●オープニング本文
前回のリプレイを見る 二〇一〇年、村上旅団は宇佐市、日出町、杵築市、豊後高田市の三市一町までを攻略した。大分県の主要都市で残るは国東市、中津市、日田市の三市。
二月に高田市を陥落させてから足を止めていた村上旅団だったが再びの侵攻が別府基地より促されていた。目標は国東半島に残る最後の都市、国東市。
「しかし、どうにも国東ってのは‥‥攻めづらい土地なんだよナァ」
高田市に置かれた仮の指令室、死んだ魚のような目をしたくたびれた男が一人地図を睨んでぼやいていた。混成旅団長大佐、村上顕家である。
国東半島には山が多い。古代中華の某国の将軍が山に陣取って敗北したというような話もあるが、それは水の手を切られたからであって、近代の極東島国と北方大国との某高地戦しかり、基本力押しで高所に布陣する軍勢を打ち破るのは難しい。要塞化されているとあってはなおさらだ。宇佐市を攻める時も山はあったが味方が半ばまで抑えていた為やりやすくはあった。
「中央の山岳を抑えられりゃ楽ではあるが‥‥いきなりぶっこんでも負けるか」
村上は地図上、高田市の北東と杵築の東にピンを指す。海岸沿いに両翼を伸ばす。
「‥‥山と海から撃たれんな、こりゃ」
村上は高田市北東の213号沿いのピンを外した。大分のバグア軍が所有している巨大戦艦等の海対地への砲撃は凄まじいものがある。山からも砲撃の雨が飛んでくるとなると、北の海から撃たれ東南の山から撃たれ街道の正面に展開する軍から撃たれる。速攻で街道を抜ければあるいはいけるかもしれないが、それをさせてくれる程易い敵でもなく、突破したからといって先があるようには思えない。
東に目を向ける。
「‥‥まだ目はあるかね?」
見立、妙見と黙らせて海沿いに大分空港までを抜く。ただこちらも当然、海からの砲撃が飛んでくるだろう。
「海、山、海‥‥忌々しいなオイ」
村上旅団は制海能力に欠けている。陸なら村上顕家、ハラザーフ・ホスロー、不破真治、他にも諸々居ると強い。空にも不破真治が一人だけで兼ねると少々弱いがやれる者がいる事はいる。だが海戦となると通用するレベルで指揮出来る者が一人もいない。基本が陸軍なのである意味では当然といえば当然なのかもしれないが、今付近に頼れそうな海軍戦力もない。
「必要な戦力が揃ってないので攻めません、といきたいとこだが‥‥」
しかし既に睨み合って約五ヶ月、事態は好転する様子もなく、使える戦力が増える事もなく、むしろ今のうちに陥落させろという要請は増している。
(「やらざるをえない‥‥ってか、あぁ? こりゃ負け戦のパターンだぞ」)
村上は舌打ちして煙草を咥え火をつける。
ゆらゆらと紫煙が流れていった。
●
七月。高田に抑えを残し、杵築へと移動した村上顕家は国東市攻略を掲げて号令をかけた。別府基地からKVが次々に飛び立ち六〇〇〇の兵が杵築から東へと向かい次いで海沿いに北へと登る。
「一発で頭を狙うにゃ国東はちと高さがある」
山岳地帯の要塞を指して村上は言った。
「なんで手足からもいでゆく。じわじわとな。大分空港までを抜く。国東は固めていくが、空港までは一気だ。速攻で潰せ。一秒たりとも無駄にすんなよ」
不破率いる空戦隊が防空部隊を撃破し、百戦錬磨の旅団員達は村上が調達してきた資金――色々黒い噂があるが――にものを言わせた贅沢な装備で立ち塞がる親バグア兵を焼き払い、見立山、妙見山の砲台群を陥落させ怒涛の勢いで街道を北上してゆく。
各所で兵団が激突する中、重厚なボディ・アーマーに身を包む巨漢ハラザーフ・ホスロー率いる精鋭歩兵隊は友軍と共に敵の戦線の一部を突破し旧大分空港のバグア基地へと迫った。砲火の支援を受けながら突入してゆく。
アスファルトの滑走路を渡り携帯火器を撃ち放って敵兵や大口径の砲等を爆破してゆく。UPC兵達は地表部を制圧し、やがてドーム状の司令所の扉へと火砲の嵐を叩き込んでこれを吹き飛ばし、炎と煙が吹き上がる中、間髪入れずに最精鋭の歩兵達が突入してゆく。
太刀を持った狼人が壮絶な爆裂と共に吹き飛ばされ、親バグア兵が蜂の巣にされて血飛沫と共に踊りながら倒れてゆく。司令所には瞬く間に血河が築かれていった。
地上部を制圧。上階も制圧。残るは地下のみ。
「‥‥止まらない、か」
白衣を纏い黒のボディスーツに身を包んだ少年が呟いた。ヴァイナモイネンの助手のイルマリネンである。彼は地下の大ホールにバリケードを数段に築き侵入者達を撃退せんとしていた。
頼みの綱の巨大戦艦は空から襲撃を受けて動きが取れず、赤竜の兵は敵の最精鋭のKV隊と交戦中で同じ動きが取れない。
しかし、
(「鯨が勝てば‥‥赤竜の兵が勝てば‥‥逆転の目はある‥‥」)
そう思考する。
あの超巨大戦艦が敵の空戦隊を破ってこちらへとやってくればその壮絶な破壊力を秘めた巨砲で地上を消し飛ばしてくれる筈だ。赤竜の兵は強い、KVの十機や二十機、軽く葬ってくれるだろう。そうなれば戦局は変わる。
彼等が当面の敵を撃破するまで、持ち堪えられればまだひっくり返す事は可能だ。
「来るならこいって奴ザマスよ」
ガン、とイルマリネンは突撃銃の底で真っ白な床を叩いた。バリケードの陰から人型のサイボーグキメラ達が一斉にホール入口へと向けて小銃を構えた。老若男女、長身の者もいれば、小柄な者もいる。ただ彼等は一様に黒のボディスーツに身を包み、無表情で無機質な光を瞳に浮かべていた。
少年は鋼で出来た左の手首を捻り、具合を確かめつつ、決意を込めて呟く。
「ここは、抜かせない」
地上から軍靴の音が迫り来ていた。
●リプレイ本文
鋼鉄の弾丸と122mm無反動砲が業火を謳い、渦巻く血風が協奏の吼え声をあげるここは北九州の激戦区、地獄の八丁目。天国に最も遠く、最も近い場所。
(「KVの方に出遅れたので、こちらに参加しましたが‥‥周りが有名な手練ばかりな気が‥‥」)
着物姿の女が周囲を見回して、珍しくうろたえてたような表情を微かにうかべている。浮いていないか心配になっているようだ。
その懸念に対して「またご冗談を」と言う言葉を呑み込むくらいには、錚々たるメンバーであった。何処から来たか鬼神ども。LH以外にはないか。
・ハラザーフ中隊隷下歩兵第三傭兵分隊隊員
鳴神 伊織(
ga0421)
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)
終夜・無月(
ga3084)
藤村 瑠亥(
ga3862)
宗太郎=シルエイト(
ga4261)
玖堂 暁恒(
ga6985)
レティ・クリムゾン(
ga8679)
リュドレイク(
ga8720)
米本 剛(
gb0843)
二条 更紗(
gb1862)
霧島 和哉(
gb1893)
美空(
gb1906)
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)
八葉 白雪(
gb2228)
カンタレラ(
gb9927)
以上十五名。上記の通り、SES等の無い戦国時代にそのまま纏めてタイムスリップすれば小国の一つや二つ滅ぼして来そうな凶悪な編成となっている。これに補助でST風宮が加わる。KV隊もそうだったが、強い。文句無しに旅団内最強の歩兵隊だ。
傭兵達はハラザーフ達と共に雪崩れ込み地上部を制圧、指示を受けて地下へと向かう。
薄暗い坂を降りてゆく。やがて斜面の終わりが見えた。ホールだ。敵が待ち構えている事が予想されているという。
「敵の本丸に踏み込む、か‥‥楽には終わらせてはくれんだろうが、見返りは大きい‥‥トチる訳には、行かねえな‥‥」
玖堂が拳銃のマガジンを入れ替え、弾詰まりが無いかを確認してから、金属音を立てロードして言った。
「‥‥殺気が濃い、なぁ‥‥こんなとこに突っ込むのかよ」
金髪の男が言った。シルエイトだ。空気が、張り詰めている。
KV隊から合流したホアキンは双眼鏡で坂上から入口を観察する。見える範囲でも粘糸が床一面に敷き詰められているようだった。蜘蛛キメラが吐き出す糸に似ている。匍匐してホールの中の様子を窺う。バリケードらしき物が見えた。
(「あれは、高田市に居たサイボーグか」)
白衣の少年の姿も見えた。瞬間、弾丸が飛来する。転がって避けた。
(「厳しくなりそうだな‥‥」)
だが、覚悟を決めてやり遂げたい。ホアキンは後退すると偵察の結果を報告する。
「ああ、彼がいるんですか‥‥」
カンタレラが言った。前回血の海に沈めて『くれた』相手だ。断空の風神イルマリネン、大分県を統括する狂った博士の懐刀、ヴの軍最強の強化人間、集まった傭兵達は実力者揃いだが、敵も並ではない。どう転ぶかは戦ってみないと解らないだろう。その結果がこの一連の作戦全体の勝敗を決める。
「粘着床か‥‥相性が悪すぎる」
一方、藤村は報告の一点について嘆いていた。機動を下げる地形は天敵中の天敵だ。
「相手は万全の構え‥‥中々に修羅場ですね」
難度の高い任務と聞いて従軍した米本が言った。
「‥‥厄介な場所ですね」
とリュドレイク。
「確かに。だが過ちだな」
レティが片耳に耳栓を入れながら言った。
「立て篭もりでは強化人間の強みを活かす事は出来ない。人間らしい戦い方では、私達に一日の長がある」
女の予測は当たるかどうか。
傭兵達は除去する為にスブロフを用いて火炎瓶を製作する。蜘蛛キメラの糸はよく燃えるとの報告がなされている。
「――この状況下ならば、敵が閃光手榴弾を使って来ても不思議はない」
ホアキンはそう言ってサングラスをかけた。
「効果ありますかね?」
その防御効果に懐疑的ながらも二条もサングラスをかけてみる。AU‐KVのバイザーの奥というのは、なかなか窮屈そうだ。
一方、空戦隊から合流した美空はメガホン片手に、
「あーあー、お前たちは完全に包囲されているのであります。おとなしく降伏するのであります。本星のお母さんは泣いているぞーなのであります」
と、坂上から降伏勧告をかけていた。バグアに対して一度言ってみたかったらしい。
返事は沈黙。
やる気らしい。
「むぅ、応答なしでありますか」
美空が言った。逆にここで「降伏するぞ!」と言いだしたら吃驚な展開ではあるが、吃驚な展開はなかなか起きないから吃驚であるらしい。
「‥‥突入しかないか」
ホアキンが言った。弾頭矢を腰のベルトに差し込んでおく。シルエイトは弾頭矢を爆槍の穂先に三本程紐で巻き付けた。美空は上手くすれば先に空撃ちを誘えるかもしれないと坂下を降りて近づくふりをしてみる。弾丸だけが飛んで来た。慌てて坂を戻る。凄まじい速度と密度だ。少しAU‐KVの足元が削られた。
「シン君は相変わらずハードな戦場で戦ってるのね」
真白は言って、眼の部分に遮光フィルムを張りつけた般若の面をつける。
「そう、なりますかね」
シン・ブラウ・シュッツ。確かに今現在までの所、こちら担当の戦域では激戦区中の激戦区でよく見る姿だ。デジカメを穴を空けたポケット――とりあえず胸ポケットにしたらしい――内側に固定し、ノートPCの無線を経由して右目の眼鏡レンズへと出力している。暗視スコープヘルメットはポケットに入らないので普通にかぶった。
霧島はカンタレラに危機的状況になるまで自分に治癒はしないで貰うように言っている。
「私はここで待機してれば良いんだな? 準備は良いだろうか?」
カンタレラにジッポを渡しつつ、レティから説明を受けたSTの風宮が言った。危なくなったら後退して治療、という態勢のようだ。一同はその問いに頷く。
「持てる力を尽くしましょう‥‥」
終夜が弓を手に弾頭矢を取り出して言った。
美空、カンタレラはスブロフを坂上から撒き、鳴神、ホアキン、リュドレイク、二条は作成した火炎瓶を投下する。
「酒は安くてハンカチが高かった、地味に痛い、効果なかったら泣くぞ」
覚醒した二条はそんな事を言いつつハンカチとスブロフでつくった火炎瓶にジッポで火をつける。
「盛大に燃えてくれると助かるんだけど」
火炎瓶が糸の上に放られ、転がされ、幾つかは撃ち抜かれたが数が多い、うち一つが糸の上に落ちて火がついた。蜘蛛の粘液よく燃える。一瞬で燃え上がった。四百平方mに敷き詰められた白い糸へとあっという間に燃え広がり、炎の波がうねってゆく。
ホアキンと終夜は弓に矢を番えはっしと射た。弾頭矢が炸裂し、爆風が入り口付近の燃える糸を吹き飛ばしてゆく。
「行くよ‥‥擁霧」
傭兵達が一斉に駆け出した。先頭はAU‐KVに身を包む少年霧島、竜の鱗を発動し装輪走行で一気に坂を駆け降りて炎の海と化しているホールへ突入する。瞬間、猛烈なマズルフラッシュが取り囲むように設置しているバリケードの上から瞬いた。銃声が轟いて、弾丸の嵐が四方から襲いかかる。霧島は右手の盾を翳して正面よりの弾丸を受け、篭手で横手からの急所を防ぐ。集中攻撃。AU‐KVの装甲に弾丸が命中して火花が散った。猛烈な射撃だが、霧島、倒れない。化物じみた耐久力。後続の傭兵達が雪崩れ込む。玖堂が盾を構えて飛びこみ霧島の左側面をカバーしている。弾丸が玖堂の盾、腿、脛、に当たり火花を巻き起こし撃ち抜いて血飛沫を舞わせる。男は番天印を右手に盾の縁の上に乗せ、ホール西南隅の黒髪のサイボーグAを狙って発砲、反撃してゆく。
雪崩れ込んだホアキン、レティ、真白、リュドレイク、美空が次々に射撃を開始し、白衣の少年が阻塞の陰から何かを投擲した。閃光手榴弾。シンが即応しゼーレから光線を飛ばした。光線が宙を駆けホール中央部で榴弾と激突する。猛烈な白光が炸裂し爆音が撒き散らされた。しかし、炸裂点から距離がある。効果を発揮する範囲の外だ。遮光対策を取っていない者は一瞬視界が白く埋まったが影響は軽微。
ホアキンは霧島と玖堂の盾の陰につけ屈射で弓に弾頭矢を番えホール左隅のバリケードの床を狙って射る。ベルトに挟んだ矢を取り出し次々に射ってゆく。
レティ・クリムゾンは大口径ガトリング砲を構え、猛烈な反動を抑えつつイルマリネンへと凄まじい勢いで弾丸の嵐を飛ばした。
真白は45口径リボルバーをホール東南の阻塞に陣取る巨漢サイボーグLへと向けて発砲を開始する。行動に余裕を持ってゆく。
リュドレイクは探査の目の眼を発動させつつ全体を把握、突撃する者達を援護する。銃床を右肩に当てつつ左手でサブマシンガンの中頃を保持し、東南の壮年男サイボーグKへと狙いをつけ発砲、弾幕を張る。
美空は竜の鱗、竜の血を発動させつつ突入している。誤射を避ける為に味方の最前列まで踏み込み大口径ガトリング砲を構えてホール中央を掃射した。左右と往復して薙ぎ払い強烈な破壊力を秘めた弾丸をコンクリートに叩き込んでゆく。
霧島、竜の血を発動。低火力に対して――霧島にとってはイルマリネンの射撃以外、ほぼ全て、だ――に対して『受防失敗』を装わんとする。それは、どういう状態か? 楯の位置を下げつつカンタレラの前に立つ。
カンタレラは霧島の背後に屈み玖堂に対して練成治療の発動を開始する。
藤村が瞬天速で加速してホール左隅へと突撃してゆく。
「こそこそ隠れても無駄、燻り出す」
二条が言った。
「心身を鉄壁と化し‥‥当たらせて頂く!」
米本が天魔を交差させて急所をガードしつつ駆け出す。
鳴神、終夜、シルエイト、米本、二条の五人が東へと突撃する。
両陣営、弾丸と矢と閃光が空間を埋め尽くす勢いで飛び交錯してゆく。イルマリネン、STのカンタレラの姿を見たのでそちらを狙いたいが霧島が前に立っている。レティからの猛射をバリケードの陰に伏せてかわす。横に少し移動し、再び顔を出して霧島へと左の鉄腕を向ける。瞬間、不可視の風の刃が空間を断裂して飛び唸りをあげて霧島に直撃した。大抵の者なら一瞬で沈める壮絶な破壊力。しかし、倒れない。サイボーグCDEFGHIJの八人も突撃銃で霧島へと弾丸を次々に叩きこんでいるが、それでも倒れない。現在の損傷三割三分。化物だ。レティが再び顔を出したイルマリネンへと即座に銃口を向けて猛射、少年はまた阻塞の陰に伏せてかわす。
黒髪A、壮年K、巨漢Lのサイボーグ達も阻塞の陰に伏せて玖堂、真白、リュドレイクからの弾丸をかわし、霧島からターゲットを変更、顔を出して撃って来た相手へ撃ち返す。ホール西南の阻塞、攻防の途中にホアキンが四連射した弾頭矢が爆裂し床に大穴が発生した。阻塞はかなりの横幅があるが爆砕した範囲も広い。傾いでゆく。黒髪Aと赤髪Bは開幕から霧島の側面にガードに入った玖堂へと三点バースト五連で二人で三十連射している。壮年と巨漢ボーグはリュドレイクと真白にそれぞれ四セットづつで十二連射。玖堂、リュドレイクは盾を素早く動かし、真白は回避せんとする。玖堂は盾で十五発止めて十五発被弾。負傷率十割、猛烈な破壊力。意識が薄れる。膝から力が抜ける。鮮血をぶちまけながら血河へと身体を傾がせてゆく。リュドレイクは九発止めて三発被弾、負傷三割三分。真白十二発の弾丸を全弾被弾して負傷一割、こちらも硬い。
「すぐに治しますから‥‥大丈夫、です」
カンタレラ、敵に存在をアピールしている。言いつつ練成治療を玖堂へ五連打し、リュドレイクへ一つ飛ばす。玖堂が全快まで一気に復活する。男はカッと眼を見開き、血河を踏みしめて崩れかけた体を持ちなおす。素早く番天印を向け発砲。これには虚を突かれたのか黒髪ボーグの顔面に弾丸が命中した。鮮血が吹き上がる。治療でリュドレイクの負傷が一割三分まで軽減する。
(「敵はサイエンティストである私を落とす必要がある筈。そのために敵の無理を引き出せれば‥‥この状況、有利に動く筈」)
カンタレラはそう考える。その読みは当たっている。事実。イルマリネンは「黒髪の女を狙え」と指示を飛ばした。しかし、
(「あのドラグーン‥‥」)
イルマリネンは舌打ちする。前に立つ霧島シールドが邪魔過ぎる。霧島は効いているように演技しているが、カマイタチと集中射撃で沈まなかった以上、STが後ろに控えている以上、沈めるのは無理だと即断していた。キメラと強化人間とでは判断力が違う。しかし、前に立たれている以上、霧島を排除するか挟むか回り込まなければカンタレラは狙えない。これ以上の後退は出来ない。ここで仕留める。少年は対策を考え始める。
他方、美空のガトリング弾一五〇発の掃射によって中央の床が爆砕され土煙がホール中央三十m程度の範囲で舞い上がり始めている。
シンは前進すると相対三〇、イルマリネンが盾にしているバリケードへとゼーレを連射し六連の光線を叩き込む。真紅の壁が展開し閃光を吹き散らした。
藤村、瞬天速で炎の海の上を駆けた。粘着力は消えているようだ。速度は落ちない。斜めに抜けると阻塞の切れ目のすぐ脇を通って迂回、方向を切り返してまた瞬天速で突撃。玖堂へと射撃している赤髪ボーグBへと二刀小太刀『疾風迅雷』で斬りかかる。縦横無尽に石火の動き。正にその太刀の名前のような男だ。赤髪ボーグは藤村へと素早く向き直り振り降ろされる小太刀を突撃銃で受け止める。猛烈な衝撃が逆巻いた。藤村、武器を狙ったがなかなか頑丈に出来ているよう。今度は腕を狙って横に入りながら一刹那に四連斬、鮮血の華が咲いた。サイボーグの左腕が切断されて床に落ちる。
阻塞が倒れた。ホアキンは左で紅炎を抜刀し右に白銀の盾を構え突撃を開始する。
他方、B班格闘組。
「行く手を阻むなら粉砕する」
二条は真っ直ぐに東南のバリケードへと突撃する。リュドレイクと真白がSMGとリボルバーを猛射して壮年ボーグと巨漢ボーグの頭を抑えこむ。その隙に接近した二条は右にユビルスを左に盾構え踏み込むと突撃の勢いを乗せて突き出した。穂先が阻塞の表面に激突し真紅の障壁が展開する。強烈な衝撃が巻き起こったが、貫く手応えも倒す手応えも無し。強力なFFだ。貫くは無理そうな気配。盾を背負い、ザフィエルを取りだすと阻塞の上から伏せている壮年ボーグへと三連の電磁嵐を巻き起こす。男は素早く転がって二発を回避するも一発に呑まれて蒼光に灼かれる。
終夜、常に冷静たらんとし自身の知識と洞察を用いて、視界の許す範囲で広く戦場を観察している。鳴神は終夜、シルエイト、米本が同目標に向かっているのを察し、バリケードの北西から回り込み挟みこまんと軌道を変化させた。終夜はそれを見て自身はシルエイト、米本と共に阻塞を東南から迂回しその奥へと向かう。適確な判断かどうかは、神のみぞ知る所だが、自身の経験から導き出される答えは『行け』だ。
味方がいるので死角を突きたいが、先の先を取るなら直線で速攻だ。どちらにするか。いきなり必殺は難しい。敵は雑魚ではなさそうだ。だが、シルエイトならばきっと崩すだろう。そちらに合わせた方が良いか。
シルエイト、バリケードを砕きたいが、ランスの初撃はサイボーグに当てたい所で、また終夜に合わせたい所だ。阻塞の破壊は後に回して、終夜と共に踏み込む。低い姿勢で剣を抜き払い向き直った剃髪の巨漢ボーグへと弾頭矢が巻きつけられたエクスプロードを腰溜めの構えから中段に放つ。巨漢が剣で穂先を払う。激突。爆炎を噴出して弾頭矢を炸裂させた。四連爆裂が一瞬で巻き起こり、巨漢が爆炎に包まれてゆく。シルエイトは爆風に顔を顰めつつもゴーグルの中から良く見据え、強烈な反動を堪える。
(「‥‥よし。三本なら余裕だな」)
流石に前の十三本は無茶過ぎたが、それに比べれば吹っ飛ぶ程ではない。
だがそれは槍撃はともかく、爆発の威力も減じているという事だ。顔面を焦がしつつもサイボーグ、まだまだくたばってない。表情一つ変えずに姿勢を低く剣を構え、炎を突き破ってシルエイトへと迫る。瞬間、横手から大剣が唸りをあげて飛んだ。豪力の乗った刃がキメラの首に炸裂し一撃で両断して吹っ飛ばしてゆく。クリティカルヒット。赤色をぶちまけながら首が宙を舞い、胴体が床に倒れた。終夜の明鏡止水だ。
月狼の隊長、常も手を抜いてる訳ではないだろうが、今日は動きが本気過ぎる。あくまで冷静な動きではあるが、限界以上を振り絞るような必死さを感じさせる立ち回りだ。自身能力を限界一杯まで活用。エミタサポートがフル回転している。トップクラスの傭兵がそれをやると強い。キメラの首が床に落ちるより先に終夜は壮年ボーグへと向かう。
壮年ボーグとは米本が既に斬り合っている。天魔の間合いに踏み込んだ米本は電磁波に灼かれている壮年ボーグへと練力を全開に、猛然と左右の大太刀で暴風の如き斬撃を繰り出した。
「吹き荒べ‥‥剛双刃『嵐』!」
袈裟に振るわれた右の天魔を壮年ボーグは太刀を掲げて受け止め、瞬後、左の天魔がその左肩に炸裂し、切り返した右の天魔が逆袈裟に唸りその胴を掻っ捌く。鋭い剣閃に体を崩した壮年の背後へと鳴神が踏み込み、その延髄目がけて真紅の太刀を一閃させた。凶悪な破壊力を秘めた刃がキメラの首の斜め後ろから入って斜め前へと抜けてゆく。吹っ飛ばした。必殺の一撃。鮮血が噴きあがり男が崩れ落ちてゆく。
鳴神は踵を返して北へと走り、米本、シルエイト、終夜がそれに続く。女は刀を納めて貫通弾のマガジンを込めたスノードロップを取りだすと北東の阻塞の奥へ伏せた若い女型ボーグJへと猛射した。壮絶な破壊力を秘めた弾丸の嵐が唸りをあげて飛び、展開した真紅の障壁に激突して弾き飛ばされる。
(「これでも、通りませんか」)
シルエイトがエクスプロードを振り上げて猛然と踏み込み、床へと穂先を叩き込んで猛烈な破壊力の嵐を爆炎と共に巻き起こす。アスファルトが木っ端に吹き上がって大穴があいた。しかしバリケードの範囲は広い。倒れない。シルエイトは凶悪な破壊力を秘めた穂先を阻塞へと叩き込む。爆炎が巻き起こり、弾かれた。こちらも駄目だ。
終夜は少し考える、行くのは危険だが、ここで止まってはさらに危険だ。迂回も左は敵集団の目の前を至近で突っ切る形になり右は背を見せる事になる。
「越えましょう」
身を横に回転させながら跳んでバリケードを乗り越える。人間サイズの敵が顔を出して撃てるのだから、能力者なら越えられない高さではない。バリケードの奥へと降り立ち、手斧を腰から取りだしつつ構えるサイボーグの首を狙って大剣を稲妻の如くに振り降ろす。女は後方に低く跳んで回避した。単騎でいきなりは当たりそうもない。終夜に続いて米本、鳴神、シルエイトが阻塞の奥へと降り立った。
十秒経過。
藤村、赤髪ボーグから放たれたフルオート射撃を回り込むように入ってかわしながら左右の小太刀で残った腕へと斬りつける。一撃、二撃と入れた所で黒髪ボーグがナイフで疾風の如くに斬りかかって来る。振り降ろされた刃をかわし、赤髪からの射撃も引き続きかわし腕に斬撃を当ててゆく。
「‥‥行くぞ」
ホアキンは一気に倒れたバリケードを踏み越えて黒髪へと肉薄すると、急所突きを発動、振り向く男の腹に左の太陽の剣の切っ先を突き込み、間髪入れずに豪破斬撃で掻っ捌く。臓物がぶちまけられ、藤村が赤髪へと小太刀の連斬を浴びせて左腕も切り落とす。腹を裂かれながらも無表情で踏み込んで来る男の顔面を狙ってホアキンは紅炎で薙ぎ払い、猛烈な衝撃を巻き起こしてその突進を押しとどめる。揺らいだ所へ五連の烈閃を巻き起こして吹き飛ばし、残像でも残しそうな動きで追走し、紅蓮の残光を引きながら大太刀を倒れたサイボーグへと叩きつけて爆砕した。
玖堂もまた銃を抑え太刀を引き抜くと瞬天速で加速し駆け出す。瞬間移動したが如き速度でバリケードを乗り越え疾風脚を発動、赤髪の後背へと回り込むと、その背目がけて蛍火を振り上げ振り下ろす。太刀が袈裟に入って血飛沫が吹き上がった。四連斬。黒髪を爆砕したホアキンもまた高速で切り返して踏み込み赤髪へ四連の剣閃を巻き起こす。後ろから玖堂が斬りつけ、横手からホアキンが突きかかり、前から藤村が左右の小太刀で十字に斬り裂いて、赤髪が滅多斬りにされて血河に沈む。
他方、
「突っ込んできます!」
リュドレイクが言った。イルマリネンはバリケードの脇を抜けて煙の巻き起こっている中央へと猛然と突撃を開始した。中央西と北西の四人のサイボーグもまた刀剣を手にバリケードの脇から中央へと走る。
レティは少女ボーグCを狙ってガトリング砲を猛射。銃身が回転し激しい振動とマズルフラッシュと共に強烈な破壊力を秘めた弾丸が飛び出し大斧を持った女に襲いかかる。少女は勢いを止めず弾幕の中を素早く駆け抜けて五〇発の弾丸をかわす。しかし残りの一〇〇発に撃ち抜かれ、血飛沫と火花を散らしてゆく。だが倒れない。シンへと突っ込んでゆく。
真白は金髪ボーグDへと銃口を向けると轟く銃声と共に四連射。男は大剣を構えて駆け二発を回避し二発を被弾。痛烈な破壊力を秘めた弾丸がボディスーツを穿ってゆく。鮮血を宙に引きながらも男もシンへと突っ込んでゆく。
リュドレイクもまたSMGを構えフルオート。サイボーグEへと七十五発の弾丸を撃ち放つ。太刀を手にした女が疾風の如くにかけ四十五発の弾丸を掻い潜り、三十発の弾丸がその身に突き刺さってゆく。同様に足を止める事なく美空へと向かう。Fもまた美空へと向かった。
「お前等は袋の鼠なのであります。古今雪隠詰めにまで落ちぶれた司令官が勝った試はないのであります!」
美空もまた半身にガトリング砲を構えリロードし南へと後退しながら銃身を回転させ弾丸の嵐を解き放つ。五十発はかわされるも、青髪ボーグFへと五十発の弾雨が突き刺さり火花と血飛沫をあげさせてゆく。
シン・ブラウ・シュッツ、こういう時はどう動くべきか――とりあえずバリケードから目標を転じ、突っ込んで来るイルマリネン、C、D、E、Fへと半身になって横手に南へと動きながらシエルクラインを向けて制圧射撃を連射する。練力を全開にフルオート。四八〇発の猛烈な勢いの弾丸にサイボーグ達の突進速度が急速に鈍ってゆく。白衣の少年以外まとめて封じ込めた。イルマリネンは弾丸を全弾かわして駆け抜けてゆく。シンはゼーレをしまい番天印を抜いた。
イルマリネンがカンタレラ、の前に立ちはだかる霧島へと迫る。
「今日は、そういうお仕事じゃ‥‥ない、から」
霧島、全身からスパークを発生させつつ青く煌く剣を振るう。イルマリネンは突撃しながら半身に紙一重で回避。背後のカンタレラと鋼鉄の左腕を向ける。
「‥‥ずっと、あいたかったんですよ‥‥? また貴方と、殺し合いがしたかったんです」
女はうっすらと微笑する。なかなか、歪んでいる。言いつつ霧島の横手から回り込んで来るイリマリネンとは逆側へと入って霧島を盾にし射線を切ってかわす。爆風が巻き起こり霧島に直撃した。今度は盾で守っている。霧島が猛烈な衝撃の中でも剣を振るう。イリマリネンは後方に飛び退いて回避。カンタレラは霧島の後ろから顔を出すと雷光鞭から少年へと電撃を飛ばす。
「そいつぁ光栄! また沈んでもらうザマスッ!!」
少年は間髪入れずに横へスライドして回避。左腕から真空波を猛連射する。霧島が大楯を構えてガードガードガードガードガードガード、爆風が渦を巻いて逆巻くも後方のカンタレラへと決して攻撃を通さない。損傷率五割五分。守る側が一方的に守ろうとするだけならどうにでもなるが、守られる側の意識も疎通しているとなると霧島ウォール、鉄壁過ぎる事この上なし。カンタレラは霧島へと練成治療を三連打、敵からすればやっとこさ削った霧島を瞬く間に全回復させる。さらに真白へと一つ飛ばして同じく全回復させ、イルマリネンへと雷撃を撃ち放った。少年は舌打ちしつつ雷光を回避する。
「委細構わず突貫、刺し、穿ち、貫け」
直後、二条が後背からイルマリネンへと踏み込みユビルスを突き込んだ。少年の背に穂先が激突しその身がつんのめる。二条はさらに薙ぎ払い、打ち下ろしと繋いで竜巻の如く三連の槍撃を繰り出す。イルマリネンは床に身を投げ出すように低く跳んで回避。
他方、
「捕まえたぜ‥‥喰らいやがれ、一式だぁ!!」
シルエイトは剣で斬りかかって来たサイボーグJへとカウンターの穂先を突きこむと、練力を全開に紅蓮衝撃とスマッシュを発動、寸勁の要領で穂先を捻じ込み凶悪な爆炎を巻き起こした。間髪入れず、焔の中で態勢を崩しているサイボーグへと終夜が稲妻の如くに大剣を振るって首を跳ね飛ばした。一撃必殺。
「――剛双刃『嵐』!」
米本がサイボーグIへと踏み込み、まさしく暴風の如くに滅多打ちにしてその態勢を崩させ、鳴神が狙い澄まして真紅の太刀を振るってふっ飛ばした。首から上が無くなった男が倒れる。敵は決して雑魚ではないし、ヘッドショットも首刎ねもそう簡単に決まる物ではない。しかしシルエイトと米本の崩しは強烈だった。鳴神の剣閃は普通に鋭く、終夜は洞察、力、技、全てを総動員して一撃目から必殺の気で打ち込みに行っているので鋭さが常より増大している。それはデメリットもあるのだが、連携がカバーしている。
奥からGとHが剣と斧を手に突っ込んで来るもシルエイトが槍で突いて爆炎を巻き起こして止め、米本が長大な天魔で剣の暴風を巻き起こして止め、終夜と鳴神が首を吹っ飛ばして即死コース。どうにもならない。一人一人ならまだなんとかなるが、今回の立ち回りのこの四人に連携して動かれると、強キメラクラスでも止められない。
五秒以下でサイボーグ四人を始末した戦士達は怒涛の勢いで中央へ向かって駆けてゆく。シンの制圧射撃の中に飛び込むとサイボーグ達の背後から猛打と共に必殺剣を叩き込んで血河に沈めた。
(「ここで、負ける‥‥訳にはッ!」)
イルマリネンは床を転がり一回転して起き上がり、その前に瞬天速で藤村が現れた。
「また会ったな‥‥嫌な相手だったか?」
死神か、突撃して来た黒尽くめの男を見てイルマリネンは我知らずそう思った。しかし思いつつも身体は高速で動きワイヤーを放たんとする。藤村は瞬速撃を発動させて飛来したワイヤーを撃ち落とし、続いて向けられた鋼鉄の左腕を、
「それは‥‥させん!」
横に入りながら斬り上げて逸らす。爆風が天井に炸裂してアスファルトを爆砕して破片と煙を撒き散らした。
シンは番天印で狙撃し横から発砲、跳び退ったイルマリネンへとガトリング砲を背に負い紅炎を抜き放ったレティが後背から踏み込んで斬りつける。強烈な衝撃が炸裂して少年の身が揺らぎ、二条が猛然と槍を突き込み、リュドレイクが低く這うように入って身体を回転させ鞭のように足を繰り出した。風神の身体が槍に突かれ、足を払われて衝撃に傾斜する。踏みとどまろうとした所へ藤村が間髪入れずに小太刀を降りおろし、少年は銃剣で受けるも態勢が悪い、そのまま床に叩きつけられた。
生き残りの二人のサイボーグの元へは鳴神、シルエイト、終夜、米本が刀槍を振るい、美空が弾幕を張り、真白が音速波を放って血河に沈めた。
「ここで決める」
ホアキンが接近する。敵の退路、一見ではまったく見当たらない。イルマリネンは床に倒れ四方を傭兵達が囲んでいる。急所突きを発動させて少年へ紅炎を降りおろす。猛烈な破壊力を秘めた刃がイルマリネンに炸裂した。
しかし少年はそれでも瞳から刃のような光を消さず、銃を放り捨てた手にはピンの抜かれた閃光手榴弾が握られていた。傭兵達が一斉に武器を降り降ろし、切り、突き刺されながらも懐に手を忍ばせる。光と轟音が炸裂し、少年は斜め上――傭兵達の隙間へ――腕を向けた。手には持っているのはワイヤーガン。アンカーが勢い良く跳んで天井へと突き刺さり猛烈な勢いで少年の身が跳びあがってゆく。
離れた位置でシン・ブラウ・シュッツ、読んでる。
「真白!」
言いつつシエルクラインを構えフルオート、アンカーの位置へと制圧射撃で四八〇発の猛弾幕を張る。
女は呼びかけに応えて剣閃を巻き起こした。空間が断裂し猛烈な破壊力を秘めた六連の衝撃波が弾丸が集まる位置へと飛び出してゆく。
「私も糸は使うから‥‥糸使いが嫌う事は知ってるわ」
爆風が糸を薙ぎ払い、アンカーが外れ、跳び上がった少年の身が放物線を描きながら床に落ちる。
「‥‥くそっ!」
それでもイルマリネンは起き上がらんともがく。顔をあげると、目の前に黒髪の女が立っていた。
「‥‥また、お会い出来たらいいですね」
女はそう言った。
鳴神、ホアキン、終夜、藤村、宗太郎、玖堂、レティ、リュドレイク、米本、二条、がイルマリネンへと武器を振り上げ踏み込む。
少年は口端をあげて笑った。
「先に地獄で待ってるぜ」
八方から唸りをあげて刃が降り降ろされた。
かくて、風神は堕ちた。
鯨は瀬戸内海の西に沈み、赤竜の兵は退却した、風神イルマリネンは国東空港基地の地下深くで傭兵達の手によって討たれ、要を失った同基地は傭兵達とハラザーフ隊によって一気に制圧され、基地の屋上にはUPCの旗が翻る事となった。
イルマリネンが敷いた防衛陣は強力であったが、傭兵達は炎で罠を焼き払い、頑強な前衛を立てて突破し、治療を用いて戦線を維持しつつ敵の陣を崩し、鍛え抜いた力と連携で見事に粉砕した。完全勝利である。
地上には兵士達の鬨の声が満ちていた。
了