タイトル:クリスタルダストマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/01 01:27

●オープニング本文


「戦いが長引くと表面人口の変化以上に一定の年齢層の空洞化って奴が起きるらしいわ」
 ある日、愛好家による野良バスケ終了後の休憩中、知り合いの少女がそんな事を言い出した。小柄だが鋭いドライヴで切り込んで来て、覚醒もしていないのにありえない跳躍力でダンクをかましてくる規格外な奴だ。
「年齢の空洞化?」
 唐突な言葉だったが、彼女が唐突に唐突な事を言い出すのはいつもの事だったので水を飲みつつ言葉を返す。
「そ、主に兵士になって戦争にいくのって主に十代後半からの五十代くらいまでの男の人でしょう?」
 ブロンドの髪の少女は指を一本立て片眼を瞑り、腰に手をあて言う。
「働き手を兵士としてとられちゃうから、ある村の工場じゃまだ年端もない子供と、普通だったら退職しているようなお年寄りばかりになってしまってるんですって」
「へぇ、そうなのかい」
「あらステッペン、薄いリアクションね。これって結構危機的なことなのよ」
「己は別に工場で働く為に能力者になった訳じゃねぇからな」
 俺の名前はセプテンフォー・セプテス・ステッペンウルフ、誰が名付けたかは知らないが、皆、俺のことをそう呼ぶ。本名? 忘れちまったよ、そんなもん。
「ま、そりゃそーだけどさ。身も蓋も無いわね。あんたさ、もうちょっと世間様のことに注意を払ったらどう?」
「めんどくせぇ」
 言って俺は立ち上がり、ベンチにおいてあった鍔広の帽子を手に取った。
「うわ、でたよ」
「うるせぇなリトルドライバー、それで、お前、結局のとこ何が言いてぇんだ?」
「え? 特には」
 ‥‥は?
「結局も何も、それだけよ。昨日エドから教わったから誰かに教えたくなったの」
 受け売りかよ。餓鬼かこいつは――と思ったが、実際、餓鬼だったか。
 カンパネラの生徒の年齢層は幅広い。俺は二十だったが、あちらさんはまだ十六だった。
「そうかい。まー、ほどほどにな」
 女の話は特に気にとめるような事でもなかったので、俺は頷き帽子をかぶると歩きだした。
「あ、まーたーねー、ナイスアシストだったわよ!」
 振り返るのも面倒だったので、手だけをふって答えつつ、俺はその場を立ち去ったのだった――


――基地の外では雪も止み、昨日積もった雪が陽の光を受けて輝いている。
 俺はコマンダーの背後にある窓から、その光景を眺めつつ、いつだったかのカンパネラ学園での一コマを思い出していた。例のリトルドライバーが話してくれた奴だ。何故かっつーと‥‥ああ、説明すんのもめんどくせぇ。
「ステッペン君、すまんのぉ〜‥‥」
 随分と年代物になっているコマンダーが言った。彼が司令官だ。この基地の。彼はきっと俺の数倍も去りゆく季節とやらを見送ってきたに違いない。その時の重さには尊敬を払っても良いだろう、俺はそう思う。しかし、
「よく聞こえなかったんじゃが‥‥なんじゃって?」
「ですから‥‥バグア側が放ったと思われし大型キメラの群れがこちらの基地へと迫って来ている、と」
「む、バンクーバー? うむ‥‥あの日の戦場も地獄じゃった、あれは確か儂が夏の葉よりも青く、厳しき冬の訪れも知らぬ若き日の――」
 彼はきっと俺の数倍も去りゆく季節を見送ってきたに違いない。その時間には尊敬を払う価値がある。だがしかし、彼が未だに基地司令を行っているというのは無理があるんじゃなかろうか?
「おい、じーさん、しっかりしてくれ、俺は敵が攻めて来てヤバイって言ってんだよ」
「ほ? ‥‥俺は売店ダー? ふむ、ステッペン君、コーラくれ、よく冷えた奴」
 駄目だ、これは。
「おいステッペン! 何を遊んでいる!」
 不意に司令室の扉が空いて副司令が入って来た。こちらもいい歳の爺さんだがまだマシだ。
「遊んでなんかねぇよ。報告してるだけだ」
「貴様、この非常時に司令殿に報告なんぞして何をどうしようというのだッ?!」
 ‥‥確かにその通りかもしれないが、何かがおかしくないかその言葉。司令って司令するから司令官だよな?
「小僧、この戦場では貴様のにわかじこみの常識など通用しない。覚えておけ」
 そうかい、ほんとグリーンランドの戦場は地獄だぜ‥‥ってふざけんナ。
「なぁ、副司令、俺、帰っていいか」
「駄目」
 現実は厳しい。

●ディフェンダー・オブ・クリスタルダスト
 氷塵基地と通称されるその基地は、かつては主戦場からは遠く離れた位置にあり、グリーンランドでは比較的バグアとの戦いが激しくなかった事も手伝って、この時代においても平和そのものであった。
 平和な基地からは人員の移動が行われ主力組みは最前線へとゆき、老人や学生兵ばかりが残った。
 しかし例の入学式以来バグアとの戦いは激しさを増し、この氷塵基地へも敵兵が送り込まれてくるようになった。
 俺は要請を受け、カンパネラ学園から増援として派遣されてきた。学生兵でも能力者だ、そこらの兵よりは戦力になると上の連中は踏んだのだろう。
 その評価は悪い気はしない、しかし‥‥
「俺のKV、動くのか?」
 俺は半眼でそれを見上げて呟いた。埃をかぶった翔幻、まだこっちの基地にもってきてからそれほど時は経っていないだろうに、どうなってやがる。ちゃんと整備されてたのか?
「う、動くと思うよっ? ちょっと手がまわんなかったからあんまり綺麗にはなってないけど!」
 油で頬を汚した少女――というより童女が言った。歳の頃は十二、三だろうか。周りでは腰の曲がった老人達が大義そうにスパナをふるっている。
「‥‥学園は、俺達を抹殺したいのか?」
「失礼なっ! 昨日わたしたちが突貫で整備したんだから動くよ!」
 さらに不安になったが乗ってみる。システムを機動する。一応、動く事は動いた。しかし、微妙に動きが鈍いような気がする。
「あ、ミスタ、セプテス・ステッペンウルフ!」
「ステッペンで良い」
「そんじゃステッペン、注意事項だけど、あんたの機体だと帯電粒子加速砲は撃てないから!」
「なん‥‥だと?」
「雪村も駄目ね!」
「ちょっと待てコラ、どういうことだ」
「えぇっと、それは、えぇっとね、ビームとかレーザー兵器ってね、実は結構調整が難しいんだ!」
「知ってる。だから基地には専門の知識を持ったメカニックってぇのがいるんだろう?」
「うん、ふつーは、そうなんだけどね‥‥この基地は、ちょっと特殊だから‥‥」
 嫌な予感がした。
「いやー、わたしたち、普段は装甲車くらいしか整備してないからさぁ、あっはっは!」
 つまりは調整不足ということらしい。整備不足、無理に使うと、
「暴発、ドッカーン!」
「帰って良いか」
「お願い、見捨てないでええええッ!! まだわたし死にたくないのよー!!」
 な、なんだこの状況、めんどくせぇなぁあああ、畜生!
 万全の状態で戦えないとか面倒極まりない。こちらをぶっころしに来てる敵が手加減してくれる訳もねぇしな。
「やれやれだぜ‥‥!」
 俺は操縦桿を握りしめ、深々と嘆息したのだった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
氷室 昴(gb6282
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

「翔幻に雪村と帯電粒子砲だと? どこの馬鹿だ、こんなアホな改造機と装備を、こんな辺境に持ち込んだ奴は!」
 RB‐196ビーストソウルがやってきて外部スピーカーを使って言った。伊佐美 希明(ga0214)である。
「ステッペンさんだよー」
 整備士の少女が答えた。正確にはセプンテンフォー・セプテス・ステッペンウルフというらしい。
「あ゛あ゛ッ? ステッペンウルフだぁ?」
「‥‥呼んだか?」
 既に搭乗はしているらしい。翔幻が動き、声が漏れた。
「貴様かーっ!」伊佐美が言った「呼び難いんだよ、なによりダッセェ! お前のことは今からヘルマンと呼ぶ!」
「俺に言われてもなぁ‥‥つーか、唐突だなオイ。なんでヘルマン?」
「いいかヘルマン。末端の戦場なんてどこもこんなもんだ」
「素敵に聞いてねぇなコノヤロウ」
「燃料と弾薬があって、飯が喰えるんだけ有難いと思いな!」
「まぁまぁ」
 須磨井 礼二(gb2034)が割って入った。男は笑顔で宥めにかかる。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ♪ 危機の時こそ笑顔貯金が真価を発揮ですよ〜」
「ぬ‥‥」
「それにしてもステッペンくん、その機体‥‥かなり凝ってますね?」
 須磨井が言った。見ればステッペンの翔幻はVerUPされており、人口筋肉などで増強されているのも窺えた。
「まぁ‥‥ちっとは手を入れてある。虎の子は使えねぇが、それなりには働けるだろうよ」
「それは何よりです。援護、アテにさせてもらいますね」
 かくてすったもんだの末に作戦を打ち合わせ七機のKVは氷塵基地より出撃したのだった。

●出撃氷塵基地防衛隊
 空は晴れているが空気は冷たい。ここは氷雪の島グリーンランド。太陽の光を浴びて銀色に輝く雪原を北へと向かう。
「しかし整備不良状態で戦闘とは‥‥確かに厄介だな‥‥」
 あぁ寒い、とミカガミのコクピットの中でぼやきつつ氷室 昴(gb6282)が言った。
「まったくね」
 雪野 氷冥(ga0216)が首肯して同意を示す。
(「『二の太刀不要の一撃必殺』が私のやり方なのに‥‥整備不良のロンゴミニアトなんて、危なすぎて使えないじゃない!!」)
 というわけで、武装を換装して来ていた。あまり本意ではない。
「バイパーに乗り換えて最初の実戦がこんな形になるなんて‥‥」
 と少し不安そうなのはティリア=シルフィード(gb4903)だ。
(「ボクの機体はそこまで整備不良の影響は受けてないみたいだけど」)
 それでも火器管制の反応や精度が普段よりも低下しているような気がする。しかも不慣れな雪上戦と来た。不安を感じない方がおかしいか。
「そうですね。まるで前線に駆り出された負傷軍人の気分ですが‥‥」
 レールズ(ga5293)が言った。
「でも、ここで小さな女の子や老人達を見捨てて逃げたら名が廃るって奴です。頑張りましょう」
「‥‥はい! やってみせます。退く訳にはいかない‥‥行こう、『Sylph』!」
 ティリアは愛機に呼びかけ歩を進める。
 空は晴れ、雪原は銀色に輝いている。下方から来る照り返しの光が少し目に痛かった。
 積もった雪を蹴散らして。脚部に雪原用の装備を着けたKVが進む。
 しばらく進むと地平の彼方に黒い点が見えた。四つ。恐らくキメラ、竜人だ。
(「雪色迷彩で少しでも効果あれば良いんですが‥‥」)
 白く塗装したシュテルンを駆るレールズが胸中で呟く。
(「状況は常に最悪を想定しておけば‥‥とはいえ、こんな所でこけたくないわね」)
 足場に注意をやりつつ雪野。
(「整備不良を言い訳にしたくない‥‥機体が動くなら、いくらでも戦いようはあるはずっ!」)
 気合を入れてティリア。
 傭兵達はそれぞれ思考を巡らし、やがてくる激突に備える。
「‥‥来るぜ」
 無線からステッペンの声が漏れた。
 遠来より咆哮が響きわたり黒点が素早く動き出す。KVもまたそれを迎え撃つように駆けだした。距離が詰まる。
 敵は固まって前進してきている。
 レールズ、真っ直ぐに前進。伊佐美機は狙いをつけ――ようとするが射線が遮られそうな気配だ。確保する為に移動する。考える、右か左か。盾持ちが相手なら狙うは相手の右か。伊佐美は機体の姿勢を低く取らせつつ西北西へ逸れる。ステッペン機も北西へ向かっていた。
 雪野機はランチャーを肩に準備するとシールドを構え直進。ティリア、須磨井、氷室も距離を詰めた。
 距離六〇。先頭レールズ、射程に入った。分断を狙い敵集団のど真ん中めがけてG‐44グレネードランチャーを撃ち放つ。
 少し遅れて伊佐美機とティリア機、竜人達へとミサイルランチャーを解き放つ。雪野もまたレールズと同じくG‐44グレネードランチャーで爆炎弾を撃ち込んだ。
 空を裂いて飛んだ六つの砲弾が次々に地面に炸裂し炎が膨れ上がる。竜人達は咄嗟に盾をかざし、飛び退いて爆風をかわす。ばらけた。
 それを見てレールズが各機に担当の指示を飛ばした。左からABCDと分ける。プランBだ。
(「まあ、直接援護があるか無いかの違いだけで、私のやる事は変わらないんだけどね!!」)
 雪野、指示を受けて動き出す。各機も動いた。射程六○南東、ステッペン機、SRRで竜人Dへと射撃。竜人は盾をかざし弾いた。翔幻は膝をついて構えなおした。
 竜人達は咆哮をあげて駆け出す。迎え撃つよう須磨井機もまた背からツインブレイドを取り出し盾を構えて走り出す。氷室機も小太刀と大太刀を手に走る。
 レールズ、PMBで精度を強化すると135mm対戦車砲を構え連続して撃ち放つ。爆音と共に巨大な砲弾が飛んだ。竜人Aは盾を翳して突進し砲弾を受ける。大爆発。咆哮と共に爆炎を裂いて竜人が躍り出てくる。
 雪野、無線で狙撃組に射線を横切る旨を入れて北西へ、回り込みつつ竜人Bへとマシンガンで攻撃する。攻撃を受けた竜人Bは方向を転じ、盾を翳しながら雪野へと突っ込む。盾に銃弾が次々に激突し甲高い音が鳴った。
 須磨井、竜人Dへと迫る。竜人の口元から蒼く輝く粒子が漏れた。瞬後、逆巻く巨大な竜巻となって須磨井機へと襲いかかる。アイスブレスだ。ウーフーは盾を翳して突っ込んだ。その装甲が凍てつき、裂かれ、傷付いてゆく。
 だが氷の息も永遠に続く訳ではない。やがてそれも消え、須磨井機は竜人Dへと肉薄した。双刃を振りかざし斬りつける。竜人の盾とツインブレイドが激突し火花が散った。竜人は楯に角度をつけて斬撃を流すと、長剣を上段から落雷の如く打ち降ろす。須磨井機は素早く飛び退いて回避した。着地。僅かに足元が滑った。
 竜人C、迫る氷室機に向かって大きく息を吸い込む。氷室、即座にバルカンを撃ち放つ。ドンピシャだ。隙だらけの竜人に弾丸が次々と炸裂し鮮血を噴き上げさせる。竜の動きが衝撃に緩慢になる。氷のブレスが吐き出された。遅い。
 氷室機、跳んだ。逆巻く氷雪の嵐を軽々と飛び越えると、宙でバーニアを吹かせて加速滑空、降下の勢いを乗せて蹴りを放つ。
「蹴り穿つ!」
 接近仕様マニューバと共に放たれる流星の如き一撃。衝撃から立ち直った竜人は身を捻りつつ横に一歩動く。かわした。氷室機は雪の大地を爆砕しながら降り立つ。視界の端、噴き上がる土砂と積雪の向こう、何かが煌めいた。
 竜人が剣を脇構えに構えていた。回避行動を――態勢が悪い、咄嗟に小太刀を翳す。烈閃。激突。轟音と共に火花が散り、猛烈な衝撃が氷室機を突き抜ける。世界が回転した。コクピットを振動が襲う。空が見えた。転倒している。即座に横に転がる。激震。振り下ろされた剣がミカガミを大地と挟んで叩き潰した。地面が陥没し盛大な土砂が噴き上がる。ミカガミの装甲がひしゃげ電流が漏れる。損傷率二割六分。
 竜人Aはレールズへ、Bは雪野へとそれぞれブレスを放つ。レールズは回避を試みて巻き込まれ、雪野は盾をかざして受けた。
 レールズはガトリング砲で反撃しつつ後退する。竜人は盾で凌ぎつつ前進し、弾幕の途切れを狙って顔をだしブレスで応戦する。
 伊佐美はレティクルにそれを納めるとSRD‐02の引き金を絞る。鈍い反動と共に回転するライフル弾が放たれた。螺旋の弾丸が空を裂き真っ直ぐに竜人Cへと向かって飛ぶ。この距離はどうか――意識の外だ。弾丸が竜人の肩に命中した。伊佐美はリロードしつつ素早く移動。竜人が衝撃を受けている間に氷室機は起き上がる。
 ステッペンは狙いを定めると竜人Dの顔面を狙いリロードしつつSRRを連射する。竜人は盾をかざしてそれを受けた。正面、ガードが空いてる、ティリア機狙撃――はこの位置だと須磨井機の背中に当たるか。射線を通す為に北東へ移動、回り込む。
 須磨井機が突っ込んだ。機体を制御させると踏みこみ、ツインブレイドを振り下ろす。竜人が咄嗟に掲げた刀身の横手より刃が肩口に叩き込まれる。双刃でもある程度はツインブレイドの場合は片手で操れる。薙ぎ払うようにして逆側の刃を突き込んだ。
 ティリア機、ライフルで狙撃。須磨井機に腹を突き刺されている所へ狙いをつける――何処を狙う? 急所か。頭部を狙い発砲。竜人は首をふって避けた。しぶとい。マシンガンに切り替えて嵐の如く弾丸を放つ。竜人の身に弾丸が次々に食い込み、須磨井機は掻き切るようにして刃を引き抜き飛び退いた。竜人が倒れる。
 雪野は盾をかざしつつ竜人Bの行動力を削ぐ事を狙い足元へと弾丸をばらまく。竜人Bは弾丸を受けながらも氷のブレスを撃ち返して反撃した。
 起き上がった氷室機に対して竜人が長剣で猛然と斬りかかる。氷室機はカウンターで銃撃を撃ち込んだ。弾幕に押されて竜は一歩後退し盾をかざして身を守る。氷室は近接マニューバを発動させると姿勢を低くして突っ込み、竜人の足めがけて大太刀で薙ぎ払った。刃が竜の脚に喰い込み、その身が揺らぐ。竜人は身を捻りつつ、剣を振り回す。当たるものではない。氷室機は後退して回避した。
 移動した伊佐美は遠い間合いからレールズと撃ちあっている竜人Aへと狙いをつけて発砲する。横手から飛来した弾丸が竜人を撃ち抜いた。
 シュテルンの機体能力が全開になる。レールズ機が対戦車砲を構えた。発砲。
「仮にもゾディアック倒してますからね‥‥所詮傭兵なんて機体次第って言われたらたまりませんよ!」
 叫びつつ連射する。爆炎が竜人Aを呑みこみ消し炭に変えた。
「今だ、撃ち込め!」
 氷室の声と共に、ステッペンとティリアの狙撃が氷室と格闘する竜人Cへと襲いかかる。
 弾丸が竜人を撃ち抜き、その隙に氷室は踏み込む「その脚、もらうぞ」竜人の脚へと再度刀を叩きこむと左の小太刀で竜人の胸を突いた。竜人が仰向けに倒れ雪上に転がる。
 氷室は素早くその上に乗った。マウントのポジション。KV用の小太刀を竜人の喉に突きこむ。貫通した。竜人の口から声にならない叫びが漏れた。
「これで詰みだ」
 小太刀を左右に払う。喉から鮮血が吹き出し、竜の瞳から光が消えた。
 最後に残った竜人Cに対しては雪野がガトリングを猛射し、やがて終結した傭兵達からの十字砲火を受け弾丸の嵐の中に沈んだのだった。
「なせばなる‥‥もう少し余裕がほしいですけどね」
 全ての竜人が倒れたのを確認し須磨井がほっとしたように息をつき苦笑して言った。
「やれやれ、こんな綱渡りはこれっきりにしたいな」
 氷室が言った。性能低下の影響で結構な被害が出ている。
「お疲れ様、『Sylph』。LHに戻ったら‥‥しっかり整備してあげるからね?」
 と愛機に向かってティリア。
「私も整備しないとね」
 と基地に戻ったら自分で出来る範囲で手伝おうと思いつつ雪野。
「‥‥もう、整備って言うレベルじゃないかもしれないけど」
 盾越しとはいえ氷竜巻を受けて無数の傷が発生している。きっと修理と人は言うだろう。


 かくて氷塵基地へと押し寄せてきた四匹の竜人達は討たれ、基地は束の間の平和を取り戻した。
 だが基地の人員、設備は未だ整えられず、人類の総力もまた減少の一途を辿っている。
 遠くない未来、いつか世界各地でこの基地のような光景が日常化するのかもしれない。そんな不安を胸に一同は基地へと帰還する。
 迎えてくれる歓声だけは盛大だった。
 風防を空けたKVに寄ってくる子供や老人達の姿を眺め、今はこの笑顔を守れただけでも良しとすべきか、そんな言葉が幾人かの脳裏をかすめたのだった。


 了