●オープニング本文
前回のリプレイを見る 昼。休憩中の部隊。
「東京解放作戦発動かー、行きたいけれど、まずは担当をしっかりやらないと、だしね。私は行けそうにないなぁ」
戦車の上に座り、野戦食を齧って残念そうに金髪碧眼の女が呟いた。バーブル師団の歩兵大隊を指揮するアラサーな女少佐、ディアドラ=マクワリスだ。元は東京の大学で考古学者を学んでいたという娘だったが、戦火により同地を追われてからは軍隊に入ったという。
「ディアドラ」
ヘルメットを被り小銃を担いだ青年が言った。
「ん、なんだいヤマト君ー」
「貴女は東京に在った場所を求めて、そこに帰りたくて銃を取ったって前に言ったよね。それが貴女の目的なら、本当に行かなくて良いのか?」
青年がそう言うと女は固まった。
「貴女は功績は十分立ててるだろう。それだけやってるんだから師団長だって多少の融通は効かせてくれるんじゃないかい?」
「ヤマト君」
女少佐は柔らかく微笑すると言った。
「有難う。でも公私は混同すべきではないよ」
青年はその言葉に見据え返すと言った。
「戦う意味の問題だ」
「でも、それなら、私には責任がある。人が余ってるなら良いさ。でも私ごときが少佐をやっているんだ。何処も指揮官は不足しているのだろう。ほとんどは皆、十分な経験を積む前に途中で死んでしまうか、積んでからでも死んでしまうから。あの村上センセーでさえお亡くなりになられてしまった。入れ替わりの激しいお仕事さ。私と同期だった士官達も随分と顔ぶれが減ってしまった。自分達は消耗品なのだと偶に思う。私が生き延びているのは、多分運が良いからだ。でも運もあるけど、それだけじゃない。私が生きてるのは、皆のおかげだろう」
女は言う。
「東京は、夢さ。私が帰りたがった場所は、夢だろう。きっともう世界の何処にもありはしない。夢と云うのは、そういうものだ。最近、気づいた。いや、認めた。本当はとっくに解ってた。かけがえのない物はもう二度とは戻らない。昔、偶に何かが間違ってるような気がしていたのは、既に取り戻せないものを取り戻そうとして、若かった私は銃を取ったからだと、心のどこかでは気づいていたからだ」
「‥‥ディアドラ、疲れてる?」
「少しね」
と壮年の女は笑った。
「昔なぁ、ある人にヤマト君、君達やその人達と共に戦ったのは間違いだったと思うか? と、尋ねられた事がある。その時はその時なりに答えを出したつもりだったけど、やっぱり同じ答えではあるけれど、やはり改めて思うのだよ。私が今やるべき事は、この隊の皆を、全ては無理でもより多くが、生きられるように手助けする事だってさ。私の守るべきものはここだ。夢の欠片を手に入れれば、そこからまた何かを育てられるかもしれない。でも、今抱えている責任まで放り投げて飛び出したくはないんだ」
ディアドラはそう言った。
「やっぱり、貴女は、僕とは違うね」
「君は昔の私のようだ、と言うとどっかの物語にありそうな気がするが、君は昔の私とも違うなぁ」
女は頷いた。かつて少年だった青年は夢を追い全てをぶん投げて駆け出したが、女はそういうやり方はしなかった。
「私の守るべきものはここだ。正直、疲れてはいる。多分、私は、もっとささやかな物を守って生きたがってる。田舎で綺麗な花でも育てながら、雨が降ったら本でも読んで、のんびりゆったりほのぼのと優しく生きていたい。だが、そうしたい人達の生活を守る為に剣と盾の意味はあるのだと思う。そして、私達UPCは人類の盾だ。だから、もうちょっと頑張ってみようと思う。だから、東京にはゆかない」
「‥‥そうか」
「御免な、辛気臭い話をしてしまった」
女の言葉にいや、と青年は一言呟いて首を振ったのだった。
●
ギラギラと輝く灼熱の太陽、黄塵吹きすさぶ荒野の果ての果て。
インドが北西部、クジャラート州に属するステップ気候のその半島、広大な荒野が続くその大地を千の兵団が動いていた。
ベラバルは二月にディアドラ大隊に拠って陥落させられ、ジュナガドとドラジもまた他部隊によって陥落させられている。
半島の戦線は徐々に半島の北西部へと狭められてゆき。ディアドラ大隊は沿岸部の小さな街を陥落させながら北上していった。
半島のバグア軍は小さな街では交戦せずに守備隊を次々に撤退させていたが、ポルバンダルの南東の河にかかる二本の橋を落とすとその岸に兵を集めた。ジュナガドが陥落した為、突出した形になっていたが、これ以上退がっては逆に凹む為、だろうか、これ以上先へ進ませる気はないようだ。
「どうせなら街まで後退してくれれば逆に面倒がないものを」
司令部はそんな悪態をついていたが、元より敵がそう出て来るのは予測されていた事だったのか、適度な距離を置いて北上を開始した。
水が大きく集まる箇所を避けて反時計周りに回り込み、北東からポルバンダルへと迫る。親バグア側はやはり退く気はないらしく戦列を敷いた。
「さて、毎度お馴染み野戦の時間だ。あちらさんもそろそろ後が無い。今まで以上に気を引き締めてくれ」
女少佐が軍帽を被りなおし戦車の中に入って無線に言った。
ディアドラ大隊は歩兵およそ千二百名を主力に、攻撃ヘリ、自走砲、戦車と揃え、空軍からのKV隊の支援を受ける、さながらミニ混成旅団といった編成だ。
対するバグア側は六百程の小型キメラを主力に一千程の歩兵を援護につけ、攻撃ヘリ、自走砲、戦車、空陸のHWを多数揃えていた。
「こいつぁちょっと、洒落になっていない戦力比な気がするのは気のせいか!」
若いエクセレンター――山門浩志が呟いた。今回ばかりは楽勝とはいかないような気がする。
砂塵の立ちこめる地平線、親バグアの兵団とキメラの部隊が進撃し、UPCの混成隊と能力者が前進する。
蒼空をKVが舞い、迎え撃つようにHWが赤く輝き爆風を巻き起こしながら交差する。地上をゆく自走砲や戦車の砲が焔を吹き地平を薙ぎ払ってゆく。砲弾が爆裂し、親バグアの砲が爆裂して四散する。
戦いが、始まった。
●リプレイ本文
ポラバンダルへと出陣する前、アルヴァイム(
ga5051)は編成の際に、左翼担当の傭兵班のうち数班を指揮経験者を優先的に班長へ就任させ各班一名STを混ぜる事を進言した。
経験者を優先的に就任させるのは、司令部の考えと一致する所であったが、
「一応確認するが、機動力と射程に差が出ると運用法によっては遊兵が発生しやすくなり機動力も落ちる。混成編成のデメリットも解っているかい?」
編成については少佐のディアドラはそう言った。
赤毛の男は答え、
「それを踏まえて、この戦場ではSTを入れた方が最終的な生存率が向上すると判断しました」
「解った。ではそのように手配しよう」
かくてアルヴァイムの言により各班にSTが混ぜられる事となったのだった。
一方その頃、
「デカブツを倒してる俺の武勇伝伝わってるっしょ?」
「植松カルマは破壊力なら傭兵随一って聞いてますぜ!」
「一撃で巨大キメラを両断したとかマジなんスか?」
「マジパネェッス!」
植松・カルマ(
ga8288)は集まった傭兵達の中から『これは』と思った同じ雰囲気のイケイケのガラの悪い男達へと声をかけて集め、喧嘩チーム『イケメンズ』を結成していた。焚き火を囲みながら談笑する。カルマの武勇伝は超人である傭兵の中でも凄まじい。武辺の男達の尊敬を集める事に成功したようだった。
「いやー! 照れちゃうなー! もっと頼ってくれてもいいんだぜ?」
はっはっはと笑ってカルマ。
「植松サンがいるなら心強いッス! で、戦になったらどう戦るんスか?」
「オレ達ゃ正面から突撃するだけの簡単なお仕事よ!」
男は缶を呷りながらそう言った。
「え」
沈黙。
「‥‥‥‥こ、この戦域で正面突撃? そ、それは、ちょっと」
「お、俺、インドで突撃だけはするなって死んだじっつぁまからの遺言が‥‥」
及び腰になった二人の男の肩にカルマは腕を回してガッシと組むと。
「オレ達イケメンだよな? ボクはイケメン、キミもイケメン、な? どの道誰かが正面抑えなきゃならねーんだよ、漢を上げようぜ!」
植松カルマ、腕力は凄まじい。エミタが起動し男の瞳が真紅に輝くと、その手に握っていた缶がぶしゅっと音を立てて潰れた。
その後、とても賑やかな声があがり、かくて左翼の斬り込み隊は決定されたのだった。
●
荒野。天地にHWが踊りキメラが溢れる。鋼鉄の翼が空を翔け、轟く爆音が業火を謳う戦場。
「‥‥うわぁ、多っ」
居並ぶ敵勢に対し砕牙 九郎(
ga7366)が呟いた。自軍約一千二百に対し敵軍一千六百、うち六百がキメラで空陸のHWも三十を数える。対する自軍のKVは空を抑える八機のみで、陸上のHWは生身の歩兵で相手取る事を余儀なくされていた。
「しかもなんか凄いの来た! あれ、生身で倒すの?」
砂塵を巻き起こして迫る全長十五mの超大さを誇る重装陸戦HWをみやってM2(
ga8024)が言った。今回はあれも歩兵の相手である。
「あぁ、ここは地獄のような戦場ですのね」
ミリハナク(
gc4008)がくすりと笑みを浮かべて呟いた。
「私にお似合いの場所ですから、心から楽しみましょう」
女はしなやかな身で焔の巨大戦斧を軽々と担ぎあげた。地獄の一丁目へようこそ。
(何と言うか、デカブツの相手も段々慣れてきたというか‥‥)
流叶・デュノフガリオ(
gb6275)は胸中で呟いた。
(いや、心の持ち様なのだろうね‥‥脅威な事には変わり無いとも)
思う。
その為に、私達、剣があるのだから。
「今回も頼んだ。‥‥時間は稼いで見せるよ」
流叶はミリハナクへとそう言った。
「ええ、そちらはお願いしますわ。後は任されましてよ」
長身の女は答えてそう頷いた。
他方、
「凄い数の敵だな。ここを食い破れば、かなり楽になりそうだ」
レティ・クリムゾン(
ga8679)が淡々と言った。
(今回は普段以上に共闘できる仲間が居る)
司令部より傭兵への指揮権が傭兵達自身へと渡されている。故に常よりも組織的に動く事が可能になっていた。
誰も欠ける事無く決めるとしよう、と女は思う。
「じゃ、相手が反撃する気にならない程圧勝すれば、ここの指揮官が一人ぐらい抜けても平気になるって事で良いのかな?」
ジャック・ジェリア(
gc0672)は途中耳にした諸々を思いながらそう呟きを洩らした。さて、因果はどう巡るか。
「大物ありの長丁場だ。心して掛かろう」
白鐘剣一郎(
ga0184)もまた周囲のメンバーへそう声をかけていた。
――ある程度無理を通す事になるだろう、と白鐘は予測していた。小隊への負担は白鐘自身の働きで少しでも軽減したいところだ。
「皆の力を俺に貸してくれ。頼むぞ」
白鐘は班員にそう声をかけると、メンバーの男女からは了解の声が返って来た。白鐘隊の士気は高いようだ。
カルマは通信機を用いてアルヴァイムと動きの最終微調整をしている。毎度の事だがあれでスペックだけには頼らない。大胆だが周到だ。
「さて、征きましょう。いつもの通りに」
前進命令が降った時、アルヴァイムが左翼の傭兵隊全体へと言った。
左翼傭兵隊は、いつも勝ち未だ敗れず。
立ち塞がるなら蹴散らすまでだ。
爆火が咲き乱れる中を両軍の前衛部隊が前進し、やがて激突した。
●
「行くぞテメェら、気合い入れろォ!!」
大隊左翼の集団においての左翼、赤甲冑に身を包んだ若い男、天原大地(
gb5927)が剣を振り上げて叫んだ。大剣を担いだ大男と共に駆け出し、若い銃士と、二人の科学者がその後方へと続いてゆく。その目的はカルマ隊の支援である。その攻撃力を保全する為に敵行動の阻害を狙う。
敵は二〇〇匹のキメラの群れを放って大隊にぶつけんとしその両翼の最端に二機づつHWを配置している。中央をキメラで抑え、両翼からワームを展開させて包囲殲滅せんとする腹だろう。
対する傭兵側もそれに対応して三部に別れた。
左翼。天原隊に並んでカルマとDF三名、ST一名編成のイケメンズことカルマ隊が駆けており、砕牙は狙撃手の傭兵が班長を務める班の指揮下で彼もまた他のメンバーと共に左翼で駆けている。
アルヴァイム班のアルヴァイム以下DF二名とST二名は敵集団の配置動向を観察しつつ、機銃型HWへの遮蔽物として他敵種を利用する為に所在を調整せんとし、かつ、攻勢時に多数同時攻撃を仕掛け攻撃対象の判断を迷わさんとする為に、左翼の最左を駆けていた。射線の為だ。確実に実行可能な所からゆきつつ、あわよくば敵の動きの誘導を狙う。
傭兵側の左翼は以上四班二十名だ。
中央、キメラがばらばらと三ないし四列程度の不揃いな横列で武器を振り上げて突撃して来ている。互いの横の間隔もまた三から四m程度、武器を振り回しても当たらない範囲。
一列におよそ六十匹程度でおよそ二百mの範囲に散らばっている。砂塵を巻き起こして迫るキメラの壁だ。
対するのはM2、レティ、ジャックの三班。
M2班は大剣を装備した男女と、銃士を一人に白衣を纏ったSTを一人といった構成。
レティ班もまたDFの男女を二名とスナイパーを一人、そして科学者とM2班と同構成だ。
「無理に突破を図ろうとしないようにお願いする。HWは仲間が必ず倒してくれる。掃討はその後でいいだろう。宜しく頼む」
女はそう声をかけていた。
ジャック班はSMGを持つジャック自身を含めSMGを持つSN三人とほぼ統一して来ている。ただ回復役にSTを一名随行しているのは変わらない。
ジャック、M2、HW班の方へキメラをやりたくない。ジャック班は中央の左方へ、M2班は中央の右方へと向かった。レティ班が中央をカバーすべく展開する。十五対、二百。中央が特に薄いか。名も無き銃士班はレティ隊の支援に追随した。
右翼。
ドリル型組のHWへと向かうのは白鐘班、流叶班の二班十名だ。
白鐘隊は大剣使いの男女二名と科学者の男女二名。△に見立てて自身を頂点に、左右に剣士を配し、その中央にST二名を置く隊形だ。
流叶隊は銃士の男女と科学者一名、そしてミリハナクだ。
「援護をお願いします‥‥但し無理はしないで下さい」
「了解、悪いがお言葉に甘えて楽させて貰うぜ」
流叶の言葉に答えて傭兵達はそう言った。先頭に自身とミリハナクを立て他メンバーは後方から支援する形である。
白鐘班と流叶班の標的はドリル型が第一であり、白鐘班は流叶班の動きに呼応する構えである。白鐘班は最右についた。
距離が詰まる。
左翼の先頭はカルマ班か。植松カルマを先頭に真っ向から剣豪型へと突っ込んでゆく。剣豪型HWと並走する機銃型がその両腕のアームを向けた。機銃型の銃口より轟音と共に火花が巻き起こり500mlのペットボトルサイズの巨大な銃弾が一〇〇連発の嵐となってカルマへと襲いかかった。
「ぬっ」
男が弾幕に飲み込まれた。猛烈な衝撃力。赤鎧に弾丸が炸裂し、鈍い音と共に巨大な火花を瞬かせた。壮絶な連射を受けてカルマの身が揺らぎ、足が滑り、次の瞬間、その身が風車のように回転して大地に叩き伏せられた。生身の歩兵など塵屑のように叩き伏せる。
剣豪型が唸りをあげて倒れたカルマへと前進し、天原班のSNが猛射、HWは突撃しながらスライドして射撃を回避しつつ弧を描いて迫る。
右翼、機銃型は流叶を狙った。猛烈なマズルフラッシュを瞬かせながら銃弾で空間を埋め尽くす。
女は練力を解放すると高速で加速した。SESの排気音が甲高く響く。残像を残す勢いで荒野を駆けすり抜けるように弾丸の嵐の隙間を突き抜けてゆく。まるで当たらない。本当に人間か、というレベルのフットワーク。
射手の男女がSMGを構えてHWへと射撃を開始する。
中央左端ジャック班、キメラの戦列の右翼の端をカルマ班等の方へやらせぬように足止めと無力化を狙う。
ジャックを含む四人の射手が広めに散開しつつSMGを構えた。
「撃て!」
ジャックの声と共に四本のSMGが一斉に駆動しフルバーストでキメラの戦列を薙ぎ払った。弾丸の密度が厚い。武器を振り上げ突撃してきていた百匹近い数の豚鬼や狼人や赤鬼が弾丸の嵐に次々に射抜かれ転倒してゆく。制圧力を突き破れない限り飛び道具万歳を証明する結果となった。
レティ班とM2班の射手及びST班の四名が残った左翼へと弾幕を叩きつけた。
班の前衛を務めるレティは射手の掃射で動きの止まったキメラへとシエルクラインで射撃して撃ち殺してゆく。DFの二人は飛び道具はないので大剣を振りかざして突撃して剣閃を奔らせ、STは周囲を注意しつつ電磁波を飛ばして援護している。なお敵の武器の利用を考えたが、名も無き傭兵曰くエミタ制御のSES兵器でなければFFに対して効果が激減し、ほぼ確実に弱くなるのでやりたくないとの事。
M2班は射手達が制圧射撃で薙ぎ払った所へ、STが電磁嵐を巻き起こしてキメラの数匹を打ち倒し、M2とDFの二人がブレイクロッドと大剣を構えて突っ込んだ。
M2はロッドを旋回させて振り抜いてキメラへと叩きつけて態勢を崩させ、DFが大剣を一閃させて斬り倒す。男は態勢を崩す事を主眼に次々にロッドを振るってゆく。足元を薙ぎ払われてキメラが転倒し強打を受けてよろめいた。二人のDFが崩れたキメラへと止めを刺して仕留めてゆく。班全体で八体程度を打ち倒した。
左翼、転倒しているカルマへと剣豪型が迫りアルヴァイムが練力を全開にペンサイズの超機械を翳した。剣豪型とアルヴァイムとの間を光輝く線が繋ぎ周囲に浮かぶ映像紋章が高速で動き始める。アルヴァイムは剣豪型を乗っ取ると機銃型へと振り向きざまに極大のレーザーブレードを一閃させた。蒼い光が機銃型に命中し赤壁が展開して激しく鬩ぎ合う。装甲が多少傷ついた。
天原、指揮下のDFのスキルは両断剣のみだ。動きの止まった剣豪型へ、自身で行く。
「おおおおおおおっ!!」
練力を全開に炎を模る猛烈な裂光を全身から逆巻かせて血色の刃を振り上げる。両断剣・絶を発動、剣の紋章を太刀へと吸収させ極限の極限までエネルギーを集中させると裂帛の気合いと共に赤雷の如くに太刀を振り抜いた。
間合いの外、しかし太刀が走り抜けた次の瞬間、壮絶な破壊力を秘めた爆風が土煙を巻き上げながら荒野を断裂し、剣豪型のHWへと真っ直ぐに飛んで、轟音と共に破壊を撒き散らした。全長十五mを誇る浮遊する巨体が音速波の一撃に揺らぐ。
剣豪型が赤く輝いて向き直り機銃型がスライドして銃口を天原へと向けた。駆ける天原へと猛弾幕が炸裂し男の身が巨大なハンマーで打ち抜かれたようによろめき大地に叩き伏せられる。
カルマ、練力を全開に倒れても握りしめていた魔剣へと剣の紋章を吸収させてゆく。極限の極限までエネルギーを集中させると跳ね起きざまにティルフィングを振り抜いた。極超音速の爆風が大地を一瞬で削りながら突き進み剣豪型のHWに唸りをあげて直撃した。凄まじい音を轟かせて破片が散りHWの装甲がひしゃげてゆく。鬼神の如き破壊力。
右翼。高速で駆けつつ流叶は二刀小太刀「疾風迅雷」を左右に構える。機銃型の射線を切りたい所。ドリル型と並走する機銃型は右手の大外に回っている。これを塞ぐなら左に入ってドリルを壁にすべきだが、左へ入るとキメラの戦列とそれへ銃撃している味方のSNとの間に飛び出す事になる。そちらへは行けない。
この状況下では真っ向から避けきるしかない。KVを相手にするのだ、HWの弾幕の精度は凄まじい。だが、流叶・デュノフガリオ、ちょっと超人たる能力者の中でも化物の領域に片足突っ込んでる。当たらん。
「悪いがキミの相手は私でね‥‥一つ、舞って行かないかい?」
女は弾幕を突撃しながらスライドして回避しつつ小太刀を一閃させた。空間が断裂し逆巻く衝撃波が唸りをあげてドリルHWへと飛びその装甲に激突する。
左翼。アルヴァイムは電磁嵐を巻き起こし、剣豪型は爆風と電磁嵐を突き破って弾幕に動きを封じられている天原へと接近すると光剣を振り降ろした。
砕牙は豪力を発現させると横手より踏み込み菫色に輝く太刀を猛然と振り下ろした。剣豪型のアームと砕牙の太刀が激突して光剣の軌道が逸れて天原のすぐ隣の荒野を灼き斬る。剣豪型HWは慣性を制御し後退しながらアームを振るい、砕牙の身を凶悪な破壊力を秘めた極大のレーザーブレードが灼き切って抜けてゆく。男は激痛に身を揺らがせつつも踏みとどまると、カルマの一撃でひしゃげた装甲へとリボルバーを向けて猛連射した。SESのマグナム弾が次々に突き刺さって穴を穿ってゆく。
ST達が練成治療を発動させて天原、カルマ、砕牙の傷を癒し、カルマ班のDF達はキメラの右翼へと突撃して剣閃を巻き起こしている。アルヴァイム班と天原班の三名のDFと立ち上がった天原とカルマが剣を構えて次々に突撃しHWへと斬りかかった。瞬く間に装甲が削られてゆき、カルマの魔剣が泥のようにHWの装甲を切り裂くと砕牙は荒野を駆け跳躍して傷口へと組みつきリボルバーを押し込んで全弾を叩きこんだ。
次の瞬間、爆発が連続して巻き起こり浮いていたHWが黒煙を吹き上げて地に落ちた。撃破。エースアサルト三人の殲滅力は割と凄まじいらしい。
右翼。ドリル型が唸りをあげて突進し流叶へと左右の連撃を繰り出しているが、女は舞うように機動して悉くを避け小太刀を振るって衝撃波を巻き起こして叩きつけている。
流叶へと攻撃が集中しているのを見たミリハナクはそのまま機銃型へと向かい、白鐘は機を捉えると号令を発して班全体で一丸となってドリル型へと突撃した。
「砕けろ‥‥天都神影流『秘奥義』紅叉薙っ」
長さ1.5mの大太刀に剣の紋章が吸いこまれ、SESの甲高い排気音をあげて全身から黄金のオーラを発生させ、残像を発生させて怒涛の猛連撃を開始する。
轟音と共にHWの装甲がひしゃげ、斬り裂かれ、その浮遊する巨体が揺らぎ、崩れた所へST達が電磁嵐を巻き起こし、白鐘と共に突っ込んだDF達が全力攻撃の態勢で強打を叩き込んでゆく。一人一人が連携、ではなく五人がただ一体の獣と化して喰い破ってゆくかの如き猛攻だった。白鐘という爪がHWを抑え切り裂き残りの四人が傷を押し広げてゆく。
機銃型へと向かったミリハナクは炎斧を掲げて防御姿勢を取りつつ大外へと外れると突進の勢いを乗せて踏み込んだ。大斧へと剣の紋章を吸いこませ、練力を全開に大地へと戦斧を叩きつける。瞬後、大地が爆砕され砂塵が巻き起こり壮絶な衝撃波が十字の形に奔り抜け、五百平方mもの範囲を爆砕してゆく。十字撃だ。
砂塵を巻き起こして迫る広範囲の衝撃波に巻き込まれて機銃型の装甲がひしゃげてよろめき、ミリハナクは間髪入れずにさらに剣の紋章を輝かせて練力を再度全開に駆けざまに流し斬った。炎斧『インフェルノ』がHWに炸裂してその強固な装甲を泥のように斬り裂いて抜けてゆく。だが流石に単騎の一発二発で破壊出来る手合いではない。黒甲冑の女は斧を振り抜くと後方へと大きく跳び、後退してゆく。慎重な立ち回りだ。だが何処か大胆さも感じさせる。この戦場の呼吸を測っているのか。
左翼、アルヴァイム、機銃型へと攻性操作を発動し、他HWの攻撃を指示する。遠い。不可能なのでその命令は実行されなかった。だが動きが止まった瞬間にジャックが四肢砕きを発動させてHWを射撃した。アームの付け根に弾丸が直撃した、移動が阻害されたどうかはよく解らない。それと同時にカルマ、天原、砕牙の三人のエースアサルトが踏み込み両断剣・絶等それぞれの攻撃スキルを全開に太刀を叩きつけ銃撃を繰り出した。DFやSN達も攻撃を集中させ、機銃型は反撃せんとしたが再度アルヴァイムが攻性操作を発動してその動きを封じ込めた。HWはタフだったが、流石に無防備な所へこれだけ攻撃を集中させられれば耐えられるものではなかった。剣と弾丸によって甚大な損害を受けたHWはやがて爆裂を巻き起こし黒煙を吹き上げて浮力を失い地面に激突し動かなくなった。撃破。
ジャック班のSNは制圧射撃を繰り出し、HWへと四肢砕きを放った後のジャックも制圧射に加わる。
M2は飛びかかって来た豚鬼の戦斧をかわしてロッドで足を払い、女剣士が大剣を叩きつけて止めを刺し、男のDFが大剣で薙ぎ払って包みこんで来たキメラへと牽制している。
科学者は外より援護していたがやがてキメラが突撃して来たので後退を開始し、それを見たSN達は掃射ではM2等を巻き込むので一匹一匹狙撃してキメラを撃ち抜いてゆく。
レティはM2班が包囲されぬようにシエルクラインで射撃しながら突撃し、銃を背に納めると腰から太刀を抜刀して狼人キメラを斬り捨てた。レティ班の男女のDFも大剣を旋風の如くに振るいSTとSNが狙撃と治療で援護している。乱戦になってきた。
ドリル型へと痛撃を与え続けている白鐘班だが、ドリル型は標的を流叶から白鐘へと変更した。ドリルが繰り出されて白鐘は盾を翳して受け流さんとし、火花が巻き起こってカイキアスの盾が貫通される。ドリルの切っ先は流しづらい。腕から血飛沫が噴き上がり、横手へと機銃型が回り込んで猛弾幕を白鐘へと叩きつけた。男の身がよろめき、再度ドリル型の螺旋が唸りをあげ男の胴へとその切っ先を突き込みその奥までぶち抜いて振り払った。赤色を撒き散らしながら男が荒野を吹き飛ばされて転がってゆく。当たる敵には凶悪無比だ。機銃型がさらにDF達を次々に叩き伏せる。
流叶、治療を発動しようと思ったが、振り向くのは流石にきつい。被害の拡大を抑える為に高速機動で急ぎ踏み込み、ドリル型に張りついて小太刀で烈閃を巻き起こした。ドリルと機体の継ぎ目を狙う。
「苔の一念‥‥えぇと、何だったかねっ?」
小太刀が鋼に激突して火花が散る。ドリル型は標的を再び流叶へと転じ後退しながら切っ先を繰り出し、女がかわして機銃型が猛射して女がそれもかわす。
ミリハナクはHWの周囲を駆けつつ練力を解放させて突撃すると流叶が斬りつけるドリル型のアームを同様に狙って大斧を一閃させた。何度も繰り返しアームを狙って巨斧を叩きつけてその片腕を圧し折ってゆく。
荒野を転がった白鐘は赤い色の諸々をぶちまけながらも受け身を取って起き上がる。ST達から練成治療が飛んでいる。肉体を徐々に再生させながら男はドリル型へと駆けると再び両断剣・絶、猛撃、剣劇の三種を併発させ黄金の光を纏って突撃した。
残像を発生させながら剣閃の嵐が走り抜け、HWの装甲が深く削られて、ついに爆裂を巻き起こして荒野に沈んだ。撃破。
白鐘班と流叶班はドリル型を沈めるとSTとSNの支援を受けながら機銃型へと突撃してゆく。
アルヴァイム班と天原班は右翼へと向かって移動を開始。砕牙もそれに同行したが、砕牙が所属するSN班は中央の殲滅へと向かった。カルマもまた中央で戦っているメンバーへ加勢に向かう。
M2班とレティ班はキメラと格闘戦を続け、ジャック班は左翼のキメラ百匹あまりを弾幕で抑え続けている。
左翼から移動を始めた面子が右翼へと辿りつくとほぼ同時に白鐘班と流叶班が機銃型を沈め、やがて各班がキメラの殲滅へと四方から加わり、ジャックは掃射から狙撃へと切り替えの指示を出し、火力のある班が動き易いように一匹一匹周囲のキメラを撃ち抜いて倒していった。
かくて、左翼班によって敵左翼の主力は撃滅され、バグア軍右翼は潰走した。
他の方面も皆順調にバグア軍を撃ち破っており、大隊はバグア軍を完敗へと追いやると、追撃を仕掛けてこれを散々に打ち破った。
大隊はパラバンダルへと入るとそこにUPCの旗を立てて解放を宣言した。
地図が徐々にだが確実に塗り替えられてゆく。半島の全領域の解放まで後僅かとなっていた。
了