●リプレイ本文
吹雪の基地。独房前の地下通路。
赤崎羽矢子(
gb2140)はディアナと面会を求めた。
「利用されてる強化人間なら助けたいじゃないか」
その方法が手に入るかもしれないから、なんて都合のいい話だけどね、と思いつつも女は言った。自爆装置の解除法等について尋ねたいらしい。
「ただし、その為に被害が出るなら引金を引くよ。強化人間と軍人含む味方の命、両方拾えないなら後者を取る。助けれれば助ける。そうでなければ殺す」
そう言った。
(命を秤にかけるなら、その重さは人任せでなくあたしが負わなきゃいけない)
女はそう思った。
コルデリアはじっと赤崎を見詰めて話を聞いていたが、最後まで話を聞くと、
「‥‥ディアナに会いたいのなら、許可は取って来るから好きにしなさい」
そう言った。
その後、赤崎はコルデリアと共に独房を尋ねディアナへと事情を説明して質問した。爆弾の位置を知る方法、無線での自爆を避ける、または誤魔化す方法などだ。
「‥‥自爆装置の位置は色々だと思う。君たちのエミタが埋め込まれている位置が様々なように」
赤崎の問いに対しディアナはそう答えた。
「小型の物だと爆弾の位置を肉眼で見て知る方法は無いと思う‥‥少なくとも私は仕込んだ者や本人に聞くくらいしか思いつかない。AIや時限式はまた別だが手動タイプの自爆を避けるには、監視の把握を振り切るか、監視者を撃ち抜く――リモコンを破壊するか、爆弾そのものをどうにかするか、になると思う。だが、どこから見てるのか、単独なのか複数なのか、解ったものではない」
「気絶で誤魔化すとかできない?」
「いつまでも立ち上がらなければ、戦闘能力の喪失とみなし君達が近づいた瞬間に自爆させて、爆発に巻き込んで殺そうとする可能性がある」
「そうか‥‥その他に強化人間を保護する時に気を付けることってあるかい?」
「保護する時にその他、か」
銀髪の少女は赤崎を見上げ、とても複雑そうな表情を見せて言った。
「もし投降を望む者がいて、受け容れてやってくれるのなら、それは保護だろう。だがそうでないのに保護しようとするなら、それは保護ではないのではないだろうか。私達が自由意志を発揮するのは難しい状況にあるのも、事実だけどな‥‥」
●
ブリーフィングルームへと続く通路。
(怨嗟の声も、敵意の視線も、受け入れる。それが己が為した事の結果だ)
柳凪 蓮夢(
gb8883)は胸中で呟いた。
(だが、それでもまだ出来る事があるならば‥‥今はそれを、全力で)
その為にこの基地に来た。金色の髪の少女は柳凪の前方を無言で歩いている。
(コルデリアの様子がちょっと気になるけど‥‥訊ける雰囲気じゃないな)
他方、M2(
ga8024)はそう胸中で呟いた。
(今は目の前の仕事に集中しよう)
青年はそう思う。
しかし、
「『本当に』したいのはなにかね? それの為に、私は動きたいものだ」
UNKNOWN(
ga4276)はズバリと聞いた。
その言葉にコルデリアは足を止め、
「意外ね」
肩越しに男を振りかえると言った。
「あんた、死んだあたしの先生と同じ事を言ってる」
「敵を倒すと。命を奪う。それは、違うモノで同じモノ」
UNKNOWNは言った。
「では、問おう『敵』とは、なんだ?」
「細かい所まで述べると出撃に間に合わなくなるから基本的な事だけを答えましょう。所属であり、立場ね。軍争のルールよ。戦場において軍や集団は敵味方中立を布告するなり交戦するなりして、いずれかを言動によって宣言している。旗色、と言う奴よ。それぞれ敵対する陣営に所属する者同士は敵同士、味方陣営に所属する者同士は味方同士よ」
「『本当に』したいのはなにかね?」
「本人が死にたくないと思っているのに死んでゆく命なんて、なんだって全部可哀想でしょう。でもこの世には不可能が存在する。あたしは、それでもせめて手の届く範囲くらいはと守る為に戦っている人達を守りたかった。目立たなくても役割をこなそうと頑張ってる人達も守りたかった。傭兵も兵士も皆よ。死にゆくのが避けられないのなら、せめて少しでも納得して死ねるように。殺し合うのが避けられないなら、敵味方の旗の通りに信義の通りに。だからまず味方から助ける。それが味方を名乗る以上の信義というものではないの。あたしはそれを守りたかった。信頼を裏切られて死ぬのは、辛いわ」
言って、少女は瞳を閉じた。
「でも駄目ね。あたしが感情のままに叫んで、それで何を守れたの? 結局、世界の因果はあのように流れて、ハイレディンは責任感じて、馬鹿みたいな死に方をしたわ。大隊は壊滅、沢山死んだ。あそこに居たのがあたしじゃなくて先生やレイヴルだったら、もっとずっと上手く、やれたのかな。あたしは、無能だ」
●
ブリーフィングルーム。
(傭兵と軍の協力がなくなれば、人類は今まで通り戦えない)
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)は思った。ならば、最優先事項は傭兵の信頼回復である、と。
(レイヴル君と准将のためにも)
そう胸中で呟く。
レティ・クリムゾン(
ga8679)もまた軍との関係を修復していきたいと考えていた。その為に任務達成は最重要と考える。
「必ず基地爆破を成功させよう」
女はそう言った。情報の真偽は疑わない。疑う余裕も無い。色々思う全ては心の底に閉じ込める。
――彼女にも、思う所はあるのだろう。
だが、言葉にはしないし表情にも現さない。ただ任務の達成だけを想った。
「そうですね」
レティの言葉にシンは頷く。
シンは思う。コルデリアはシンがディアナを救いたいと願い、全力を尽くすと約束したことを知っている、シンがクォリンやルミスを救いたいと願い、力及ばず二人とも殺す選択をしたことも知っている。
(今軍の信頼を取り戻すために、言葉で語るべき最初の人物は彼女ではないか)
男はそんな事を思った。
「コルデリア君」
シンは言った。蒼い瞳の少女がシンを見た。
「安易に許してくれとは言えません。コルデリア君が怒るのは尤もです」
それでも言葉を尽くして言う。
「僕たちを見ていて下さい。そのために一緒に戦わせて下さい。背中を預けられないなら、風除けでも、鉄砲玉でも」
出来れば彼女を皮切りに信頼の輪を広げたい、シンはそう思う。
それに須佐 武流(
ga1461)もまた言葉を重ねて言った。
「ちびっこ‥‥いや、コルデリア。前回どうだったかは聞いた。信用できなけりゃそれで構わない。ただ‥‥目的を共にする仲間として、協力してほしい。俺は仲間を犠牲にしてまで敵は助けない」
「‥‥そう、気を遣ってくれてるのね」
二人の言葉にコルデリアは少し笑ってみせると、
「有難う、大丈夫。あたしの仕事でもあるのよ。協力するしないではないの。信じるわ。一緒に戦いましょう。どうかよろしくね」
そう言った。
「本当は大人がしっかりしてやらんといかんのだよな‥‥」
狭間 久志(
ga9021)はそんな様子を眺めながらぽつりと呟いた。彼はディアナ、コルデリアの様子を傷ましく感じていた。
狭間は過失とはいえ戦意のないハーモニウムを殺害した事を悔やんでいた。だが、じっとはしている訳にはいかないく思い参加している。
(自分にやれる事をやらなきゃ‥‥例え何処かで僕が倒される道だとしても。だ)
男は胸中でそう呟いた。
任務を成功させよう、と思う。
諸々の事情があるのでオーダー達成意識はかなり高めだ。
「敵の秘密基地を破壊しろって、何かの任務みたいで格好良いのです。いやー、秘密基地って言えば、小さい頃に男子が作って遊んでたりしたなー。‥‥って、そんなちゃっちくないか」
そんな中であっけらかんとそんな事を言ってみせたのは如月・菫(
gb1886)である。
「まー、バンバン壊せば良いんだろ? え? そんな簡単な話じゃないかもって? うーん、良く分からん」
それにコルデリアはくすっと笑って言った。
「そうよ、バンバン壊せば良いの。基地なんて所詮は木石、簡単なものよ。だからそれが正しい」
「そーなのかー」
「ええ」
「でも簡単といってもレーダーに映ってないみたいだけど‥‥レーダーに映らないのは強力なジャミング施設があるか、地形に恵まれているか、かな?」
橘川 海(
gb4179)が小首を傾げて言った。
「後者でしょうね。恐らくは地形とステルス技術よ。レーダーは万能じゃない。ジャミングも同様よ。妨害が突出して強ければ、妨害が強いからこそその一帯に何かあるのではと警戒する。特にそういった報告はないから」
とコルデリア。
「敵兵を捕虜として取るかどうかですが」
シンが言った。
「迅速な基地破壊を妨げる行為や味方の被害を拡大しないことが前提ですが、それが満たされるのなら保護する事を認めて貰えませんか」
「‥‥その前提が守れるのなら問題はないでしょう。でも保護しようとするとどうしても遅れたり被害が増加するから問題になるのよ。解決策はある?」
士官候補生の少女は蒼い瞳をシンへと向けてそう言った。
シンの提起はその通りの意味もあるが、軍の意見を傭兵全員に再認識させる狙いもあった。軍の――少なくともコルデリアの意見は、グリーズガンドの戦い以前から変化していないようだ。契約内容を遂行した上で周りに迷惑かけずにやれるのなら好きにやれば良い。それなら咎めないし場合によっては協力もする。
「私で応えられる範囲なら出来る限り力を尽くすつもりだが」
UNKNOWNが言った。
「一応、自爆装置についてディアナには聞いてみたけど」
と赤崎。
傭兵達は保護する際にどうするかを打ち合わせた。割と人によって意見が分かれている。
相談の末に結局の所、保護出来そうなら、する者の邪魔はしないが、撃ち落とす者の邪魔もしないという事になった。
最後にコルデリアが言った。
「自爆装置の確認のさいに爆弾が無い事が確認出来るか、あっても解除できるなら問題ないわ。でも解除出来ないなら殺しなさい。最悪の場合、基地に強化人間を入れた瞬間に大爆発で基地ごと吹き飛びましたとか、とんでもない事になる。確保したうえで装置の有無の判断ができない時、保護した人で殺せない場合はあたしに言いなさい。あたしが殺す」
●
後、一同は大まかな作戦を打ち合わせると、それぞれの乗機に乗り込み滑走路を走って、大空へと飛翔した。
グリーンランドの凍てついた空。
天は蒼く大地には銀雪が広がっている。
「私は矛盾だらけだ‥‥助けようとした者を自分の言葉で殺し、今度はその相手と同じ境遇であろう者を殺そうとしている‥‥」
HA‐118改‐アヴァロンのコクピットの中、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)は独り、ぽつりと呟いた。
傭兵隊が基地へと接近せんとする。通常の迎撃点よりもかなり奥の所で、迎撃部隊が飛び出して来た。通りすがりでなく、位置がばれていると判断したのだろう。数は六機。
「厄介な敵が守っているようだ。手強そうだな」
レティが言った。レーダーの反応からするに敵はタロスが一機、ヘルメットワームが三機、スノーストームが二機のようだった。
「考える時間は、ある」
UNKNOWNはそう呟いた。
「いつもに増して危なっかしいからな。とりあえず落ち着けよ?」
須佐がペアを組むコルデリアへと言った。
「ええ」
無線からは短く声が返って来た。
須佐は一撃目は敵に譲る予定だ。それを凌いで敵の攻撃手段を確認してから仕掛けるつもりである。
「コルデリアはジャミングをかけ続けてくれ」
「了解」
M2は柳凪とペアを組みつつ管制を担当する模様。
(絶対に落とさせない)
柳凪は胸中で呟いた。電子戦機護衛が柳凪の役割である。牽制と援護に徹するようだ。
(北の空は、空気が凍てついているわね)
澄野・絣(
gb3855)はコクピット内で愛機の振動を感じながら胸中で呟いた。親友の橘川と共にまずは対地攻撃に向かう予定だ。
「少し、見てこよう」
UNKNOWNはブーストを発動して加速し高度を下げてゆく。三機のHWもまた高度を下げ、狭間機と如月機もそちらへ続いた。
二機のSSは澄野機へと向かって来る。強化タロスはコルデリア機へと向かった。コルデリアがキャンセラーを発動する。
UNKNOWN機へと金銀銅の三色に塗り分けられた超改造の新型ヘルメットワームが迫り、一機七連、三機で二十一連射の誘導弾を撃ち放った。機動が鋭い。有人のエース機だ。
漆黒のK‐111は誘導弾の嵐に対し風に乗るようにスライドしながら次々とかわしてゆく。何かがおかしいだろうその機体、というのも最早お馴染みになりつつある回避力。
UNKNOWNは誘導弾の嵐をかわしながら、基地上の低空へと侵入すると、旋回しながら敵基地の様子を観察する。以前、民間人を誤爆させそれを映像に撮られたという罠があったらしく、注意深く警戒している。
基地は外からでは雪原迷彩がされていて解りにくいが、この距離で注視すれば見破れぬ程ではなかった。外からでは人の影はない。その旨を無線で味方に報告する。
赤崎、標的を何処へ据えよう。UNKNOWNがHW三機に絡まれているが、二機向かっているし、あの男なら大丈夫だろう。
コルデリアが強化タロスに狙われているが、あちらは四機で連携しているようだし大丈夫か?
ならば優先すべきは澄野機を狙っているSSの二機か。こちらも有人機だろうか。可能性があるのなら、消したくはない。戦闘能力が無くなれば致命的な攻撃は止め、オーバーキルにならない様にしたいが、初手は普通に攻撃しても大丈夫だろうか? 流石に大丈夫だろう、と赤崎は判断した。
「PRM‐P‐Mモード、いけっ!」
知覚力を増大させて電撃を放つと四五〇発もの小型Gプラズマ誘導弾を討ち放つ、GP‐7だ。SSへと電撃が直撃し二機のSSを誘導弾の嵐が呑みこみプラズマを解き放ってゆく。
(スノーストーム‥‥)
HA‐118改‐アヴァロンのコクピット内、シャーリィ・アッシュ、覗くサイトが赤く変わっている。少女はロックしているSSの態勢が崩れた所へ誘導弾を連続して撃ち放った。オーバーキル等は避けたいが、例え要塞戦時と矛盾していても手加減せず落とす気でゆく。三連の誘導弾が煙を引いて凍てついた空を飛び、プラズマの中のSSへと次々に突き刺さって爆裂を巻き起こした。赤崎機は間髪入れずにレーザーで追撃を入れて穿つ。
SSは強烈な破壊を受けながらも僚機と共に澄野機へと向かって荷電砲を猛連射する。
対する澄野機、狙われているので対空に切り替える、マイクロブースターを発動して急加速しつつ一機へと牽制の誘導弾を発射、同時に操縦桿を切って回避せんと翼を翻す。唸りをあげて十二連のプラズマ光波が迫り来る。誘導弾がSSに炸裂してエネルギー爆発を巻き起こし、M2機等のジャミング中和やキャンセラーが効いている、澄野機は六条の閃光を掻い潜ってかわした。しかし六条が装甲に突き刺さって猛烈な爆裂を巻き起こしてゆく。損傷率六割三分。イエローランプだ。
澄野機は赤崎機に撃たれたSSと一度交差してからブースターを吹かして後背へと回り込まんとする。
レティ機、ブースト及びAフォースを発動、SSの二機をロックオンすると五〇〇発の小型誘導弾を撃ち放つ。K‐02だ。破壊力が増加されたミサイルの嵐が空間を埋め尽くして飛び、二機のSSに次々に炸裂して大爆発を巻き起こした。
「邪魔はさせないわよ。大人しく黙ってなさい」
その隙に背後に捻り込んだ澄野機、ガンサイト、SSの背後を捉えるとプラズマライフル十連射。光線が連続して飛びSSへと突き刺さって爆裂を巻き起こしてゆく。良い威力だ。
正面レティ機エニセイ対空砲で二連射。唸りをあげて砲弾が飛びSSに直撃してその装甲を粉砕した。次の瞬間、漏電が発生し爆裂が巻き起こった。撃破。SSが焔に包まれ破片を撒き散らしながら雪原へと墜落してゆく。
他方、強化タロスが電子戦機組へと迫る。
強化タロスはコルデリア機を射程に捉えると大口径のプロトン砲で発射した。柳凪が牽制にブリューナクを撃ち放ちツングースカ機関砲で弾幕を張る。強化タロスは赤光を纏ってスライドしつつ電磁加速砲を回避する、速い。タロスは二百発もの弾幕の嵐を掻い潜りながら巨大な爆光を猛連射し。R‐01Eは三発を回避し三発程が直撃して装甲が消し飛んでいった。
M2はレーザーキャノンを強化タロスへと向け光線を撃ち放つ。光をタロスは翻って回避し須佐機もレーザーキャノンを連射しながらブーストを発動し突撃してゆく。タロスは一発の光線をかわしたが二条の光線に撃たれた。コルデリアは誘導弾を四連射し、タロスから爆発が巻き起こった。M2は誘導弾が命中した箇所へあたりをつけると、すかさずブリューナクレールガンを撃ち放つ。加速して撃ち放たれた砲弾が強化タロスの装甲を捉えて破砕した。須佐機は極超音速で突撃し、タロスがカウンターにハルベルトを振るった。斧槍が須佐機に激突しシラヌイの装甲が砕かれ両機が互いに弾かれてゆく。須佐機はアフターバーナーを吹かせて姿勢を制御すると再度急加速して強化タロスへと肉薄しエナジーウィングで斬り裂いた。
他方、
「複合式ミサイル誘導システム、新型照準投射装置、起動っ!」
橘川機はロングボウの特殊能力を発動させて地上へと標準を向けていた。UNKNOWNからの報告によれば対空砲らしきものはない模様。隠密性を重視したのだろうか。橘川の視界から見てもそれらしいものはない。湖畔の基地のその奥、崖に穴が見える。あれが地下空洞への入り口だろうか。そちらへと照準を向ける。
「フォックスっ!」
84mmの8連装ランチャーより四十八発のロケット弾が飛び出し、次々に洞穴の奥や入り口へと炸裂していく。大爆発の嵐が巻き起こって崖が崩壊し入り口は雪と土砂とで埋まった。完全に封鎖した。
『今回は加減は出来ない。脱出装置の準備は万端か!?』
狭間、外部スピーカに叫びつつUNKNOWN機へと猛射を加えているHWのうち黄金のものへと狙いをつける。サイトが赤く変わった。発射ボタンを押し込む。煙を噴出しながら次々に百発もの小型誘導弾が空へと解き放たれた。ドゥオーモだ。黄金のHWは回避せんと翻ったが、誘導弾は唸りをあげて追尾し、次々にHWを捉えて爆裂を巻き起こした。
如月機はバレットファストを発動、ガンサイトに爆炎を裂いて飛び出した黄金のHWを納める。スナイパーライフルを発砲。HWは素早くスライドして弾丸を回避し、次の瞬間、ミサイルの発射と同時にブーストを発動させて加速していたハヤブサが極超音速で突っ込んだ。狭間機が交差様に鋼鉄の翼でHWの装甲を叩き斬って抜けてゆく。火花を撒き散らしながらHWの装甲が削られ、衝撃に揺らいだHWへと如月機がライフル弾を連射して撃ち込み穿ってゆく。破片が宙へと舞った。
シン機は基地へと向かって進みながらK‐02を発射して小型誘導弾の嵐を撃ち込んで爆裂を巻き起こしてゆく。そのまま急降下すると二連のフレア弾を投下した。やがてそれはそれぞれ基地へと命中し巨大な爆炎が膨れ上がり直径一〇〇メートル範囲に熱波を巻き起こした。雪が吹き飛び隠されていた基地が爆発にひしゃげて吹き飛んでゆく。
UNKNOWN機は黄金HWへとターゲットを合わせるとエニセイ対空砲を連射しつつ、三機のHWからの爆光の嵐をブースト機動でスライドして回避しながら突撃してゆく。七連の砲弾が次々に直撃し漆黒のK‐111が唸りをあげて黄金のHWへ迫り超音速で交差様にその装甲へと翼の刃を叩き込んだ。
すかさず狭間機がブーストを噴出して態勢を崩した黄金型HWへと迫り、スラスターライフルで弾幕を張りながら突撃する。如月機もまた圧力をかけるようにスナイパーライフルを三連射する。二機から放たれた弾丸が次々にHWの装甲を穿ち、ハヤブサの刃がHWに炸裂した。次の瞬間、HWから漏電が発生した。HWは爆裂を巻き起こし黒煙を吹き上げながら雪原へと墜ちてゆく。撃破。
「爆撃に入る。援護頼む」
レティ機は基地方向へと機首を返し爆撃に向かう。シン機は基地上空でレティ機へと攻撃を仕掛けて来る敵機がいないか警戒する。
赤崎機はSSへと電撃を爆裂させ、追撃に機銃で猛射してゆく。シャーリィ機もまたターゲットを合わせると誘導弾を三連射した。澄野機はマイクロブーストで敵機の死角へと回り込まんとしながらプラズマライフルを連射しSSは澄野機へとプラズマキャノンで猛射する。
電撃がSSを撃ち弾丸と誘導弾とプラズマがSSへと突き刺さって爆裂を巻き起こして、交差するように放たれたプラズマ光波が澄野機を撃ち抜き装甲を吹き飛ばしてゆく。澄野機は四発をかわしたが二発に打たれて損傷率八割四分、レッドランプだ。
VSタロス。タロスの損傷が回復してゆく。
コルデリア機は誘導弾を四連射し、M2はタロスの損傷箇所を狙ってライフルで弾幕を張る。須佐機はリロードしつつレーザーキャノンで光線を連射し、柳凪はツングースカ機関砲で弾幕を張りつつ牽制するようにブリューナクで射撃してゆく。強化タロスはコルデリア機へと爆光を猛射した。
誘導弾が爆裂しライフルと機関砲の弾幕が突き刺さり、光線がタロスの装甲を灼きプロトン砲がコルデリア機に命中してゆく。
橘川機は二種の機体能力を併発しながら127mm2連装ランチャーで十二発のロケット弾を基地へと次々に叩き込んで爆発の嵐を巻き起こしてゆく。
基地上空に辿りついたレティ機は基地へと急降下するとフレア弾を投下した。爆弾がまだ無傷で残っていた一画へと投下され、次の瞬間紅蓮の火球を膨れ上がらせた。熱波が荒れ狂い地上に隠されたそれを吹き飛ばしてゆく。
レティの爆撃でバグア軍の基地はもうほとんどその機能を失ったようであった。このままでは最早使いものにはならないだろう。例え再建するにしても時間がかかるに違いない。しかも最早位置はバレているのである。
有人機達は既にここで戦闘を続ける意義は少ないと判断されたのか、撤退に移った。
「‥‥追撃してッ! 一機でも減らして!」
コルデリアが無線に叫んだ。
狭間、こういう場合はどうしたものか。敵に戦意はないが、無力化した訳でも降伏した訳でもない。ここで逃すと、近い未来、再び強力な敵として舞い戻り、地球側勢力の誰かが脅威にさらされる可能性が高いだろう。しかし、そんなのはそもそもに自明の理なのだからそれで撃てるのなら最初から敵を撃つ事に躊躇いなど無い訳で、躊躇うがしかし金髪の少女は撃ち落とせと血を吐くように叫んでいる。
嗚呼、この状況、戦争だな、と思った。
相手とて命を賭けて死に物狂いでやっているのだ。容易くは無い。
男は歯を食いしばると追撃に飛んだ。各機もまた背を向け加速に入ったワームへと攻撃を仕掛ける。
コルデリア機、須佐機、柳凪機、M2機の追撃が入ってタロスが爆裂を巻き起こしながら墜落して大破し、SSが赤崎機、シャーリィ機、澄野機の追撃を受けて大破し墜落した。
銀HWへとUNKNOWN機、狭間機、如月機、レティ機、シン機、橘川機が追撃を入れて撃ち落とした。
HWの一機は極超音速まで加速すると北の空へと逃げて行った。
「‥‥どうやれば、自爆させないように投降を呼びかけられるだろう?」
赤崎が言った。
「このバグアの基地は破壊されているから、監視員が既に全員死んでいて、安全な所からGPS的なものでの監視とかを行っていないのならば、自爆はされないかもしれない。でも、解らない。それに何時までも帰らなかった場合、一機逃げたからその報告を受けて自爆させられるかもしれない。その時既に基地に入ってしまっていて、基地に勤めている人達ごとまとめて爆発に巻き込まれて死ぬとか、そういう事態はあたしは防ぎたい。だから、自爆装置の有無を確認する事が出来なく取り除く方法も無いから、殺しておくわ。それはあたしの判断だから、あたしが殺る」
コルデリアは淡々と言って、次々に全ての残骸へと攻撃を仕掛けて回って吹き飛ばした。
「‥‥作戦目標の消失を確認、‥‥帰還、し‥‥ひっく」
橘川が泣きながら言った。
――私たちに助けられたから、ディアナさんは大切な友達を死なせなくちゃ、ならなくなったのかな?
誰も間違ってない、のに。
何故。
と、少女は思った。
●
任務を終えて基地に戻った時、シャーリィはディアナへの面会許可を求めた。許可が降りる可能性はゼロに近いとは思っていたが、
「会いたいなら、許可は取って来るから好きにしなさい」
しかしコルデリアはそう言って許可を寄越した。
シャーリィは地下の独房を訪れてディアナと会うとベルサリアの死のきっかけが自分であることを告げた。
「‥‥そうか」
ディアナは頷くと言った。
「エドという講師から聞いていた‥‥それは最終的には、サリアの選択だ。自分の命に最も責任があるのは、自分自身だろう。死にたくなければ、内応の約束を破れば良かったのだ。だが、彼女は約束した事を破るような生き方は選べなかった。だから、それは彼女の選択だ。君の行動がサリアの死を引き起こした事は否定しない。でも、それは色々なものが少しづつそうだろう。私はそれを知っている。サリアが死んだ事に原因があるなら、君だけが原因ではない。例えば、私が死んでいれば、情報を話していなければ、サリアの捕虜としての価値はもっと高かった。そうすれば、軍も事態があそこまで進行する以前の段階で、確保にもっと積極的だったかもしれない。色々なものが合わさって流れを作って、だから時として小さな差異が大きな差異を生み出してゆく。だから、君だけのせいではない、だから、あまり思い詰めないでくれ」
ディアナはそう言った。
シャーリィはまたエミタを求めた理由についても問いかけた。ディアナは先にコルデリアに言ったのと同じ意味の事をシャーリィに答えた。
「‥‥わかった。お前が生きている限りつきあおう‥‥それがベルサリアへのせめてもの償いだ」
シャーリィはそう言った。
「人類側への償いは‥‥生きて戦い続けることしか無いな‥‥」
そして、そう、呟いた。
●
「前回は私の、私達の理由で巻き込みすまなかった」
一方、柳凪はそう言ってコルデリアへと頭を下げていた。
彼はそれで許して貰えるなどとは思っていなかった。罵声を浴びせてくるかもしれない、手が出てくるかもしれない、だが、どうなったとしても、それをただ受け入れ、己が内へと刻み込もうと思った。
己が選んだ道の結末を、少しでも受け止め繰り返さない為に、そして何より、前に進む為に。
コルデリアは柳凪と向き合うと瞳を閉じた。
そして、再び開いて言った。
「神様ってなんでいるのか、最近少し解った気がする」
言って力無く笑った。
「柳凪さん、あたしはどうこう言える立場ではないわ。だからあたしに、ではなく、死んでいった皆へ祈りを捧げてあげて、貴方は既にやっているかもしれないけれど。神様なら、きっと全てを許してくれるでしょう。皆が許してくれるかどうかは、地獄に行った時に一人一人に聞いてやって。普通に怒ってボコボコにされるかもしれないし、案外笑い飛ばしてくれるかもしれないわ――考えたの、もし、だけどあたしがあの時に死んだ兵士だったら、腹は立つけど事情が交錯して死んでしまったのなら仕方ない、もう味方の信頼を裏切るつもりがないなら、これからはしっかりやってねって、そう言うと思うの。皆も、似たような事言うんじゃないかなって。実際の所は解んないけどね、でも」
少女は震える声で言った。
「皆、地球の皆の為に戦ってた人達だもの。その皆の中には、当然あんたも含まれていると思うの。だから。あたしも、頑張るからさ」
そう言った。
やがてコルデリアが去り、シャーリィが地下から上がって来た時、柳凪はそちらを見てた。
彼は彼女が、悩み苦しみんだその上で、再びこの戦場に立ったのを知っていた。
だから今は、柳凪はシャーリィへとただ一言だけ言った。
「おかえり」
と。
了