タイトル:【BI】ポルバンダル戦右マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/09 19:17

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 昼。休憩中の部隊。
「東京解放作戦発動かー、行きたいけれど、まずは担当をしっかりやらないと、だしね。私は行けそうにないなぁ」
 戦車の上に座り、野戦食を齧って残念そうに金髪碧眼の女が呟いた。バーブル師団の歩兵大隊を指揮するアラサーな女少佐、ディアドラ=マクワリスだ。元は東京の大学で考古学者を学んでいたという娘だったが、戦火により同地を追われてからは軍隊に入ったという。
「ディアドラ」
 ヘルメットを被り小銃を担いだ青年が言った。
「ん、なんだいヤマト君ー」
「貴女は東京に在った場所を求めて、そこに帰りたくて銃を取ったって前に言ったよね。それが貴女の目的なら、本当に行かなくて良いのか?」
 青年がそう言うと女は固まった。
「貴女は功績は十分立ててるだろう。それだけやってるんだから師団長だって多少の融通は効かせてくれるんじゃないかい?」
「ヤマト君」
 女少佐は柔らかく微笑すると言った。
「有難う。でも公私は混同すべきではないよ」
 青年はその言葉に見据え返すと言った。
「戦う意味の問題だ」
「でも、それなら、私には責任がある。人が余ってるなら良いさ。でも私ごときが少佐をやっているんだ。何処も指揮官は不足しているのだろう。ほとんどは皆、十分な経験を積む前に途中で死んでしまうか、積んでからでも死んでしまうから。あの村上センセーでさえお亡くなりになられてしまった。入れ替わりの激しいお仕事さ。私と同期だった士官達も随分と顔ぶれが減ってしまった。自分達は消耗品なのだと偶に思う。私が生き延びているのは、多分運が良いからだ。でも運もあるけど、それだけじゃない。私が生きてるのは、皆のおかげだろう」
 女は言う。
「東京は、夢さ。私が帰りたがった場所は、夢だろう。きっともう世界の何処にもありはしない。夢と云うのは、そういうものだ。最近、気づいた。いや、認めた。本当はとっくに解ってた。かけがえのない物はもう二度とは戻らない。昔、偶に何かが間違ってるような気がしていたのは、既に取り戻せないものを取り戻そうとして、若かった私は銃を取ったからだと、心のどこかでは気づいていたからだ」
「‥‥ディアドラ、疲れてる?」
「少しね」
 と壮年の女は笑った。
「昔なぁ、ある人にヤマト君、君達やその人達と共に戦ったのは間違いだったと思うか? と、尋ねられた事がある。その時はその時なりに答えを出したつもりだったけど、やっぱり同じ答えではあるけれど、やはり改めて思うのだよ。私が今やるべき事は、この隊の皆を、全ては無理でもより多くが、生きられるように手助けする事だってさ。私の守るべきものはここだ。夢の欠片を手に入れれば、そこからまた何かを育てられるかもしれない。でも、今抱えている責任まで放り投げて飛び出したくはないんだ」
 ディアドラはそう言った。
「やっぱり、貴女は、僕とは違うね」
「君は昔の私のようだ、と言うとどっかの物語にありそうな気がするが、君は昔の私とも違うなぁ」
 女は頷いた。かつて少年だった青年は夢を追い全てをぶん投げて駆け出したが、女はそういうやり方はしなかった。
「私の守るべきものはここだ。正直、疲れてはいる。多分、私は、もっとささやかな物を守って生きたがってる。田舎で綺麗な花でも育てながら、雨が降ったら本でも読んで、のんびりゆったりほのぼのと優しく生きていたい。だが、そうしたい人達の生活を守る為に剣と盾の意味はあるのだと思う。そして、私達UPCは人類の盾だ。だから、もうちょっと頑張ってみようと思う。だから、東京にはゆかない」
「‥‥そうか」
「御免な、辛気臭い話をしてしまった」
 女の言葉にいや、と青年は一言呟いて首を振ったのだった。


 ギラギラと輝く灼熱の太陽、黄塵吹きすさぶ荒野の果ての果て。
 インドが北西部、クジャラート州に属するステップ気候のその半島、広大な荒野が続くその大地を千の兵団が動いていた。
 ベラバルは二月にディアドラ大隊に拠って陥落させられ、ジュナガドとドラジもまた他部隊によって陥落させられている。
 半島の戦線は徐々に半島の北西部へと狭められてゆき。ディアドラ大隊は沿岸部の小さな街を陥落させながら北上していった。
 半島のバグア軍は小さな街では交戦せずに守備隊を次々に撤退させていたが、ポルバンダルの南東の河にかかる二本の橋を落とすとその岸に兵を集めた。ジュナガドが陥落した為、突出した形になっていたが、これ以上退がっては逆に凹む為、だろうか、これ以上先へ進ませる気はないようだ。
「どうせなら街まで後退してくれれば逆に面倒がないものを」
 司令部はそんな悪態をついていたが、元より敵がそう出て来るのは予測されていた事だったのか、適度な距離を置いて北上を開始した。
 水が大きく集まる箇所を避けて反時計周りに回り込み、北東からポルバンダルへと迫る。親バグア側はやはり退く気はないらしく戦列を敷いた。
「さて、毎度お馴染み野戦の時間だ。あちらさんもそろそろ後が無い。今まで以上に気を引き締めてくれ」
 女少佐が軍帽を被りなおし戦車の中に入って無線に言った。
 ディアドラ大隊は歩兵およそ千二百名を主力に、攻撃ヘリ、自走砲、戦車と揃え、空軍からのKV隊の支援を受ける、さながらミニ混成旅団といった編成だ。
 対するバグア側は六百程の小型キメラを主力に一千程の歩兵を援護につけ、攻撃ヘリ、自走砲、戦車、空陸のHWを多数揃えていた。
「こいつぁちょっと、洒落になっていない戦力比な気がするのは気のせいか!」
 若いエクセレンター――山門浩志が呟いた。今回ばかりは楽勝とはいかないような気がする。
 砂塵の立ちこめる地平線、親バグアの兵団とキメラの部隊が進撃し、UPCの混成隊と能力者が前進する。
 蒼空をKVが舞い、迎え撃つようにHWが赤く輝き爆風を巻き起こしながら交差する。地上をゆく自走砲や戦車の砲が焔を吹き地平を薙ぎ払ってゆく。砲弾が爆裂し、親バグアの砲が爆裂して四散する。
 戦いが、始まった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 コイツは戦争なんだ。
 出世できるチャンスがゴロゴロ沸いて出てきやがる。
 金だけじゃねぇ、地位や名誉だって手に入る。
 その為なら何だって利用してやるぜ。


 荒野。
 天地にHWが踊りキメラが溢れる。鋼鉄の翼が空を翔け、鈍く輝く砲門が大地を爆焔で薙ぎ払う、ここはインドがカーティヤワール半島の戦場。
 黒髪の男は迫り来る敵軍と居並ぶ自軍の様子に目を細めた。OZ(ga4015)だ。
(日銭欲しさに殺しやってるクズ野朗でも一丁前にブルッちまうか?)
 思う。
 くだらねえ、笑えるぜ。
 闇色の瞳に冷たい光が宿る。OZ、何時だって勝負している。神とて罵り誘導し、悪魔にとて哀れみを乞い出し抜く、因果に対する覚悟がある、などと評すれば、そんなもんは今更だ、と嘲笑しそうな勢いだ。
 この男は、鋼だ。だが、今回の的は巨大だ。弾丸一発で山を崩せるか? 過去に積み上げられて来た屍にかけて、どれだけ刃が鋭くとも生半には蟷螂の斧で断ち切れる程に温くは無い。それを可能とする力が、あるか。
(あんなデカくてタフなブツ自慢されちゃあよ。誰だって放っとかねえよ、なあ?)
 男は狙撃銃を手に砂塵に嗤った。
 他方、
――失うものがなければ、何も恐れはしない。
 杠葉 凛生(gb6638)は砂煙に目を細め、思っていた。
 失うことを恐れれば、怯弱となる。
 古傷をかき回し、惑わせる。
「大丈夫、デス‥‥杠葉サン、モ、ヤレル、ト、判断、サレタ、ノ、デス、カラ‥‥」
 ムーグ・リード(gc0402)は杠葉の表情の意味に頷き、そしてそう言葉を述べた。
 杠葉は無言で視線をやる。
 ムーグの『魔人間』ぶりは知っている。故に異議は唱えない。単独行動、あわよくば二体のHWを釣り出そうとするその姿勢に。
 だが、表情は僅かにだがどうしても苦くなった。危険だった。火球型を引きつける役が必要なのも確かだったが。
 ムーグは独りで行く、誰かを徒に死なせるつもりはなかったからだ。
 班員達からも「それは危険だ」と指摘されてはいたが、ムーグは行うと決めた。ムーグは班員達には主砲を避ける空間の確保を依頼した。返って来た返答は「実行はするが、上手く確保出来るかどうかは解らん」との事だった。
 ムーグは微笑すると班員達に勝てる、大丈夫、と言った。
「少し、行ッテキマス、ネ‥‥」
 男はそう述べ、杠葉や男達はそれに頷いた。
 風が吹いて砂を舞わせてゆく。
 他方、グロウランス(gb6145)は双眼鏡片手に戦場の様子を見やり、口元を自然に薄らと笑みの形に歪めていた。
(ここは俺の分に過ぎた戦場だろう。だがそれでこそだ)
 男は胸中で呟いた。
 死が隣人たる戦、それでなければ意味がない。
「お互い生き残ったら戦場をベッドに変えないか?」
 男は笑い、銃を担いだ壮年の女傭兵へとそんな冗句を言った。
「アンタが生きてたらその時に考えるよ」
 黒髪の女は切れ長の眼で一瞥を寄越してそう答え、グロウランスはクッと喉で笑った。決着がつく前に味方の生き残る気が減るような事は言わないらしい。
 他方、
「‥‥いよいよ相手も必死な感じになってきましたか」
 鳴神 伊織(ga0421)もまた迫り来る敵勢を見渡してぽつりと呟いていた。
(まあ‥‥周りの方々の奮戦振りが凄まじかったですしね)
 とそんな事を思う。
 敵も無駄にやられには来ないだろうから、奮戦した者達を叩き伏せられるだけの戦力を揃えてきたと考えて良いだろう。
 故にか、
「‥‥ああ‥‥皆さんが頑張りすぎたから‥‥あんなの来ちゃいました‥‥」
 ハミル・ジャウザール(gb4773)もまたそんな事を言った。ついに出て来たのはHWワームだ。全長十五メートルを誇る、異星人の超兵器である。
「ディアドラさんがやりすぎたからかなー」
 あははと笑うのはヨグ=ニグラス(gb1949)だ。今の所大隊は連戦連勝で、UPCは半島のバグア軍を追い詰めつつある。敵も必死になろうというものだった。
「HW‥‥! ここでがんばらないとっ」
 ぐっと両拳をにぎって言う少女はエレナ・クルック(ga4247)だ。「少しでも傷つく人を減らしたい」その想いを持ち続けてここに居る。彼女のそれは実行力のある優しさだ、今までにエレナのおかげで助かった者も多いだろう。だからこそその意志は尊い。
「さーて、どこまでやらせてくれるかにゃーん?」
 綾河 零音(gb9784)は不敵に笑って言った。アジアの東で巨大HWと生身で格闘した頃は緊張が激しかったが、あれから多くの戦を経た今は実に色々と鈍――もといタフになっている。黒の若獅子は荒野にその爪を振るえるか。
 敵勢が迫る。
 キメラ六百に一千の歩兵、そして多数の兵器とワーム。右翼傭兵隊の担当だけでもキメラ二百にワーム五機を数える。右翼に前進命令が出た。こちらの傭兵隊は五〇名ほどの歩兵だ。
 ワーム五機&キメラ二百匹VS能力者歩兵五十人。どちらが有利か。
「KVなしでHWの相手ですけど、みなさんがんばりましょうですっ」
 エレナが言った。周囲からそれに応える声があがる。
 爆火が咲き乱れる中を両軍の前衛部隊が前進し、激突の時が迫った。


 状況。
 敵方は二百匹のキメラの群れはばらばらと三ないし四列程度の不揃いな横列で真っ直ぐに突撃させて来ている。キメラの互いの横の間隔もまた三から四m程度、武器を振り回しても当たらない範囲。一列におよそ六十匹程度でだろうか、およそ二百mの範囲に散らばっている。キメラの壁だ。
 五機のワームは敵方の大外、最左翼にキメラの群れよりやや先行する形でついていた。キメラは金床として真っ直ぐ押し、HWは弧を描いて回り込み横から押しこんで来る腹か。
 鳴神班、DF一名、SN二名、ST一名という編成。ワームを目指して駆けている。
 藤村 瑠亥(ga3862)が率いる班は機銃型が目標だが、とりあえずはHWへ向かわずキメラの戦列へと向かっていた。デモンストレーションも必要だろう、との事である。なお藤村班のメンバーはDF二名、SN一名、ST一名だ。
 杠葉班は火球型のHWを標的に動いている。後方、ないしは、側面への迂回を目指す。班員はSNが一名、STが二名、そしてOZだ。OZは隠密潜行を発動させ身を低く班より距離を取って動いている。SNは杠葉から貫通弾、ペイント弾、照明銃を受け取り携帯している。
 エレナ班はST四名と「エロリンのエレナです〜よろしくです〜♪」と班員達に名乗って握手していたようにエレクトロリンカーであるエレナが班長を務めている。機銃型のHWを目指して進む。エレナは機銃型の速度を目視で測り、接敵までの大よその計算を開始する。敵が加減速しなければ、の値なら大体の所はエレナならば計算が出来た。閃光手榴弾の最大投擲可能距離は五〇m、敵機の射程は七〇m、藤村が敵射程に入ると同時に藤村の背後へ投擲して炸裂させてHWの目くらましを狙うのは、手榴弾の閃光が及ぶ範囲は中心点より二〇m以下なので計算上ほぼ無理そうだと判断した。例え最大射程で投擲しても敵の方が射程が長い、先に撃ってくる。とりあえず、敵がすぐには攻撃してこない事に賭けて行動してみる。閃光手榴弾のピンを引き抜いた。
 ヨグ班は班長のヨグの他はDF三名に綾河という編成だ。DFは後詰として初期投入は避け、ヨグはバイク型に変形させたPR893‐パイドロスに搭乗しその後部座席に綾河が乗る形でタンデムして駆けている。全体よりかなり後方に位置取り視野を広く取って戦場を把握していた。バイク型の速度なら距離があっても一気に突っ込めるだろうという腹だ。的はHW。
 ハミル班はハミル及びDF三名とST一名の編成だ。ハミルは、
「隊長役‥‥えっと、が、頑張ります‥‥宜しくお願いします‥‥」
 と覚醒前はやや人見知りな調子であったので、ハミルの指揮下の傭兵達は少し不安そうな顔をしていたが、それでも『HWとキメラの連携を断つ為にキメラの誘引と抑えを狙う』という主張にはもっともな所があったので、名も無き男銃士はハミルの作戦に賛同し、彼が率いる銃士班も共同して動いていた。また、グロウランス班もキメラの抑えに動いており、名も無き女銃士が率いる班はグロウランスと杠葉からの要請を受諾し、グロウランス班と共同して動いていた。グロウランス班は班長他、DF一名、SN二名、ST一名といった編成である。
 そして最後にムーグ班、班長他SN二名、ST一名、DF一名といった編成。火球型HWを狙う。
 キメラの群れが津波のように直進し、HW達は赤輝を纏うと弧を描いて大外をスライドしつつ相対距離七〇、エレナ班へと銃口を向けた。半島での過去の戦闘データは把握している。怨みはないが、練成治療がある限り勝ち目が薄い。一機で捉えられない相手はキメラへ向かって遠い。手の届く向かって来る者達のうちからで狙うのなら、回復役から殺す。
 三機の機銃型HW達が銃口を向け、壮絶なマズルフラッシュを瞬かせながら五百mのペットボトルサイズの巨大な弾丸を嵐の如くに猛連射した。
「はわっ!」
 弾丸が空間を埋め尽くし、エレナ、咄嗟に飛び退くが、敵の制圧力が凄まじい。弾丸が猛烈な勢いでエレナへと襲いかかり壮絶な破壊力を炸裂させて小柄な少女を木の葉のように吹き飛ばした。超改造HWからの対KVサイズの弾丸だ。生身の人間が受けて立っていられるものではない。他のエレナ班所属の二名のSTも猛射を受けて独楽のように回りながら血飛沫をぶちまけて吹き飛ばされ、大地に叩き伏せられた。エレナ、苦痛を堪えつつ、とりあえずそのまま保持しているとこの場で爆発して不味そうな閃光手榴弾を腕の力だけでHWへと向けて投擲する。弾丸が唸って激突し、間の空間で閃光と爆音を撒き散らした。さらに爆炎型のHWが慣性制御能力をフルに発揮して猛加速し爆風を巻き起こしながらエレナ班へと迫る。
「た、退避、して、くだ、さい〜」
 地に伏せ巨大な銃弾の嵐に打ちつけられながらも、エレナは班員へと避ける事を言って練成治療を発動させた。弾幕を受けていない二名のSTが練成治療を発動しながら後退する。二名のSTは治療で回復しつつまた弾丸に撃たれて血飛沫を吹き上げつつ、刺さった徹甲弾を手で掴んで引き抜きながら這って後退してゆくが、容赦などある訳もなくその背にも次々に新たな弾丸が突き刺さってゆく。普通なら火球型を待つまでもなくとっくに絶命しているが、治療のおかげで生きながらえている。しぶとい、と機銃型のパイロットが舌打ちしていそうな光景。エレナ、火球型が彼女を含め班員達を確実に狙ってきそうな予感がするので敵攻撃を邪魔せんと電磁波を敵コクピットへ叩き込む事を狙う。
 鳴神班のSN二名がSMGで機銃型HWへと牽制射撃を開始、HWはエレナ班へ射撃しつつスライドして鳴神班SN二名からの射撃を回避してゆく。班長の鳴神は猛撃を発動、駆けながらSNの射撃に合わせてスノードロップをHWの回避先へと向け発砲した。偏差で撃たれたライフル弾が閃光の如くに飛び、HWに命中してその装甲をぶち抜き穴を穿った。凶悪な破壊力。二射目は左へ大きく狙いを取って発砲し、回避するであろう方向へと先を読んで三射目を発砲する。三射目は中った。鳴神は牽制しつつ接近する一方で、敵味方の動きを良く把握して的になりにくいように班を機動させている。
 杠葉班、戦場の大外、HWの側面へと回り込まんとしつつ余力を残しながら一機を狙って射撃を開始、HWは斜めにスライドしながら慣性制御で急加速と減速をして放たれた弾丸をかわさんとする。同時、ムーグ、戦場の大外ではなく内側へと回り込みつつ火球型の側面を取らんと駆けている。あわよくば敵の攻撃にキメラを巻き込む事を狙っている。自然、スライドしながら側面を撃たんと入って来るHWと向かい合う形か。二名のSNはキメラへと駆けて制圧射撃でその接近を抑えんとし、DFもまたキメラに備えた。ムーグは杠葉班と同様に余力を残しつつHWへと射撃を開始し、ムーグと杠葉班で十字砲火の形となった。
 SNの射撃は回避されたが杠葉の三点バーストの弾丸が命中し火花を巻き起こして装甲を削ってゆく。ムーグは左の番天印で偏差で狙いをつけて猛射、轟く銃声と共に弾丸が次々に飛び出し、命中、命中、命中、弾丸の全てがHWを捉えてゆく、精度が高く、威力も凶悪だ。装甲が猛烈な勢いで破砕されてゆく。ムーグ・リード、これは、強いぞ。力が有り、使い方も知っている。脅威度が高いとみたか、二機の火球型のうち攻撃を受けた一機は宙をドリフトするようにスライドしてムーグへと向かう。爆炎型の一機はそのままエレナ班へと迫り、その横手へと砂塵を巻き上げて二輪が突っ込んだ。
「行くよ零音さんっ」
「ぱらりらぱらりらー! どいたどいた!」
 ヨグ&綾河であった。ヨグはグリップを回し、AU‐KVをブーストさせスロットルを全開に風の如き速度で突っ込んでゆく。速度を活かした奇襲だ。綾河はHWへと迫ると後部座席から跳躍、白氷の剣を抜刀ざま爆熱の輝きを刀身に巻き起こし、極限までエネルギーを集中させて一閃させた。間合いの外、しかし次の瞬間、空間が断裂して爆風が巻き起こった。ソニックブームだ。火球型のHWへと音速の刃が襲いかかってゆく。HWはしかし、真紅の輝きを身に纏うと直角にスライドして回避した。速い。
(‥‥流石に超改造+有人機ってか!)
 易くはないらしい。中改造のHWとは一味違う。ヨグ、AU‐KVを装着し長大なエネルギーキャノンを構え、HWの砲へと狙いをつけて猛射。爆音と共に極大の光線が飛び出してゆく。HWは前進しながらスライドして回避。HWはヨグからの光線と綾河の音速波を回避しながら二人の横手を突き抜けてゆく。
 他方、ハミル班、津波の如くに迫るキメラの壁へと前進し誘引せんとす。名も無き銃士班のSN五名と自身で射撃を開始。SN達のSMGが唸り、ハミルが光線を猛射して、ばたばたと三体あまりのキメラが倒れた。キメラ達の注意が向くのを確認すると後退を開始する。
 グロウランス班、敵最左翼に固まるHWの射程を警戒し距離を取ってキメラを狙う。自陣の左端、戦場の内側へと流れた。キメラ戦列の右翼、右側面を狙う。グロウランス班のSN二名は名も無き銃士班のSN五名と共に一斉に制圧射撃を繰り出した。猛烈なマズルフラッシュが瞬き、弾丸の嵐がキメラの戦列を薙ぎ払ってゆく。七十体にも近い数の大量のキメラ達が猛烈な弾丸の嵐に撃たれて前進の停止を余儀なくされる。
 グロウランスは足が止まっているキメラに対しレイ・エンチャントを発動、扇嵐を鋭く向けた。破壊力が増大された竜巻が次々に巻き起こりキメラ達を一撃で絶命させて吹き飛ばしてゆく。中て放題だ。DF、制圧を逃れて向かって来る敵を狙う腹だったが、弾幕が厚い、一匹も抜けてこない。自分が突っ込むと味方の射線に飛び込む事になるのでSTと共に様子を見ながら待機の構えを取った。グロウランスは敵が縫いつけられたのを見て連射を継続し四体を撃破した。
 他方、藤村班のSNとSTもキメラの群れへ前進して射撃を開始し、一体を撃破した。班長の藤村はキメラの群れへと突撃すると左右の小太刀を閃かせキメラを次々に一太刀で斬り捨てた。あっという間に七体のキメラが撃破される。しかしその間にハミルやグロウランス等の班に撃たれていない範囲のキメラ達は一斉に藤村へと向かった。ハミルと銃士班はターゲットが移ったのを見て後退を停止すると、制圧射撃を仕掛けんとする。だが、全範囲は薙ぎ払うと藤村班も巻き込みそうだった。撃てない。そちらへ当たらない範囲を制圧射撃で薙ぎ払う。弾丸の嵐がキメラ達の前進を押し留めてゆく。藤村は五十七体のキメラが藤村を取り囲まんとした所で、迅雷を発動、包囲される前に後方へ離脱した。キメラ達がそれを追い、藤村班のSNが制圧射撃を繰り出して足を鈍らせ、同班の二人のDFが突っ込んで大剣を一閃させ二体を斬り倒した。ムーグ班のDFもまたそれに合わせて突撃し一体を斬り倒す。
 弾幕に撃たれているエレナは射程に火球型が入って来るのを捉えるとPBを翳した。動ける班員は退避に、弾丸に縫い付けられて動けない班員は回復に専念中で攻撃に手は回っていない。
「やらせませんっ!」
 エレナ、迫り来る火球型HWの形状から位置のあたりをつけるとコクピットを直接狙って電磁嵐を解き放った。HWが赤く輝き外装甲にて強烈な電磁嵐が巻き起こる。防がれた。火球型が迫る。
「今だ、後ろから吹っ飛ばせ!」
 綾河、駆けつつ注意の分散を狙ってHWへ向けてそんな声を放った。実際、ヨグがエネルギーキャノンで猛連射している。対角線、味方には絶対に中てる訳にはいかない。ヨグは精神を集中させて注意を払いつつ射撃する。連携と信頼こそが力だ。火球型はスライドして一射をかわすも、流石に背後からのそれらはかわしきれず、光は連続して砲の後部へと突き刺さった。HWは光に撃たれつつもエレナ等へと砲を向けると巨大な火球を撃ち放つ。真っ赤な火の球が弾幕に縫い付けられているエレナとST二名の中央に着弾して直径10mを巻き込む壮絶な超爆発を巻き起こした。大地を爆ぜ飛ばす超爆発に呑み込まれて吹き飛び、熱波が荒れ狂って三人の能力者が黒こげになって大地に転がった。三名ともにぴくりとも動かない。昏倒した。
 ムーグへと向かった火球型HWも巨大な火球を撃ち放っている。行動に余力を残している男は砲塔の向きや挙動に注意して発射予測しつつ、先手必勝を発動、さらに瞬天速を発動させて瞬間移動したが如く掻き消えた。火の球が荒野に炸裂して爆熱を巻き起こし、ムーグが離れた位置に無傷で出現する。かわした。防御面も周到だ。強い、という言葉がしっくりくる。鬼だ。
 ヨグの射撃を受けているHWへと鳴神は漆黒の刀を手に猛撃を発動させて一気に飛び込んだ。練力を全開に天地撃を発動させ稲妻の如くに斬りつける。加速されて光の如くに奔った刃が、HWの装甲を断ち切って強打しその態勢を崩させた。直後、DFが側面より矢の如くに突っ込んで両断剣を付与した大剣を叩き込んでゆく。
 他方、戦場の大外、身を低く、砂塵に紛れて潜行している男が一人いた。OZだ。
 男は言う。
「敵は目の前に敵がいればソイツに集中せざるを得なくなる。前を行く連中は言わばHWっつー魚を惹きつける為の餌だ」
 と。
 そして、
「魚が掛かったら気配を消して確実に仕留める」
 と。
 対角線、狙撃銃のスコープから覗く視界、予定とは少し違うが、狙えるのに狙わない道理は無し。外れれば味方に流れ弾が当たる可能性があるが、それを躊躇う男か? 否。男は冷たく瞳を光らせ練力を解放すると引き鉄を絞った。
 炸薬が爆ぜ、焔と銃口から対FFコーティングが施されたライフル弾が飛び出し、錐揉むように回転して空気を切り裂きながら真っ直ぐに飛んでゆく。次の瞬間、一発の弾丸がHWの下部装甲を貫いて小さな爆発を巻き起こした。異星人の科学文明の結晶が、バランスを崩し、落下し轟音と共に大地を削りながら激突した。動力を抜いた。予備に切り替わったかすぐにまた僅かに浮かび上がったが、その時には既に鳴神は黒刀を振り上げ振り降ろしていた。
「――驟雨」
 壮絶な破壊力を秘めた太刀がHWの装甲を切り裂き、着物姿の女はさらに蒼い残像を発生させながら剣閃の嵐を巻き起こしてゆく。
「尻をローストされてから気付くようじゃ遅ぇんだよ」
 OZは呟き、次の獲物を狙うべく再び移動を開始した。
 激突より十秒経過。
 鳴神はそのまま剣劇を連発して猛烈な勢いで破壊を拡大させ、DFが合わせて追撃を入れ二人のSNが猛射してゆく。STはエレナ班の治療にまわった。杠葉班のSNは動きの鈍ったHWへと閃光弾を撃ち放ち光を炸裂させペイント弾を猛射してカメラを蛍光塗料で埋め尽くした。ヨグもまた火球型のHWへとエネルギーキャノンを向けて猛連射した。光が次々に突き刺さって火球型の装甲を削り取ってゆく。綾河もまたヨグの光線に合わせて突撃すると再度紅蓮の輝きを巻き起こして斬りつけ、白の刃が赤く煌めきHWの装甲を削りながら抜けてゆく。
 包囲攻撃を受けたHWは夥しい損害を発生させて漏電を発生させ、次の瞬間、大爆発を巻き起こして四散した。接近を仕掛けていた鳴神、DF、綾河が爆風に吹き飛ばされて破片に身を撃ち抜かれてゆく。鳴神班のSTが練成治療をそれぞれへ発動させた。
 杠葉、ムーグはキメラを巻き込む事を狙っているのかそちらへ瞬天速で回避した為、HWは後ろを向いている。HWの向かう先の大地へと狙いをつけて閃光弾を発射。光弾が大地に激突して下方から光を炸裂させた。
 ムーグは光をガードすると一瞬動きが流れたHWへと突進しながらケルベロス拳銃を向けて三点バースト、猛射。凶悪な威力を誇る弾丸を次々に撃ち込んでHWの装甲を撃ち砕き猛烈な衝撃を巻き起こしてゆく。杠葉もまたHWの砲台の関節部を狙いケルベロス拳銃で弾丸の嵐を叩き込んだ。
 ムーグ、意味は知らないが)OZから挑発ならこれだという言葉を聞いている。再び火炎球の間合いへと踏み込むと、二丁の拳銃の銃口をHWへと向けて言った。
「Bring、it、on、fucker――DEATH?」
 相手もプロの兵隊だ。ムーグには当たらぬと悟り、衝撃に揺らぐ愛機を立て直し、機銃型と標的を合わせんと旋回しようとする、が、その前に遠方から弾丸が飛来して動力部を撃ち抜かれて爆裂を巻き起こした。OZの狙撃だ。
 ムーグは瞬天速で加速すると跳躍しHWのコクピット部の上へと飛び乗った。長身の男が練力を全開に二丁の拳銃を下方へと突きつける。
『――地獄へ落ちろクソ野郎』
 外部スピーカから低い男の声が流れた。殺意と殺意がぶつかる戦場の火花。次の瞬間銃声が轟き、壮絶な破壊力を解き放ってコクピットをぶち抜いた。操縦手を失ったHWが浮力を失い大地に激突する。HWは荒野を削りながらキメラの群れの方向へと流れてゆき、やがて強化人間が大爆発を巻き起こし機体に引火してさらに超爆発を巻き起こして四散した。撃破。ムーグは巻き込まれる前に瞬天速で加速して跳躍し回避している。
 エレナ班の生き残りはエレナと他二名に練成治療を連打している。損傷が酷いので再び立ち上がらせる為にはかなり連打しなければならないが、見殺しにするつもりはないらしい。
 機銃型の三機は藤村がキメラ側から反転して向かって来たのでそちらへと的を移している。三機で火線を合わせると猛烈な密度で弾幕射撃を開始する。その隙にヨグ班のDF三名が倒れているエレナ班のメンバーを抱えて後方へと後退を開始した。
 藤村、迫り来る弾幕に対し、
「それでも、避けることしか能がないのでな‥‥」
 呟きつつ攻撃を控えて意識を全力で回避に集中させ全力防御態勢、さらに練力を全開に高速機動で加速した。予測射撃されぬよう急旋回、急加速、急停止、急発進に動きまくりつつ最低一機からの射程より外へは逃れんとする。HWは赤輝を纏って突撃しながら猛射してそれに対抗した。いかに予測がつかぬように体を捌こうが全ての空間を撃ち抜かれれば避けられない。飽和攻撃。藤村は前後左右、すべてを塞がれると閃光手榴弾のピンを引き抜きつつ空へと跳躍した。弾幕が追いかけて来る中、手榴弾を機銃型の一機へと目がけて投擲しつつ、小太刀を何もない宙に突き刺してそれを支点に回転し急降下、接地すると光を纏って稲妻の如くに空間を駆け抜け弾幕を置き去ってゆく。機銃型の一機の前で榴弾が爆ぜ光と轟音が炸裂した。迅雷で加速した藤村はそのまま宙に光を曳きながら間合いを詰め、閃光に怯んだHWの懐へと飛び込み、残りの二機へ対する盾として射線を切った。
 キメラ方面。藤村&ムーグ班のDF三名がキメラを九体を斬り倒すも、溢れるキメラに囲まれて袋叩きにされている。SN三名は包囲からあぶれて雪崩れてきたキメラへと制圧射撃しながら後退している。
 班長ハミル、この状況、どう捌けば良いものか。キメラ右翼はグロウランス班が抑え込んでいるが、左翼は乱戦気味だ、制圧射撃で薙ぎ払うと突っ込んだ味方を巻き込む。とりあえず、中央の抑えを名も無き銃士班に依頼し、ハミルは自班のDF三名とST一名を率いて藤村&ムーグ班の三名のDFを囲んでいるキメラへと自身もまた突撃を仕掛けた。エナジーガンを連射して豚鬼を撃ち殺し、クロックギアソードを振るって狼人へと二連の剣閃を奔らせる。血飛沫が舞って狼人が倒れ、三人のDF達が大剣を振るって九体のキメラを斬り殺した。周囲のキメラがハミルやDFに飛びかかって武器を振るい、ハミルが避け、DFが刀や斧や槍の一撃を受けてよろめく。STが超機械を掲げて治療をかけて回った。藤村&ムーグ班のSN三名は追って来る三十体あまりのキメラに対し後退しながら制圧射撃を繰り出して抑え込んでいる。藤村班のSTが電磁嵐を巻き起こして一体を屠った。
 グロウランス、全力で抑えにかかると敵から突出するものがでないので、名も無き銃士長と自班へと言って、キメラの群れの大半を薙ぎ払わせつつも端は狙わないように要請する。突っ込んで来た十体あまりのキメラに対し、グロウランス班のSN二名がSMGで連射して四体を撃ち殺し、STが二連の電磁嵐を巻き起こして一体を屠った。グロウランスは余力を残しつつ前に出て二体のキメラへと向かってそれぞれ扇を翻す。赤鬼型キメラと狼人型キメラの周囲に竜巻が巻き起こり、鬼と狼が捻り潰されて荒野に倒れてゆく。飛び道具を抜けて来た三体のキメラに対しDFが大剣を構えて突っ込んで剣を一閃させて一体を斬り倒し二体から打撃を受け、一体を屠って殴られてまた一体を斬り倒して後退した。STが練成治療を一つDFへと飛ばして回復させる。
 エレナ班の生き残りは練成治療を連打中。エレナと二名のST達は治療を受けて徐々に肌色の皮膚に戻ってくる。
 藤村は全力防御の態勢で高速機動を発動させ迅雷を連発して宙に光の軌跡を残しながら緩急をつけて縦横無尽に荒野を駆け抜けている。機銃型三機もまたそれを狙って荒野を高速で駆けまわりながら左右のアームの機銃で集中して猛射を仕掛けている。
 鳴神は移動しながら班員を集結させて状況を把握しつつ仕掛ける機会を計り、OZはSMGに持ち替えて班に合流する為前進開始。 
 ヨグは機銃型のアームを狙ってエネルギーキャノンで射撃せんとし、杠葉班の杠葉はケルベロス拳銃で、SNはSMGで、ST二名は超機械で、ターゲットを集中して仕掛けようとし、ムーグもまたケルベロス拳銃でターゲットを合わせて射撃せんとする。
 基本的に藤村は二二〇mを十秒で駆け抜ける。さらに全力で迅雷で加速すると一行動につき三〇m加速で、四六〇m、これに追いつける者はバイク形態に搭乗しブースト発動状態のヨグ以外にはこの戦場に存在しない。次に速いのが瞬天速を全力で使った場合のムーグだが、連発はしないのでHWと鳴神の二〇〇mとなる。次に速いのは素の歩兵ヨグとムーグの一四〇m。HWは藤村に振り回されるが、多くの班長及び班員はその振り回されているHWに振り回される。飛び道具が無い者が攻撃を仕掛けるのは、なかなか難しい。
「藤村さんばっか狙ってんじゃ‥‥ねぇ!」
 綾河が縦横に機動するHWを追いかけながらそう叫び声をあげた。ヨグは再びバイクに搭乗してブーストで加速して距離を詰めてキャノンで猛射し、他のメンバー達は藤村にあまり動き回らないように要請してから、それぞれ八方に散り、藤村を中心点として円移動しているHW達の機動に先回りするように射撃で仕掛ける。AI機でなく有人機である為、三機のHWも傭兵達の動きも察知して回避せんと機動するので、非常に多くの人々が入り乱れて駆けまわる戦場となった。なおその間にエレナ達は全快して立ち上がり、覚醒して戦線に復帰している。練成治療は偉大だ。
 対キメラの方面もグロウランスは名も無き銃士長の班と連携して順調に抑え、分断して削っていっており、中央も銃士の一班が抑え、キメラ左翼もハミルが自班及び藤村・ムーグ班のDFやSNと協力して粉砕し殲滅した。ハミル等は中央へと突撃し、キメラの戦列は大きくまた削られ、キメラ達が全滅するのは時間の問題のように見えた。
 生きている人間は命は惜しいしHWは貴重な戦力だ。負けると解っていて踏みとどまる理由もない。三機の機銃型HWは北西へと踵を返し退却を開始した。
「鬼ごっこはおしまいか? ならこちらから行くぞ‥‥!」
 それを見た藤村は攻勢に転じ、またヨグ、鳴神、ムーグも追走して追撃を加えてHWの動力を潰し、他メンバーが追い突いて集中打を加え一機を粉砕した。各班はキメラの残等の討伐に乗り出し、グロウランスも大鎌に持ち替え班員を率いて突撃を仕掛け、各班と連携して包囲し、キメラを殲滅したのだった。



 かくて、右翼班によって敵左翼の主力は撃滅され、バグア軍左翼は潰走した。他の方面も皆順調にバグア軍を撃ち破っており、大隊はバグア軍を敗走へと追いやると、追撃を仕掛けてこれを散々に打ち破った。
 真紅に染まった大地。
「‥‥オヤスミ、ナサイ」
 ムーグ・リードは夕陽に包まれながら大地を見やり、祈りを捧げた。
 大隊はポラバンダルへと入るとそこにUPCの旗を立てて解放を宣言した。
 地図が、徐々にだが確実に塗り替えられてゆく。
 半島の全領域の解放まで後僅かとなっていた。



 了