タイトル:【BI】ラクパト侵攻戦5マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 13 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/01 19:01

●オープニング本文


 インドに駐屯するバーブル師団は国土の防衛と共にパキタスタン国のシンド州の攻略を目指していた。
 最終的な攻略目標は州都のカラチであり、次に主要都市であるハイデラバードである。しかし現在の戦況は一進一退であり、カラチの解放はおろかシンド州にさえ踏み込めないでいた。
 現在の第一の攻略目標は国境付近の街ラクパトである。ここを奪還して橋頭保としシンド州を窺いたい。だが親バグアの守備部隊の前にこれまでに行われた奪還作戦は悉く失敗している。
 二〇一〇年初頭、バーブルは師団を再編し準備を整えると再度ラクパトの解放を目指して部隊を進撃させた。彼の師団は過去には能力者の割合が少なかったが、新たに配属された中隊長の言を聞きいれ、大量の傭兵を雇い一時的とはいえ能力者の比率を増大させていた。
 バーブル師団の進撃に対し親バグア側も迎撃の軍を繰り出し、両者はラクパトの南東、砲火により地形を変え、今や更地と化した荒野で激突したのだった。


 戦の序盤は空から始まる。
 両軍の頭上ではKVとHWが死闘を繰り広げていた。数の上ではKV隊が勝っていたが、HWも頑強に抵抗している。どちらが優勢、とは一口にはいえないようだった。
 次に射程数キロを誇る自走砲や戦車同士の撃ち合いが始まる。ジャミングが激しいこの時代、そう簡単に当たるものではないが、数を集めて面で薙ぎ払えばやはり効力を発揮する。
 両軍の兵士達の付近に次々に砲弾が突き刺さり、大地が爆砕され、直撃を受けた兵士や砲が四散して炎と共に散ってゆく。
 砲の撃ち合いではバーブル師団の方が優勢にあるようだった。今回の編成ではバーブル師団は長距離砲の比率が多い。敵の戦車や自走砲が次々に破壊され、敵方から飛んでくる弾の数が減って来る。
 砲火をかいくぐって親バグアの隊が津波のように前進してきていた。千と数百を数えるキメラ部隊である。頑健な肉体とFFを持つキメラ達は、砲の一発や二発ではそう簡単にやられない。
 過去の交戦ではこのキメラ部隊の突進を止められず、バーブル師団は痛打を受けて火砲群を失い、撤退の憂き目を見ていた。
「よしきた皆の衆、出番だぞッ!!」
 指揮戦車の中にいる黄金の髪の女が無線を片手に言った。名をディアドラ・マクワリスという。UPCインド軍の大尉だ。歩兵中隊の指揮を任されていた。今回、傭兵を大量に動員するように提案したのも彼女である。
「前に出て展開し向かってくるキメラを食い止めろ! だが無理はするなよ。敵を撃破し、自分は生きて帰る、それが優れた兵士の条件というものだ!」
 能力者を中心とした歩兵隊は前に出て横一線に散って並ぶ。それはディアドラが指揮する中隊だけでなく、その左右にも同規模の中隊が並んでいる。それらの中隊の隣にもまた能力者を中心とした中隊が散兵となって並んでいた。小銃を手にしている者が多い。銃のラインだ。
 火砲の比率を多くしてアウトレンジから火力で制圧し、それを突きぬけて突っ込んで来るキメラに対しては能力者達で止める、というのがディアドラがあげた方針だった。シンプルで解りやすいが、なかなか博打に近いものがある。能力者達が突進してくるキメラの軍勢を止められなければ、成すすべもなく蹂躙され敗北するだろう。
「この作戦、吉と出るか凶と出るか‥‥」
 師団長のバーブルは指揮所の中で腕を組み表情少なく呟いたのだった。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
張央(ga8054
31歳・♂・HD
ジュリエット・リーゲン(ga8384
16歳・♀・EL
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
九浪 吉影(gb6516
20歳・♂・DG

●リプレイ本文

 出陣前。インド北西部、競合地帯の陣中に傭兵達が集まっていた。
(「‥‥南は、故郷を思い出すな‥‥」)
 荒野の彼方をふと見やってノエル・アレノア(ga0237)は感慨にふけっている。
「こういう依頼では、よく顔を合わせますねアッシュさん? お互い、無事に帰りましょう」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が言った。
「ん、ああ。そうだな。無事にもどろーぜ」
 返事をしてアッシュ・リーゲン(ga3804)。男はちらりと中隊の指揮官を見ると、
(「相変わらずイイ女じゃねぇかコンチクショーがっ‥‥!」)
 胸中でそんな事を呟いている。バーブル師団隷下のその歩兵中隊の指揮官は大尉のディアドラ・マクワリスだった。UPCの軍服にしなやかな肢体を包み、軍帽子をかぶっているその女は、金髪碧眼の美人として周辺には知られているが、
(「あのディアドラさんが昇進、中隊長ねぇ‥‥確かに優秀だとは思うけど‥‥上司の前では仮面でも被ってたのかしら??」)
 小隊長時代を知るファルル・キーリア(ga4815)が小首を傾げている。この大尉の中身が軍人にしてはお気楽な具合なのも広く知られている所である。
「クレイフェルさんもお久し振りですね?」
「おう、クラーク、よろしゅうな」
 クレイフェル(ga0435)がニッと笑って言った。それぞれ挨拶をかわすと作戦を打ち合わせる。
「蔽物のない場所でのぶつかり合い‥‥火力はこちらに分があるようですが、安心はできないという事ですか」
 概要を聞いてティリア=シルフィード(gb4903)が言った。
「うん、砲戦では多分勝つと思うんだが、あちらさんには虎の子のキメラ部隊があるからなぁ。過去にもその突撃でやられてるみたいなんだよ」
 青髪の少女の言葉に頷いてディアドラ。
「そのキメラ部隊の突撃を防ぐのがボク達の役目、な訳ですね」
「そうだ。あなた達、我々、能力者の歩兵大隊の勝敗が、全体の勝敗も分けると思う」
「なかなか責任重大な任務ですね」
 張央(ga8054)が言った。
「姉さんの作戦なんだ。間違いなんてある筈ない。あとは、それを証明すればいい」
 皐月・B・マイア(ga5514)がぐっと拳を握って言った。
「はは、マイア、有難う。上手く行かせられると良いのだけど」
 ディアドラは笑って応えると、言った。
「でもまぁ、あまり思い詰めずにゆきたまへよ。慌てず騒がず肩の力を抜いてやれば、きっとベストな結果を残せる筈さ」


 バーブル師団は陣を立ち進路を北西へと向けて進軍した。
 やがて師団はバグア軍と荒野で対峙し、激しい砲撃戦が始まった。無数の砲弾が飛び交い大地が爆砕されて焔の華が乱れ咲く。
(「懐かしの戦場だ。昔を思い出す」)
 元USA陸軍の空挺師団所属していたというクラーク・エアハルトは装甲車の銃座でそんな感慨を抱いていた。もう一台の装甲車の銃座にはアッシュが搭乗し、二台は戦列の十メートル程後方に下がり、お互いの距離を開けていた。
「運転手さん、回避は任せますよ」
 装甲車の運転手を務める軍兵にクラークはそう声をかける。
「私も兵士です。最善は尽くします」
 軍兵はそう答えた。しかし、非能力者が命中精度の高いキメラの射撃を避けるのは不可能に近いものがあるのも事実。
「最悪、車輪が外れても、機関砲は撃てますのでお願いしますー‥‥」
 女は実に頼りになりそうな事を言ってくれた。
 砲撃戦が佳境を迎えると予想の通りにキメラの軍勢が繰り出されてきた。猛火を抜けてキメラの群れが突進して来る。津波の如く押し寄せる黒影達の数は千と数百。
「すげぇ数っすね‥‥いや! 怖くはねぇっすよ! 役に立てない方が怖いんすよ、俺は!」
 バハムートに身を包んだ九浪 吉影(gb6516)が迫り来るキメラの軍勢を見やり鋼鉄の拳を握って言った。口調には魂が迸っている。熱血青年だ。
「てきのなみ‥‥でも」
 九浪とは対照的にぽつりと呟くように言うのはクラリア・レスタント(gb4258)だ。まだあまり上手く喋る事ができない。覚醒し瞳の色が黒から紅に変貌する。
「負けない。絶対に‥‥生きて帰る」
 少女は、はっきりとした口調で言った。
「そうっすね! 絶対皆で生きて帰りましょう! だから、俺はやりますよ! 俺に出来る全力を!」
 九浪青年はかぶりを振ってそう叫んだ。
「あはは、そうですね。その為にも動き方を決めておきましょう」
 ノエルは笑顔を見せて言った。
「数からして乱戦になりそうです。あまり単独で動こうとせず、周囲を確認して余裕がある時は味方のカバーも‥‥最低、班内くらいは連携を密にしてゆきましょう。声かけはきちんと。無理は禁物で。背中を預ける仲間を頼ってください。それなりの働きはできるつもりですよ」
 少年は片目を瞑って言った。
「おお、了解っす!」
「‥‥解った」
 頷いてクラリア。
「応、了解です。ボクたちの仕事は砲火を潜り抜けてきた敵を叩くこと。完膚なきまでに叩きのめしてやりましょう!」
 ティリアもまた頷いてそう言った。
 無線からディアドラの声が鳴り響き、その言葉を受けて中隊の歩兵達が前に出る。
「‥‥これだけ多くの傭兵と肩を並べて戦うのは初めてかしらね」
 小鳥遊神楽(ga3319)が横一線に並んだ歩兵達を見やって呟いた。中隊約百八十名、ディアドラ中隊の他にも二つ並んでいるから五百四十名か。まさに戦列である。
(「いいわ。いつも通り、あたしはあたしの仕事をするだけですもの」)
 女は胸中でそう呟く。
「さぁて、面白い事になってきたじゃねぇか! 任された役目はきっちり果たすぜ!」
 大鎌「ノトス」を担ぎ、口元に笑みを引いてゼラス(ga2924)が言った。
 ファルルはフォルトゥナ・マヨルーの弾倉に貫通弾を込めておく。
「まだ二度目とは言え兄と一緒に依頼へ来ると決まって多数の敵を撃退しろというもの‥‥何か呪いでも掛かってるかしら?」
 一方でアッシュ・リーゲンの妹であるジュリエット・リーゲン(ga8384)はぶつぶつとそんなぼやきを洩らしている。本日は手に長弓を持ち、左腰に矢筒を、右腰にバックラーを、背中にイアリスを提げて完全武装だ。
「ほな、いっちょいてかましたろか」
 クレイフェルはコキコキと首を鳴らしつつ大鎌「紫苑」を担いで言った。
(「キメラ相手はいっちゃんわかりやすくて好きや」)
 胸中で呟く。彼にとっては人を相手するよりもキメラの方がやりやすい。
「行こう! この戦場を勝って、次に繋げる為に!」
 緑色の光玉を出現させガトリング砲を担いでマイアが言った。
「遅れるなよ! しっかり援護頼むぞヤマ‥‥」
 昔の感覚で、なんとなく居そうな気がしたが、やはりそれは気のせいであって、そいつはもう此処には居ない。
(「‥‥ちっ! 何でこんな時に姉さんの隊に居ないっ!」)
 胸中で歯がみする。
 キメラの群れが津波の如く迫る。距離が詰る。
「戻ったらタバスコ紅茶でロシアン・ルーレットだ!」
 そんな叫びをあげつつマイアはガトリング砲を構えた。


「こちら第七歩兵分隊。砲撃支援を求めます。ブロックECHO座標5566。繰り返す――」
 張央がトランシーバーを手に砲兵部隊へと無線を飛ばした。
『ランバルト砲兵中隊、了解。砲撃支援する。発射五秒前』
 少しの間の後、後方の砲兵陣から轟音が鳴り響いた。空へと無数の砲弾が舞い上がる。砲弾は押し寄せて来ているキメラ達へと降り注ぎ、次々に炸裂して火炎と金属片の嵐を巻き起こした。至近距離で炸裂した砲弾の破片の嵐を受けて、二匹のスライムと大蜘蛛が穴だらけになって爆ぜ、体液を噴出させて絶命した。そのように致命傷を負ったキメラ達もいたが、多くは軽傷だ。何事もなかったように前進してきている。同じSESの砲でも威力に格段の差があるのは、その砲手が能力者であるか、そうでないかの違いだろう。能力者が使うSES兵器でないとキメラのフォースフィールドは無効化できない。
 第五傭兵分隊に向かってくるのは四十と少し程度か。大虎、炎獅子、大蜘蛛、緑鬼、スライム、岩鬼、スライムは五匹、大蜘蛛は六匹、他は七匹づつだ。キメラ達は砲撃を受けつつも足並みを揃えてまとまって前進してくる。どうやらある程度の統率は取れているらしい。
 距離が詰る。
 装甲車との相対距離一一〇。クラーク・エアハルトは狙撃眼を発動させると岩鬼へと重機関砲の砲口を向け激しくマズルフラッシュを焚きながら猛射した。唸りをあげて弾丸が飛び出し岩鬼に襲いかかる。歩兵との相対距離一〇〇。
 マイアもまた練力を全開にし狙撃眼と強弾撃を発動させると大口径ガトリング砲を構えて、それに合わせフルオートで猛射した。スコールの如くに襲い来る弾丸の雨を受けて鬼はその岩の肌を次々に撃ち砕かれ鮮血をぶちまけて倒れる。
 射撃を受けてキメラ達が一気に加速した。快速一番に飛びだしたのは大虎だ。七匹が横一線に広がって迫り来る。次いで炎獅子、やや離れて大蜘蛛、緑鬼、少し離れてスライム、岩鬼と続く。その後方に長大な四本の太刀を持つ体長八メートル程の巨人の影が一つ見えた。
「四刀の巨人‥‥いかにも正統派ボスです、と言わんばかりの風体ですね。恐らくは実力も同様に、でしょうか」
 覚醒しているクレイフェルは眼を細め、抜きんでて巨大なキメラを見据えて呟く。
 歩兵との相対距離九十。七匹の岩鬼は筒状になっている十本の指を向け、猛烈な石弾の嵐を前方へと撃ち放った。装甲車との相対距離一〇〇。アッシュ・リーゲンは強弾撃と急所突きを発動させ重機関砲で岩鬼へと弾幕を解き放った。それを見たクラークは狙撃眼を斜めから突き刺すようにフルオートで射撃し十字砲火を仕掛ける。
 マイアはガトリング砲をリロードしつつ別の岩鬼へと狙撃眼と強弾撃を発動させて弾幕を叩き込む。二門の機関砲から猛烈な弾丸の雨が突きさり、岩鬼の身が次々に弾け飛んでゆく。岩鬼は射撃の途中で仰向けに倒れ、石弾を空へと撃ち放ちながら地面に激突し動かなくなった。もう一方の岩鬼はマイアに撃たれつつも射撃を継続する。
 総計一七〇発の石弾が唸りをあげて水平に飛び傭兵達に襲いかかった。狙われたのはノエル、クレイフェル、ゼラス、クラリア、ティリア、ファルル。距離がある。ノエルは素早く飛び退いての三十発の石弾を全弾回避。クレイフェルもまた僅かに動いて石弾の嵐をすり抜けるようにかわす。ゼラスは二十発を飛び退いてかわすも十発の石弾に捉えられ穿たれた。が、衝撃はさほどでもない。装甲が威力を半減させてくれている。クラリアは機敏に動いて三十発の石弾を全てかわした。この距離ならそうそう当たらない。ティリアは襲い来る三十発の石弾に対し二十発をかわすも十発に撃ち抜かれた。強烈な衝撃が身を貫き骨が嫌な音を立てる。連続で受けると不味い。ファルルは二十発の石弾を上手く弾道を見切って全弾回避した。
 小鳥遊はスナイパーライフルを両手で構えると火炎獣をサイトに納めトリガーを引いた。発砲。跳ね上がる銃身を抑えつつそれを繰り返す。五発のライフル弾が次々に火炎獅子の身に突き刺さり獅子は鮮血をぶちまけて倒れた。
「さぁて、まずは前哨戦だ! 鉛玉は好物だろ? しっかり味わいな!」
 ゼラスは借り受けたアサルトライフルを構えると射撃しながら前進してゆく。弾丸が大虎の身に炸裂し、虎は怒りの咆哮をあげた。
 長英は腕を白く輝かせつつ白色の小銃を構え、狙撃眼を発動。炎獅子へと狙いを定めると連射する。三連のライフル弾が錐揉むように回転しながら炎獅子の身に突き刺さった。獅子の身から血飛沫があがり、怒りの瞳を長英へと向けた。
 ジュリエット・リーゲンは半身になると長弓「クロネリア」に矢を番え構える。左手で銀の弓身を支え、右手で弦と矢を掴みフルドロー。顎付近まで弦を引き絞る。長英が撃った獅子へと狙いを定める。ぎりぎりと音を立てて弓が軋んだ。
「容易く近付けると思うのであれば、その考えは地獄で改めなさい!」
 裂帛の気合と共に撃ち放つ。再度番え、連射。二本の矢が空を切り裂いて勢い良く飛んだ。矢は吸い込まれるように炎獅子の頭部に突き立ち、その肉を抉る。獅子が白目を剥き、泡を吹いて倒れた。
「これ以上来るってんなら、ハチの巣にしてやるよ!」
 九浪は両腕から激しくスパークを巻き起こしながらM‐121ガトリング砲を構えた。炎獅子へと狙いを定め撃ち放つ。高速で嵐の如くに弾丸が吐き出され獅子の身に突き刺さってゆく。鉛玉に体躯を穿たれた獅子は咆哮をあげて九浪へと進路を転じた。
 クラリアはシエルクラインを手に前進しながら射撃する。大虎の身に次々に弾丸が突き刺さってゆく。
 距離が詰る。大虎達は前に出ているゼラスとクラリアへと向かってそれぞれ四匹と三匹づつ、包みこむように迫る。クレイフェル、ノエル、ティリアが迎え撃つべく駆け出す。
「私がいる限り、易々と攻撃はさせないわよ!」
 ファルルはS‐01小銃を構えるとゼラスが銃撃を加えた大虎へと向かって連射した。轟く銃声と共に弾丸が飛びだし虎の顔面に弾丸が突き刺さる。虎の顔面から血飛沫があがった。
 クレイフェルは瞬間移動したが如き速度で飛びだした。瞬天速だ。脚部を淡く輝かせ一気に鎌の間合いまで詰めると両手に持つ大鎌で首筋を狙って斬りつけた。刃が虎の首筋に入る。虎は斬られながらも反撃せんと爪を繰り出そうとする。それよりも前に男は鎌を引き斬った。大虎の首が落ち血飛沫が噴き上がる。
 突っ込んできたクレイフェルに付近の大虎が反応し左右から一匹づつ飛びかかる。ファルルは左の虎へと素早く狙いをつけて拳銃弾を叩きこんだ。虎の動きが鈍る。ゼラスはアサルトライフルを放り捨てるともう一方へ素早く間合いを詰める。
「さぁ本番だ! 推して参るぞこの野郎!」
 宙に居る大虎へと大鎌ノトスを豪速で振り降ろし、胴を貫きながら叩き落とす。素早く鎌を引き抜くと側面から飛びかかって来た別の一匹の爪をかわし、連撃を鎌の柄で打ち払う。
 クレイフェルはファルルの銃弾を受けた虎の飛びかかりを飛び退いてかわす。ゼラスへと爪を振るっている虎の脇へと間合いを詰めるとその後ろ足を薙ぎ払った。赤い色と共に虎の片足が宙に飛ぶ。ゼラスは素早く鎌を構え直し赤光を宿すと虎の眉間目がけてその先端を叩きつけた。切っ先が頭蓋をぶち割って入り、虎が白目を剥いて崩れ落ちる。血を吹きだしつつも虎が爪牙を唸らせ二人へと飛びかかる。ゼラスは素早く飛び退いて回避し、クレイフェルはカウンターの鎌撃で虎を叩き落とした。
「左、インタラプトします!」
 B班。クラリアへと三匹の大虎が向かった時、ノエルは声を発し瞬天速で一匹の虎の側面へと突っ込んだ。
 突進の勢いのままに右の爪を虎の腹へと爪を叩き込む。右を引き抜きつつ左で追撃。血飛沫が噴き上がり虎が怒りの咆哮をあげ、身を捻りざまに爪を振るう。
 ノエルは素早く後退して回避。付近の無傷の大虎が前に出たノエルへと方向を転じ迫る。
「そう簡単にはやらせない‥‥!」
 ティリアの姿が輝き、ふっとその場から掻き消えた。宙に残光を引きながらノエルへと向かう虎の側面に稲妻の如く突っ込む。小太刀の間合いに踏み込むと左右の永劫回帰を振るって連撃を繰り出した。刃が虎の身に炸裂しその身を薙ぎ斬る。虎は土煙りをあげながら身をくねらせて方向を転じ、弾丸の如くにティリアへと牙を剥き飛びかかった。少女は素早く横に跳んで回避する。
 クラリアは銃撃を与えた虎が怒りに瞳を燃やしながら迫ってくるのを見ると、銃を背に納め金属の筒を抜き放った。
「灼け! ウリエル!」
 筒の先から眩い光の刃が出現した。全身を淡く輝かせ、宙に光の軌跡を残しながら雷光の如くに突っ込む。間合いに入ると虎の顔面へと向かって光剣を一閃させる。虎の顔面が焼き切れた。咆哮と共に虎は爪を振り降ろす。クラリアは剣を振り上げながら一歩後退して回避すると十字に二連の閃光を走らせ虎を斬殺した。
 ノエルは爪をかわした後、踏み込むと小太刀を振るって刃の閃光を巻き起こした。虎の脇の首が断裂し鮮血が噴き上がる。虎は瞳から光を失って倒れた。
 ティリアは着地と同時に膝を沈ませると地を蹴り虎の側面へと踏み込んだ。右の小太刀を虎の延髄目がけて振り下ろす。刃が首裏に入る。渾身の力を込めて引き斬った。虎が断末魔の悲鳴をあげながら大地に沈む。
 アッシュとクラークは重機関砲で激しくマズルフラッシュを焚きながら岩鬼へと集中射撃する。四体の岩鬼は虎達の高さの低さを利用して上半身の辺りを狙い石弾の嵐を解き放つ。先にマイアに撃たれた岩鬼は目標を転じマイアへと石弾を撃ち返し、マイアは大口径ガトリング砲で岩鬼への射撃を継続した。
 敵味方の弾丸が戦場を貫いて激しく交差する。前衛陣へと石弾を放っていた岩鬼は二門の重機関砲から繰り出される弾丸の嵐に次々に身を破砕され射撃の途中で倒れた。
 飛来する石弾のうち二十発に捉えられてマイアの身に次々に礫が突き刺さる。強烈な衝撃に身が揺らぎ激痛が走った。
「ぐっ、厄介な!」
 マイアは痛みを堪えつつ駆け、残る十発の弾丸をかわし、ガトリング砲をリロードすると弾丸を撃ち返す。
「岸壁ごと削り落す!」
 放たれた弾幕が岩鬼の身に炸裂してその体躯を割ってゆく。
 間合いを詰めてきている七匹の大蜘蛛が前衛達へと顎を開き白糸の塊を連続して発射する。四匹の炎獅子もまた前衛達へと火炎を飛ばし、一匹の獅子は九浪へと三連の火炎を解き放った。同様に五匹のスライム達も酸の嵐を前衛達へと解き放つ。
 七匹の緑鬼達が槍を構えて突撃してゆく。彼方から四つ腕の巨人が近づいて来る。
 小鳥遊はスナイパーライフルをリロードするとサイトに再び、炎を吐いている火炎獅子を納める。反動を抑えつつ発砲。回転するライフル弾が勢い良く飛び出し、獅子の身をぶち抜いた。千鮮血をぶちまけながら獅子が倒れる。
 長英はファングバックルを再度発動させ腕を輝かせると炎獅子へと銃口を向け発砲する。ジュリエットもまた弓に矢を番えると裂帛の気合と共に撃ち放った。三連の弾丸が唸りをあげて獅子の身に突き刺さり、二本の矢が獅子を射抜く。獅子は頭部から矢を生やしながら炎を吐いている最中でばたりと倒れた。
「うぉっ!」
 九浪へと向けて炎獅子が間合いを詰めて炎の嵐を解き放った。咄嗟に避けんとするもかわしきれない。火弾が次々に九浪に命中しその身を炎に包みこむ。
「ぬるいっす!」
 炎を裂いてドラグーンが飛び出しM‐121ガトリング砲で撃ち返した。唸りをあげて銃口から吐き出された弾丸が獅子の身を次々にぶち抜き炎よりも赤い鮮血の海に沈めた。
 クレイフェルは彼方から飛来した石弾の嵐を上体を逸らし、疾風脚を発動させて小刻みに動いてかわしてゆく。最中、虎が低く這うように踏み込んで来て爪を薙ぎ払った。クレイフェルの姿がふっと掻き消える。瞬天速を発動させ高速で離脱してかわした。側面へと踏み込み回り込むと虎の首を鎌で下方からはね上げて斬り飛ばした。
 ゼラスへも高速で石弾の嵐が飛来し、それに合わせて虎が踏み込んで来る。ゼラスの身に石弾が命中し衝撃に身が揺らいだ。大虎の爪が膝頭に炸裂する。身が傾ぎ、さらに石弾が激突してゆく。一発が額に炸裂して鮮血が吹き出した。
「野郎‥‥ッ!」
 ゼラスは後方に飛び退いて態勢を立て直すと、バリと歯を噛みしめた。練力を全開にし大鎌に爆熱の色を巻き起こす。追撃に迫る大虎の側面へと鋭く回り込むと大鎌を竜巻の如くに薙ぎ払った。虎の首が吹っ飛び、鮮血が噴水の如く噴き上がる。瞬後、白糸の塊と火炎の嵐と酸の嵐がゼラスとクレイフェルに襲いかかった。ゼラスは三連の蜘蛛の糸を素早く飛び退ってかわし、炎獅子の火炎を鎌で切り払って突き破るり、三連の酸の嵐を飛び退いてかわした。クレイフェルは六発の糸の嵐を素早く飛び退いてかわし、直後に直撃コースに来た火炎を瞬天速でスライドしてかわし、直後に飛来した九連の酸の嵐をかわし切れず、六発に呑み込まれた。身が焼け、白煙が噴き上がってゆく。
「ファルル! アッシュ! 背中は任せたぜ! クレイフェル! 突っ込むぞ!」
 ゼラスは言って鎌を振り上げ、火炎を吐き出している獅子と糸を吐いている蜘蛛と酸を吐いているスライム達を目がけて駆ける。クレイフェルもそれに続いた。しかし槍を持った三匹の緑鬼達が走り込んで来て二人の眼前に展開する。ファルルは前を走る二人の間から見える緑鬼へと良く狙いをつけるとS−01を両手で構え発砲した。二連射。弾丸が飛び出し緑鬼の身に突き刺さる。血飛沫があがり怯んだ瞬間にクレイフェルが踏み込み大鎌で首を刎ね飛ばした。
 左右から緑鬼が槍を構えて踏み込んで来る。ゼラスは加速すると赤光を宿した鎌を振るって緑鬼の顔面に切っ先を叩き込み、そのまま薙ぎ払って吹き飛ばした。顔面を潰された鬼が土煙をあげながら大地を転がってゆく。一方へはファルルが二連の弾丸を叩き込み、衝撃に鈍った穂先をクレイフェルはかわすと鎌で首を刎ね飛ばした。二人の男達はそのまま竜巻の如く鎌を振るって緑鬼を斬殺する。
 B班。岩鬼から放たれた石弾が唸りをあげて迫り来る。ノエルは素早く飛び退いて二十発をかわしたが十発に捉えられる。痛烈な打撃だ。身が揺らいだ所へ三連の蜘蛛の糸が飛来し、一発にからめられ、直後に火炎獅子の炎が炸裂した。纏わりついている炎が激しく燃えがり、火がその勢いを増す。
 向かい来る石弾の嵐をクラリアは素早く飛び退った十発をかわしたが、態勢を崩し二波目が直撃コースに飛来する。少女は素早く盾をかざした。盾越しに強烈な衝撃が身を貫いてゆくが、なんとか堪えて態勢を立て直し、飛び退いて石弾の嵐から脱出する。三連の糸が飛来する。金属の筒を納めながらシルフィードを抜き放ちつつ飛び退いてかわす。続く火炎もシルフィードで加速して避けた。ティリアは飛来した三連の糸を体を捌いて回避する。
「上がりますよ!」
 ノエルは言って大蜘蛛の群れを目指して駆け出す。ティリアとクラリアもそれに続いた。四匹の緑鬼が槍を構え叫び声をあげながら突撃してくる。
「突っ込む! 往くよ、シルフィード!」
 クラリアは身を輝かせると風の剣を構え稲妻と化して突っ込んだ。四匹の鬼は揃って足を止め、槍を前方に突き出した。突進してくるクラリアを待ち受ける。瞬間移動するが如き速度で突っ込んでいる。クラリアは咄嗟に盾を翳した。盾と穂先が激突しクラリアの態勢が衝撃に傾ぐ。脚を踏み出して転倒を避ける。三匹の鬼が踏み込み一斉に槍を繰り出す。瞬間、ノエルとティリアがクラリアの左右に出現した。高速戦闘はグラップラーとフェンサーのお家芸である。二人は小太刀を下方から振るってそれぞれ槍の穂先を弾き飛ばした。クラリアは盾をかざして一本の槍を受ける。もう一匹の鬼からの追撃を身を逸らせてかわすと踏み込み、目にも留まらぬ速さで三連の閃光を巻き起こした。刹那の斬撃が走り抜け後、緑鬼の両肩と首から鮮血が噴き上がった。鬼が糸が切れたように倒れる。
 ノエルは槍を跳ね上げながら緑鬼へと踏み込むと左右の小太刀を交差させ、外へと薙ぎ払うように振るい、鬼の首を挟みこみながら撫で斬った。首の両脇から血柱があがり鬼が白眼を剥いて倒れる。
 ティリアは入り身の要領で鬼の側面へと回り込むと駆け抜け様に右の小太刀を振るって鬼の首を刎ね飛ばした。赤い色を舞わせながら鬼の胴体が地に倒れ、舞い上がった首が大地に落ちて転がる。
 ノエルとティリアは左右から連打を加え残る一匹の緑鬼も打ち倒した。
「きやがったな」
 アッシュは呟くと重機関砲に貫通弾を装填、練力を全開にして強弾撃、急所突き、影撃を発動させた。重機関砲の方向を回すと射程内に入り込んできた四刀巨人の下半身へと向ける。クラークもまた気配を霞ませると四刀巨人へと砲口を向け影撃ちを発動させて、トリガーを引いた。
「ティリア殿、ノエル殿! 無理はしすぎるなよ! こっちも出来る限り援護するから!」
 聞こえるかどうかは解らないが、マイアは叫び彼女もまたガトリング砲を巨人へと向けて猛弾幕を解き放つ。二門の銃機関砲が唸りをあげ、交差するようにして怒涛の勢いで弾丸が巨人へと伸び、ガドリング砲からの銃撃が嵐の如く飛んだ。
 四腕の巨人は刀を交差させて上半身を守る。激しい火花が散った。弾丸が刀をすり抜けて身に突き刺さり、さらに下半身に弾丸が突き刺さって鮮血を噴出させる。巨人は大気を震わせるが如き雄叫びをあげ、大地を揺るがして猛然と駆け始めた。
 三体の岩鬼が前衛へと弾幕を解き放ち、一体の岩鬼がマイアへと猛射をかけた。最後の一匹となった獅子が火炎を吐きだそうと口を開いた直後に小鳥遊からの猛射を受けて撃ち殺された。
 ジュリエットと長英は間合いを詰めると電磁波と矢撃を集中させて酸を放出しているスライムを爆砕した。
「火線が集中してる‥‥隙を突こうってのなら、そいつは間違いだ!」
 九浪は装輪走行で駆けて間合いを詰めつつスライムへと弾丸を叩き込んで沈黙させた。
 クレイフェルとファルルの射撃の援護を受けつつ、糸と酸をかわしながら大蜘蛛に接近し大鎌を竜巻の如くに振りまわして五匹を次々に斬り殺していった。
「これを放置するわけにはいきません。交戦から一気に撃破まで持って行くんだ!!」
 ノエル、ティリア、クラリアは石弾をかわしつつ巨人へと向かい、弾幕が収まった瞬間に練力を全開にしつつ接近する。巨人は即座に反応すると地を揺るがしながら踏み込み四メートルを超える大刀を薙ぎ払ってきた。クラリアは咄嗟に飛び退いて回避する。ノエルとティリアはその隙に肉薄し小太刀で連撃を加え切り刻んだ。ゼラスは巨人の後背から近寄ると鎌でアキレス腱を薙ぎ払った。巨人が切り刻まれて鮮血が噴き上がる。
 アッシュ、クラーク、マイアは白兵が始まっている為、狙いを敵の上半身へと移して猛射する。巨人は二本の刀でガードを固めながら残り二本の太刀を振り回して周囲を薙ぎ払う。
「‥‥その片目、射貫かせてもらうわ」
 小鳥遊は貫通弾をスナイパーライフルに装填し練力を全開にして影撃ちと急所突きを発動させると、巨人の瞳を狙い澄まして猛射をかけた。回転するライフル弾が巨人の刀の隙間をすり抜け、眼球をぶち抜き、その奥までを貫通した。巨人は目から鮮血を迸らせながら倒れ、絶命した。まぁ、これだけ集中攻撃を受ければ沈む。


 かくて巨人を打ち倒した傭兵達は、残るキメラも順調に撃破して、正面の敵の殲滅を完了させる事に成功した。
 余裕のある者も数名いたが、多くは大半の練力を消耗し、傷を負っている者も多かったので、第五分隊は控えめに隣隊の支援に回る事とした。能力者達は各所で奮戦していて、やがて歩兵隊は千と数百のキメラ部隊を押し返し、ついには殲滅する事に成功する。
 キメラの突撃を凌いだバーブル師団は前進して親バグア軍へと猛攻をかけ、これを見事に撃破し潰走させる事に成功したのだった。


「やり直しと言うか、また始められないか?」
 アッシュは女にそう言った。
「‥‥貴方も、なんというか‥‥」
 苦笑して女は首を振った。
「狙撃屋だから俺はいくらでも待つ事は出来る。離れてても良い、今度は最後まで一緒に居させて欲しい」
「‥‥誤魔化さずによく考えたみた」
 ディアドラはアッシュを見ると言った。
「私は、隊長である事は捨てられない。前も言ったと思うけど、とても近しい人間を部下とするなら、隊長はその人間に他より厳しく当たらなければならない。切るなら身内からだ。そうでなければ、隊は機能しない。恋人を優先するような女隊長についていく兵士はいない。だけど私は、不公平に貴方に死ねと言うのを嫌だと思う。私が、耐えられないんだ。恋人として縛っといてほっとくのも同じくらい嫌だ。だが隊の運用が最優先だ。そんな暇無い。そういうの、耐えられないみたいだ。私は思っていたより弱く、それに耐えられる程、貴方を愛してはいない。そういう事だと気付いた」
 女はそう言うと去って行った。


 了