タイトル:需要と供給マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/06 09:46

●オープニング本文


 素早く疾駆する黄金狼人の頭上に透明な液体が入ったビニル袋が次々に投擲された。次の瞬間SMGが薙ぎ払って中の液体が周囲にぶちまけられる。
 猛烈な刺激臭に狼人が目を白黒させ、南と東より間合い詰めた二十人の兵が持つアサルトライフルが一斉に焔を吹いた。弾丸が次々に赤壁をぶちやぶり狼人が蜂の巣にされる。皆、能力者のようだ。すかさずメトロニウム製の網が投げられキメラにかかり、閃光手榴弾が投擲されて爆音と共に閃光を撒き散らす。
 四隅に立ち、巨大なメトロニウムの檻を持った四人のグラップラーが一気に瞬天速で駆け狼人の身の上にそれを降ろした。箱が地面に深く突き刺さる。兵達はバトルスコップを用いて箱の周囲を掘ると分厚いメトロニウムの板を箱の底へと差しこみ土を斬りあちらへ押し出して通した。ビスを打って板と箱を繋ぐ。密閉。
「よし、三十六秒、捕獲完了だ」
「‥‥隊長、少し良いですか?」
 まだ若い兵士が言った。
「どうした」
「いえ、なんで我々はいつもいつもこんな面倒な真似をしてキメラ捕えるんですか? 一体に対して人員も労力もかかりすぎます。殺すなら、我々ならば三人、大事をとっても四人いれば十分です」
 百錬鉄火を潜り抜けて来た隊なのだろう。彼等は中国のとある軍閥に所属している兵達だった。彼等の動きは鋭く、またエミタとの親和性も向上しているのか彼等が放つ武器の火力は一般の軍兵のそれとは桁が違った。大抵は貧乏なUPC軍にしては珍しく武装自体もかなり改良されているようだった。黄金の狼人は凶悪なキメラだったが、彼等はそれと十分に渡り合う事が出来る火力を持ち得ていた。
「戦に勝つにはまず敵を知る事からというだろう」
 隊長である下士官が兵士の問いに答えた。
「キメラの生態を研究している科学者のチームが居るらしい。我々が捕えているキメラはそこへ送られているのだ」
「そうなんですか? でももう百じゃ効かない数を我々は捕えて送っていると思うのですが、成果は出ているんですか?」
 成果が出ているとは隊長も聞いた事がなかった。
 しかしまぁ、彼等は軍人だ。やれと言われればやらねばやらぬ。もっとも、そんな事を言っては部下達のやる気を削ぐも同然なので、
「まったく成果が出ていないのならこれほどまでに長期間にわたって、これほどまでの頻度で、行われる作戦でもないだろう。無駄に戦力を使う余裕など人類には無い筈だ」
「それは、まぁ」
「我々のような末端には知らされるべきではない結果が出ているのかもしれない。あるいはいずれ知る時が来るのかもしれない。だが、上等兵、差し手の考えに思考をめぐらせるのは良い兵ではない。駒は駒として動けば良いのだ。我々は撃てと言われれば撃ち目標を粉砕する、そうあれば良い」
「たいちょー、本当にそう思ってます?」
「良い兵ではないと言った筈だぞ?」
 少し視線を鋭くして言う。
「は‥‥了解であります隊長殿」兵はしぶしぶと言ってからヤケクソのように敬礼した「自分は何も考えないであります!」
「よろしい! 行くぞ、撤収だ!」
「はっ!」


 キメラは軍の研究所へと送られた。研究者があれこれと何かをし、そして箱はまた別の場所へと流れて行く。
 ブランドン・ハーツは東南アジアに本拠を置く海賊だ。彼がつるんでいる連中は彼と同様に金を貰えば大抵の事はやったので、運び屋としてもその業界では知られていた。むしろ表向きにはゼット運輸という社名を使っているから、そちらの方が知られているかもしれない。
「今回の荷は二日後に? ええ、はい――」
 大陸の港街。白のワイシャツ姿の女がにこにこと営業スマイルを浮かべて怪しげな――人の事は言えないが――連中と商談を行っている。そういった役目は専ら彼女が行っていた。
「はい、では半金はいつもの口座に。大佐によろしくお伝えください」
 男達が去ってゆく。
「エルダ、終わったのか? 幾つだ?」
「終わったよ。ブランドン、君ねぇ‥‥せめて話くらいは聞いてろって何時も言ってるだろ?」
 嘆息してエルディアが言う。どう見ても東洋人の女だ。本名は知らない。それはあちらも同様だろうが。
「うるせぇよババア」
「まだ二十四だぜクソガキ」
 童顔な女はこめかみを引き攣らせてそう言った。少し驚く。二十四には見えない。いいとこ二十だ。実は普通にババアだったらしい、と十七の青年は思った。
「で?」
「中型のが六個。あとディスク」
「またあれかよ? 今時なんでディスクなんだか‥‥」
「さぁ、趣味なんじゃない?」
 若しくは特殊なものなのか。まぁブランドンにとってはどうでもいい事だった。


「悪い、僕等はいけそうにない」
 白衣を羽織ったファインセンキュー・ハローワールドが言った。ふざけた名前だが吐く言葉もふざけてる。
「あぁ?」
「急ぎで一件入っちまった。こいつは外せねぇ。今回の運送はお前とエルダでやってくれ。医者を回す」
 とコーカソイドの巨漢が言う。ゼット運輸社長のアルファだ。
「ちょっと待ってよ、二人? 坂田さんの操舵はブランが出来るとして、私一人で船と荷を守れって? チャドとデイジーもそっちかい? せめて一人はこっちにくれよ」
 エルダが慌てたように言った。
「なに心配するな。代わりと言っちゃなんだが、頼りになる何でも屋を雇っておいた」
「‥‥何でも屋だぁ?」
 ブランドンが怪訝そうに片眉をあげる。
「ま、仲良くやれよ」
 社長はそう言って青年の肩をぽんと叩いた。


 ある者は傭兵仲間から、ある者は治安の悪い路地裏の酒場の店主から、またある者は黒いグラスをかけた大男に「割の良い仕事があるんだが」と声をかけられて中国南部の港町へとやってきた。
 指定された波止場へゆくと桟橋につけられた哨戒艇の前に若い男女が居た。
 うち白のワイシャツにネクタイを締めている女が口を開き一礼する。
「おはようございます、私はゼット運輸のエルディア・ランバルトと申します。ボルネオ島までの護衛を皆様が請け負ってくだされるという事ですが、相違はないでしょうか?」
 女の後ろでは無作法に地面に座り込んでいる青年が顔を顰めて傭兵達を見ていた。

●参加者一覧

国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
ロジーナ=シュルツ(gb3044
14歳・♀・DG
天宮(gb4665
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

 薄暗い店内。
 気だるい調べと紫煙が支配している。
「――面白そうだね。私も一枚、噛ませて貰おうか」
 カウンター。男は呟き琥珀の液体の入ったグラスを揺らした。
「ここの酒代、出してくれるのだろう?」


 青い空。夏の太陽がギラギラと輝いている。
「今回依頼を受けたものです。よろしく」
 埠頭に立ち、微笑を浮かべて叢雲(ga2494)がワイシャツ姿の女に答えた。傭兵達はそれぞれ自己紹介をする。
「や、仲間として自己紹介をするのは初めてですね」
 うち一人、国谷 真彼(ga2331)はエルダにそんな事を言った。
「いつかの時はどうも」
 エルダはふわりと柔らかい笑みを国谷へと向けた。
「国谷さんが来てくだされるとは心強いですね。頼りにさせていただきますよ」
 バーガー屋のそれに似ている、と国谷は思った。前にやりあった時の事も交えて幾つか話をしつつ、
「やはりブルーファントムは敵に回すと恐ろしいものですか?」
「ゾディアックが襲って来ると思えば解りやすいかと」
 笑みのままだが当時を思い出したのか顔色を白くして女は答えた。
 UNKNOWN(ga4276)はそんな話を聞きつつ船の喫水に目を走らせる。深い。かなりの重量の物を積んでいるようだ。男がその沈みから重量を計算しているとエルダが視線を向けて来た。目が合う。
「美人と一緒だと船旅も楽しそうだ」
 男はそんな事を言って片目を瞑るとぽん、と女の頭に手を置いた。
「えっ、あ、は、はい、どうもっ」
 エルダは吃驚したように顔を少し赤くしてあたふたしている。
 多くの者にはそうは見えなかったが――何処となく演技くさい仕草だ、とUNKNOWNは感じた。
 そんなこんなをやりつつ、一同は今回の航海についての説明を受けると船に乗り込む。
(「‥‥ゼット運輸か。全く、漂流刑くらいそうな物は積んでないだろうな?」)
 キリル・シューキン(gb2765)は改造魚雷艇に乗り込みながら胸中で呟いた。彼は事前に海賊退治などの依頼がUPCへ舞い込んでいないか可能な範囲で調査せんとしたが、軍の機密を得るのは難しく失敗に終わっていた。
(「ふむ‥‥」)
 天宮(gb4665)は黒いグラスを光らせて甲板に立ち周囲を見回す。彼はゼット運輸の表裏両方の貌、及びエルダとブランドンの両名について調べておいた。こちらは割と知られた話であるらしく情報屋にあたるとすぐに聞けた。表向きには運送会社だが実質は運び屋兼海賊であるらしい。
「‥‥ふむ、本当は他にも仲間が、かね?」
 船内に入って新たな煙草を咥えつつUNKNOWNが言った。
「え? ええ、社員はもっといるんですが、急に他でも仕事が入ってしまったみたいで。それで皆さんにお願いしたのですよ」
 とエルダ。男は海図や海流図、海底地形図を眺め、
「空模様は大丈夫かね?」
「予報では大丈夫です。いきなり時化る場合もありますけど――ああ、今回はこのルートで行きます」
「ふむ‥‥少し見せてくれ」
「敵として想定されるのは‥‥ひょっとして人間もですか?」
 UNKNOWNが地図を見ている間に国谷が問いかける。
「結構、物騒な海域ですからね」
 あははと笑って女は答えた。
「今回の積み荷は先程のコンテナ六つですか?」
「はい、そうなります」
「ねぇねぇ。あれすごくまっ黄色でぶんぶん鳴ってるの。頭痛いくらい五月蝿いよ。わかんない?」
 ロジーナ=シュルツ(gb3044)がコンテナが積み込まれてる船室の奥の扉を指して言った。
「死にたくなけりゃ触るんじゃねぇぞ」
 ブランドン・ハーツが少女を睨みつけて言う。
「うぇ」
 ロジーナはちょっと怯えたような顔をして後じさった。
「‥‥歩哨は順番に回した方が良いかな。ああ、そうだ、双眼鏡は島方向でない場合は水平線が入る様に見ると良い」
 UNKNOWNがそう言った。曰く、そうでないと距離感と方向を見失い易いらしい。
 一同は航路を確認しつつ歩哨に立つ組み合わせや休息の取り方など諸々を打ち合わせる。
「出すぜ!」
 準備を整えると操舵席についた少年が言った。改造艇の機関が唸りをあげ、船は勢い良く走り出す。
 傭兵達は青い海を割って南へと向かった。


「おっおっお〜♪ オ〜リム〜のお〜♪ ぼ〜く〜は好〜きだ〜ぞっ惚〜れて〜るぞ〜っ♪」
 青い空に白い海、風を切って船は進み、甲板に立つ翠の肥満(ga2348)の歌声が響くここは南シナ海の北部、まだまだ出発したばかりだ。
「『旨い話には裏がある』とは良く言うが‥‥ウサン臭ぇ事極まりねーなオイ」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)が苦笑を洩らしつつ呟いた。ブランドンは操舵室、エルダは船内へと行っている。
「同感です。割がいい、というにはどうにもきな臭いですねぇ」
 歩哨に立っている叢雲が答える。貧乏籤か、と思う。
「ま、しかし、何でか知った顔も多いしどうとでもならぁな」
 ニヤリと笑ってアッシュ。
「人の事言えませんが、どこで嗅ぎつけて来たのやら?」
 苦笑して叢雲。
「ボクはね、なんだかすごく夕焼け色でぶんぶんしてたのね、叢雲もぉ、お仕事持ってきた人も。だから来たの」
 ロジーナはそんな事を言った。
「はぁ‥‥そうなんですか?」
「そうなの」
 少女は偶然叢雲を見かけた所、危ない匂いがしたのでついて来たそうな。
「危ない匂い、ですか」
「うんー、エルダはぁ黄色いけどぶんぶんはしてない。ブランドンはぁ夕焼けみたいな色ね。でもぶんぶんしてないよ」
 ロジーナ=シュルツ評ではそんな所であるらしい。
 翠の肥満はというと、
「やーラクしておカネが欲しい今日この頃でしてねえ」
 デッキチェアに腰掛けはっはっはと笑いつつそんな事を言った。インカムはしているが装備解除でくつろぎもーどである。
「でもあの人誰だったんでしょ。社長はん?」
 などと男は首を傾げている。なんでも妙なグラサンの男に声をかけられたらしい。
 そんなこんなを話しつつ船は進み、時は流れ、太陽も流れて真っ赤な夕陽が水平線の向こうに沈まんとする。
「冷たいバルティカの七番とか‥‥ビールが飲みたい」
 赤光を浴びる機関砲座に寝転がりつつキリル・シューキンがぼやいた。喉が渇く。かなりの暑さだ。酒を呑む訳にもいかないので拝借したアイスに齧りつく。
 付近では天宮が潮風に髪を揺らしながら魚雷に腰掛けて本を読んでいる。イタリア文学最大の古典とされる長編叙事詩の奴だ。ページをめくりつつ時折アナライザーを使い周辺海域を走査する。
「詩人は地獄の九圏を抜け男を案内し、やがて星の中心、魔王が閉されし領域に至る――」
 男は呟いた。果たしてこの船の上は地獄の何丁目あたりなのか。


 日が落ち、月が昇り、落ち、朝日が東より昇る頃、見張りに立っていた天宮は巨大キメラの接近を捉えた。みるみるうちに接近してくる。どうやら巨大な火竜のようだ。
 砲座についているキリルが砲口を回して火竜をガンサイトに納めトリガーを押しこむ。猛烈な振動と激しいマズルフラッシュと共に弾丸が勢い良く撃ち放たれてゆく。
「おーおー派手派手ー。弾丸代も凄そー!」
 口笛を吹いて翠の肥満が言った。
「出来るだけ外さないでくださいねっ」
 重機に練成強化をかけてエルダがそんな事を言っている。
 弾丸は火竜を捉えその鱗を穿ち鮮血を噴出させてゆく。火竜は怒りに咆哮をあげて突っ込んで来たが、九人の能力者達の武装が唸って船まで辿り着く前に叩き落とした。
「お疲れ様です。一服いかがです?」
 叢雲がエルダへと煙草を一本差し出した。
「あ、すいません、頂きます」
「私も何度か輸送関係の依頼受けてるのですが、メインの品が実は囮、というのは良くある手ですよね」
 微笑を浮かべつつ叢雲が言う。
「予算あるトコは大抵そうするんでしょうね」
 エルダは一本咥えつつ何故か苦虫を噛み潰したような表情をした。
「でもウチのは普通に本物なんで、気合い入れて守ってくださいよ」
 そんなこんなを話し、キメラを蹴散らし進む事、三日目。
「若い奴は頑張れ」
 航路をチェックしつつUNKNOWNが操舵を続けているブランドンに言う。
「ルセェージジイ」
 青年は悪態をついている。
 赤道直下、ボルネオ島を西に回り目的地の港を目指す、海はその色を変え、あちこちに島が点在し、浅瀬が増えている。
「おっと‥‥?」
 双眼鏡で周囲を警戒していたアッシュが不意に呟きを洩らした。
「十時の方向から接近する物体アリ、ヒトが乗ってる様だ、注意してくれ」
 海の彼方、高速で一隻のボートがこちらに近づいて来ている。
「あれは‥‥沈めてください」
 同じく双眼鏡で確認してエルダが言った。
「良いの?」
 ロジーナは敵船に何か公的な機関の印がないか探す。特に印は見当たらない。
「ええ、あまり紳士的な連中じゃありませんので」
 敵らしい。船内に居たメンバーもばらばらと甲板に出て来る。
「『荷物届けるだけの簡単な仕事』と聞いたのに嘘つき!」
 翠の肥満がぼやいた。
「簡単ですよ、撃退すれば良いんですから」
 エルダがそんな事を言っている。
「‥‥ここには追い込まれない様に」
 UNKNOWNが無線に言った。イアトロ号が旋回加速し敵船が後を追って来る。風が唸り、しかしそれでもみるみるうちに距離が詰まって来る。国谷は射程に入る前に練成強化を発動させた。全員の武器に淡い光が宿る。
 相対距離一二〇、叢雲は弾頭矢を弓に番えると撃ち放った。勢い良く飛びだした矢が敵船に命中して爆裂を巻き起こす。通常の船なら大穴が空く所だが、見た所それ程の被害は出ていないようだった。あちらの船もメトロニウムか何かで補強されているらしい。
 相対距離一〇〇、重機関砲座についているキリルは先手必勝を発動させると狙いを定めてトリガーを押した。鈍い振動と轟音と共に弾丸が嵐の如くに吐き出され敵船上の人間達に襲いかかってゆく。
 距離が詰まってゆく。アッシュ・リーゲンは船内への入り口の屋根へと昇り腹這いになってアサルトライフルを構えている。銃持ちの敵に狙いを定め練力を全開に狙撃眼、影撃ち、プローンポジションを発動、発砲。弾丸が勢い良く飛びだし敵に突き刺さる。
「少しまっすぐに」
 UNKNOWNはエネルギーキャノンを盾持ちの人間へと向けると無造作に撃ち放った。九連射。爆裂する閃光の帯が空間を一瞬で制圧し男を呑み込み吹っ飛ばしてゆく。男は盾でガードしたようだったが、バグア式の特別製の盾でもなく、その凄まじい光波に吹っ飛ばされて甲板に転がった。圧倒的な破壊力。
 その攻撃に驚いたように敵船の速度が落ちた。遠ざかってゆく。
「ふむ‥‥」
 敵船は一定距離を保ってしばらく追走していたが、再び加速して距離を詰めてくる。国谷は再び練成強化を仲間達へかけた。
「向こうの方が軽い、な」
 UNKNOWNはキャノンを置いて退がると船の進行方向と他方向からを警戒し始めた。
 敵船の甲板に再び盾持ちの男が立っている。銃持ちの男の傷も癒えているようだった。治療術の使い手がいるらしい。
 射程に入ると再びキリルが重機関砲で猛射を開始、銃持ちの男に猛烈な勢いで弾丸が突き刺さり血飛沫を噴出させてゆく。敵船は射撃を受けながらも意を決したように突進してくる。翠の肥満は狙撃眼、先手必勝を発動させ銃持ちの敵のその銃を狙ってガトリングシールドで猛射した。リロードしつつ百五十発の銃弾を解き放つ。弾丸がSMGに激突して火花を散らしてゆく。猛烈な衝撃に男は銃を取り落としそうになったが両手でしっかりと保持し素早く動いて身に数十発の銃弾を受けつつも甲板を転がって避ける。
 叢雲は十字架銃を構えると敵船の船そのものを狙って猛射する。弾丸が合金の装甲を削る。
 アッシュは再び銃持ちの男を狙い猛射。ライフル弾が次々に男を射抜いてゆく。ロジーナもまた合わせてガンポッドで射撃した。弾丸が炸裂しグレネードランチャーから放たれた大型弾が大爆発を巻き起こした。銃持ちの男が甲板に沈む。
 天宮はライフルで超機械持ちの敵へと狙いをつけ発砲。連射。マズルファイアと共に弾丸が飛び出し男を穿ってゆく。
 UNKNOWN、エルダはエネルギーガンで盾持ちの敵を狙って閃光を連射し、国谷もまた超機械を発動させて蒼光の嵐を解き放つ。閃光に射抜かれ電磁嵐に呑み込まれ再び盾持ちの男が沈んだ。
 超機械を持つ男は練力を使い果たしたのか砲座のキリルへと狙いをつけて爆裂させた。四連の閃光が次々に少年の身に突き刺ささってゆく。負傷率十二割八分。閃光がキリルの身を灼き貫いて甲板に沈めた。
「これでも行かなきゃ駄目なのか?!」「命令だ!」などといった声が敵船から響いている。
 敵船が横に並ぶ。国谷は思う。船の破壊を狙ってくるなら、こちらに乗り込むリスクを冒す必要はない。船の奪取なら、手間を考えれば船や機関部を壊す真似はしない。
「何が狙いです?!」
 しかし答えは無い。
「きみ達何者なのー?!」
 ロジーナも問いかけるが、男達は答えない。翠の肥満はガトリングシールドで制圧射撃を発動させ敵の甲板を薙ぎ払う。叢雲は船を接続させようと思ったが手段が思いつかないので後回しにした。制圧射撃と急所突きを発動させ十字架銃で薙ぎ払う。
 弾幕に穿たれながらも血走った目をした三人の男がそれぞれ金属筒と爪を手に船縁を跳んで乗り移ってくる。エネルギーガン持ちの男はUNKNOWNへと向かって閃光を連射しながら跳び移る。黒い男はゆらりと動いて連発された閃光を回避した。
「ボクをいじめないでぇーーっ!!」
 ロジーナは跳んで来た金属筒持ちの男へと竜の咆哮を発動させて鎖式電磁爆雷で薙ぎ払うように叩きつけた。鎖と爆雷が激突し爆裂が巻き起こって男が勢い良く空に吹き飛んでゆく。国谷はキリルへと練成治療を連打し、アッシュはスパイダーで敵のエネルギーガンを狙い撃って弾き飛ばし身に連射して沈める。国谷へと突っ込む金属筒の男へと起き上がったキリルが拳銃を連射し、側面から接近した天宮が竜の咆哮を発動させて冥府の鎌を振るった。胴を湾曲する刃にひっかけられた男は猛烈な勢いで吹き飛ばされ宙へと飛んでゆく。やがて金属筒の男が落下して海面に盛大な水柱が吹き上がり、爪持ちの男が落下してもう一つの水柱を噴出させた。敵船は味方が全滅したのを見るやすぐさま離れて行った。
「‥‥やっぱり、恐ろしく強いですね皆さん」
 エルダが半ば呆れたように言った。
 やがて船が港につくと、
「今回は助かりました。もしまた会う時があったら、また同じ側に立っていれば良いのですが」
 笑顔を見せて女はそんな事を言う。
 天宮は報酬を受け取るもその七割程を返還して言った。
「これで十分です。その代わり何かあったときはお願い致しますよ」
「‥‥この金額で可能な事でしたら」
 かくて、仕事を終えた傭兵達は一同と別れ、また各々思うように散ってゆく。
 ボルネオの港は雑多な人々で賑わっていた。



 了