タイトル:麦県鉄騎・白兵マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/09 00:24

●オープニング本文


 中国河南省麦県。
 許昌の東方にあるその街には奉天の工場支社があり、そこそこに発展している街である。
 しかしあくまでそこそこであって、一見しては特に珍しい規模の街ではない。
 だが河南にあるこの街は、バグア軍による執拗なまでの攻撃を受けていた。付近の軍の牽制もあって大規模な戦力は投入されていないが、それでも月に一度は必ず大型キメラないしワームやゴーレムが襲来してくる。戦の絶えない街であった。
 街を仕切っているのは大陸の各地に勢力を持つ壮家の末娘、壮胡蝶である。艶やかなチャイナドレスに包み、ダークスーツの男たちを従える少女だ。気の強さで有名である。
 少女は襲い来るバグア軍に対し一歩も退かなかった。軍閥と交渉の末にKVの駐屯権を奪取するとそれを街の防衛にあててゴーレムや大型キメラに対抗した。その結果、麦県は今までバグア軍に一度も占領される事なく今日もまで持ちこたえていたのである。
 しかし。
「小姐、軍事費がかなりの額に登っております。これ以上の出費は‥‥」
 壮年の黒服の男が言った。
 ドレス姿の胡蝶は椅子に座り白い足を組み、書類を片手に眉間に皺を刻んでいる。
「地下のアレのおかげでまだなんとかなっておりますが、あまりに上がりが減っては長老達も良い顔をしない、かと。KVの修理費、弾薬費、その他もろもろの出費が占める率は全体の利益において既に――」
「ああ、わかってるヨ! ワタシ文盲じゃないある。それくらい解ってるヨ!」
 書類を机上に放り投げて少女は嘆息した。
「よーするに、経費削減しろって事よネ」
「はっ」
「でも防衛力はできるだけ落としたくないヨ。街が占領されたり地下のアレが破壊されたりしたら経費がうんぬんどころじゃないネ」
「それは、まぁ、そうですが‥‥しかし、長老達が不満に思っております」
「ワタシの首を飛ばすと?」
「我々としては胡蝶様にいなくなられると困ります。はたして――例えば、湖南殿などが街のトップに立ったら、街の衆は安心して暮らせるでしょうか」
「まぁ兄貴達はとっても外道だからネ。私も優しい訳じゃないけど」
「幾分かマシです」
「正直な男は嫌いじゃないアル。偶にぶっとばしたくはなるけどネ」
「は」
 黒服は軽く頭を下げ、
「で、胡蝶小姐、いかがいたしましょう」
「カットしたいのはやっぱり弾薬費よネ。ミサイル一発でアホみたいな額が飛ぶネ。でも空で弾撃つは仕方ないよ。これは削れない」
「はい」
「制限するなら陸ネ。でもそれで弾薬費を削っても機体を大破させられたらやっぱり結局高くつくヨ」
「しかし、何処かを削らねばなりません」
「そうねぇ‥‥」
 嘆息する胡蝶。
「色々考えたいところだけど、当面はなんとか応急策で凌ぐしかない‥‥か。陸を削るしかない」
「では」
「陸戦では射撃武器を使うのを極力控えてもらう。格闘で殺ってもらうよ」
「了解しました。ではそのように定めます」


 胡蝶と黒服のそんな会話が交わされてから数日後。やはり例によって例により巨大キメラとゴーレムの編隊が麦県へと押し寄せて来た。
「あー、あー鉄騎衆、聞こえてるカ」
 麦県に入れ替わりで駐屯している傭兵隊の名は麦県鉄騎衆という。昔、傭兵達の提案の中から選ばれ決められた物だった。壮胡蝶からの無線が傭兵達の元へと流れる。
「先程、麦県の北方よりバグアの巨大キメラとゴーレムの編隊が接近してきている事が報告されたネ。鉄騎衆は急ぎ出撃の上これを討て。なおかねてからの通達どおり射撃武器の使用は極力禁止するネ。いざって時はぶっ放しても良いケド、極力使用は控えてもらう方向でお願いするネ。あと大破も極力避けて欲しい。ヤバクなったら全力防御、後退する、これ大事ネ。難しい状況だと思うケド、頑張って欲しい。どうかこの街を守ってやっておくれ」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
桜庭 結希(gb9405
18歳・♀・SF

●リプレイ本文

 中国が河南省麦県。
「鉄騎衆は二度目です。今週もしっかり働いてお給料頂いちゃうぞ」
 意気込んで拳をあげるのはハルカ(ga0640)だ。
「いやー、鉄騎衆として戦うのも随分久しぶりよねぇ」
 感慨深げに呟いて皇 千糸(ga0843)。相変わらず麦県は狙われまくりな訳ね、と胸中で思う。
「そうですね。私は確か以前は生身で戦っていましたか‥‥」
 鳴神 伊織(ga0421)が応えて言った。確か以前は生身でゴーレムを撃退しろという当時としてはトンデモ依頼だった。その時は皇も居たような気がする。
「ここまでいつも通りだと安心感すら感じるわ。胡蝶さんの無茶振りも含めて」と皇。
「今回の要請には世知辛さも感じますが、依頼であればきちんと仕事を果たす事にしますか」
 鳴神はそう言った。
「しかし射撃をするなとは‥‥無理難題を押し付けられましたね」
 赤宮 リア(ga9958)が言った。今回は流石に生身ではないが射撃禁止ときた。胡蝶に煙幕の使用は可能かどうか聞いてみたが帰って来た返答は「出来れば使用は控えて欲しい」との事だった。なかなか厳しい。緊急の時や厳しい場合は使用を許可する、との事ではあるが。
「台所事情が苦しいのですね‥‥」
 と夕凪 春花(ga3152)。
「整備費が嵩むとはいえ、射撃の原則禁止か」
 リヴァル・クロウ(gb2337)が独白するように呟いた。
「陸では普段から弾薬費零‥‥この上、どう切り詰めましょうかね‥‥? ふふっ‥‥」
 金城 エンタ(ga4154)が笑みを洩らして言った。この状況を楽しんでいるのか、それとも不満に思っているのか、表情と口調からは解らない。
「経費削減かー‥‥どこも財政状況は厳しいんスね」
 六堂源治(ga8154)が言った。彼もまた『弾薬消費型近接兵装』の扱いについて胡蝶に確認していた。格闘武器でも炸薬などを使用するものがある。六堂が問いかけると返答には少し時間がかかった、どうやらそこは想定していなかったようだ。「ん、んんー‥‥削れる所は削りたいのが本音なのよネ」と胡蝶は言った。
「限界まで削ってどこまでイケルのか見てみたい所もあるから、今回は使用は控えてもらえるアルカ?」
 いざっていう時は仕方がないけども、と胡蝶。
「了解ッス。一応、こいつは俺の相棒なんで。使わなくても積んで行くッスけどね」
 と機杭エグツ・タルディを指して六堂は言った。
「すまないネ」
 無線からはそんな返答が返されていたのだった。
――果たしてこの決断がどのような結果を招くか、とリヴァル・クロウは思う。弾薬類を使わず快勝できれば経費は大幅に抑えられるだろうが、機体が大破しては元も子も無い。まして敗北となったら眼もあてられない。
「銃器が使えないというのは結構痛いですね」
 榊 刑部(ga7524)が呟いた。
「ま、でも、どんな状況でも対応できるのが傭兵ッス。やってやるッスよ」
 六堂源治が榊の呟きに答えて言った。
「そうですね。傭兵たるもの、与えられた条件で戦わなくてはいけないこともあるでしょうから、ここは頑張らなくてはいけませんね」
 頷いて榊。
「陸戦で射撃武器使わないのは何時もの事だから、あたしにとっては大した制限じゃないわね」
 任せといて、というのは桜庭 結希(gb9405)である。普段からそうであるというのは、こういう状況ではなかなか頼もしい。
「ま、クライアントの要望には全力で応えましょ!」
 と皇。
「久々の胡蝶姐からのお呼びだからね、気合い入れてゴーレム共をブッ飛ばしてあげましょーじゃないの!」
 葵 コハル(ga3897)が言う。ちなみに胡蝶は麦県周辺のメディアになら伝手はあるらしい。
 一同は葵の言葉に頷き、かくて十二機のKVが北の地を目指して出撃して行った。


 麦県の北方に広がる荒野。そこに十二機のKVと四機のゴーレム、三匹の巨大竜人型キメラが集結した。四機のゴーレムのうち一機は色が黒で槍と大楯、そして肩に砲を二門揃えている。残りの三機は青色で剣と大楯を持ち肩に一門の砲を備えていた。
 これらを射撃無しに倒さなければならない。
「スマイルスマイル☆ 動きが固いと感づかれますよ〜?」
 須磨井 礼二(gb2034)がにこやかに笑いつつ言った。傭兵達のKV数機は、実際に撃つ予定はないが、射撃武器を装備していた。見せ武器である。射撃出来ないという不利を相手に勘付かせない為だ。
 十二機のKVは鶴翼に、敵部隊を半包囲するように展開した。左翼端から鳴神、須磨井、六堂、榊、夕凪、皇、ハルカ、桜庭、金城、葵、リヴァル、赤宮という順番だ。
「『鶏を刎ねるのに、牛刀は不要』‥‥雪村は持ち合わせておりますが‥‥本日、抜刀の予定はございません‥‥」
 金城が外部スピーカを用いて挑発の声を発する。バグア軍は部隊を二分し、両翼の先端に対して集中して射撃を仕掛けた。
 ブラックゴーレムが二門の、ゴーレムが一門のプラズマキャノン砲を回頭させ赤宮機へと対して爆裂する閃光を猛射する。一匹の黄金竜人もまた前進すると赤宮機へと対して口を開き特大の火球を撃ち放った。一方の鳴神機へは二機のゴーレムがプラズマキャノン砲で猛連射し、二匹のキメラが爆裂する火球を撃ち放つ。挑発は効かないようだ。金城は黒ゴーレムを観察している。およそ砲撃開始距離は二〇〇程度か。
 赤宮機PM‐J8熾天姫、盾を構え、ブーストを展開させ左右に機体をスライドさせて前進しつつ射撃をかわさんとする。射撃が厚い。光の嵐が迫り来る。距離がある。熾天姫、ゴーレムから襲い来る五連の閃光を掻い潜り、火球の嵐も横にふって悉くを回避する。光と火球が後方へ抜けていった。しかしその直後に、ブラックゴーレムから放たれた光線が熾天姫に突き刺さる。十連の爆裂する光波が次々に叩き込まれ真紅のアンジェリカを呑み込んでゆく。猛烈なプラズマ光波が装甲を削り飛ばす。損傷率一割八分、熾天姫非常に硬い。
 鳴神機、ディフェンダーとストライクシールドを構えて前進中。閃光と火球の嵐が迫り来る。距離がある、が、射撃が厚い。二機のゴーレムからの十連の閃光のうち、五発をかわし、黄金竜からの六連の火球をかわすも、五発の閃光に捕えられる。シュテルンは剣と盾を交差させてガードする。プラズマ光波が鳴神機を呑み込み爆裂を巻き起こした。損傷率一割三分、なかなか硬い。
 右翼リヴァル機、赤宮機に砲火が集中している隙をついてブースト点火、入れ代わらんと前に出て一気に突っ込む。赤宮機も盾を構えつつブースト機動でプラズマ光波を突き破って突進する。六堂機もまたショルダーキャノンを構えつつ――「見せ札ってところかな。敵さんも、こっちの懐事情なんか知らないだろうし」というのは六堂の言だ――ブースト機動で踏み込んだ。須磨井機もまた三機が加速したのを見てブーストを点火させて前進する。他の八機は通常前進。
 リヴァル機が向かうゴーレムの一機、砲頭を回答させて迫り来るシュテルンへと爆裂するプラズマ波を解き放つ。リヴァル機、四発の閃光を置き去りに駆け抜ける。一発、シュテルの翼の端をかすめた。損害は軽微。最近のゴーレムの眼前に踊り出る。ハイディフェンダーをふりかざし斬りかかる。ゴーレムは素早く反応して大楯をかざした。盾の表面に剣が激突し火花が散る。シュテルンが踏み込み、大地を揺るがしつつ連撃。ゴーレムは剣閃三段を盾で弾く、やはり硬い。
 ブラックゴーレム、迫り来る熾天姫に対し槍を構える。ゴールデンドラゴニアンは変わらず赤宮機へと集中砲撃中。迫り来る巨大な火球を熾天姫は左右に切り返して鮮やかにかわす。後方の大地に火球が突き刺さり爆裂が巻き起こった。
 左翼は六堂機へと目標を転じた。二機のゴーレムからプラズマキャノンが、二匹の黄金竜人から火球の嵐が解き放たれる。閃光の嵐がバイパーを呑み込み、火球が次々に炸裂して爆裂を巻き起こした。火炎を突き破って盾を構えたバイパーが矢の如く突進する。ゴールデンドラゴニアンに肉薄するとトゥインクルブレードを抜き放ち斬りつける。竜人はその身の丈に匹敵する巨大な剣をかざして受け止めんとする。ブレードと大剣が激突して火花を巻き起こし、竜人が衝撃に身を沈ませる。バイパーは素早く機体を切り返すと三連の剣閃を巻き起こした。竜人の鱗が切り裂かれて吹き飛び鮮血が吹き上がる。強烈な破壊力。
「KV戦で剣を使うのも久しぶりだが‥‥まだまだ腕は鈍ってないみたいッスね」
 竜人が後ずさってたたらを踏み、怒りの咆哮をあげた。
 赤宮機は爆槍を警戒しつつ黒ゴーレムの距離二十まで接近。黒ゴーレムはその身に紅蓮の光を纏うと迎え撃つように赤宮機へと爆槍の切っ先を捻りながら突き込んだ。赤宮は機体を捌きつつスパークワイヤーを槍に向かって解き放つ。ワイヤーが槍に絡まり、その先端が熾天姫を捉えた。装甲を泥の如くに突き破り、機体の奥に入る。熾天姫はSESエンハンサーを発動させ金属の筒を抜き放ち蒼光の長大な刃を出現させた。レーザーブレード、雪村だ。天地に比類が無い程の破壊力を秘めた蒼刃が爆槍の柄に向かって振り下ろされる。同時、爆槍の先端から炎が噴出し、凶悪なまでの超爆裂を巻き起こした。槍の柄、というのは、そう簡単に切断されるものでもなく、合金のそれともなればなおさらなのだが、熾天姫の蒼刃は泥でも裂くかの如くにゴーレムの爆槍を両断した。しかし爆槍の焔もまた熾天姫の胴を吹っ飛ばしていた。赤のアンジェリカの上半身が真っ二つに別れ、それぞれが吹き飛ばされて大地に激突し動かなくなる。大破。
 間合いを詰めた金城機、槍の穂先を失くしたブラックゴーレムへと間髪入れずにソードウィングで突撃する。交差。ゴーレムは素早く盾をかざして受け止めた。火花が散る。金城、激突の衝撃に揺らぐ機体の姿勢を操りつつしゃがみ込んで足元を薙ぎ払うようにギガントナックル・フットコートで蹴りを繰り出す。ゴーレムは一歩後退し前の足をあげて回避。金城はさらに連撃を仕掛けるもゴーレムは盾を使い防いだ。
 須磨井機はゴールデンドラゴニアンへとブーストで間合いを詰めると機槍を突き出して牽制する。黄金の竜人は大剣をかざして穂先を弾き飛ばす。須磨井機は同時に踏み込んで距離を詰めると左の腕で金属の筒を抜き放った。練剣「メアリオン」だ。蒼刃を用いて袈裟斬り、逆袈裟、薙ぎ払いの三段の剣撃を叩き込む。竜は一撃を大剣で打ち払ってかわし、二撃目に脚部を薙がれ、三撃目に脇腹を裂かれる。黄金の鱗が焼き切られ弾け飛んだ。
 敵の攻撃と同時にブーストで踏み込んでいたハルカ機はリヴァル機の攻撃を防いでいるゴーレムの側面へと回り込む。ハンマーボールを頭上で旋回。
「ふっとんじゃえー!」
 気合の声と共にアグレッシヴファングを発動させ投擲。側面から飛来した鉄球がゴーレムの肩部に激突し装甲を粉砕した。猛烈な破壊力。
 金城機に対しブラックゴーレムは至近距離からプラズマキャノンを爆裂させる。十連の閃光がディアブロを呑み込みその装甲を焼き払う。激震がコクピットを襲った。損傷率四割。
 左翼から突っ込んだ鳴神機はハイディフェンダーを振り上げてブラックゴーレムに斬りかかる。ゴーレムは盾をかざして剣撃を受け止めた。光を突き破ってディアブロが踊り出てソードウイングでぶちかましをかける。ブラックゴーレムはスウェーして回避した。鳴神機が連撃を繰り出し、金城気が突撃する。ゴーレムは赤く輝き慣性を無視した機動でその猛攻を回避してゆく。
 ハルカ機は鉄球を引き戻すとゴーレムへと向けて再度投擲。ゴーレムは振り向くと大楯をかざして受け止めた。轟音が巻き起こり、ゴーレムの身が揺らぐ。リヴァルは側面に素早く回り込むとハイディフェンダーで猛連撃をかけた。ゴーレムの脚部を逆袈裟に切り上げ、肩を袈裟に叩き斬り、胴を薙ぎ払う。装甲が次々に吹き飛び漏電を洩らすゴーレムに対し最上段に剣を振り上げつつ落雷の如くに打ち降ろす。ゴーレムは赤く輝くと態勢を立て直し、盾をかざして受け止める。次の瞬間、再びハルカ機の鉄球が側面より激突し破片を撒き散らしながら吹っ飛んで行った。大地に叩きつけられて全身から茨の如き電流を発生させ、次の瞬間爆裂炎上する。撃破。
「鉄球粉砕!」
 夕凪機は距離を相対距離を五十まで詰めるとシュテルンから光の翼を噴出させ、ハンマーボールを薙ぎ払うようにして投擲した。迫り来る鉄球に対してゴーレムは大楯をかざす。しなる鞭のように投擲されたハンマーは鎖の部分が盾にからみつき、軌道が曲がって盾の裏にいるゴーレムを直撃した。衝撃にゴーレムが揺らぐ。そのゴーレムに対し間合いを詰めた榊機が翼を翻して突撃をかける。ソードウイングによる攻撃だ。剣翼の先端がゴーレムの装甲の表面に入り激しく火花を散らした。突き抜けた榊機は踵を返すと接近仕様マニューバを起動、双刃を振りかざしうねるように斬りかかる。ゴーレムは赤く輝くと横に素早く横にスライドして回避。夕凪機よりハンマーボールが再び飛来する。ゴーレムは宙へと跳躍して避けた。鉄球が大地を砕き土砂を舞わせる。慣性を無視した機動で急降下し榊機へとバグア式ディフェンダーを叩きつける。榊機は素早く後退して回避する。ゴーレムは背からバーニアを吹かせて前進し地を這うように飛んで竜巻の如くに剣を振り回す。かわし損ねた切っ先が水鏡の表面装甲を切り飛ばした。
 皇機はもう一体のゴーレムへと間合いを詰めると機杖「ウアス」で鋭く突きかかった。ゴーレムは素早く大楯をかざして杖の先端を受け流し、近距離からプラズマキャノンを猛連射する。S‐01は素早く盾をかざして受け止める。光の奔流が皇機を呑み込み、装甲を削ってゆく。損傷率二割。
「超限界稼動、いっけー!」
 桜庭機破曉は皇とやりあっているゴーレムの側面を取るとSES機関を全開に駆動させ装甲を展開する。リミッター解除、超限界稼働である。破壊力を増大させ鋭く右腕を突きだす。
「コレを言うのがお約束だからね‥‥悪のバグア人め、正義の鉄拳を受けてみろ! 必殺! バニシングゥゥゥゥゥゥナッコォォォォォォォォオ!!」
 少女の声を認識し、有線式の腕が勢い良く飛び出す。音声認識というのは、コンマ一秒を争う至近戦ではキツイものがあるように思えるが、飛び道具ならなんとかいけるか? 飛び出してからは早い。鋼鉄の拳が空を切り裂いて飛び、ゴーレムの頭部へと激突した。轟音と共にゴーレムの首が曲がり、たたらを踏む。すかさず皇機が機杖で足元を薙ぎ払った。ゴーレムがもんどりを打ち、赤く輝くと同時にバーニアを吹かせ宙で態勢を立て直す。振り下ろされた機杖は盾に激突して轟音を巻き起こした。桜庭は右の拳を引き戻しつつ、左の鉄拳を突きだし飛ばす。ゴーレムは飛来する拳をバグア式長剣で切り払って回避した。
 ゴールデンドラゴニアンの一匹は盾を構え前進してきた葵機へと向き直り火球を連射する。火の球は次々に葵機に命中し爆裂を巻き起こした。次の瞬間、紅蓮の炎を裂いてディアブロが飛び出し和槍で突きかかる。黄金の竜人は大剣を振り上げて切っ先を弾き飛ばす。葵機は踏み込み、さらに連打。追撃の一発目も防いだ竜人だったが二撃目はかわせず、鱗に切っ先が突き立った。捻りながら引き抜く。鮮血が舞い、竜が咆哮をあげた。
 黄金竜と格闘する六堂機。
「見えた!! 吼えろバイパーッ!!」
 竜巻の如く振り回される竜人の剣を掻い潜ってかわし、交差ざまにソードウイングで叩き斬る。黄金竜の腰から半分が深く切断され、滝のように血液が噴き出した。次の瞬間、どう、と音を立てて竜の巨人が倒れる。黄金竜に快勝した六堂は周囲を見回し仲間の援護へと向かう。
 須磨井は飛び退いて黄金竜の剣撃をかわすと、右の機槍を構えて連撃を繰り出す。黄金竜は大剣を振り上げて穂先を跳ね上げると、飛び込んできた須磨井に対し顎を開き爆裂する火球を吐き出した。爆裂が巻き起こりシュテルンのコクピット内の視界を真っ赤に染め上げる。須磨井は笑みを保ったまま機体を捌くと焔をから脱出し機槍で再び連撃を仕掛けた。
 金城機。ブラックゴーレムが構える盾より内側に入らんと踏み込む。ゴーレムは身にぴたりと大盾をつけている。少し厳しい。ソードウィングで突撃をかける。剣翼が激突して火花が散った。鳴神機はハイディフェンダーを脇に構え、薙ぎ払う。ブラックゴーレムは素早く後退して回避。シュテルンは盾を持つ手からワイヤーを解き放った。ゴーレムが盾をかざすもワイヤーが絡みつく。電流が流れ火花が散った。側面に回り込んだ金城機がナックルフットコートで殴りつける。轟音が鳴り響いた。ゴーレムは振り払うように鉄の棒と化した槍を振り回す。側面からディアブロの脇腹を打った。間合いが近い。軽い。金城は衝撃を捌きつつ鋼の拳で連打を浴びせる。ゴーレムは盾を振り上げると縁を使って叩きつけた。金城、読んでる。素早く後退して一撃を回避。ゴーレムは間髪入れずにプラズマランチャーの砲門を向けた。六連の爆光が解き放たれディアブロの装甲を削り飛ばしてゆく。損傷率六割四分。
 ゴーレムを撃破したリヴァル機はブースト機動でブラックゴーレムへと迫る。
「こちらで動きを止める。伊織、後は頼む」
 無線を入れつつ、機杭を構えて側面より漆黒のゴーレムへと間合いを詰める。ゴーレムがリヴァル機を振り向き見る。リヴァル機は機杭で殴りかかる、と見せかけて切っ先を急変化させ、ゴーレムのその足へと向けた。SESが駆動し超速で杭が打ちだされる。
 榊機と斬り結ぶゴーレムの側方より破壊の鉄球が飛来した。ハルカ機のハンマーボールだ。ゴーレムは素早く反応して大楯をかざす。盾に鉄球が激突し鈍い音を盛大に響かせる。ゴーレムの身が滑り、大地に土煙をあげた。近接マニューバを全開にしてミカガミが迫りツインブレイドをしなるように繰り出す。ゴーレムは赤く輝き宙へと跳躍して逃げた。瞬間、上方から鉄球が飛来し激突、大地へと叩き落とされる。夕凪機のハンマーボールだ。さらにハルカ機から再度鉄球が飛びゴーレムに激突する。倒れながらも構えている大楯に激突している。榊は機体を沈ませると肉薄し、倒れているゴーレムを盾ごと踏みつけ、ツインブレイドの切っ先をその顔面へと繰り出した。鈍い手ごたえと共に双刃の刃がゴーレムの顔面を貫いた。激しい漏電が巻き起こり、次の瞬間、その顔面が爆裂してゴーレムは動かなくなった。撃破。
 皇と格闘するゴーレムに斜め後背から飛来した鋼鉄の拳が激突する。機体能力を全開にした桜庭機が回り込みバニシングナックルを猛連打していた。皇はブレス・ノウを発動させると背からバーニアを噴出させ突撃する。手に構えるのは金属の筒。蒼き光の刃が伸びた。
「刺し、穿つ!」
 機体ごとぶつかるように繰り出された蒼刃はゴーレムの胴を貫通し、S‐01の身が盾に激突してそれを持つゴーレムを吹き飛ばした。ゴーレムは起き上がろうともがいたが、胸に空いた大穴から電流が漏れ、次の瞬間爆裂を起こして四散した。
 六堂機は葵機と斬り合っているゴールデンドラゴニアンの背後に接近するとブレードで斬りかかった。竜人の背が仰け反り、鮮血が吹き上がる。葵はその隙を逃さずパニッシュメントフォースを発動させるとソニックブレードを抜刀ざま黄金竜の胴を左から右へと薙ぎ払い、逆袈裟に切り上げ、太刀を返すと落雷の如く打ち降ろした。刃が竜人の頭部を破砕し、瞳から光を失った竜人が倒れる。葵の秘剣、颶風裂破である。
 須磨井は黄金竜が振り降ろす大剣を槍で側面に弾くと前進、カウンターで吐き出された火球を突進しながら横にスライドしてかわす。狙い澄まして輝く蒼刃で交差ざまに薙ぎ斬った。脇腹から鮮血を噴出させ竜人がどぅっと倒れた。
 リヴァルが打ちだした杭がブラックゴーレムの足へと突き刺さる。
 鳴神機がハイディフェンダーを振り上げ斬りかかった。ゴーレムは盾をかざして受け止める。後背に回った金城機がソードウィングで突撃をかけた。ゴーレムの動きが阻害されている。剣翼が命中しインパクトの瞬間に猛烈な衝撃が発生した。ゴーレムがたたらを踏む。鳴神機は側面に滑るように回るとブラックゴーレムの胴を撫で斬った。リヴァル機が踏み込み機杭を連射する。杭が次々にブラックゴレームに突き立ってゆく。
 ゴーレムは大地ごと足に突き刺さった杭をひきぬくと、その身を赤く輝かせ宙へと飛んだ。ハルカ機からハンマーボールが飛び、ブラックゴーレムが弾き飛ばされ、さらに夕凪機からも鉄球が飛び、桜庭機から鋼鉄の腕が連射される。
 皇機が、六堂機が、榊機が、葵機が、得物を構えて猛然と走った。
 ブラックゴーレムは折れた槍を振り回し、プラズマランチャーを撒き散らし、それでも奮戦したが衆寡敵せず、やがて十一機のKVの猛攻を受け、叩き潰されて爆裂四散した。
「作戦終了、帰還しよう」
 残骸を見下ろしてリヴァル・クロウ。
「銃器が使えぬとしても動きはもっと練り込める筈。まだまだ修行が足りません。なおいっそうの精進が必要ですね」
 一つ息をつきつつ榊刑部はそう言った。


 かくて麦県へと襲来したバグア軍は撃退され、街はまたつかの間の平穏を取り戻した。
 中国大陸が解放されない限り、再びバグア軍がやってくるのはほぼ確実であったが、それはまた別の話とし今回はこれで一巻の終わりとさせていただこう。


――ちなみに、


「黒服のお兄さん、監視カメラの録画テープとか無い?」
 戦後、麦県に帰還した皇は何か可愛いものがありそうな第六感に動かされて黒服に問いかけたが、
「監視カメラの、ですか‥‥? 申し訳ない皇小姐。場所によってはありますが、許可なくお見せする事はできません」
 戸惑ったような黒服の回答は以上のようであり却下されていた。まぁ多分、胡蝶の部屋には監視カメラは無いだろうし、あっても渡せないだろう。


 了