タイトル:温泉をつくろう!マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/08 22:13

●オープニング本文


 日本国が四国の某県。
 熊型のはぐれキメラが出現したというので、傭兵達はLHより依頼を受けて出動し、つつがなくそれを退治せしめた。
 キメラは山をなわばりとしていて、枯色の山林の間を掻き分け入って退治した。泥臭い、というなら泥臭い仕事だろう。付き添いの依頼人は無事に討伐が確認されると「報酬は口座に振り込んでおく」と述べ、礼を言って去って行った。
 季節は晩秋、二十四節気に基づいて季節を区切れば、立冬を過ぎて初冬、そんな秋だ。
 一仕事終え、獣道を通り道に出て山を降りれば、麓より見上げた西の空は茜の色に燃えていた。風は冷たく頬を撫でてゆく、道の近くを川が音を立てて流れていた。
 そんな中、傭兵の一人が言いだしたのだ。
「この辺り温泉が湧き出るらしい」
 と。
 キメラ討伐の為に麓の町で聞きこんだ際に熊情報と一緒に掴んだネタだった。
 曰く、この辺りの地下を流れる水脈のうち一本はマグマの熱を受けているらしく、ちょっと穴を掘ればたちまちのうちに熱い湯が湧き出てくるというのだ。
 そのままでは入れないので、温度を下げる必要があるのだが、折り良く熱湯が湧き出るのは今歩いている道よりすぐそこに見える川の付近、河原のあたりだと言う。そんな訳なので地元の住民などは偶に河原を掘って熱湯を湧き出させ、さらに小川の水を引いて混ぜ、丁度良い湯加減に調節して露天風呂を楽しんでいるらしい。
――だから?
 と問うとその傭兵は、
「自分達の手で自分達による自分達の為の温泉をつくろうじゃないか!」
 実際の台詞は少し違うが、以上の趣旨のような事をのたまった。
 仕事帰りで疲れているのに何を子供みたいな事を、と幾名かは取り合わずにそのまま帰還したが、幾名かは物好きな事に賛同の意を示した。遊び心を忘れずに、という奴である。
 かくてそんな訳で傭兵達の手による自作温泉作製計画がスタートした。どんな結果になるのかは、まさに神のみぞ知る、というものであった。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 熊キメラを倒した帰り途。
「キメラを倒して、キレイな自然とのどかな生活を取り戻したよ! って感じだね」
 大泰司 慈海(ga0173)が山麓を眺めてしみじみと言った。
「いい仕事したなぁ‥‥って気分になる風景だねぇ‥‥」
「ちぇー、何だよぅ。大規模以外では久しぶりの個人依頼だったのにさぁー」
 道の小石をちょんと蹴飛ばし不満そうなのは魔女っぽいフードをかぶったファタ・モルガナ(gc0598)だ。
 弾幕を張れれば満足するのだが山の熊さんはあっさりと倒されてしまったので不満が残っている様子だった。故にか彼女は川に差し掛かった時に温泉作りの発案が出た時は一も二もなく飛び付いた。
「温泉! いいね! 折角だから楽しもうか!」
 それに、
「オンセンを‥‥自分で、作る‥‥? ‥‥ん。それは‥‥すごく‥‥面白そう、だね‥‥?」
 シンディ・ユーキリス(gc0229)もまた賛成を示した。彼女は生来のバックパッカー気質から野山でのアウトドアは大好きだし、何より、日本の温泉には機会があれば入ってみたいと思っていたのだ。自作温泉だと言うのなら尚更である。
 他にもわいわいと賛同者が集まってゆく。最終的にはルノア・アラバスター(gb5133)、樹・籐子(gc0214)、獅月 きら(gc1055)、大泰司、シンディ、ファタの六名が集まった。
「温泉かー、それはそれで良い考えよねー」
 アラサー美女な樹は陽気に笑ってそんな事を言った。偶には簡単なキメラ退治とかなら余計な気を使わずに済んだと思っていたのだが、ついでに温泉も悪くない。
「丁度同伴してるのは可愛い娘達プラス1だし」
「‥‥ってあれー、男は俺一人ー?」
 大泰司は改めてメンバーを確認し事実を把握する。しかし、
「俺、安全牌だから、危なくないから大丈夫だよーっ☆」
 きらっと星をつけて笑顔をふりまき男は言った。
 説明しよう。大泰司は女の子が大好きで(女の子には)とても優しく、かつ、女の子と話してると癒されて元気がでる程度の中年なので若い娘っこにも違和感なく溶け込めるのである。
「へー」
 ナレーションが聞こえた訳でもあるまいがそっけない視線と返事を送った樹である。年下には男女問わず明るいが年上にはそっけない。
「いやー、ほんとだって」
 あっはっはと笑って大泰司。これはきっとあれだろう、幸運と知力と精神と直感の平均値で難易度16くらいなのだ。
「ほんとかなー?」
 樹は少し疑わしそうだったが、大泰司はその辺り神業クラスであると運命が告げているので人畜無害な笑顔を浮かべてころっとその場のメンバー達に主張を信じこませる事に成功する。
 そんなこんなをやっている他方、
(また、この所、大規模作戦や、戦闘系の、依頼続き‥‥偶には、お友達と、一緒に、です‥‥)
 ルノアはかなり働きづめだったらしくそんな心算なようだ。偶にはのんびりである。
 獅月の方でも、
(久々に二人一緒に過ごせる時間。大事にしたい、です)
 と思っていた。獅月にとっては、家族や恋人と同じにルノアは特別に大切な存在だからである。
 一同は帰還組の傭兵達と手を振って別れると温泉計画を発動する。
「さあ、色々ちゃっちゃっと張り切っていくわねー」
 ぱんぱんと手を叩いて樹が言った。
「となると、準備がいるね!」
 とファタ。
「まずは買い出しから、かな‥‥? 急げばお店も開いているでしょうし」
 思案しつつルノア。
「時間は‥‥ギリギリか。よし、私は岩運んで温泉の型作るから、買いだしは頼むよ!」
「了解、です‥‥」
 かくてファタが残り、他のメンバーは買い出しの為、五名で山麓の町まで急ぐ事になった。
「お姉ちゃんは野外調理器具一式を担当するわねー」
 道中、樹は必要な物をリストアップしつつ一同へ言った。
「そうですね。どうせですし皆で分担しましょうか」
「ん‥‥解った」
「BBQの野菜やお肉とタレ、後は卵も買っていきましょう。玉ねぎの輪に卵を落として焼くと、結構美味しいんです。だから小さいプレートとか、欲しいですね」
「なるほど、了解、プレートね‥‥」
「レンタル出来るならBQセットとかはレンタルで良いんじゃないかな」
 そんなこんなを相談しつつ町に辿り着いた一同は夕焼けの商店街であれこれ買い物を始める。
 大泰司は買い物ついでに、
「キメラ退治したから、もう安全だよ」
 という話を町の人々にして早めに安心させてやった。人通りも少なくなる程度に町は不安に包まれており、店からすれば商売あがったりであったので「お、本当かい。御苦労さん。有難うよ!」と町の人々に感謝された。気配りの出来る男である。
 大泰司、屋外ストーブや釣り具、スコップ等はレンタルしたかったので何処か借りられる場所はないかと会計中に店主に相談すると、
「レンタル出来る場所ってのは知らねぇなぁ。だが町を救ってくれた傭兵さんがご所望なんだ、どれ、ちょうどうちにあるからそれで良けりゃ貸してやるよ!」
「お、良いのかい? 悪いね」
「良いって事よ!」
 という訳で一式を借り受ける事に成功する。一同が購入した物は、タオル、水着、酒、ジュース、つまみ、菓子、卵、調味料、タレ、日本酒、大量の肉、大量の各種野菜、包丁、紙コップに紙皿、ゴミ袋、温度計、串、マシュマロ、レンタルしたのは野外ストーブ、釣り具、スコップ、ホース、パイプであった。
「これでもLH来る前は中央アジア付近で色々経験してきたから。こういう手順は手馴れたものよねー」
 ちゃっちゃかと買い出しすべき品を洩れなく買い終えた事を確認して樹。
「皆で川まで持っていこっ」
 愉しそうに獅月が言った。
「了解、です‥‥」
 ルノアが頷き、皆で分担してがちゃがちゃと集まった大荷物を運び始める。
 結構な量だったが、能力者ともなれば皆荷物運びはお手の物である。辺りが少し暗くなる頃には川辺へと辿り着いたのだった。


 他方、買い出し班を見送って、温泉作りにかかっていたファタはというと、
「って言っても‥‥湧かせるのも楽じゃないね。それはスコップ待ちとして‥‥程良く川水とミックスされる場所作らないとねぇ」
 うーん、と首を捻っていた。
「源泉は熱湯だ」
 熱いのである。冷やす為の水は川から引くとしても、
「良く混ざらないといけないよね」
 真に考えなしに作ると、湯船の上ばっかり冷たく足の方ばかり熱い、なんて事にもなりかねない。入浴者が浸かっている場所の温度は適温でなければならないのだ。
「熱湯と冷水が程良く混ざりそうな位置で入れるように‥‥と」
 女はしゃかしゃかと脳内に設計図を引くと、素材として河原に転がっている石や岩を集める事にする。
 作業を進めているとやがて買い出しに出ていた一行が帰って来た。
 ファタは礼を言ってスコップを受け取ると自分が思いついた温泉作製上の注意点をメンバーに伝えておく。
「そうだっ。皆が入れるように、大きいの作りません?」
 獅月が言った。メンバーは特に反対する理由もなかったので共同の巨大な湯船が作られる事となった。
「労働のあとのメシはうまい! 労働のあとの風呂はきもちいい! 郷に入っては郷に従え、とも言うし。俺は普通に掘ることにした!」
 と借りて来たスコップをかざして大泰司。
 曰く、敢えて勤労を課して侘び寂びの世界に浸かるのもいいね、との事。他メンバーもSES兵器で大地を一発爆砕とかはやらないようだ。
 とはいえ皆能力者なので河原の大きな石もひょいと退かして順調に掘り進めてゆく。特にバトルスコップを持っていたシンディはテントの設営を終えた後、メトロニウム製のそれでさくさくと掘り進めていった。能力者のパワー全開で使ってもスコップが壊れる心配がないので効率が良い。
 広く穴が掘られ、ルノアは底に丸い石を敷き詰めていった。湯の出口も作っておく。ファタが言って熱湯を湧き出させるポイントを決め、一同はその地点を深く掘った。やがて熱湯がこんこんと湧き出てきて、シンディは温度計を借りて温度を確認した。やはり熱湯な模様。大泰司が借りてきたパイプとホースを並べ、安定するようにその周りに通路を掘り川の水を引いた。石を並べて流入する水の量を調節し適温にする。湯船は湧き出た初めのうちは泥で濁っていたが、そのうちに排水の口から流れ綺麗に透き通っていった。
 暗くなってきたので各自ランタンに火を入れて光源を確保した。大泰司が野外ストーブに火を入れBQの準備を始める。ルノアは焚火も起こしていた。シンディは飯ごうで飯炊きを開始し、並行して山間の場所で底冷えすることを考えて豚汁の製作も開始した。
 獅月は調理係を買って出ると、熱せられたBQ用の鉄板に油をひいて、大量の野菜や肉の調理を開始する。凝った料理ではなく素材に塩コショウしてどんどん焼いてゆく。ルノアも調理の練習がしたいので一緒に調理に参加した。じゅわっとした音と共に匂いが広がっていった。
 やがて程良く焼けると獅月は一同に声をかけた。
「皆さん、おなかすきませんか? ご飯できましたよーっ」
「待ってましたー!」
 大泰司が手を叩いて歓声をあげ早速、紙皿を受け取り、そこに盛られた塩胡椒で味付けされた肉と野菜を割り箸を使って口に運び咀嚼した。焼き立ての肉の肉汁が口の中に広がってゆく。
「美味しいね! きらちゃん、ルノアちゃん、グッド!」
 ぐっ! と親指を立てて大泰司。獅月とルノアはその評価を受けてぐっと親指を立て返した。やがてシンディの豚汁も完成して一同に振舞われ、煮えた米も皿に盛られて配られる。晩秋の夜風は冷たかったが、暖かい豚汁は身を温めていった。
「お肉、ココから、ココまで、かな‥‥」
 調理も行っているが、やはり食べるが本職らしく、はらぺ娘ルノアは鉄板の肉一列、端から端までの領有権を主張した。その食欲を知らぬ者達からの少し唖然とした視線を受けながらも次々に平らげてゆく。
「ルノアちゃん、これおいしいよ。はい、あーん」
 そんな中、獅月は笑顔をみせて野菜を巻いた肉を箸で挟んでルノアの口元へと運んだ。
「わふ‥‥あーん♪」
 ルノアはぱくりと齧りつくともぐもぐとして呑み込む。
「美味しい、です‥‥」
「良かった」
 笑って獅月。えへとルノアも笑った。
 そんなこんなをやりつつ食事も終わりに近づくと、
「きらちゃん、あーん」
「ん」
 ルノアはこっそり焼いたマシュマロをお返しに獅月の口元へと運んだ。
「‥‥甘い、ですね」
 獅月は笑ってそんな事を言ったのだった。
 食後。
「お待たせ致しましたメインイベントの入浴は、でも流石に全裸になる訳にはいかないのでテントで水着に着替えてからよねー」
 と樹。そんな訳で女子陣五名は先に建てられたテントの中に入って着替える事にする。たちまちきゃっきゃとかしましい声がテントの内から外へと漏れ始めた。
 他方、テントの外の男は一人、タオルを腰に巻いて木枯らしが吹き荒ぶ中、水着に着替える。
「‥‥寒い」
 風が身に染みた。冬空の星がちょっと煌めいて見えたのは多分、気のせいだろう。


 漆黒を背景に満天の星が煌めいている。大きな三日月が蒼白く輝いていた。川のせせらぎの音が響いている。
 シンディは湯気立つ湯船に長身を浸けつつ盆を浮かべ徳利を乗せ、猪口でくいっと一杯の日本酒を呑んだ。酒が火照った身体の芯まで染みわたってゆくようにすっと入っていった。
「感激よね」
 水着姿の樹籐子がその豊満な肢体を湯に浸けながら呟いた。
 湯船と風情が、ととも取れる発言だ。しかし樹的にはメンバーの若く瑞々しい姿態が、であった。光源は月と星、焚火とランタンの光のみだ。闇と淡い光に白い肌は良く映える。
 女は眼前の光景に感激昇天しつつ一杯の酒を呑む。
「やー、進んでるー?」
 そんな中、不意に大泰司がぬっと出てきて言った。
「‥‥感激じゃない!」
 湧き出た中年にぐげっと口をへの字にして樹。
「つれないなー、ま、一杯どうー?」
 にひひと持ち込んだ酒瓶を手に笑って大泰司。
「どーも」
 一杯注いでもらって呑みつつ湯船に肩まで沈める。身体の芯から温まってゆくのを感じた。良い湯である。
「まー、時期遅れだけど、こういう風情も良いものよねー」
「だねー」
 月を仰ぎ見て大泰司。猪口に口つけて酒を呑めば、身体の底まで染みてゆくようだった。
「月見酒だねぇ‥‥一仕事終えた後の一杯は格別だよぅ」
 そう言うのはファタだ。こちらは折角なのでとタオルで要所は隠しているが水着はきていない。山間の温泉の解放感に浸っている様子。
「甘露甘露♪」
 持ち込んだ酒の杯に口つけつつ金髪の女が笑う。思いっきり素顔である。素顔はあんまり怪しくない。
「ん‥‥?」
 不意にシンディは既視感を覚えていた。
 かつて、こんな風に温泉に浸かってお酒を楽しんでいた自分。ただ、そこには自分以外にもう一人誰かがいたような‥‥?
「シンディちゃん、どうかしたのー?」
 声が近くで気づいてはっとすれば、心配そうに覗きこんでいる樹の顔が間近にあった。
「いえ‥‥なんでもない‥‥大丈夫‥‥」
「ん、そーおー?」
 樹に問題ないと示しつつ、シンディは思っていた。
(日本に来るのは、これが初めてだと‥‥思ってたけど‥‥記憶を失う前に‥‥シンディは、日本に来たことが、ある‥‥はっきりとは、思い出せないけど‥‥うん、多分、間違いない‥‥)
 それは失った筈の記憶の欠片だった。
 他方。
「あの空の向こう‥‥宇宙とか‥‥思ってたより、身近になっちゃったね」
 ジュース片手に水着姿で湯に浸かりつつ獅月が言った。
 見上げれば満天の星と三日月、今ここで手を伸ばしても、届かないけれど。
「そう、ですね‥‥」
 同じく水着姿でジュースに口つけつつ湯船の中でルノアが呟く。
「戦場は宇宙にも広がって‥‥ますます激しくなっていきそう‥‥」
 こんなにゆっくり出来る事も少なくなるのかな、と少女はそう思った。
「ルノアちゃんは‥‥この戦いが終わったら、どうするのかな」
 ぽつりと獅月が言った。
「戦いが終わったら、ですか?」
「どこかに、行っちゃわないよね」
 獅月のその言葉にルノアは軽く笑った。
「‥‥考えた事もなかったですね。もっと恋人と一緒に過ごしたり、もっときらちゃんと遊びに出掛けたり、かな。だから私は生き延びます‥‥だからきらちゃんも、ね?」
 その言葉に獅月は思った。
 今もどこかで続いている大規模な戦いの中で、たまにこんな日常があってもいいよね、なんて少女は胸中で誰かに言い訳しながら言った。
「また来年も‥‥一緒に温泉に行こ?」
 約束。絶対、死なない‥‥って。
 私も、生き残ってみせる、から。
「うん、また、来年‥‥約束」
 微笑してルノアは頷いたのだった。



 かくて一泊してその翌日。
 一行は釣り等をして楽しんでから、しっかりと後片付けをし清掃してゴミを拾い集め町に借りた物を返却し帰路についたのだった。



 了