タイトル:【BI】デステンプラーマスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/21 08:57

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 先日、荒野の決戦に快勝したバーブル師団は進軍してマリアを占領せしめたが司令部の雰囲気は決して明るい物ではなかった。
「これ以上、歩を進めるのは危険、と?」
 褐色の肌と黒髪を持つ初老の師団長バーブルが仮設の司令部の卓につきつつ問いかけた。
「は、我が軍は先日、決戦に勝利しこのマリアを奪取しましたが、やや突出している嫌いがあります」
 壮年の男が言った。名をバジャイという。階級は大佐、バーブル師団の参謀長を務めている。
「シンド州はおろか、ラクパトすらもまだ遠いと言うのにか?」
「はい、インドの各方面の情勢は、よくよく正確だと信頼出来る情報を集めたところ、予想よりも悪くなっているようです」
 参謀が頷いて言う。
「我々が拠点としているのはヴァドーダラーであり、支えとしているのはアフマダーバードです。このマリアはヴァドーダラーより北西に位置し、アフマダーバードより西にあります」
「うむ」
「このアフマダーバードですが、しばしば攻撃を受けています。かなり劣勢な状況にあり、戦線は日に日に押されている模様です。ドランガトラは抑えてありますが、カーティヤワール半島の大半はバグア軍の占領下にありますし、ここでアフマダーバードが落ちると我々は補給線を断たれて孤立します」
「劣勢だと? アフマダーバードは優勢なのではなかったのか? 敵が戦力を増したのか?」
「‥‥いえ、現地の守備隊長が偽った報告を上げていたようで」
 沈黙が司令部に降りた。
「その守備隊長は?」
「既に更迭されています」
「そうか」
 バーブルはコツコツと指先で卓を叩き。
「ここで、あれこれ言っても始まらん。参謀、我々はどう動くのが最良か?」
「申し訳ありません。この地に陣を築城しつつ確保し、一連隊を派遣して敵の前線拠点となっているヒマットナガル戦陣を強襲、それを以ってアフマダーバードを助け、後方を確固とすべきかと思われます。後は進行速度は遅れますが、より後方を盤石の物とする為にも、半島の攻略にも着手した方が良いかもしれません」
「半島解放か‥‥」
「はっ、我々が与えられた命令はシンド州の攻略であり、半島の攻略ではありませんが、前進した時に後方に敵を置く状態となるは良策とは思えませぬ」
「いずれにせよまずはアフマダーバード、か‥‥シンドは遠いな」
 かくてバーブル師団隷下のバドルディーン歩兵連隊がヒマットナガル攻略を目指し出撃したのだった。


 バドルディーン歩兵連隊はアフマダーバードの守備連隊と合流すると共に北上した。ヒマットナガル守備隊は荒野での決戦を避けて後退し、ヒマットナガルの戦陣に籠っての戦いを選んだようだった。親バグアの守備隊はヒマットナガルの街の周囲に陣を築いて前線基地としていた。
 ヒマットナガルは西と北を河川に囲まれており、街を取り囲むように幾重にも塹壕が掘られている。これを陥落させるのは容易な事ではないと思われた。

●デステンプラー
 バドルディーンは南東に主力を置いてヒマットナガルを半包囲するように展開させた。UPC軍と親バグア軍がインドの荒野で激突する。
 バドルディーン歩兵連隊とアフマダーバード守備隊の連合軍はヒマットナガル守備隊よりも数に置いて倍する程に勝っており戦局を有利に進めて行っていた。能力者を集められたディアドラ中隊は隊の先頭に立ち順調に陣を攻略してゆく。
 親バグア兵達は塹壕を捨て、後方へと退却してゆく。勢いに乗ってさらに突き進むディアドラ中隊の前衛隊だったが、陣の奥深くに入った所で正面の塹壕から一斉に無数の骸骨戦士が出現し、後方の大地の土が盛り上がって無数の動く腐乱死体が出現した。
 西と東の空から大鎌を持った骸骨司祭が黒い翼をはためかせて迫り来る。
「しまったァ! 俺達はァ既にィ囲まれているゥッ?!」
 小隊の隊長を努めている若い傭兵が言った。ガクシィと言う名の光線銃と片手半剣の名手である。腕は良く、度胸も良いが、踏み込み過ぎるのが密かな欠点であった。
 戦場は混戦になっている。戦術的に守るは上手いが攻めるが下手な者は意外に多い。ガクシィがそれであり、多くの兵達がそれである。守りの方が慣れてるのだ。後の先を取るのに大事なのは法であり、先の先を取るのに大事なのも法だが種類が違う。攻勢は特に呼吸と速度が重要になる。有利な状況を組み上げて撃つのが守備なら、敵の組み上げた物に綻びが生じた瞬間を見逃さずに捉え突くのが攻撃だ。
 そして薄くなった一点が、罠か真かを見極められるかどうかは、指揮官の才覚によるところが大きい。すなわち情報の把握能力と勇気だ。ガクシィは後者は保有していたが前者に欠けた。
「不味い不味い不味い、このままじゃ激烈に不味いゼェッ!! ヤローども、一旦離脱だァ! 血路を開いて味方のトコまで後退しロォッ!!!!」
 一旦、自陣へと退却し態勢を立て直せと小隊長は言った。
 ここで攻撃力に長けるガクシィ隊が壊滅するとディアドラ中隊は鋭い槍の穂先を一つ、失う事になる。結果により今後に大きく影響が出そうな撤退戦が始まろうとしていた。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
東野 灯吾(ga4411
25歳・♂・PN
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
優(ga8480
23歳・♀・DF
水雲 紫(gb0709
20歳・♀・GD
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

 黄塵吹きすさぶ荒野の果ての果て、ここはインドの戦陣。
 進軍に控えて人々が足早に行き交う中、陣の片隅で一人の男女が向き合っていた。
 アッシュ・リーゲン(ga3804)は苦笑いしながら頬を掻き言う。
「決心が着いたんでお別れの挨拶とでも言うか何と言うか‥‥ま、短い間だったけどサイコーに楽しかったぜ? ありがとな」
 アッシュはニッと笑ってラフな敬礼を飛ばした。
「これから『人間火力』として手伝わせて貰うんで、改めてヨロシク頼んます大尉どの」
 言葉を受け取ったディアドラは、力が無い笑みを浮かべ、
「そうか‥‥」
 と頷いた。
 そして、少し沈黙してから有難う、すまない、と言った。


 出陣前。
「よろしゅうな。隊長サン、参謀サン!」
 クレイフェル(ga0435)は顔見知りの二人に声をかけた。
「おう、クレイフェルか」
 第五分隊の分隊長を務めるゼラス(ga2924)は顔をあげるとニヤリと笑い、
「こちらこそよろしく頼むぜ? 今回も負けられない戦いになりそうだしな」
「今回もよろしくね。調子はどう?」
 と言うのはファルル・キーリア(ga4815)だ。
 二人はクレイフェルにとってよく見知った相手であったので両者が隊長と参謀と仰ぐのは少し違和感もあったが同時に頼もしさも覚えていた。付き合いがありなおかつ信頼できる相手が頭にいるというのは安心できる。
「悪くないで、脇は任しとき」
 笑みを返してクレイフェルは請け負う。
「それはなにより。あてにさせてもらうわね」
 微笑してファルル。
 やがて作戦開始時刻となりバドルディーン歩兵連隊は出陣となる。ゼラス率いる傭兵第五分隊もまたディアドラ中隊指揮下の傭兵小隊のうちの一分隊としてヒマットナガル市を目指して出撃した。


 砲弾と炎が協奏曲を奏であげるヒマットナガルの戦場。バドルディーン連隊と親バグア軍は激突し激しく干戈を交錯させた。序盤、優勢に戦局を展開したのは数に勝るバドルディーン連隊である。火砲の援護の元に銃弾の嵐を浴びせ親バグアの歩兵部隊を次々に押しこんでゆく。親バグア兵達はやがて雪崩を打って後退を開始し勢いに乗るUPC軍はその追撃に走った。先頭を駆けるのはガクシィ率小隊であり、その隷下にある第五分隊の面々もガクシィ隊に並んで追撃に走る。
 小隊は逃げる敵の背に喰らいつき快調に敵を撃破していった。勢いに乗り敵陣内を突き進む。しかし、小隊が敵陣深くまで入ったその時、異変が起こった。
「いつの間にか‥‥完全に、囲まれてる‥‥!?」
 ティリア=シルフィード(gb4903)が周囲を見渡し声をあげた。小隊長であるガクシィもまた何やら叫んでいる様子だ。崩れた敵の追撃に走った傭兵小隊の面々は合わせたように周囲の塹壕や空より現れたキメラ達によって四方を取り囲まれていた。
「ワナっ!? 最初から‥‥仕組んでた?」
 クラリア・レスタント(gb4258)が機械剣と盾を構えて周囲を見回しながら叫ぶ。
「うぉ‥…ガクシィさんがあんまり速ぇから、おっさん達が遥か後方じゃんよ?」
 東野 灯吾(ga4411)が後ろを振り向いて言った。第五分隊は前衛についていった為、バドルディーン等の本隊から遠く離れてしまっていた。典型的な分断の状況だ。
「‥‥やれやれだぜ」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)が呟いた。
「威勢よく突っ込んでったと思ったら仲良くファンタジーな包囲網のど真ん中かよ」
「見事、という他ないわね」
 く、と呻いてファルルが言った。
(これ、本当にあのキメラ? の仕業なの??)
 伏兵の頭らしき髑髏のキメラを見やり胸中で呟く。キメラが判断したのか、指示を出す者がいるのか、そもそも敵が初めからそのつもりで誘いこんだのか、それとも流れを利用して急遽仕掛けたのか、いずれかなのかは判断できない。しかし事実としてあるのは周囲を完全に囲まれているということだった。
「これは何とも‥‥‥いけませんね」
 水雲 紫(gb0709)が血濡れた月詠を一払いして呟く。
「ど、どうする!?」
 皐月・B・マイア(ga5514)が動揺の表情に浮かべ叫んだ。
「チッ‥‥」
 ゼラスは一つ舌打ちすると副隊長の名前を呼んだ。
「ファルル! 包囲を抜けたい! どっちに行きゃいい?!」
 女は周囲の状況から素早く考える、
「‥‥ここでゾンビのあの群れを突破しようとすると、後ろからあれにざっくりいかれるわ」
 ファルルは彼方より現れ迫りくるキメラの群れを剣の切っ先で指し示した。
「ここは、あの間を突破するのが良策よ」
 剣先をすっと横にずらすと北西の一点、敵の配置の間隙を指す。
「ゾンビを離すって訳だな? 了解だ!」
 ゼラスは言葉を返すともう一つの傭兵分隊の長であり小隊長でもある男に叫んだ。
「ガクシィ! 生存率が高い方に賭けるぞ! 協力しろ!」
「なにィ?! なんか考えがあるのかゼラスゥッ!」
「北西に出る! 隙間へ抜けろ!」
「‥‥後ろじゃなくて前かよっ? 正気か?!」
 ダークファイターの男は眼を白黒させた。
「移動速度の問題よ」
 ファルルが言った。
「ゾンビなら私達に追いつけない。とかく一旦、包囲の外に!」
「‥‥はぁあん? なるほど、面白れぇ! 先導は任せるぞ、援護する、行けッ!」
「了解! 第五分隊行くぞっ!」
 言ってゼラスが走りだし傭兵達はそれに続く。
「やれやれ、ゾンビと戦うのは映画の中だけにしてくれよ」
 隊の後尾を駆けつつクラーク・エアハルト(ga4961)が軽口を叩いた。
「まさかアレが死亡フラグだったってのか‥‥オイ?」
 ペアを組んでいるアッシュ=リーゲンは出陣前のディアドラとの会話を回想してそんな事を呟いている。
「何かそれっぽい事やったんですかアッシュさん? この状況、包囲網を突破しないとなぶり殺しですね」
「まぁな。だがフラグなんざヘシ折って薪にでもしてやるぜ。横と後ろが来たら射撃で払うぞ、援護だ」
「了解、生き残る事を優先しましょうか」
 隣を走りつつクラークが言う。 
「壁役は任されましょう」
 すっと隊の外側へ進み出て水雲が言った。
「同じく盾なら任せろや! 気合でいくぜ!」
 付近を走りつつ剣と盾を掲げるのは東野 灯吾(ga4411)だ。
「先駆けは任せてください!」
 クラリア・レスタント(gb4258)が加速し先頭部へと上がってゆきながら言う。
「了解。一点目がけて突破を。弾が続く限り撃ちまくるから宜しくね」
 小鳥遊神楽(ga3319)がSMGを手に言った。
(「「生き残る! 生きて帰るぞ! 兵としてでも構わないさ! それで姉さんの傍に居られるなら!」)
 マイアは胸中で叫び、そう決意を固める。
「ガクシィ殿! あまり無理しすぎるなよ! 貴方達が崩れると、姉さんの計画にヒビが入る!」
「応よ了解ィ! そっちも無理はすんなよ!」
 ガクシィはマイアの言葉に答えてそう言った。
「さて、難しい戦場を選んできたつもりだったがこうなるとはね‥‥」
 駆けつつジャック・ジェリア(gc0672)は嘆息して呟いていた。
 どうやら機動力で勝負な作戦になりそうだ。だがジャックは周囲に比較すると速度が劣る。隊の平均速度の三分の一以下だ。周囲はジャックが四十進む間に百二十進む。このまま走れば一人取り残されるのは確実であり、一人敵中に取り残される事は死を意味する。
(「命がけの学習機会だ、賭ける物は高いが勝負もせずに良いとこ取りってのも難しいだろ‥‥!」)
 ジャックは胸中で呟き覚悟を決める。
「ガクシィ! 後尾の援護を頼む!」
 隊全体へと視線を走らせていたゼラスが振り返って言った。彼には隊員を見捨ててゆく気はない。
「おうよ、第四、ケツ固めてくぞ!」
 指示を受けたダークファイター達は速度を落としジャックの周辺に展開する。
「見渡す限り、敵敵敵――いっそ壮観やねぇ」
 サイドを固めるクレイフェルが呟いた。数が多い。周囲から寄せて来る敵勢は圧巻だ。きばっていかなあかん、と思う。
(「追い詰められた状況‥‥でも、弱音を吐いていては道を開けない!」)
 ノエル・アレノア(ga0237)は意識を鋭く絞り込む。鉄爪と光剣を手に隊の最後尾を守る。
 作戦は一点突破、乗るか反るか、難しい状況だ。しかしノエルは信じていた。仲間達の事を。きっと大丈夫。
 三十名の傭兵達は一丸となって北西へと駆け、北と南の空から黒翼を持つ骸骨司祭が五体づつ大鎌を手に降下して来ている。
 後方からは三十を数える腐乱死体達が呻き声をあげながら傭兵達を追い、西方からは曲刀と盾で武装した二十体の骸骨戦士が素早く間合いを詰めて来ていた。その奥では骸骨の仮面をかぶった騎士が足を止め静かに全体の動きを睨んでいる。
 激突の時が、迫り来ていた。

●戦闘の開始
 キメラの知能は高くはないが黙って抜けさせる程トンマでも無い。北西へと走る隊の行く手を阻むように竜牙兵達は北上する。ゾンビ達が西進し、隊の側面を挟みこむように黒翼の骸骨司祭が南北から高速で飛来する。斜線と直線は交差し、空を飛ぶキメラは段違いで速い。包囲を抜け出る前に接敵するのは確実だ。肉薄されても無視して走るか、それとも迎撃するか?
 北西を塞がれても速度差がある、全力で走れば傭兵達の大半は竜牙兵を迂回しながら抜けられる可能性は高い。だがその場合、ジャックは一人取り残されて孤立する。99%、ほぼ死亡確定だ。ガクシィ隊がゼラスから後尾の援護するように要請されているからそうはならないが、しかしそれは同時にDF隊も包囲陣の中に取り残される事を意味する。また骸骨司祭ソウルイーターを振り切れる速度ではないのでフリーにさせた場合、後背から狙い澄まされた必殺の一撃を受けるのは確実だ。
 どう動く?
 各員の意思、全速で抜けんとする者が数名、走りつつも肉薄された場合は迎撃の構えを取る者が数名か。難しい状況。
「飛ぶとは厄介ですね。さっさと堕ちなさい――!」
 クレイフェルは駆けつつ借り受けた番天印を空へと向けると肉薄してきた骸骨司祭目がけて連射した。銃声が轟き鉛の弾丸が空を切り裂いて飛んでゆく。骸骨司祭は銃口を向けられた瞬間に西に旋回したがかわしきれずにその身に弾をめり込ませた。襤褸が吹き飛び骨の欠片が空に散る。攻撃を受けたソウルイーターは再び軌道を南へと切り替え急接近する。そこへ再び鉛玉が叩き込まれた。クラーク・エアハルトのSMGだ。男は火力を集中させ嵐の如き弾幕射撃で骸骨司祭を蜂の巣にしてゆく。猛攻を受けた骸骨司祭は襤褸と骨片をばらまきながら失速して落下してゆき激しく大地に激突した。撃墜。
「空! 喰われるぞ!」
 マイアは全力で駆けながら注意を飛ばした。一匹を墜としたが骸骨司祭は北から四体南から五体が高速で接近して来ている。
「足を止めないで! 大丈夫、いけるわ!」
 ファルルは片手で閃光手榴弾を持ちピンを口に咥えて引き抜くと練力を解放し、もう一方の手に持つS−01拳銃でソウルイーターへと射撃をかけた。轟く銃声と共に強弾が黒い司祭へと炸裂してゆく。
 アッシュ・リーゲンは練力を全開にすると目にも止まらぬ速度でシエルクラインの銃口を南へと向けた。骸骨司祭の一体に標準を合わせる。狙いは頭部――敵の動きが速い。ブレる。敵軌道予測に弾道の予測を重ねる。猛射。強弾撃と影撃ちが乗せられた弾丸が勢い良く小銃から飛び出した。弾丸の嵐が宙を貫き骸骨司祭の頭部に炸裂する。ヘッドショット。眉間を貫かれた骸骨司祭が速力を失って大地に堕ちてゆく。
「穢れた者達よ、闇に帰れ! ‥‥ってなワケにはいかねぇのよな」
 アンドレアスは軽口を叩きつつ至近まで迫ったソウルイーターへと練成弱体を発動させた。肉眼では変化は確認できないが効いた筈だ。
 一方、小鳥遊は傭兵隊の頭を抑えに来た竜牙兵の先頭へとSMGを向けトリガーを引いた。連続する重い振動と共に激しいマズルフラッシュが瞬き銃弾が嵐の如くに解き放たれてゆく。弾幕の前に三体の竜牙兵が各所の骨を砕かれ前進速度を鈍らせる。進路を切り開くのが目的だ。しかし残りの十七体の竜牙兵達は倒れた仲間を避け数に任せて後から津波の如くに押し寄せて来る。
 先頭部を走る優(ga8480)はそれを見て取ると月詠を振るって四連の剣閃を巻き起こした。敵は剣の間合いの遥かに外、しかし、
「邪魔です」
 断ち切られた空間が逆巻き音速の衝撃波となって竜牙兵へと飛んだ。衝撃波が唸り、炸裂し二体の骸骨兵が重圧にひしゃげるように砕けながら吹き飛んでゆく。良い威力だ。
「進ませない!」
 クラリアが叫んだ。練力を全開にし進路を塞がせまいと雷光の如き速度で竜牙兵の群れへと突っ込む。淡い残光が宙に軌跡を描いた。竜牙兵の一体は雷が迅るが如き速度で迫るクラリアに対し一歩踏み込みつつ右手に持つシミターを水平に振るった。鋭い斬撃。クラリアは突進しながら深く身を沈めて曲刀の一撃を掻い潜る。頭上を風が抜けてゆく。かわした。
「灼け! ウリエル!」
 裂帛の咆哮と共にその手に握る金属の筒から眩い光の刃が出現した。光が斜めと真横に交差する。竜牙兵の肩口から光が入り、次いで骨盤を閃光が通り抜けた。腰の支えを失った竜牙兵が崩れ落ち、その左右から別の竜牙兵がクラリアの脳天目がけて打ちこみ、足元を薙ぐように斬撃を放つ。少女はその攻撃に即応し素早く身を切り返す。速い。かなりの身のこなし。一撃を盾で払い、二撃目を一歩後退してかわす。だがそこへさらに別の一体が踏み込み曲刀を振り回しもう一体が突きを放った。半包囲されている。一人で抗するには数が多い。クラリアは斬撃を剣で払い、突きを半身に入れてかわす。切っ先が首の端を切り裂いて後方へと抜けてゆく。紙一重でかわした。かわしざま蒼光剣を一閃させ突きを入れてきた竜牙兵の骨盤の端を突く。片足が切断されバランスを崩した竜牙兵が転倒しその攻防の間にクラリアの背後に回り込んだ二体の竜牙兵が曲刀を振り下ろした。一撃がクラリアの頭部に炸裂し、一撃がコートの上から背を強打する。視界が揺れて明滅し、骨が嫌な音を立てて激痛が走る。頭部から銀髪が赤に染まって舞った。
 骨の海に呑み込まれそうになっているクラリアの姿を視界の端に捉えたティリアは練力を解放させて加速した。光を纏い雷の速度で突撃する。クラリアを背後から襲っている竜牙兵の側面まで一瞬で間合いを詰めたティリアは二刀を振るってその背骨を斬り飛ばした。二つに断たれた竜牙兵が地に落ちる。ティリアはさらに前進してクラリアの右方の竜牙兵へと斬り込んだ。
 その時、クラリアの身体から痛みが引いていった。アンドレアスの練成治療だ。クラリアは三方からの攻撃を盾でかわし後退して回避する。
 ティリアは右の小太刀を見せに使って竜牙兵の盾を上げさせると、左の小太刀で盾の脇を縫って腰骨を突いた。鋭い切っ先に骨を抉られた竜牙兵がよろめき別の竜牙兵がティリアの側面へと踏み込んで降り降ろしの一撃を放つ。少女は右の小太刀を頭上に掲げる。重い衝撃と共に小太刀と曲刀の間で火花が散り、刃が耳障りな音をあげながら流れてゆく。受け流した。
 東野は竜牙兵に向かって、ゼラス、水雲は北西へと駆けている。ジャックも北西へと全力移動中。ノエルは隊の最後尾で守備についている。
 ガクシィと十四人のダークファイターは北西へと移動していたがソウルイーターの接近を見て取ると足を止めた。それぞれデヴァステイターとエネルギーガンを空に向け発砲。銃弾が雨あられと飛び閃光が宙を奔った。弱体を受けていた一体が蜂の巣にされて堕ち、さらに閃光の猛射を受けて一体が消し飛ぶ。だが大半は健在だ。移動に行動を割いてる分集中させねば堕ちない。銃撃の嵐を抜けて北から三体のソウルイーターが隊に肉薄して襲いかかり、南からも三体のソウルイーターが突っ込んだ。
 ノエルはうち南からの一体の前に踊り出る。金属の筒から光の剣を発生させると最上段に振り上げ踏み込み振り下ろした。光の一閃。光刃が天から地へと向かって走り抜け、直進する骸骨司祭が身を左右に断ち切られながら堕ち、ノエルの後方で大地に激突した。撃墜。
 一方の先頭部では東野が竜牙兵に迫っていた。ティリアとクラリアを囲もうとしている一翼の先頭へと向かうと、東野は練力を全開にし地を這うように低い態勢から弾丸の如くに突っ込んだ。リーチがある。竜牙兵の剣が届くよりも前に突撃の勢いを乗せ赤輝の剣を一閃させた。カミツレが竜牙兵の腰骨の右から入り左に抜け、その身を上下に立ち切った。崩れ落ちる竜牙兵の脇から別の竜牙兵が飛び出し、シミターを振りかざして東野へと斬りかかる。男はバクラーをかざしてがっしりと受け止めた。剣と盾との間で火花が散る。腕力にものを言わせて盾を跳ね上げ刀身を押し返すと、さらに群がってくる竜牙兵達の攻撃を後退しながら身を捌いてかわし、盾と剣を使っていなしてゆく。
 他方。ゼラス、水雲、マイアの三名は竜牙兵の壁をかわし北西へと抜けていた。が、他のメンバーは未だ敵に接近された状態にあり隊列は延びている。三名だけでこれ以上北西へ走っても良い結果は生まれそうにない。隊長ゼラスは声を発すると踵を返し水雲とマイアもそれに合わせた。
 状況。
 最西部では竜牙兵の群れとクラリア、ティリア、東野の三名が格闘中。そのやや北東、三名が抑えている間にDF達を含めた他のメンバーがほぼ一塊になって北西へと進んでいる。しかしソウルイーターに肉薄され、最後尾のノエルよりおよそ東十メートル程度の距離までゾンビの群れが詰めて来ていた。
 ゼラス、水雲、マイアは一旦包囲を抜けだし南下、各竜牙兵達の背後ないし側面を取らんとしている。
 敵の指揮官格らしきキメラは動いていない。
 激しい攻防が続く。クレイフェルは鎌を振りかざして斬りかかって来たソウルイーターへと拳銃を向け三連射した。骨片が散ったが堕ちない。死神が猛然と鎌を振るう。クレイフェルは踏み込み身を屈めて空からの一撃をかわすと、そのまま骸骨司祭の下方を潜り抜け北西へと走る。
 クラーク・エアハルトの向かって骸骨司祭の一体が突っ込む。クラークはしかし、鎌の間合いに入られるより前に突っ込んで来た骸骨司祭へとカウンターの猛弾幕を浴びせかけた。蜂の巣にされた骸骨司祭が地に落ちる。アッシュ・リーゲンもまた鎌を振るわれるより前にシエルクラインで骸骨司祭の頭蓋をぶち抜いて叩き落としていた。
「ひゅんひゅん飛ぶな! 鬱陶しい!」
 皐月・B・マイアが超機械の杖と指輪をふるって空に蒼光の電磁嵐を巻き起こした。嵐に呑み込まれた骸骨司祭の一体が爆砕されて大地に堕ちる。
 ファルルは強弾撃を継続して発動させつつ宙のソウルイーターへと向けて三連射。骸骨司祭は銃撃を受けつつも突進しファルルの頭部目がけて鎌の先端を振り下ろす。ファルルは身を横に捌いて回避せんとする。肩の端が切り裂かれて血飛沫が舞った。直後、頭上を飛び抜けて行く司祭の背に閃光が突き刺さり爆砕した。ガクシィの射撃だ。
 小鳥遊は駆けながらSMGを取りまわすと東野の側面へと回り込もうとしている竜牙兵の一体へと向けて猛射。銃弾の雨が骸骨戦士を砕き吹き飛ばしてゆく。
 ゼラスと水雲がクラリア、ティリア、東野と斬り合っている竜牙兵の群れへと突っ込んだ。
「組み上げれないぐらい粉々にしてやるよ!」
 赤い死神は裂帛の声と共に豪破斬撃を発動させ大鎌を一閃させる。風が唸り竜牙兵の頭部が断ち斬られて吹き飛んだ。他方からの反撃の刃を装甲の厚い部分に当てて止める。衝撃が身を貫いたが軽い。
「北へ下がって! 今は立て直す時ですよ!」
 水雲は格闘しているメンバーに言うとゼラスの側面を取ろうとしている竜牙兵へ踏み込み月詠で袈裟に斬りつけた。剣閃が走り太刀を受け損ねた竜牙兵が袈裟に断ち切られて崩れ落ちる。その横手から竜牙兵が水雲へと突きかかる。水雲は自身障壁を発動させ扇子を開くとシミターの切っ先をかちあげた。半円を描くように動き竜牙兵との立ち位置を入れ変えると練力を全開にし目にも止まらない程の速度で一撃を繰り出す。鍛えられた月詠の刃が竜牙兵の背骨に炸裂し骨を砕いて大地に沈めた。
「甘い! 和三盆よりもね!」
 水雲は鉄扇を掲げて別の竜牙兵の一撃を叩き落とす。
「そのザマじゃ私の命まで刈り取るなど以ての外ですね」
 女は薄く微笑を浮かべた。
 東野、ティリア、クラリアは並びながら竜牙兵の群れと斬り合っている。東野は頭蓋を狙って振り下ろされたシミターを盾で受けると練力を全開にして剣に赤光を灯した。半身に身を入れざま上段から竜牙兵の手首めがけて斬り降ろす。刃が白骨に命中し鈍い手ごたえと共に切断した。シミターが地に落ちるよりも速くに返す刃で竜牙兵の骨盤を薙ぎ払う。腰骨を抜かれた骸骨の戦士がまた一体崩れ落ちた。
 クラリアが光の刃を閃かせティリアが二刀を振るって竜牙兵を斬り倒す。優は音速波を放ちつつ竜牙兵の右翼の端へと突っ込んだ。音速波が炸裂しよろめいた竜牙兵へと月詠を一閃させて斬り伏せた。六人の戦士は並んで互いをカバーし合いながら竜牙兵達と斬り合いつつ北西へと移動してゆく。
「地面に足付いてるからには、片方でも動かなくなりゃ追いつけないだろ‥‥!」
 一方のジャックは向き直ると後方へと向き直るとゾンビの片足を狙って発砲した。回転するライフル弾がゾンビの腿に突き刺さる。ゾンビは呻き声をあげながら前進する。
(「タフだな。威力が足りない‥‥もっと精密に絞らないと駄目か?」)
 舌打ちしつつまた北西へと駆ける。
「流石に三十人支えるんは難儀だな」
 戦闘経験は豊富なアンドレアスだがこれだけの人数を一人で見るのは彼をしても初めての経験である。ファルル、東野、ティリアへと練成治療を飛ばし北西へと駆ける。治療をかけられた者達の傷が癒え、痛みがひいてゆく。
「おお、天使がいる‥‥男だけど‥‥」
「援護があるのは有難いですね」
 竜牙兵と斬り合いつつ軽口を叩いた東野の言葉にティリアがそんな言葉を返した。
「後ろ、来ます!」
 ノエルが叫んだ。三十体のゾンビ達が東から駆け迫る。交戦しながら移動する傭兵達よりも全力で移動するあちらの方が速い。距離が詰って来ている。肉薄されるまでもう幾許もないか。DF達のうち七名は射撃を集中させて最後のソウルイーターを撃墜し、七名は迫るゾンビ達に銃撃を浴びせ北西へと走る。
 ゾンビ達の先頭がついに最後尾へと肉薄した。殿を守るノエルは向き直ると突っ込んで来たゾンビへと向かって光剣を振るう。光の嵐が走り抜けゾンビが滅多斬りにされて倒れた。
「包囲は脱したわ。後はあいつらを防ぎきるだけよ!」
 ファルルが言った。ゾンビには肉薄されているがソウルイーターは片付け終わっている。前後からの挟撃の位置からは脱していた。傭兵達は足を止め追いついて来たゾンビと竜牙兵に向き直る。
「地獄に還りなさい。貴方のいるべき場所へ」
 クレイフェルが言って炎剣を手にゾンビへと斬りかかった。熱気を帯びた刀身が腐った死人を切り裂く。五連撃。ゾンビは呻き声をあげながら倒れた。別のゾンビが左右からクレイフェルに腕を突き出し振り下ろす。男は上体を反らして一撃をかわし、続く一撃を剣で払ってかわす。一対一なら当たりそうにない。しかしゾンビ達は津波の如く押し寄せてきている。
 小鳥遊は竜牙兵達の数が少なくなってきたのを見てとると目標を西から東南へと移した。包み込むように広がって来るゾンビ達の右翼の端に狙いをつけガトリング砲を猛射、蜂の巣にして打ち倒す。
 ノエルはゾンビからの攻撃を次々にかわしつつ光剣を振るう。四連の剣閃が巻き起こりゾンビがまた一体倒れる。ガクシィがノエルの隣に進み出て光剣を振るいゾンビを胴から斬り飛ばした。
 クラリアはレーザーブレードを振りかぶると最後の竜牙兵めがけて薙ぎ払った。光が炸裂し腰骨を抜かれた竜牙兵が上下に断たれて地に落ちる。竜牙兵を全滅させた五人はゾンビへ方向を転ずる。
 アッシュはシエルクラインでゾンビの頭部を狙って射撃しクラークがそれに火線を合わせる。一体、二体とゾンビ達は破砕され腐肉を撒き散らしながら沈んでゆく。
 マイアはアスモデウスを振るって電磁嵐を巻き起こした。ゾンビの一体が蒼光の嵐に呑み込まれて爆ぜる。
 ジャックはアンチシペイターライフルを構えるとゾンビの膝頭を狙って射撃した。回転するライフル弾が空を切り裂いて飛びだす。連射。三発の弾丸がゾンビの膝に突き刺さりそれを粉砕した。片側の支えを失ったゾンビはバランスを崩して転倒する。
 ダークファイター達はデヴァステイターを構えると連射した。十四人の戦士達から放たれた弾丸は嵐となってゾンビの群れへと襲いかかる。弾丸に穿たれながらもゾンビ達は前進しノエル、ガクシィに襲いかかった。二人は俊敏にかわし、腕を打ち払うが数が多い。やがてかわしきれずに組みつかれ手足に鋭い歯を打ちこまれる。ガクシィが怒声をあげノエルの身に激痛が走った。
 眩い光が宙に軌跡を描いた。ティリアが迅雷で突っ込みノエルの足に組みついて噛みついているゾンビの頭部へと小太刀を突き込む。弾丸が飛来しガクシィに組みついているゾンビの一体の頭部を粉砕した。ファルル・キーリアのS‐01だ。攻撃を受けたゾンビ達が痙攣し、その身から力が抜けてゆく。
「生憎、まだボク等は君たちのお仲間に入れてもらうつもりはないんだ!」
 ティリアは言いつつ太刀を振るって斬りつけファルルが拳銃を連射する。ノエル、ガクシィは手足を振るって組みついているゾンビ達を吹き飛ばした。
「へ、お前らもゾンビ兵にしてやっから心配すんな。倒れたくっても俺が許さねぇ」
 アンドレアスがガクシィとノエルに練成治療を連打した。ゾンビから受けた傷が瞬く間に快癒してゆく。
 ゼラス、東野、水雲が駆けこんで来て嵐の如くに鎌と太刀を振るう。ゾンビ達が切り裂かれ薙ぎ倒されてゆく。
「閃光手榴弾を投げるわ! 注意して!」
 ファルルが叫んで手の中で保持していた榴弾をゾンビの群れの中に投擲した。
「3、2、1‥‥爆発!」
 東野は盾を掲げて光を避けんとする。閃光と轟音が荒れ狂った。ゾンビ達が咆哮をあげて動きを止める。
「蹴散らせ!」
 東野以外の前衛組は防ぎ損ねて閃光と轟音に巻き込まれたがそれでも好機と見てゼラスが叫んだ。大鎌が振るわれゾンビが裂き飛ぶ。傭兵達はその号令の元、一斉に猛攻をかけ次々にゾンビ達を打ち倒していった。

●かくて
 傭兵達はアンドレアスの支えの元に交戦を続け、一人も倒れる事なく二十秒の後にゾンビの群れを全滅させた。その頃には東へ百と数十メートルの所に本隊が近づいてきていた。
 キメラの指揮官らしき髑髏は虚ろな眼窩でその光景を眺めそして踵を返して撤退していった。動かず戦場を観察していた髑髏は最後まで交戦には入らなかった。
 傭兵達は本隊と合流するとヒマットナガル市へと進撃し、掃討戦の末にこれを奪取した。
 親バグア兵は撤退に移ったが、三方からの攻撃を受け、一方を川に塞がれていた彼等は、市で大半が討ち取られ残りも渡河の最中に沈められた。
 UPC軍の完全勝利であった。



「とりあえず、また一つ――ですかね」
 クラーク・エアハルトは珈琲を皆に振る舞いつつ自身もカップを手に空を見上げた。
 一歩、一歩、確実に。
 赤い空を背景に地球の軍旗がはためいている。ヒマットナガル市は、解放されたのだ。



 了