●リプレイ本文
グリーンランド。UPC軍駐屯所。
「調査隊が通信途絶した現場までのルートは把握出来ているか?」
白鐘剣一郎(
ga0184)が駐屯所の士官に問いかけた。士官曰く定時報告によってある程度までは把握しているらしい。だが最終的に何処まで進んだのかは解らないとの事。
「道は無数にあるが、それぞれが何処へ通じているかまではまだ判明していない‥‥という訳か」
解っているのは、調査隊が通った道の先には二つ目の大空洞がある、という事だけだ。
「解った。有難う」
礼を言って白鐘。
「敵勢力未確認、地形未確認、損害状況未確認‥‥か。状況はこちらにとってあまりにも不利だな」
口元に指をやり、考えるようにしながら銀髪の少女が呟いた。サヴィーネ=シュルツ(
ga7445)だ。
「そうだな。今ならまだ降りられるが?」
士官が言った。
「まさか」サヴィーネはふん、と鼻を鳴らし笑う「状況は不利だが、だからこそ面白いじゃないか?」
「物好きな奴だ」嘆息して士官「その闘志に期待させてもらおう。だが、無理はするなよ」
「解ってる」
少女は頷き、かくて十人の傭兵達が鉱山へと向かった。
●
件の大空洞はグリーンランドに聳える鉱山の地下にある。傭兵達は装備を整え軍用車に乗り込み山へと向かう。
「なんつーか。見知った顔が多いッスね。ヨロシク頼むッスよ」
六堂源治(
ga8154)は車内のメンバーにそんな声をかけ、お互い挨拶をかわす。
「よろしく。しかし、レアメタル開発かぁ‥‥UPC軍も色んなことやってるんだねぇ」
車に揺られながら大泰司 慈海(
ga0173)が言って、再び借り受けた地下図へと目を落とす。最初の大空洞までしか書かれていない。やはり多くは解らないようだ。
「傭兵のように依頼を受けて戦う能力者もいれば‥‥人類の発展に向けて危険な場所に赴く能力者もいるんだね」
「資源があって困る‥‥と言う事はないですしねぇ」
と言うのはヨネモトタケシ(
gb0843)だ。むしろ無いと困るものである。
「なかなかその活躍が表にされる事はありませんがぁ、KVの配備の為に必要な物を初めとして、武器弾薬、日々の食糧、そういった物を確保する為に奔走している人もいるのでしょうねぇ」
男はそんな事を言った。
「でもその調査隊は恐らく全滅‥‥か。口惜しい、ね」
「一人でも生き残りがいれば助け出したいけど‥‥」
皇 千糸(
ga0843)が言った。
「軍がはっきりと全滅と言ったからには‥‥残念だけど、生き残りがいる可能性は少ないんじゃないかな」
目を閉じ、首を振って大泰司。状況は絶望的であるらしい。
「‥‥そうね」
女はしばし考え、頷いた。
(「――それに、今の自分達にそこまでの余力はないのかもしれない」)
余計なことに気を取られて自分達がピンチになったら目も当てられない、そんな事を思った。
「‥‥今は、敵を倒すことだけを考えるわ」
皇はそう言った。
●地下へ
雪中を行軍し、やがて山へと到着した一同は坑道に入った。坑道の奥、塗りつぶされた黒い闇が、ぽっかりと口を開いている。
(「――さって。穴から出てくるのは鬼か蛇か。それとも、もっと厄介なナニかか?」)
六堂は地底への入り口の前に立ち、そんな事を胸中で呟く。
傭兵達は二つのルートから隊を分けて進行するプランも考えていたが、それは難しいと判断し、調査隊の進行ルートを後追いするプランを採用していた。班はやはり、二つに分ける。A班を先行させて斥候としB班がそれに続く予定だ。A班は六堂を含め、白鐘、サヴィーネ、大泰司、皇の五名だ。
「地下の戦闘ですか‥‥完全な闇というのは意外と経験ありませんね」
綾野 断真(
ga6621)が穴の先を見据えて呟いた。
「十分、気をつけてください」
「ああ。この先は敵地だ。状況は全て敵に有利と考えて動こう」
白鐘は頷き、ヘルムの脇にハンドライトをつけてバンドで固定した。皇、大泰司、六堂、サヴィーネはヘッドライトを借り受けて装着している。六堂とサヴィーネはライトを切ったままにしておいた。白鐘が太刀と盾を手に闇の中へと入ってゆく。その後にサヴィーネ、大泰司、皇、六堂の順で続いた。
しばらくの間を置いてからB班、先頭からヨネモト、綾野、鳳覚羅(
gb3095)、御影・朔夜(
ga0240)、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)の順で五名が続く。綾野、ヨネモト、鳳の三人はヘッドライトを軍から借り受けて装着し点灯している。綾野はまた突撃銃にサプレッサーを取りつけた。
「闇にはドラグーンは強いですね」
AU−KVには照明機能と暗視機能がついているようだ。シャーリィは追加で肩にクリップと磁石でライトを止めた。御影はライトを申請したが、装着せずに荷物袋の中に入れて保持した。
「いつでも襲撃されるぐらいの考えで行った方が良い」
地の利は向こうにある、と鳳。
「了解ですよぉ」
ヨネモトが言ってライトで照らしながら先頭をゆく。
かくて十名の傭兵達が闇の底へと入っていった。
●
地の底へと潜ってゆく道を降る。道は狭く、空気は土の匂いが濃かった。ライトから伸びる淡黄の光を頼りに進んでゆく。
(「うーん、ここを走りながら進むのは少し難しいかしら」)
皇は無線を片手にそんな事を思った。
サヴィーネは先頭に立つ白鐘と共に前方を警戒している。白鐘の死角をサヴィーネが後ろからカバーする形だ。大泰司は頭上や足元にも注意を払っている。先頭の明りを頼りに殿の六堂は進む。後方に特に注意を払っているが後ろに見えるのは闇だ。B班もまた無事進んでいるだろうか。
B班ヨネモトは先頭に立ちライトで道を照らしている。綾野はメモにマッピングしながら進んだ。
「こんな通路で狙われるのだけは避けたいところだね‥‥」
鳳が呟いた。男は周囲を広く警戒している。御影は無灯火で進む。シャーリイは暗視機能をオンにしている。
やがてA班は一つ目の大空洞に出た。後続を待つ。B班と合流し、あまり分散せずに広大な闇の空間を進む。調査隊が入ったという通路を目指して進み、やがて空洞の端に到達。またA班が先行し、しばらく間を置いてからB班が続いた。
緊張に満ちた行軍。闇の静寂だけがそれに答えた。傭兵達は通路を進み、やがてまた巨大な空洞に出た。両班は合流し先へと進む。先の調査隊の報告があったのはこの辺りまでだ。
固まって地下の空間を進む。
やがて前方を照らすライトの彼方に古びた制服に身を包んだ女の姿と数匹の蟻人型のキメラの姿が浮かびあがった。
「キメラだ!」
「人もいるぞ!」
「助けないと――!」
「待て、様子がおかしい」
サヴィーネと六堂はヘッドライトを点火した。光に照らされる中で少女は傭兵達の方を見て座っている。六体の蟻人型のキメラが周囲に佇んでいた。だが、キメラは少女を襲うそぶりは見せず、少女もまた平然としている。
「バグアか‥‥?」
見た目では解らない。迷い込んだ民間人だったら射殺する訳にはいかないが、状況からは敵の線が濃いように思えた。こんな所にただの人間が来る可能性は極めて低いしキメラが襲っていないのは妙だ。
「おや‥‥本当に来たな」
少女はよく通る澄んだ声で言った。ぼぅっとその身体から炎の如く赤の光が立ち上る。地面に置かれた斧槍を手に立ち上がった。
「能力者‥‥いや、強化人間‥‥?」
大泰司がその様を見て呟いた。
「御名答。地獄の底へようこそ。キミ達は壊れる時に何を瞳に映すのかな?」
女はそう言ってハルベルトの石突で地面を叩いた。
●
「さぁな」
月詠とカイキアスの盾を構え白鐘が突進した。
「俺が相手だ。天都神影流、白鐘剣一郎‥‥参る!」
奔る白鐘健一郎に対し六体の蟻人から一斉に酸の嵐が飛ぶ。
皇はペイント弾を装填し制服姿の少女へと向けてSMGスコールで発砲。九十連射。女は身をかわしつつ腕を翳して弾丸を受ける。数が多い。
「いい感じにお化粧できたわね」
その身にペイント弾が炸裂し赤壁が展開するも鮮やかな蛍光塗料が付着してゆく。
(「フォースフィールド‥‥強化人間かヨリシロか」)
御影が強敵の登場に笑みを浮かべる。キメラの姿を確認した時点で彼は既に闇に紛れている。皇が射撃をかけている少女に向けてデヴァステイターとジャッジメントで狙いをつけ発砲。左で拳銃三連射、右で三点バースト四連射。制服に身を包んだ女はその奇襲に対し、特に驚いた様子も見せずに腕をかざしつつ身をかわす。
(「――見えている?」)
そんな様子だ。弾丸が女の身に命中し次々に赤壁を発生させてゆく。女の顔に苦痛の色は無い。一見では、だが、しかし次の瞬間残りの弾丸が命中するよりも前にその姿が掻き消えた。
綾野はヘッドライトを外し、隠密潜行を発動させて闇に紛れる。エミタAIの能力を全開にし弾道を予測、突進する味方を援護するようにライフルで射撃をかける。
「同じような得物を使うのか‥‥興味はあるね‥‥」
鳳は綾野の援護射撃に合わせ前進、女へと視線を走らせる。鳳がその手に携えるは竜斬斧ベオウルフ。互いに三m程度の長柄。あちらは斧槍、こちらは長柄斧、双方ともに破壊力のある一撃を繰り出す事ができる。女は右翼に出現している、蛍光塗料とその身から発する赤い残光を引きながら、さらに瞬間移動するが如き速度でジグザグに動いて接近せんとしている。一刹那の判断、女が向かう先は――御影か? 白銀も襲い来る酸の嵐をかわしなががら方向を転じている。鳳は未来図を予測し味方に合わせて動く。ヨネモトは二刀を携え前進する。敵の後衛への接近を防ぐ事を意識する。彼もまた高速移動している女へと向かう。
(「とりあず多い方から減らす‥‥!」)
六堂源治はヘッドライトを点灯させると胸中で呟き、右手で鞘から太刀を払いつつ蟻人へと走る。敵の手数、火力を封殺する、戦場ではこれが肝要だ。
大泰司は虚実空間を展開させた。しかる後にシャーリィ、ヨネモト、鳳へと練成強化を発動させた。それぞれの武器が淡く輝く。
シャーリィ、制服女へは三人行っている。あちらは十分か? そう判断し蟻人型キメラの方へと向かう。
(「当たるか、当たらないかな。ま、撃って見てから考えるか」)
サヴィーネ・シュルツ、胸中で呟きつつ酸を吐いている蟻人へと狙いをつける。敵と自分との間に前衛を入れると弾丸が味方の背中に当たるので多少づらす。アンチシペイターライフルの銃底を肩に当て、発砲、発砲、五連射。狙いは胴、次に足。回転するライフル弾が蟻人の胴に激突し、その脚にも炸裂する。
「抜かせるか!」
と言わんばかりに白鐘は酸を掻い潜って、高速機動する女へと向かって刀を伸ばす。間髪、届かない。距離の問題だ。回避動作で一刹那、遅れた。女は大外を回りながら御影へと迫る。
紅蓮の爆光が斧槍に巻き起こる。初手から全開だ。白鐘をかわし、御影へと迫り斧槍を振り上げ、袈裟に薙ぎ払う。ヨネモトが小回りに御影の前に回り込み、双刀をクロスさせ受け止める。轟音と共に火花が散った。猛烈な衝撃が男の腕を貫いて肩から抜けてゆく。関節が嫌な音を立てた。一刹那の間に七条の爆熱の閃光が巻き起こり、ヨネモトが繰り出す双刀と激突、重く鈍い音と共に火花が瞬いてゆく。
側面から鳳が猛然と踏み込み迫る。流し斬るように竜斬斧で薙ぎ払う。女は一歩後退しながら槍斧の柄を立てて受け止める。白鐘が回り込み太刀の切っ先で突いた。女の姿が掻き消える。
(「あまり侮らないで欲しいね? その動き想定内だよ‥‥!」)
出現先を予測して見据え、鳳が間髪入れず長柄斧を振り抜く。空が断裂し音速の衝撃波が飛んだ。姿を現した女は迫り来る衝撃波に対し斧槍を一閃させる。衝撃波が斧刃に激突し霧散した。あちらも読んでる。
「‥‥やるじゃないか」
思わず苦笑が洩れる。真に雑魚ではないようだ。強い。御影の前に白鐘、鳳、ヨネモトが並ぶ。
「名のある御仁と御見受けします‥‥御名前は?」
ヨネモトが半身になり少女を睨み据え、左の天魔を中段に構え言った。右腕は肘から嫌な方向に折れ曲がっている。大泰司は練力を全開にして練成治療を四連打。ヨネモトの身から傷みが引いてゆく。ヨネモトは右の天魔を頭上に構えた。再び全開。朱色のオーラを全身から立ち昇らせる制服姿の白髪の女は無表情で傭兵達を眺めると、
「‥‥ディアナ」
ぽつりと言った。音を残して、再びその姿が掻き消える。
「ならばディアナ、一つ言っておく事がある」御影が身を翻しつつ言った。何もない空間を睨み練力を全開にする「――余り舐めるなよ‥‥!」
貫通弾を込めた両手の銃を猛然と向ける。闇へと向かって十四連射。二十八連の弾丸の嵐を飛ばす。火花が巻き起こる。一瞬姿を現したディアナの首端が赤く滲んでいる。数発、捕えた。
(「速いわね‥‥!」)
その様を見ながら皇は胸中で呟く。
「まずは脚を止めさせるべきかしら?」
言いつつ、影撃ちを発動させ足のある辺りへとディアナの通り道へ勘で狙いをつけて掃射。SMGで猛弾幕を張る。時々、赤い光が走るが効いているかどうか。綾野もまたライフルを構えて狙撃を敢行しているが、敵が速い。狙う撃つには少し厳しいか。
「抑え込んで隙を作ります。攻撃の集中を」
シャーリィ、蟻人の眼前に飛び込んでいる。相手が構える槍をバスタードソード打ち払う。同じく詰めている六堂、太刀を構え裂帛の気合と共に踏み込み腹の関節を薙ぎ払う。装甲の隙間を縫って鋼が蟻人の胴を半ばから断ち切る。前にやりった事がある相手だ。弱点は知っている。蟻人の態勢が崩れる。シャーリィ、火の位に太刀を振りかぶり相手の顔面を狙って切っ先を打ちつける。鈍い音と共に額が砕け、破片が散る。六堂は太刀を構え、踏み込みながら水平に突き出す。首に入った。そのまま体重を乗せるようにして引き斬る。半ばから首を切断された蟻人が倒れた。まず一匹。
シャーリィは次の相手へと向かう。六堂もそれに続いた。残りの五匹は狙いを変更するとそれぞれシャーリィと六堂に向かって口から酸を噴水の如くに飛ばす。六堂は素早くステップして回避し、シャーリィは剣を掲げて受けた。酸がかかりAU−KVの隙間から浸透してくる。白い液体が吹き上がり、駆動部から火花が散った。構わずに間合いを詰める。蟻人が槍を突き出す。剣を立てて受け流し、さらに踏み込む。逆袈裟に一閃。蟻人は素早く槍を引き戻し受ける。横合いから六堂が肉薄し前蹴りを放つ。蟻人の腹に命中し赤壁が展開する。蟻人が一歩後退する。シャーリィは間合いを詰めると長剣で袈裟に斬った。鈍い音が鳴り響き、蟻人の身が揺らぐ。六堂は左手で機械刀を抜き放ち抜刀様に斬りつけた。光の一閃。蟻人の胴が薙ぎ払われる。シャーリィは剣を振り上げるとその頭部へと叩きつけた。硬い手ごたえと共に蟻人の頭部が破砕される。倒れた。間髪入れずに周囲から酸が飛んでくる。六堂は素早く身を翻して回避し、シャーリィもまた飛び退いて回避した。酸に受けは効果的でないようだ。
サヴィーネ、酸を吐きかけている蟻人の頭蓋を狙って発砲。連射。回転するライフル弾が蟻人の眉間に炸裂し火花を散らす。蟻人がたたらを踏んだ。その動きが止まる。
女が向かうは大泰司か、弾幕を避けながら一瞬で間合いを詰め爆熱の斧槍を振り下ろす。大泰司は照明銃を構え、ディアナの顔面を狙って撃ち放った。大泰司の身が袈裟に斬られて鮮血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。閃光が炸裂し、闇が一瞬、光の世界に変わる。女の足が止まった。
白鐘が剣と盾を構えて横手から突っ込む。ディアナが振り向きざま紅蓮の槍斧を竜巻の如くに振るう。白鐘は盾で真っ向から受け止める。轟音が鳴り響き猛烈な衝撃が左腕を貫いた。関節部が嫌な音を立てる。爆熱の光と共に高速の連撃、盾で受け流す。左腕が持たない。骨が割れる感触がした。首元めがけて光が襲い来る。僅かに鈍い。閃光が効いている。深く低く、倒れ込むようにしながら突っ込む。刃が髪の先を薙ぎ切りながら通りぬける。掻い潜った。踏み込み、足を狙って薙ぎ払う。装甲の隙間。黄金の光が一閃され女の内腿から血飛沫が吹き上がった。凶悪な切れ味。
鳳が間合いを詰め、竜斬斧を猛然と振りかぶり薙ぎ払う。女は一歩後退し、雄叫びをあげながら槍斧を迎え撃つように繰り出す。鳳は斧をかかげて受ける。衝撃が身を貫通してゆく。
「天都神影流・降雷閃っ!」
白鐘が追いすがり最上段から落雷の如く縦に太刀を振り下ろす。ディアナは斧槍を掲げ受け止める。
「我流‥‥剛双刃『嵐』!」
ヨネモトが肉薄し練力を全開にして暴風の如くに二刀で剣閃の嵐を巻き起こした。ディアナはさらに後方に飛び退きながら槍斧で受け、止め、かわす。脇腹が深く裂かれて血飛沫が吹き上がった。鳳が追撃に走る。竜斬斧が飛来し女の身を袈裟に叩き斬る。赤い色が宙に舞った。白鐘が盾を捨て剣を振り上げ踏み込む。ディアナの姿が掻き消えた。
出現先へと御影、皇、綾野から射撃の嵐が飛び、さらに鳳が音速波を放ち、ヨネモトと白鐘が走る。ディアナは片膝をついた態勢で顔をあげる。その眼前に紅蓮の色に輝く、円形の巨大なフィールドが出現した。弾丸が激突し、激しく明滅スパークし、次いで襲い来る音速波もまた受け止めて吹き散らす。大泰司は己と白鐘へと練成治療を開始した。
(「前よか‥‥上手く戦えてるッスかね?」)
六堂は胸中で呟きつつサヴィーネの射撃でよろめいている蟻人へと間合いを詰める。蟻人の首めがけて左右から薙ぎ払うように光剣と太刀を一閃させる。首が宙を舞った。横手から詰めて来た蟻人が槍を繰り出す。身を捻りつつ装甲を厚い部分で受け止める。貫通してくる衝撃を堪えつつ反撃の太刀を繰り出す。連撃。蟻人の甲殻が削れて行く。シャーリィもまた一気に間合いを詰めて来た二匹の蟻人の猛攻を剣で打ち払う。一本を打ち払い、二本目を身を捻ってかわし、一匹目の二撃目、穂先がAU−KVの装甲の表面を削って火花を散らす。踏み込む。二匹の蟻人が後退しながら槍を突き出す。胸部装甲に穂先が激突して火花を散らす。衝撃に一歩押し戻される。槍の壁だ。踏み込めない。
アンチシペイターライフルの弾丸が飛来し、蟻人の側頭部に激突した。蟻人の一体がよろめく。突っ込む。蟻人が突きの嵐を繰り出す。剣で受け流し、装甲から火花を散らしながらも、強引に踏み込む。長剣で蟻人の頭部を殴り倒す。よろめいた。連撃を仕掛ける。蟻人が後退する。側面から六堂が駆けつける。蒼い光の刃を振りかざして烈閃の嵐を巻き起こす。斬り倒した。弾丸が最後の蟻人を討ち抜く。六堂とシャーリィは剣を振り上げると滅多打ちにして叩き潰した。
ヨネモトと白鐘が間合いを詰める。赤壁の向こう、膝をついているディアナの前に影が一つある。光が消える。まだ幼さを残し顔立ちの、やはり古臭い制服に身を包んだ少年がいた。少年は迫り来る白鐘とヨネモトを睨み据えて口端を吊り上げて笑うと左と右手に持った塊を足元と二人の眼前の地へと叩きつけた。
猛烈な爆音が発生し、閃光が吹き荒れ、真っ白な煙が噴出する。フラッシュバンと煙幕。
「逃がさ‥‥ない!」
鳳が叫んでベオウルフで烈閃を巻き起こす。音速の衝撃波が煙の中へと飛んだ。御影、皇、綾野、サヴィーネも射撃で猛撃を煙の中へと叩き込む。少年は射撃を受けながらも背を向けディアナを抱きかかえる。その背に音速波が炸裂し、次々に銃弾が喰い込んで血飛沫があがった。少年は吼え声をあげると身を赤く輝かせ立ち上がり猛然と駆け出し、加速する。瞬間移動したが如く速度まで加速すると、その姿を霞ませ、鮮血を宙へと残しつつも闇の彼方へと消えて行った。
●
「こいつは意外な結末だ」
走りながら少年が言った。
「‥‥どうして」
ディアナが霞がかかった瞳で見上げて言った。
「蟲の知らせって奴?」
笑って少年。
「面目ない」
「はっはっは、ありゃ勝てんわ――ちょっと、頑丈過ぎる連中が来た」
この戦力じゃ無理だ、と。
「少々、ニンゲン、という奴を甘く見ていたようだ‥‥」
「そうかい」
少年は言う。
「さっきの瞬間、君は、何が、見えた?」
「‥‥‥‥さぁな」
ディアナは呟き、そしてそれきり少年も黙った。
●
戦闘後、大泰司は先に出発した調査隊を探した。調査隊の面々はやはり全滅しており、その骸はキメラによって喰い荒らされていた。内臓がごっそりとなくなっている。
人は死ぬまで生き続けるしかない、彼等は、満足のいくように生きれたのだろうか、大泰司は遺品を回収し、墓碑を立てつつそんな事を思う。
そして彼女達は?
(「彼女達も元はニンゲンだった筈だけど‥‥」)
墓前で祈りを捧げ、傭兵達はその地の底を後にした。
了