●リプレイ本文
●開幕十秒
ここは北米大陸の荒野の戦場、天地をまたにかけ地球人類のナイトフォーゲルとバグアのワームが激突していた。
地上部隊の傭兵達は各自一斉にブースト能力を発動し装輪走行で地上を駆け抜ける。敵側も迎え撃つようにゴーレムが走った。
先頭を切ったのは操縦者の敏捷が高い平坂 桃香(
ga1831)のR−01だったが、即座に機体自体の速度が速い幸臼・小鳥(
ga0067)のLM−01が追い抜いてゆく。小鳥機は瞬く間に間合いを詰めると東側のタートルワームへと向け煙幕銃を発射した。
小鳥機の隣をすり抜けて平坂機がハンマーボールを投擲する。凶悪な破壊力を秘めた鉄球が飛んだ。煙に包まれる瞬間に見た光景では鉄球は砲台を直撃していた。だが使用不可能レベルまで破壊できたかどうかの確信はない。次いで数条のレーザー砲がタートルワームへと飛んでゆく。しかしこれも命中したのか、破壊できたのか、煙に包まれている為解らない。
平坂は鉄球を引き戻しもう一撃を叩き込もうとするが、ゴーレムが真っ直ぐに彼女の方へ突っ込んでくるのが見えた。
どうすべきか少女の思考が目まぐるしく回転する。
この攻撃は回避しながら――最悪一撃はもらっても、攻撃を続行するか? 煙に包まれてタートルワームの姿は見えなくなっているが、位置は覚えている。今すぐ投げればまだ当たるかもしれない。砲台は確実に潰しておきたい。しかし、見えない敵に当てるのは難しいだろう。ここはやはり向かって来るゴーレムを抑えるべきか――
一瞬の逡巡、ふと、向かい来るゴーレムの手に光が収束し蒼く眩く輝く刃が発生するのが見えた。
(「‥‥レーザーブレード?」)
まさかとは思うが、雪村に似ていないかあの剣。
――ありえない。だが、しかし、本物並み、もしくはそれ以上の威力だったら、三連斬であっという間に半壊まで追い込まれる。雪村並みのエネルギー消費なら長くは使えない筈だが、バグアの科学力は何をしてくるか解らない。
平坂は舌打ちすると引き戻した鉄球をゴーレムへと向けて投擲する。青の巨人は重力を無視した動きで跳躍し足の装甲を削られつつも鉄球の直撃を避ける。宙から急降下して間合いを詰め、平坂機に向かって薙ぐようにして蒼光の剣を閃かせた。
●開幕十秒〜・壱
セラ・インフィールド(
ga1889)はゴーレムの迎撃を避けようと敵の右翼に回り込むように動いていた。反時計回りに円の機動を描きつつ光分子レーザーを煙の中のタートルワームへと向けて連射していた。狙いは砲座だが、その姿が煙に包まれている為、破壊出来たか、そもそもに命中したのかどうか解らなかった。
確認が取れるまで攻撃を続行したいところであったが彼の東側への回り込みを阻止するよう、ディハイングレブレードに似た大剣を振りかざして一体のゴーレムが一直線に突っ込んでくる。
(「砲座を破壊さえすれば、いくらでも相手になるんですが‥‥」)
彼の第一の役割は何においても砲座の破壊だ。今はまだゴーレムを相手にする時ではない。
しかし相手は待ってはくれない。ゴーレムの迎撃に切り替えるか、このままタートルワームへの攻撃を続行するか刹那の間迷う。
そんな時、セラの軌道を阻止するよう一直線に走るゴーレムの軌道を、これまた阻止するように一直線に突っ込む機体があった。
「単騎でどこまでやれるか、試させてもらうぜ!」
ベールクト(
ga0040)のR−01だ。ベールクト機は装輪装甲で駆け抜けるとディフェンダーを一閃させゴーレムをインタラプトする。ゴーレムは重力を無視した動きで後退して回避し、さらに切り返して前方へと突進しディハイングブレードに似た大剣を振るった。
ディハイングブレードに形は似ていたがやはり別物らしい。その証拠に高速の三連斬を繰り出してきた。件の大剣ならこんな無茶な振り方はできない。それとも慣性制御の力か。
嵐のような三条の閃光をベールクト機は飛び退いてかわし、機体を沈めてかわし、雷光の如く打ちこまれた三撃目も軸を外して間一髪でかわす。
「セラ、行け!」
ディフェンダーを横薙ぎに振るい、バグアの大剣と激しく火花を散らせながらベールクトが無線に向かって吠えた。
「了解!」
セラ・インフィールドは両機の脇をすり抜けタートルワームへと向かう。ベールクト機はゴーレムの腕を狙って鋭く斬り込むが、慣性制御の能力を発動させているゴーレムにはかわされる。
「戯れ合ってる暇は無ェんだッ、とっとと墜ちやがれ!」
一気に勝負をかけるべくアグレッシヴ・ファングを発動させショルダーキャノンを猛射する。だがゴーレムは跳躍しそのことごとくをありえない動きで回避してみせた。宙から急降下し大剣を振りかざして斬り込んでくる。
「ちぃっ!」
ベールクト機もまたディフェンダーで迎え撃つ。激しい斬撃が応酬されるがそう簡単にはお互いに攻撃が直撃しない。ベールクトの攻撃は時折ゴーレムをかすめるが、相手の装甲も薄くはなく一発で致命打とはならない。慣性制御のエネルギーさえ尽きれば一気に押し込めそうだったが――それは、すぐに尽きるものなのだろうか。
「‥‥こいつは、長くかかりそうだな」
翻る大剣を飛び退いてかわしつつベールクトは呟いた。
●開幕二十秒・壱
夕凪 春花(
ga3152)はゴーレムが迎撃に来るであろうことを予想し、戦場の中央を避けて西側から回り込んでいた。そして月神機から煙幕が展開されるのを待ってからタートルワームの砲塔部を狙って射撃を行ったが、残念ながらXN−01に煙を透視する能力は無い。
敵の姿が文字通り煙に巻かれて見えなくなった。敵からは見えないが、こちらからも見えない。
戦場を回り込むように西側へと機体を曲線機動させながら考える――敵は先ほどまでと同じ位置にいるだろうか? 解らない。動いたか? 動いたとしたら後ろ? いや、左右だってあるだろう。百八十度の方向転換をする手間が省けるし、何より中央へ突っ込んだ傭兵達を両翼から挟撃できる。
揺れるコックピットに映される視界は狭い。状況が解らない。だが周囲は凄まじい爆音に包まれている。敵は、敵は何処だ? 冷えた汗が頬を伝い流れ落ちる。
(「冷静に‥‥落ち着いて!」)
まだ若く、能力者としての戦闘経験が浅い彼女はパニックになりかけるが持ち前の冷静さで平衡を引き戻す。
多くの場合、ワームから常に強力なジャミングがかけられているのでレーダーはほぼ役に立たないが、今はそうではない事を思い出す。今回は小鳥機によってジャミングが幾分か中和されているのだ。モニターへ視線を走らせる、一定の間隔で断続してレーダーに映る影、タートルワームだ。
やはり左右、東西に散っている。
(「‥‥西?」)
自分の位置だ。
煙を裂いてタートルワームの巨体が前方左手より現れた。恐ろしく巨大な口径を持つプロトン砲が見える。砲座付近の装甲に亀裂が入っていたが、砲座は健在だ。そして方向が空ではなく地上へと切り替わっていた。
具体的に言うと、夕凪の方へと向けられていた。
淡紅色の粒子が唸りをあげて砲口に集まってゆく。
「‥‥機体の慣らしにしては厳しい戦いですね」
碧眼の少女は呟き、ハイマニューバを機動させ、XN−01がビームコーティングアックスを引き抜いた。
●開幕二十秒・弐
東側へと迂回していたセラ機もまたタートルワームと鉢合わせていた。
円を描く機動を行いながら砲台を狙って三連射するが、こちらが動くように相手も動く。命中はすれどもピンポイントで砲台を射抜くのは難しい。
三条の高分子レーザーはタートルワームの表面装甲を幾分か吹っ飛ばしたが、砲台を破壊することは出来ず、あちらからも三連射のお返しが飛んできた。
爆裂する光が唸りをあげて迫ってくる。
セラは咄嗟に機体を切り返し回避運動に移るが避けきれない。
淡紅色の光線がコックピットの視界一杯に広がり、そしてセラ機を飲み込む。光の中で轟音をあげて装甲が削り取られてゆくが、改良に改良を重ねた装甲は伊達ではない。セラ機はその猛攻を耐えきった。無論、かなりの損害が出ていたが戦えなくなる程ではない。
あまり無理はしない方針なのだが、先の攻撃を喰らって解ったことがある。この距離ではセラ機の運動性能では全力で回避に専念してもまずかわせない。
ならばどうすべきか――どうせ当たるなら撃ち返すまでだ。
全身を蒼白く輝かせた青年は前方にそびえる巨機を睨み据え、自機の足を止めて精密に狙いを定め、砲座へとレーザー砲を向ける。
「さて‥‥どっちが頑丈ですかね?」
重装甲のKVと重装甲のタートルワームが真っ向から壮絶な撃ち合いを開始した。
●開幕二十秒・参
開幕からブーストで間合いを詰めた月神陽子(
ga5549)のF−104・夜叉姫は煙幕銃を西側のタートルワームへと放っていた。煙中のそれへとハンマーボールも叩き込んでいたがやはり砲座の破壊確認はとれていない。
レーダーから位置を確認するに西側に居たタートルワームはさらに西へ、東側に居たものは東へと動いている。挟撃射撃を行うつもりらしい。
鉄球を引き戻しながら考える。距離がある。ハンマーボールはこの位置からではわずかに届かない。接近して一気に決めるか? 射程に入りさえすれば、多少の距離があっても、煙で相手の姿が見えなかろうと、ジャミング中和の支援がある状態ならば、夜叉姫の性能ならば当てられる筈だ。
しかし、彼女が行動を起こすよりも前にゴーレムがレーザーブレードを携えて突っ込んできた。小鳥機がそれに対して牽制射撃を行ってはいたのだがゴーレムは無視している。
(「‥‥雪村?!」)
さしもの夜叉姫もそれをまともに喰らってはただでは済まない。慌ててディフェンダーを引き抜き受け止める。
蒼光の嵐が月神を襲った。両機は激しく剣を打ち合わせると、計ったように同時に両者後方に飛び退き間合いを探る。
一方、小鳥機は周囲を機動しながら牽制の意味で特に狙いを定めずレーザーを放っていたのだが、ろくに狙わずに放ったレーザーはやはり外れる。ゴーレムはその攻撃に対して反応しなかった。当てるつもりの無い射撃は相手にとって脅威とはなりえない。
相手が小鳥機を狙ってくれれば良かったのだが、今回のゴーレムはタートルワームの護衛であり、回避に専念する相手よりも攻撃の意志を持つ者を止めようとするのが護衛というものだろう。
小鳥は考える。射撃で相手の行動を止める為にはどうすれば良いのだろうか? 恐らく、十分な火力を叩き込む必要がある。相手にしてみれば脅威となりえない攻撃など無視してしまえばそれで済むのだから。
それだけの火力が自分にあるだろうか? 小鳥機のそれは決して低いものではないが確実ではない。AIは目的の為には多少の損害など恐れない。
では確実に成す為にはどうするか? 体を張るしかない。
小鳥は機体を変形させると月神機と斬り合っているゴーレムへと横合いから突っ込んだ。LM−01の高い機動力で距離を詰め、狙いを定めてレーザー砲を猛射する。
さすがに直撃コースで飛んできたレーザーにはゴーレムも反応する。慣性制御の機能を制御して慌てて飛び退き、かろうじて回避する。
ゴーレムに対して射撃を続けながら小鳥は言った。
「月神さん、亀の方を‥‥お願いしますぅー‥‥! その間‥‥ゴーレムはひき付けて‥‥おきますからぁっ!」
「了解です!」
進路が空いた瞬間に夜叉姫は飛びだしタートルワームへと向かった。
●開幕十秒〜・弐
ブーストで加速した西島 百白(
ga2123)はタートルワーム目がけて突進したが、その行く手を一体のゴーレムに遮られる。
「邪魔‥‥だ」
迂回するように機動し引き剥がしにかかるが相手はしつこく喰らいつき引き剥がせない。ゴーレムが西島に肉薄し大剣を振るった。嵐のような三連撃の前に西島機の装甲が見る見るうちに削りとられてゆく。
(「こいつの相手をしている暇などない‥‥」)
大剣を槍で受け流しながら西島は思った。あくまで彼の役割はタートルワームの破壊である。しかし、無視できる相手でもなかった。
(「やるしか、ないのか‥‥」)
西島が覚悟を決めたその時、横合いから一角獣の紋章を盾に掲げたS−01が突っ込んできた。
長大なユニコーンズホーン構え、盾をかざして重心低く、装輪装甲で中世騎士の騎馬突撃のごとくチャージをかける。シエラ(
ga3258)機だ。
足を狙って繰り出された槍は走行中のゴーレムを弾き飛ばし回転させた。ゴーレムが地響きをあげて転倒し、そこを狙ってシエラは槍を突き下ろす。
だがゴーレムは倒れた状態から垂直に跳ね上がって切っ先をかわした。慣性制御の能力がなせる離れ業だ。ゴーレムはさらに宙で身を捻り様、シエラ機に向かって大剣を振り下ろす。掲げたメトロニウムシールドとディハイングブレードの間で轟音と共に激しい火花が散った。
「‥‥」
「‥‥」
寡黙な戦士達は必要以上に言葉をかわさない。
盾を掲げるシエラ機の背からその意志を読み取ったか、西島は両機の脇をすり抜けてタートルワームへと向かう。
シエラ機は竜巻のごとく振るわれる大剣を楯で凌いでかわしつつ、相手の攻撃に合わせてブレス・ノウを発動させカウンターの槍撃をゴーレムの脇腹へと叩き込んだ。攻撃後の隙をついた一撃はその装甲を鋭く抉り取る。
(「‥‥ゴーレムが人を模しているのなら。答えは簡単です‥‥」)
ガトリング砲が焔を吹き、至近距離からゴーレムの目に向かって嵐のように弾丸が飛んだ。
●開幕三十〜終幕へと
西島機が東側の亀型へと向かい煙を突破した時に見たものは壮絶な射撃の応酬を繰り広げるセラ機とタートルワームの姿だった。
常人なら圧倒される光景だが西島はそういった感情とは無縁だろう。無造作に突進すると砲座めがけて槍を突きを入れた。しかし、やはり硬い。西島は槍を手放し、ガトリング砲を切り離して――重量の関係だ――ディハイングブレードを抜き放ち、叩き込んだ。亀型にはビームが良く効く、セラ機の猛攻で装甲にガタがきていた砲台はその一撃で砕け散る。
西側の亀型の砲座は、プロトン砲の射撃を浴びせられつつも夕凪機がビームを応射して削り、さらに唸りを上げて飛来したハンマーボールが文字通り粉砕した。月神機はさらに鉄球を連投し亀を半壊させ、弱ったところを夕凪機のBCアクスが斬り倒した。
ゴーレム組の方はまず、蒼光剣の三連斬を耐えきった平坂機が逆襲の鉄球三連撃で一気に叩き潰していた。
フリーになった彼女は交戦中の三機のゴーレムへとそれぞれハンマーボールを投擲して致命打を与え、ベールクト、シエラ、小鳥の各機が猛攻を加えてトドメを刺す。
最後に残った亀へはやはり月神機の鉄球が飛び、一気に半壊となったところをセラ機が猛射して破壊したのだった。