タイトル:【DAEB】ぶっつぶせマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/19 23:30

●オープニング本文


「バグア本星から、アジアに増援だと?」
 東アジア軍中将 椿・治三郎(gz0196)は、もたらされた一報に声を荒げた。
 あくまでも概算だが、北京包囲網周辺には100万とも言われるワームが配備されているはずだった。それに、さらに新鋭機が増援と来るという。
 何よりも、今、アジア軍旗下の中国軍が西安周辺の掃討作戦をはじめようとしている。
 ここから駆けつけるには、日が足らない。
 なんとしてでも、その降下、防がなくてはならなかった。


「なんか北の方がすっごいヤバイ事になってるみたいヨ」
 何処からその情報を聞きつけて来たのか中国河南省麦県の首魁荘胡蝶が言った。
「河南に在る麦県、これだけの規模になると他人ごとじゃないネ。ワタシ達軍隊じゃないけど麦県にはKV二十機配置してあるヨ、この窮地にただ見てるだけとあっては女が廃るネ。何か出来る事はあるハズね。という訳で麦県鉄騎衆」
 チャイナドレスに身を包んだ少女はばさりと扇を広げると言った。
「ちょっと、この先にあるバグア基地ぶっつぶして来るヨロシ」
 実に無茶な事を言う女頭領であった。


「作戦の概要を説明いたします」
 黒いグラスとスーツに身を包んだ壮年の男が言った。
「要するにカチコミです。ぶっつぶせと小姐は申しましたが、文字通り殲滅占領する必要はございません。それは真に不可能な事にございます。皆様には無理の無い範囲で暴れ回って頂き、目標基地から北方への援軍を出させない事、これが第一にございます。まぁ援護射撃的な――傭兵の皆さんで言うならば制圧射撃的な動きでしょうか。敵に打撃を与えて動けなくするのが目的にございます」
 傭兵達は問う。敵の戦力は、と。
「我々が懇意にしている軍からの情報で精度の程は不明ですが‥‥以下のようになっております。無事に帰ってきてくださる事を祈ります」
 黒服は言った。
「ええ、弾薬費すらケチっていた所へ今回の出撃です。小姐が義侠心にかられて勝手にやる事です、軍から経費など出る訳もなく、麦県は赤字です、大赤字です、撃墜なんてされた日には‥‥‥‥! ですので、どうか無事に帰って来てください、全力で」


■作戦目的
 敵防空戦力の撃破およびバグア基地に損害を与える事

■PL情報
■第一ステージ・敵防空戦力
●四段階強化型HW×10
 武装はプロトン砲(射程四〇〇m程度)フェザー砲(格闘戦用で命中力が高い)
 PC達が基地に到達する前に迎撃に出てきます。(HWとの相対距離一千mから1ターン目スタートです)

 また麦県からカウンターを受けると不味いとの厳命を受けているので敵機を放置して先行する事は出来ません。
(ゲーム判定上、揃って行って頂かないと上手く動かないので、ロール上の理由として上記のもので(どうしても、と言う場合は二手に別れたりして行けますが描写されません))

■第二ステージ・敵基地到達後
 敵を首尾よく全滅させると基地ステージです。出来る限り迅速に破壊しまくってください。
 ただし六〇秒−(強化HW×10を殲滅するまでにかかったターン×10)秒程度でエース型HW三機および四段階強化型HW三十機程が北から戦域に近づいてきます。(殲滅してから基地に移動するまでの時間はカウントされません・PC達はバグア基地南方の二〇〇〇m、高度1000の位置に出現します)

 敵の接近が解った時点でブーストを発動し戦闘機動を止め直線機動で南に二ターン程飛ぶと敵は追撃を諦めます。直線機動中は回避できませんので射程に入られていた場合、敵の攻撃は必中です。直線機動でないと追いつかれ戦闘となります。解った時点でブースト直線で撤退に入れば射程の外を保ったままふりきれます。(低空からでもOKです)
 故に敵増援接近の時点で練力101が残っていないと自動的に撃墜・重体、となる確率が高いです。

 返り討ちにしてやる! と戦った場合は恐らく文字数の関係から描写少なく一、二行で勝った、負けた、死んだ、生き残った、等になるかと思われます。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
長瀬 怜奈(gc0691
22歳・♀・SF
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

 麦県鉄騎衆・ブリーフィングルーム。
「こちら、結構無茶、‥‥ですね‥‥」
 指令を受け取ったハミル・ジャウザール(gb4773)は思わずそんな呟きを洩らしていた。
「制圧攻撃とは言え守備隊の撃破も込みですか、しかも命大切に‥‥忙しいですね」
 熊谷真帆(ga3826)がむむむ、と唸る。要求水準がかなり高い。
「えっと‥‥落ちない様に頑張ります」
 ハミルは頬を掻きながらそう苦笑する。
「しかし、ここで敵基地の機能を少しでも削る事が出来るのなら、少々無理してでもやる価値はあるだろうな。微力を尽くす事としようか」
 榊 兵衛(ga0388)は無茶な命令にもそう言った。実直な男である。まさにサムライ。
「要は効率良くぶっ潰せってことか‥‥」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は思考しながら独白する。実にタイトかつアバウトな依頼だが、成功すればバグアには打撃となろう。榊の言うようにやる価値はある。要望には応えたい所だ。
(「‥‥これも傭兵の習性かな‥‥」)
 大分無茶振りな気もするが。
「‥‥無茶とも言えますが、ここはやり方次第ですね」
 鳴神 伊織(ga0421)もまた考えながらそう言った。目標は比較的小規模な基地とはいえ周囲の他基地と連携している。占領するには頭数が足りないが、集まっている戦力は潤沢だ。一撃を加えるだけなら、やれない事もなさそうだ、と思う。
 傭兵達は作戦を打ち合わせる。今回は迎撃ではなくこちらが攻める側だ。動きだす前なら、準備する時間はたっぷりある。H‐223A‐SkyEyeで管制を務める長瀬 怜奈(gc0691)は諸注意と管制内容を説明した。万一撃墜された時の鹵獲に備え重要部品に爆薬をセットしておく。ベイルアウト時のシート射出で強制爆破、となる予定。設置は麦県のメカニックに頼んだ。「ちょべりべりじょぶじょぶヨー」と整備班の壮年の男性は請け負っていたが、実際に上手く動くかどうかは解らない。非常に不安だ。まぁ墜ちなければ良い。
「隊長さんと組んでの作戦行動は珍しいですね。頼りにさせて貰いますね」
 乾 幸香(ga8460)が所属小隊Gae Buidheの小隊長も務めている榊に信頼を込めてそう言った。榊はうむ、と頷く。
「頑丈と機動性が取柄の雷電です。そこそこ暴れて生還してみせましょう」
 愛機XF‐08D改風雲真帆城のコクピット内で操縦桿を握り熊谷が言った。エンジンを点火して麦県に設けられた滑走路を走り雷電が大空へと舞い上がってゆく。他のKVも次々と空へと上がった。
 十二機のKVが北へと向かって飛ぶ。目標はバグア基地。これを、破壊する。


 中国大陸の空を北上する事しばし、目標基地よりも大分南の位置で長瀬機が敵ワーム編隊の情報を感知した。
「ゴーストアイより各機、敵機接近、方位360、10機、速力378、高度3892、交差予測点――」
 敵も易々と傭兵達を基地に近づける気は無いらしい。長瀬は淡々と情報を読み上げる。システム・サンダーヘッドでレーダー情報を統合する。HWを左端、敵右翼から1〜10までナンバリングし、各KVの位置も合わせて送信を開始する。
「早速お出迎えですね。敵さんもご苦労な事です」
 周防 誠(ga7131)がそんな事を言った。距離が詰まり、やがて肉眼でも空の彼方から迫り来る十機のHWの姿を捉えた。
「他の戦域の支援の為にも、成功させて無事に皆で帰還しましょう」
 ミリハナク(gc4008)が言った。さぁ、戦の時間だ。
 KV各機が加速して最大戦速に入り、HW達が横一線で迫り来る。風が唸り距離が詰まる。エンジンが咆哮をあげ風防がビリビリと揺れる。ヘッドオン。真っ向からの激突となりそうだ。
「敵は指揮官機がいる場合は集中して電子戦機を、AIの場合は三機程度に別れて前から集中して狙って来る傾向が強い。先行する各機、機動に注意せよ」
 長瀬が言った。相対距離一千。長瀬機のジャミング中和が微弱だが効いている。レーダーは常よりも少しだけクリアだ。
「了解」
 周防機EF‐006‐ゲイルII、アフターバーナーを点火した。大気の壁をぶち抜いて爆風を巻き起こし一気に加速する。ピッチをあげ、極超音速で中央高空へと上昇してゆく。機体を回転させ背面飛行、機首を大地の方へと傾けHW編隊を斜上から見下ろす形を取る。中央のHW3、4、5、6、7の五機を前方に納めマルチロック。
「AK6、FOX‐3!」
 相対距離六〇〇、K‐02誘導弾を撃ち放つ。天空から二百五十発の小型誘導弾がばらまかれ煙を噴出しながらHWへと五十発づつに別れて飛んでゆく。HWは赤く輝きバラバラの方向へと旋回しかわさんとする。しかし誘導弾は追尾を外さずに追いすがり、次々とHWに激突して爆発を巻き起こした。
「‥‥一気にケリを着けよう」
 相対五〇〇、右翼から迫るホアキン機XF‐08D改2‐Inti、敵左翼の五機6、7、8、9、10をロック、発射符丁を無線に流しつつK‐02小型誘導弾の発射ボタンに親指を叩き込む。五百発の小型誘導弾が音速を超えて噴出され、宙を一瞬で駆け抜けて機動中のHW達に喰らいついた。全弾命中。爆裂と共にHW達の装甲が吹っ飛んでゆく。
 相対六〇〇、炎が吹き荒れ大気を揺るがす中、左翼に位置する榊機XF‐08D改2忠勝、激しく動く敵右翼の1、2、3、4、5を逃さずマルチロック。周防、ホアキン、榊と釣瓶撃ちの形でK‐02誘導弾を撃ち放つ。こちらも五百発。
「AK1、FOX‐3!」
 蒼空に解き放たれたミサイル群が踊り、回避機動を取るHW達を追尾し全弾命中。爆炎の嵐を巻き起こした。しかし、三機のK‐02を受けてもHW達は堕ちない。炎を切り裂いて向かってくる。
 乾機R‐01E改バロール、ロックオンキャンセラーを発動した。イビルアイズの機関が唸り、機首方向から重力波を乱す波が発生する。乾機がレーダーで捉えているHW達のレーダーがかき乱されてゆく。
 相対四百、HW4、5、6、7はローリングしながら放物線にばらけて上昇。一斉に機首を回して周防機ゲイルIIを捉えた。一機四連合計十六発の淡紅色の光線を撃ち放つ。ゲイルは中央のHW5へと狙いを定めエニセイ対空砲を六連射している。砲弾と閃光が交錯する。周防は素早く操縦桿を倒して旋回。可能な限り無傷でゆきたい所だ。高速で機動し十数の閃光の嵐をかわしてゆく。しかし鋭く飛来した二発が避けきれずその装甲を削ってゆく。が、損傷は軽微。ゲイルII、恐ろしく頑強な機体だ。対するエニセイ砲弾はHW5に全弾直撃すると凄まじい破壊力を発揮し、大穴をあけて大爆発を巻き起こした。HWが木っ端に散る。撃墜。
 HW8、9、10の三機はホアキン機Intiへと十二連の閃光を撃ち放つ。ホアキンはラダーを踏んでジェット噴射ノズル核を操作、迫り来る光線を空気の断層を横に滑るようにして回避しながら機首を最右のHW10へと向ける、ガンサイト、捉えた。エニセイ対空砲を六連射。砲弾がHW10に突き刺さりその装甲をぶちぬいてゆく。圧倒的な破壊力。HW10は漏電と共に大爆発を巻き起こして四散した。撃墜。
 HW1、2、3は榊機忠勝へとプロトンの嵐を爆裂させている。十二連の閃光が一瞬で空間を制圧し飛来する。榊は超伝導アクチュエータを発動させると、襲い来る閃光の穂先をローリングしながら次々に掻い潜る。全弾かわした。こちらも速い。ヨーイングで微調整してHW4をロックサイトに捉える。発射ボタンを押しこむ。螺旋誘導弾、二連射。勢い良く飛びだしたミサイルがHWに喰らいつき、先端のドリルが装甲を貫いて爆裂を巻き起こしてゆく。
 中央、熊谷、鳴神機に追随する所存のようだ。HW6をガンサイトに納めるとSRD‐02を狙って牽制の射撃を撃ち放つ。螺旋に錐揉むライフル弾が空を切り裂きながらHW6へと真っ直ぐに伸びてゆく。HW6は赤く輝いて右に翻った。弾丸が虚空を貫いてゆく。鳴神機はブーストを点火すると相対四〇〇に矢の如くに踏み込み、そのHW6をサイトに納めロックオンする。発射コードを発しつつ誘導弾を三連射。独特の音と共に焔と煙を吹き上げながらUK‐10AAMが次々に飛び出してゆく。三連の誘導弾は一瞬でHWに迫ると、その装甲に喰らいついて激しい爆裂を巻き起こした。熊谷機は素早くSRD‐02をリロード、爆発の中のHW6を狙って再度発砲する。命中。弾丸がその装甲を撃ち抜いて衝撃を与えた。
 左翼に構える澄野・絣(gb3855)機Mk‐4D赫映‐kaguya‐、相対距離四〇〇まで詰める。敵の右翼を狙う。榊機へと光線を発している所を捉えてHW1、2、3をマルチロックオン。
「最初から出し惜しみは無しよ!」
 裂帛の気合と共に、発射ボタンを親指で叩き込む。
「AK8、FOX‐3!」
 GP‐7ミサイルポッドが焔を吹き、四五〇発のGプラズマミサイルが次々に空へと飛びだしてゆく。空間を埋め尽くす程の誘導弾の群れは途中で一五〇発づつに別れて、それぞれ三機のHWへと襲いかかる。赤光を纏うHW達の輝きが強くなる。慣性を無視した急機動で蒼空を翔け抜け、百発近くの誘導弾を次々にかわしてゆく。しかし残りの五十発が喰らいついて、蒼いプラズマ爆裂を巻き起こした。
 右翼、ハミル機S‐01H、ホアキン機へと射撃しているHW9へと相対四百まで間合いを詰める。SRD‐02のガンボアサイトを合わせ発砲。焔と共に弾丸が音速を超えて飛ぶ。HWは右に急旋回。弾丸が虚空を突き抜けてゆく。
(「‥‥速いですね!」)
 易々とぶちあてるおかしな機も稀によく多いが、改造が同レベルなら基本的にHWはKVよりも性能が良い。無改造ならともかく改造強化されている機はなかなか厄介だ。リロードしつつブレス・ノウを発動、未来位置を予測し重力と風の唸りを計算に入れてガンサイトを修正。偏差射撃、発砲。炸薬の破裂と共に飛びだしたライフル弾が空を駆け抜け、スライドするHW9を捉えて直撃、その装甲を貫いてゆく。
 乾機、敵右翼端のHW1へと狙いを定めロックオン、距離四〇〇まで詰めUK‐AAMを撃ち放つ。鋭く放たれたそれを、しかしHW1は赤く輝いて素早く降下しかわした。誘導弾が空の彼方へと抜けてゆく。ロクデナシの英国工房、欠陥品ですね、などと悪態をつく事は乾の場合しないかもしれないが、口の悪いパイロットならばそんな事を言いそうな場面である。敵機をサイトに納めつつ旋回せずに一気に相対三百まで詰め、武装を螺旋誘導弾へと素早く切り替え、ロックサイト、赤く変わった、今! 再度発射ボタンを叩き込む。
「AK7、FOX‐2!」
 焔と煙を巻きあげ勢い良く飛びだした二連のドリルミサイルが蛇のようにうねり、旋回したHW1に喰らいついて直撃、直撃。二発命中。先端のドリルが装甲を抉り、爆裂と共に火球を膨れ上がらせその装甲を焼き焦がす。
「水無月魔諭邏、参ります!」
 他方、B班、左翼の中央、水無月 魔諭邏(ga4928)機PM‐J8、HW2へと狙いを定めながら相対四百まで詰める。独特の電子音と共にサイトが赤く変わる。ロックオン。
「AK5、FOX‐2!」
 短距離高速AAMで三連射。小気味良い音と共に煙を吹き上げ次々にミサイルが飛びだしてゆく。しかし超音速で飛来した誘導弾をHWは赤輝を纏い、ローリングしながら宙を左斜め下方へとスライドし二発の誘導弾を回避する。しかし、三発目が反応して軌道を変化させ、HWに喰らいつく。ミサイルが激突して爆ぜ、破片と焔を撒き散らしてHWの装甲を削ってゆく。
 右翼、ミリハナク機XF‐09Bぎゃおちゃん。ミリハナク、LH傭兵としての経験はまだ浅い、自分の未熟さは自覚している所だ。故に無謀な突出や戦争に酔うような行為はせず着実にチームプレイでいきたいと考える。自軍が数で勝っている利点を活かし、敵の態勢が崩れた瞬間を窺う。同じ右翼班のハミル機がHW9を見て、ラダーを踏み込んで機首を回す。衝撃に揺らいでる所へ叩き込みたい所。ロックがかかるのがやけに長く感じた。実際は常と変らない速度であったが。
「AK12、FOX‐2!」
 サイトが赤く変わった瞬間に発射ボタンを押しこむ。UK‐11AAEMが焔と煙を噴出しながら次々に飛び出してゆく。三連射。HWは素早く急降下して誘導弾の二発を回避。ミサイルが虚空を突き抜けてゆく。英国工房は悪く無い、多分。性能は良い方だ、慣性制御で翻る化物が悪い。しかし、最後の一発は根性を見せたのか、重力を無視した動きで翻った空飛ぶ兜蟹に追いすがり、その牙を撃ち立てて激しいエネルギー爆発を巻き起こした。蒼い光がHWの装甲を激しく焼き焦がしてゆく。
 右翼、ウェイケル・クスペリア(gb9006)、長瀬機から送られる情報を一度視界の隅でよく見てから状況を把握。未だ八機健在。
「アレだけ貰って生き残ってるのは素直に尊敬してやるけどな。時間が無ぇんだよ、迷惑だからさっさと墜ちろ!」
 言葉と共にPM‐J8‐Murmurを翻し、直近のHW7へと狙いを定める。ロックサイト、赤く変わった。UK‐10AAEMを三連射。音速を超えてミサイルが飛ぶ。HWは斜め上へと重力を無視した動きで急上昇。先頭のミサイルは明後日の空へと流れてゆく。残りの二発は鋭く軌道を変化させるとHWを猛追してその身をぶちあてた。蒼光の猛烈なエネルギー爆発がHWの装甲を焼き焦がし消し飛ばしてゆく。しかし、まだ堕ちない。
 ホアキン、出来る事なら十秒でケリをつけたい所だったが敵HWもどうやら四段階も強化しているのは伊達ではないようだ。エースクラスとは比べるべくもないが頑強である。残り八機。傭兵達の敗北はありえないだろうが、思ったよりも墜ちない。
 長瀬機は後方で管制を継続中。十秒で蹴散らすのは無理だったが、全体的には優勢だ。援護を割くのが必要な場所はなさそうである。
 生き残りの八機のHWは榊機、周防機、ホアキン機へと赤く輝きながら光線を連射する。三機はキャンセラーと管制援護の元に攻撃を悉く回避してゆく。ヘルメットワームは慣性制御で翻る化物だが、こっちの三機もそれ以上に化物だ。
「本当は基地まで温存したかったんですが‥‥まぁいい。さっさと落ちてもらいましょう!」
 閃光を掻い潜りながら周防機、旋回するとHW3、4、6、7、8をロックオンし再びK‐02誘導弾を撃ち放ちHW8へエニセイをリロードしつつ五連射。慣性制御? そんなの関係ねぇ! と言わんばかりに圧倒的な速度で飛んだ二百五十発の誘導弾がそれぞれ五十発づつ五機のHWに全弾命中して爆裂を巻き起こし、HW6が火球と化して大破四散し、HW8が五連の砲弾を受けてぶち抜かれ失速して高度を下げてゆく。やがて大爆発を巻き起こして四散した。二機撃墜。
 ホアキン機は螺旋の機動を描きながらプロトン砲を回避しつつ、エニセイをリロードしてHW7とHW9へとそれぞれ四連射、三連射し直撃させて木っ端に叩き落とす。同じく榊機がインメルマンターンで光線の嵐を回避しながらHW1へと翻りスラスターライフルで弾幕を張って蜂の巣にして撃墜した。
 熊谷機がHW4を狙ってブリューナクレールガンを撃ち放ち、翻って回避した所へ鳴神機、PRMシステムを発動、スラスターライフルで猛弾幕を張りながらブースト機動で突っ込んだ。極超音速機動で交差ざまにソードウイングで一閃。鈍い衝撃と共に翼の刃がHWを断ち切ってゆく。鳴神機が東へ抜け、HWが西へ抜ける。途中、HWから火球が膨れ上がり大爆発を巻き起こして空を赤光で染め上げながら四散した。撃墜。
「あまり時間も無いんだから、さっさと落ちなさい!」
 白いロビンのバーニアが焔を吹いた。澄野、マイクロブーストを発動、エンジンをフルスロットルに入れて猛加速する。ジェット噴射核ノズルを操作してベクタードスラスト、横滑りして強引にHW2への後背へと捻り込む。すかさずガンサイトに納め三連バースト、十五連のプラズマ光波が次々にHWへと襲いかかる。
「ここで手古摺る訳にはまいりませんの」
 水無月機はSESエンハンサーを発動させてHW2へと追走して九連の高分子レーザーを撃ち放ち。乾機もまたHW2の後方につけるとキャンセラーを継続しつつ肉薄して重機関砲で千二百発の弾丸を叩き込む。
 澄野機から放たれたプラズマ光線が次々にHWへと突き刺さって爆裂を巻き起こし、衝撃に態勢が崩れた所へ水無月機のレーザーと乾機の重機関砲が直撃してさらに激しく破壊を撒き散らしてゆく。固めた。連続する衝撃から脱出する事が出来ずHWはそのまま集中砲火の前に急速に削られてゆき、漏電を洩らした次の瞬間、大爆発を巻き起こして四散した。撃墜。
 ハミル機はブレス・ノウを継続して発動させつつ127mm2連装ロケット弾ランチャーを用いて六連のロケット弾をHW3へと叩き込む。偏差で飛んだロケット弾の嵐が、全弾命中。ブレス・ノウは消費練力も少ないし、頼りに――少なくともこの戦域では――なる。
 爆裂にHWが揺らいでる所へ、
「AK10、FOX‐2!」
「AK12、FOX!」
 ウェイケル機とミリハナク機がすかさず誘導弾を撃ち放った。六連のAAEMが次々に突き刺さって凶悪なエネルギー爆発の嵐を巻き起こし、HWの装甲を融解させて吹っ飛ばした。HWは爆裂と共に炎に包まれて高度を下げてゆき、やがて大地に激突して盛大な爆発を起こして四散した。撃墜。
「ゴーストアイより各機へ――」
 無線にノイズが走り、長瀬の声が傭兵達のコクピットに響く。
「――敵ワーム編隊の全機殲滅を確認した。第一段階をクリア。作戦を次の段階へ進行。現在空域より敵基地までの航路を送信した。機体に異常なくば誘導の元に飛行されたし」
 どの機体も無傷かほぼ無傷である。異常は無い。
 かくて、敵防空戦力を打ち破った十二機のKVは翼を翻すと、再び北へと向かって飛んだ。


 河南の大地。バグアに支配されている都市部の上空を越え、外れにある敵基地へと向かう。
「こちらエッジ、ゴーストアイ、目標基地を目視した。情報通りなら間もなく敵対空砲の射程距離に入る、注意せよ」
「了解、ここからが本番ね」
 長瀬の声が響く中、澄野が頷く。
「でも、砲はあるけど‥‥ガラガラね」
 ミリハナクが言った。目標基地の飛行編隊は情報通り、先に撃破したもので本当に全てであったようだ。今なら爆撃し放題である。
「鬼の居ぬ間に、ってな。増援が来る前にやっちまおーぜ」
 とウェイケルが笑って言った。北には許昌の基地がある。UPCが基地同士で連携するように何か事情が無い限りは当然バグア側も基地同士で連携するだろう。特に航空戦力はマッハで飛来するから、急がなければならない。時間との勝負だ。
 傭兵達は敵基地より水平距離二〇〇〇、高度一千の位置に到達する。
 周防機、榊機、熊谷機、乾機、水無月機、ブーストを点火、加速して基地上空へと向かう。他機は通常戦速。
 先頭を飛ぶ周防機に基地各所に配置された長距離砲から雨あられと紅の光線が飛んでくるもゲイルIIは運動性に物を言わせて回避してゆく。
 ウェイケル機と飛ぶホアキンは光が発生した座標を無線へと読み上げる。長瀬機もまたそれらを観測すると位置情報を各機へと配信してゆく。
 周防機、ブーストを吹かせると戦闘機動でも最大秒速1120mで飛ぶ、二秒かからず基地の真上へ。恐ろしい移動力だ。低空へ降下し短距離対空砲の洗礼の大半を回避してゆく、偶に当たる痛烈な破壊力を秘めた光線がその装甲を削り取ってゆく。堅牢な機体で光線を突き破りSRD‐02で比較的威力と精度の高い短距離対空砲へと狙いをつけて発砲。真芯をぶち抜いて痛打を与える。
 他機は周防機に攻撃が集中している間に基地へと接近。榊機はブースト機動で一六〇〇m程接近した所で急降下、低空へと加速して降り二連装ロケット弾ランチャーを短距離対空砲へと向けて撃ち放つ。高速で飛来するロケット弾が周防機が撃った巨大砲に突き刺さり、盛大に爆炎を巻き起こして吹っ飛ばした。
 周防機と榊機は長瀬機よりの誘導を受けて次々に標的を変えながらSRD‐02とロケット弾を猛射して打撃を与えてゆく。こちらが受けるダメージ減少よりも、時間が無いので破壊効率を優先しているようだ。乾機はロックオンキャンセラーを発動、長短の砲門セットの一つへと向かって急降下。三発の紅光線をロールしながら全弾回避、六連の紫光線が猛烈な勢いで襲いかかり、一発をかわすも五発が突き刺さってバロールの装甲を吹っ飛ばしてゆく。背筋が冷えるが堪えて光を突き破り低空へと入る。キャンセラーの効果範囲が減少した。短距離対空砲を狙い127mm2連装ロケット弾ランチャーで二連バースト、四発のロケット弾が煙を噴出して飛び、次々に巨大な砲へと突き刺さった。爆発が連続して盛大にあがり大砲が木っ端に散ってゆく。破壊。
 水無月機、ブースト機動から重力波を乱すラージフレアを炊いて低空へと降下。各短距離砲の射程外の位置から長距離対空砲へと迫る。この時点ではまだキャンセラーが効いている、ジャミング中和援護も受けつつ長距離の三連閃光を全弾回避。巨大な砲の上部をガンサイトに納め127mm2連装ロケット弾ランチャーで猛射。四連の砲弾が炸裂して爆裂と共に巨砲を吹っ飛ばした。
 基地との水平距離一五〇〇まで詰めたミリハナク機は試作型超伝導DCを発動、ハミル機もまた相対八〇〇からブーストを点火し加速して飛ぶ。超高圧電流を纏ったぎゃおちゃん機がアフターバーナーを吹かしながら猛然と地上の砲へと襲いかかり。三連の長距離砲、ミリハナク機は電子援護を受けながら一発を回避、二条の紅光が突き刺さって竜牙の装甲を削り飛ばしてゆく。低空相対五百で短距離対空砲へと狙いを定め強化型G放電装置で二連射。激しく明滅する蒼の電撃波が巨大砲を焼き払い吹っ飛ばした。破壊。少し遅れて低空に入ったハミル機も長距離砲をサイトに納めるとロケット弾を撃ち放つ。音速を超えて飛びだした二連のロケットが長距離砲に炸裂して大破させる。
 ホアキン機はアクチュエータを発動させ高空四〇〇から援護砲撃。地上の短距離砲へと向けてロケット弾の嵐を撃ち放つ。命中力が激減しているので無改造HWやら巨大戦艦にさえもかわされる勢いだが、砲座は動かないので回避出来る訳もなく、全弾の直撃を受けて吹っ飛んでいった。
 鳴神機は水平距離八〇〇からブーストを発動、一気に距離を詰めつつ四連バーニアをフル稼動して高速で低空へと入る、途中、長距離砲の閃光を電子援護を受けつつ一発避けて二発を装甲に受けつつも比較的遠間の長距離対空砲へと向けて127mm2連装ロケット弾ランチャーを連射。六連のロケット弾が煙を吹いて次々に飛びだし巨砲に激突して爆炎の嵐を巻き起こした。長距離砲が破片を撒き散らしながら吹っ飛ぶ。破壊。
 熊谷機もまた超電導アクチュエータを発動させながら地上へと降下すると長距離砲へと向けて127mm2連装ロケット弾ランチャーを連射。四連の砲弾を叩き込んで爆裂と共に巨大砲を吹っ飛ばす。破壊。
 砲門が全て沈黙したのを確認した澄野機はアリスシステムを発動すると高空から急降下、管制塔らしき施設へとGプラズマ弾を投下する。天空より爆弾がドーム状の施設の屋根に激突しおよそ百メートルにもわたる超巨大なプラズマ爆発を巻き起こした。施設の壁が猛烈な勢いで焼き焦がされ融解し崩れ落ちてゆく。
 長瀬機は燃料タンク群へと向かうと急降下。レーザーバルカンを発射して当たりをつけながら狙いを補足し、タンクのど真ん中を狙ってフレア弾を投下。レーザーが中央タンクを撃ち抜いて爆裂を巻き起こし、フレア弾が残骸の上に投下されて衝撃と共に爆ぜて超巨大な紅蓮の火球を膨れ上がらせてゆく。熱波が燃料タンクを吹き飛ばし、中の燃料に引火、次々に誘爆を巻き起こし、壮絶な炎の嵐が巻き起こった。長瀬機は一早くブーストを発動させて加速し、熱波を背に脱出してゆく。
 他方、ウェイケル機はハンガーの上空への移動を完了させていた。
「奢りだ、遠慮しねーで受け取りやがれっ」
 バグア兵から実にいらない、と言われそうな台詞と共にブースト及びスタビライザー、エンハンサーを併発させ急降下、Gプラズマ弾をハンガーの右端より五十m程度の箇所をめがけて投下する。蒼い蒼い直径百mにも及ぶ巨大なプラズマ超爆発が巻き起こりハンガーの一部を吹っ飛ばしてゆく。上空へ翻ったウェイケルは十分な効果が出ている事を確認すると、大穴の淵からまた左に五十m程度ずらしてプラズマ弾を投下し爆砕した。
「た〜まや〜♪」
 蒼い光を背にアンジェリカが空へと登ってゆく。巨大なハンガーの三分の二が融解して叩き壊されていた。入れ替わりにホアキン機が残っている左端の三分の一部分へと向かう。
「派手に吹っ飛べ!」
 容赦なくフレア弾を投下。壮絶な超爆発を巻き起こして吹っ飛ばしてゆく。この基地のハンガーはこの日この刻、完全に地上から消滅した。
 傭兵達、基地についてからおよそ三十秒でデストロイ目標を完全に制覇した。猛烈な総合火力である。
 破壊完了から少し後、管制の長瀬機が北から接近するワーム編隊の反応を捉えた。その数三十三。規模が大きい。
「っと、時間か。仕事は十分やったか?」
 その報を受けてウェイケルが言った。
「これだけやれば十分だろう。とっととずらかるとしよう」
 とホアキンが答える。戦果は既に十分過ぎる。北に援軍などとてもではないが出せる状態ではないだろう。
 ホアキンの言葉におう、とウェイケルが頷き、他の傭兵達もその言葉に頷くと、余裕を持ってブーストを点火し撤退へと移った。榊機を殿に南の空へと向かって飛ぶ。
 傭兵達は全機燃料が途中で尽きる事もなく、無事に敵の追撃を振り切って、味方領域までの脱出を果たしたのだった。


 かくて許昌南のバグア基地は完膚無きまでに叩きつぶされ、その基地としての機能を大きく削がれる事となった。
 バグア基地から北へ援軍が出される事はなく、全体から見れば僅かとはいえ、その負担は軽減される事になるだろう。
「‥‥もうちょっとでっかい基地へ襲撃かけるのもダイジョブそうネ?」
 麦県の執務室でかくりと小首を傾げて荘胡蝶が言った。曰く「彼等ならまだまだ余裕あるヨ、いっそ支えの基地でなく許昌そのものを襲撃するのもアリカモ!」との事。
「そうなったら周囲の支えから援軍が出ますから、敵編隊は五十を超えます。お願いですから、それだけはおやめください小姐‥‥!」
 黒服達が必死に止めたのは言うまでもない事である。
 いつか再び麦県の兵が北の地へと飛ぶ事があるだろうか?
 それは、まだ、誰にも解らない。
 空には赤い星が輝いている。



 了