タイトル:爆撃!マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/14 12:53

●オープニング本文


 蒼空にヘルメットワーム舞い、黄砂に塗れた大地に無数の兵が這っている。
 125mm滑腔砲が業火を謳い、AKから放たれる弾丸の雨が肉を抉り貫く。銀雷の竜が吐き出すプラズマブレスが地平を貫き、人が塵のように消し飛ばされて死んでゆく。
 ここは地獄の激戦区、天国に最も近く、最も遠い場所。
「メーデー! メーデー! 援軍はまだかっ! こちらはもう崩壊寸前だっ!!」
 その戦線の一角、極めて劣勢を強いられている大隊の指揮官が無線に向かって叫んだ。
 親バグア派の軍団は体長十五メートルを越える超巨大キメラを大量に並べて押し寄せて来ていた。鉄灰の竜プラズマザウルス。太古の時代にこの大地に存在したステゴザウルスというのに似ている。少々体皮がメタリックに輝いていて目が黄金色に発光していて口から長射程のプラズマを吐き出したりするが――まぁ、似ている。
 このプラズマザウルス、遠距離から戦車砲を叩き込んでいるが赤壁に阻まれびくともしない。強化FFを破るには能力者が扱うSES兵器が必要不可欠なのだ。だが、大隊の能力者は激戦によって倒れており、今、攻撃に向かえる者が存在していなかった。
 親バグア派の軍団はこれを十体も並べて前進してきていた。これを突っ込ませてプラズマを撒き散らし塹壕を踏みつぶし盾にして進む。UPC軍の大隊はその進撃を阻めず後退に後退を重ねていた。
「こちら連隊HQ、先程、空軍より傭兵隊が出撃したとの報が入った。百八十秒後に到着する。なんとか持たせろ!」
「‥‥了解!」
 援軍が、来る。
 その言葉を信じ兵士達は敵の猛攻に抗うのだった。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
タルト・ローズレッド(gb1537
12歳・♀・ER
美空(gb1906
13歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
長瀬 怜奈(gc0691
22歳・♀・SF

●リプレイ本文

「こちらエッジSkyEye、地上に目標を捉えた。及び戦域上空への新たなジャミング元の接近を確認、反応は五つ、敵航空編隊と推測される。方位250、速力605、予想交差地点は――」
 管制を務める長瀬 怜奈(gc0691)の声が響く中、各機はユーラシア大陸の空を飛ぶ。SkyEye、各機よりの情報受信を強化出来るようだ。長瀬はそれを取りまとめて言葉に発する。
「やれやれ、どうにか間に合った‥‥‥‥とは言えないか」
 遠目にも解る。紫藤 文(ga9763)が地平の彼方に広がる地上部隊の惨憺たる様子を見やって呟いた。また手酷くやられたようだ。
 戦場に出れば人は死ぬ。それが当然だ。だが割り切れないものもある。
(「目の前の命を助けて仇も討ってやらないと」)
 それが死者への手向けだ。
『応援に来ました。上は任せてください』
 井出 一真(ga6977)が回線を開いて地上友軍へと声を送っている。
『待ちわびたぞ! 頼むッ!!』
 ノイズ雑じりの応答が返って来る。まだなんとか踏みとどまっているようだ。
『よく持ちこたえてくれた。ここからスコアをひっくり返そうか』
 紫藤が言って八機のKVが戦闘領域へと突入してゆく。
「皆がヒャッハーしてるトコ、偵察用カメラで保存しておくねー! カメラ目線お願い!」
 夢守 ルキア(gb9436)はそんなジョークを飛ばしている。実際撮ったものは後々戦法の勉強に使うつもりである。ちなみに骸龍にカメラは搭載されてるが特殊電子波長装置γにデータリンク機能は無い。もっとも電子戦機は大規模などで前線管制に使われる事が多いので機体自体にある程度の補助機能は備えるようになったそうだ。ただしある程度でありジャミングがきついので同期速度に難がある。長瀬機とルキア機で二重に中和しているので今は比較的クリアだがそれでも死角以外は各機が自己判断した方が速い。ルキアはメンバーの死角を潰すように心掛ける。
「寄せて寄せて揚げる〜♪」
 美空(gb1906)は妙な節回しをつけ愛くるしくCMソングを口ずさんでいる。UTでは敵に裏をかかれて偉く凹んだらしいが現在では立ち直ったのかやる気満々のようだ。
 少女は地上に群がるキメラどもを見下ろして一言、
『美空が貴様らに死を賜ってやるのであります』
 殺る気満々のようだ。
『地上部隊へ。「ジェリコの喇叭」を鳴らす、巻き込まれないようにしろ』
 井筒 珠美(ga0090)が友軍に警告を飛ばした。預言者ヨシュアの城壊の音、シュトゥーカの風斬音、爆撃だ。老人がいたならサイレンの音を遠い記憶から聞いたかもしれない。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ。オープンコンバット!」
 井出が言って阿修羅のアフターバーナーが焔を吹き上げた。剣翼が大気を切り裂き蒼の機獣が咆哮をあげ彼方のHW編隊目がけ飛翔してゆく。
「全く面倒な物を持ちだすものだ‥‥さっさと潰させてもらうとしようかね」
 タルト・ローズレッド(gb1537)は地表の超巨大キメラを睨んで呟きを洩らしている。
「敵は装甲が弱いとは聞きましたが、こいつは果たして通りますかね」
 ファイナ(gb1342)は高度を落とし宙で変形して大地に降り立つ。地を砕き削りながら砂塵を巻き上げ人型になったS‐01HSCがやがて止まる。長大なライフルを構えた。Pザウルスは地上への攻撃特化の超巨大キメラだ。十体のそれを相手に地上で撃ち合うは無謀に等しいが、さて。
 陸空高空、それぞれの層に傭兵達が展開してゆく。距離が詰る。
 ルキアが言った。
「さあ、行こうかイクシオン‥‥ゲヘナへ落ちるのはドッチだろうね?」
 戦いが、始まった。


 最初に動いたのは井筒機だ。
 相対距離一千、複合式ミサイル誘導システムIIを起動、巨獣の右翼上空の位置へ回り込み五匹をロックオン、発射。
「Orb(宝珠)、FOX‐3!」
 五百発の小型誘導弾が煙を噴出しながら飛び壮麗な軌跡を描き巨獣達へと獰猛に牙を剥く。爆発の華が咲き乱れた。
 上空。赤光を纏うHW、スラスターで撃たんと向かう井出機、ヘッドオン、五対一。HW達から一斉に淡紅色の光線が解き放たれる。井出機素早くロールすると背面飛行から急降下、光の嵐が空を虚しく突き抜けてゆく。速い。かわした。長瀬機とルキア機の援護も効いてる。五対一でもいけるか? HWが上を飛び、井出機がその下を抜ける。蒼翼号、ジェット噴射核を調節して急角度でIターン、向き直る。HW達も慣性制御で機首を向けている。プロトン砲が嵐の如く連射される、井出機スラスターを吹かし横滑りしながら抜けてゆく。機関砲が焔の咆哮をあげ弾丸がHWに突き刺さってゆく。交差。蒼翼号の剣翼がHWに喰い込む。KVが西へ、HWが東へ抜ける。次の瞬間、HWの傷口から電流が吹き荒れ大爆発を巻き起こした。撃墜。
 管制のルキア機、地殻変化計測器は設置して使うものでその効果半径は200m。強化されてるので多少範囲は伸びているだろうがこれを使用するにはPザウルスの射程内の地上に降下し設置しなければならない。ルキアは設置に赴――こうとしてちょっと考える。ここは部隊と部隊が激突している戦域であるし、振動波は入り乱れているだろう。予想される効果と危険度を考えると止めた方が良さそうだ。多分堕ちる。使える装備で支援に当たる。
「ブレスノウ、アグレッシブ起動‥‥CS−01、ロックオン」
 地上のファイナ機。SRCS‐01のガンサイトに巨獣を納める。その相対距離一〇〇〇。ブレスの射程外、安全は確保されている。しかしこちらにとっても遠大な距離だ。地上戦において一千は恐ろしく遠い。通常あたるものではない。だがファイナ機のブレス・ノウ Ver.3は距離によるブレを五割カットする。爆裂と共に跳ねる猛烈な反動を抑えつつ発砲。一発の弾丸が長大な距離を貫いてプラズマザウルスに突き刺さる。鮮血が吹き上がった。どうやらそれは無謀ではないらしい。連射。さらに命中。眉間をぶち抜かれた巨獣が断末魔の咆哮をあげながら横倒しに倒れてゆく。撃破。弾丸を撃ち切ったファイナ機は18mライフルを納め離陸準備に入った。
 美空、井筒、紫藤、タルト、の四機が空からPザウルスへと接近している。巨獣達は顔をあげ、六連の猛烈なブレスを撃ち放った。五十四の巨大な閃光の帯が空を焦がし猛然と襲いかかる。美空、井筒、紫藤、タルトの四機は音速で軌道し翼を翻して悉くをかわしてゆく。当たるものではない。
「好き勝手やりやがって‥‥寝床に帰れると思うなよ」
 紫藤GFA‐01シラヌイは相対距離四〇〇まで入ると三匹の巨獣の眼前へと前進を阻害するようロケット弾を撃ち放った。地上部隊の後退を援護するのが目的だ。二十四発のロケット弾がPザウルスの身に炸裂し、あるいは大地に突き刺さって土砂と共に爆焔を吹き上げてゆく。
「ここまでは想定済みであります」
 美空機A‐1Dが焔を点火する。天空よりブースト機動で急降下、複合式ミサイル誘導システムIIおよび誘導弾用新型照準投射装置を起動。囲むのが目標か。巨獣の左翼を狙い220mm6連装ロケットランチャーを爆裂させる。十八発のロケット弾が巨獣の傍らから柵を降ろす様に一定間隔で次々に大地に突き刺さり炎の柱を吹き上げてゆく。タルト機もまた84mm8連装ロケット弾ランチャーで右翼からロケット弾を叩き込み焔を大地に撒き散らす。井筒機はさらに15発のポッドミサイルを撃ち放って巨獣の一匹へと叩き込んだ。
「SkyEyeより各機、敵機接近、方位360、数三、速力1133、高高度、間もなく戦闘領域に入る、注意せよ」
 管制の長瀬が新たに北の空よりマッハ6で接近してくる敵影を捉えた。各機へと警告を飛ばす。
「蒼翼号、シックス!」
 ルキアが叫んだ。高空で四機のHWと格闘戦中の井出へと注意を飛ばす。井出機は四機を相手にマニューバを駆使して突撃出来るよう後背を取られぬよう宙に複雑な螺旋を描きつつ徐々に西へと逸れながら立ち回っているが、新たにやってきた三機は曲線を描いて西から東へと回り込んで来た。
 急機動の為、猛烈なGがかかっているコクピット内の井出、周囲は全部敵機だ。回り込まれ囲まれている。フェザー砲の嵐が四方から飛んでくる。背後を振りむくどころかレーダーに視線を落とす間も惜しい。警告に従い一刹那のうちに勘で逃げ道を探る。下? 横? 読まれる? ローリングしながらスラスターを全開にして滑りながら斜め上へ。機体に軽い衝撃が走る。フェザー砲が擦過する。抜けた。天地が回る、巨大な赤い兜蟹が回る視界の端に見えた。すぐ側。ノズルを操作し減速して急角度で頭を回す。Gを堪えつつSライフルを猛射、バーニア点火、フルスロットル、突っ込む。轟音と共に猛烈な振動、視界が揺れる。剣翼、入ったか? 猛烈な赤い光が背後から広がる。爆発した? 墜とした? 状況が解らないが考える前に操縦桿を倒す。周囲の紫色光線砲の密度が濃くなる。三機きやがった。七対一か六対一。
「スプラッシュ――」
 猛烈な唸りの中、長瀬の声が無線から聞こえた気がした。先の剣翼、撃墜してたか、ならば六対一。
「SkyEye、敵機接近、方位350――」
(「次から次へと‥‥っ!」)
 叩きつけるように操縦桿を切り返す、急降下、スプリットSから旋回、振動が連続して蒼翼号を襲う。ついにフェザー砲が当たり始めた。
(「反撃の機会は一瞬たりとも無駄に出来ない‥‥!」)
 井出は目を見開き気力を振り絞り、紫の光で埋め尽くされた世界で隙間を目指して飛ぶ。ルキア機、井出機へと警告を出したいが何処に逃がそうと指示すれば良いか解らない。超至近距離での超音速戦闘だ。瞬間の安全地帯はあっても声に出している間に目まぐるしく位置は入れ替わってる。コンマ一秒以下を争う世界だ。KV空戦は機動を助言するには戦闘距離が近過ぎて、また動きが速すぎる。
「こちらSkyEye、Lh2へ援護にいける機はないか」
「Lh7了解。支援に向かうよ!」
 言葉で言うより直接砲火で援護した方が良さそうだ。ブースト点火、イクシオンのアフターバーナーが咆哮をあげた。ルキアは激しく螺旋の軌道を描きながら入り乱れている七機の元へと極超音速で向かう。HWの一機へと相対距離三〇〇まで詰めてピアッシングキャノンを連射。二回攻撃一発命中。砲弾がHWの装甲に突き刺さる。攻撃を受けたHWがルキア機へと猛然と翻る。が、次の瞬間、HWは漏電と共に猛烈な爆発を巻き起こして四散した。
「ストライプ空戦開始‥‥遅くなって申し訳ありません」
 ファイナ機のロングレンジライフルだ。白のS‐01HSCが爆風を巻き起こしながら高空へと昇ってゆく。
 一方、低空部隊はついに爆撃を敢行せんとしていた。
 低空、美空。ロケット弾が焔の柱を吹き上げるといってもすぐに消える。しかし両翼の端の巨獣達の立ち位置は外へは広がっていない。爆発を避けるように足を止めてからは空へと向かってブレスを連射している。閃光の帯が吹き荒れる中、翻ってかわしつつ考える。フレア弾、爆発の直径はおよそ百、陸の味方、井筒の先の警告で南方へ後退している。今ならいけるか?
「SwordScarよりLh6へ、いけるんじゃないか」
 逡巡を読んだような紫藤の声が無線から聞こえた。美空機ロングボウII、攻撃実行の言葉を返し巨獣達の戦列の中央へと向かって飛ぶ、井筒機が注意を引くようにロケット弾と機関砲を猛射しながら突っ込む。アテナイで弾丸をばらまきながら超音速で巨獣達の頭上を抜けてゆく。美空機を狙ってブレスを吐いている巨獣の二匹へ紫藤機がロケット弾を叩き込み、タルト機がロックオンキャンセラーを発動させた。
「対空攻撃能力はないとはいえ、念には念を、だ」
 イビルアイズを中心に直径1km内の重力波が乱れてゆく。タルトはガンサイトに巨獣を納めトリガーを引いた。重機関砲が唸り弾丸が勢い良く飛び出してゆく。鮮血を噴出しながら巨獣が倒れた。美空機が戦列の中央へと差し掛かる。
「ビンゴ」
 減速し急降下する美空スペシャルから二連のフレア弾が投下されてゆく。紫藤もまた減速急降下してGプラズマ弾を投下した。先にロケット弾で撃った二匹からのブレスが紫藤機の翼の端を掠め蒼空を貫いてゆく。長瀬機、ルキア機、タルト機の援護が効いてる。かわした。
 次の瞬間――赤い赤い超巨大な二連の火球が地表から膨れ上がり、同様のサイズのプラズマの嵐が吹き荒れた。直径百メートルの超爆発。爆風が全方向に向かって荒れ狂い、赤光が大地を染め上げてゆく。焔と破片とプラズマが大地にある全ての存在を消し飛ばし、猛烈な火球の中でプラズマザウルス達が融解し、ねじれ、消滅してゆく。
 爆発が荒れ狂った後に残ったのは、砕かれた巨獣達の残骸と巨大なクレーターのみだった。
 三連の超巨大爆発は八匹の巨獣達を根こそぎ薙ぎ倒していた。フレア弾、プラズマ弾共に範囲は広いが威力はそれほどでもない。敵は攻撃力は高いが装甲に劣るという情報は間違っていなかったようだ。
 空。ファイナ機が突撃してLRライフルからアグレッシヴ・ファングを乗せたSライフル射撃でHWの一機を粉砕し、井出機が猛攻を受けながらも堪えて三機目を撃墜している。ルキア機は射撃を繰り出しつつ反撃に向かって来たHWに対し煙幕を炊いて逃げる。高空へと昇ってきたタルト機がそのHWの後背へと捻り込んでロケット弾を叩き込んだ。八発直撃、激しい爆発を巻き起こす。
「個々の力は大したことはないようだが数で押されると厄介だな‥‥」
 女はそんな事を呟く。
 井筒、紫藤の二機も高空へと昇り戦闘を開始する。
 形勢の不利を悟ったか、撤退命令でも出たのかHW達は猛烈に赤く輝くと北へと向かって極超音速で飛行を開始する。
 射程外に逃れられるよりも前に傭兵達は猛撃を繰り出し井出とファイナがそれぞれ一機づつ、ルキア機とタルト機が火力を集中させて先から攻撃を加えている一機を墜とした。残りの六機はぼろぼろになりつつも北の空へと逃れていった。新たな増援の三機も途中で引き返したようである。
「こちらSkyEye、目標の全ての撃退を確認した。繰り返す、目標の全ての撃退を確認した。作戦は成功だ」
 長瀬は言いつつ空より負傷者と生存者を捜索しその情報を陸軍へと送っている。
 そんな中、各機の無線に新たなノイズが交じった。
『――こちら、UPC中国軍第十六歩兵大隊のリーだ。空軍、よくやってくれた。感謝する』
 どうやら先に応答していた大隊長らしかった。



 かくて、傭兵達の活躍により空陸の脅威は取り除かれ劣勢にあった大隊は息を吹き返した。
 戦線の崩壊は回避され、やがて攻勢の限界に達したバグア軍は進撃を諦め堅所まで後退していったという。



 了