよね。どこにでもあるやや開放的な学校の雰囲気。
 能力者の学校がこれって、呑気すぎるんじゃないかしら? ってむしろあたしが心配しちゃうぐらいに学校してる学校よ。
 カンパネラの良い所は色々あるけど、その第一は――ズバリ、格好良い先生が沢山いるってとこね! いやぁ憧れちゃうわ〜
 あたしが贔屓にしているのはエドウィン=ブルースって先生。歳は四十過ぎてて結構なオジサンなんだけど、これがまた渋くて格好良いのよ。元英国空軍のパイロットで、能力者として活躍もしたんだけど怪我で身体の調子を崩してからはカンパネラで教師をやっているんだって。その人の講義は解り易くて面白くて、あたしは大好きだわ。
 でもたった一つだけど、不満があるの。
「‥‥なんで、ついてくるのがエドじゃなくてあんたなの?」
 あたしは凍土を踏みしめながらぼやいた。あたりは薄暗く、空は灰色、風は荒び、氷雪が咆哮をあげている。ここは吹雪のグリーンランド、バグアと人類が激闘を繰り広げている氷の大地だ。
「エドウィンは調子を崩したから教師をやっているのだと言ったろう。吹雪の中でキメラを相手に実戦をやるのは厳しい」
 真っ白いコートを着込んだ背丈の低い少年が答えた。腰の左右に金属の筒を二本ぶらさげている。
 そう実地訓練になるといつもこいつが出てくるんだ。
 この男の子の歳は正確なとこ知らないけど、どうみても十二、三よ。なのに教員、非常勤とはいえ教える側だっていうんだから、おかわしいわよ世の中。可愛げがあるならまだ許せたんだけど、やたらと斜に構えていて実に生意気なの。気に入らないわ。
 エド先生は「コルデリア、年齢で判断しちゃいけない。彼はクォリン=ロングフットと異名を取った凄腕の傭兵さ」って最初会った時に紹介してくれたけど‥‥長足ねぇ?
「見た目的には足、短くない? 背ちっちゃいし」
「座高は普通だぞ、猿女」
「誰が猿女ですって、むきゃー!」
 なんて事もあったわね。ほんとムカツク餓鬼よ。
「氷狼が出るのはこの辺りだ」黒髪の童子が言った「ぼけっとするな。死ぬぞ」
「うるさいわね。あんたにそんなこと言われたくないのよ!」
 エド先生の講義の一環としてあたし達はグリーンランドに来ていた。付近の村へと襲撃をかけてくるキメラの退治が試験内容。キメラをあたし達だけで倒せば単位がもらえる。クォリンは保険らしいわ。基本的に見てるだけ。もし彼が戦うような事になったら試験は失敗、単位はもらえないってことらしい。ほんと偉そうな立場よね。
「氷狼なんてあたしにかかればすぺぺぺぺいだっての!」
「だと良いんだがな――氷狼は物理攻撃しか行わないが、体躯は巨大で膂力は強靭だ。その爪牙はAU−KVの装甲とて容易く貫く。強敵だぞ」
 気に入らないわ。講師だか凄腕だかなんだか知らないけど、絶対にあたし達の事を甘く見ている。あたしはね、伊達でローリングストーン校のエースと呼ばれた訳じゃないのよ!
 見てなさい、完璧に試験をクリアしてこの小僧の鼻をあかしてやるわ!

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
トレイシー・バース(ga1414
20歳・♀・FT
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

 曇天と吹きつけてくる白の世界。天気は相変わらずくそったれだ。
(「あー糞寒ぃ、吹雪凄すぎで火もつかないしよぉ‥‥」)
 いらいらする。芹沢ヒロミ(gb2089)は胸中で呟き、言った。
「とっとと氷狼倒して帰ろうぜ。単位貰って、んで報酬で美味いもん食いに行く。これだ」
「お、騒ぐんなら一口乗るぜ?」
 アレックス(gb3735)が言った。皆でわいわいやるのは好きである。
「それも‥良いかも‥‥しれない‥‥ね」
楽しい事を求める霧島 和哉(gb1893)も吶々と言った。
「皆‥無事に‥勝てれば‥‥だけど‥‥」
「さて、どうかな」
 と大神 直人(gb1865)。仲間達を見渡して――ただしコルデリアは除き――苦笑しながら言った。
「腕試しのつもりで参加したけど、今回は学園でも腕利きの連中ばかりだから、むしろKV級でも物足りないかもしれないな」
「‥‥なーんか、視線がひっかかるわねぇっ?」
 片眉をあげてコルデリア。
「うーん、だって俺コルデリアさんとは一緒に戦った事無いから腕前解らないし」
「むきーっ! 良いでしょう、証明してみせるわ、あたしの実力って奴をーっ!」
 拳を握ってコルデリア。バックに炎でも見えそうな勢いだ。
「あっはっは、元気な事だね」
 大泰司 慈海(ga0173)が和やかに笑って言った。
「元気なのは素敵な事だけど‥‥無理はしないでねコルデリアちゃん。俺、女の子が怪我したりするのを見るの辛いんだ」
「ありがと慈海、でもさ、殺される覚悟なくしてどうして相手の命を殺りにいけるというの? 怪我なんて問題以前よ」
「それは‥‥うん、そうだねぇ。でも、だからこそ無理はして欲しくないってのもあるかな」
「大泰司の言う通りだぜ、無理は禁物だ。一人で突っ走って勝てる相手じゃねぇだろう?」
 アレックスが言った。
「コルデリア、あんたの腕を見込んで頼みがあるんだ。一つ協力してくれねぇか?」
「むぅ‥‥何かしら?」
 少年達はざっと作戦の説明を行う。
「‥‥一応聞くけど、氷狼出現予想地点まで前進、じゃなくてその少しっていうか、かなり手前まで前進、よね?」
 コルデリアが作戦の流れを説明する大神に確認した。予想されている遭遇点へと直接行ってしまっては即戦闘に突入である。敵と交戦しながらその敵の足をひっかける為のワイヤーを岩に結びつけるというのは少々難易度が高い。
「ん、ああ、それはそうだな。敵とて虚空からいきなり沸いて出てくる訳ではないしな」
 と大神。言い間違えたか。遭遇予想点まで行かずとも、相手の感覚が許す範囲に近づけば――罠を設置し終える前にあちらが気付いて突っ込んで来てしまうだろう。
 多少手順を修正して説明しコルデリアからの協力をとりつけた一同は、作戦に基づき動き出す。
 風は北から吹いている。一同は風下から数分ほど北へと進むと雪原に転がる適当な二つの人の身丈の大岩に検討をつけ、罠の設置を開始した。
(「うー、寒い寒い寒い! ガッデム、ジーザス!」)
 吹きつける吹雪の中、大岩の傍らで作業しながらトレイシー・バース(ga1414)は胸中で叫んでいた。彼女は毛皮の帽子や軍用コートをまとっている為、この−三〇℃という気温の中でも動けているが、それでも寒い事に変わりはない。
「はやいところ設置完了といきたいわね」
 狐月 銀子(gb2552)が小声でそっと言った。作業ついでに誘い込む場所の地形をざっと把握しておく。
 彼女達が岩に巻きつけているのは、主に建設などに使われるtクラスの重量にも耐えられる極太ワイヤーを三本合わせて一本に編んだものだった。これならば氷狼相手にもある程度は通用するはずである。雪原に転がる人の身大の大岩を二つ選び、ワイヤーを何重にも巻きつけて強く結ぶ。張る高さは身長二mのトレーシーの胸のあたり、平均男子の頭部程度の所としておいた。
「これで多少なりとも止められると良いですね」
 と囁くようにシャーリィ・アッシュ(gb1884)。
「そうね。ダメージを与える為の隙の一つでも作れれば御の字だけど‥‥」
 トレイシーは声を抑えて頷き、言った。多くは望まない――しかし、強く巻きつけ結びはしたが何かが足りない気がした。
 ワイヤー自体の強度は三重にしたことによりそれなりの強度だ。だが、
(「‥‥工具でも持ってくればよかったかしらね」)
 設置の方法。
 岩とワイヤーの上から十数個U字の金属片でも打ちこんでおけば、それなりの強度で固定できたかもしれないが、持って来てないものは仕方無い。トレイシーは幸運を神に祈った。
 やがて作業は終了し、もう一つの岩の方からも終了の報せが入る。準備を終えた一同は再び雪原を北上を開始する。
 歩くこと数分、十分と経たず吹雪の彼方から巨大な影が近づいてくるのが見えた。小山のごとく巨大な影が積雪を爆砕しながら真っ直ぐにこちらへと駆けてきている。
「――っ、気付かれてる!」
 大泰司が叫んだ。作戦では飛び道具で奇襲をかける予定だったが、AU‐KVは駆動音がなかなか喧しい。相手は狼だ、五感は鋭い。風下からでも限度がある。
「ちっ!」
 ミカエルに身を包む芹沢が舌打ちし撃熱を構える。
「相手は強敵、しかし、負ける気など微塵も無い!」
 緑光と共に覚醒したシャーリィ・アッシュが瞳を金色に変え吼えた。ともすれば威圧されそうになる一同を鼓舞するよう裂帛の気合と共に片手半剣を抜き放つ。鋼鉄の刃が吹雪の中に煌めいた。
「ふふっ、予定とはちょっと違うけどカーニバルの始まりよ‥‥! 準備は良いわね?」
 照明銃を構えて狐月が笑った。吹雪の彼方から猛烈な咆哮が鳴り響く。肝の底から震わせる巨狼の声だ。獲物を狩り尽くさんという殺意が見えた。
「罠まで退くか?!」
 アレックスは既に閃光手榴弾のピンを抜いていた。通常、この兵器は炸裂するまでに三十秒かかる。早めに抜いておくか特殊なやり方をしないと即戦では扱いづらい。
「いえ、迎え撃ちましょう!」
 トレイシーが言った。狼の速度が速い。気付かれているとなると背を向けるリスクは多大だ。トレイシーが見るにあのトラップはリスクと引き換えにするだけの信頼性が無いと判断された。後退する為に閃光銃と閃光手榴弾で隙を作るなら、その隙に直接攻撃を叩き込んだ方が確実だ。
「了解!」
 大神は拳銃を抜き、コルデリアはメットを降ろして鎚矛を構える。
「危ない時は‥‥僕の、後ろに‥‥避難して‥‥くれれば、いいから‥‥ね?」
 バハムートに身を固めた霧島が楯を構えつつ呟いた。文字通り一同の楯になるべくやや少し前に出る。
「了解、相棒。インテーク開放‥‥ランス『エクスプロード』、イグニッション!」
 一同は雪原で散開する。鋒矢の陣形。正面、霧島を頂点にアレックス、コルデリア。右斜め後方の位置に大神、芹沢。同様に左面の位置にトレイシー、シャーリィ、中央に遊撃大泰司、狐月といった配置だ。
 みるみるうちに巨狼が迫ってくる。距離三十、カイロを放り光線銃を構えた大泰司は氷狼に対し練成弱体を発動させた。見た目の変化は起こらないが効いた筈だ。側面への移動を開始する。
 距離二十、狐月は角度が許すまで引きつけ、合図の声を発しつつ狼の右目を狙って閃光銃を撃ち放つ。照明弾は真っ直ぐに飛び、狼は首を振りその頬に激突した。辺りに眩い光が炸裂し、狼の目が眩み、大泰司の目が眩み、トレイシーの目が眩み、アレックスの目が眩み、他のメンバーはそれぞれの備えによって回避した。
 耳をつんざく悲鳴をあげながら氷狼が足を止めんとする。だが勢いが残っている。積雪を巻き上げながら7mの巨体が正面のメンバーへと突っ込んでくる。さすがにこれは止められない。霧島、横に動いて巨体をかわす。コルデリアはかわしつつ交差ざまに鎚矛を叩き込んだ。アレックスは目が眩んでいる、動作が遅れた。激突。赤く輝く狼の巨体に巻き込まれ、後方へと吹き飛んだ。
 大神、S‐01拳銃を構え狼の後脚の関節を狙い発砲、四連射。轟く銃声と共に弾丸が空を裂いて飛び炸裂し、蒼い獣毛が散った。
 大泰司は目が眩んでいる。霞む視界の中、移動。狐月は狼の側面へと回りこまんと走り出す。シャーリーは前進し巨狼の側面へと回り込む。半剣を左手に右手で機械刀を抜き放った。蒼く輝く光の刃が出現する。脚を狙って一閃。蒼刃が氷狼の脚に叩き込まれた。注意は他に向いているか。連打する。
 トレイシーは目が眩んでいる。それでも前進して斧を振るう。手に鈍い手応え。当たった。
「さあ‥‥行くぜ?」
 芹沢AU‐KVの腕にスパークを発生させつつ狼の後脚へと肉薄する。踏み込み紅の拳を叩きつける。まるで壁を殴りつけているかのような感触が腕に伝わった。
 アレックス、宙で姿勢を整えると膝をついて着地、雪を巻き上げながら後方へ流れてゆく。立ち上がり、駆けだす。
 コルデリアは鎚矛で攻撃中。氷狼が怒りの咆哮をあげ竜巻の如く爪を振るった。少女は鎚矛で防御、衝撃によろめく、上から大剣程の巨大な爪が降って来る。大地が爆砕し、AU‐KVの装甲がひしゃげる。叩き潰された少女に対して氷狼が顔を伸ばす。牙で噛み砕くつもりだ。
「行くよ‥‥擁霧」
 霧島が光を纏いスパークをまき散らし、盾を構えて突っ込んだ。練力を全開にし、伸びてくる狼の横顔へと身体ごとぶつかるようにしてシールドチャージを炸裂させる。狼の首が横に回った。巨大な相貌が霧島を見据える。目が合った。
 視界外から巨大な爪が横薙ぎに振るわれる。激突。バハムートの分厚い装甲が鈍い音をあげ圧し折れる。突き抜ける衝撃に目が眩む。気付くと眼前に大きく開かれた狼の顎が迫っていた。速い。盾をかざす。もろとも牙で挟まれた。AU‐KVが嫌な音を立てて軋んでゆく。だが、並ならばあっという間に破砕されるそれに対し霧島、よく耐えている。極めて頑強だ。生命力残り六割、まだ持つ。
「離しなさいっ!」
 霧島へ喰らい付いて離れない巨狼の側面、シャーリィが猛然とレーザーブレードを振るう。血飛沫が舞った。狼の瞳が横へぎょろりと動く。閃光が飛来した――否、爪だ。豪速で振り下ろされたそれに対し咄嗟に機械剣を放り捨て、左の長剣を角度をつけて翳す。腕の装甲を剣の腹に添えた。剛爪が炸裂する。火花を巻き散らしながら爪が剣の表面を滑ってゆく。流した。かなりの威力を逸らした筈だが、しかしそれでも十分には衝撃を殺し切れない。少女の左手首がごきりと鈍い音を立て、身が後方へと吹っ飛ばされる。脳髄を焼き切るような激痛を堪えつつ、身を捻り膝をついて着地する。空が陰った。見上げる間も惜しんでシャーリィは横に転がる。間に合わない。落雷の如く振り下ろされた爪が少女を叩き潰した。轟音と共に積雪が噴水のごとく噴き上がり、大地が陥没して爆砕される。生命力残り五割六分。集中攻撃を受けると不味いか。
 一連の攻防の間に他のメンバーも動いている。アレックスは合図と共に閃光手榴弾を投擲後接近エクスプロードで突きを放つ。トレイシーは斧を爆熱の色に輝かせると足を狙って二連撃を叩きこんだ。芹沢は拳を嵐の如く叩きこみ大神はS‐01で狐月はエネルギーガンで射撃を行っている。
「あたしみたいな良い女を前に、余所見はダメよ〜」
 狐月が岩の陰から光線銃を構え、狼の横面を目がけて猛連射した。氷狼は咄嗟に首をふって直撃は避けたが、強烈な破壊力を秘めた光弾が次々に炸裂してゆく。肉が爆ぜ、盛大な血飛沫が撒き散らされる。氷狼が苦痛に怒りの咆哮をあげた。
 氷狼が四肢を踏ん張り身を沈ませた。次の瞬間、その巨体が掻き消える。
「上だ!」
 大泰司が叫んだ。狐月は吹雪の空を見上げる。怒りに牙を剥く巨大な狼は、高々と跳躍して飛びかかり狐月への間合いを詰めて来ていた。重さ数tをかぞえるそれが、隕石のごとく落下してくる。
「冗談‥‥っ!」
 狐月は悪態をつくと全力で飛び退いた。雪を大地を爆砕し天空から巨狼が降り立つ。間髪入れずに横薙ぎの爪が振るわれる。狐月は咄嗟に岩陰に転がりこむ。岩が半ばから破砕して吹き飛んでゆく。かわした。連続攻撃。上から爪が振り下ろされてくる。岩はもう役には立たない。味方から少し距離がある、援護が遠い。
「犬の分際で‥‥御狐様に逆らって良いわけ!?」
 狐月は叫びつつ振り下ろされる爪の横へと動く。竜の咆哮を込めたファルクローで薙ぎ払った。横手から撃ちこんだ一撃は、鈍い音をあげながら狼の爪の切っ先を横へと弾き飛ばす。かわした。顎が来る。眼を見開く。速い。迫る巨大な牙。防げない。喰らいつかれた。AU‐KVの装甲が猛烈な勢いで圧し折られてゆく。巨狼は首を振りつつ肉を貪るように何度も噛み、その度にAU‐KVが壮絶な悲鳴をあげた。視界が赤く染まってゆく。
 インタラプトに専念している霧島が一番に辿り着いた。竜の咆哮を発動させ側面から突進すると跳躍、狼の首元へ盾撃を叩きこむ。猛烈な衝撃に狼の首が振られ、その顎から狐月が放り出される。振り向きざまの反撃の爪撃。読んでる。盾が間に合った。豪爪と構えた盾との間で火花が散る。良い盾だ。霧島、後方へ弾かれたが完璧に防ぎきる。ダメージ零。
 次いで、大泰司が全力で練成治療を発動させた。狐月の身から痛みが急速に引いてゆく。身体に空いた穴が消え、折れた骨が繋がる。あっという間に超回復。サイエンティストは偉大だ。
 コルデリアはウォーハンマーで、シャーリーはバスタードソードで攻撃を仕掛ける。
 閃光手榴弾が爆ぜた。猛烈な爆音に狼の動きが一瞬止まる。好機。大神は練力を全開にしリロードしつつS‐01を猛連射する。その弾丸を追いかけるように芹沢が走った。
「アレックス!」
 駆け様、芹沢が吼えた。
「オオッ!」
 アレックスは答え、氷狼の前へと槍構え走る。
 弾丸が炸裂する、芹沢は練力を全開にすると氷狼に向かって高々と跳躍、猛烈なスパークを巻き起こしながら紅の拳を巨狼の顔面へと振り下ろした。
「沈めッ!!」
 直撃。突き抜ける衝撃に巨狼の身が揺らぎ、炎模様のAU‐KVから凄まじいスパークが巻き起こった。アレックスは練力を全開にするとエクスプロードを構え突っ込む。
「ぉおおおおおおおおお! 吹き飛べ! 『極炎の一撃(フレイム・ストライク)ッ!!』」
 爆槍の切っ先が巨狼の頭蓋に突き立ち、そして大爆発を巻き起こした。
 眉間を吹き飛ばされた巨大な狼は、雪を巻き上げながら横倒しに倒れていった。

 かくてグリーンランドの氷狼は打倒され、周辺の街は平和を取り戻した。
 最寄りの基地へと帰還した一同のうちある者は祝杯をあげ、ある者は料理や携行品を食べ、ある者は騒いだ。
「これで体の痛みまで取れれば最高なんだけどね。でも、心は晴れ晴れするわ♪」
 狐月はウォッカを掲げそう言った。グラスの向こうに映し出された夜空には既に分厚い雲は消え、凍てついた空気の中、百億の星々が燃えていたのだった。

 完