タイトル:【BI】ラクパト侵攻戦9マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/31 06:17

●オープニング本文


 インドに駐屯するバーブル師団は国土の防衛と共にパキタスタン国のシンド州の攻略を目指していた。
 最終的な攻略目標は州都のカラチであり、次に主要都市であるハイデラバードである。しかし現在の戦況は一進一退であり、カラチの解放はおろかシンド州にさえ踏み込めないでいた。
 現在の第一の攻略目標は国境付近の街ラクパトである。ここを奪還して橋頭保としシンド州を窺いたい。だが親バグアの守備部隊の前にこれまでに行われた奪還作戦は悉く失敗している。
 二〇一〇年初頭、バーブルは師団を再編し準備を整えると再度ラクパトの解放を目指して部隊を進撃させた。彼の師団は過去には能力者の割合が少なかったが、新たに配属された中隊長の言を聞きいれ、大量の傭兵を雇い一時的とはいえ能力者の比率を増大させていた。
 バーブル師団の進撃に対し親バグア側も迎撃の軍を繰り出し、両者はラクパトの南東、砲火により地形を変え、今や更地と化した荒野で激突したのだった。


 戦の序盤は空から始まる。
 両軍の頭上ではKVとHWが死闘を繰り広げていた。数の上ではKV隊が勝っていたが、HWも頑強に抵抗している。どちらが優勢、とは一口にはいえないようだった。
 次に射程数キロを誇る自走砲や戦車同士の撃ち合いが始まる。ジャミングが激しいこの時代、そう簡単に当たるものではないが、数を集めて面で薙ぎ払えばやはり効力を発揮する。
 両軍の兵士達の付近に次々に砲弾が突き刺さり、大地が爆砕され、直撃を受けた兵士や砲が四散して炎と共に散ってゆく。
 砲の撃ち合いではバーブル師団の方が優勢にあるようだった。今回の編成ではバーブル師団は長距離砲の比率が多い。敵の戦車や自走砲が次々に破壊され、敵方から飛んでくる弾の数が減って来る。
 砲火をかいくぐって親バグアの隊が津波のように前進してきていた。千と数百を数えるキメラ部隊である。頑健な肉体とFFを持つキメラ達は、砲の一発や二発ではそう簡単にやられない。
 過去の交戦ではこのキメラ部隊の突進を止められず、バーブル師団は痛打を受けて火砲群を失い、撤退の憂き目を見ていた。
「よしきた皆の衆、出番だぞッ!!」
 指揮戦車の中にいる黄金の髪の女が無線を片手に言った。名をディアドラ・マクワリスという。UPCインド軍の大尉だ。歩兵中隊の指揮を任されていた。今回、傭兵を大量に動員するように提案したのも彼女である。
「前に出て展開し向かってくるキメラを食い止めろ! だが無理はするなよ。敵を撃破し、自分は生きて帰る、それが優れた兵士の条件というものだ!」
 能力者を中心とした歩兵隊は前に出て横一線に散って並ぶ。それはディアドラが指揮する中隊だけでなく、その左右にも同規模の中隊が並んでいる。それらの中隊の隣にもまた能力者を中心とした中隊が散兵となって並んでいた。小銃を手にしている者が多い。銃のラインだ。
 火砲の比率を多くしてアウトレンジから火力で制圧し、それを突きぬけて突っ込んで来るキメラに対しては能力者達で止める、というのがディアドラがあげた方針だった。シンプルで解りやすいが、なかなか博打に近いものがある。能力者達が突進してくるキメラの軍勢を止められなければ、成すすべもなく蹂躙され敗北するだろう。
「この作戦、吉と出るか凶と出るか‥‥」
 師団長のバーブルは指揮所の中で腕を組み表情少なく呟いたのだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
リスト・エルヴァスティ(gb6667
23歳・♂・DF
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 バグア軍との激突より少し前。インドの北西部の競合地帯。
「こんな怪我、唾でもつけとけば治るであります」
 重傷を負っている美空(gb1906)はUPC軍の陣中で中隊の指揮官である金髪の大尉と向き合っていた。
「いや待て、その怪我で前線は無理だ。無茶は許可できない」
 大尉のディアドラは少女に対してそう言った。それに美空は答えて言う。
「大丈夫であります。確かに、銃持て戦えないのは美空が一番解っております。AU−KVをまとって前に立つなど論外。故に、隊に二台配属される装甲車のうち一台について戦闘状況の観測を行いたく思います」
「観測か‥‥うーん、それなら後ろに位置していれば大丈夫、かな‥‥?」
 うむむと顎に指をやって唸りつつディアドラ。
「やってみせるであります」
 美空は中隊長を見据えて言った。身体は言う事を聞かないが、戦意だけは並々ならぬものがある。
「解った。けど決して無茶はしないでくれよ。君はここで死ぬべきではない。実力は発揮してこそだ。無理せずよく車両長や仲間と相談して動いておくれ」
「はっ」
 敬礼して少女は言った。
 そんな陣中にあって広がる荒野を眺め、遠くに来たものだと思っている女が一人いた。
「色々な戦場を巡り巡って‥‥今度はパキスタンですか」
 鳴神 伊織(ga0421)は感慨を込めて呟いた。正確にいえば最終目標はパキスタンであるが、まずはそこへ侵攻する為の足場を作ろうという事なので、未だインド領ではあるのだが、しかし諸国を渡り歩いてるのに違いはない。
 まあ、自分らしいといえば、らしい感じもする、と鳴神は思う。
「こういう雰囲気嫌いじゃじゃないよ」
 緊張感に満ちている陣の様子を眺めて風間 千草(gc0114)が言った。
「俺はインドのこっちのほうを攻めるのに参加するのは始めてなんですが、結構な激戦区のようですね」
 とカルマ・シュタット(ga6302)。
「今回は歩兵戦ですが、気をつかないように気をつけますよ」
「ふむ、最初は傭兵の割合か少なかったから志願したが‥‥このメンツなら、安心だねぃ」
 ゼンラー(gb8572)が顎を撫でながらそう呟きを洩らした。
「拙僧も、がんばってケツを持たなくてはねぃ」
 傭兵達はそんな事を話しつつ集合し作戦を打ち合わせる。過去の交戦記録から推察すれば敵はキメラの部隊を繰り出して来る可能性が高いようだった。それを撃退するのがディアドラ中隊に求められる役割である。
「あんのんさん、この戦い、その堅いパンツに期待しているよぅ」
 ゼンラーはムーグの言葉に頷くとUNKNOWN(ga4276)へとそう声をかけた。男は一言、二言、ゼンラーに言葉を返した。なんでも司令部から隣隊前に展開するキメラがこちらへ流れてこないよう右面を固めにゆく事を要請されたらしい。
「なるほど、それじゃ仕方ないねぃ‥‥」
 ゼンラーはそう言った。代わりに黒コートに身を包んだ傭兵が増援される事となった。UNKNOWNほどの実力者ではないが、スナイパーにしてはなかなかタフなのでゼンラーの護衛くらいならば出来るだろう。なお彼のコードネームはSTANDと言うらしい。
 傭兵達が各種迎撃手順の確認を終えた時、二百三十センチ超を誇る長身と小麦色の肌を持つ男が言った。
「‥‥モウ、アフリカのヨウナ場所、ヲ、作ラセナイ、タメにモ。ココハ、敵キメラヲ、殲滅シマス」
 ムーグ・リード(gc0402)だ。バグア軍の侵攻により、アフリカから逃れてきたという経歴を持つ。
「アフリカの‥‥貴方は、そうか‥‥」
 ディアドラが呟いた。
「ムーグ、有難う。どうかお願いするよ、この星の未来の歴史の為に、その力を貸してくれ」
 男を見上げて大尉はそう言った。


 バーブル師団は進路を北西へと向けて出発した。エレナ・クルック(ga4247)は美空が銃手を務める装甲車に同乗し、赤く染まった包帯を巻きなおし、銃座の高さを美空に合うように高さを調節しておく。身体への負荷を少しでも減らすように務めた。
「気休めにしかならないかもしれませんけど、辛くなったら使ってくださいです」
 エレナは鎮痛作用のある錠剤を美空へと渡した。通常、申請しても降りる物ではないが、今回はディアドラが便宜を図ってくれたらしい。
 師団は荒野を進み、やがてバグア軍と対峙した。砲弾が飛び交い焔の華が乱れ咲く。砲撃戦が佳境を迎えると予想の通りにキメラの軍勢が繰り出されてきた。
「‥‥凄イ、足音、デス‥‥見エテキマシタ、ネ」
 装甲車の銃座に構えるムーグがそれを眺めて言った。
 傭兵達はディアドラから迎撃の指令を受け取り前に出る。
「敵を倒して生きて帰ってこそ優れた兵士か‥‥同感だな」
 神撫(gb0167)がディアドラの言葉を聞いてそう呟きを洩らした。
「全員生きて帰ろう。無理はするなよ」
「了解。背中に天使がいるんだ。鬼でも加護ぐらいくれるだろうさ」
 リスト・エルヴァスティ(gb6667)がコンユンクシオを抜き放ちつつ答えた。
(「先陣を切るのは得意だ。どんな状況でもなんとかしてみせるさ。俺はいつもそうしてきた。ライオンだろうが、蜘蛛だろうが、鬼だろうが、つけられた渾名分の仕事ぐらいするさ」)
 大剣を構え迫り来るキメラの群れを見据える。
「ふぅ‥‥わらわらと‥‥よくもまぁ湧いてくるものだな‥‥」
 漸 王零(ga2930)が煙草を吹かしつつそう半ば呆れたように言った。
「とても沢山の軍勢でけど‥‥何とかしなければなりませんわね!」
 とロジー・ビィ(ga1031)。周辺の地理は既に頭に叩き込んである。なかなか労を惜しまぬ性格のようだ。
「これまた多いねぇ‥‥ハンティング場にしたら、儲かるんじゃないの?」
 そんな不敵な事を言っているのは須佐 武流(ga1461)だ。口端を上げて笑みを引きつつ靴の先に爪を取りつけ、装甲車上から飛び降りる。
「緊張、いや、わくわくするね」
 同じく不敵な事を言うのは風間 千草(gc0114)である。本当はとてもシャイな性格であるのは秘密だ。
「厳しい状況ですが、私は私なりにこの槍と共に最善を尽くすのみです」
 浅川 聖次(gb4658)が長さ1.8mのランス・ザドキエルを手に言った。神の正義の名を冠した、深蒼の柄と同色の飾り布を持つ美しい槍だ。
 傭兵達は銘々に覚悟を決めると爆炎を突き抜け津波の如く押し寄せる千と数百のキメラを待ち受ける。エレナは双眼鏡を用いて敵勢を観察した。第九傭兵分隊に向かってくるのは四十と数匹程度か。その中に焔を纏った体長八メートルを超える巨大な鬼の姿が混じっているのが見えた。
 数としては正面に展開しているのは大虎七、炎獅子七、大蜘蛛七、緑鬼七、スライム七、岩鬼七、そして火炎鬼が一、その足並みは揃っている。どうやらある程度の統率は取れているようだ。
「うっわ、筋肉剥き出しか‥‥あれ、痛くないのかねぃ。感染とか、大丈夫なんだろうか‥‥サイエンティスト的に考えて」
 火炎鬼の姿を見てとってゼンラーがそんな事を言った。キメラ故に大丈夫なのではなかろうか、案外、病気に弱かったりするのかもしれないが。
「‥‥ん? あれってゼンラの神様的にはすごくアリなんじゃないかねぃ‥? うわ、うらやま‥‥けしからんなぁ」
 怪僧はそんな事を言いつつもムーグと美空の重機に練成強化を発動させている。皮膚すらないとなれば、ゼンラ過ぎると言えばゼンラ過ぎる。それはそれとして、重機の砲身が淡い光に包まれていった。
 距離が詰る。キメラが迫る。
 須佐は突撃するタイミングを計る。彼が狙うは火炎鬼のみ。立ち塞がるなら相手になるが、他は極力仲間に任せたい所。銃も特に必要はない。須佐は己の拳と足の方が信じられる。
「他分隊は手筈通りラインから動かず銃撃によって迎撃する模様」
 美空が無線に言った。他は基本的に待ち戦法らしい。ロジー、藤村 瑠亥(ga3862)、漸、神無、リストは須佐と同様前に出る姿勢のようだが、一分隊だけ突出する訳にもいかない。ある程度まで敵を引きつける必要がある。ロジーは無線に閃光手榴弾を使う旨を告げると投擲した。五十メートル程を飛んで転がる。三十秒後に爆発の予定。
 距離が詰る。ムーグ・リードは強化された重機関砲を回すと銃口を岩鬼へと向けた。
「銃弾、ノ、スコール、ヘ、ヨウコソ‥‥恵ミ、ノ、雨、DEATH」
 言いつつ、プローンポジションと強弾撃を発動、フルオートで猛射した。唸りをあげて弾丸が飛び、岩鬼の身に次々に弾丸が突き刺さる。岩鬼は弾丸を受けながらも前進する。他のキメラ達が一気に加速した。
 ムーグは練力を全開にしながら銃機で弾幕を継続する。岩鬼は銃撃を受けつつも筒状になっている指を向けムーグの乗る装甲車へと石弾を連射した。弾丸と石弾が交差する。重機の集中弾幕を受けて岩鬼が鮮血を吹き上げて倒れ、石弾の直撃を受けて装甲車が大破した。前輪が外れて移動が不能になる。
 六匹の岩鬼は両手の指を向け傭兵達へと一斉に石弾を撃ち放った。総計百八十発の石弾が嵐となって傭兵達へと襲いかかる。狙われたのは風間、カルマ、須佐、エレナ、リスト、ロジーの六名、三十発づつ飛んだ。風間の身に石弾の嵐が炸裂し衝撃が女の身を貫き、激痛が身体を走り抜ける。カルマは素早く飛び退いて全弾を回避した。須佐も小刻みに身を捌いて石弾をかわしてゆく。エレナは半数をかわしたが残りに直撃を受け、鈍い音が鳴った。リストの身に石弾の嵐が直撃し鮮血が舞った。ロジーは迫り来る石弾の嵐に対し素早く横にスライドする。石弾の嵐が身の側方の空間を貫いてゆく。かわした。
 迫り来る敵キメラの先頭は快速で走る七匹の大虎。横一線に広がって迫り来る。次いで炎獅子、やや離れて大蜘蛛、火炎鬼、緑鬼、少し離れてスライムだ。数は火炎鬼を除いてどれも七。六匹の岩鬼は後方に構えている。
 美空は状況を無線で各員に通達する。
「敵勢、ほぼ横一線に前進中。突撃予定者は囲まれぬように注意であります」
 鳴神伊織は小銃スノードロップの銃底を肩に当て、先頭を走る大虎の胴をサイトに納める。この大虎種のキメラとは幾度となく交戦している。己の攻撃に何発程度耐えられるかは既に知ってるか。トリガーを引き反動を抑えつつ発砲、二連射。素早く取り回し二匹へも二連射、三匹目へリロードしつつ二連射、四匹目へと一発の弾丸を撃ち放った。回転するライフル弾が唸りをあげて飛び、四匹の大虎が次々に胴をぶち抜かれ、三匹が肉片と鮮血を撒き散らしながら転倒し土煙りをあげながら地面を滑ってゆく。四匹目は血を流しつつも怒りの咆哮をあげ、鳴神へと進路を転ずる。
「数が多いな。手を焼きそう」
 カルマ・シュタットは練力を全開にするとアンチシペイターライフルを構えると大虎の後方から迫る炎獅子へと狙いをつけ連射。五連のライフル弾が空を切り裂いて飛んだ。弾丸は炎を纏った獅子の身に次々に突き刺さる。獅子が鮮血をぶちまけて倒れる。
 神撫は突撃銃をフルオートに入れて薙ぎ払った。虎と獅子と蜘蛛へと弾丸が飛び、それぞれの身を穿ってゆく。キメラ達が怒りの声を発し神撫へと進路を転ずる。
「敵がわらわら‥‥ろくに狙わなくても当たるってすげぇ」
 突撃銃の弾はフルオートで撃つとすぐ切れる。神撫はリロードせずに銃を背に納めるとラジエルと羅刹の二刀を抜き放った。
 ミカエルに身を包む浅川は和弓「梨揺」を手に半身に構える。
「この場を守れずして、大切な人を守ることなど‥‥!」
 弓身を左手で、右手で弦と矢を掴み、両手を掲げ、弓身を押しながら弦を引き、降ろしながら左右に開く、伸ばした左の人差し指を先に鳴神に撃たれた大虎へと向け、裂帛の呼気と共に撃ち放つ。勢い良く矢が飛んだ。素早く矢を番え連射。二本の矢が錐揉むように回転しながら大虎に突き立ち、身を穿った。大虎が横倒しに倒れ、土煙りをあげながら転がる。
「気合いれていくわよ」
 風間はスコールSMGを構えると神撫へと走る大虎目がけて弾幕を解き放った。四十五発の弾丸が嵐の如くに大虎へと襲いかかる。虎の身を次々に弾丸が穿ち、血飛沫を吹きあがらせた。虎は口から泡を吹いて倒れる。
「久々に、騒々しい戦場だねぃ。全く、いつ来てもココは‥‥」
 ゼンラーは両手に持つスノーグローブを宙へと翳し揺らすと、練成治療を発動させた。風間、エレナ、リストの傷ついた細胞が再生し痛みが引いてゆく。
 迫り来るキメラへと視線を走らせる。ふと筋肉質の怪僧の脳裏を言葉がかすえた。すわなち、キメラは何を思って戦場に立つのだろうかと。
(「こういう、ライオンちゃんとか見てても、意思がないとは思えんが‥‥」)
 彼等は人間を殺戮する為に作られた。故に戦場に立つのが使命。されど人語を語らぬ彼等が何を思うかは、それぞれのみが知る所。
 エレナは借り受けたアサルトライフルをセミオートに入れると大蜘蛛へと向けて発砲した。連射。三連の弾丸が勢い良く飛び出し、蜘蛛の身へと次々に突き刺さる。蜘蛛は奇声を発すると、その無数の瞳をエレナへと向けた。巨大な八本の脚を高速で動かしてエレナへと迫る。
 須佐、ロジー、藤村、漸、リストがそれぞれ走り出した。距離。大虎は眼前まで来ている。獅子と大蜘蛛は距離二十で足を止めた。火炎鬼と緑鬼も二十メートル程度を前進中。スライムは四十、岩鬼は九十。
 大虎の一匹が藤村へと牙を剥いて飛びかかる。藤村は低い態勢で加速すると側面を掻い潜りざま虎の後ろ足を小太刀で斬り飛ばした。虎が血を噴出させながら大地に落ち、藤村は振り返らずそのまま岩鬼目がけて駆け抜けんとする。片足を失くしてもがく虎は美空が重機関砲で追撃を入れて撃ち殺した。
 リストは神撫へと向かう虎へと間合いを詰めると、それに反応し飛びかかって来る大虎に対して、その爪が身に届くよりも前に大剣を振り上げ叩きつけるようにして振り下ろした。カウンター。虎の顔面にコンユンクシオが炸裂し、鈍く重い手ごたえが両腕に伝わる。踏ん張る両足がすれて土煙があがった。虎が地面に落ち低く爪を振るう。リストは練力を全開にすると流し斬りと両断剣を発動、大剣を脇にスライドして踏み込む。左の脛を爪がかすめた。痛みを無視して踏み込み、駆け抜けざまに払い抜け、返す刀で薙ぎ払う。虎の身から盛大に血飛沫があがった。どぅっと音を立てて大虎が横倒しに倒れる。
「‥‥車輪ガ、駄目ニナッタ、ヨウデスネ」
「いきなりでスマンが避けられんかった」
「イエ、アリガトウゴザイマシタ。後ハ、お任セ、ヲ‥‥死ナナイデ」
「悪い、頼んだ!」
 軍兵は衝撃で怪我を負ったらしくよろめきながらも装甲車から出て低い姿勢で後方へと歩き出した。ムーグは運転手の軍兵と言葉をかわしつつ動かなくなった装甲車の上で重機の砲門を回転させ火炎鬼へと続く間のキメラへと向けて掃射する。
「道ヲ、拓き、マス! ソノ間、火力、の底上ゲ、御願い、シマス!」
 鳴神が炎獅子へと向けてスノードロップの銃口を向け発砲。
「当たって!」
 エレナは大蜘蛛へと二連の電磁嵐を巻き起こすと火炎鬼に対して練成弱体を発動させる。風間はブリッドストームを使おうかと思ったが、前衛を巻き込む恐れがあるのでSMGで大蜘蛛へと弾幕を張った。
 六体の岩鬼が石弾の嵐を飛ばす。火炎鬼と緑鬼以外の前衛は高さが低いのでその上を狙って射線を通す。火炎獅子が炎を吐き出し、大蜘蛛が口から糸を解き放った。
 敵味方の射撃が激しく交錯する。
 風間の射撃にSTANDが狙撃銃で合わせ大蜘蛛が奇声を発しながら体液を噴出させて倒れる。石弾が飛来して女の身を激しく打った。STANDが蜘蛛から放たれた糸に絡め取られる。エレナから放たれた蒼光の電磁嵐を受けて大蜘蛛が体液を撒き散らしながら弾け飛び、直前に放たれた糸がエレナの身に粘着し、飛来した三十連の石弾が次々に突き刺さった。痛みと衝撃に視界が揺らぎ、片膝をつく。火炎鬼に外見上の変化はないが、恐らく弱体化された筈だ。鳴神はスノードロップを連射して火炎獅子の一匹を撃ち抜き鮮血をぶちまけさせて撃ち倒す、上体を逸らして大蜘蛛から放たれた糸をかわし、素早く飛び退いて火炎をかわした。唸りをあげて迫り来た石弾の嵐が身に命中したが、軽い。装甲で弾き飛ばすと、リロードしつつ小銃を連射し火炎獅子を一匹、二匹、三匹と撃ち抜いてゆく。二匹が倒れ、一匹は生きている。カルマは獅子から放たれた飛び退いて炎をかわし、岩鬼から放たれた石弾も素早く上体を伏せてかわすとライフルを背に納め、代わりにスコールSMGを取り出して二匹の緑鬼へと弾幕を解き放った。緑鬼の一匹が倒れ、一匹が怒りの叫びをあげてカルマへと迫る。
「オイお前ら‥‥俺の邪魔を‥‥するんじゃねぇぇぇっ!!」
 快速で飛びだした須佐は吼えつつ、獅子から放たれた三連の炎を突進しながらかわし、続いて飛来した三十発の石弾も小刻みに動いてかわす。緑鬼が二匹、槍を構えて須佐へと向かおうとしたが、ムーグと美空の重機に撃たれ一匹が倒れ、一匹が方向を転じた。
「岩鬼の射撃が厳しいであります!」
 美空は後方から全体の戦況を見やりつつそう無線に声を飛ばす。
 火炎鬼が迫り来る須佐の方を見る。男が突っ込む。大鬼は左右の手に持つ戦斧に爆熱の火を宿すと須佐へと向かって踏み込み、袈裟に振るった。赤い閃光が空を断裂する。
「うぉっ!」
 予想よりも鋭い一撃に須佐は足を止めると咄嗟にベルアルの手甲を翳し外へと受け流す。腕を猛烈な衝撃が貫き火花が巻き起こり、斧に宿る炎に呑まれた。熱い。続く連撃を須佐は後退しながら回避する。
 漸王零は突進しながら獅子の火炎をスライドして回避すると火炎鬼を見て言った。
「鬼が相手か‥‥なら。我もまた鬼となろう!!」
 男は身より黒銀の粒子を発生させると紫電を巻き起こしながら顔に仮面を、身に鬼神の装具を顕現させる。火炎鬼が発生した光に視線を走らせる。
「武流!」
 漸は吼えると閃光手榴弾を取り出し放り投げ、ショットガンを抜き放つと火炎鬼へと向けて発砲した。散弾が大鬼の顔面へと襲いかかる。鬼は素早く斧をクロスさせて眼前に掲げ弾丸を受け止める。その隙に須佐は右サイドから鬼に肉薄し脚爪「オセ」で大鬼の膝裏を蹴り抜いた。衝撃に火炎鬼の膝が折れ、その身が傾ぐ。散弾を追いかけるように飛びこんだ漸は左手に持つ長さ三メートルという大刀、国士無双を振りかぶり、竜巻の如くに薙ぎ払った。鬼の左膝が切り裂かれて血飛沫が吹き上がる。鬼の巨体が仰向けに倒れ地が揺らぎ土煙があがった。須佐はすかさず駆けよってその鎖骨へと一撃を繰り出さんとする。瞬間、視界の隅から閃光が飛来し、男は素早く反応して身を伏せた。斜め上方から炎を纏った斧が頭上を颶風を巻き起こして薙いでゆく。左の斧が大地を爆砕して突き刺さった。鬼はそれを支柱に素早く起き上がらんと身を起こす。漸が踏み込んで大刀を落雷の如くに振り降ろし右脛に叩きつけた。鬼の咆哮が響き渡る。
 ロジーは前方に駆けながら岩鬼から放たれた石弾をかわし岩鬼目指して突き進む。途中に居た大蜘蛛へと進路を曲げると振り下ろされた前足を潜り、爆熱の耀きを宿した右の小太刀で掻っ捌きながらすり抜ける。大蜘蛛の身から血飛沫が吹き上がった。左の小太刀を一閃させ、再度右の小太刀を突き込んで引き抜く。大蜘蛛は断末魔の奇声を発しながら痙攣し息絶えた。再び岩鬼へと駆ける。
 走る藤村の眼前に二匹の緑鬼が立ち塞がり左右から槍を構えて突きかかる。藤村は穂先を掻い潜ると右の鬼の懐に飛び込んで足を切り裂き、左の鬼へと踏み込む。右の鬼は膝をつきつつも身を捻りざま薙ぎ払うように藤村の背へと槍を繰り出し、左の鬼が藤村を迎え撃つように槍を繰り出す。背後からの一撃が男の背を叩き、衝撃に身が揺らぎ、刃が迫る。男は正面から突きだされた槍を小太刀で跳ね上げ、踏み込み、すれ違いざまに鬼の足を薙ぎ払った。噴き上がる鮮血を尻目に岩鬼へと駆けてゆく。背中の打撃は少し効いたが致命傷には遠い。
 神撫に向かって二匹の大蜘蛛から六連の糸が放たれ、二匹の獅子から放たれた火炎が男に襲いかかる。神撫は素早く身を捌いて糸の大半をかわしたが残りに絡みつかれ、六連の火炎が次々に炸裂した。男の身が炎に包まれ蜘蛛の糸が激しく燃え上がった。神撫は二刀を振り炎を裂いて飛びだすと火炎獅子へと間合いを詰め、左右の刀を振るって三連の剣閃を巻き起こした。刃が炸裂し獅子の身から血飛沫があがってどぅっと倒れる。
 浅川は蜘蛛から放たれた糸を素早く飛び退いてかわす。
「どうも、射撃戦は性に合わないみたいですね」
 青年は苦笑して言いいつ弓を置き、槍を手にすると装輪走行で走りだした。
「神の正義の名を冠するこの槍にて、お相手しましょう」
 厳しい表情ながらも少し嬉しそうに言って、AU−KVを唸りをあげて突き進めながら猛然とカルマへと迫る緑鬼へと迫る。鋭い叫び声と共に迎撃するように繰り出された槍に対し僅かに身を傾けるとAU−KVの装甲に当てて弾き飛ばし、すれ違いざまにランスを繰り出した。ザドキエルの切っ先が鬼の顔面にめり込み、貫いて破砕し、ふっ飛ばした。首を失くした鬼が噴水のごとく鮮血を吹き上げながら膝をつき、崩れ落ちる。竜騎兵は土煙をあげながらそのまま装輪走行で駆けて行った。次の獲物を探す。
「ほい、治療治療」
 ゼンラーが言ってスノーグローヴを掲げ、練成治療を発動させる。エレナに二重、風間に一重、二人の傷が癒え、痛みがあっという間に引いてゆく。
「さて、まだまだ来るからねぃ。気ィ張っていきましょうねぃー」
 七匹のスライムが前進する藤村とロジーへと酸の嵐を解き放った。
「やることは変わらん‥‥捉えられるなら捉えてみろ」
 男は小太刀を構えつつ酸の嵐に突っ込む。駆けながら酸の嵐の隙間をすり抜けるようにかわしてゆく。圧倒的な運動性だ。余裕を持って全弾回避し突き抜ける。既に人間業ではない。ロジーは五発を回避したが一発に捉えられて身から白い煙が吹き上がった。
 三十秒経過。閃光手榴弾が爆裂した。戦場の中央で猛烈な閃光が瞬き爆音が鳴り響く。
 岩鬼の目がくらみ、他のキメラには効果なし。爆発点が背後だ。同じく光を背負ったロジーと藤村を除いた傭兵達の眼が眩んだ。戦闘中に三十秒ジャストでカウントするのは少し厳しい。ロジーと藤村は至近で爆音を聞いた為に鼓膜が少しやられた。他は距離がある為、影響無し。
 閃光が炸裂した直後の隙をついて火炎鬼が身を再生させつつ素早く起き上がる。暴風の如くに戦斧を振るった。須佐は腕で受けるも力を流し損ねて吹き飛び宙で体を捌いて足から着地した。漸も受けた左の月詠が弾き飛ばされて宙を舞い、身に戦斧の強打を受け、一歩後退した。漸は再び背からショットガンを抜き放って散弾を連射し牽制する。鬼は戦斧をクロスさせてガードするも数発が斧をすり抜けて身に突き刺さり、須佐が機械巻物「雷遁」を手に発射命令を叫んで七連の猛烈な電磁嵐を解き放った。火炎鬼の身が次々に爆ぜてゆく。
 ロジーは周囲の音が消えている。三匹のスライムから酸の嵐が飛ぶ。それでも身を捌いて大半をかわしたが、二発が身に直撃して防具の隙間から酸が浸透して肌を焼いた。苦痛を堪えつつエネルギーガンをスライムへと向け二連射。閃光を受けてスライムが爆ぜ飛ぶ。女は岩鬼へと走り間合いを詰めた。
 六匹の岩鬼は目を霞ませつつも前進してきた藤村へと集中して射撃し百八十発の猛弾幕を張る。
「厄介な攻撃だ‥‥利用させてもらう」
 藤村は疾風脚を発動させ素早く駆けると先に足を切りつけ動けなくした二匹の緑鬼と岩鬼達を直線で結ぶように動いた。猛弾幕だが狙いが閃光のせいか狙いが甘い。逆にかわした流れ弾が次々に緑鬼達に炸裂し、鬼達は味方の射撃を受けて絶命した。四匹のスライムも合わせて藤村へと酸を放出している。さすがにかわすスペースが無いので藤村の身に次々に酸が命中し白煙がふき上がる。瞬間、藤村は姿を霞ませ瞬間移動したが如き速度で加速した。瞬天速だ。酸を置き去りに岩鬼達へと猛然と間合い詰めると疾風迅雷の銘のままに二刀の小太刀を振るって岩鬼へと連撃を叩き込み一匹を斬り倒した。
 カルマは練力を解放しつつ二匹の緑鬼へとSMGで射撃を仕掛ける。サイトに緑鬼の姿を納めフルオートで猛射。雨の如くに放たれた弾丸は次々に緑鬼達をぶち抜き、鬼は槍を手に死の舞踏を舞いながら蜂の巣にされて倒れた。
 鳴神は二匹の火炎獅子から放たれる炎をかわすとスノードロップをリロードしつつ四連射して撃ち殺し、突進してきている大蜘蛛の一匹へと連射して倒し、さらに一匹へと弾丸を叩き込んだ。大蜘蛛は奇声をあげて体液を噴出させる。
 神撫は間合いを詰めて来た大蜘蛛へと踏み込むと振るわれる脚をかわし、二刀を振るって四連斬の元に斬り伏せた。風間はSTANDと共に反動を抑えつつスコールSMGをフルオートで猛射。弾幕を大蜘蛛へと叩き込んで撃ち殺した。浅川は大蜘蛛へと装輪走行を解除して駆けると大蜘蛛へと踏み込んでランスを繰り出し、反撃の足を回避しつつ連打を加えて突き殺した。リストもまた大蜘蛛へと接近するとコンユンクシオを振るって大蜘蛛を叩きつぶす。
 エレナは火炎鬼へと虚実空間を発動させ蒼白い光を飛ばす。鬼が両手に持つ斧から炎が掻き消えた。
「サイエンティストだからって甘く見ちゃだめですよ〜!」
 少女は言って赤箱型の超機械を開き、スライムへと蒼光の電磁嵐を発生させて爆砕した。ゼンラーもまたスライムへと二連の電磁嵐を発生させて爆ぜとばし、さらに一匹へと蒼光を巻き起こす。ムーグは岩鬼へと重機で弾幕を張った。
「もうひと押しなのであります。頑張ってなのであります」
 美空は無線に向かって言いつつスライムへと弾丸を叩き込んだ。
 ロジーは岩鬼の弾幕をかわして懐に飛び込むと紅蓮衝撃を発動させて流し斬った。
「‥‥刀だけでなく‥‥此方も在りましてよ?」
 さらにエネルギーガンを抜き放つと至近から閃光を爆裂させて打ち倒した。が、見た目鬼の岩肌は閃光にかなり耐えていたような気がする。物理に固いが、閃光に対してさらに固い。
 藤村もまた弾丸をかわしざま岩鬼に肉薄すると小太刀で斬りつけて岩鬼を斬殺した。
 ゼンラーは再度電磁嵐を巻き起こし二匹のスライムを爆砕する。エレナも電磁嵐を巻き起こして一匹のスライムを爆砕しもう一匹に追撃を入れた。鳴神は放たれた酸の嵐を回避しつつスライムへと肉薄すると機械剣を振るって斬り倒した。ムーグはさらに弾幕を叩き込んで岩鬼を撃破した。
 火炎鬼は再び大斧に炎を宿して漸へと斬りかかる。漸は国士無双を掲げると右腕で刃の背を抑えながら受け止めた。衝撃が貫通し、激しい火花が散る。
 カルマ・シュタットが鬼の顔面を狙ってバースト射撃で猛射した。須佐が肉薄して鬼の膝裏を蹴り抜き、体躯が揺らいだ所へ浅川が装輪走行で突っ込んでランスを繰り出し、脇腹をぶち抜いた。神撫が接近して二刀を振るい、リストが踏み込んで大剣を叩きこんだ。
 武流は練力を全開にして限界を突破すると火炎鬼の後背へと跳躍した。回転しながら勢いをつけ延髄を渾身の力を込めて蹴り抜く。
「これで‥‥終いだ!」
 漸は両手で国士無双を構えると練力を全開にして激しく動きながら六連の流し斬りを繰り出した。さらに爆熱の輝きを大太刀に宿すとやはり駆け抜けざまに鬼の胴を掻っ捌く。
「流派極技零式【亡霊の幻影】‥‥聖闇に還れ‥‥憐れな命よ」
 腰から真っ二つに両断された大鬼は、さすがに再生できずに、盛大な血の柱を吹き上げながら倒れた。


 残った岩鬼は藤村とロジーがそれぞれ小太刀で打ち倒し、第九傭兵分隊は前面の敵の撃破に成功した。
 余力はそれなりに残されていたので傭兵達は第八分隊の援護に回り敵キメラの殲滅を手助けする事にした。他の傭兵分隊も各所で奮戦しているようで、千と数百のキメラ部隊を押し返し、ついには殲滅する事に成功する。
 キメラの突撃を凌いだバーブル師団は前進して親バグア軍へと猛攻をかけ、これを見事に撃破し潰走させる事に成功したのだった。


 了