タイトル:【ODNK】蒼海の夢にマスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/17 22:02

●オープニング本文


 薄暗い地下室。
「ひひひヒャッハァ! ひひひヒャッハァッ!」
 耳障りな笑い声が響いている。少女は試験管の内側でそれを聞いていた。
 今は何時なのだろう。そんな事を思う。時間の感覚が失われていた。
 脳裏に浮かぶのは、美しい、美しい、九州の南海に浮かぶ美しい島。真珠が特産だった。穏やかな島だった、記憶の彼方にあるものは。あの島の蒼海は、今も輝いているのだろうか。
 島を離れたのは昨日な気もするし、十年も昔のように思えた。自らの身は歳を経る事がなくなった――外見上は、だが――自分は既に何歳になったのだろう? 解らない。
「よぉ、ミサキ、御機嫌はいかガ?」
 白衣に身を包んだ男が彼女の前までやってきて、コンコンと試験管の表面を叩いた。ミサキは眼を逸らして身を縮こまらせる。今度は何をされるのだろう。
 男の名はヴァイナモイネン。親バグアの科学者だ。人を改造して兵器と成すのを好む。女もまたあちこちをいじりまわされていた。
「オマエの島、だけどサァ、ヘマやってくれたみたいゼよ」
 その言葉にミサキは目を見開き男の顔を見る。男は口端をつりあげ、狂気の色に瞳をギラギラと輝かせていた。この男は、何をするか解らない。
「我輩の実験に協力してくれるカラ? 生かしておいてやったけド? 供給ルートもケーサツやらUPCやらに取り押さえられてオジャン、ダ。あのナダヤスとか言うのも、所詮は若造だったて事かネ」
 クククククッ! と狂気の科学者は嗤う。
――島は、島の皆は、どうか見逃して。
 ミサキは試験管に内側から張りつき視線で懇願する。
「解ってる、解ってるぜよぉ〜? お前の言いたい事は? まぁね? だが我輩がそれを聞きいれる理由なんてないよナ? 素材を提供しつづける間は見逃す、って約束だったシィ?」
 眉根をよせて、顔を歪めてヴァイナモイネン。
――そんな!
 がぼっと空気がもれ、水溶液の中を気泡が昇りつめて行く。
「でもぉ? なんかねぇ、ちょっと今、我輩達、面白くない状況に? あってねぇ? キタバタケだかムラカミだか忘れたが、そんな奴が率いてる軍が暴れててねぇ、大変目ざわりなんぜよ」
 科学者は言った。
「ミサキィィィィ? 我輩の珠玉の芸術品よぉ、我輩の言いたい事、解るよナァ?」
――島を、島の皆を守りたいのならば。
「コロセ、ツブシテコイ、プチットナ」
 文字通り首を持ってくればなおよし、とヴァイナモイネンはそう言った。


 二〇〇九年、末、日本国九州、大分県日出町を解放し勢いに乗る村上顕家旅団は余勢を駆って北へと駒を進め、杵築市への攻略へと乗り出した。
 旅団の進撃により、砲火を交えながらも均衡状態にあった街は瞬く間に沸騰し、鋼と炎が支配する激戦の空間へと変貌している。冬の蒼空に竜の群れが舞い、地には鬼の大群が吠え声をあげる爆炎が轟く前線、ここは、地獄の一丁目。
「戦況はどうですか?」
 激しく交錯している無線。大型の指揮車両の中でモニタを睨んでいる男達が居た。副官たるその男は旅団の司令官である村上顕家にそう問いかけた。
「‥‥ぬらりとしてやがるな」
 村上はモニタを睨みながら言った。空から車両のすぐ傍に、巨大な竜の死骸が墜落し鮮血をぶちまけつつアスファルトを爆砕した。付近の若い士官が悲鳴をあげる。上空では不破真治率いるKV大隊が戦っている。空はどうやら優勢のようだ。しかし、
「大佐、ここは危険です。車両を後退させてみては?」
「どいつも、こいつも、皆、同じ事ばかりを言いやがるなオイ」
「部下でありますので。職務上、一応は言わなきゃならんでしょう」
「道理だな」
 コツコツと車体を指で叩きモニタを睨みながら村上。ジャミングが厳しいこの地では、これ以上後退したら全体を指揮できない事を村上は嫌という程知っている。
「いけますかね?」
「このまま行けば勝てる。だが、妙だな、手ごたえが無さ過ぎる。連中、何かを待っているのか、何かを狙っているのか、それともその両方か‥‥いずれにせよ、まだ戦力を残しているな。もう一山ありそうだ」
 ディスプレイに映し出されている戦線を睨みつつ村上顕家はそう呟いた。


 劣勢の戦場。百戦錬磨のUPC軍旅団は猛火を浴びせかけ親バグアの師団を徐々に徐々に、しかし確実に押し込めて来ている。
 だが、その時、北の洋上より飛行キメラの大部隊が南下し、UPC空軍の一部が北へと飛んだ。
「手薄になりましたね」
 巨大な鉄巨人――タロスの、頭部があるべき場所に下半身を埋め込んだ女が静かに呟いた。長い黒髪と白い肌を持つ、上半身に軍服を着込んだ美しい女だ。ミサキである。赤紫のタロスとその身を連結し操っている。ヴァイナモイネンが開発した鋼と肉の混ぜられた生体兵器。赤紫のタロスは右手に爆槍を持ち左手に大楯を持っている。
「好機です」
 ミサキは言った。空は残存の航空戦力を抑えるのに手一杯だろう。上から割り込まれる可能性は低い。
「これより戦線を突破し、敵の司令部を直撃します」
 背後に並ぶ紺碧のゴーレム達に向かって言う。
 人を埋め込んだタロスに率いられ、鉄巨人の群れが動き出す。
 島を守る為に、討ち取らねばならない。UPCの旅団の長、村上顕家大佐を。
――必ず、殺す。殺さねば、ならない。島の未来の為に。
 ミサキは決死の決意を固め、紫赤のタロスを走らせた。


「大佐ぁッ! 東の戦線が突破されます!」
 悲鳴まじりの無線が指揮車両内の村上顕家の元に届けられた。赤紫のタロスに率いられた一団の勢いは凄まじく、あっという間に旅団の前線を突き破って、なおも司令部めがけて一直線に前進中だという。
「――仕掛けてきやがったな」
 村上顕家は死んだ魚のような目でモニタを睨み呟く。
「大佐! セリカ隊を降下させて迎撃に!」
 副官が言った。
「空の抑えを割けるかよ。全体が崩れぞ。予備の第六を投入して東の穴をふさげ。突っ込んで来てる奴には第二KV傭兵隊を当てろ」
「しかし、それでは予備戦力の全てを使い果たしてしまう事に、せめて後退しましょう!」
「ここで退けるか。正念場だ」
 村上顕家はそう言った。
「傭兵の連中なら止める。それで駄目なら、俺の悪運もここまでだったって事だ」

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
カタリーナ・フィリオ(gb6086
29歳・♀・GD
琉歌(gb6791
10歳・♀・ST
桜庭 結希(gb9405
18歳・♀・SF

●リプレイ本文

 戦場。それぞれの想いと利害、信念が激突する場所。
 水理 和奏(ga1500)は思う。彼女が大好きな麓みゆり(ga2049)はUPCの人達の助けになりたいと言った。
(「僕も同じ気持ち‥‥みゆりさんも顕家さんも皆も‥‥守るっ!」)
 水理は青い髪を頭の後ろで掻きあげまとめると、麓みゆりからもらったハンカチで決意と共に結いあげた。
 司令部からの命を受けて十五機のKVが東へと走る。
「少数精鋭による一点突破‥‥ですか」
 鳴神 伊織(ga0421)が呟いた。
「良いタイミングでの突撃ですな」飯島 修司(ga7951)は敵勢を指してそう評した「機を見るに敏、と評すべきでしょうが‥‥されど、私どもも易々と抜かれる訳には参りません」
「はい、ここを抜かれたら後がありません」
 頷いて夕凪 春花(ga3152)。敵も繰り出して来ているのは精鋭だろう。頼みとする戦力同士の激突。敗れた側は存亡の危機に立つ。
「ふん、敵さん、アタマ狙って一発で場をひっくり返すつもりか? そう簡単にコトが運ぶと思ったら大間違いだって事を教えてやろうぜ」
 不敵に笑ってアッシュ・リーゲン(ga3804)。
「そうでね。逆にここを凌げれば‥‥また一歩敵の喉元に近付けそうです」
 と鳴神。敗北すれば窮地に立つが、勝利すれば一気に流れを引き寄せられるだろう。
「でも総大将が討ち取られたらお終いだってこと、もう少し理解してほしいものですわ」
 指揮範囲から下がろうとしない村上の態度にカタリーナ・フィリオ(gb6086)が嘆息した。なかなか心臓に悪い戦いだ。そんな言葉を交わしつつ傭兵達は迎撃地点へと急ぐ。
「毎度毎度、新鋭機に乗り換えると早々に激戦に繰り出してる気がするわね」
 MX‐0グラーネに搭乗する雪野 氷冥(ga0216)が言った。
「俺ァ、こうゴツい陸戦は久しぶりでありますな。鈍ってなけりゃァ良いが」
 と稲葉 徹二(ga0163)。愛機はXN‐01改Xeroだ。傭兵達はX座標付近に到着すると、班を三つに分けて展開した。方向的には二つ。主道上付近に正面班とタロス対応班が展開し、やや離れた位置に横撃班が展開する。
「ま、重力波のせいでバレバレだろうが‥‥意識してくれりゃ正面がヤリ易くなるだろう」
 主道付近の脇道に入って横撃班のアッシュ・リーゲン。
「敵機接近中、数は‥‥」
 雪野は敵の数に注意した。
(「自身を囮に伏兵を忍ばせるって言うのも考えられるわけだからね。こっちは1機でも通したら、アウトなんだし」)
 そんな事を考えつつレーダーを確認。モニタに断滅する光点は八、もうすぐそこまで来ている。かなりの速度。全て一丸となって来ているようだ。
「八機、全て来るわね」
 雪野の言葉に傭兵達は各々武装を構え、東の道路の彼方を睨み据える。カーヴの陰から巨人の集団が現れた。先頭を走る赤紫の頭部の部分には、確かに人間の女が下半身から埋め込まれているのが見えた。
「なんて酷い事を‥‥っ!」
 その光景に御崎緋音(ga8646)は顔色を変えて叫んだ。
「交戦を開始する」
 時任 絃也(ga0983)の冷静な声が響いた。ガンサイトをタロス頭部の女に合わせレバーを引き絞る。時任機R‐01が備える機銃から猛烈な勢いで弾丸が飛び出した。
(「躊躇するのが普通なのかもしれんが、狙わせてもらう、南無さん」)
 どう考えても装甲は機体よりも厚くない筈である。銃弾の雨が唸りをあげて飛んだ。
 しかしタロスは素早く大楯を構えた。銃弾が盾に激突し悉く弾き飛ばされる。背からバーニアを吹かせて加速し、盾を構えたまま滑るように突っ込んで来る。時任は目標を転じタロス左右の後方から続くゴーレムへも満遍なく長距離バルカンで射撃する。だが、やはり構えた大楯に遮られた。ゴーレムの一団は大楯を持つ者を固めて並べ、それを遮蔽として後方から盾無しのゴーレムが続いているようだった。
(「並大抵の攻撃では通せそうもない、か。厄介なものを持ち出したものだ」)
 時任は目を細め胸中で呟く。防御力よりも火力が圧倒的に勝るバグア来襲前の近代戦において、密集する事は自殺行為であったがこれだけ頑強な盾を持ち得ているとなるとまた話は変わってくる。古代の重装歩兵さながらである。時任機は弾幕を継続する。射程二〇〇。
「ここを抜けさせる訳にはいかぬ! 貴様等にはここで大人しく倒れて貰おう」
 榊兵衛(ga0388)が言って雷電の肩より長大なキャノン砲を伸ばす。狙いはタロス。XF‐08D改忠勝の肩から伸びる全長8mのキャノン砲から爆音と共に焔が吹きあげ巨大な砲弾が飛んでゆく。夕凪機CD‐016シュテルンもまた試作型クロムライフルを構えて射撃を仕掛けた。狙いは盾持ちのゴーレム。
 バルカンの弾幕の中、アサルトライフルの銃弾が飛び、砲弾が命中して爆裂を巻き起こした。タロスとゴーレムは大楯を構えて平然と突っ込んで来る。飛んだ。
 ゴーレム達は一斉に上空へと舞い上がると背からバーニアを吹かし、横撃班が位置する方向とは反対の方向へと弧を描くようにして飛んだ。タロスはそのまま地上を猛然と走る。盾持ちのゴーレムは空中から正面班と横撃班の位置を捉え真横を見せぬようにして間合いを詰め、両手持ちのプラズマランチャーを持つゴーレムはそのまま空から道路上のKVへと向けて爆光を撃ち降ろす。
 飯島機は正面よりタロスを迎え撃つように道路上を装輪走行で走りだす。水理機PM‐J8アンジェリカもまたタロスへと向かった。
 鳴神機は空を舞う盾持ちゴーレムへとスラスターライフルを向け弾幕を張る。
(「あっちの方が射程が長い。近寄って来る道理はネェな」)
 稲葉徹二は胸中で呟く。ランチャーゴーレムを狙いたい。ビルの陰に隠れていても一方的に撃たれてジリ貧だ。稲葉機はブーストを点火すると駆け脇道から空へと飛びあがる。背からバーニアを吹かして飛び、ゴーレムへと向かう。アッシュ機Mk‐4Dリアノン、ランチャーゴーレムを後方から狙いたいが、それをやるには射程が足りない。アッシュ機もまたアリスシステムを発動をさせると盾を構え、宙へと跳躍した。バーニアを吹かし稲葉機の後方につけ空を駆ける。
 ヒューイ・焔(ga8434)はハヤブサを操って長距離バルカンの砲口を宙へと向けさせると、ランチャー持ちのゴーレムを狙ってトリガーを引いた。
 麓機もまたプラズマライフルを取り回し宙のランチャーゴレームへと爆光を撃ち放つ。
 御崎機はブーストを点火させ超電導アクチュエータを発動させた。
 雪野機は空へとスナイパーライフルを向けランチャーゴーレムをガンサイトに納め発砲。
 桜庭 結希(gb9405)が操る破曉はゴーレムの側面を取るべく跳躍すると主道を横切り建物を越え、背の高いビルの陰を目指し飛ぶ。
 カタリーナ機は徹甲散弾で攻撃を仕掛けたいが射程は100m、レンジ外。接近したい所だがゼカリアは回避性能に著しく劣る、後方に控えたい。緩慢に前に出て集中打を受ければ恐らく一瞬で沈む。攻めるか守るか。盾持ちが前に出て来るまで待つが良策と判断。待機。
 琉歌(gb6791)が搭乗するLM‐04改リッジウェイは付近のビルの屋上へと跳び上がった。
 銃弾の雨と閃光が地上から空へと撃ち放たれ、空から十六連の爆光が降り注ぐ。鳴神機からの弾幕に対しゴーレムは大楯を翳して受ける。激しい火花が散った。ランチャーゴーレムから向かい来る猛烈なプラズマエネルギー波に対し鳴神機はハイディフェンダーをかざして防御する。四本の閃光を次々に剣で切り払った。しかし光の余波で装甲が痛んでゆく。損傷率一割八分。
 ヒューイ機G‐43改白魔から飛んだ四十発の弾丸は、宙を横に滑るランチャーゴーレムの身に次々に突き刺さった。火花を巻き起こして装甲を穿たれてゆく。かなりの打撃力だ。
(「‥‥来たっ!」)
 水理機の斜め側方上空より四連の閃光が飛来する。全力を以って回避せんとする、被害は最小限に食い止めたい。唸りをあげて飛来した光が襲いかかる。速い。猛烈なプラズマエネルギー波がアンジェリカの身に次々に突き刺さり強烈な破壊力を撒き散らした。アンジェリカの肩が胴がバターのように焼き斬られて大爆発が巻き起こる。損傷率九割八分。大破寸前。
 麓機GFA‐01ルキアから飛んだプラズマの弾丸に対し宙を翔けるゴーレムは滑るようにようにして回避してゆく。麓は五発がかわされた段階で当たらないと判断、ビルの陰へと愛機を飛ばした。回り込むようにして間合いを詰めに入る。脳内にかなり機敏な戦闘ロジックを持っているようだ。
 飯島機は速方上空より飛来する四連の閃光をタロスへと駆けながらスライドして回避する。タロスへとレーザー砲を向けると牽制の一射を撃ち放った。鋭い一撃が飛ぶ。タロスはスライドするようにして紙一重で回避する。
(「――速い!」)
 飯島が胸中で唸る。タロスはかわしつつ槍を構えて突っ込んで来る。距離が詰る。ディアブロもまた爆槍を構えディフェンダーを抜き放った。
 御崎機、XF‐08D改ヘルヴォルへも四連の爆光が降り注いだ。御崎、ある程度読んでる。能力を全開にしている機体で跳躍し、かわした。その余勢を駆ってブースト機動で宙を駆け、タロスへとスラスターライフルを撃ち降ろす。槍を構えていたタロスは急機動で盾を引きあげてガードする。猛烈な勢いで弾丸が盾を叩き火花が散った。飯島機が加速し、ブーストを点火した水理機が側面に回り込むように弧を描く。
 雪野機から放たれたライフル弾に対しランチャーゴーレムは素早く機動して回避。雪野はその間に間合いを詰めている。
 迫り来る稲葉機に対し三機の盾持ちゴーレムは手に持つプロトンライフルを向け連射。十二連の淡紅色の閃光を爆裂させた。
「しゃらくせぇ!」
 稲葉機ナイチンゲール、ブーストとハイマニューバを全開にしている。バーニアを吹かして宙を一気に駆け抜け襲い来る光の嵐を次々に掻い潜って回避してゆく。煙幕を使うまでもない、余裕だ。ランチャーゴーレムへと向け、宙で振りかぶりざまハンマーボールを投擲した。同様に宙を駆けるアッシュ機もまたアリスシステムを発動させるとランチャーゴーレムへと間合いを詰めレーザー砲を解き放った。蒼い閃光の嵐が飛ぶ。
 鋭く放たれた鉄球がランチャーゴーレムを捉えた。四回ヒット。猛烈な破壊力にゴーレムの装甲が砕かれ、次の瞬間レーザーが突き刺さって爆裂した。爆発を巻き起こしながら青のゴーレムが大地へと堕ちてゆく。撃破。
 宙を前進してきている盾持ちゴーレムに対しカタリーナ・フィリオがゼカリアの砲門を向けていた。
「大盾といえ、全ての子弾を防ぐ事は不可能じゃなくって?」
 主砲から散弾が解き放たれ宙のゴーレムを包みこむように舞った。ゴーレムは咄嗟に大楯を構えたが、ゼカリアの散弾は盾を回り込んでその奥の機体に激突し被害を撒き散らした。カタリーナは20mmの射程内に捉えるべく前進する。
 琉歌機リッジウェイは盾持ちゴーレムへと90mm連装機関砲で猛射をかけている。宙のゴーレムは盾をかざして弾幕を受け止める。
 桜庭機。ランチャーゴーレムの撃破を優先させたい所だが、射程的に突っ込む必要がある。隙を見逃すよりは琉歌機の援護をした方が良いか?
「こっから先は通行止め! 迂回路も通行止め!!」
 付近のビルの屋上に着地しゴーレムの側面へと回った桜庭はKVの両手を宙へと向けさせて叫んだ。
「必殺! バニシングゥゥゥゥゥナッコォォォォォォオ!!」
 HF‐031Exスーパーヨウヘイガーの両手が半ばから断裂し勢い良く飛び出した。有線式のナックルが空を裂いて飛ぶ。側面より迫り来る拳に対しゴーレムはライフルの銃底を振るって一つを撃墜し、一発を脇腹に受けた。轟音が鳴り響き、宙のゴーレムが傾ぐ。
 VSタロス班。飯島機は轟音を巻きあげて踏み込むと盾の隙間、足元を狙って右手に持つ爆槍を突き出した。タロスは素早く反応し盾の縁を大地に叩きつけるようにして受け止める。穂先が盾の表面を滑り宙で爆発を巻き起こしてアスファルトを砕く。
(「ボロボロだけど‥‥まだ動く! 全てを叩き込むなら、今っ!!」)
 ブースト機動でタロスの側面を取った水理機はSESエンハンサーを発動させ、必殺のわかな粒子砲ことM‐12帯電粒子加速砲を構えた。火花を散らすコクピットの中、レティクルに飯島と打ち合っている赤紫のタロスを納める。タロス頭部にある女はその美しかったであろう顔に夜叉の如き形相を浮かべてディアブロを睨んでいる。敵も必死だ。水理よりも飯島の方に注意が向いている。
(「この人の必死さ‥‥何かを守りたいって気持ちを感じる‥‥でも僕も同じだから‥‥悪いけど止めてみせるっ!」)
 ターゲット、インサイト、ロック、レバーを握り込む。唸りをあげて光の粒子が砲口に収束してゆく、エネルギー充填100パーセント。間髪入れず発射ボタンを叩き込んだ。猛烈な爆音と共に荷電粒子の閃光が飛び出す。スタビライザーを発動させ連射。二連の光波がタロスへと迫った。
 その瞬間、タロスの女は視界の隅の端に映る光に気づいたようだった。しかし時既に遅し迫り来た粒子の嵐はタロスを呑み込んでその破壊力を撒き散らした。装甲が勢い良く削れて行く。効いている。水理機はブーストで加速して粒子を追いかけるようにして飛び込んだ。金属の筒を振り上げ、長大な光の刃を出現させる。蒼のレーザーブレード雪村だ。裂帛の気合と共にトドメを刺すべくタロスの胴を狙って突きかかった。しかし、タロスは赤く輝くと慣性を無視した動きで後方へとスライドする。蒼刃が空を貫く。
(「――はずした!」)
 閃光が走った。タロスの持つ槍が空を断裂し、その途中に在ったアンジェリカを薙ぎ払った。轟音と共に水理機は吹き飛ばされ、胴から真っ二つに割られ、破片を撒き散らしながらビルに叩きつけられる。猛烈な爆発を巻き起こし、動かなくなった。大破。
 槍が振るわれた隙を狙って飯島機はブーストとパニッシュメントフォースを発動。アスファルトを爆砕しながら踏み込みロンゴミニアトを突きこむ。タロスは盾で穂先を弾き飛ばした。飯島機は一気に懐に飛び込まんと踏み込む。タロスは後退しつつカウンターの突きを繰り出す。飯島、読んでる。真紅のディアブロはハイ・ディフェンダーを振るって穂先を叩き落とした。
(「重い‥‥ですな」)
 攻撃を捌くディアブロの左腕が悲鳴をあげている。損傷率一割七分。恐ろしく頑健だ。並のKVなら一連の攻防で吹き飛んでいるが、しかし飯島機もまた並ではない。
 懐に入った飯島機。槍の間合いではない。ハイディフェンダーを振りかざしてタロスの右肩を狙って斬りつける。閃光の如き斬撃を、しかしタロスは素早く盾をあげてがっしりと受け止めた。轟音と共に火花が巻き起こる。
(「水理、やられたのか」)
 視界の隅の爆裂。時任絃也、そんな言葉が脳裏をかすめた。時任機R‐01は盾持ちゴーレムへと向かって駆け宙へと跳んだ。盾とバスタードソードを構え、背からバーニアを噴出し空を突き進む。夕凪機もまた同様に空へと跳び、光を背から噴出して飛ぶ。榊機は槍と盾を構え装輪走行でタロスへと走りだした。
 鳴神機は盾持ちへとスラスラーライフルとレーザーカノンを向け実弾と閃光を織り交ぜて攻撃する。
 稲葉機はランチャーゴーレムへとハンマーボールを投擲。
 ヒューイは宙で激しく機動するゴーレムの姿をガンサイトから逃す捉え続け、長距離バルカンで射撃を継続している。
(「わかなちゃん‥‥!」)
 レーダーから反応が消えている。麓みゆり、最悪の事態が脳裏をよぎる。が、今は戦闘中だ。能力者は簡単には死なない。それを信じる。麓機GFA‐01ルキア、ブーストを発動させ低空でビルの陰を飛びゴーレム達の後背に回り込んでいる。超電導アクチュエータを発動させた。全力攻撃の構えだ。
 御崎機は飯島機と交戦中のタロスの側方へと降り立つ。盾は飯島機相手に使っているようだが動きが速い。確実にいけるならドリルで接近戦を仕掛けたい所だが、確実に当てられるかどうかとなると疑問だ。相手の動きが恐ろしく速い。迂闊に飛びこめば爆槍の餌食となるだろう。御崎はスラスターライフルを構え、側面から足元を狙って射撃した。
 アッシュ機はハンマーボールを追いかけるようにランチャーゴーレムへと突っ込む。
 雪野機、ゴーレムの動きを見据える。敵が武器を換装する瞬間を狙ってブーストで突っ込みたい所だが、今の所敵は武器を持ちかえるような気配を見せない。ロンゴミニアトを構え通常の飛行で接近する。
 バニシングナックルを引き戻した桜庭機は再び宙へと両腕を向け、裂帛の気合と共に鉄拳を空へと撃ち放つ。
 カタリーナ機は420mm滑空砲を空へと向けて構え敵の防御が疎かになるのを待つ。
 琉歌機は盾持ちゴーレムへと向けて機関砲で弾幕を継続した。
 ゴーレム達は射撃の構えだ。それぞれプロトンライフルとプラズマランチャーを用いて爆光を撃ち放つ。銃弾と光が激しく交錯した。
 盾持ちゴーレム、鳴神機からの銃弾とレーザーを大楯をかざして受け止める。カタリーナ機がその瞬間を狙い澄まして420mm主砲を猛射した。カタリーナ機へと先に攻撃を受けた別の盾ゴーレムがプロトンライフルを撃ち降ろした。淡紅色光線砲がエスペランサを直撃し、その装甲を勢いよく消し飛ばしてゆく。損傷率二割八分。
 稲葉機から飛んだハンマーボールがランチャーゴーレムに激突し、轟音と共にその装甲を破壊しながら吹き飛ばした。二機のランチャーゴーレムから放たれた爆光を稲葉機は宙で急上昇してかわす。アッシュ機リアノンに向けて盾持ちゴーレムの一機がプロトンライフルを猛射した。アッシュ機は盾を翳して受け止める。猛烈な爆光がロビンの装甲を消し飛ばしてゆく。損傷率五割二分。
 ヒューイ機から放たれている弾丸はキャノンゴーレムを追い続けて装甲を破砕してゆき、ついにはその頭部を撃ち抜いて激しい漏電を巻き起こさせた。ヒューイへと反撃のプラズマエネルギー波を放ちつつもゴーレムは爆発を巻き起こして力を失い墜落してゆく。撃破だ。ヒューイ機白魔は降り注いだ四連の閃光を上体を傾けてかわし、後退してかわし、スライドしてかわし、跳躍して回避した。たいした運動性だ。
 御崎機からの射撃、タロスは赤く輝きながら飛び退り、その弾幕を回避しつつ間合いを離す。さらに飯島機の側面へと回り込むように動き、彼のディアブロをスクリーンに御崎機からの射撃の盾にせんとする。飯島はそれを察知すると飛び退き、後退しつつレーザー砲で射撃を繰り出した。タロスは盾を構えて閃光を突き破ると間合いを詰め豪槍を繰り出す。飯島機はディフェンダーでそれを打ち払った。機体が激しく軋む。損傷率五割。あまり長くは持ちそうにない。一方のタロスは水理機から受けた傷が徐々にだが確実に癒えてきていた。
 盾ゴーレムは赤く輝いて機動すると琉歌機から放たれている弾幕を振り切り、桜庭機より放たれた鉄拳を盾で打ち払う。お返しとばかりに桜庭機へと向けてプロトンライフルを撃ち降ろした。桜庭機破曉はビルの陰へと転がり落ちるように飛びこみ爆光を回避する。落下途中で宙でバーニアを吹かして姿勢を制御し、ゴーレムの側面を再び狙わんとする。
 カタリーナ機から飛んだ砲撃が、鳴神の弾幕を受けていた盾ゴーレムへと炸裂して空に盛大な爆炎の華を咲かせた。ゴーレム、盾で間一髪ガードしている。健在だ。時任機が宙を駆け爆炎未だ収まらぬ中へとデモンズ・オブ・ラウンドで斬りかかった。ゴーレムはやはりこれも素早く盾を翳して受け止める。轟音と共に盛大な火花が散った。ゴーレムの背後、下方からシラヌイが出現した。ブースト機動で背後をとった麓機は上昇様に突き抜けつつ機刀「陽光」で切り上げた。閃光が走り、盾ゴーレムの背から火花が散る。入った。すかさず時任機はバーニアを切ると片手半剣を叩きつける。ゴーレムは赤く輝きこれを盾で受け止める。
(「このまま敵の体勢を崩せば‥‥っ!」)
 ゴーレムの頭上へと出た麓機もまたバーニアを切ると、落下しつつ回転しながら機刀を振るってゴーレムの背へと斬撃を浴びせる。ゴーレムは赤く輝き素早くスライドして辛くも回避した。その盾にワイヤーが絡みついている。時任機が密かに放ったスパークワイヤーだ。時任は左腕でワイヤーをひいて盾を下げさせつつ機体を引き寄せるとアグレッシヴ・ファングを発動、右の長剣を水平に一閃させた。ゴーレムの装甲が猛烈な勢いで削り取られてゆく。ゴーレムは盾を手放し、時任機を蹴り飛ばして脱出した。瞬後、閃光の嵐が迫り来てその身を撃ち抜いて行った。夕凪機のレーザーカノンだ。穿たれた箇所から激しい漏電を起こしゴーレムは爆裂を巻き起こして四散した。撃破だ。
「クリムゾン、イグニション!」
 閃光を突き破ってアッシュが吼え練剣「白雪」を発動させた。稲葉機のハンマーを受けて吹き飛んでいるランチャーゴーレムへとブーストとマイクロブーストを併発させて彗星の如くに突っ込むと、交差様、光の短剣で薙ぎ切った。ゴーレムの身が断裂し、リアノンの後方で爆裂が巻き起こる。撃破。
 雪野機グラーネはバーニアを吹かして空を駆け、両手でランチャーを構えるゴーレムへと突っ込むと、より重要なのは右腕と判断しそれを狙って爆槍ロンゴミニアトを繰り出した。ゴーレムは赤く輝いて加速、空でスライドして雪野機の突撃をかわす。雪野は突撃の勢いのまま突き抜け、旋回して向き直った。ゴーレムはランチャーを背に納めレーザーブレードを抜き放つ。タイマンを張るには少し厳しい相手か。雪野はゴーレムを横目に旋回しながら、突撃する隙を狙う。
 装輪走行で飯島機と御崎機と交戦するタロスの元へと接近した榊はタロスの頭部に埋め込まれている女の表情を視界に捉えていた。
「貴様にどのような理由が有ろうとも、任務を全うする為にはここで倒れて貰うしかないのでな」
 超伝導アクチュエータを発動、爆槍ロンゴミニアトを旋回させ突っ込む。
「恨みに思うなよ」
 言いつつ轟音を鳴らしながら雷電を踏み込ませ裂帛の槍撃を放つ。タロスは赤く輝きながら槍で打ち払って槍撃を回避する。
「私は、負ける訳には、いかないのです!」
 タロスの女が吼えた。女の瞳の奥に緑の火が燃えている。
「それはこちらも同じ事!」
 兵衛は一喝を返すと機体を操り槍を流星の如くに繰り出させる。高速で繰り出される連撃をタロスは盾で受け止める。槍の穂先が滑って宙で爆裂を巻き起こした。飯島機は再度パニッシュメント・フォースを発動させるとブーストを点火して側面へと回り込み、神速の突きを繰り出す。タロスは一歩後退して回避。ディアブロが懐へと突っ込む。タロスは薙ぎ払うように爆槍を繰り出す。飯島機はさらに加速して突っ込んだ。柄がディアブロの脇腹を強打し、轟音と共に装甲がひしゃげる。飯島機はよろめきながらも袈裟にハイディフェンダーを振るった。タロスは上体をスウェーして回避する。瞬間、その機体を猛烈な衝撃が背から胴へと突き抜ける。背後に回り込んだ御崎機がアクチュエーター起動してツインドリルで猛撃を仕掛けていた。甲高い唸りをあげて螺旋の切っ先がタロスの装甲を抉り取ってゆく。
 榊は吼え声をあげて槍を繰り出した。ロンゴミニアトがタロスの胴へと突き刺さり、貫通してその機体内で爆炎を巻き起こす。タロスの胴が半ばから弾けて金属と肉片が飛び散った。
「わたしは‥‥っ!」
 女が叫ぶ。タロスはよろめきながらも、それでも周囲を薙ぎ払わんと槍を振りかぶる。だがそれよりも早く、飯島機が落雷の如くに振り下ろしたハイ・ディフェンダーが女の身ごとタロスに食い込み、その半ばまでを断裂させていた。
 稲葉機はブーストで宙を駆けつつ雪野機とやりあっているゴーレムへとハンマーボールを投擲した。唸りをあげて迫り来る鉄球に対し、ゴーレムは赤く輝きなんとしてもかわさんとスライドする。直撃した。猛烈な打撃力を受け、破片を撒き散らしながらゴーレムが吹き飛んでゆく。雪野機は機を逃さずブーストを点火して空を駆け、高速で肉薄するとロンゴミニアトをゴーレムの胴へと叩き込んだ。槍に貫かれながらもゴーレムがレーザーブレードを振り上げる。しかし、それが振り下ろされるよりも前に爆炎が巻き起こり、鉄巨人の胴を上下へと真っ二つに両断させた。爆裂を巻き起こしながらゴーレムが墜落してゆく。撃破。
 鳴神機は盾ゴーレムへとライフルを向けると三度弾幕を形成する。さらにヒューイ機からバルカンが飛び、夕凪機からレーザー砲が飛び、麓機からプラズマライフルが飛んだ。四方からの射撃に対してはさしもの大楯も全てを防ぎきれず、蜂の巣にされて爆散した。撃破。
 最後に残ったゴーレムも、やはり宙で姿勢を立てなおした時任機から機銃の猛射を受け、アッシュ機からレーザーを受け、桜庭機から鉄拳を受け、琉歌から機関砲を受け、しまいにはカタリーナ機ゼカリアから420mmの主砲を叩き込まれて大爆発を巻き起こして四散した。


 かくて、十五機の傭兵隊は赤紫のタロスが率いるゴーレム隊を撃退し、旅団の司令部は陥落を免れた。空で勝利し、陸で勝利した村上旅団は親バグアの軍勢を杵築市から叩きだし、同市を地球人類の手へと取り戻したのだった。市にはUPC軍の旗が夕陽の中に翻っている。
「島、を‥‥島の、皆を、守り、たかったの、です‥‥」
 身の半ばを断ち切られてもその女は息があった。しかしタロスは既に砕けて散り、女の瞳からも光が消えようとしていた。
 タロスの女はミサキと名乗った。九尾桐島と呼ばれる九州の南海に浮かぶ島の出身らしい。その島はヴァイナモイネンという名の親バグア派の科学者と取引し、毎年素材として人を差し出す代わりにキメラの襲撃対象から見逃されていたそうだ。ミサキはその差し出された人間の一人であるという。しかし09年の夏、島はULTや県警の手入れを受けて、親バグア派との取引、密輸などの実態が暴かれ、村長のナダヤスは逮捕。当然ヴァイナモイネンへの素材提供も消滅した。約束は破られたとしてヴァイナモイネンは島の襲撃をミサキに仄めかし、今回の戦に駆り立てたのだという。
「非道な科学者‥‥バグアも人もさして変わりませんわね」
 話を聞いてカタリーナが嘆息して言った。
(「ミサキって私の苗字と一緒‥‥」)
 御崎は胸中で呟いた。なんだか、他人事とは思えなくなってしまう。御崎は彼女を救いたいと思ったが、改造された人間とはいえ不死ではなく、手の施しようは最早なかった。
「良い、のです‥‥いずれにせよ、敗北すれば、死は免れられなかったでしょう、から‥‥」
 それよりも、もし出来るならば、島を頼むとミサキは言った。
「約束はできませんわね。軍を動かす権限なんてありませんから」
 カタリーナ・フィリオは言った。
「ただし能力者として、出来る限りのことは致しますわ」
 その言葉を聞くとミサキは微笑し「ありが、とう」と言って瞳を閉じた。その顔は戦時のそれとは違い、穏やかで美しいものだった。
「みゆりお姉さん‥‥僕、本当は戦うのって好きじゃないの‥‥」
 頭部に包帯を巻いている水理が悲しそうに故郷の為に戦った女の亡骸を見下ろして呟いた。
「でも‥‥頑張っていかなきゃね」
 ぎゅっと腕に抱きついて言う。
 麓みゆりは空を見上げた。赤い赤い空の彼方では、血よりも紅い巨大な星が輝いている。


 了