●オープニング本文
前回のリプレイを見る 先日、荒野の決戦に快勝したバーブル師団は進軍してマリアを占領せしめたが司令部の雰囲気は決して明るい物ではなかった。
「これ以上、歩を進めるのは危険、と?」
褐色の肌と黒髪を持つ初老の師団長バーブルが仮設の司令部の卓につきつつ問いかけた。
「は、我が軍は先日、決戦に勝利しこのマリアを奪取しましたが、やや突出している嫌いがあります」
壮年の男が言った。名をバジャイという。階級は大佐、バーブル師団の参謀長を務めている。
「シンド州はおろか、ラクパトすらもまだ遠いと言うのにか?」
「はい、インドの各方面の情勢は、よくよく正確だと信頼出来る情報を集めたところ、予想よりも悪くなっているようです」
参謀が頷いて言う。
「我々が拠点としているのはヴァドーダラーであり、支えとしているのはアフマダーバードです。このマリアはヴァドーダラーより北西に位置し、アフマダーバードより西にあります」
「うむ」
「このアフマダーバードですが、しばしば攻撃を受けています。かなり劣勢な状況にあり、戦線は日に日に押されている模様です。ドランガトラは抑えてありますが、カーティヤワール半島の大半はバグア軍の占領下にありますし、ここでアフマダーバードが落ちると我々は補給線を断たれて孤立します」
「劣勢だと? アフマダーバードは優勢なのではなかったのか? 敵が戦力を増したのか?」
「‥‥いえ、現地の守備隊長が偽った報告を上げていたようで」
沈黙が司令部に降りた。
「その守備隊長は?」
「既に更迭されています」
「そうか」
バーブルはコツコツと指先で卓を叩き。
「ここで、あれこれ言っても始まらん。参謀、我々はどう動くのが最良か?」
「申し訳ありません。この地に陣を築城しつつ確保し、一連隊を派遣して敵の前線拠点となっているヒマットナガル戦陣を強襲、それを以ってアフマダーバードを助け、後方を確固とすべきかと思われます。後は進行速度は遅れますが、より後方を盤石の物とする為にも、半島の攻略にも着手した方が良いかもしれません」
「半島解放か‥‥」
「はっ、我々が与えられた命令はシンド州の攻略であり、半島の攻略ではありませんが、前進した時に後方に敵を置く状態となるは良策とは思えませぬ」
「いずれにせよまずはアフマダーバード、か‥‥シンドは遠いな」
かくてバーブル師団隷下のバドルディーン歩兵連隊がヒマットナガル攻略を目指し出撃したのだった。
●
バドルディーン歩兵連隊はアフマダーバードの守備連隊と合流すると共に北上した。ヒマットナガル守備隊は荒野での決戦を避けて後退し、ヒマットナガルの戦陣に籠っての戦いを選んだようだった。親バグアの守備隊はヒマットナガルの街の周囲に陣を築いて前線基地としていた。
ヒマットナガルは西と北を河川に囲まれており、街を取り囲むように幾重にも塹壕が掘られている。これを陥落させるのは容易な事ではないと思われた。
●強襲迎撃
バドルディーンは南東に主力を置いてヒマットナガルを半包囲するように展開させた。UPC軍と親バグア軍がインドの荒野で激突する。
バドルディーン歩兵連隊とアフマダーバード守備隊の連合軍はヒマットナガル守備隊よりも数に置いて倍する程に勝っており戦局を有利に進めて行っていた。能力者を集められたディアドラ中隊は隊の先頭に立ち順調に陣を攻略してゆく。
しかし、
『――い! 大尉ーッ!! 至急、応答願います』
幾つかの前衛陣を攻略した所で急報が歩兵中隊の元へと届けられた。
「はい、こちら中隊HQディアドラ・マクワリス。どうした?」
戦車の上に乗りアサルトライフルを担いだ女が無線に言葉を返した。
「巨大キメラの群れが、西より一丸となってそちらへと向かっています! 止められません!!」
「数は?」
「火炎鬼が一、暴君竜が一、四刀巨人が一に黒骸騎士が一です! 進路は――」
「‥‥ボスランクがオンパレードだな、このクソ忙しい時に」
報告を受けたディアドラは無線機を手に呻く。
「解った。こちらは対処する。グェン、そっちも適当に動いてくれ」
「て、適当ですか?」
「君に小隊の全権預ける。回りを見て上手くやれ」
「はっ!」
ディアドラは別の回線を一つ開くと言った。
「こちら中隊HQ。第七傭兵分隊、聞こえるかい? 巨大キメラが四体、中隊司令部へと直進してきている。至急座標Xに赴き、これを討て」
●リプレイ本文
中隊HQより敵の進撃情報およびその構成が伝えられ、第七分隊の傭兵達は急ぎ西へと急行する。
「やれやれ、巨大キメラのオンパレードだね‥‥これは」
情報を伝え聞いた鳳覚羅(
gb3095)は苦笑して言った。
「誰が言ったか『春のボス祭り』! ふふふ、強敵が一杯なこの状況、燃えるのですよ〜」
フェイト・グラスベル(
gb5417)がきゃきゃと笑った。喜んでいる。
「ボスラッシュとか超燃えるんスけど! 正にパネェ男にうってつけみたいな!?」
植松・カルマ(
ga8288)もまた歓声をあげている。激戦区に来るだけあってそういった猛者はこの場にはなかなか多いようだ。
「随分と大判ぶるまいだなぁ。随分と激しい運動になりそうだ」
飲兵衛(
gb8895)が煙草を握りつぶし言う。まぁ頑張りますか、と男は思う。
「リーダー、これでも飲んで落ち着いてくださいな」
飲兵衛は言って小さいペットボトルに入った野菜ジュースをフェイトに放った。
「ありがと〜、でもパープル、戦闘前に液体取って良いのかな?」
フェイトは小首を傾げたが飲兵衛自身も葡萄ジュースを呑んでいるのを見て結局自身も口付けてごくごくと飲んだ。まぁ能力者は胃袋も頑健だろう、多分きっと。
「ふむ‥‥面白い。実に面白い戦場だな此処は」
ミスティ・K・ブランド(
gb2310)が笑みを洩らす。
「稼ぎと割りが合っているとはいえんが是非もない。たりん分はスリルで払って貰うとしよう」
「また豪華な面子揃えてきたわねぇ」
あらあらと冴城 アスカ(
gb4188)が言った。
「それだけ向こうも焦ってるって事でしょうね」
レールズ(
ga5293)が所感を述べた。ベテランが揃った場合、最早並のキメラではとても止められないだけの力が傭兵達にはある。
「それでボスクラス4体ね‥‥でも、それだけでは勝てないことを教えてあげましょう」
ミンティア・タブレット(
ga6672)が言う。親バグア側の指揮官が聞いたら悲鳴でもあげそうな台詞である。
「気を引き締めて掛からないとな」
レティ・クリムゾン(
ga8679)が言った。前回の荒野の戦いでは暴君竜がボスを務めたキメラ隊に大勝している。今回も快勝といきたい所だが。
「三体までは前回の経験が生かせそうですが‥‥」
番場論子(
gb4628)が思考するようにしながら呟く。
「うむ‥‥何れも脅威度の高い敵揃いだが、一番警戒すべきは騎兵の動きか」
白鐘剣一郎(
ga0184)が言った。番場は頷く。今回が初出となる騎兵は厳しそうだ。データが無く、さらに今までのボス達よりも遥かに強力そうである。楽な相手ではあるまい。
しかし、やらなければ先に進めない。番場はWitch of Logic――論理の魔女を名乗るからには冷徹なる眼差しで行きたいところだと考える。
「これだけの‥‥大人数で、戦う事も‥‥滅多に、無いから‥‥ね。頑張ろう‥‥か」
霧島 和哉(
gb1893)が気合いを入れつつ言った。
「ベルガから来た甲斐があったな」
ニヤリと笑って答えるのは相棒のアレックス(
gb3735)だ。LHでも広く知られるエース達と肩を並べて戦える事が嬉しいらしい。
「でも何か、毎度喧嘩売られてる気がするんだよなぁ‥‥」
脳裏に過るのは先に聞いた黒骸騎兵の特徴だ。どっかまたキメラとコンセプトが被っていたようだ。対カンパネラ用組織とかはバグアの中にあるようだが、そういった上からの特例を除けばキメラ製作者は運用法と趣味以外は特に何も考えてないと思われる。趣味が似てるのかもしれない。
今回は霧島とアレックスはグリーンランドの雪原仕様から特注のオフロードタイヤに履き替えていた。悪路対策である。
アルヴァイム(
ga5051)は中隊本部へと無線連絡を取り敵の移動速度を確認している。敵は現在、ある程度固まって動いているようだ。騎兵は周囲を回っている事から最高速度は他よりもかなり速いと推測される。傭兵達は閃光手榴弾の使用タイミング、合図などを初め、作戦の流れを良く打ち合わせ意識のすり合わせを行った。
準備を整えた後X点まで移動する。傭兵達は荒野の彼方より迫り来る巨大キメラ達の姿を見た。体長十メートル近くの恐竜型キメラ、四本の腕と大刀を持つ巨人、炎を纏った炎熱の大鬼、そして高さ三メートルを超える巨馬に乗る髑髏の騎士の四体だ。
キメラ達は迎撃に来た傭兵達の姿を認めると一斉に加速した。戦闘開始だ。
「ある意味、現代の騎乗戦闘だな。頼むぞ」
「AIリンク開始‥‥同期完了。任せとけ! 飛ばすぜ、舌噛まないようにな!」
アレックスはバイクモードのミカエルに跨りその後部に白鐘が搭乗する。タンデムだ。アレックスがグリップを捻る。ミカエルはSESの力強い駆動音を上げながら勢い良く飛び出した。
バイク形態のAU‐KVが荒野を駆け加速してゆく。他の面々もまたキメラ達を迎え撃つべく荒野を駆けた。
敵勢で先頭に踊り出ているのは蒼白い焔のようなオーラを纏った黒骸騎兵だ。速い。少し空いて暴君竜、また少し空いて巨人と火炎鬼が並走している。
傭兵達の先頭を駆けるのはミカエルに搭乗するアレックスと白鐘。黒骸騎兵へと向けて矢の如くに走る。騎兵もまた先頭を走るアレックス達へと馬首を向けて突き進んだ。髑髏の騎兵が右手に持つ長剣を馬上で構える。黒い光が刀身に纏わりつき刃となって伸びた。長い。エクスプロードに匹敵する長さ。
両者が接近する。後部座席に搭乗する白鐘は射程に入るとS‐01拳銃を発砲した。七連の弾丸が空を切り裂いて騎兵へと飛ぶ。弾丸は強靭なフォースフィールドをぶち抜き、その奥にある頑強な鎧をも突き破った。拳銃弾とは思えぬ凄まじい破壊力。髑髏戦士の身が衝撃に揺れたが、しかし止まらない。
アレックスは車体を倒すと急角度で横に方向転換する。タイヤが荒れ地を削り土煙を吹き上げる。黒骸騎兵も方向を転換し追いかける。
アルヴァイムは『神の雷光』の名を冠した紫色の銃を構える。影撃ちはセットされてない。強弾撃を発動。銃口を向ける先は体長十メートルの暴君竜。狙いは足。トリガーを引き発砲。肩を貫く反動を抑え込みつつ連射。対FFコーティングされた貫通の弾丸が唸りをあげて飛んでゆく。暴君竜は荒野を揺るがして突進してきている。その足の付け根の皮膚が爆ぜ飛んだ。弾丸が竜の身を貫く。手応えあり。
瞬天速で間合いを詰めた冴城アスカは銀の装飾が為された愛銃シルバーチャリオッツを暴君竜へと向けた。両手で構え四連射。轟く銃声と共に弾丸が飛び出し竜の身に突き刺さってゆく。
真紅の髪を靡かせ光の翼を広げたフェイト・グラスベルは竜斬斧ベオウルフを大地に置くと地に右膝をつき左の膝を立てた。覚醒の影響で体躯は大人の女のものに成長している。伸びた体を低い姿勢で安定させ両手で紫銃を保持し狙いをつける。金色の瞳が見据える先は暴君の竜だ。動きの先を予測。偏差射撃。連射。精密に射撃された四連の弾丸が空を裂いて飛び、狙い違わず暴君竜に突き刺さった。皮膚が破れ鮮血が吹き出す。
ミスティ、黒骸騎兵へと攻撃を仕掛けて足止めしたい所だが現在はアレックス等を追いかけ回している模様。高速で動いている。距離が離れている。射程外。暴君竜の方へ行った方が良いか、それとも追いかけるか。少し考えた後に暴君竜へと向かって駆けた。
霧島は盾を手に黒骸騎兵へと向かう。AU‐KVに身を包んだ少年が荒野を装輪走行で駆けてゆく。
ミンティアは暴君竜へと駆ける。カルマもまた大剣とフォルトゥナ・マヨルーを手に暴君竜へと向かった。相対距離三十。射程に入った地点でフォルトゥナの銃口を暴君竜へと向ける。発砲。連射。SES機関が唸りをあげ、轟音と共に強烈な破壊力を秘めた弾丸が飛び出した。弾丸が竜の皮膚に突き刺さり奥までをも貫いて衝撃を巻き起こす。竜が咆哮をあげた。
鳳は暴君竜との相対距離二十まで入ると両断剣を発動させ長柄戦斧ベオウルフを振り抜いた。風が逆巻き荒れ狂う音速波となって竜へ襲いかかる。不可視の音速波が炸裂し竜の表皮を爆ぜさせた。良い破壊力だ。
レールズが槍を構えて暴君竜へと駆け、天原大地(
gb5927)もまた太刀を手に竜へと駆けてゆく。
「そっちには行かせたく無いんだよ、これが」
飲兵衛は四刀巨人へとシエルクラインで弾幕を張り、レティもまたペイント弾と貫通弾を装填したシエルクラインで巨人へと攻撃を仕掛けた。巨人は四つの刀をクロスさせて急所を守る。弾丸が刀に当たって弾き飛ばされ、あるいは巨人の身に突き刺さり鮮血を噴出させる。ペイント弾が巨人の刀に当たって爆ぜ塗料を撒き散らした。巨人は進路をレティの方向へと転ずる。
番場は暴君竜の側面に回り込んでからスコールSMGで攻撃を仕掛けた。嵐の如く発射された弾丸が竜を穿ってゆく。傭兵達の射撃の嵐を受け巨体から血飛沫を吹き上げつつも竜は大地を揺るがして突進する。その正面にレールズが立ち塞がった。巨竜は耳をつんざく吼え声を発し、人をまるごと一飲み出来そうな程に巨大な顎を開いてレールズへと噛みつきにかかった。
男は中段に槍を構え突進を冷静に見据えると大地を蹴りつけて左にステップした。ぬらりと光る巨大な牙がレールズの脇を掠め空間を貫いてゆく。かわした。顎が閉められガチン、と鈍い音が鳴った。
(「癖は把握しています」)
胸中で呟く。前回も戦った相手だ。レールズは右足から大地に着地すると体を切り返し前方へと踏み込んだ。側面に回り込むと練力を解放し白槍に爆熱の輝きを巻き起こす。紅蓮衝撃だ。
「みんなが抑えてる内にさっさと落ちてもらいますよ!」
裂帛の気合と共に竜の右足付け根を狙って槍を振り抜く。宙に赤光が走った次の瞬間、竜の皮膚と肉が深々と裂かれ大量の血液が霧の如く宙へと吹き上がった。
レールズは槍を振り抜いた次の瞬間には、間髪入れずに飛び退いて距離を離しにかかる。竜が体躯を回転させ尻尾を鞭の如く振り回す。巨大な尾が唸りをあげて迫り来る。しかしレールズはさらにステップして距離を離し一撃を避けた。読んでる。完璧な回避だ。
「砕け散れぇええっ!!」
そこへ矢の如く天原が踏み込んだ。淡く光る太刀を八双に振り上げ裂帛の気合と共に渾身の力を乗せて振り降ろす。刃が袈裟に走り竜の左足を断裂する。巨木のようなそれが深々と斬り裂かれ鮮血が舞った。さらに天原は素早く太刀を振り上げ左袈裟に叩き込む。三連打。暴君竜の足が斬り刻まれ真っ赤に染まってゆく。痛烈な斬撃だ。
「今回の作戦、序盤の山は早めにコイツを倒すことだわね。一気に行く」
ミンティアは言ってエネルギーガンを暴君竜へと向けた。練力を解き放ち電波増幅を発動させ猛射。三連の閃光が空を灼きながら奔る。ミスティ・K・ブラントもまた銀銃を竜へと向け四連の閃光を解き放った。七条の閃光が次々に暴君竜に突き刺さり爆砕してゆく。
アルヴァイムが四刀巨人に向かって駆け出し、フェイトが暴君竜へとバラキエルを連射する。弾丸が竜を穿ち、番場はイアリスを右手に構え駆け、カルマと鳳もまた暴君竜へと向かって駆けた。冴城の姿がふっと霞んだ。次の瞬間、巨竜の足元へと出現する。瞬天速だ。
「さぁ、私と一緒に激しいタンゴでもいかが?」
女は言うと練力を解き放ち長い脚をしならせ強烈な五連の蹴りを放つ。竜の足に蹄鉄が叩き込まれ打撃を与えてゆく。激しい攻撃を受けつつも巨竜は蛇のように身をくねらせて首を伸ばした。つんざく咆哮と共に天原の右側面から噛みつきにかかる。男は迫る牙に対し咄嗟に飛び退いてかわさんとする。
巨竜の怒りに燃える瞳が光る。
速い。
天原が防御に掲げた太刀を避け右肩から噛みつく。牙が天原の右肩と腰をがっぷりと挟みこんだ。熾天使の鎧がメキメキと嫌な音をあげながら陥没してゆく。激痛が走った。
天原は太刀を左手に持ち替えると振り上げ巨竜の顔に叩きつけて脱出を試みる。だが竜はそれよりも速く動き首を高々とあげた。天原の身もまた噛まれたまま空へと上がってゆく。
巨竜は地上より八メートル以上もの高さの地点で牙を天原へと沈めながら滅茶苦茶に首を振り回した。天原の視界が激しく回転し、景色が高速で流れ、天地の位置が次々に入れ替わってゆく。噴き出した血が鎧の穴から洩れ宙に撒き散らされる。天原の目の前が真っ赤になり次の瞬間、黒く塗りつぶされた。
火炎を纏った巨鬼が間合いを詰めて来ている。完全にフリーだ。暴君竜へと体を向けているレールズの背後に踏み込む。気配を察知した男が振り向く。
紅蓮の閃光が走った。
レールズが防御に槍を掲げるよりも速く焔を纏った大斧が炸裂した。戦斧が三重の防護服を切り裂き、その奥の肉を断ち切りながら骨に喰い込んで亀裂を入れながら焼き焦がしてゆく。壮絶に重い衝撃が身を貫きレールズは苦痛によろめいた。火炎鬼が左右の大斧を嵐の如くに振り回す。四連打。次の瞬間、滅多斬りにされた青年が鮮血を宙にぶちまけながら吹っ飛んだ。それを視界の端に捉えた鳳は火炎鬼へと咄嗟に目標を切り替える。両断剣を発動、戦斧を一閃させて鬼へとソニックブームを撃ち放った。追いかけるように飛び込む。鬼は迫り来る音速波を左右の斧をクロスさせて受け止めた。風圧が炸裂し戦斧の焔が揺らぐ。
鳳は鋭く踏み込み落雷の如くに長柄戦斧を振り下ろした。火炎鬼は身を低くし斧で払って弾き飛ばさんとする。斧と斧ががっぷりと噛みあい猛烈な衝撃を巻き起こす。衝撃が鳳の腕から肩を貫いて身を抜けていった。押せない。かなりの質量とパワーだ。
宙にいたレールズが体を捌いて身を捻り膝から大地に着地する。先の攻撃は効いた。もう一セット直撃を受け続けると危なくなりそうだ。口の中の血を吐き出す。
その間に植松カルマが暴君竜の側面へと踏み込み足を狙って攻撃を仕掛けていた。長さ1.6mの長剣を右手一本で構え練力を全開にし灼熱の色の烈閃を巻き起こす。五連斬。竜の強靭な皮膚が泥のように斬り裂かれ、真っ赤な血が滝の如くに撒き散らされた。彼の言葉を借りるならばまさに「パネェ」破壊力。番場が間髪入れずに踏み込みカルマが大きく斬り開いた傷口へとイリアスの切っ先を叩き込んだ。竜が苦悶に目を白黒させその足を痙攣させた。膝が折れてゆく。
「巨人さんこちら、銃声の鳴る方へ、ってな。語呂悪いな」
一方、四刀巨人と対する飲兵衛はそんな事を言いつつレティと共にシエルクラインで弾幕を継続していた。巨人は撃たれながらも大刀で防御を固めつつ突っ込んで来る。
「私は下を狙う、上頼む!」
レティ・クリムゾンが言った。
「了解」
飲兵衛は牽制に巨人の顔面を狙って猛射し、レティは巨人の足へと集弾する。フルオートで放たれる雨のような弾丸が顔の前に掲げた刀を強打して甲高い音を次々に鳴らし、左膝に炸裂してその表皮を叩き割った。
距離が詰る。
巨人は大刀の間合いまで入ると荒野を揺るがしながら踏み込んだ。瞬間、弾丸が横手より飛来する。アルヴァイムの制圧射撃だ。巨人の動きが鈍る。しかしそれでも巨人は右上腕の太刀をレティの頭部目がけて振り下ろした。
が、遅い。レティは余裕を持って後ろに下がりかわした。大刀が空を切り大地に突き刺さってそれを爆砕させ大量の土砂を吹き上げた。巨人は宙に吹き上がった土砂ごと断ち切るかのように横薙ぎに二刀目を振るう。連撃。レティは二刀目を上体を反らしてかわしたが、しかし続く大刀をかわし損ねて切り裂かれた。衝撃が女を貫いてゆく。が、痛みに動きが止まる程では無い。レティ・クリムゾン、なかなか頑強だ。
一方、黒骸騎兵と機動戦闘を行っている二名。
アレックスは車体を倒し曲線を描きながら方向を転ずると東へと向かった。白鐘は背後から追って来る騎兵に対し、身を捻って肩越しに見るとS‐01拳銃を向ける。荒野というだけあって凹凸が激しい。バイクは激しく揺れていて、照準が四方に揺れる。冷静に見定める。発砲。弾丸は狙い違わず騎兵を捉えると防御フィールドと鎧をぶちやぶってその奥までを貫いた。
撃たれながらも騎兵は全速で馬を飛ばす。ミカエルの方が速い。追いつけない。白鐘は拳銃に弾丸を装填すると再度銃口を向ける。五連射。一方的に射撃を当ててゆく。良い的だ。騎兵の鎧の穴が増えてゆく。それでも髑髏の騎兵は無表情でひたすらに追いかけて来た。表情を変化させる事が出来るのかどうかも不明だが。
「和哉! こっち喰らいついて来てるぜ!」
東より駆け来る霧島の側まで近付いた時アレックスはそう声を発した。
「‥‥了解、止める」
霧島が頷き、ミカエルに乗ったアレックスと白鐘が砂塵を巻き起こしながら脇を走り抜けてゆく。霧島は逆に騎兵へと向かって装輪走行で突進した。
蹄鉄の音を響かせながら髑髏の騎兵が霧島へと迫る。その右手に持つ長剣に黒い光が集まり刃となって長く伸びた。
霧島は騎兵の正面に立って進路を塞がんとする。騎兵は僅かに進路を流し剣の間合いぎりぎりから霧島の脇を掠め斬らんとしているようだった。
歩行形態の霧島と騎兵では機動力は騎兵の方が高い。髑髏の騎兵は距離を詰めると駆け抜けざま馬上から長剣を一閃させる。霧島は竜の咆哮を発動させ素早く盾を突き出した。長剣が盾をかわしてドラグーンの側頭部入る。撫でるようにAU‐KVの兜が斬られてゆく。壮絶な切れ味。
貫く衝撃に視界を揺らがせながらも霧島は斬りかからんと踏み込んだ。盾は合わせ損ねたが頑強さは突き抜けている。騎兵の破壊力はなるほど、強烈なものがあるが霧島ならば簡単には沈まない。怯まず攻勢に移り金属筒から光の刃を出現させる。
だが、騎兵は速度を殺さず間合いを詰めさせぬまま脇を抜けていった。レーザーナイフでは届かない。
騎兵はバイクを追いかけるのは不毛と判断したか、一度旋回すると再び霧島に向かって来た。すれ違いざまに一閃。刃が盾をかわしドラグーンを再び直撃する。
斬撃が速い。
上からの攻撃。
盾が合わせにくい。
騎兵は霧島の回りを円を描くようにぐるぐると回った。盾が当たらずナイフは届かない。武器のリーチと機動力と命中力の差が出ている。相性が悪い。
ミンティアは天原へと向けて練成治療を全開で連打した。男の肉体に活力が注ぎ込まれてゆく。
天原はカッと黄金の瞳を見開くと太刀を回転させ逆手に持ち変えた。牙を剥き吼え声をあげながら左の逆手で竜の目を狙い突き降ろす。切っ先が巨大な竜の目を貫通し頭部の中心までをぶち抜いた。刃を捻って滅茶苦茶に内部を掻きまわす。竜が苦悶に顎を開き絶叫を大気に轟かせた。
「チークタイムは終わりよ!」
冴城が言ってナイフを竜に突き刺しそれを足場に駆け登る。短剣を引き抜くと首の裏に取りつき、頭部と首の境目を狙い練力を全開にして刃を叩き込んだ。竜の隻眼から光が消える。巨体がゆっくりと横倒しになってゆく。天原は身を牙から引き抜き太刀も引き抜くと崩れ落ちる竜の口内から脱出した。
暴君の竜が地響きをあげながら大地に沈んでゆく。撃破。
フェイトは長柄戦斧を拾い上げると火炎鬼へと走る。レールズは火炎鬼を仲間に任せると騎兵へと向かった。ミスティと番場もまた装輪走行で騎兵へと駆ける。
鳳は至近から音速波を火炎鬼に放ち牽制しつつ仲間の到着を待つ。カルマが火炎鬼へと駆け後背へと回り込まんと動く。鬼がそれを察知し後退した。鳳は逆サイドへ回り込むように詰めカルマは鬼の側面から踏み込む形となった。
植松カルマは剣の間合いまで詰めると鬼のアキレス腱を狙ってしなる鞭の如くにガラティーンを振るった。鬼は左の斧を下段に素早く下げブロックせんとする。猛烈な破壊力が激突し轟音が響き渡った。同時、鳳が鬼の右膝頭を狙って長柄戦斧を振り抜いていた。鬼は右の斧も下げ防ごうとしたが意識が左右に分散している為遅れた。ベオウルフが鬼の膝頭に炸裂しその表面を叩き割って赤い色を宙に舞わせる。痛烈な打撃。
カルマがガラティーンを振り翳して連撃を仕掛け、鳳もそれに呼応して竜巻の如くに戦斧を振るった。剣と斧と長柄斧とが激突し、二撃が鬼の膝に入り、一撃がアキレス腱に叩き込まれる。猛烈な破壊力に鬼のアキレス腱が深々と切り裂かれた。
火炎鬼は吼え声をあげつつカルマ目がけて閃光の如くに戦斧を走らせる。速い。回避――間に合わない。咄嗟に剣で受けんとする。斧がガードをすり抜け男の身に叩き込まれた。強烈な衝撃がカルマの身を貫いてゆく。鬼が両手の斧を振り上げ振り回す。刃の嵐。四発全部入った。カルマの鎖骨に罅が入り、右肩、腹、腿から鮮血が吹き上がった。炎に肉が焼かれ激痛に視界が明滅する。一発の破壊力ではカルマに分があるが、攻撃速度では鬼の方が速い。八メートルの巨鬼と178cmの人間、体格差から見るそれとは真逆の展開だ。
騎兵は霧島の周囲をぐるぐると回りながら機を見ては突撃を繰り返している。霧島は盾を構えて耐えながらじっと剣閃を見定める。
(「今、僕に出来る事を‥‥できる、だけ‥‥!」)
少年は練力を解放すると突撃してくる髑髏の騎兵にレーザーナイフの先端から蒼白い電波を飛ばした。蒼光が髑髏の騎士にまとわりつく。騎兵が身に纏うオーラと剣の黒光がゆらりと一瞬揺らいだ。効いたか。
だが掻き消えるかに見えた騎兵の光は次の瞬間すぐにまた勢いを取り戻した。黒い光の刃が霧島に襲いかかりかすめ斬ってゆく。
(「効果が‥無い訳じゃ‥ない‥‥」)
漏電を洩らし始めたAU‐KVの中で少年は呟いた。恐らくは出力が足りないのだ。あちらのガードが硬い。
アレックスはミカエルを切り返して走り騎兵の背後へと回る。白鐘がS‐01を構えリロードしながら発砲する。強烈な銃弾が騎兵の鎧を貫き穿ってゆく。しかし騎兵は依然として高速で駆けまわっていた。
一方の四刀巨人方面。アルヴァイムは制圧射撃を行いつつ強弾撃を発動、真デヴァステイターで猛射して巨人の身を穿ってゆく。練力はまだまだ大丈夫、その旨を味方に声を出して伝える。聞こえているかどうかは不明な所であるが。
銃撃に動きを鈍らせつつも巨人は四本の大刀を振り回しレティへと斬りかかる。飲兵衛が反応してその頭部へと目がけて弾幕を叩き込む。巨人は一本の刀で銃弾から頭部を構えつつ踏み込む。体が泳いでいる一撃をレティは余裕をもってかわす。しかし直後に高速で体を立てなおすと稲妻の如くにレティの頭部へと太刀を打ちこんだ。レティは咄嗟に後方へ飛び退きながら首を振る。落雷の如く打ち降ろされた切っ先が女の鎖骨部分を斬りながら抜け、間髪入れずに次撃が胴を薙ぎ払うように襲い来る。レティはシエルクラインを捨てると紅炎を立てて受け止めた。大太刀と大刀が激突して火花が散る。軽い。
レティは一旦間合いを外すと月詠を引き抜いた。左右に大太刀と長刀を構えると巨人へと向かって踏み込む。
「全力攻撃は初めてだな。どこまでいけるか試させてもらおう!」
裂帛の気合と共に練力を全開にし嵐の如く左右の太刀で猛連撃をかける。一刹那のうちに全力攻撃十二連斬、閃光が空間を断裂した。ガードに上げた四本の大刀の隙間から身が抉れ巨人の身から盛大な血飛沫が吹き上がる。次の瞬間、巨人の瞳から光が消え、糸が切れたように両膝が落ちた。宙に盛大な赤い華を咲かせながら前のめりに四刀巨人は倒れてゆく。撃破。
騎兵へと装輪走行で詰めた番場は竜の爪を発動させてスコールで攻撃を仕掛け六十発の弾丸を嵐の如く叩きつけた。銃弾は騎士の蒼い焔に呑まれ赤壁に減衰し鎧に当たって悉くが弾き飛ばされる。猛烈に硬い。ミスティは霧島の側まで駆け寄っていた。
アルヴァイムは真デヴァステイターを、飲兵衛はシエルクラインをリロードしつつ火炎鬼の上半身を狙って猛射する。
「この前の報告書から斧の炎は虚実空間で消えることが分かっているわ」
ミンティアが言いつつ虚実空間を発動させた。鬼の左右の戦斧で燃えていた焔がふっと掻き消える。
(「銃も水属性が着いているから効くはずよ」)
さらにミンティアは電波増幅を発動させエネルギーガンを構えると連射した。拳銃と小銃の弾丸が鬼の身に突き刺ささり二連の閃光がその表皮を爆ぜさせる。
到着したフェイト・グラスベルが竜斬斧ベオウルフを振りかぶり渾身の力を込めて火炎鬼へと叩きつけた。鬼が素早く斧をあげてブロックし激しい火花が散る。
「フェイトちゃんあれを!」
「了解、合わせます!」
フェイトの到着を見て取った鳳は言って左へ走り、女は応えて右へと走った。
(「何か仕掛ける気ッスかね?」)
二人の動きを察知したカルマは火炎鬼の注意を惹きつけるよう真っ向から渾身の力を込めて長剣を叩きつける。鬼が戦斧をクロスさせてかざし強烈な打ち込みを受け止める。鬼の反撃五連斬。カルマは一撃を剣で捌き乱打を受けつつも気合いで耐え、再度斬りかかる。剣と斧が激突し轟音が響き渡った。
鳳とフェイトはカルマと打ち合っている火炎鬼の両サイドに回ると挟みこむように踏み込んだ。左右から同時に竜斬斧ベオウルフを振るう。刃が鬼の両脚に炸裂し何かを砕く鈍い手ごたえを両者に伝えた。
「斧という物はこう使うんだよ」
鳳が言って、両脛を砕かれた身体が揺らがす鬼の胸部に戦斧を叩き込んだ。痛烈な衝撃に鬼の巨体が押され仰向けに倒れてゆく。カルマとフェイトはすかさず駆け寄って乱打を叩き込んでゆく。現状では戦闘能力の大半を喪失しているが、しかし、再生能力があるのでトドメを刺さねばまた立ちあがってくるだろう。脚は砕かれたが鬼はまだまだ生命力を保っている。トドメを刺すべくレティと冴城と天原も加わり猛撃を叩き込んでゆく。
騎兵方面。アレックスがミカエルを旋回させ白鐘がS‐01で射撃を続ける。弾丸が次々に騎兵の鎧をぶちぬいてその奥までを貫いてゆく。
レールズは騎兵付近の塹壕の前まで移動すると槍を振るって音速波を飛ばした。おびき寄せんとする。騎兵は不可視のそれを黒光の剣を馬上で薙ぎ払って打ち払う。騎兵は継続して霧島へと突撃をかけ黒光の剣を振り下ろした。
本日既に幾度となく受けている突撃。霧島和哉を目を凝らし肩の動きから剣筋を予測すると踏み込んだ。全身からスパークを発生させて盾を突き出す。竜の咆哮が乗せられた一撃が黒光の刃のさらに奥の刀身に激突し猛烈な衝撃を騎兵へと伝えた。次の瞬間、騎兵の手から剣が離れて吹き飛び、十数メートル程の高さの空へと回転しながら舞い上がってゆく。苔の一念。騎兵の無表情な髑髏が一瞬、驚愕しているように見えた。
そこに隙を見て取ったミスティはエネルギーガンを構えると猛烈な閃光を爆裂させた。四条のエネルギー弾が次々に騎兵に突き刺さり爆裂を巻き起こす。
髑髏の騎兵は撃たれながらも落馬する事なく駆ける。鎧の表面が少し焦げているが、あまり効いた様子は無い。非物理にも高い抵抗力を持っている様子だ。
火炎鬼。コカして囲んで踏みつぶし、叩き潰す。喧嘩の常道だ。殺し合いも基本に変わりは無い。この形に入ってしまえば勝負は決したようなものである。強靭な生命力と再生力を誇る火炎鬼だったがアルヴァイム、冴城、レティ、鳳、天原、カルマ、フェイトの七人から一斉攻撃を受けて鮮血の荒野に沈んだ。もう再生する気配は無い。
「再生ボスキャラって、大抵アッサリ倒されるものですよね‥‥」
フェイトがぽつりと呟いた。それだけ火力を集中させてくる故にそうなる。今回は割と頑張った方だろう。
宙に舞いあがっていた長剣がくるくると回りながら荒野に突き刺さる。番場は素早く落下点に駆け寄ってそれを抑えた。唯一の武器を失った騎兵はその虚ろな眼窩を周囲に向けると次の瞬間西へと猛然と駆け出した。
「逃すかよ」
アレックスが言ってミカエルを走らせて追走し白鐘がS‐01を叩き込む。騎兵はついにダメージに身を揺るがせるようになったが、まだまだ倒れる事はなく西の親バグアの陣へと向かってゆく。アレックスと白鐘はなおも追撃をかけたが、他のメンバーとの距離が三百メートル以上離れ、親バグアの火砲が周囲に炸裂しだした頃に白鐘が言った。
「――戻ろう。深追いは危険だ」
「くそっ!」
アレックスは歯ぎしりし悪態をついたが、結局車体をUターンさせて仲間の元へと向かった。彼等の爆槍と太刀ならばあるいは騎兵を殺し切れたかもしれないが、結局戦局の流れは格闘戦へは至らなかった。
無論、その時は霧島の装甲さえ貫いてくる黒剣と対峙する事になっただろうが‥‥
まぁ全員健在で無事に撃退出来たのだから作戦としては成功といえよう。
かくて三体のボスキメラを討ち取りその三体の頭であった髑髏の騎兵を敗走させた傭兵達は本隊と合流するとヒマットナガル市へと攻撃をかけ、これを陥落せしめたのだった。
了