タイトル:空の戦船マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/21 13:53

●オープニング本文


 北の大地、グリーンランドの東の空、無数の鋼鉄の翼が飛びかっている。
 撃ち合っているのはUPCのKVとヘルメットワーム、激しくレーザーとプロトン砲を応酬している。
「くそっ、数が多い! K−02はどうした?!」
「そ、それが、ロックオン出来ません!」
「ナニィ?!」
 UPC軍は窮地にあった。
 虎の子のK−02を大量に用意して迎撃にあたった彼等であったが、マルチロックを行っている最中にロックが解除されてしまうのだ。ロックオンしなければミサイルは効力を発揮しない。
(「畜生‥‥バグアめっ!」)
 ロングボウ乗りの男は風防の彼方に見える、巨大なヘルメットワームを睨んだ。しかし、それはワームと呼んでも良いものなのか? 話に聞くギガワーム程ではないが、通常のワームよりも遥かに分厚く巨大で、無数の砲門を四方に備えている。空中戦艦とでも呼ぶべき代物だ。どうも、その巨大戦艦からロック解除パルスが小刻みに撒き散らされているらしく、マルチロック式のミサイルでは複数の敵をロックしようとしている最中にロックがキャンセルされてしまうのだった。
 敵編隊は数の多さを利用し、三機一組で集中攻撃を浴びせ次々にUPC軍のKVを撃墜してゆく。
 煙を噴き上げ、シラヌイが、フェニックスが、シュテルンが、紅蓮の火球と化して暗く冷たい海へと墜ちてゆく。
「くそっ、撤退! 撤退だ!」
 僅か数機にまで撃ち減らされたKVは翻って退却に移る。しかしヘルメットワームの群れは一斉に赤く輝くと猛烈に加速して喰らいつくと爆光の嵐を解き放ってKV隊を虚空の塵に変えた。

●指令
 本日未明、東海より多数の敵性航空戦力の接近を確認した。K−02ミサイルを主力として配備された第一航空大隊が迎撃に出たが、力及ばず殲滅された。敵は依然として当基地に向けて侵攻中だ。この進撃は止めなければならない。
 どうも、敵は特殊なロック解除パルスを発生させる装置を用意してきたらしく、複数機をロックオンの対象とするミサイルが常の効力を発揮できぬようだ。
 報告によれば、ロックオンを完全に無効化するものではないので、ロックして即座に撃てばある程度の効力は見込めるらしい。故に単発の物ならば常よりは精度が落ちるだろうが、ある程度は対抗できるようだ。
 貴君等傭兵隊はただちに出撃し、敵の「巨大戦艦」およびそのヘルメットワーム編隊を撃破せよ。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
鬼非鬼 つー(gb0847
24歳・♂・PN
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 グリーンランド、吹雪の大地の基地のハンガー。
 今ここで慌ただしく整備兵が駆けまわっていた。兵士達がアスファルトの道を駆け声をあげ、腕をふる。備えられた赤のランプが音を立てて回転。シャッターが開き外界の光が差し込む。
「キューブワームを使わず直接追尾システムを撹乱‥‥バグアのオーバーエクノロジーというよりはこちら既存技術の転用のようじゃないか」
 愛機のCD‐016シュテルンのコクピット内に乗り込んでいる白鐘剣一郎(ga0184)は光に目を細めながらそんな事を呟いた。
 それに時任 絃也(ga0983)が応える。
「ロック解除パルス、か。確かに。しかしK‐02等の複数敵を狙う物には難敵だな」
 R‐01の機器をチェックしながら男は言う。システム、オールグリーン、異常無し。能力者となってから長く乗っている機体だが不良などは出ていないようだ。
 時任の言葉に白鐘は「同感だ」と頷いた。K‐02はマルチロックオンして攻撃する。複数をロックしている最中に解除されてしまうとなっては、常の効果を発揮する事は困難だった。
「まぁ脅威よね、KVの虎の子が使用不可になっちゃうのは」
 んー、と考えるようにしながら言うのは皇 千糸(ga0843)。
「単発なら一応有効なのがせめてもの救いかしら」
 彼女の愛機もまた初期ナンバーだ。ナイトフォーゲルS‐01。北米で名を馳せた名機である。
「全く、面倒な物ばかり作るな、バグアは」
 真紅のディアブロに搭乗する時枝・悠(ga8810)が軽く嘆息しながら言った。
「強力な兵器に頼りきりになるからこんな状況になるんだよ‥‥」
 と苦笑を洩らしているのは鳳覚羅(gb3095)だ。今回搭乗するのは同じくF‐108ディアブロ。まぁ強力な兵器が登場すれば、それへの対抗策を敵陣営が編み出すのは歴史の常でもある。
「だが手の内を晒した以上、いつまでも通用しない事を証明しよう」
 白鐘が言った。
「了解、行きましょうか」
 応えてティーダ(ga7172)が言った。空戦は久々ですね、と胸中で呟く。間を開けての空の戦場となるが、その心に不安はあるのかどうか。変化に乏しい表情からは窺えない。乗機はPM‐J8アンジェリカ。
「傭兵隊、出撃を許可する」
 無線から声が洩れた。
 各員「了解」の声を返すと操縦桿を握る。各機エンジンの回転音があがり、次々にハンガーを抜けて滑走路へと出て行く。方向を切り返し、加速、飛んだ。
 十二の鋼鉄の翼が冬の大空へと舞い上がり、東の海を目指して飛んだ。


 凍れる黒海の上空、高度三〇〇〇フィート。
「フフーフ、陸戦屋が空戦苦手だなんて、そんなことはないんだぜ?」
 ひゃほーうとでも声をあげそうな風情でローリングしているのは鈴葉・シロウ(ga4772)の雷電だ。重厚なイメージのそれとは裏腹に、なかなか軽快な機動である。
「たまには空戦もいいだろう」
 と言うのは鬼非鬼 つー(gb0847)だ。三度のメシより酒が好きな飲兵衛である。いつも酒を楽しむ心を忘れない。愛機はGF‐106ディスタンだ。
「空中、戦艦に、カスタム、HW‥‥戦い、甲斐は、十分、以上、です、ね」
 愛機S‐01HRotSturmの中ぐっと拳でも握りそうな調子でルノア・アラバスター(gb5133)が言った。機体はメタルレッドの色に染め上げられている。
(「私がしてるのは戦争‥‥戦えば犠牲も出る‥‥でも戦わなくても犠牲が出る‥‥」)
 ディアブロのコクピット内、葛藤を抱えているのはリーゼロッテ・御剣(ga5669)だ。一時期戦いからの恐怖で傭兵を辞めようとLHから離れていたらしい。
(「それでも私が守れる命の為に‥‥行こう! ル・シーニュ!」)
 女は新たな気持ちでバグアと戦う決意を胸に、愛機に呼びかけ操縦桿を倒す。
 基地から出撃し空を舞うこと数分、やがて傭兵達は十二機のHWと巨大な戦船をレーダーに捕捉した。
「なるほど。ダンスの相手には、少しばかり多いな」
 時枝が言った。ジャミングの嵐の中、明滅する光の数は敵方が勝っている。
「敵勢力へナンバリングを開始します」
 乾 幸香(ga8460)が言った。眼鏡をかけた癒し系のほんわか美人である。搭乗機はR‐01Eイビルアイズだ。
 乾は戦域全体の右より敵各編隊をグループA、B、C、Dとし、それを更に細分化して編隊内の敵三機を右から1、2、3と振った。
「攻撃目標の確認をお願いできる?」
 皇が言った。それぞれ早口に述べる。攻撃プラン、前からか端からか、多少意思統一に差異が見られる。このまま撃っては効果が低い。
「各機、ナンバリングのAに合わせてくれ」
 時任が言った。各員目標を修正する。
 時と共に距離が詰る。目視距離。敵は戦艦を中心に置いて左右に別れている。両軍の鋼鉄の翼が唸りをあげ音速を超えて迫る。
「各レンジ、タイミングを合わせていこう」
 鳳が言った。
「了解。初手でどこまで削れるかが肝ね」
 頷いて皇。空気が張り詰めて来た。
「初撃で小型を落せれば数で優位に立てる‥‥是が非でも落したいが、さて」
 時任が呟いた。
「酒が不味くなる前にさっさと倒して帰ろう」
 鬼非鬼がそんな軽口を叩いた。少し一同の肩から力が抜ける。
「ええ、勝って帰りましょう二つ鬼。自分もお酒は大好物だ」
 鈴葉が軽く笑って言った。距離が詰る。
 乾はコクピットの彼方を睨む。敵影がみるみるうちに大きくなってゆく。計器に目を走らせる。相対距離、二千、千五百、一千、入った。乾はバグアロックオンキャンセラーを発動させる。
「今から【殺虫剤】を散布しますから、敵が弱っている間に思う存分叩いちゃって下さいね」
 キャンセラーの発動と同時にイビルアイズを中心に重力場の乱れが発生し広がってゆく。乾機のキャンセラーはしっかりと改造されており効果が高い。かなり強力な支援だ。
 距離が詰る。音速の戦闘。瞬く間に各機射程距離に入る。
「チャーリー1、フォックス2!」
 一番手、平坂 桃香(ga1831)機のアフターバーナが炎を噴いた。ブーストを点火し、アクチュエータを発動させ小型HWA3機へと向けて距離七〇〇から四発の多段目的誘導弾を次々に撃ち放つ。即座にパージ。誘導弾が音速を越えて飛び次々に命中し大爆発を巻き起こした。
「ペガサス、エンゲージ!」
 続いて白鐘はA1をガンサイトに納めると、スナイパーライフルのトリガーを押し込んだ。リロードしつつ連射。ライフル弾が回転しながら飛びだし、ヘルメットワームの装甲をぶち抜いて穿つ。
 戦艦の前部に光の粒子が凝縮した。猛烈な破壊力を秘めた極大の爆光が宙を焼きつくして飛ぶ。真っ先に狙われたのは強力な支援能力を持つ機体、乾機イビルアイズだ。迫りくる光の壁に対し乾は操縦桿を倒し急旋回、回避せんと試みる。避けきれない。呑み込まれた。乾は真っ白に染まったコクピットの中で、機体の翼が捩れて軋み、装甲が消し飛ばされてゆく音を聞いた。損傷率約八割。
 距離が詰る。相対距離400。
「チャーリー3、フォックス2!」
「ベータ3、フォックス!」
「ベータ4、フォックス2!」
「ベータ2、フォックス2!」
 一斉射撃。ティーダ機、鳳機、ルノア機、時枝機から次々に誘導弾とロケット弾が撃ち放たれる。煙を噴出しながら大量のミサイルが一斉に伸びてゆく。
 ティーダ機からA3に向けてUK−10AAEMが二発。鳳機からA2に向けて84mmロケット弾が十六発。ルノア機RotSturmもまたA2に向けてUK−10AAMを二発。時枝機はブーストを点火しパニッシュメントフォースを乗せてA2へとUK−10AAMを連射した。
 さらに距離が詰る。相対距離300。先の誘導弾が届くよりも前に次弾が放たれる。
「ベータ1、フォックス2!」
「アルファ2、フォックス2!」
「アルファ4、フォックス2!」
 時任はブーストを発動させさらに全弾にアグレッシヴファングを乗せ8式螺旋弾頭ミサイルをA2へと向けて連射した。皇機もまた螺旋弾頭ミサイルをA1へと連射する。乾機はUK−10AAMと螺旋弾頭ミサイルを一発づつ撃ち放った。誘導弾とロケット弾の嵐が次々に飛び、HWに命中し爆裂の華を咲かせてゆく。鈴葉機は前進し距離二〇〇まで詰めるとストレイキャッツ誘導弾を爆炎の中に叩き込んだ。
「ジュッ! とね」
 鬼非鬼機はさらに距離を詰めてオメガレイレーザーガンを叩き込んだ。強力な破壊力を秘めた蒼光が宙を切り裂いて炎の中のヘルメットワームへと突き刺さる。爆裂が巻き起こった。撃破。
 集中攻撃を受けたA1、A2、A3の三機のHWは激しく爆裂を巻き起こしながらバラバラになって暗い海へと落ちてゆく。集中攻撃は成功だ。
 だが残りの九機のHWもぼうっと漂っている訳ではなく、音速を超えて矢の如くに迫っていた。
 D編隊の三機は先頭に出ている鬼非鬼機ディスタンへと集中して猛攻をかけた。鬼非鬼、戦線から一歩退いた位置で戦いたかったが、武装の射程がどれも短い。先頭に立っている。三機のヘルメットワームが赤く輝いて超音速でプロトン砲を猛射しながら鬼非鬼へと押し寄せて来た。
 淡紅色の光線の嵐が鬼非鬼機へと迫る。避けきれない。ディスタンが光の烈波に呑み込まれた。猛烈な勢いで装甲が削り取られてゆく。
「ぬ‥‥」
 コクピット内の危険ランプがやかましい。閃光を抜ける。耐えた。次の瞬間、見えたのは空ではなく、視界一杯に広がる赤く輝く光を纏うモノだった。ヘルメットワーム。回避――相手の方が速い。避けられない。鬼非鬼はすっと目を細めた。
「バグアがカミカゼとは恐れ入る」
 一機がディスタンに音速を超えて激突する。金属の絶叫が鳴り響いた。破片を撒き散らしながら吹き飛んだ鬼非鬼機へともう一機が追撃を入れ、さらに一機が突っ込んで粉砕した。翼を叩き折られたKVが黒煙を噴き上げ、漏電を洩らし火球に包まれ錐揉むように回転しながら落下してゆく、次の瞬間、爆散。破片がバラバラと暗海へと堕ちてゆく。大破。
 C編隊。淡紅色の光の牙が鈴葉機雷電を呑み込まんと宙を焼き焦がしながら迫る。
「てめぇらッ!」
 鈴葉、操縦桿を操り雷電を急旋回させる。重厚なイメージのあるそれだが、鈴葉機は軽快だ。乾機のロックオンキャンセラーの援護の影響もあり、紙一重で閃光の嵐を掻い潜る。三機が赤く輝き矢の如く、突っ込んで来る。一つ、かわす、二つ、かわす、三つ目避けきれずに激突する。猛烈な破壊力。雷電の表面が陥没して装甲が割れ、弾き飛ばされて縦横に回転する。エンジンストール。損傷率一割八分。なかなかタフな造り。連続打を浴びなければなんとかなるか。
 B編隊、乾機を狙ってる。リーゼロッテ、守らんとは心がけている。援護、行けるか? 一斉射撃に行動を使ってる、自機より前に居る、厳しい。空で敵の突撃を牽制出来るのは基本、退けるに足る火力を持った攻撃のみだ。ワームが迫る。プロトン砲の嵐が解き放たれた。
「くっ‥‥!」
 乾、翼を翻す。淡紅色の壁。唸りをあげて迫り来る。避けきれない。呑み込まれた。先の戦艦の主砲が効いている。イビルアイズが半ばから真っ二つに叩き折られて爆裂を巻き起こし、吹き飛んだ。黒煙を噴き上げながら落下。爆散。大破した。
 戦艦の前部が輝く。狙い、HWが肉薄していないKVで位置が最近。運動性が低く、火力が高い、皇機。極大の爆光の渦が逆巻き、万物を薙ぎ払う勢いでS‐01へと向かって解き放たれた。
 光の柱に皇機が呑み込まれ、凄まじい勢いで表面装甲が吹き飛んでゆく。
「ハードね、どうにも!」
 皇、お馴染みの台詞を吐き捨てつつ操縦桿を切って閃光から離脱する。あちこちやれれているがS‐01、飛んでいる。損傷率およそ五割。タフな造りだ。
 平坂機ブーストを継続しマッハ6で突き抜ける。鈴葉機の周辺へと煙幕を打ち込みつつ、同機に追撃を入れようとしているC1を交差ざまに剣翼で叩き斬らんとする。ワームが翻る。雷電の方が速い。入った。装甲が深く抉られ斬り飛ばされてゆく。三回ヒット。漏電が発生し次の瞬間、大爆発と共に四散した。撃墜。半端じゃない。
 二機になったC編隊、煙の中の鈴葉機へと猛攻をかける。プロトン砲の猛射。敵の数は減った、煙幕の援護があるが、乾機のロックオンキャンセラーが消えている。
「こなくそっ!」
 鈴葉機、アフターバーナを吹かせ、ジェット噴射ノズル核を操作し、螺旋の軌道で急降下。超電導アクチュエータを起動させている。風が唸る。光がコクピットの間近をかすめてゆく。歯を食いしばって加速。かわす、かわす、かわす。二機のヘルメットワームが迫る。機体を横に操縦桿を引く。空気の断層に対し機体を横に滑らせる。翼が悲鳴をあげている。ヘルメットワームが間近を突き抜けて行く。もう一機。斜め上に捻り込んでこれも回避。良い運動性だ。
「舐めてもらっちゃ困りますぜ!」
 ヘルメットワームの後背へとスラスターライフルで猛弾幕を張る。ワームもまた急旋回して回避。あちらも速い。狙い澄ませて四十発のポッドミサイルを空へと解き放つ。煙を噴きあげ四方から誘導弾が襲いかかる。ワームは猛加速し、天へと突き抜けてかわさんとする。誘導弾が迫る、喰らいついた。爆裂の華が咲き誇る。
(「なるほど、確かに強化されただけはあるな‥‥ッ!」)
 白鐘、レーターに映る戦況を一瞥し胸中で呟く。
「だが抜かせて貰う!」
 アフターバーナを点火して加速。編隊の上を抜けて、バトルシップへと向かう。天から矢の如く突っ込む。スラスターライフルで弾丸を吐き出しながら吶喊。戦艦の側面を撫でるようにソードウイングで叩き斬る。猛烈な破壊の嵐が巻き起こった。
 ティーダ機もまたバトルシップへと接近するとM−12粒子砲を叩き込んだ。光の粒子がアンジェリカの砲に集まり、次の瞬間、猛烈な爆光となって巨大な戦船へと伸びて行く。直撃。凶悪な破壊の光がバトルシップの装甲を吹き飛ばした。
「硬く強く遅い、か。なるほど、落とし甲斐がありそうだ」
 時枝機もまたバトルシップへと距離を詰めると、ミドルレンジから誘導弾を猛射した。AAMとAAEMが戦艦へと突き刺さり、火炎とエネルギー爆発を引き起こしてゆく。
 B編隊、三機のHWが猛加速して皇機へと迫る。S−01は即応して翻り距離を取る。相手の方が速い。ブースト点火。間合いを詰めさせまいと動く。まだ少し相手の方が速いか。じりじりと距離が詰る。引き連れつつ旋回して僚機の方へと。
 空が唸る。リーゼロッテは機首を回しつつレティクルを合わせる。ロックサイト、赤く変わった。今。
「アルファ3、フォックス2!」
 発射ボタンを叩き込む。AAM三連射。音速を超えてミサイルが飛ぶ。ヘルメットワームが翻る。一発外れて二発命中。爆炎がワームを呑み込んだ。
「ベータ1、フォックス2!」
 D編隊の先頭1をロックオンし時任はAAM撃ち放った。ヘルメットワームが旋回する。円の軌道を読んで詰め、スラスターライフルによる追撃を狙う。その時任機に対し2と3が詰める。
「そっちにはいかせないよ」
 高空に回っている鳳機がD1の進路に対しロケット弾を撃ち放ちつつ前進する。D1はさらに翻って回避。
「エネルギー、集積砲、スタンバイ‥‥外さない!!」
 回避先を予測しブレスノウを発動させルノアはKA‐01試作型エネルギー集積砲を撃ちこんだ。リロードしつつ連射。砲弾が勢いよく飛び出す。一発命中、一発外れ。強弾がワームの装甲を穿った。
 時任機へと淡紅色光線砲が襲いかかる。四発の閃光を旋回して三発回避。一発直撃。音速を超えてヘルメットワームが二機突っ込んで来る。紙一重で連続攻撃をかわす。R‐01、初期ナンバーだが良い動きだ。突っ込んできたものは置き去りにD1へと迫る。接近しスラスターライフルを撃ちこむ。
(「同一的に火力を集中した方が効率が良いはずだ」)
 時任はそう考える。基本的に正しい。だからこそ双方集中してくる。故にこそ守るとなればダメージ分散を心がけるべきなのだ。だが、集中と分散が最も有効かどうかは彼我の戦力とその時の状況に拠る。集中の度合い。個々の火力と防御力の差が激しいのは傭兵隊を運用する上で最も頭の痛い所。難しい状況だ。
(「今回ではこの配分で吉と出るか凶と出るか‥‥!」)
 D1が翻り距離を詰めプロトン砲を猛射する。時任機、一発回避、一発かすめた。翼の端の装甲が吹っ飛んでゆく。
「‥‥でかいのも厄介だが小型も大概だな」
 簡単にやらせてくれる相手でもないようだった。


「俺が注意を引き付ける。まずは一撃加えてやってくれ」
 ブースト飛行でシュテルンが挑発するようにバトルシップの表面を舐めるように飛ぶ。雨あれれと至近距離から対空砲の弾幕が放たれる。シュテルンはローリングしながら鮮やかに回避してゆく。抜群の運動性だ。
 ティーダ機はロック解除パルスの出力装置を探しつつ荷電粒子の嵐を撒き散らしている。閃光が吹き荒れるごとにバトルシップの装甲が消し飛ばされてゆく。
 白鐘機を狙っても埒があかないと判断したか、ティーダ機へと目標を変更して対空弾幕が飛んだ。アンジェリカは素早く機動して弾幕を掻い潜ってゆく。こちらも速い。
「ベータ2、フォックス2! フォックス2! フォックス2!」
 パニッシュメントフォースを発動させディアブロが猛撃を開始している。誘導弾が次々に炸裂し爆裂が戦艦の各所で吹き荒れた。
「今度は俺の番だ。参る!」
 シュテルンは一端距離を離すと切り替えし、マッハを超えて吶喊してゆく。交差ざまにソードウイングで巨艦の表面を抉り切ってゆく。爆裂の華が咲いた。巨大なバトルシップのあちこちから黒煙が吹き上がってゆく。
 C編隊、ヘルメットワーム二機がプロトン砲を猛射する。鈴葉機は素早く機動して光の嵐をかわす。スラスターライフル、重機関砲で反撃。弾幕を張ってから誘導弾で追撃を放つ。C2は翻って弾幕をかわし、ポッドミサイルも全弾回避した。互いに当たらない。
 平坂機がワームへと超音速で迫る。ヘルメットワームC3へと交差。抜ける。後方で爆裂が巻き起こった。ワームが火球に包まれて堕ちてゆく。撃破。
 D編隊三機、目標を鳳機へと転じ、迫る。鳳機、ブーストを点火して弧を描いて翻る。防御機動、間合いに入れさせない。時任機とルノア機が軌道を読んで詰める。R−01から誘導弾が撃ち放たれ、D1が回避に移った所へ合わせてルノア機がブレスノウを発動させて集積砲を撃ちこむ。誘導弾が二発命中し、砲弾が一発命中した。爆裂が巻き起こり装甲が砕ける。
 B編隊の三機、リーゼロッテ機へと目標を転ずる。皇機が翻る。
「アルファ3、フォックス!」
 ディアブロはB2へと誘導弾を撃ち放つ。命中。爆炎が吹き上がる。炎を裂いてワームが飛ぶ、ヘッドオン、プロトン砲を猛射。リーゼロッテ機はピンポイントフィールドを張りつつ重機関砲の弾幕で迎え撃つ。退かない。閃光が爆裂し、フィールドと鬩ぎ合い突き破られて装甲が吹き飛んでゆく。ワームが迫る。先頭を飛ぶB2をさらに爆裂が呑み込んだ。
「アルファ2、フォックス2!」
 皇機が誘導弾を猛射している。猛撃を受けてB2の装甲が一気に吹き飛ばされゆく。
(「見えた‥‥! やれるはず‥‥いいえ、やってみせる!」)
 激突、刹那。
「マニューバ! いっけぇぇぇ!」
 アフターバーナが炎を吹き上げた。アグレッシヴフォースを発動させソードウィングでカウンター。轟音と共にワームの赤壁とディアブロの翼が激突し激しい火花が散る。瞬後、双方吹き飛んだ。回転するB2の装甲から電流が洩れ、次の瞬間爆裂を巻き起こした。撃破。1と3が超音速で飛来し、弾き飛ばされたリーゼロッテ機へと追撃を入れ、さらに海へと向かって吹き飛ばした。装甲の破片を散らしながらディアブロが錐揉みながら落下してゆく。暗海が迫る。激突間際、ディアブロは盛大に水柱を吹き上げながら、機首をあげてゆく。損傷率六割一分。まだ健在だ。
 白鐘機、ティーダ機、時枝機が再度猛攻を仕掛ける。バトルシップがついに火の球と化した。爆裂を起こしながらゆっくりと海へと向かって落下してゆく、撃墜だ。
 鈴葉機はHWからの猛撃を翻ってかわすと、なかなか当たらないHWに対して考える。超電導アクチュエータを発動させ趣味と浪漫と認識している二段噴射式ミサイル「ストレイ・キャッツ」を撃ち放ち、加速した。八発のミサイルが次々に飛びだし、迫ると同時にもう一段超加速する。爆炎の華が咲き誇った。当てるには使える。衝撃に揺らいでいるHWへとそのまま突っ込むとソードウイングで叩き斬った。HWの装甲の傷から電流が荒れ狂う。次の瞬間、木っ端に爆ぜ飛んで四散した。撃破。
 平坂機は翻ってヘルメットワームD3をサイトにロケット弾を猛射した。十発の砲弾が次々に炸裂し大爆発を巻き起こした。黒煙をあげてHWが堕ちてゆく。撃破。
「アルファ2、フォックス2! フォックス2! フォックス2!」
 皇機が螺旋弾頭誘導弾を三連射した。煙を噴き上げてミサイルが飛び、B1の装甲に喰らいつく。強烈な破壊力が炸裂しその装甲の大半を吹っ飛ばしてゆく。翻ったリーゼロッテ機が重機関砲で猛弾幕を張り追撃を入れる。B1は衝撃によろめきながらも赤く加速して急旋回し、その半数程度をかわす。火花が散っているがまだ飛んでいる。プロトン砲で撃ち返しつつ、僚機と共に突撃。カウンターのソードウイングをかわしざまフォースチャージで猛撃をかけた。ディアブロの翼が叩き折られて弾き飛ばされ、海面に激突し、沈んでゆく。瞬後、大爆発が巻き起こった。盛大な水柱があがり、破片が暗海に撒き散らされる。リーゼロッテ機、大破。
 D編隊二機、目標を転じルノア機へと向かう。鳳機が翻り時任機が誘導弾を猛連射した。全弾命中。D1が爆裂を巻き起こしながら墜落してゆく。撃破。鳳機、ロケット弾は品切れなので後背からHWを追う。
 ルノア機は突っ込んで来るHWに対しラスターマシンガンで弾幕を張った。ワームは弾丸を受けたままそのまま超音速で真っ直ぐに突っ込んで来る。軽いと踏んだか、玉砕覚悟か。ルノア、冷静に見て回避を試みる。用心はしている。急旋回。だが、少し厳しい相手。かわしきれずに激突し、吹き飛ばされる。装甲が盛大に砕けて宙に舞った。損傷率四割五分。
「‥‥っ! まだ、大丈夫!!」
 機体を制御し立て直す。しかし全力攻撃を受けると不味いか。
 平坂機からロケット弾が猛射された。D1が大爆発を巻き起こして砕け散ってゆく。
 B編隊二機。ルノア機へと向かう。皇機から誘導弾がB1に喰らいついてふっ飛ばし、爆裂と共に爆散させた。撃墜。
「南無三!」
 鳳が吼えトリガーを引く。最後のB3はルノア機に届く前に残りの全機から一斉攻撃を受けて爆散させられた。
「状況終了。鬼非鬼、乾、リーゼロッテ、聞こえるか? 聞こえていたら、応答を――」
 白鐘が無線に声を発する。やや経ってからノイズと共にくぐもった返信が帰って来た。脱出ポッドは正常に動作していたようだ。三人とも無事なようである。
 一同は三人を海から回収すると、再び舞い上がり。基地へと引き上げて敵勢力の撃破を報告したのだった。



 かくて傭兵隊の奮闘により迫り来たバグアの空軍勢力は撃退された。
 航空優勢は挽回され、基地は危機からひとまずの脱出に成功する。
 グリーンランドの戦況は、未だ予断を許さぬ状況にある。人類がこの地に真の平穏を取り戻す事が出来るのはいつの日か。
 ただ、今は、今日の勝利を祝い、明日への希望を繋ごう。戦士達につかの間の休息を。


 了