●リプレイ本文
出撃前、別府基地ブリーフィングルーム。
「実力次第、って、言われたから。戻って、きた」
ラシード・アル・ラハル(
ga6190)はそう言った。どうせ戦うなら飛びたい、そう思う。
「あぁ、大佐か?」
不破が苦笑して言った。あの人は口が悪いからな、と。そんな事を話す。
「‥隣に並びたい人が、いるんだ‥‥だから、もっと強くならなくちゃ」
もう、置いてかれるのも、重荷になるのも、嫌だから――僕は、大丈夫、そんな事を胸中で呟く。
「ふむ、そうか」
不破はそんな事を呟いた。少年はふと不破を見上げる。
「‥‥不破大尉、どうかしたの?」
不破はその言葉に不思議そうな表情をした。ラシードの眼には不破は少し疲れているように映っていた。その事を述べると、
「‥‥‥‥色々あってな」
不破はそう苦笑するようにして答えた。
「へ、ぇ‥‥」
「‥‥かつて、それを取り戻す為に頑張ってくれと言われ戦って来たが、今となってはもういらぬのだと、他ならぬそこの住民に言われた。俺はなかなかの能天気を自負しているが、そう言われると流石に堪える。あの戦いの意義はなんだったのか、とな」
「ふぅーん‥‥」
人間だ。住民も、不破も。そういう事もあるのだろうか、とラシードは思う。
その話を耳にしてセージ(
ga3997)はピンと来た。
「大尉。村人に帰る意志の有無なんて関係ない。取り戻すことにこそ意味があるんだ」
青年は不破を見据えてそう言った。
「そうか?」と不破。
「兜ヶ崎は俺にとっても思い入れのある土地だ。いつまでも取られたままなんて我慢ならない」
セージはそう言った。
「‥‥なるほどな。確かに、俺も取られたままというのは、すっきりせん。大佐にもそう言われた」
「村上に?」
「ああ。既に俺自身の戦いでもあるだろう、とな」
それに藤田あやこ(
ga0204)が言う。包帯を身にぐるぐると巻いている姿だ。
「私は世が世なら若い看板娘として駅前なぞで愛嬌とビラを振舞う筈でした」
藤田は重体の身ながらそれを押して作戦に参加していた。大分は地元なのだと言う。ブランド牛の産地に拘る親を説き伏せLHへ疎開させた、という経歴であるらしい。その手前、焦土化する故郷を看過できず前線に来たそうだ。
「キメラを撒かれては復興が遠のきます。消費者が敬遠します」
「‥‥消費、者?」
「私は往時の父が考え、長年親しまれた看板を背負って闘っているのです。豊後牛が豊後牛である為に!」
これが私の聖戦なのです、と藤田は語る。
「なるほど、看板か‥‥身に迫る話だ」
瞳を閉じ眉根を寄せて頷く不破真治。彼は先刻まで重体者の出撃に少し渋る様子を見せていたが、
「藤田、その怪我では思うように戦えぬだろう。しかし、男――女でも戦わねばならぬ時がある。俺がカバーしよう、存分に戦え! 骨は拾ってやるッ!!」
この辺り、村上とは違うところである。あれは能力の激減している者を作戦に参加させようとはしない。
とかく不破は「俺達の戦いには多くの人々の人生がかかっているのだというのを再確認した」などと言っていた。
「――なぜ戦うか、などと考えるのはまだ余裕のある証拠だな」
その会話を聞いていた男が言った。
「オルランド」
不破が言い、一同がそちらへと視線をやる。スーツ姿の男が立っていた。
「軍人ならば、戦えという命令だけで十分だ。理由が無ければ戦えない、というのでは組織を危うくする」
オルランド・イブラヒム(
ga2438)はそう述べる。
「む。戦えない、というまでではないが‥‥」
「士気が落ちるか?」
「‥‥心に鉄を持ちたいとは思うが、どうにもな。まったく影響しないように、というのはなかなかいかんようだ」
苦笑して不破。
「ふむ」
オルランドは呟き、自分はかつてはどうだったかと考える。戦う理由。
(「気付けば戦いの中にしか居場所が無かったから、だな‥‥」)
そんな事を思った。
●
「この土地を守りたい‥‥戦う理由としては足りていると思いますよ」
出撃前、ヨネモトタケシ(
gb0843)はそう言った。祖国での戦いだ。士気は高い。
傭兵達は作戦を打ち合わせると冬の別府基地から空へと舞いあがった。陸軍と連携して進軍する。目指す先は、杵築市。
●
爆焔の華が咲き乱れる杵築市上空。UPC空軍と傭兵達は空に展開しバグア側の竜達と交戦、それを次々に落としていっていた。その戦いは優勢でありこのまま航空優勢を確保できるかと思われた。だがその矢先、敵の増援の報が入る。ビッグフィッシュを中心にキメラの大群が南下中との事だ、HWも混じっているらしい。
その報を受けた不破は迎撃を指示し、その指令を受けた十五の傭兵達は不破と共に北へと翼を翻した。
「いい感じで作戦が推移してると思ってたんだけど‥‥敵もそう簡単には負けてはくれないってことね」
イビルアイズを駆るリン=アスターナ(
ga4615)が言った。
「ここに来て増援か‥‥厄介ッスね」六堂源治(
ga8154)が顔を顰める「キメラ満載のビッグフィッシュが3機。落さないと陸がジリ貧だ」
「ここでキメラなんかばら撒かれちゃ困るね」
依神 隼瀬(
gb2747)が同意するように頷く。
「陸戦の方々の為にも是が非でも落としたい所ですねぇ」
アヌビスのコクピット内、ヨネモトが言った。
「ええ、ここでBFに好き勝手されては地上で戦う友軍にどれだけの被害が出るか分かりませんもの」
強く頷いてクラリッサ・メディスン(
ga0853)。地上では彼女の夫も戦っている。クラリッサとしてはキメラを降下させるのはなんとしても防ぎたかった。
「市内、キメラだらけに、なっちゃう‥‥? それは‥‥駄目だね」とラシード。
「何としても阻止しないと」依神が言う。
「空で一気に潰す‥‥それしかないッスね」
傭兵達は言葉を交わしつつ飛んだ。やがて陸が切れ、眼下には青黒い冬の海が広がる。彼方の空に見える漆黒の影の群れ。飛竜の大群だ。敵の中心部にはHWとBFも混じっている。
(「100を越える敵にBFか。メルス・メスの最新鋭機を試すには丁度良い」)
オルランド・イブラヒムは胸中で呟いた。サイファーで出撃するのは今回が初めてだ。ラダーを操作する。反応は良好。現在までの飛行感触では新鋭機は調子が良い。その力を発揮できるか否か。
迫り来るキメラの増援に対し傭兵達は隊を三つに分けた。A班は紡錘形を取り、全体よりやや前方に出る。その後方にB班がつけ、C班はそれよりもさらに後方に離れて飛行し、海面に近い低空に位置づけた。
「さてっ、黒の魔法使いが鯨を狩る為にやって来ましたよ!!」
C班に所属する青髪の少女ハルトマン(
ga6603)が言った。彼女としては、出来るだけ敵に気づかれないように行動し、低空からBFへと奇襲をかけたい所である。奇襲、なかなか難しい行動だ。空は視界が開けているし、基本的にワームやゴーレムは重力波で十中八、九は位置を察知してくる。味方のこの数では森に木を隠すような真似も出来ないし、不意を撃つなら意識の空白を狙う形になるだろう。敵の注意が味方へと逸れた瞬間を狙うのが唯一の形になるが、これだけ敵だ、眼も多い。果たして何割の間隙をつけるか。
「時間がありません、一気に突破しましょう」
フォル=アヴィン(
ga6258)が言った。BFは巨体だが、それでも高速で飛んでくる。あまり時間に余裕はない。音影 一葉(
ga9077)は敵群を観測しBFの位置を味方へと伝えた。
「ベータ1了解、進路修正」
通信を受けて叢雲(
ga2494)が言った。今回はシュテルンに搭乗している。Mk‐4Dロビンに搭乗する不知火真琴(
ga7201)はちらりと風防越しに同じB班に所属するシュテルンへと視線をやる。幼馴染の小隊隊長、闘技場から紆余曲折が有り、今は一緒に歩く事を約束している。殊更特別な事はしないが、動向は気にかけている。無茶しなければ良いのだけど、と思う。
距離が詰る。白と黒の竜が空を埋め尽くし、数百メートルの巨体を持つビッグフィッシュがキメラを満載して迫る。敵の進路に変更は見られない。真っ直ぐに杵築市へと飛んでくる。突っ切るつもりか。
(「そうはさせるか」)
六堂は思う。
「CrowsよりWarHeadへ。これより敵陣に切り込み、道を拓くッス!!」
「WarHead、了解。全機交戦を許可する。消し飛ばせ!」
不破が鋭く全体を鼓舞するように吼えた。白と黒の五十を越える飛竜達が加速し突出する、十六機の鋼鉄の翼が音速波を巻き起こして飛ぶ。
「A班接敵まで3‥‥2‥‥1‥‥」
叢雲の声が無線から響く。BFとHWは速度を揃え、中央に構えている。飛竜の群れが一斉に先頭、A班へと群がって来る。A班最右翼につけるリン・アスターナ機R‐01Eイビルアイズ、ロックオンキャンセラー発動、周囲の重力場をかき乱す――相対距離六〇〇、入った。
「Crows、フォックス3!」
「アルファ1、フォックス3!」
六堂機F‐104バイパー改、スタビライザー、ブーストを発動させる。迫り来る白竜と黒竜と群れに対してマルチロックオン、十匹を捉えK‐02ミサイルを撃ち放つ。クラリッサもまたシュテルンのPRMシステムを全開にし十匹の飛竜を捉えK‐02ミサイルを撃ち放った。二機のKVから爆音と共に総計一〇〇〇発もの小型誘導弾が空へと解き放たれ、焔と煙を噴出して竜の群れへと突き進んでゆく。
次の瞬間、空に爆裂の華が咲き乱れた。
天空を埋め尽くす程に爆発が巻き起こり飛竜達の身を次々に消し飛ばしてゆく。
ラシード機R‐01Eアズラーイール、オルランド機MX‐0サイファー、依神機Mk‐4D天鳥、それぞれ相対距離四〇〇まで詰めると、未だ爆炎収まらぬ中さらに誘導弾とロケット弾ランチャーを叩き込む。鋼と焔が殺戮を謡い、翼を砕かれた竜が肉片を撒き散らし海へと落下する。
「無粋な闖入者はお呼びじゃないわ。悪いけど、お引取り願いましょうか‥‥!」
アスターナ機イビルアイズは爆風を巻き起こしながら音速を超えて突っ込む。コクピット正面、炎の彼方に黒い影が見えた。レバーを握り込みマシンガンから弾丸の嵐を撃ち放つ。同時、炎が割れて黒い光が迫り来た。ブレスだ。イビルアイズの翼の端を黒い閃光がかすめて貫いてゆく。炎が晴れ、黒い竜が鮮血を吹き上げて墜落してゆくのが見えた。瞬後、前方の上下左右から黒と白の閃光が一斉に飛来する。十数の竜が初撃で消し飛んでいるが百程もいるのだ、まだまだ攻撃は厚い。
しかしアスターナ機は急旋回して閃光の嵐を紙一重でかわした。なかなか良い動きだ。キャンセラーも効いている。ブーストで前進した六堂機がショルダーキャノンを撒き散らし、その隙にA班の後方を飛ぶB班が突入した。エンジンフルスロットル。
「どいてろ‥‥俺の道だ!」
セージが吼えた。音速を超えて加速し、攻撃で薄くなった箇所から入り竜達の隙間を潜り抜けてゆく。周囲から黒と白の閃光が視界を埋め尽くすが如く雨あられと降り注いだ。セージ機は上昇しながら回避してゆく。他のB班の面々もまたブースト機動で各機閃光を回避、あるいは直撃を受けながらも耐え、竜の壁を突破してゆく。
「――B班全機突破!」
叢雲が言った。空が晴れる。
六機のKVは竜の壁を潜り抜けた。彼方にビッグフィッシュの巨体が見える。BFの直衛に残っていた十数のHWが動いた。抜けて来たB班を迎撃せんと迫る。
B班の先頭を飛ぶのは鹿島機F‐108改モーニング・スパロー、赤のディアブロに対し前方より群がるヘルメットワームが淡紅色の閃光を爆裂させる。光の帯が雨となって襲いかかった。
鹿島 綾(
gb4549)はジェット噴射ノズル核を操作し、機体を前進させながら横に滑らせる。ベクタード・スラスト。風防越しに白い空気の断層が見えた気がした。
身を抑えつけるようにかかるGに耐えつつ機体をロールさせる。紅の光の嵐がディアブロの付近を貫いて後方へと抜けてゆく。かわした。速い。
追随する五機のKV。そちらへもプトロン砲が飛ぶが、全機かまわずにBF目指して突っ込む。不知火機、叢雲機、フォル機にプロトン砲が命中し、装甲が削れた。
XF‐08D改雷電搭乗フォル=アヴィン、プロトン砲に撃たれつつも距離六〇〇から複数のサイトにBF三機を納める――視界に入って来た適当な敵でなくBFを主に狙う以上、五つを全て納めるのは少し厳しいか。三隻の巨船をロックした時点で発射ボタンに指を叩きつける。五〇〇発のK‐02小型誘導弾が飛びだした。
「ベータ3、フォックス3!」
「ベータ5、フォックス3!」
ヨネモト機DH‐179黄泉もまたほぼ同時に一〇〇発のミサイルを撃ち放っていた。I‐01「パンテオン」 だ。五〇〇と一〇〇の炎と雷を秘めた鋼の獣達は巨魚の群れへと喰らいつき、次々に爆裂と電撃の嵐を巻き起こし始めた。BFの装甲が削られてゆく。
「では、手始めに――ド派手な花火でも落とすとするか!」
快速一番、鹿島機はパニッシュメントフォースを発動させ、Gプラズマ弾を準備しビッグフィッシュの艦橋をめざし迫る。Gプラズマ弾とはG放電装置を改造し対地攻撃用の投下型爆弾に仕立てた物だ。着弾点から周囲一〇〇メートル範囲を焼き尽くす。
今回、相手は地上の静止物でなく数百メートルの巨体とはいえ高速で空を飛行している物体だ。当てるには接近する必要がある。
対空砲を掻い潜って肉薄。交差ざまGプラズマ弾を投下する。プラズマ弾は見事艦橋付近の装甲に命中し、爆発と共に爆雷を解き放った。ビッグフィッシュと鹿島機自身が猛烈な放電に呑み込まれる。激しく明滅する電撃の嵐にBFの装甲が吹き飛び、鹿島機自身も装甲を少し焦がした。なかなか豪快な戦法だ。
「各機は火力を集中!」
叢雲が言いつつ127mmロケット弾ランチャーをビッグフィッシュへと撃ち放つ。
「さて‥‥お前達。楽に通れると思うなよ‥‥」
誘導弾を追いかけるように飛んだセージ機もまた射程に入った瞬間に誘導弾を撃ち放っていた。不知火機はG放電装置を用いて電撃を叩き込む。
「特大の銛をくらえ〜〜〜」
低高度から上昇して機首を向け、ハルトマン機がビッグフィッシュへと迫る。BFの損傷箇所を狙って長距離ASM「トライデント」を撃ち放つ。六発の高威力の誘導弾が炸裂した。
各機からの集中攻撃を受けているBFだが、まだ落ちなかった。
(「くっ!! 思っていたよりも硬いのです」)
ハルトマンは胸中で呟きつつ反転して螺旋誘導弾を撃ち放つ。爆発が巻き起こる。後一押しか。
「弱いところをつけば‥‥こちらの火力でも十分な計算です」
音影一葉は低空から愛機ディスタンを螺旋の軌道を描いて上昇させるとBFをロックオンしドゥオーモを撃ち放った。百発の小型ミサイルが噴出し、炸裂。激しく明滅する電撃を撒き散らす。艦橋へと直撃を受けたBFは爆発を起こしながら高度を下げてゆく。音影はそれでも手を休めずに攻撃しつづけた。さらなる爆裂が巻き起こりビッグフィッシュが弾ける。撃墜だ。
藤田機は海へと向かって墜落してゆくBFの動向を観察した。BF撃墜後の事態に備えるつもりのようだ。
「ロジーナの本領はCOIN機役よ」
女は言いつつ燃え盛る艦から海へと投げ出されているキメラ達が着水する前に弾幕を張って撃ち抜いてゆく。不破は低空域に向かい来ている飛竜へと誘導弾を連射して撃墜した。
A班、竜の群れへと突っ込んだ六堂機、三六〇度ほぼ全てが敵だが、後背にアスターナ機がつけている。十分な機動性があれば、空戦においては正面と後方以外からの攻撃は、相当タイミングが合わない限り、基本的には命中率は低下する。陸とは違う。後背をアスターナ機がカバーしてくれるとなれば、意識の大部分を向けるべきは正面方向であるが、これだけ数があり、攻撃も厚ければ他の方向からの攻撃もまったく当たらぬ訳でもない。
「苦手なんスけどね‥‥一応避ける努力はしないとな!」
黒竜と白竜から吐き出される黒と白の閃光を旋回してかわしながら六堂はスタビライザーを継続しショルダーキャノンとスラスターライフルを撒き散らした。アスターナ機は六堂機の後方に回り込もうとする飛竜を弾幕を張って牽制し、集積砲を叩き込む。翼を撃ち抜かれた白竜がまた一匹、海へと堕ちていった。アスターナ機の後背へとつけた白と黒の三匹の飛竜が閃光を撒き散らしたがイビルアイズはロールしながらピッチアップし螺旋を描く軌道で回避した。
ラシード機アズラーイール、正面、風防越しに飛竜の群れが迫り来ているのが見えた。計器に目をやりロックオンキャンセラーを発動。竜の口の付近が白と黒に閃く。
「青い竜で、相手してあげれば、良かった‥‥?」
そんな事を呟きつつも操縦桿を倒している。視界が半回転すると同時に、身体に強烈な負荷がかかり、景色が高速で流れてゆく、ブレイク、急旋回。ほぼ同時にアズラーイールの付近の空を黒と白に輝く帯が断裂した。イビルアイズは隙間を掻い潜るようにして回避してゆく。進路上に見える飛竜の機動を牽制するように誘導弾を撃ち放った。
オルランド機サイファー、正面より飛竜が迫り来る。パネルを操作してフィールドコーティングを発動。スロットルレバーを操作してエンジンを最大に入れ旋回。大回りにターンして攻撃を回避する。これだけ敵が入れば回り込む必要性も薄い。方向を何処に転じても敵がいる。オルランドは目につく端からレティクルに納めるとロケット弾ランチャーの発射ボタンを押しこむ。砲弾が音速を超えて飛びだし、飛竜達を爆砕してゆく。
クラリッサ機はアウトレンジに構えて飛び、こちらもロケット弾ランチャーで猛攻をかけている。飛竜がまた一匹爆砕されて海面へと堕ちて行った。
依神機天鳥はマイクロブーストを発動させてる。押しつけるようにかかるGに堪えつつ急加速。飛竜達の猛攻を回避しながら突き抜けてゆく。BFへと砲火を集中させているB班、鹿島機へと攻撃を仕掛けている三機のHWのうち一機へと狙いを定め迫る。旋回軌道を読んで小回りに回り込む。後背取った。間髪入れず帯電粒子加速砲を撃ち放つ。爆裂する閃光がHWの装甲を穿ち貫いた。傷口から激しい漏電が起こる。瞬後、HWは爆裂を巻き起こして四散した。撃墜。
「邪魔者は俺が。真琴さんはそのままデカブツの撃破を!」
B班、フォル=アヴィンは言いつつ翻り、不知火機を追いまわしている二機のHWのうち一機の後背へと捻り込む。機体が回転し海と空との位置が入れ替わってゆく。風圧に翼が軋む音が聞こえた。赤く輝き彼方を高速で飛ぶカブトガニ、ガンサイトに合わせる、レティクル入った、今。レバーを握り込むと同時にヘビーガトリング砲が焔を吹いた。猛烈な勢いで弾丸が飛び出しHWへと向かってゆく。激しい火花がHWの装甲から巻き上がる。幾つかは貫通してその装甲を抉った。HWが即座に赤く輝き加速して翻る。フォルはジェット噴射ノズル核を操作すると機体をスライドさせつつロールしHWを追尾する。
(「逃がすかッ!」)
レティクルより上下左右に揺れるHWの機体に喰らいつき、動きを予測して操縦桿に備えられた発射ボタンを叩きつけるように押し込む。瞬間、音速を超えて巨弾が雷電より撃ち放たれHWを粉砕した。HWは爆発を巻き起こし焔に包まれながら冬の海へと落下してゆく。撃破。
不知火機は二機のHWに追い回されていたが、フォル機によって一機が翻った瞬間を捉え、攻撃に転じていた。それでも一機ついている。後背からプロトン砲が猛射され、光が風防のすぐ脇を掠めて空間を灼き貫いてゆく。不知火はマイクロブーストを発動させて加速すると翻り、ビッグフィッシュへと機首を向けた。サイトに幅数百メートルの魚を連想させるシルェットの巨艦を納める。そうそう外す相手ではないが、簡単に墜とせる相手でもない。狙うべきは艦橋か。レティクルが赤く変わる。瞬間、攻撃ボタンを押し込んだ。
「ベータ1、フォックス!」
爆発音と共に百発の小型誘導弾がロビンより解き放たれる。ミサイルの群れはBFに次々に着弾すると電撃を撒き散らし始めた。I‐01「ドゥオーモ」だ。不知火機はさらに艦橋を狙うべく突っ込む。BFの対空フェザー砲が閃光を爆裂させた。紫色の光線が次々にロビンに命中し、その装甲を削り取ってゆく。激しく揺れ、明滅するコクピットの中、歯を喰いしばって突き進む。不知火は閃光の嵐を突き破ってBFの巨体に肉薄すると、すれ違いざまに艦橋へとレーザーカノンを叩き込んだ。蒼い光がBFの装甲を削り取ってゆく。
叢雲機レイヴンも三機のHWからの猛攻を受けていたが旋回してビッグフィッシュへと向き直る。
「ここは行き止まりですよ」
機体能力を全開にするとBFへと向き直り、DR‐2荷電粒子砲を撃ち放った。爆裂する光の槍がビッグフィッシュへと突き刺さりその装甲を溶解して消し飛ばしてゆく。
二機のHWに追われている鹿島機、構わずパニッシュメントフォースを発動させBFへと誘導弾を撃ち放ちスラスターライフルで弾丸を叩き込んで攻撃を続行している。猛烈な手数と破壊力の前にBFの装甲が次々に穿たれてゆく。鹿島機は後背から襲いかかる爆光を旋回してかわし、BFからの対空砲火を避けつつその巨体の側面に入って射線を切る。
「どれだけの風穴を開ければ落ちるのかな? 試してやるよ」
一度後方へと抜けてから宙返りして方向を転換、ビッグフィッシュの後背へとつける。その装甲の損傷部へと照準を合わせた。大分ボロボロになっている。狙いを絞りトリガーを引く。ディアブロの砲門に光が集まり、次の瞬間、爆音と共に猛烈な勢いで巨大な閃光波が解き放たれた。M‐12強化型帯電粒子加速砲だ。
ヨネモト機もビッグフィシュへと攻撃を仕掛けている。スラスターライフルでを撒き散らしながら接近。襲い来る対空砲に対してはぎりぎりまで引きつけてから回避せんとする。光の嵐がアヌビスの装甲をかすめていった。撃ちつつ巨艦に接近して剣翼で斬りつけを狙う。セージ機シュテルンはビッグフィッシュの上空より急降下しながらスラスターライフルを撒き散らしている。ハルトマン機ナイトウィッチはトライデントを二連射し、螺旋誘導弾を撃ち放つ。音影機はブーストを点火しアフターバーナーを吹かして弧を描いて接近すると、95mm対空砲エニセイで以って砲弾を叩き込んだ。
巨大な光の帯が巨艦へと襲いかかり、四方から銃弾の雨が降り注ぎ、ミサイルが突き刺さってゆく。弾幕が装甲を穿ち、誘導弾が爆裂を巻き起こし、M‐12強化型帯電粒子加速砲から放たれた猛烈な破壊力を秘めた光がビッグフィッシュへと突き刺さってその深部までを一気に貫いた。
次の瞬間、BFの巨体後部から爆発の嵐が巻き起こる。黒煙を吹き上げながらビッグフィッシュは高度を下げてゆき、やがてエネルギー炉にでも引火したのか、周囲一体を真っ赤に染め上げる程の爆発を巻き起こして四散した。大気が震えている。
リン・アスターナ機はロックオンキャンセラーを発動させ周囲に群がる竜からのブレスをかわしざまマシンガンで弾幕を張り集積砲を撃ち放って六堂機を狙う飛竜を撃墜する。六堂は機体能力を全開にしつつショルダーキャノンとスラスターライフルで二匹の竜を粉砕した。
「落ちろ、落ちろ落ちろ落ちろ!」
ラシード・アル・ラハルもまたガンサイトに飛竜の後ろ姿を納めると集積砲をリロードしつつ連射してその翼を粉砕する。鮮血を撒き散らし断末魔の咆哮をあげながら白竜が錐揉むように落下していった。
オルランドは高速で大回りに旋回して竜達のブレスをかわしつつG放電装置を用いて電撃の腕を伸ばし竜を捉えると高分子レーザーを撃ち放って撃墜した。クラリッサもまた高速AAMを三連射して竜を破砕している。
依神機とフォル機は共にHWを追い、それぞれ集積砲とガトリング砲、高分子レーザーと小型帯電粒子加速砲を猛射してそれぞれ一機を撃墜した。
群がって来た竜のブレスとHWのプロトン砲をかわしつつ不知火機はレーザーカノンで、叢雲機はアハトアハトで、それぞれビッグフッシュへとレーザーを放つ。鹿島機はスラスターライフルで弾幕を張り、ヨネモト機はソードウィングで斬りつけた。セージ機はスラスター、ショルダーキャノン、レーザーカノンと複数の兵装を発射している。ハルトマン機は誘導弾とトライデントを撃ち放ち、音影機は95mm対空砲で砲弾を飛ばした。
ビッグフィッシュの周囲に舞う七機のKVから蒼い閃光、銃弾、砲弾、誘導弾が炸裂して爆裂を巻き起こし、アヌビスの翼が巨艦の装甲を叩き斬った。集中攻撃を受けて船は爆裂を巻き起こしながら沈んでゆく。撃墜だ。海へと堕ちてゆく途中に放出されたキメラを藤田機が撃ち抜いてゆく。
「BF全機撃墜! 撤退しましょう!」
叢雲が無線に言って翻る。
「不可だ! このまま放置したら杵築市の制空に影響するッ!!」
不破が吼えた。BF撃退が第一だが、残りの敵を放置して良いという訳はない。
「この戦力ならやれる! 残敵を撃退するぞ!」
その指令を受けて傭兵達は翻り、竜とHW、合わせて未だ数十が舞う空で戦い続けた。
やがてキメラの群れを殲滅し、生き残りのHWが退却してゆく中、傭兵達の元に親バグア軍が退却を開始したとの報が届く。
地上の旅団は杵築市を制圧しついにこれを奪還せしめたのだった。
(「宇佐、杵築……兜ヶ崎に辿り着くのは何時のことになるのかしら、ね?」)
赤く染まった空を飛び右手に見える夕陽を眺めながらリン・アスターナは胸中でそう呟いたのだった。
了