●リプレイ本文
「狼狩りが巨人狩りになるなんて、こんなんありゃしませんぜ! おまけに時間は無いと来てる!」
翠の肥満(
ga2348)が黒のサングラスを光らせ抗議の声をあげた。
「そうね。貴方の言う通り。だから無理強いはできないね」
チャイナドレス姿の荘胡蝶は無表情で頷く。
「なら申し訳ない、僕はここで失礼――したらお金貰えませんよね?」
少女はクスリと笑った。
「そりゃあ勿論ネ。戦わない報酬ゼロね。これ当然ヨ」
その返答に諸々不詳の男は苦虫を噛み潰したような顔をし、
「むむう、やるしかないのか‥‥」
と呟いた。
それに皇 千糸(
ga0843)が言った。
「でもそれなら、それなりの用意は欲しいわ。胡蝶さん、5分以内に建物を爆破するに足る爆弾を用意できますか?」
「五分以内‥‥は申し訳ないけどちょっと無理ネ」
「他に何かで‥‥大型のマンホール‥‥拡張できます?」
クロード(
ga0179)が落とし穴でゴーレムを落としたいとの旨を告げる。
「それも厳しいアルー、街を壊す色々問題あるアルヨ。止むを得ずならともかく、意図的にとなると。結局壊れる同じでも頭固い連中多いネ」
「つまり、生身で正面からやるしかない、と?」
天上院・ロンド(
ga0185)が確認するように尋ねた。
荘胡蝶はそれに頷く。
「中々厳しいリクエストだが‥‥やるしかあるまい」
白鐘剣一郎(
ga0184)が言った。
「でも地図と連絡手段くらいはいただけますよね?」
とファットマン。
「それくらいなら用意できるね。陳!」
「はっ」
胡蝶の隣にいた黒服が動く。
かくてゴーレムに生身で立ち向かう為の作戦が開始された。
●ゴーレムを止めろ!
傭兵達は急ぎ避難する人の流れを縫ってメインストリートを北へと向かう。
「キメラ退治に来た筈が随分と大物になっちゃったわね、今回のターゲット」
駆けながら皇が嘆息混じりに言った。
「はは、まさか生身で相手をすることになるとは‥予想もしませんでしたよ。だが‥‥望むところです」
天上院が苦笑まじりに言う。
「私もまさか生身でとはねぇ、でも負けられないわ」
とナレイン・フェルド(
ga0506)。
一同が数分を駆け、周囲からは人の姿が消えた頃、視界の彼方に青い影が見えた。
「‥‥来ましたよ!」
ファットマンが警戒を促し、前衛は通りに、後衛は通りを外れた家屋の陰へと散開する。
「‥‥私達がここで退けば、犠牲になる人が沢山いる。必ず‥‥止めて見せます」
シエラ(
ga3258) は淡々とした口調の中にも強い意志を滲ませ、イグニートを地面に突き刺し、フロスティアを構える。
他の面々も抜刀し、それぞれの得物を構え、ゴーレムを待ち受ける。
道に立ちふさがる面々を察知したか、ゴーレムが加速する。見る見るうちに距離を詰め、100mほどまで接近するとその肩に備えた砲身から砲弾を撃ち放った。狙いはナレイン・フェルド。
合計三発の砲弾がナレインに向かって飛来し、コンクリートの地面を爆砕し爆風と破片をまき散らす。
ナレインは咄嗟に転がるようにして路地に飛び込み、かろうじて直撃をかわしていたが、
「ちょ‥‥距離があったからかわせたけど、当たったらただじゃすまないわよねこれっ」
しかし距離を詰めない限りはどうにもならない。近接組はもちろんのこと、スナイパーの射程よりもあちらの方が長い。
「行くしかないですね」
月詠を携え、鳴神 伊織(
ga0421)が言う。行くしかないのだ。
ゴーレムの砲身から再び砲弾が放たれる。爆風が巻き起こる中を一同は走った。
●人間VS鉄巨人
砲弾の爆風に吹き飛ばされて木の葉のように人が舞った。
クロードの身体がアスファルトの地面に叩きつけられる。爆熱が身を焦がし、飛び散る破片が肌を切り裂いた。だが彼女は血を流しつつもすぐに立ち上がりゴーレムに向かって走り出す。日頃の鍛練の賜物だろう。砲の威力は強大だが、そう簡単にはやられない。
傭兵達との距離が詰まるとゴーレムはディフェンダーに良く似たバグア式の長剣を引き抜いた。長大な鉄塊を振り上げ地響きをあげて突進する。
(「効いてくれればいいんですけどね‥‥」)
隠密潜行を用いて進んでいた天上院は群立する家屋の陰から突進するゴーレムへと狙いを定め、ペイント弾が装填されたスナイパーライフルを発砲した。
目を狙って放たれた弾丸はしかし、頭部側面に命中した。塗料がゴーレムの側頭部を染める。
ファットマンや皇もペイント弾を放つが、命中はすれども、突進するゴーレムが相手では狙い通りピンポイントで目には着弾させられない。
ゴーレムがの巨体が唸りをあげて迫り、鉄柱のごときディフェンダーがシエラ向かって振るわれる。
シエラは瞬天速を発動させて逃れようとするが、その力が発揮されるより前に鉄塊が叩き込まれる。槍で受けながそうと試みるも圧倒的なパワーの前に吹き飛ばされ、家屋に激突した。
そのゴーレムの迫力は七mという実際よりも立ち向かう者達には遥かに大きく見えた。
クロードは怯む心を殺して鉄巨人の後背に回り込み、練力を刀に乗せて突きかからんとする。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
蛍火の切っ先をゴーレムの関節部、左の膝裏に突き込む。鈍い手応えが返ってきた。ゴーレムの膝裏に僅かな傷がついたが致命傷には遠い。
「なるほど、これは堅い‥‥が、やってみる価値はあるか!」
しかし他の一同もクロードに合わせ一斉に膝部分へと集中的に攻撃を開始していた。白鐘が刀を振いながら仲間を鼓舞するように叫ぶ。僅かな傷も手数が増えれば僅かではなくなる。前衛組は攻撃を左膝の一点に集中させ徐々に徐々にその装甲を削ってゆく。
「ふっ!」
鋭く呼気を発し鳴神がナイフをゴーレムの巨木のような関節に滑り込ませ飛び退いた。ゴーレムが動き、その重量の前にナイフが砕け散る。
ゴーレムは垂直に天空へと跳躍し、重力を無視した動きで地上からの射撃を回避し、さらに体勢を変え肩の砲門を大地へと向けた。
頭上より砲弾が降り注いで爆裂し前衛組を吹き飛ばす。
街を燃やし大地を揺るがしてゴーレムが地に降り立つ。
倒れる仲間達から注意をひこうとナレイン・フェルドがゴーレムの眼前に躍り出た。ゴーレムがそれを薙ぎ払おうと剣を振り上げる。その瞬間にナレインは反応し即座にバックステップして距離を取る。攻撃を捨てて全力防御の構えだ。鉄塊が横薙ぎに繰り出されたがナレインはギリギリ髪一重で回避する。即座に間合いを外した事が功を奏した。
その間にシエラが起き上がり駆けだしていた。輪を描くようにゴーレムの左手に回り込み、遠心力を乗せた一撃を膝裏に叩き込む。今度はゴーレムの反撃が来るよりも前に瞬天速を発動させて後方へと退く。
「頼むから通じてくれよ‥‥」
一方で、緑の肥満ことファットマンは家屋の陰で「とっときの一発!」と匠の技で書き込まれた貫通弾に軽く口づけし祈りを込めていた。それを素早く装填し、スナイパーライフルの銃口をゴーレムへと向ける。
(「よーし、そのままだ‥‥行けッ!」)
前衛と激しい攻防を繰り広げているゴーレムの機動を予測し発砲。回転するライフル弾がゴーレムの左膝に見事に叩き込まれる。甲高い音が鳴り響いた。弾丸は弾かれたが、その装甲を確かに削っていた。効果ありだ。
ファットマンは一撃を叩き込むとすぐに場所を移し、ゴーレムに察知されぬよう動く。
翠の肥満と同じくスナイパーである皇は平屋の屋根の上に登り射撃に有利な場所を確保していた。射線を確保し、タイミングを計ってゴーレムの砲口内部を狙い撃つ。
しかし激しく機動するゴーレム相手に針の穴を通すような狙撃は至難だった。惜しくも狙いがそれ、外殻に当たって弾き飛ばされる。
砲口を狙う事は諦め、ダメージが蓄積されている左膝めがけて連射する。徐々に徐々に、ゴーレムの装甲を削ってゆく。
だがその攻撃にゴーレムが反応した。無機質な両眼が平屋の上に立つ皇の姿を捉える。肩の砲口が旋回し、反撃の砲弾を撃ち放った。
咄嗟に皇は飛び退いたが飛来した砲弾がその足元で爆発し、爆砕し、猛烈な爆風と破片の嵐が彼女を包み込み吹き飛ばす。
皇は数瞬後に地面に激突し、よろけながらも起き上がる。肩口から鮮血が溢れ出し、みるみるうちにその身を赤く染めてゆく。
「‥‥全く、ホントに、ハード、ね」
額に汗を浮かべ、苦痛に呻きながら家屋の陰に回り込みライフルに弾丸を装填する。まだ倒れる訳にはいかない。
(「ダメージを与える事が出来ずとも、足止め位なら‥‥!」)
三人目のスナイパー、天上院ロンドは隠密潜行で位置を変えながらゴーレムの左膝を狙って射撃を繰り返していた。一同が与えたダメージにさらに重ねるように弾丸を浴びせ、すぐに隠密潜行で姿を消す。
そんな折、紅蓮の輝きが巻き起こった。
激闘が続く中、白鐘剣一郎が勝負に出た。太刀を構えて立ち上がり、練力を全開に振り絞り覚醒状態をさらに高めんとエミタのリミッター解除を試みる。
狙うは紅蓮衝撃の四倍重ね。灼熱の輝きがその手に持つ月詠へと集まってゆく。
――が、やはり無理があった。どうやっても通常以上にはエネルギーが集まらない。
やむをえず白銀剣一郎は重ねかけは諦め通常の白怒火で斬りかかった。それでも紅蓮衝撃、豪破斬撃、急所突きの重ね技である。軽いものではない。振り下ろされた真紅の太刀はゴーレムの膝に炸裂しその装甲を強烈に打った。
同時に鳴神伊織が起き上がりその身に纏う輝きを青から真紅へと変えていた。
「この一刀が今持てる力の全てです‥‥!」
裂帛の気合と共に飛び込み白鐘の逆サイドから紅蓮の太刀を振るう。刀身に集められたエネルギーが一点に集中し、インパクトの瞬間に猛烈な衝撃を発生させた。これまでの戦闘でダメージを蓄積させていたゴーレムの間接から鈍い音が響き渡り、その巨体が揺らぐ。
瞬間、ゴーレムは垂直に跳びあがり、さらに重力を無視した動きで後方へと飛んだ。
鉄の巨人は地に降り立つと無機質な両眼で傭兵達をしばし見据え、次の瞬間、踵を返しKVがそうするようにエネルギーを吹かして北の方角へと去っていった。