タイトル:【ODNK】ImitationFireマスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/20 10:50

●オープニング本文


 二〇〇九年、末、日本国九州、大分県日出町を解放し勢いに乗る村上顕家旅団は余勢を駆って北へと駒を進め、杵築市の攻略へと乗り出した。
 旅団の進撃により、砲火を交えながらも均衡状態にあった街は瞬く間に沸騰し、鋼と炎が支配する激戦の空間へと変貌している。冬の蒼空に竜の群れが舞い、地には鬼の大群が吠え声をあげる爆炎が轟く前線、ここは、地獄の一丁目。
「戦況はどうですか?」
 激しく交錯している無線。大型の指揮車両の中でモニタを睨んでいる男達が居た。副官たるその男は旅団の司令官である村上顕家にそう問いかけた。
「‥‥ぬらりとしてやがるな」
 村上はモニタを睨みながら言った。空から車両のすぐ傍に、巨大な竜の死骸が墜落し鮮血をぶちまけつつアスファルトを爆砕した。付近の若い士官が悲鳴をあげる。上空では不破真治率いるKV大隊が戦っている。空はどうやら優勢のようだ。しかし、
「大佐、ここは危険です。車両を後退させてみては?」
「どいつも、こいつも、皆、同じ事ばかりを言いやがるなオイ」
「部下でありますので。職務上、一応は言わなきゃならんでしょう」
「道理だな」
 コツコツと車体を指で叩きモニタを睨みながら村上。ジャミングが厳しいこの地では、これ以上後退したら全体を指揮できない事を村上は嫌という程知っている。
「いけますかね?」
「このまま行けば勝てる。だが、妙だな、手ごたえが無さ過ぎる。連中、何かを待っているのか、何かを狙っているのか、それともその両方か‥‥いずれにせよ、まだ戦力を残しているな。もう一山ありそうだ」
 ディスプレイに映し出されている戦線を睨みつつ村上顕家はそう呟いた。


 106mm無反動砲が業火を謳い、鉄火と肉片が破砕の協奏曲を奏であげる。
「第一は座標Aまで制圧せよ。第二は現地点を堅守。第三、第四は押せ。寄せるなよ。距離を取って火力で爆殺しろ」
 重厚なボディアーマーに身を包んだ筋肉の塊のような男が言った。地上、歩兵中隊を率いるハラザーフ・ホスロー大尉だ。野太い低音が無線に響き渡る。
 旅団の歩兵部隊は大火力の兵器を遠い距離からふんだんに叩き込み、親バグア兵とキメラの群れを吹き飛ばして押してゆく。歩兵一人辺りに対して消費される弾薬の量は他の旅団と比べても突出したものだった。小銃の弾、一発にさえ気をつかっている部隊の兵士からすれば目が回りそうな程の贅沢さであろう。大佐の村上顕家は黒い噂の絶えない男であり――裏組織を強請って資金提供を受けている、上層部の弱みを握って補給を優先させている、など――それが、事実かどうかは定かではないが、そうでもしなければ一大佐の権限ではとても用意できないであろう火力量ではあった。
「うちの大将が暗殺される前に九州を解放しなけりゃならん」
 ある一兵が詳細について尋ねた所、ハラザーフ・ホスローなどは本気とも冗談ともつかぬ口調でそう皮肉気に笑ったものだった。
 豊富な火力量を豊富に歩兵団は押し、親バグアの部隊は後退してゆく。しかし、そんな流れの中にあって後退せずに突出してくる部隊があった。
「こちら第十二歩兵分隊! D道上を前進中の敵勢力、止まりません! 火力支援を請います! 座標は――」
『第二砲兵団、座標了解。砲撃支援する』
 後方に並べられた火砲群が一斉に火を吹き、道路上を周囲のビル群をも巻き込んで、砲弾の嵐を叩き込み、猛烈な爆発を巻き起こした。土砂が舞いあがり巨大なクレーターが出現する。
 やや経ってからまた通信が入る。
「駄目です! 敵戦力止まりません! 無傷ですッ!!」
『――無傷だとっ? 馬鹿な!』
 いかなFFを持つキメラとはいえ、膨大な量の火力を集中して叩き込めば多少の傷は与えられるものなのだ。
「強FFだな」
 ハラザーフ・ホスローが無線に言った。
「そいつにはただのSESでは駄目だ。能力者が使うSESでなければ一切一発も通らん。弾薬の無駄だ、さがれ!」
「了解。第十二歩兵分隊、後退に移ります!」
 ハラザーフは次いで無線を飛ばす。
「傭兵隊、出番だ。D道上を前進中の敵勢力を撃退せよ!」


 D道上、粉塵を突き破りひた走る一団の姿があった。その先頭を走るのは赤い外套に身を包んだ男――男? だろう、恐らく。
 眼光を赤く光らせ、猛然と人外の速度で駆けつつ、プシューっと口から煙を吹き出しながら彼は言った。
「ピピピッ! 我ガ名ハ、ルウェリン・メカ・ハウェル! 我ガ望ミ、コノ世ノ覇王トナル事ナリッ!!」
 彼――機械に性別があればだが――は鬼人と機人達を率い、剣をふりかざして走った。

●参加者一覧

平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
優(ga8480
23歳・♀・DF
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD
黒桐白夜(gb1936
26歳・♂・ST
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER
カンタレラ(gb9927
23歳・♀・ER

●リプレイ本文

 爆炎が轟く戦場。
「敵の速度はどうなってますか?」
 青白い燐光を髪にまとった女が無線で司令部に問いかけた。平坂 桃香(ga1831)だ。
「こちらHQ、ハラザーフだ。D道上の敵戦力は現在座標4637を速度約百で南下中――」
 一同は敵群の速度と位置、移動ルートの情報を確認する。
「了解。至急迎撃に向かいます」
 傭兵達は迎撃の作戦を手早く打ち合わせる。
「獅子座がモデルのメカ‥‥ね」
 アイデアだけなら、お約束的で面白いんだけどなぁ、と呟くのは黒桐白夜(gb1936)だ。ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)からエネルギーキャノンを取りつけたジーザリオを借り受けて搭乗している。
「生身でのこれだけ大規模な戦闘は久しぶりですね。勘が鈍っていなければいいのですが」
 セラ・インフィールド(ga1889)が言った。彼とリュドレイク(ga8720)、レティ・クリムゾン(ga8679)もまた車両を用意していた。傭兵達はそれぞれ四台のジーザリオの席や荷台に飛び乗ると前線へと向けて走り出す。
「派手にやらかしてるわね‥‥」
 ジーザリオの荷台の上、愛梨(gb5765)が周囲の様子を眺めて呟いた。道路上には砲弾が炸裂して破片が散り巨大な凹凸が出現している。周囲のビルには倒壊している物も多い。空にはKVと竜が舞い、あちこちから機関砲があげる銃声や無反動砲が炸裂する音がひっきり無しに響いている。
「状況は芳しくないようだな」
 愛車シザーリオを運転しながらレティ・クリムゾン(ga8679)が言った。無線からはひっきりなしに戦況が報告されている。東の戦線が破られタロス隊が突進してきているらしい、KV隊が迎撃に出たようだが止められるかどうか。他の戦場の動きも激しい。
(「まるで大規模作戦だな」)
 と女は思う。
「良いとは言えませんが‥‥しかし、それはどこも同じです。ここで踏みとどまりましょう」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が言った。シンの言葉にレティは頷くと、
「そうだな。ここが踏ん張り所、だろう。敵は強敵、しかも数も居るようだが、慌てず落ち着いて対処しよう」
「了解」
「いつもと同じ事を、いつもと同じように、だな」
 と藤村 瑠亥(ga3862)。仲間達からの視線を受けると、
「俺の場合、どうせ誰が相手でも、やることはいつもと変わらんのでな」
 二刀の小太刀を見せて男はそう言った。
 傭兵達は第一迎撃候補点まで前進すると脇に車両を止めて散り、周辺の小道に身を隠した。
 B班、平坂とカンタレラ(gb9927)が偵察の為に北へと駆ける。平坂はタクティカルゴーグルの倍率をあげ前方を索敵。身を低くしてビルや残骸などの遮蔽物に身を隠しつつ前進する。動きが常よりかなり鈍い。先日受けた傷が痛んだ。カンタレラが先行する形で進む。ちなみにこちらは裸眼だ。
「敵兵、発見」
 数分を進むと平坂のゴーグルが爆進してくる三体の機人と鬼達の影を捉えた。司令部の予想通りの進路を南下している。
 平坂はカンタレラからの要請に従い、トランシーバーを用いて敵のおおよその速度と、数、おおまかな隊形、迎撃点までの予測到達時間をメンバーに伝えた。報告後、平坂は手近なビルの奥へと向かい、カンタレラは全速で後退する。あちらの方がカンタレラより倍以上速かった。ぐずぐずしていては途中で捕まる。
 報告を受け、B班のメンバーのうちシンと狐月 銀子(gb2552)は付近にある四階建ての小ビルの屋上へと登った。他のメンバーは皆、横道に伏せている。玖堂とリュドレイクはA班よりもやや北方に位置する小道に伏せた。
 それからややしてから、機人達は平坂が隠れているビルを通り抜け、土煙りをあげて猛ダッシュして行った。平坂は無事にやり過ごした旨をメンバーへと報告する。
「何だ、アレは‥‥?」
 ビルの陰に身を伏せ、双眼鏡を突き出して敵影を確認した玖堂 暁恒(ga6985)が言った。
「鬼は兎に角、あの終止者モドキ共は‥‥つくづくクリエーターって人種の、センスは理解出来ねえな‥‥」
 呆れたように呟く。なお終止者には英語変換が必要との事だ。
「見た目はアレですが、機人と言うからには強いのでしょうね」
 探査の眼を発動させて玖堂と共に伏せているリュドレイクが言った。男は右で鬼蛍を抜き放ち、左で拳銃を構える。
「油断はできません、慎重に行きましょう」
「おう」
 カンタレラは機人達の視界に入りそうになったので脇道に逸れた。やや経ってから、ビルを一つ挟んだ隣の道を機人達が駆け抜けてゆく。平坂は後方から追跡を開始している。
 機人が駆けてゆく。徐々に徐々に迎撃点へと距離が詰ってゆく。
(「重力波センサーを搭載してなけりゃ良いんだがな‥‥」)
 玖堂は胸中で呟いた。彼も既に双眼鏡をしまい、ビルの陰に背を預けている。重力波センサーを搭載していれば、どんなに隠れても一発で見破って来る。
(「だが、平坂は見つからなかったな‥‥」)
 搭載していないのか? と思う。ワームはほぼ100パーセント近く搭載しているが、キメラは必ずしもそうではない。機人はキメラをベースに造られているというから、搭載されていないのかもしれない。
 機人達が迫る。四機の機人と四匹の鬼は玖堂とリュドレイクが伏せている横道の脇を気づいたそぶりも見せずに猛スピードで一瞬で駆け去って行った。
「今だ!」
 無線に二条 更紗(gb1862)の声が響いた。
 相対距離 A班の面々が道路上に飛び出した。隠密潜行を発動させ屋上に構えるシン・ブラウ・シュッツはAMRMk‐2Schmerzを縁に設置、ガンサイトに黒鬼の頭部を納める。
「んじゃ、ど派手な開戦と行くわよ〜!」
 狐月は縁をAU−KVの脚部で踏みつけて身を乗り出し竜の瞳を発動させ全長2040mmを超えるエネルギーランチャーを構えると、そんな言葉を発しつつ下方へと向かって撃ち降ろした。猛烈な破壊力を秘めた爆光が黒鬼へと向けて撃ち放たれる。猛烈爆光が黒鬼を呑み込み焼き焦がす。
 シンは練力を全開にしてSchmerzのトリガーを引いた。炸薬が炸裂しサプレッサーが取り付けられた銃口から貫通弾が錐揉むように回転しながら飛び出してゆく。弾道は空を切り裂いて伸び、エネルギー波に撃たれる黒鬼の頭部へと吸い込まれるように呑み込まれていった。次の瞬間、大鬼の頭部に穴があき、血が噴き出し黒焦げになって倒れた。クリティカルヒット。
 道路上に展開したA班の面々は各々火器を構え一斉に猛射する。
「‥‥ここは通さん」
 左手にイアリス、右手に雷光鞭を構えたホアキン・デ・ラ・ロサは右の鉄鞭を振り上げると赤の機人ルウェリンへと向けて電磁波を爆裂させた。鞭から機人へと一直線に光の軌跡が伸びる。セラ・インフィールドもまたSMGスコールを構え、フルオートで赤機人へとその武器の名の通り暴風雨の如き弾幕を展開する。
「ピピッ!」
 赤の機人は電子音を発生させつつ空へと跳躍、光の一閃と弾幕を回避する。ホアキンは間髪入れずに鉄鞭を振るって八条の閃光を爆裂させた。機人はバーニアを噴出させ空中でバックステップするがかわし切れずに電磁波に呑み込まれる。機人は剣を斜めに構え、赤光のフィールドを球状に発生させた。電磁波とフィールドが激しく鬩ぎ合う。
 藤村は深緑の外套に身を包む黄金の髪の女型機人へとエネルギーガンを向け五連射。女は一撃を半身になって回避し、残りを身に受けた。閃光が機人の身を貫き火花を散らす。
「負けるわけにはいかないんだ‥‥人としても‥‥大剣の使い手としても‥‥」
 アリステア・ラムゼイ(gb6304)は斬馬刀の刀身を地につけるように片膝立ての姿勢で敵を見据えている。
 優(ga8480)は鮮青の外套を纏う茶髪の美形機人へと左手に持つ拳銃を向けた。サイトに合わせ反動を抑えつつ発砲、連射。六連の弾丸が唸りをあげて飛びだした。
「模造品・海賊版キメラは‥‥撲滅してあげるわっ!」
 愛梨もまた言ってメカレブエに対しシエルクラインで弾幕を張った。襲い来る拳銃弾と弾幕に対し青の機人はジグザグに動き、爪で払いながらかわして突進してくる。
「最近人型のキメラに縁があるな、特に今回は違った意味で危なそうな敵だが」
 二条は真紅のメカンタへとS‐01小銃を向けると四連射、怒涛の銃声と共に弾丸が飛び出した。真紅の機人は銃弾を身を沈めてかわすと、下段から槍を巻きあげて六連の音速波を撃ち放った。二条は咄嗟に盾をかざすも防ぎきれずにその身の端が勢いよく切り裂かれてゆく。AU−KVの破片が宙に舞い、鮮血が肩や脇腹、腿から噴き上がった。少女の身が吹き飛ばされて地に転がる。強烈な破壊力だ。
 黒桐はマジシャンズロッドをかざし練成治療を発動させた。三連打。二条の身体から傷みが引き、傷口が塞がってゆく。二条は素早く跳ね起きると盾を構えた。
(「強い‥‥?」)
 そんな言葉が少女の脳裏をかすめる。少し三途の河が見えた。
 一方では、
「行くぜ!」
「了解!」
 通路の脇から玖堂とリュドレイクが飛び出している。
「鬼と鬼が喰らい合うか‥‥地獄と呼ぶに相応しいこの場では似合いだな!!」
 玖堂は脚部から淡光を発生させ瞬天速で猛加速すると蛍火を振りかざして襲いかかった。黒鬼の斜め後ろから肉薄し、その膝裏を狙って太刀を一閃させる。鈍い手ごたえと共に刃が鬼の膝裏をかすめきり血飛沫が噴き出す。身を捻り後方へと向き直ろうとしていた鬼は、態勢を崩しつつも玖堂へと大剣を薙ぎ払う。
 玖堂は身を沈ませて紙一重でかわす。風が唸り切断された髪の先が宙に舞った。男は一撃をかわすと再度斬撃を与えた膝を狙って斬りつける。刃が炸裂し、鬼が咆哮をあげつつ転倒した。玖堂はその好機を逃さず、身を霞ませると瞬間移動したが如き速度で黒鬼の背後まで回り込んだ。瞬天速だ。
「素っ首、刈らせて貰うぞ!!」
 練力を全開にすると太刀を振り上げ、転倒している鬼の延髄を狙って落雷の如く蛍火を振り下ろす。刃が鈍い手ごたえと共に首の半ばまで入った。渾身の力を込めて引き斬る。鮮血が噴水のように吹き上がり、鬼がくぐもった声をあげて白眼を剥き息絶えた。
 リュドレイクは背を向けている黒鬼に対し左の拳銃で発砲。放たれた弾丸を追いかけるように鬼へと踏み込んだ。鬼は咄嗟に振り向くも銃弾をかわしきれず、その身を穿たれ鮮血をふきあがらせる。リュドレイクは渾身の力を込めて袈裟に刃を振り下ろす。切っ先が鬼の肩口から入って脇腹へと抜けた。鮮血が吹き上がる。リュドレイクは素早く切り返して連撃。鬼は後退しつつ大剣を立てて刃を受け流す。剛腕を振り上げ三メートルの巨体から落石の如くに大剣を振り下ろした。リュドレイクは鬼蛍をかざして受け止める。鮮やかな火花が散り、猛烈な衝撃が太刀を持つ腕を貫いていった。
「プロトンエッジ!」
 電磁波が収まった次の瞬間に赤機のルウェリンは空で長剣を袈裟に振るった。その軌跡から七本の閃光の矢が次々に噴出してホアキンへと襲いかかる。ホアキンは首をふって一撃をかわし、身を捻ってかわし、三撃目を後退してかわし、四撃目をかわし損ねて直撃を受けた。痛打に身が揺らぎ残りの三発が次々に命中する。
 メカナは閃光を突き破って間合いを詰めると、長大な斬馬刀を竜巻の如くに振り回した。嵐の如き連斬を藤村は上体を逸らして紙一重で避け、横にスライドして軸を外して、バックステップして回避する。速い。
「そう易々と捉えれると思うな‥‥」
 銃を納めて二刀の小太刀を抜き放った。
「斬馬刀はその大きさ故、攻撃モーションは薙ぎ払いか振り下ろし、或いはその逆が殆ど‥‥でも俺は‥‥これだっ!」
 言いつつアリステアが斬馬刀を構えて突っ込んだ。装輪走行で加速し、淡い光をまとったドラグーンが身体全体で突き出すように彗星の如くにチャージする。メカナは右足を引いて半身になると、最小限の動きですり抜けるように突撃を回避した。斬馬刀の切っ先をアリステアの進路上足元に残している。装輪走行は急には止まれない。
 突っ込んだドラグーンの脚部に刃が激突し火花が散った。衝撃にバランスを崩したアリステアの身が宙を舞う。アリステアは斬馬刀を横にしつつ受け身を取り、前転するような形で大地に接した。一回転してその勢いのまま身を跳ね上がらせると宙で身を捻りつつメカナへと向き直って斬馬刀を構え直す。
 メカナは左右の藤村とアリステアの様子を窺うように視線を飛ばす。黄金の髪の女機人は八双に長巻きを構え直した。
 爪のメカレブエは優へと間合いを詰めていた。左右の爪を振りかざして流れるように八連撃を繰り出す。優は月詠をかざして一撃目を受け、二撃目に肩を裂かれ、三撃目を弾き、四撃目を後退しながら切り払い、五撃目を腹に受け、頭部を狙って振り下ろされた六撃目を首を振って避け、足払いを右足に受けて態勢を崩し、八撃目の爪を胸に受けて吹き飛ばされた。
(「なかなか、速い‥‥!」)
 女は足から地面に着地して態勢を立て直す。しかし、手数はあるようだが、他の機人と比較してその一撃は軽いようだった。優の装甲の前には一発で致命傷になるような破壊力ではない。しかし、無傷でいられる程、軽い物でもなく、打たれた箇所が鈍く痛んだ。
(「敵がもし奴らを量産できるのならかなり厳しいですが‥‥ここで確実に破壊しておきたいですね」)
 優は胸中で呟き、青眼に月詠を構えなおした。
 黒鬼は振り返ると突進し、地を揺るがしながら玖堂へと踏み込み黒鬼の首を切断した直後の隙を狙って大剣を横薙ぎに繰り出す。玖堂は咄嗟に蛍火を立てて一撃を受け流すも、続く袈裟斬りを受け止められずに肩から脇腹を切り裂かれた。猛烈な衝撃が身を貫き、鮮血が勢い良く噴出する。
「メカレブエ捕捉。援護する」
 レティ・クリムゾンが言って大口径ガトリング砲を構え爪の機人へと猛射を浴びせかけた。弾幕が機人に炸裂し鮮血と火花を散らしてゆく。
 カンタレラと平坂はダッシュ中。平坂、息が切れる。いつもの快速ならば、機人達ともそう距離を離されずすぐにつく事も可能だったろうが、重傷の為著しく敏捷力が低下している。辿り着くにはかなり時間がかかりそうだ。
 屋上に構えるシン・ブラウ・シュッツ、リロードしつつガンサイトにリュドレイクへと攻撃を仕掛けている黒鬼の頭部を納めんとする。射線は、屋上にいる、相手は体長三メートル、問題ない。黒鬼の頭部、入った。影撃ち、プローンポジションを発動させて猛射。Schmerzが火を吹いた。稲妻の如くに飛び出した弾丸は大鬼の眉間をぶち抜き黒い穴を穿たせた。黒鬼の身が揺らぐ。リュドレイクはすかさず鬼蛍を振り上げると、嵐の如く五連の剣閃を巻き起こして滅多斬りにして黒鬼を鮮血の海へと沈めた。シンは敵の動きを観察しているがまだよく解らない。
 狐月は縁を蹴ると屋上から身を踊らせた。地上四階からアスファルトの大地を爆砕してAU−KVが地に降り立つ。
「この先に栄光はないぞ」
 ホアキンは鉄鞭を納めると剣を構えて前進し宙のルウェリンへと向けて暴風の如き音速波を巻き起こす。機人は赤い光を消すと剣を翳しつつ足先からバーニアを吹かせて突っ込む。迫り来る音速波を剣で切り払うと、そのまま矢の如くにホアキンの顔面へと蹴りを繰り出した。ホアキンはイアリスを掲げて受け止める。鋼靴と剣がぶつかり火花が散った。機人はそのまま宙で身を捻りざま長剣を振り下ろす。額に向かって来た刃をホアキンは首をふってかわす。落雷の如き刃がマドリードの勇士の肩を強打した。衝撃に身が沈む。片足で着地した機人は鞭のように足をしならせ下段蹴りを放った。ホアキンは敵の死角に入るように横にスライドして回り込み回避、牽制するように機人の顔面を狙ってイアリスで薙ぎ払う。機人は素早く後方に飛び退いた。刃が鼻先をかすめて空を切る。セラ・インフィールドは追いかけるように間合いを詰めると、円刃「エインガナ」を赤く輝かせて突撃するように斬りつけた。巨大な戦輪の如き武器だ。輪の中に入って振るう。ルウェリンは跳躍して回避すると、セラへと向けて弧を描くように剣を振り下ろした。刃が男に命中し血飛沫が吹き上がる。ホアキンが至近距離から音速波を放った。ソニックブームが炸裂し機人が後方に吹き飛ばされる。セラは追撃に走ると円刃を回転させて斬りつけた。機人の胴に刃が命中し火花が散る。地に落ちた機人はそのまま回転しセラの足を薙ぎ払った。猛烈な衝撃がセラの足を貫き、風車の如く身が回転して転倒する。ホアキンは間合いを詰めると刃を勢いよく叩きつけた。機人は横転しながら回避し跳ね起き頭上で弓を引くように剣を構えた。セラもまた跳ね起きると円刃を構えた。
 メカナは藤村は組みし難いと見たか同じ斬馬刀を操るアリステアへと踏み込んだ。猛然と長巻きを振り上げ竜巻の如く横薙ぎに振るう。アリステアは斬馬刀を角度をつけて掲げると受け流す。轟音と共に火花が散り、刃が下方へと流れていった。威力の大半は流せたが、それでも猛烈な衝撃がアリステアに襲いかかって来る。まともに受けたら数合も持ちそうにない。
 藤村は剣を振るったメカナへと素早く間合いを詰めると、疾風迅雷の名の如く右の小太刀を稲妻の如く振るった。一撃が機人の外套を切り裂いて入り、鈍い手ごたえを返した。藤村は一撃を与えると素早く飛び退く。無理には仕掛けない。
「斬馬刀は小手先の技術で扱うものじゃない‥‥全身を‥‥剣と成すっ!」
 アリステアは身を捻り、遠心力を斬馬刀に乗せつつ踏み込んで突きかかる。メカナは入り身の要領で横に回るとカタパルトが発射されるかの如くに長柄を振り下ろした。アリステアは素早く大剣を引き戻して頭上に掲げ横に流す。
 レティ・クリムゾンはメカレブエへとガトリング砲で猛射している。弾丸が勢い良く飛び爪の機人の身を穿って行く。
 優は両断剣を発動させると弾丸を追いかけるように爪の機人へと迫り、側面を駆けざまに流し斬りの斬撃を放った。メカレブエは爪を翳して月詠を受け止める。鈍い音と共に火花が巻き起こった。
「そこの優男っ! しょうがないから、あんたの相手してあげるわ‥‥覚悟はいいわね?」
 愛梨は竜の爪を発動させると踏み込み、遠心力を乗せて薙ぎ払った。美形機人は素早くスライドして回避する。
(「ちょこまかと‥‥っ!」)
 薙刀で地面の砂でも跳ね上げたい所だが、生憎下はアスファルトだ。愛梨が繰り出す連撃をメカレブエは入り身の要領でかわしつつ踏み込んで来る。愛梨は竜の翼を発動させると急機動で間合いを外して回避した。優が裂帛の気合と共に踏み込んで月詠を振るって連撃を繰り出す。メカレブエは爪で三撃を受け流すも一撃を袈裟に叩き込まれた。鮮血が吹き上がる。お返しとばかりに左右の爪で十二連の閃光を巻き起こした。優は後退しながら月詠で捌く。
(「全力で‥‥いく!」)
 二条は竜の角を発動させる。鱗も発動させたい所だが、セットされていない、咆哮になっている。赤紫の槍を構え、頭部と腕、脚部からスパークを発生させドラグーンがメカンタを目がけて突っ込んだ。
 真紅のメカンタは流星の如くに槍を突き出した。間合いの外だが、六連の音速波が巻き起こる。音速波の壁が突撃する二条へと迫り、炸裂してドラグーンの少女を再び吹き飛ばした。全身から漏電が洩れて爆発が起こり、AU−KVが動かなくなる。
 黒桐はマジシャンズロッドをかざして練成治療を再び三連打した。二条の傷が急速に癒え、少女は立ち上がると再びスパークを巻き起こしながら突っ込んでゆく。
「刺し穿ち貫け!」
 真紅の機人へと向かって踏み込むと裂帛の気合と共に槍を繰り出す。メカンタは迫り来る穂先に対し槍を交差するように跳ねあげた。槍と槍が激突し、穂先が明後日の方向へと逸らされる。連撃を加えるも真紅のメカンタは素早く槍を操って打ち払い回避した。黒桐の援護があるが、一対一で白兵戦をやるにはかなり厳しい相手だ。援護が無ければ既に倒されている。
「戦闘員相手に必殺技よ。大人しく寝ときなさい!」
 苦戦している様子を見て狐月がエネルギーキャノンを撃ち放った。猛烈なエネルギー波がメカンタを呑み込んで焼き尽くしてゆく。真紅の機人は煙を吹きあげながら飛び退いて閃光から脱出し槍を構え直した。
 玖堂は身を沈ませると黒鬼の膝を狙って蛍火で斬撃を放った。黒鬼は大剣を下げると斬撃を受け止める。巻きあげる様に上へと跳ねあげると落雷の如くに大剣を打ち降ろした。打ち降ろしはある程度読んでる。玖堂は後退しつつ蛍火を掲げて受け流した。踏み込むと、やはり膝を狙って斬撃を放つ。一撃が入って鬼が咆哮をあげた。しかし転倒する程のダメージではない。舌打ちしつつ玖堂は反撃を蛍火で受け流す。猛烈な衝撃が腕を貫いていった。
(「くそっ、雑魚じゃねぇな‥‥!」)
 一匹目は作戦がドンピシャだった為圧倒出来たが、一人で真っ向からやるとなると、なかなかシンドイ敵である。一端飛び退いて追撃を回避する。
 戦場の端に辿り着いたカンタレラは血を流している玖堂の姿を捉えると、莫邪宝剣を翳して練成治療を発動させた。男の身から傷みが引き傷が癒えてゆく。
「範囲内なら視野にいれば届くから、練成治療は便利よね‥‥」
 そんな事を呟く。街の解放も大事だが、何よりも仲間を死なせたくないとカンタレラは思う。平坂は後少し。
 屋上に構えるシン・ブラウ・シュッツ、アンチマテルアルライフルを用いて三度目の狙撃。練力を全開にし、玖堂と斬り合っている黒鬼の頭部をぶち抜く。たいした命中精度だ。玖堂は発生した隙を逃さずショットガンを放って黒鬼の足を破壊すると、転倒した鬼の首に蛍火を叩きつけて両断した。シンが観察する敵の動き。敵は定められたルーチンに従って戦っているような気配がする。指揮は無い。知能のベースは恐らくキメラとさほど変わりはないと見る。
 ルウェリンと斬り合うホアキンとセラ。ルウェリンは切っ先に光を集めると至近距離から猛烈な爆光を解き放った。極大の光のプロトン砲から放たれるそれに良く似た光が切っ先から飛び出す。狙いはセラ・インフィールド。淡紅色の閃光の直撃を受けてセラが吹き飛んだ。すぐに立ち上がるも膝に力が入らず崩れ落ちる。黒桐はマジシャンズロッドを掲げると練成治療を連打した。
(「くそっ、手が足りない」)
 黒桐は胸中で悪態をつく。ホアキンはルウェリンの胸甲の境目を見切ると懐に飛び込み、剣に赤光を宿し練力を解放して三連の刺突を放つ。ルウェリンは長剣で打ち払って一撃を逸らし、二撃目を後退してかわし、三撃目を身を沈めて装甲の厚い部分で受け止めた。ホアキンへと剣の間合いよりもさらに踏み込みと左腕の肘を叩き込み、下段の蹴りを繰り出した。ホアキンは後退して回避。機人が袈裟の斬撃を放つ。ホアキンはイアリスで受け流した。復活したセラが突撃して斬りかかる。機人は素早く後退して回避した。
 藤村は小太刀を構えてメカナへと間合いを詰める。メカナは斬馬刀で薙ぎ払いを繰り出した。男は踏み込みながら地を這うように姿勢を傾斜させ、剣撃を掻い潜る。肉薄すると小太刀で鋭く切り込んだ。メカナの肉体が切り裂かれて鮮血が吹き上がる。藤村が飛び退き、アリステアは隙を狙って装輪で加速し突きかかる。斬馬刀の一撃が女機人の腹に入った。身を切り返し、捻って、遠心力で切っ先を加速させて薙ぎ払う。メカナは斬馬刀の柄でこれを受けながす。藤村は再度踏み込むと小太刀で一撃を与えた。
 優は月詠を振り上げると振り下ろす。メカレブエは素早く後退して回避した。レティがガトリング砲を構えて射撃、蜂の巣にする。機人の身から鮮血が吹き上がった。愛梨は機人の足元を狙って薙刀で薙ぎ払う。長柄の加速された刃がメカレブエの足に炸裂した。メカレブエの身が揺らぐ。優は間合いを詰めると嵐の如く五条の剣閃を巻き起こした。メカレブエは一撃を爪でかわすも残りを受けられずに切り刻まれる。
「これで終わりよっ!」
 再度、愛梨が薙刀でメカレブエの足を薙ぎ払った。機人が衝撃に転倒する。
「さよなら」
 倒れた機人へと向かって愛梨は薙刀を叩きつける。機人は爪で受け止めた。しぶとい。
 狐月はメカンタへと向けてエネルギー波を猛射する。閃光が真紅の機人を呑み込んでその装甲を爆ぜ飛ばしてゆく。二条は踏み込むと裂帛の気合と共に槍を繰り出した。穂先が機人の脇の隙間を突き破ってその奥の肉を貫く。竜の翼で加速して押し込む。メカンタが喉から鮮血を吹きだした。槍を捻って引き抜く。傷口から漏電が起こり、爆裂が巻き起こって真紅の機人が倒れた。
 戦場に辿り着いた平坂は藤村とアリステアと斬り合っているメカナに対して狙いをつけるとガトリング砲で狙撃をかけた。五十発の貫通弾が女機人の後背から襲いかかりその身を貫いてゆく。
 アリステアは装輪走行で突撃し、藤村が練力を全開にして踏み込んだ。斬馬刀の切っ先がメカナの腹を貫通し、神速の小太刀がその喉を掻っ捌いた。深緑の機人は漏電を巻き起こし、次の瞬間爆裂して崩れ落ちた。
 優と愛梨は倒れているメカレブエへと武器を振るって滅多打ちにしてゆく。メカレブエは粘ったが、挽回できる態勢にはなく、そのまま爆裂を巻き起こして沈んだ。
 赤の機人ルウェリン・メカ・ハウェルはそれでも閃光を爆裂させ、宙を駆けて粘ったが、十五対一となっては勝てる余地もなく、ホアキンのソニックで叩き落とされ、傭兵達から集中攻撃を受け、最後にセラの身体ごとぶつかってくるかの如きスマッシュを受けて吹き飛ばされ、その次の瞬間に爆散して大破した。


 かくて十五人の傭兵達によって黄宮十二機将ルウェリン・メカ・ハウェルとその配下の機兵達は撃破され、歩兵団は再度侵攻を開始し、杵築市を占拠している親バグアの兵団を叩きつぶした。
 空で敗北し、陸で敗北したバグア軍は雪崩を打って撤退を開始し、日が沈む頃には杵築市にはUPC軍の旗が翻る事となった。
 杵築市は、解放されたのである。
 宇佐市、日出町、杵築市の二市、一町を解放した村上旅団は大分県全土の解放を目指しさらに歩を進める事となる。


 了