●オープニング本文

　千の命、千の未来、千の絶望。
　この武骨な鋼鉄の騎士をアフリカの大地に走らせるには、それだけでは足りないのだろうか。

「収容所の中にハウザー・シルヴァレスティという名の高名な科学者が居る」
　ＵＰＣ軍の将校は相良・裕子（gz0026）に対してそう言った。なんでも元はネパールの高山でバグアの母星を観測し研究していたそうだが襲撃を受け連れ去られたらしい。今回の北アフリカ侵攻に伴う調査によりモロッコの人間収容所に監禁されている事が解ったそうだ。
　諜報部が掴んだ情報によれば、ＵＰＣ軍の上陸を受けて親バグア側勢力はこの人間達をより大陸の奥地の収容所へ移さんと移送計画を立てているらしい。今回の任務は移送隊を襲撃しハウザー老や人々を奪還せよというものだった。移送される人々の数は千。
「ハウザー老は連れ去られたが研究データは寸前で隠した。だが隠し場所が把握できていない。彼の研究データは人類の為に必要だ。他よりも何においても隠し場所を聞き出せ。またＫＶや歩兵隊に損害を出す事はできない」
「‥‥他の何においても？」
「全てを救えるならばそれに越した事は無い。だが、優先順位だ」
　いざとなれば人々の救出は切り捨てろ、と将校は言外に言った。きっとその科学者のデータが確保されていれば、そもそもにこの作戦は発令されなかったのだろう。
　相良裕子はじっとその将校を見詰めた。まだ若い。二十後半くらいか。茶色の瞳には感情の色が見えない。
（「本当に？」）
　少女は思う。
　本当に、そこにそれは無いのだろうか？　じっと見つめる。
――やはり、冷たい鉄のような光しか見えない。見えないのだ。
　在る事が見えない。無い事も見えない。結論、解らない。
　巨大キメラの頭部を弾頭矢で吹っ飛ばせても、ゴーレムを生身で撃破出来ても、目の前のただ一人の相手が何を思っているのかすら解らない。
　人は相良裕子を優れた能力者だという。だが、この能力で人として一人前だといえるのか？
　人の心は空に浮かぶ月の裏側のようなものだと何かの本に書いてあったのを思い出す。知るならば、自らという星を飛び出して宇宙の彼方から見る視点が必要なのだという。
「‥‥相良の能力は重力を振り切れない？」
「は？」
　思わず考えが言葉になって洩れた。少し将校の表情が動いた。そこには怪訝そうな瞳があった。これは解る。多分彼はこう思っている。いきなり何を言い出したのだこいつは？　だ。
　何を考えているのかよく解らない少女というのが相良裕子の周囲からの評価である。いちおう自分では筋道を立てて考えているつもりなのだが。
「まぁ、良い」
　男が言った。
　いつもの事だ。そんなような態度であった。
（「相良は人を理解できず、人は相良を理解しない」）
　事実を確認する。しかし、どうとも思わない。いつもの事だ。玲であってもチェラルであっても相良裕子を本当にはきっと理解していないし、きっと相良も彼女達を本当には理解できていない。だが、人間というのはそういうものだろう。だから、どうとも思わない。
（「本当に？」）
　何も思っていない？
　自らに聞いてみる。その返答――よく聞こえない。故に、深く、潜りこむ。何か、聞こえる――
「――曹、軍曹、聞いているか？」
　呼び戻される。声が大きい。
　どうやら割と長い時間ぼうっとしてしまっていたらしい。
「御免なさい。聞いてなかったんだよ」
「男ならぶん殴ってる所だぞ貴様」
　こめかみをひきつらせて将校が言った。地だと結構表情が出るのだこの人は。
「データの確保が第一、損害を出す事は出来ない、他の何においても？」
　再び問いかけた。
　すっと男から表情が抜け落ちる。
「他の何においても、だ」
　やはり何も見えなかった。
　彼は、軍人だ。



　費用、リスク、妥協点。
　味方の戦力、敵の戦力、使える時間。
　救いたいもの、救えないもの、救わなければならないもの。
　手に入れたいもの、手に入れられないもの、手に入れなければならないもの。
　火砲の爆裂、炎の空、宇宙に輝く赤い星。




　鋼鉄の弾丸、祈りを、込めて。




「努力は必要、そして続けるべき」
　呟き、鋼鉄の巨人を起動させる。
　諦めない。
――いつかきっと宇宙にも行けるさ。
　昔、誰かが言った。
　その言葉を、信じる。

●
「作戦を確認します」
　ＫＶに搭乗した傭兵達は無線機から少女の声が響くのを聞いた。ブルーファントムの相良裕子だ。玲率いるチームでよく戦っていた頃より三年。既に十七歳になっている。
「先行ＫＶ隊がバグア軍の移送隊を追走、襲撃足止めし、ワーム戦力を撃滅します。後方待機の軍歩兵部隊はその後に前進、敵歩兵の掃討および捕虜達を軍の輸送車に乗せ撤退に移ります。先行ＫＶ隊はこれの直衛につき撤退を助けます。輸送車が味方確保領域に辿り着くまでに時がかかりますのでその間に敵側が奪還に追撃部隊を繰り出してくる事が予想されます。燃料や弾薬の関係で先行隊がこれに抗するのは困難です。故に後発の第二陣のＫＶ隊でこれを抑えます」
　少女は言う。
「この作戦の第一目的はハウザー老が残したデータの隠し場所を知る事です。これを第一とします。情報を得た後、敵の攻勢が激しく支え切れないと判断した場合、輸送車はその場に放棄。ＫＶ隊及び歩兵隊は撤退に移ります。支えきれない場合、放棄し全隊撤退に移ります。今は戦力が非常に必要とされている時です。損害は極力抑えてください――」
　沈黙。
　少し言い迷うかのような間を開けてから、相良裕子は言った。
「――勝ちましょう。放棄は最後の最後です。奮起を期待します。以上」
　その通信を聞いていた歩兵隊の将校は嘆息して首を振った。放棄は最後の最後では無い！　責任を問われる発言だ。
　将校は無線を毟り取ると言った。
「被害は少なく頼むぞ傭兵ども。俺の首が飛ぶ」
　結局、彼は止めなかった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

　出撃前、陣内。
「あれ。裕子、久しぶり。今日は怪我してないんだね」
　ラシード・アル・ラハル（ga6190）が言った。
「あ‥‥ラシード君？」
　いつぞやは大変お世話になりまして、などと眼鏡をかけた少女は深々とお辞儀する。
「二年ぶり、かな‥‥？　相良も少しは成長するんだよ」
　そんな事を言った。
（「成長」）
　ラシードは胸中で呟いた。裕子を助けた九州の夜、彼はまだ何も分っていなかった。あれから二年、沢山迷って、沢山戦って、沢山殺してきた。
（「答えはまだ、見えないけど‥‥」）
　そんな事を考えつつ雑談をかわす。今回の任務、
「――空を取り戻す？　そんな事考えてる人が、いるんだ」
　データだけじゃなくその人も助けられたらいい、と思う。できれば、全員を助けられたら良い。
　翌朝、陸戦隊の面々は一足先に出撃していった。
　ラシードは相良の背に心からの言葉を贈った。
「インシャラー」
　神が、それを望むならば――

●
　なんとかなったらしい。
「陸の皆さん、やりやがったようですよ」
　連絡を取った鈴葉・シロウ（ga4772）が口笛を吹いて言った。
「ただ、やはり追撃隊が出て来たそうです。けしからんな。噂の眼鏡っ娘の送り狼は私だけで十分だというのにっ」
　と鈴葉。ちなみに彼は出撃前に「私が『あ、熊』でも友達になれますか？　無論。フィギュアはちゃんと手に入れてます」などと相良に言っていた。
　相良はかくりと小首を傾げ少し考えてから「‥‥時を止めてくれるなら？」などと良く解らん返答を返した。彼女のジョークは基本解りづらい。
「敵戦力は？」
「未だ不明」
　その言葉に白鐘剣一郎（ga0184）は考える。
「‥‥情報の重要度が高ければ、それだけ追撃の手も生半可では無い筈だ。足の速さと戦闘力を兼ね備えた相手が来ると見ておくべきだろうな」
　これまでは敵の戦力は事前に把握されていた。だがここから先それは無い。この作戦、ある意味ここからが本番ともいえる。ここで負ければ全てが消える。
　白鐘は条件を満たす最大戦力として本星型HWの投入を想定した。
「強化型HWや、護衛の能力者を阻害する意味でCWなどの随伴も十分あり得るだろうな」
　いずれが来るにしても強敵だ。
「俺たちが下手をすれば先行部隊が危機になるのか‥‥責任重大だな」
　心していかないと、とカルマ・シュタット（ga6302）は気を引き締める。
「撃退でも構わんのだろうが‥‥やるなら殲滅すべきだな、此処で後顧の憂いを断つ」
　手袋を嵌めつつ時任　絃也（ga0983）が言った。一同は作戦を打ち合わせるとＫＶに乗り込み、そして――空へと舞った。

●
　灼熱の大地の空。砂色の荒野と点在する緑と山々の起伏が眼下に広がっている。
　走査する事しばし、周防 誠（ga7131）が蒼空の彼方に敵影を発見した。
「見つけました、いきますよ！」
　数は１、２、３、４、まだ増える――１１。結構な規模だ。周防の合図と共に全機がブーストを発動させる。
「天馬氏！　前祝って感じに派手に花火な具合でいこう。お祝いは壷酒の方かね。えーと小公女じゃなくて女子高じゃなくてアレだよねあれ。わかってるねんで？」
　鈴葉の言葉に白鐘は笑みを洩らし何事かを返した。何か良い事でもあったのだろうか。
「まずはここで勝ってからだ。あの送り狼達は残らずお引取り願おう」
　白鐘が言う。鈴葉のらじゃー、との声が無線から返ってきた。
「――あの二機、塗装が違う。気をつけた方が、いいかも」
　先頭の二機を指しラシードが言った。色が違うのは化物と相場が決まっている。
「本星型ではないようだが‥‥動きが他と違うな。気を抜かずに行くぞ」
「了解」
　白鐘とロッテを組むレールズ（ga5293）が頷いた。
　距離が詰ってゆく。
　迫り来る十一のワームの群れ。
「被害は最小限に‥‥放棄は最後の最後‥‥」
　ロジー・ビィ（ga1031）は出撃前の相良の言葉を思い出していた。
（「裕子‥‥貴女の心意気、見せて頂きましたわ。それに‥応えます」）
　蒼空を背に翼に白雲を引いて、八の鋼鉄の騎士鳥が八方に散開してゆく。
　ロジーはシェアーブリスの操縦桿を握り直す。
「出来得る限りの事を！」
　戦いが始まった。

●
　ＫＶ隊は上下二手に別れ獣牙が挟みこむように飛ぶ。ＨＷの編隊は即応し全機一丸となって上へと飛んだ。距離が詰ってゆく。
「組むのも久方ぶりだぜ。鍛えてますか？　少年君」
　高空。鈴葉はロッテを組むラシードに声を飛ばす。
「遅れはとらない」
「上等！」
　アフターバーナーが猛烈に焔を吹き上げた。最大戦速。音速の壁を突き破り、超音速をも超え、マッハ６の極超音速で駆け抜ける。鋼鉄の翼達が大気を切り裂き爆風の衝撃波を巻き起こして空を貫いてゆく。
「Crescent、範囲確認、突入三秒前――妨害開始‥‥唸れ、アズラーイール！」
　ラシードはロックオンキャンセラーを発動させた。R‐01Eアズラーイールから直径一ｋｍ以内の重力波が乱れてゆく。精度の四分の一を削り取る非常に強力な妨害波だ。
　一方の低空組、最速で先頭を飛ばすのは周防機EF‐006ゲイルMk．II。
（「ＣＷはやはり後方か‥‥踏み込んで一気に叩く！」）
　下方から天空へと抉り込むように飛ぶ。光の如きハイパーソニック。『ゲイル』の名は伊達ではない。ＫＶ上空部隊が斜め下方へと進み、ＨＷ隊が斜め上方へとあがる、その双方が射程に入るよりも前に横撃を加えるような形で一気に踏み込んだ。
「命中力が落ちてても、こんだけ弾が出りゃ当たるでしょ！」
　発生した強烈な頭痛を堪えつつツングースカで猛連射。弾丸がＣＷの装甲を泥のように貫きその奥までをぶち抜いた。瞬く間に爆裂が巻き起こる。撃破。まず一つ。
　白鐘機が黒ＨＷへと迫る、ヘッドオン。頭痛が激しい。距離が詰る。相手は撃ってこない。至近まで詰めレーザー砲を猛射。黒ワームは慣性を無視した動きで猛加速して回避。そのまま白鐘機とすれ違って抜けてゆく。白鐘はジェット噴射ノズル核を操作して横滑りしつつ急旋回する。猛烈なＧ。翼が風圧に軋み、押しつぶされるように身がシートに沈んでゆく。
　ワーム達が一斉に赤く輝いた。八機のＨＷが猛烈に加速して上空の傭兵達へと突っ込む。レールズ機がその進路を塞がんと白ＨＷへと迫る。真っ向勝負。
「あっちが終わるまで俺達とダンスでもしましょうか！」
　裂帛の気合と共に誘導弾を二発撃ち放つ。白ＨＷは急降下して回避する。付き合う気はない、といった態度だ。敵には敵の狙いがあるらしい。
　ならば砲火で強引に振り向かせるまでよ、レールズは機首を素早く下げ敵の進路先へとキャノンを連射する。しかしワームはロールしながら螺旋の軌跡を描いてすり抜けるように回避、急上昇に移る。速い。殴れば向かって来るキメラとは一味違う。
　白鐘機とレールズ機を除いたＫＶ全機はＣＷを目指して飛び――ＨＷの全機はラシード機を目指して飛んだ。敵も味方も真っ先に妨害波を潰しにいく戦法のようだ。定石の一つ。敵はエースだ。ＡＩではない。味方がやる事は敵もやる。
　バグア編隊の先頭を飛ぶのは赤光を纏う黒ＨＷ、ラシード機を射程に捉えると猛烈な勢いで誘導弾を射出した。六連。
　ラシード、操縦桿を一気に倒す。急旋回。かわせるか――誘導弾が、速い。飛来したミサイルが次々にイビルアイズに喰らいつき超爆発を巻き起こす。全弾命中。
　壮絶な激震がコクピットを襲い周囲が全て焔に染まる。全ての警告ランプが瞬時に赤く点灯する。少年は焦りと恐怖を切り離し最大限のダメージ制御に努め――次の瞬間、さらに壮絶な衝撃がラシード機を飲みこんだ。白ＨＷの誘導弾、六連射。大打撃の中かわせる訳もなく全弾被弾。風防が砕け散って破片が吹き荒れ、炎がコクピット内部を呑み込んだ。
　ラシード機が爆裂する火球に包まれながら落下してゆく。直後、蒼空に壮絶な紅蓮の爆発を巻き起こし大気を揺るがせて四散した。大破。
　砕けた翼の欠片が蒼空を流れてゆく。残りのＨＷ達は慣性を制御して機首を転ずると黒ＨＷを追う白鐘機目がけて淡紅色の光線砲を爆裂させた。十八を数える大量の光波が流星皇へと襲いかかる。白鐘、高速で翻って大半をかわすも回避した先を埋め尽くされ、やがて次々と打たれてゆく。衝撃がコクピットを揺るがした。
　鈴葉、最も手近なＣＷを見る。自機が一番速く仕掛けられるか？　コンマ一秒以下の逡巡、射程を考えるなら恐らく否、直感で判断し旋回。機首をＨＷへと転ずる。
　カルマ機CD‐016Gウシンディ、下方よりＣＷへと接近。激しい頭痛が発生する。堪える。ガンサイトにサイコロ状のワームを納める。良く狙う――今、
「Arc7、FOX‐3！」
　声と共に発射ボタンを叩き込む。轟音と共に雨のように砲弾が飛び出した。二百発の砲弾の直撃を受けＣＷが爆裂して四散する。撃墜。
　時任機R‐01改スラスターで撃たんとＣＷへ向かってブーストで一気に飛ぶ。ロジー機シェアーブリスもブーストで追走してＣＷへ。長距離バルカンの射程、入った。
「白薔薇、FOX‐3！」
　頭痛を堪えつつ発射ボタンを押しこむ。激しい振動と共に徹甲弾が飛び出してゆく。三十発の弾丸がＣＷへと吸い込まれるように突き刺さり、その奥までを撃ち抜いた。ＣＷが漏電と共に爆裂を巻き起こしながら落下してゆく。撃墜。
　鈴葉機、動きの遅いＨＷをガンサイトに納め高空より急降下して射撃。鉄量こそが戦の大事と考える。四百発もの重機関砲の弾丸を鼻先へと集中させつつストレイキャッツ誘導弾を撃ち放つ。ミサイルがＨＷを追って喰らいつき強烈な爆発を巻き起こした。
　時任機も翻り、ＨＷへと機首を向けている。爆発でよろけたＨＷへと接近、アグレッシヴ・ファングを発動させマッハ６で翔けながらスラスターライフルで弾幕を解き放つ。ＨＷが蜂の巣にされ、次の瞬間爆裂する火球と化した。撃墜。
（「同色でも敵機に速度差がある‥‥速い方は強化型か？　こいつの体当たりも対外だったな、強烈に光れば注意が必要か」）
　時任は戦場へ広く視線を走らせつつ機首を翻す。
　動きが遅めのＨＷ二機、白鐘機の行く手を塞ぐようにプロトン砲を連射している。鈴葉機はうち一機を狙って誘導弾を発射する。敵が急旋回に動く。スロットルを絞って減速、ノズル、ラダーを操作して未来機動を読んで小回り旋回、角度修正、機首が直線交差コースに入った瞬間にブースト加速、エンジンフルスロットル、マッハ６で突撃をかける。曰く浪漫武装のストレイキャッツ誘導弾、二段階に加速してＨＷに喰らいつく。爆発。悪くは無い。爆炎に揺らぐＨＷへと迫り交差。剣の翼がＨＷを叩き斬る。爆裂を巻き起こすＨＷを後方に雷電が空を翔けてゆく。撃墜。
　時任機、ブースト継続、動きが遅めのＨＷの後方へと超音速機動で捻り込む。アグレッシヴ・ファングを発動、Ｓライフル発砲。弾丸が咆哮をあげ鋼鉄の兜蟹を喰い破ってゆく。ファングを切って、ラスターマシンガンで猛射。ＨＷが漏電を巻き起こし煙を吹き上げ、空に装甲の欠片をばらまきながら爆散する。焔が流れてゆく。撃墜。
　三機のＨＷは白鐘機へとプロトン砲を猛射している。白鐘機は閃光の柵に囲まれながらも黒ＨＷへと至近距離で旋回しレーザー砲を繰り出している。黒ＨＷは背後を取られないように旋回しつつレーザー砲をかわしながら弾丸をばらまいて牽制する。至近距離で複雑に交差する巴戦。白鐘機、回避スペースが少ない。集中して潰す腹のようだ。白鐘、エースの攻撃だけは喰らわないように動く。外からのプロトン砲が次々に突き刺さってゆく。白ＨＷが白鐘機の後背へと回り込まんとしレールズ機がそのさらに後方へと回り込みショルダーキャノンを連射する。白ＨＷは白鐘機へと誘導弾を連射しつつバレルロールでレールズ機をかわす。白鐘機に誘導弾が突き刺さって猛烈な爆発を巻き起こした。白鐘、避けきれない状況に対しても手段は用意してある。PRM改を緊急発動させて防御。損害は軽微。動きが手堅い。
　ロジー、ブースト機動で天空から向き直る。ＨＷ三機と白黒のエースをアウトレンジからまとめてロックオン、総計五百発の小型誘導弾を撃ち降ろす。周防、カルマ機はブースト機動で低高度に降りると翻って同様に敵機全機をやや遠い間合いから洩らさずロックオン。カルマはさらにＰＲＭを発動させ周防と同時にK‐02を発射、二機で合計して千発の小型誘導弾を撃ちあげる。
　三機で合計して千五百発。上下から文字通り空間を埋め尽くすミサイルの嵐。敵を中心に――格闘戦を行っている味方機も少々巻き込んで――空間を爆熱の嵐で埋め尽くした。
　灼熱する空間へとロジー機はＨＷを狙いながらブーストで突っ込みつつロケット弾を射撃する。ＨＷは翻って回避。直後、回転するライフル弾がぶち抜いた。周防機の狙撃だ。爆裂を巻き起こしながらＨＷが落下してゆく。カルマ機もＨＷへとツングースカで弾幕を張り、蜂の巣にして撃ち落とした。
　形成の不利を悟ったか、白黒含む残りのＨＷ三機は猛烈に赤く輝くと一斉に三方へと散ってゆく。ただでは逃がさない。射程外へと逃れられるよりも前に赤のＨＷの背へと鈴葉、ロジー、カルマ、時任、周防の五機から追撃が飛んだ。猛烈な集中攻撃を受けてＨＷが木っ端に散る。
　白鐘機が黒ＨＷへ、レールズ機が白ＨＷへと追撃をかける。レールズ、ここまでくれば温存しておく必要もない。超限界稼働を発現させ眩く輝く。剣翼――相手の方が速い、届かない。カウンターだけでは相手が仕掛けてこなかった場合どうにもならない。キャノンで発砲。二機のエースは数発を受けつつも急降下して大半をかわし、低空を爆風を巻き起こしながら抜けてゆく。
　傭兵達が追う。周防機は猛加速し黒ＨＷへと距離を詰めてゆく。が、白鐘機は徐々に、残りの機はあっという間に離されてゆく。
　周防機が追う。黒ＨＷが逃げる。距離がみるみると詰ってゆく。一機たりとも逃がさない。SRD2の射程に納めリロードしつつ黒ＨＷへと発砲。連射。火花が散った。が、堕ちない。このまま追いすがって後背から攻撃し続ければ墜とせそうではあるが――
「敵領に深く入り過ぎている‥‥か、まいったね」
　アフリカは敵地だ。極超音速で飛ぶ両機は既にかなり大陸内部まで来ていた。周防は燃料計を一瞥すると操縦桿を倒して機首を返した。僚機の元へと戻る。
「‥‥何とか一応の片は着いたか。後は肝心の情報が無事なら良いのだが」
　撃退を確認して白鐘が言った。傭兵達は降下してラシード機を回収の後、地上の味方部隊へと合流した。


　かくて傭兵隊の活躍により千の捕虜と科学者は奪還されデータの隠し場所をＵＰＣは入手する。隊は千名を守って味方領域までの撤退を果たし将校の首もなんとか繋がったのだった。
　なお帰還後レールズは白鐘へと祝いの席を設けると共にシャンパンを贈呈したという。



　了