タイトル:【Woi】羅府暗闘マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/24 23:50

●オープニング本文


●SAME−DAY_06:00AM_ラストホープ_UPCホンブ_サイジョウカイ_ソウダン
 ラストホープ島がUPC本部、最上階にある部屋。薄暗い部屋だ。窓は無く、四方を壁に囲まれている。
 その部屋に特殊作戦軍の長である金髪の男の姿があった。ハインリッヒ・ブラット。通称して『原子時計』。かつては、彼の立案は綿密であり、そしてその作戦行動は正確無比であった。その事から配下の兵士達がそう呼び始め、それが定着した異名だ、と言われている。実際、ハインリッヒはロシアではUK2に搭乗してその才覚を振るい、ラインホールド撃破に大きな役割を果たした。その功績を以って五月には少将にまで昇進している。だが先のシェイド討伐作戦ではその作戦の責任を取る形で准将に降格していた。
「最高首脳会議からの提案は、やはり変わりませんか」
 くすんだ金色の原子時計が言った。
「‥‥普段はお飾りだが、どうにも自分たちの生存のチャンスであればなりふり構う余裕もないらしい」
 褐色の肌の男が答えた。
 男は言う。
「我々UPC軍各国首脳の下部組織だ。残念ながら決定は変わらない」
 二人が対峙する薄暗い部屋にある、淡く輝くモニターの映像は、普段ならジャミングの影響で乱れもしようが、今は窓の格子で動く蟲の触覚の僅かな動きすらも鮮明に映し出していた。
「限られた領域、限られた時間、限られた戦力‥‥」
 男は呟きつつ指を僅かに動かし、資料映像をピタリと止める。
「私は軍事については君ほど詳しくはないが、極めて難しい作戦になる程度のことはわかる‥‥にも関わらず、君に多くを望まなければならない」
 映像はどうやら、ビルの屋上から望遠カメラで撮影された物のようだった。それには、部屋の中で部品を組み立てる一人の男の姿が映し出されていた。
「ただでさえ軍への不信感が高まっている昨今だ。故意は勿論、住民的被害は認めない。市街地での戦闘などもっての他‥‥どうかね、君はできるかね? 『住民に事前通達なく、十五時間以内にこのバグアをロスに被害を出さず抹殺し、尚且つステアーのパーツを無傷で奪う』ことが」
 その言葉に、ハインリッヒ・ブラットは図面を睨んだ。ロスの地形の他に人口分布もつけられている。男はその複数個所の印を見据え、
「‥‥作戦決行は只今より十四時間後、一斉におこないます。吉報をお待ちください」
 原子時計と呼ばれた男は、静かに、しかし確かにそう言った。

●ドウジツ_07:00AM_UPCホンブ_ボウショ_サクセンテープ
『最初に通達する。諸君はこの依頼を受けた者である。これより作戦説明をおこなうが、説明を受けた後の依頼放棄は認められない。依頼関係者以外は直ちに部屋から出るように‥‥』
 十秒程度の静寂の後にテープは淡々と言葉を語り始める。
『作戦を説明する。
 今回のミッションは、先の大規模作戦によって、撃墜した敵新鋭機『ステアー』の重要パーツ回収である。
 ステアーの胴体の一部はUPC軍が回収したが、欠損が多数存在する状態である。敵はこれらを保持し、ロサンゼルス市街地に分散して潜伏している。
 入手した情報によると、敵は今より14時間後、幅3m高さ2mほどの装置から、重力制御によって衛星軌道上までパーツを打ち上げることが予想される。
 諸君はこれから10:00到着予定の便でロスに向かい、準備の後、20:00に作戦を決行するように。
 今回のミッションは『KV非推奨依頼』である。使用は許可するが、市街地に大きな影響を与えるような作戦は軍法会議の対象となる。臨機応変かつ、確実にミッションを遂行するように』

●ドウジツ_07:50PM_ラフ_ロジウラ_ムセン
「ちょっとオーダーの確認をするんだよ」
 帽子を被った緑髪の女が、目立たぬようにつけられているイヤホンマイクに向かって言った。まだ若い。大きな眼鏡をかけ、日本の女学生の制服に袖を通している。肩から一メートル程度の大きなバッグをぶらさげていた。ブルーファントムの相良裕子だ。
 彼女は今、ロサンゼルスのとある街の路地裏に潜んでいた。
 弱冠十六歳の少女がブレザー姿なのはいつもの事だが、武器の長弓を隠しているのは通行人達から怪しまれないようにだろう。騒ぎが起これば、敵に気取られる。
「時計屋のおじさん達からのお話だと、蟲さん達は向かいの工事中のビルの屋上からSP−06が乗った花火の打ち上げを計画しているみたいです。SP−06ももうじき蟲さん達が運んでくるそうです。相良達のお仕事は花火が打ち上げられる前にSP−06を確保する事、それと蟲さんの処理になります。優先順位は第一がSP−06の確保ないし破壊で、第二が蟲さんの処理です。使える道具はZまで。制限はありません。ただし周囲のビルは通常の民間商社ですので、周囲には極力被害を出さないように、となっています」
 少女は言った。
「‥‥話によると、かなり強い蟲さんだそうだから、十分注意してねなんだよ。一匹はもうビルの中に入っている。もう一匹が外からSP−06をもってやってくる。SP−06がどんな形をしているのかは解らない。大きさも解らない。解っているのは、蟲さん達はそれを打ちあげようとしているという事だけ。あくまでSP−06の確保が第一、よろしくなんだよ」
 夜でも周囲は夜の街の華やかさで明るい。街の雑踏は賑やかだ。
 だが工事中だというそのビルの入り口は、まるで奈落の底を覗いているかのように暗かった。

●参加者一覧

ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
鮫島 流(gb1867
21歳・♂・HA
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
真山 亮(gb7624
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

 作戦開始の数時間前。昼のロサンゼルス市街。
「そういや、裕子と一緒に仕事すんのって、スゲー久し振りだな」
 街の雑踏を歩きながらノビル・ラグ(ga3704)が言った。
 その言葉に相良裕子はひょいと首を傾げると、
「‥‥そういえば、そうだね?」
「相変らず無茶やってそうだケド、元気そうで安心したぜ」
「無茶は、それほどでもございません‥‥」相良は笑って言った「ノビル君も元気そうで安心したよ」
「そーか。そういえば、見取り図の入手は駄目なのか?」
「うん、多分、あちらに気付かれちゃう‥‥かな? きっと夏休みの読書感想文をまる写しして提出するくらいの確率」
「また解りそうで解りにくい例えを‥‥っていうか、やった事あるのかソレ?」
「相良は無いけど、友達に頼まれて見せたら――」
 などとそんな事を話しつつ歩いていると歩道に黒塗りの車が寄って来て止まり、クラクションを一つ鳴らした。運転席へと目をやるとスーツに身を包んだ壮年の男の姿があった。他の席にはリュドレイク(ga8720)、時枝・悠(ga8810)、真山 亮(gb7624)の姿もある。
 ノビルと相良はドアを開いて車の中へと乗り込む。
「ざっと見て回ったが‥‥結構入り組んでるなこの辺りは」
 緩やかに車を発進させつつ杠葉 凛生(gb6638)が言った。周辺の主な道に車を流して街並みを確認してきたらしい。またビジネスマンを装い周辺のオフィスビルに入りチェックしてきたようだ。
「お疲れ様です。歩いて確認してみたけど、路地裏とかも結構多いみたい」と相良。
「そうか。例の工事中のビル、仮囲いや足場なんかはもう撤去されているようだな。正面入り口の反対側、ビルの裏側に、裏口が一つあるようだ。出口を監視出来てひとけの無さそうな建物はなかった」と杠葉。
「となると見張るのは車の中からか、路地の陰からになりそうだな」
 真山が購入したバッグの中にエネルギーガンなどを収納しながら言う。リュドレイクもまたボストンバッグの中に銃器を収納していた。
「そうですか‥‥あれ、そういえば鮫島さんは?」
 ふと、リュドレイクが問いかける。
「AU−KVをおける場所を探しているようだ」
 そう時枝悠が答えて言った。結構苦労しているようである。
「‥‥無いなぁ」
 場面を移してバイク形態の金色基調のAU−KV舞蹴に跨り街中を散策している鮫島 流(gb1867)。例の工事中のビル付近にあるなるべく人目に付き難い駐車場等を探したのだが、残念ながらその条件を備えた駐車場は見当たらなかった。駐車場自体は少し離れればあるのだが、距離があると突入する際に時間がかかってしまう。
 あれこれ悩んだ末、結局のところ路地裏の陰に布をかけて置く事にしたのだった。


 夜。
 空の支配者が太陽から月と煌めく星々に変わる頃。
 杠葉とノビルは裏口側の道路の上にとめた車内に待機し、リュドレイク、鮫島、真山は路地裏の陰に潜んだ。
 時枝は工事中ビルの隣のオフィスビルの屋上へと移動していた。陰で待機しつつ、空を見上げて思う。
(「今回の件、難しい依頼だ」)
 と。
 だが、それを知った上で選んだ。言い訳は出来ない。するつもりも無い。
 いつものように全力を尽くし、いつものように成功を目指す。
「‥‥ああ、なんだ。要するにいつも通り、か」
 時枝はぽつりと呟いた。
 午後八時が、迫っていた。


 作戦の決行が司令部から許可された時刻は八時。だが時計の針は既にそれを過ぎている。しかしながら運び屋らしき影は、いっこうに姿を見せる気配がなかった。
「‥‥どういう事だ?」
 姿を見せないバグアを怪訝に思い、真山がイヤホンマイクに言った。諜報部が掴んだ情報が誤っていたのだろうか。
「‥‥多分、始発のようなもの?」
 無線から相良のよく解らない返答が返って来た。
 少し考える。始発、電車か?
 電車になぞらえる。装置は九時に発動。電車が九時に発車準備が整うのだとしても、乗客が八時から列車の中に入っている必要性はまったくない。
 発車する前に乗れば、全ては、事足りる。
「なるほどな‥‥」
 舌打ちして真山は呟いた。ぎりぎりでこられると一度捕捉を失敗したら打ち上げを止めるのは難しくなる。最悪屋上に辿り着かれたと同時に打ちあげられる可能性とてある。
 だがそれは同時に、少しの足どめで妨害する事が可能になるという事も意味している筈だ。バグア側とてそれは承知の筈。ならば、少しの時間的余裕は持ってくるだろうか。
 しかし、バグア側は今日、打ちあげられなくとも別に構いはしないのだ。後日、別の場所で、改めてそれを行っても問題は無い。相手が一番嫌うのは今日、打ちあげられない事でなく、パーツを奪われる事だ。ならば、危険な箇所に留まる時間は最短にしたい筈。
(「ならば、まだバグア側が来ない事に道理はある‥‥しかし、実は、既に運び屋はやってきていて、ビルに入っている可能性もある。俺達が見落としていている、という可能性だ。バグアは、何をしてくるか解らない‥‥」)
 ファームライドが透明になるのなら、バグア自身とてもしかして透明になる技術を確立させているのではないか? それでもう入口を抜けているのでは? もし、そうなら今すぐにビルの屋上までかけあがって装置を抑える必要がある。だがもし違ったら、屋上にいるバグアは真山達の姿を確認したら即座に運び屋へと連絡を入れるだろう。そうしたら運び屋は二度とこのビルには近づかない。パーツを奪う機会を逸する事になる。
 もう来ているのなら、動くべきだが、まだ来ていないのなら、動くわけにはいかない。逆を選べばそれはどちらも即座に失敗を意味する。
 不安ばかりが増大してゆく。
 それは監視者達の神経をきりきりと締め上げて削ってゆくようだった。
「厳しい状況だな‥‥」
 杠葉が呟いた。様々な意味で厳しい。
「素直に『はい、どうぞ』って渡してくれるんなら楽なんやけどな‥‥そうもいかないか」
 鮫島がそんな事を言った。
「今は、我慢だな。予想に賭けて、やるしかない」
 杠葉はそう言った。暗い車の中でシートを倒しサイドミラーを見やって、そこに映る裏口をじっと監視する。
 時は静かに過ぎていった。

●蟲
 時刻は八時三十を回ったところ、そのビルの裏口にパンツスーツ姿の女がやってきた。古ぼけたデザインの眼鏡をかけ、イヤホンを片耳に繋げた、一見ではどこにでもいそうなキャリアウーマンに見える。女は無造作に扉を開くとビルの内部へと入って行った。
「裏口から一人、女が入った」
 杠葉が無線に言う
「バグアですか?」
 リュドレイクが言う。
「解らん」
 答えて杠葉。
「動くか?」
 ノビルが問いかけた。
「行こう!」
 鮫島が言った。
「了解、状況を開始してください」
 相良の声が無線から流れた。
 鮫島はAU−KVにかけてあった布を外すとそれを即座に装着した。
 同じく路地裏に潜伏していた真山、リュドレイクと共に歩道に踊り出るとビルの入り口へと素早く向かう。人々は鮫島を、というよりもAU−KVを見て驚いた顔をしていた。
 杠葉とノビルは少し間を置いてからドアを開き車を降りると裏口へと向かった。


 そのバグアの女の名はイクスと言った。本名ではない、ヨリシロとされた女の名前だ――それもまた本名ではなかったが、女はイクスと呼ばれていた。
 ビルの内部、塗り込められた暗闇の中を女は特に不自由した様子もなく、コツコツと革靴の音を立てて歩いてゆく。女は闇の中でも見えていた。彼女がかけているグラスは一見では古ぼけたただのメガネだがその実、バグアの技術を用いて造られた特殊機器である。それは暗視スコープと同等の機能を持っていた。
 その彼女の目に、通路の彼方から猛然と迫りくる黄金の鋼鉄の塊が見えた。金色に塗装されたAU−KV。鮫島だ。
「鼠だ!」
 女は小型無線機に叫び踵を返した。直後、闇の彼方から無数の弾丸が飛来する。ノビル・ラグと杠葉の射撃だ。
 ノビルはドローム製SMGにありったけの貫通弾を詰めると練力を全開にして猛射を仕掛けていた。影撃ちを発動させ女の足を狙って弾幕を叩きこむ。杠葉もまた拳銃ラグエルを構え影撃ちを発動させて怒涛の如く四連射していた。狙いは足、腕、頭、首。
 二人の銃には杠葉の要請で消音装置がつけられていた。限りなく静音に近い射撃。
 弾丸が次々と女の身に突き刺さり、赤く明滅する。女は咄嗟に両腕を合わせて顔と首を守っていた。足と腕から鮮血が噴出する。女はぐらりと傾いだ勢いのままに身を丸めて通路の上を一回転すると立ち上がり、血を噴き出しながらも部屋の壁に腕を振るい疾風の如く駆け出す。不可視の音速波が飛び、ビルの壁を破砕し大穴をあけた。
「逃がすかっ!!」
 鮫島が足からスパークを発動させ女を上回る速度で追いすがる。竜の翼だ。後方から真山の練成強化が飛んだ。鮫島の剣が光に包まれる。真山はさらにエネルギーガンを構えると、その銃口から爆裂する閃光を解き放った。閃光が闇を切り裂いて女へと向かう。しかしバグアの女は素早く身を沈めてその一撃をかわした。女の奥にあった観葉植物が切断されて燃え上がった。
 リュドレイクが目にもとまらぬ速度で拳銃アイリーンを抜き放ち猛連射をかけた。パーツを持っている箇所を狙いたいが、解らないので身を狙って撃つ。五連の弾丸が女へと襲いかかる。女は小刻みに動き、そのうち四発を肩や脇腹に受けたが一発をかわしてなおも駆ける。
 女に常の速度があれば、ビルに空けた穴から逃げおおせたであろう。だが、足を撃たれていた。金色のAU−KVが女が穴に飛びこむ直前に、間髪一髪で横手から回り込んでいた。鮫島は竜の咆哮を発動させ、全身から光を明滅させながら二メートルもの大きさの大剣を振るう。横薙ぎの斬撃がバグアの女へと襲いかかった。
 女は咄嗟に身を屈めてその一撃をかわす。胸元から鋼鉄の短筒を引き抜くと蒼き光の刃を出現させ鮫島の喉元めがけて突き込んだ。鮫島は咄嗟に首を横に振る。明滅するレーザーナイフが頑強なAU−KVの装甲をバターのように切り裂き、半ばから鮫島の首をかっさばいた。鮫島の首から滝のように鮮血が吹き出す。
 鮫島は崩れそうになる身体を部屋の床を砕く勢いで踏みしめ立て直す。剣は間合いが近すぎる。スパークを纏い、身を捻りながら前方に踏み込んだ。AU−KVの背を女にぶちあてる。インパクトの瞬間に猛烈な衝撃が炸裂し女の身が木の葉のよう吹き飛ばされた。その細い身は勢いよく宙を飛ぶとビルの壁に激突し、破砕しながら床に落ちた。
 間髪いれずに鮫島が間合いを詰める。女は横転しながら跳ね起きる。鮫島は猛然と大剣を振りかぶると嵐の如く四連斬を浴びせかけた。女は身を捻ってかわし、一歩後退してかわし、レーザーナイフで受け流してかわし、一撃を腹に受けて鮮血を噴出させた。されども女は斬られながらも前進し鮫島に肉薄すると蒼き光の刃を振り上げ、閃光を巻き起こした。
 光が縦横に走り舞蹴の装甲を滅多斬りに切り刻む。鮫島の動きが止まった。全身から鮮血を迸らせ真紅の血の海に沈んだ。女が駆けだす。ノビル・ラグがSMGで弾幕を継続し、杠葉もまた拳銃で射撃を仕掛ける。女は弾丸をその身に受けながらも態勢を低くしながら駆け、ビル内に置かれたオブジェに飛び込み、追撃をかわす。空いた穴まであと数歩。
「行かせやしませんよ!」
 リュドレイクが女の眼前に立ちはだかり、闇に赤く輝く片刃の直刀を構え吠えた。突進してくる女に対し赤き五連の剣閃を巻き起こす。女は身を斬られながらも踏み込み、蒼き三連の閃光を巻き起こした。男の腹がかっさばかれ土砂のごとく赤色のものが噴き出す。と、次の瞬間、みるみるうちに皮膚が盛り上がり再生を始めた。真山が練成治療を連打している。
 だが女はそれにも怯まず猛然と五連の斬撃を繰り出した。リュドレイクの身がズタズタに切り裂かれ、飛び散る赤と共にその身が揺らぐ。女は体を当てて男を突き飛ばすとそれを乗り越えてビルに空いた穴から外へと飛び出した。
 女は数歩、前に歩くと、向かいのビルの壁にもたれかかるようにして崩れ落ちた。
――後頭部が破砕されている。
 床に倒れたままのリュドレイクが拳銃を女の背へと向けていた。銃口からあがる煙が、ビルの隙間をぬける夜風に吹かれて流れてゆく。
「行かせはしないと、言ったでしょう」
 男はそう呟くと拳銃を降ろし、血の海に沈んだ。


 地上でイクスと五人の傭兵が激突していた頃、時枝悠と相良裕子は隣の七十メートルの高さのビルの屋上で、物陰に入って身を隠していた。
「出番の無いまま終わるのが一番なんだが」
 時枝が呟いた。共に陰に隠れている相良裕子がそうだねー、などと相槌を打っている。
 だがその次の瞬間、屋上に空から人影がふってきた。受け身を取りながら転がったその影は、地面にあたる瞬間に赤く輝いた。バグアだ。
 時枝は太刀を抜き払い弾丸の如くに飛び出す。立ち上がったバグアの足に七本の矢が次々に突き立った。時枝は双刃にエネルギーを極限まで集めると裂帛の気合と共に閃かせた。空が断裂し二連の音速波が飛ぶ。少女はそれを追いかけるようにさらに加速して突っ込む。
 衝撃波が炸裂しコートを纏った男の身が揺らぐ。間合いを詰めた時枝は突進しながら左右の太刀を用いて七連の烈閃を巻き起こした。バグアの男は身を切り裂かれながらも金属の筒をベルトから引き抜き長大な赤光の刃を出現させ、時枝へと嵐の如く斬撃を繰り出す。閃光が交差した次の瞬間、少女と男の身から血飛沫が噴出した。
 睨み合う。バグアの男は吹き出る血を意にも返さない様子で時枝へと猛攻をかける。時枝は双刃を掲げながらそれを捌く。次の瞬間、男の腹から銀色の刃が生えた。その動きが止まる。
 時枝は生じた隙を見逃さず、右の刀を横薙ぎに一閃させた。闇夜に鮮血が吹き上がり、首を失った男が倒れた。


 かくて、ビルに潜んだ二人のバグアは討たれ、ステアーのパーツは打撃を与えると赤壁を展開することから判別され、無事に回収された。パーツは掌サイズのチップで、何かしらの機器の部品のように見えた。
「結果だけを見れば大成功だが‥‥‥‥かなり、綱渡りだったようだな」
 報告書を受け取ったUPC軍の士官が青い顔をして傭兵達へと言った。
「上手く行ったんだから良いんじゃないかな?」
 相良裕子が首を傾げてそんな事を言った。
 その言葉に士官は一つ息をつくと、
「まぁ、そうだな。困難な作戦を成功させた勇士に、ここであれこれ言うのも無粋というものか。諸君ら、大手柄だ。よくやってくれた。病室で治療中の仲間達にもUPCが感謝していたと、そう伝えてやってくれ」
 言って士官は敬礼して見せたのだった。


 了