タイトル:斜陽の白ヒゲマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/26 10:58

●オープニング本文


『サンタクロース』
 言わずと知れた子供達に夢を届ける存在。

●斜陽の町
 九州の南部にあるその町では先月より殺人事件が多発していた。
 被害者は一様に撲殺されていた。ひとけのない夜道で背後から突如として襲われ、というパターンが多い。
 犯人は不明。それが人間によるものなのか、それとも他の何かによるものかも解っていない。
 渾名がケージであったから刑事になったとうそぶく赤坂慶次郎は溜息をつきながら街を歩いていた。
 もしも犯人がバグアやキメラであり、それが町に潜んでいるのならば、それなりに情報が入ってきそうなものだが、それらしい話はまったく入ってこない。
 となると人間の仕業だろうか。この御時世に人同士で殺し合うとは、どうにもできないのが人の世という奴なのだろうが、やはりやりきれないものがある。
(「‥‥ってなんだろうな。この流れに凄いデジャヴを感じるのは気のせいだろうか」)
 慶次郎は胸中で呟く。嫌な予感というのは当たるものというが、さて。
 夕暮れの商店街。店にはシャッターが降りている。撲殺者を恐れ、個人経営の店は常よりも大分早くに閉めている。中には店主が撲殺されてしまい、閉めっぱなしになってしまった店もある。
 例えば、慶次郎のすぐ目の前にある玩具屋。アーケードのゲーム機などが置かれ、以前は年少の子供達でそれなりににぎわっていたらしいが、撲殺者の暗躍のせいで今は見る影もない。
 シャッターが降りていても、その前に立ち続ける赤服の白ヒゲ爺さんの人形が妙に不憫に見えた。肩に担いでいる大きな白い袋が目に留まる。
「サンタクロース‥‥プレゼントを届けるべき相手がいないアンタは、何を思うんだろうな?」
 慶次郎は足を止めて見、ふと呟き、そしてまたトレンチコートのポケットに手を突っ込んで歩き出した。
 風が一陣、閑散とした商店街を吹きぬけて行った。

●殺人鬼の正体は
 茜の道をゆく慶次郎。ふと、殺気を感じたのは多くの場数を踏んできた刑事のなせる勘か、彼が勢いよく振り返ると夕陽を背負って影が一つ立っていた。
 赤光に目を細める慶次郎。何者だろうか? 町の人々は殺人鬼を恐れてこの時間帯ではめったに出歩かない。
 そこには赤服の白ヒゲ爺さんが立っていた。サンタクロース、玩具屋のマスコット、人形だ。
「ふぅ、なんだ。いまどき誰も信じてない奴の人形か‥‥とか言うと思ったか!」
 慶次郎は勢い良く腰の後ろのホルスターから拳銃を抜き放つ。
「バグアの連中好きだなこのパターンッ!!」
 素早く拳銃をスライドさせ弾丸をロードすると狙いをつけて三連射。SES式のハンドガンから勢いよく弾丸が飛び出し白ヒゲ爺さんに襲いかかる。
「ベリークルシミマース!」
 赤服爺さんは朗らかに笑うと、謎の掛け声と共に空中に高々と飛び上がった。
「カノジョーニーフラレター! ベリークルシミマースッ!!」
 サンタクロースはキメラ独特の鳴き声をあげると袋の中からラッピングされた長方形の箱を激しく回転させながら投擲した。
「おのれは、いったい、何者に創られたッ!」
 慶次郎は瞬天速を発動させ、猛加速して回避する。「空は死地だ、馬鹿めっ!」とでも言わんばかりの勢いで銃口を空へと向ける。発砲、連射。弾丸が勢いよく赤服爺さんへと向かう。空では軌道の変更が効かない。その弾丸はキメラに直撃するかに見えた。
 しかし、
「ウィンタァアアアア! ボーナスカットォッ!」
 裂帛の鳴き声と共に腕を翳し、クリムゾンの電磁障壁を発生させる。対消滅バリアだ。展開された直径一メートル程度の光盾に触れると弾丸は激しい音を立てて消滅した。
 サンタクロースは驚愕している慶次郎を尻目に足を後方に向けると光の波動を噴出させ、その反動で勢い良く慶次郎へと突っ込んだ。
「ベリィィィィィクルシミマース!」
 白い袋をまるで古代のフレイルのように振り回し、慶次郎を殴りつける。慶次郎は咄嗟に腕でガードしたが衝撃を殺しきれずに勢いよく吹き飛ばされて商店街のシャッターへと叩きつけられた。
「ごほっ‥‥!」
 口から胃液と共に血が吐き出される。
(「ち、畜生、この化物ふざけたコンセプトの割に強いぞ‥‥っ?!」)
「ワタシはアクム、ヲ、トドケル、モノ! ジゴク、ヨリ、ノ、シシャ! ミンバ、シネバイイノニー!」
「ええい、色んな意味で危険な奴めッ! 貴様のような奴は消去してやるッ!!」
 慶次郎は立ち上がると片手を翳して手甲を嵌める。バキバキと指を鳴らし、左手に銃を携え突進する。発砲しながら突っ込む。キメラの翳す手を中心に対消滅バリアが発生する。
「ボーナスカットォッ!」
 どうやら鳴き声のパターンはある程度決まっているらしい。
 慶次郎は左に大きく身体を振って踏み込むと、逆の方向へ瞬天速で切り返す。フェイクを一つ入れつつ猛烈な速度でキメラの側面へと回りこむ。
(「殺(と)った!」)
 地を破裂させる程の勢いで踏み込み、腕を内側へと捻り込みながら手甲を繰り出す。キメラはサイドからの必殺の一撃を、しかし滑らかに後方にスウェーして回避してみせた。
――な、なんだとぉ?!
 驚愕の慶次郎。
「ドーリョーは、ムシロ、ゴールイーン! ベリーネタマシデース!」
「そこは祝っとけよバグアとしてッ!!」
 反撃の一撃を咄嗟に横に転がって避ける慶次郎。
 しかし、
「ベリークルシミマースッ!!」
 ヒゲ爺さんは素早く転回し、慶次郎が立ち上がる前に、抱える袋から大量のラッピングされた箱を確変の如く放出する。
「う、うぉおおおおおおおおおおっ!!」
 青年は叫び声をあげ――やがて迫りくる夢の残骸に埋もれ、叩き潰された。

●かくて依頼
「――依頼です」
 まだ若いオペレーターが言った。
「依頼主は九州の某町の町内会。町を徘徊するキメラを退治してくれとの事です。町の住民は既に避難しています。ターゲットは‥‥えぇと、さんたくろーす? こほん、失礼しました。サンタクロース型のキメラだそうです。いささか時期が早いような気もしますが、プレゼント型の凶器と人間離れした体術を駆使して襲いかかってくるそうです。奇声と共にバリアを張って弾丸を消し飛ばすとか。このバリアは攻撃にも使われそうです。能力者ならば一撃で消し飛ぶなどという事はないでしょうが、当たってしまうと多大なダメージを負う可能性が高いです。御注意ください。
 なお、能力者である刑事がそれと交戦し重傷を負いましたが逃げ延びています。かなりの強敵のようですが、相手は一体です。よく連携して当たれば勝率は高いかと思われます。この依頼を引き受ける方はこちらの書類にサインをお願いします」

●参加者一覧

威龍(ga3859
24歳・♂・PN
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
黒羽 空(gb4248
13歳・♀・FC
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
亜(gb7701
12歳・♀・ER
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
相賀 深鈴(gb8044
17歳・♀・ER
ベラルーシ・リャホフ(gc0049
18歳・♀・EP

●リプレイ本文

 ULT本部、そのキメラの話を聞いて傭兵達の多くは絶句した。
「折角のクリスマスになんてはた迷惑な‥‥」
 五十嵐 八九十(gb7911)が半ば呆れたように呟く。
「バグアめ‥‥ありえないキメラ出してきやがった‥‥」
 黒羽 空(gb4248)が愕然と呟く。いや、色々とダメだろこれ、と少女は思う。
「なんてことなの、こないだ前売りで0巻ゲットでワクテカ最高潮なのに‥‥フラグ立ちまくりの上、白ひげの偽者まで親父ぃぃぃの命脈が」
 がくりと膝をついているのは阿野次 のもじ(ga5480)だ。
「ほんともう夢とかぶち壊しだけど、逆に現実を表してるっていうか」
 と黒羽。
「まったく、サンタってのは子供に夢を与える存在でしょうに‥‥」
 嘆息するのは亜(gb7701)だ。
「人騒がせなキメラだな。バグアも何を考えてこんなのを作ったんだか分からないが、速攻に潰してやろうぜ」
 と威龍(ga3859)。
「そうですね、さっさと片付けてしまいましょう!」
 五十嵐を始め一同は強く頷くと高速艇に乗り込み日本国が九州へと飛んだ。


 九州。傭兵達はまずキメラと交戦し重傷を負ったという刑事が入院している病院へと向かった。
「べりーくるしみまーす」
 某県の病院の一室、寝台の上に横たわってる赤坂慶次郎の姿を認め、挨拶代わりに神撫(gb0167)が言った。
「べりーくるしみ――って、その単語は止めてくださいっ」
 男が叫んだ。軽くトラウマのようだ。
「では、しんぐるべ〜る、しんぐるべ〜る」
「実に心に悲しみの音色が鳴り響きますねコンチクショウ」
「左様ですか」
 首を軽く傾げつつふむ、と呟いて神撫。
「今回は災難でしたね」
 苦笑しながらイーリス・立花(gb6709)が慶次郎へと見舞いの品である花を渡した。さすがに根はついてない。「有難うございます」と受け取り、礼をして慶次郎。
「初めまして。今回はこんな時期に派手なクリスマスプレゼントを貰った様で‥‥」
 五十嵐が言った。
「いやまったく、面目ない」
 と慶次郎。傭兵達は挨拶もそこそこにキメラについての詳細を尋ねた。
「やはりボーナスカットが障壁で、ベリークルシミマスで攻撃動作なのですかね?」
 詳細を慶次郎から聞き、ふむふむと頷きつつベラルーシ・リャホフ(gc0049)。
「前者が障壁なのは間違いない、と思います。ただ後者の方は特に制限なく言ってましたね。掛け声のような物のではないか、と」
「なるほど」
(「どんなキメラにやられても悔しいことには変わりがないが‥‥」)
 杠葉 凛生(gb6638)が胸中で呟いた。随分ふざけたキメラである。ついつい慶次郎へと憐憫の眼差しをやってしまう。
 イーリスは慶次郎に跳躍による浮遊高度と距離を尋ねた。結構、高く飛ぶようである。平屋の屋根位には軽く飛び乗れそうとの事。町の地理を聞いて戦場と出来そうな箇所を把握する。
「とりあえず、出現は夕方に偏っているみたいね」
 と阿野次。その言葉に慶次郎は頷く。
「そうなると、むむ、二班でワンダーリンク燻りだすしかないか」
 何やら考えている様子で少女。シリアスな顔を作って黒ペンを取り出し、呟く。
「問題はやっぱり‥‥コレ製作者同じよねー」
「同じ、というのは前のマスコットとですか? 確かに、似たような空気は感じます‥‥」
 慶次郎は「あの時もお世話になったようで」と言いつつ阿野次へと視線をやる。
「あの」
「なに?」
「何をなされてるんですか?」
 尋ねる慶次郎の視線の先にはきゅきゅきゅーと脚のギブスに「のもじ参上!」とサインをしている阿野次の姿があった。
「入院記念に!」
「いらんです!」
 叫んで慶次郎。
「ま、まぁ、きっちりお前さんの敵は取ってくるぜ。安心して養生しておいてくれよ」
 威龍が言った。かくて情報を集めた傭兵達は赤いサンタクロースが出るという、斜陽の町へと向かったのだった。


 夕陽が万物を赤く染める時刻。傭兵達は寒風が吹く某町へとやってきた。
「そういえば、ふと思ったのですけど、この手の季節ネタキメラは生き残った場合、その他のシーズンはどう過しているでしょうね‥‥?」
 ベラルーシが小首を傾げて言った。
「さぁ」
「冬眠(?)するとか」
「謎ではあるな」
 口々に言って首を傾げる傭兵達。キメラの生態の多くは謎に包まれている。ただ、キメラの多くは長くは生きられないものが多いから、草葉に浮かぶ白露のようなものなのかもしれない。夢幻のごとくなり。
 二班に別れ、町を捜査する傭兵達。イーリスは探査の眼を発動させて後方を警戒している。杠葉もまた探査の眼を発動させ上空に注意を払った。三十分程も歩いただろうか、不意にイーリスは背後に殺気を感じた。
 振り返る。巨大な赤い陽を背に負って佇む一つの影がそこにあった。恰幅の良い身体に豊かな白ヒゲ、表情は柔和で、赤い服と帽子をかぶり、肩に袋を担いでいる。サンタクロースだ。
「後ろです!」
 イーリスが叫ぶ。A班の面々は町を全力で駆け出した。亜が遅れる。快速の威龍がひっぱる。町を駆けながら無線でB班と連絡を取りつつ合流。付近の駐車場へとキメラを誘いこんだ。キメラが悠然と追って来る。反転。
「カノジョーニーフラレター! ベリークルシミマース!」
 サンタキメラは声を張り上げると袋の口からラッピングされた長方形の物体を取り出し、サイドスローで投擲してきた。空を切り裂き、激しく回転しながらプレゼント(?)が飛ぶ。威龍は素早く飛び退いて回避した。アスファルトに突き刺さったプレゼントが次の瞬間爆発し小規模なクレーターを発生させる。何入ってんだ。
「こ、こんなのサンタだなんて認めるかぁッ!」
 黒羽が直刀とナイフを抜刀しながら叫んだ。
「プレゼントは投げちゃダメ。ちゃんと置きなさい!」
 神撫もまた抜刀しながらキメラに向かって説教している。
 しかし、キメラはその叫びをまったく意に返さず朗らかに微笑みながら言った。
「ワタシはアクム、ヲ、トドケル、モノ! ジゴク、ヨリ、ノ、シシャ! ミンバ、シネバイイノニー!」
「誰だ、こんな巫山戯たキメラを作った奴は‥‥!」
 杠葉は影撃ちを発動させシエルクラインを猛然と構えた。常は冷静そのものだが今回は多少の苛立ちの気配が見える。男は原因を消去すべくトリガーを引く。轟く銃声と共に弾丸が飛び出した。阿野次は縮地を発動させて位置取っている。洋弓に矢を番え撃ち放つ、二連射。イーリスもまたSMGスコールを用いて胴体を狙いフルオートで猛射した。総計百四十発の弾丸が弾幕となってサンタキメラへと向かい二本の矢が錐揉みながら飛び空を裂いて襲いかかる。
「ウィンタァアアアア! ボーナスカットォッ!!」
 白ヒゲの爺さんは叫びつつ腕を突き出しクリムゾンの対消滅バリアを発生させた。展開された光盾に弾丸と矢が炸裂し、激しく明滅するスパークを発生させ、次々に消し飛ばされてゆく。範囲は限定的なようだが、鉄壁に近い防御性能である。
「悪いが、クリスマスは俺は女とデートだからな。楽しいクリスマスにつきもののサンタのイメージをこれ以上汚される訳にはいかねえんだよ」威龍が鋼鉄の爪を構え、快速一番駆け出した「滅んで貰うぜ、貴様にはな」
 ギラリ、と眼光を輝かせ男は撃滅すべき対象を睨みつける。一年に一回のイベント、楽しくデートしたいものである。障害は全霊を以って排除するのみ。
「‥‥ふふ、仮に生き残っても、売れ残ったクリスマスケーキのような悲しい存在のキメラさん。五割引になる前に、美味しく逝かせてあげるのが慈悲というものでしょう」
 優しい微笑を浮かべ、黄昏の光に鈍く輝く大鎌を手に携え、ゴシックドレスに身を包んだ少女が駆けてゆく。ベラルーシだ。表情は柔和だがちょっとばかり真っ黒な気配がするのは気のせいか。
 亜は班の前衛の二人へと向けて練成強化を発動させた。威龍の爪と黒羽の剣が淡い光に包まれる。
「まとまってゆくよ」
 神撫が言って駆け、黒羽、五十嵐もまた駆ける。
「サンタだからって不躾なプレゼントは遠慮しますよ、代わりに‥‥あの世への片道切符をこちらから差し上げます!」
 五十嵐が爪を光らせ吼える。バリアを発生させ攻撃を防いでいるキメラへと五人の戦士が両サイドから突っ込んだ。
 サンタは戦士達が接近してくると横に移動して後衛からの射線を切り、白い袋を構える。
「ベリィィィィィクルシミマース!」
 プレゼントの詰った巨大なそれを独楽のように一回転しながら威龍の顔面を狙って振り抜く。威龍は疾風脚を発動させ左の爪で払い落しながら一撃をかわし、爪の間合いまで肉薄する。前足を蹴りだすかのような独特の歩法で踏み込むと体重を乗せて右の拳を繰り出した。鋭く重い一撃がキメラの腹に炸裂する。キメラが吹っ飛んだ。否、自ら後方に跳んで威力を半減させている。
「とりあえずお前はしゃべるな」
 神撫が練力を全開にし即座に剣を構え追いすがる。踏み込む。炎光を纏った天剣の切っ先をサンタの口へと向ける。突いた。サンタは右足を引きつつ半身になり首を振って紙一重でかわす。黒羽が踏み込み身を捻り様足を狙って薙ぎ払いを繰り出す。サンタは片足を上げブーツの底でガード。赤壁が展開し激しく鬩ぎ合う。
 五十嵐の姿がふっと掻き消えた。瞬天速で猛加速。瞬間移動したが如き猛烈な速度で肉薄すると急所突きを発動させて爪で突きこむ。白ヒゲ爺は片手を風車のように回転させ側方から巻き込み流す。
 ベラルーシが側面に回り、キメラの膝めがけて大鎌を繰り出した。サンタの態勢が崩れている。入るか? 白ヒゲ爺さんは突き出た腹の重さを感じさせないハイスピードな動きで軽々と後方に跳躍した。鎌が空を斬る。着地点、威龍が詰めている。アスファルトの大地を破裂させるがごとき重い音を立てて踏み込み突く。鈍い手ごたえ。痛烈な一撃、入った。爪を捻りながら引き抜く。男は即座に連撃を繰り出す。
「ボーナスカットォッ!!」
 サンタが威龍の爪と交差するが如く腕を突き出し紅蓮の障壁を発生させた。激突。激しいスパークを撒き散らしながら威龍が吹っ飛ぶ。宙で態勢を捌いて脚から着地。神撫が側面に回り込み、突きだされた腕を狙い斬り落としの斬撃を放った。命中。押し当てながら引き斬る。深々と切り裂いた。五十嵐が頭部を狙って回し蹴りを放つ。サンタは腕をあげてブロック。
「こんのジジイ! 嫌な事叫ぶなぁ!!」
 黒羽、五十嵐の上段蹴りをガードしているサンタに向かい、低く踏み込み身を捻りざま、遠心力で加速させた弧を描く下段の斬撃を放つ。サンタが左膝をあげてガードする。ブーツ越しに一撃が入った。重い音が響く。態勢が崩れた。光が奔る。サンタの逆足の脛を容赦なく振り抜いたベラルーシの大鎌が薙ぎ払った。衝撃にサンタがもんどりを打って転倒する。
「ベリークルシミマースッ!!」
 戦士達が追撃を放つよりも一瞬速く、サンタは膝を曲げ脚の底から光を解き放った。光が爆裂してアスファルトを砕き、サンタが反動で斜め上へと飛ぶ。宙へと逃れた。
「ヴェリィィィィ! ネタマシデースッ!!」
 サンタは空で一回転し眼下の傭兵達へと向けて袋から無数の小型プレゼントを撒き散らす。ラッピングされた小箱達は途中で火花を散らすと、煙を噴出しながらマッハを超えて大地へと突き刺さった。猛烈な爆裂が巻き起こる。
 威龍は素早く飛び退いて回避、神撫は咄嗟に盾をかざして防御、黒羽、五十嵐、ベラルーシの三人は避けきれずに爆裂に巻き込まれた。破片が身を切り裂く。
「待ってな、今治します!」
 亜が超機械の容器をかざし、練成治療を発動させた。五十嵐とベラルーシの傷が癒えてゆく。
「三次が駄目なら」
 阿野次が矢を番えた洋弓を空へと向け、呟く。
「二次元で嫁を作ればいいじゃない!」
 ドンッと空を切り裂きながらスパイラルに回転する矢を撃ち放つ。イーリスもまた空へとSMGを構えると強弾撃を発動させて猛攻を仕掛けた。
「どっからあれだけの箱を取り出した‥‥? 常識を思い切り無視しやがって」
 杠葉はリボルバーを引き抜くと貫通弾を装填、練力を全開にして口を狙い澄まして怒涛の如く連射した。
「ボーナス――!」
 キメラが宙で身を捻り腕を翳す。攻撃直後。動作が遅れる。紅蓮の盾が発生するよりも前に矢が次々に突き立ち、弾幕が呑み込み、強弾撃がキメラの口内をぶち抜いた。衝撃に揺らぎ、態勢を崩してサンタが落下する。大地に激突した。
「キサマはしっとの仕方を間違えた。それが敗因だ!」
 神撫が剣と盾を構え走る。威龍、黒羽、五十嵐もまた武器を振りかざして殺到してゆく。
「妬み嫉み‥‥それもまた、ヒトを映す鏡。しかしそれは全て愛ゆえに生まれいずるモノ。貴方は所詮‥‥空虚の存在‥‥仮初の感情‥‥それでは、私のこのドス黒い感情に勝つことはできないのです」
 人、それをヤンデレと言う。光の消えた瞳で大鎌を光らせベラルーシが迫る。追いつめた。
「メリー――」
 キメラはしかし、その状況下にあってより笑みを深くした。両手を空へと翳すと、その身を急速に爆熱の色に染め上げてゆく。叫んだ。
「クリスマァアアアアスッ!!」
 カッ、と閃光が走り、次の瞬間、猛烈な爆風が周囲一帯に吹き荒れた。


 白ヒゲのキメラは冬の日の爆風と共に消えた。クレーターの残るその街で、傭兵達は集まりお互いの無事を確認し、傷を癒していた。亜が練成治療を使って怪我の酷い者を治療している。
「いちいち癇に障るキメラだったな‥‥畜生め」
 少し焦げている杠葉が呟いた。距離があったのと咄嗟に張った自身障壁が軽減してくれたのか大きな被害はない。
「みんな、生きてるか?」
 神撫が問いかける。爆裂の直前に気づき盾でガードしていた。天使様は耐えてくれたようである。
「なんとか。とんでもない敵だったなぁ‥‥いろんな意味で」
 黒羽は若干疲れた様子で息を吐く。神撫が前に立ってくれたのでダメージは軽めだ。
「あのキメラを作った奴がヨリシロ也強化人間だとしたら、よほど辛いクリスマスを過ごしたんだろうな」
 同情はする、と威龍。
「ま、とかく一件落着だな」
 治療を受けながら五十嵐が言った。
「さーて帰って、寂しいシングルベル‥‥と」
 少し遠い目をしていった。帰ったら飲もう、そう思う男であった。
「ああ‥‥俺も今年のクリスマスはどう過ごそう」
 はふっと嘆息して黒羽。
 一方、
「特に意味はないが、荒ぶるのもじのポーズ!!」
 阿野次は付近の民家の屋根の上に登り、大鷹の名を冠す大弓を掲げて凱歌をあげていた。


 かくて、白ヒゲのキメラは退治され、町は平穏を取り戻した。傭兵達はその町を後にする。
 ふと見上げれば空からはひらひらと白い雪が舞い降りてきていた。
「‥‥もうすぐクリスマス、か」
 亜は少し寂しそうに呟いた。空から降りて来る白の結晶を少しの間、眺め、やや経ってから外套の前を合わせ、少女はその町を立ち去った。


 了