タイトル:遼寧の吹雪と雷火マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/06 09:47

●オープニング本文


 ユーラシア大陸が中国の北東部、過去に行われた北伐戦によって広い地域が人類側へと奪還されたがそれは守るべき場所が増大した事も示していた。
 奪還された領土の片隅、崩壊した故郷を再建せんと集まった人々にまたしても災厄が牙を剥く。
「キメラだーーーッ! キメラが出たーーーッ!!」
 再建途中の町の役場に血相を変えた男が飛び込んで来た。山から切り出した木材をトラックに積んで付近の都市まで運ぶのを仕事の一つにしている男だ。
 曰く、北の街道より三体の巨大なキメラが町を目指して降って来ているのを見たのだという。どうやって戦線を掻い潜って来たのか――恐らく空からばらまかれたキメラ群に一部だろうか――既に町まで十キロ程度の所まで接近していたそうだ。
 キメラ達の歩みは早く、男が途中でトラックを回頭させて道を引き返し役場に飛び込み事情を説明するのに十分はかかっているから、もう五分もすれば町に辿りついてしまうだろうという事だった。
 軍に応援を要請しても間に合わない。そもそも確実に来てくれるかどうか不明だ。過去の教訓からいざという時の備えの為に週決めで傭兵を雇っていた町長は至急彼等に無線を飛ばし迎撃を依頼した。
「なんかでっけぇキメラが三体も向かって来てるってんだよぉ! 折角直してるのにまたぶっ壊されちゃかなわねぇべ! どうか町に突っ込まれる前になんとかしてくんろぉ!」
 話を聞いて町のあちこちに散っていた傭兵達は無線で詳しい話を聞きつつ北の街道へと急ぐのだった。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
テトラ=フォイルナー(gc2841
20歳・♂・DF
高梨 未来(gc3837
19歳・♀・GD
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

「やっと取り戻しつつある誰かの故郷だ。失わせる訳にいかん」
 連絡を受けた黒川丈一朗(ga0776)は言って復興中の町のストリートを北へと走る。
 同様に無線連絡を受け取って他の傭兵達も駆け町の北の外れへと集結した。
 地平の彼方、距離が離れていても解る。超巨大な蟹と虎と蛇のキメラが怒涛の勢いで町へと迫り来ていた。
「‥‥でけぇ! まるで映画見たいだぜ!」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)が迫り来る超巨大キメラの群れを見て目を剥いた。ここまで巨大なキメラを相手にするのは初めてだ、恐らく、今までで一番の激戦が繰り広げられるだろう、と思う。。
「全く、この大きさは反則だろ」
 新条 拓那(ga1294)も思わず、といった様子で呟いた。
「――生身相手は荷が勝ちすぎるけど、それでもやらなくちゃ、なんだよね!」
「おう、さすがに不安だがここで退いたら男が廃るぜ!」
 ガルが威勢よく言葉を返す。それに一人で戦うのではない。仲間がいるのだ。協力しあえばきっと強大なキメラにとて打ち勝てる筈である。
「動物さんは可愛いのですが‥‥人様に迷惑を掛けるのは駄目です! 悪い子はお仕置きです!」
 高梨 未来(gc3837)が言った。
(「‥‥デカイな、食い甲斐もある」)
 月城 紗夜(gb6417)はそんな事を思った。傭兵達はそれぞれ得物を抜き放ち、迎え撃つように荒野をさらに北へと駆ける。
 三匹のキメラに対し三班に散って迫る。クリスタルキャンサーへ黒川、吹雪 蒼牙(gc0781)、サンダータイガーに対して新条、高梨、バーストスネークに対し月城、ガル、テトラ=フォイルナー(gc2841)、イレイズ・バークライド(gc4038)が向かった。
 まず最初に激突したのは快速で先頭を飛ばす新条と雷虎だ。疾風脚を発動、脚部に光を纏って踏み込む。
「命がけの猫じゃらし、もとい、虎じゃらしだな。ほらよ! 美味しそうな獲物はこっちだぜ! とっとと捕まえてみろっての!」
 間合いに入って来た新条に対し虎は五メートルの巨体をしなやかに跳躍させ爪に青雷を宿し振り下ろす。男は素早く飛び退いてかわす。高梨が防御陣形を発動させて新条の防御性能を向上させる。虎は吼え声をあげながら爪牙を振るって四連撃を繰り出す。新条は全力で回避に専念している。機敏に動きまわって回避。一発、腿をかすめたが、それ以外は全てかわした。
 黒川、六mの煌めく冷気を纏う青い巨大蟹へと向かった。青い蟹は駆けて来た勢いのまま黒川へと突進し、その巨体で轢き殺さんと六本の巨大な脚をトレーラーの如く動かして迫る。
「トァッ!」
 迫り来る巨大な青い壁に対し、黒川は横っ跳びに跳んでかわしつつ気合いの声を共に拳を突き出した。手に嵌められた機械拳「烈空」から雷撃が迸りクリスタルキャンサーの甲羅に激突する。雷属性、水に強い。猛烈な破壊力が荒れ狂った。電撃が強固な蟹の甲羅を焼いてゆく。
「裂空は通用しない――かと思っていたが、そうでもないか?」
 黒川はサイドに回った筒を引き抜いて開き、中に入っていたミネラルウォーターを蟹の関節目がけてぶちまけた。水が蟹の脚にかかり、瞬く間に氷ついてゆく。蟹は直後に生じた氷を気にした様子もなく関節を動かしてパワーに任せて圧し割り迫る。そして両手の鋏に冷気を巻き起こすと黒川へと振り降ろした。黒川はバスタードソードを抜刀しつつ踏み込んで一撃をかわし二撃目が脇腹をかすめて切り裂かれつつも、その内側へと入り込む。蟹は圧し掛かるように前に低く跳ぶ。黒川は慌てて飛び退いた。地響きと共に巨蟹が落ちる。蟹は巨体ながらも素早く身を起こし追撃に鋏で薙ぎ払う。黒川は颶風と共にクロスに走る鋏撃を身を斜め右に沈めてかわし、次に左に沈めてかわす。
「砕けろ!!」
 その隙に駆けて来た吹雪が入って蟹の腹の甲羅めがけて2mのツヴァイハンダーを渾身の力を込めて振り下ろした。連斬。唸りをあげて長大な大剣が炸裂し雷属性を帯びたその刃が猛烈な威力を炸裂させて強固な装甲に罅を入れてゆく。吹雪はぱっと飛び退き、黒川が両手に片手半剣を構えてその亀裂へと体当たりするように剣を突き刺した。
 他方、真紅の鱗を持つ体長八mの超巨大蛇バーストスネークに対しガル・ゼーガイアが突撃しながら超機械で牽制の一撃を解き放った。発生した電磁嵐が蛇の一部を包み込む、雷属性火に弱い。電撃は強靭な蛇の鱗に弾かれて散った。牽制なのでさほど期待した一撃ではないのだが、その鱗には傷一つついていない様子だった。
 その真紅の巨蛇は月城に対し威嚇音を発しながら鎌首を持ちあげると巨大な顎を開き爆裂する巨大な火球を連続して五発吐き出した。ミカエルに身を包む月城は前進しながら稲妻のようにジグザグに走って次々に火球をかわしてゆく、しかし一発を避けきれず猛烈な破壊力を秘めた火球が女に炸裂した。爆炎が月城を包み込む。家族の形見の力を借りて水属性、火に強い。損傷は三分、軽微。火球を突き破って大蛇に肉薄し、水のように透き通った刃を持つ太刀で斬りかかる。
「キメラに刀の美しさは分かるとは思わんが、鋭利な輝きは魅了してやまない、我を含め」
 柄の中頃を深く握り竜の瞳を発動させて五連斬。狙いを一点に集中させて剣閃を解き放つ。真紅の鱗が水の刃によって猛烈な勢いで削られてゆく。
「‥‥やはり実物を見てみると、想像以上にでかいな」
 駆けつつテトラが呟いた。月城が太刀を振るっている間に真紅の巨蛇へと水晶の青剣を構え迫る。突撃の勢いを乗せて踏み込み駆けざまに三連の剣閃を巻き起こす。水属性の流し斬りが入って猛烈な破壊を巻き起こした。大蛇の鱗が吹き飛び鮮血が吹き上がってゆく。
「弱点属性はわかってんだ! いくぜ!!」
 ガルは巨大蛇に肉薄すると今度は驟雨を振り上げて斬りつける。二連撃。クロスに走った剣閃が易々と赤の鱗を切り裂き盛大に血飛沫を噴出させる。水属性、火に強い。その猛烈な破壊力を解き放った。
「クソ蛇が‥‥財布にしてやろうか!」
 三名からの猛攻に蛇が衝撃を受けている隙にイレイズはその頭部の斜め後方へと回り込むと地を蹴って跳躍した。高々と空に舞い体を捻り、斜め上から下方へ打ち降ろすように回転を加えて蹴りを放つ。狙い違わず脚甲の角が大蛇の頭部に突き刺さり強撃を与えた。こちらも水属性。どうやら全員しっかりと対策を整えて来たらしい。
 高梨、防御陣形を発動させ戦場全体の様子を見つつ声を発し新条のサポートに徹する。新条、付近に味方がいるのは多分、心強いのだろう、その動きが切れ味を増し防御性能が高くなる。虎を見据えて防御専念、脚部を淡く輝かせながら流水の如く動く。暴風の如く振るわれる爪牙を、かわしてかわしてかわしてかわす、青雷が宿った落雷の如き振り降ろしも高速で飛び退いて回避。猛攻を全て避けきる。虎の動きは素早いが、全力防御中の新条なら見切れる。空を切った雷爪が荒野を爆砕して盛大に土砂を吹き上げた。
 クリスタルキャンサーが吹雪と黒川に対して氷雪を纏った鋏を振り回す。吹雪に二撃、黒川の身に一撃が入って吹き飛ばし男達の身を冷気と共に切り裂いて、その装甲を陥没させて強烈な打撃を与える。吹雪はゴーグルの力を借りて雷属性を纏い冷撃を軽減する。
「そういえば、カニはバラして食うもんだったな」
 高級品なんて久しく食ってないから忘れてた、と黒川。男は腕を旋回させると両拳を突き出した。五条の雷撃が勢い良く飛び、突き刺した剣に直撃する。電撃が合金を伝わって流れ込み蟹の装甲を無視して、その内部から壮絶な勢いで焼き焦がしてゆく。クリティカルヒット。効果は抜群だ。蟹から白煙が吹き上がる。
「これで――っ」
 吹雪は電撃に打たれている蟹の頭部へと再度迫ると跳躍し渾身の力を込めて大剣を叩きつけた。蟹の頭甲が陥没し体液が噴出する。蟹の瞳から光が消え、地響きと共に前倒しに倒れてゆく。撃破。
 真紅の大蛇バーストスネークが頭部を振るい尾を振るって周囲を薙ぎ払う。月城、ガル、テトラは素早く飛び退いてかわす。イレイズは死角に回らんと動いているので攻撃を受けていない。
 月城は先に斬りつけた部分へと再度、太刀を振るって斬りつける。テトラもまた動きの鈍って来た大蛇に対し両断剣を発動させオーラブルーを振るって畳みこむように三連の剣閃を巻き起こす。ガルは驟雨を振り上げると渾身の力を込めて振り抜いた。剣撃の嵐を受けて大蛇の身から次々に血飛沫が吹き上がる。イレイズは跳躍し再度蛇の頭部を角で蹴り刺した。
 水属性の武器を振るう四人の傭兵達からの集中攻撃を受けて大蛇はその強靭な生命力を猛烈な勢いで削り取られてゆく。その頭部を穿たれ、身をズタズタに切り裂かれ、荒野に血の河をつくりながら絶命した。撃破。
 蛇を葬った四人はそのまま蟹、も撃破されているようなので最後の虎へと駆ける。黒川と吹雪も虎へと向かった。
「何でもでかけりゃ強いってーのは間違いだ! 小さい人間には小さいなりのやり方だってあるんだからな!」
 周囲から仲間達が集まって来るのを見て新条は反撃に出た。疾風脚を継続しつつ虎の爪をステップしてかわし、その右前脚を狙って七連の剣閃を巻き起こす。ツーハンドソードが嵐の如くに振るわれ虎の脚から血飛沫が吹き上がってゆく。虎は斬られつつも牙と右の爪に青雷を宿して振るう。新条は剣を振るいながら牙をかわし、二発の爪撃をかわすも、三発の爪の直撃を受けその身を叩き潰される。荒野が陥没して土砂を吹き上げ、青雷が爆裂して猛烈な破壊力が男の身を焼き焦がした。それでも新条、負傷一割八分、タフな男だ。
 その隙に回り込んだ高梨は虎の横腹めがけて腕を体に密着させて盾を構え猛然と突進する。シールドスラムだ。インパクトの瞬間に地を右足で蹴りつけ体重を乗せて体当たり、火炎のレイシールドが炸裂して虎の腹に衝撃を与えた。間髪入れずにスマッシュを発動、渾身の力を込めてストラスを叩き込む。梟のような爪が炸裂し虎の白い毛皮を裂いて鮮血を噴出させた。
 駆けつけた黒川が烈空を突き出して雷撃を飛ばし、蛍火に持ち変えた月城が入って五連の剣閃を巻き起こした。吹雪がツヴァイハンダーを振り上げて斬りかかり、テトラが真紅の壱式で流し斬り深々と虎の身を斬り裂く。雷には火がよく効く。
「目潰しだ! 少し大人しくしやがれ!」
 ガルが吠え虎の顔面を狙ってグロウを解き放った。火属性の電磁嵐が荒れ狂い虎の左目を中心に顔の半分を吹っ飛ばす。
 その隙にイレイズが虎の後方へと迫り、左後脚の腱を目がけて焔の蛍火を叩き込んだ。インパクトの瞬間に痛烈な衝撃が巻き起こり虎の肉に深々と喰い込み、腱を切り裂きながら刃が抜けてゆく。血飛沫が盛大に吹き上がった。
 右前脚と左後脚をやられた虎はバランスを崩し、傭兵達が再度一斉に攻撃を叩き込んで荒野に沈めたのだった。


 戦い終わって、
「様々な得物があるが、やはり我は刀がいいな」
 月城は血払いして紙で刀身を拭き鞘に納めるとそう言った。
 ガルは巨大キメラ達の骸から物品を収拾している。蟹から青い甲羅の欠片を獲得し、虎から砕けた牙の先を手に入れた。蛇からは赤い鱗を一枚である。特に何に使えるものでもないが、まぁ倒した記念にはなろう。
 かくて八人の傭兵達の活躍によって襲撃をかけてきた三体の巨大キメラ達は屠られ、復興途中の町は平穏を取り戻した。
 町では緊急体制が解かれまた人々が日常の営みを再開した。いつの日かまた、侵略される以前の姿を取り戻すだろう。
 活気のある町並みに人々の声が響いている。




 了