タイトル:【BD】圧力マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 21:47

●オープニング本文


 バグアの突きつけてきた脅しと共に、ボリビア領内へはキメラが侵入を開始していた。本格的な侵攻ではなく、これも脅しの意味合いなのだろう。
「‥‥でも、この国にはそれに抗う力がない」
 国王ミカエル・リアは項垂れる。中立を標榜するボリビアの主権を尊重し、UPCは駐留していない。援助という形で持ち込まれた僅かなSES武器や能力者らの力では、長大な国境線はおろか、人里を守ることすら困難だ。それゆえに、彼は。
「ULTへ依頼を出す。それならば国是を犯してはいない‥‥。そうだとでもいうのか? それで納得させるにも限界はある」
 一歩を踏み出した若き国王に、摂政のマガロ・アルファロは不快げに眉をしかめてみせた。


「き、き、き、キメラだーっ!」
 ボリビアのとある大都市の大通り、突如として街のど真ん中に出現したキメラによって大混乱が巻き起こっていた。
 急停車や進路変更した車が後続や対向車に激突し、車体を破砕させ、あるいは横転してゆく。人間達は悲鳴をあげながら走り、呆然とする子供を母親が抱きかかえ走ってゆく。
 蛇頭の大型キメラの群れは手に持つ大剣で車を真っ二つに両断し、消化液を逃げる人間達へと浴びせかけて融解させ、尾をふりまわして諸々を薙ぎ払ってゆく。
「どっから湧いて出てきやがった?! いくら暑いからってボウフラかってのか連中! 物理法則無視してんじゃねぇぞ!!」
 人の波を逆走する集団が一つ。そのうちに一人、ダンビラを手にした屈強な傭兵が人を掻きわけて街を駆けながら言った。
「バグアなら一つや二つ無視しそうでやってられんが、例えそうでもなんとかせにゃならんのが辛い所だ。まぁ、今回は恐らくは地下だな」
 煙草を咥えた壮年の女傭兵が小銃を手にそれに続きながら答える。
「地下だと? 実に有難くない話だ」
「カラクリは解ったが、こんな所にキメラ十数匹で何をするつもりなんだ連中は?」
 並走する剃髪の巨漢が言う。キメラは確かに脅威だが、十分な数の傭兵が配されているこの都市で騒ぎを起こしても瞬く間に鎮圧されるのは目に見えている。
「脅しだろう。『何時でも大量にボリビア国民を殺戮出来る』奴等はそう言ってんのさ。実際その気になりゃ結構な被害を出せるんだろう」
「なるほど、民衆を狙い撃ちして国王を揺さぶってる訳か」
「くそっ、腹の立つ話だ!」
 ダンビラが悪態をついた。
「とりあえず当面の問題を解決しよう。敵は三集団、被害拡大の抑えが第一、こっちも散る。西に八人、東に八人、残りを北だ」
「大雑把すぎねぇかババア」
「黙りな小僧、頭ぶち抜くよ。あたしらぁ傭兵だ。細かい事指図されて嬉しいかい?」
「そらそーだ。てめぇの面倒くらいてめぇで見れらぁ」
 突撃銃を担ぎ、頭に布を巻いた男が笑って言った。
「それでは戦友、ここが分岐だ。君等に神の加護があらん事を」
 傭兵の集団は交差点で三方へと散り、混沌と化している街を駆けていった。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
オペレッタ(gb9001
12歳・♀・SN
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
アローン(gc0432
16歳・♂・HG
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
安原 小鳥(gc4826
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

「神の加護があらん事を‥‥久しぶりに聞いたヨ」
 オペレッタ(gb9001)が言った。地球の大半は神と共に生きる者達が多く、無神論者はむしろ少ないが、傭兵、となると話は変わるのかもしれない。
(「その神様を気取りが、あのバグアっていう連中だよネ」)
 少女は胸中で呟く。
「コブラってインドのヘビってイメージがあるんだけど‥‥違ったっけ?」
 そんな事を呟くのは綾河 零音(gb9784)だ。コブラといっても色々だが、一般的に連想されるフードコブラに限れば代表的な存在はインドコブラであり、現れたキメラの頭部もそんなカンジだ。今回はお国柄ガン無視らしい。
 そんな事を言いつつ北へと走った傭兵達はやがて通りの彼方より車両を薙ぎ払い爆砕しながら進み来るトカゲ型キメラ達の姿を発見した。
「まーた妙ちきりんりんなキメラ出してきやがって‥‥」
 綾河がそんな事を呟く。せめて被害が無ければ良かったのだが――生きている人間は皆逃げたようだが、死んだ人間はまぁ、そのままだ。あちこちに血破砕した肉塊が転がっている。
「大した力もねークセに中立中立叫んで逃げてたツケが回ってきたってとこだな」
 アローン(gc0432)が混沌としている通りを見渡し一つ鼻を鳴らして言った。
(「いい気味だが、今日は仕事だ、がんばってセイギのミカタをやらんとな」)
 胸中でそう呟く。何時だってくたばるのは首脳部ではなく一般市民だ。罪があるか無いかは人それぞれだが――それでも、強いて言うならどうでも良い。この国の行く末など知った事ではなく、同行者についても特に感慨も無い。仕事だからやる、それだけだ。
 その同行者の一人、鐘依 透(ga6282)は覚醒した鈴木悠司(gc1251)へと熱い視線を送っていた。正確に言うならその犬耳と尻尾へ、である。
(「もふりたい‥‥!」)
 割と逼迫している状況な筈だが意識はその魅力に持っていかれており、空気を読むべきかそれとも欲望に身を任せるべきかわなわなと葛藤している。
(「‥‥似てる。俺のダチや‥‥弟‥‥皆が死んだあの日‥‥バグアが何もかもブッ壊してったあの日‥‥」)
 一方、赤槻 空也(gc2336)は迫り来るキメラ達を怒りに燃える瞳で睨みつけていた。激しい耳鳴りと頭痛が襲って来たが、それを堪えて呟く。
「‥‥許さねぇ。何でテメェらは‥‥ただの『人』を殺す! それも、快楽みてェ‥‥に‥‥」
 遠くに転がっているかつて人だった肉片を見てとると赤槻は叫んだ。獣に人の理が通じないように『生体兵器(キメラ)』達にも人の理は通じない。猟犬が獲物を狩る時に覚えるのは歓喜であり殺虫剤は虫を殺す時に感慨は抱かない。
「‥‥ッザけやが‥‥って‥‥ッ! 絶対ェ! ブッ潰す!」
 男は髪を真紅に、瞳を黄金に染め、そして両手に紅蓮の炎を纏った。
「お前ら‥‥いくらなんでもこれはやりすぎだろう?」
 須佐 武流(ga1461)が迫り来るキメラを前に言った。
「だがここからは‥‥俺のターンだ!」
 男もまた言って覚醒する。
「う〜ん‥‥なかなかに好感をもてない外観だねぇ‥‥さっさとやっつけちゃおっか!」
 鈴木はキメラ達をそう評した。傭兵達は手早く手筈を打ち合わせるとキメラを殲滅するべく動き出す。
「ああ、そこ置いてあるタンク、蹴飛ばさねーでくれよ」
 ウェイケル・クスペリア(gb9006)が言った。道路上、エアタンクが置かれ周辺にはスブロフが撒き散らされている。
「解ったヨ。ここまで誘き寄せれば良いんだネ?」
 とオペレッタ。
「悪ぃな、世話かけるぜ。そこまで連れて来てくれりゃ、チコっと爆砕してみっから」
 重症を負っている少女は言って手近なビルへとふらつきながらも飛び込んでいった。どうやら誘い込んで屋上から爆砕する手筈らしい。
「‥‥皆さんの‥‥足を、引っ張らないように‥‥頑張らないと‥‥」
 安原 小鳥(gc4826)はそう呟きつつ1.8mの大鎌『ディオメデス』の刃を輝かせて構える。
 セラ(gc2672)に宿る別の人格アイリスは探査の眼を発動させた。
「‥‥これ以上色々ブッ壊させるかよ! 一気に潰そうぜ皆‥‥!」
 赤槻はストリートから横へ逸れ路地裏へと飛び込んでゆく。脇道から横撃を加える予定のようだ。
「あ゛ー、しんど。ったく、何だってこの様だよ‥‥」
 はぁはぁと息をつきつつ階段を上ってウェイケルは屋上へと出る。こんちくしょう、などと悪態をつきつつ双眼鏡を取り出して下界を見下ろす。
 ストリート上を仲間の傭兵達は前進し、また全力で後退してその後をコブラキメラ達が追いかけて来ているようだった。
「っし、派手にぶっ飛べ!」
 ウェイケルはタイミングを測ると味方が通りすぎた後にエアタンクへと目がけて弾頭矢を投擲する。狙い違わず矢がタンクへと直撃し周辺の車両も巻き込んで大爆発を巻き起こし、傭兵達を追って来たコブラキメラ達を飲みこみ、そして赤いフォースフィールドを纏いながらあっさり出て来た。SES付きの巨大弾頭等なら効果はあったろうが、エアタンクと車では単純に威力が圧倒的に足りない。
「くそっ、駄目か‥‥」
 少女はがっくりと肩を落とすと仲間達の勝利と無事を祈るのであった。


 地上。
 爆炎を裂いて追って来る四体のコブラ人キメラへを傭兵達は反転して迎撃する。
『こちらオペレッタ、これより援護射撃開始するヨ!』
 ヘッドセットマイクで声を響かせつつオペレッタが小銃ルナを構える。とりあず敵を左からABCDとした。白銀の銃身を小柄な体躯で保持しつつ迫り来るAを狙って射撃。コブラAは素早く半身に身を捻って回避。弾丸が空を貫いてゆく。
「ちっ、割かしはぇぇじゃねーか」
 アローンは前に出るとガトリングシールドを構える。練力を全開に制圧射撃を発動、一二〇発の弾丸で掃射する。弾丸がコブラのABを薙ぎ払って動きを鈍らせ、CDは回避し大剣を盾にし車両を跳ね飛ばしながら突っ込んで来る。アローンはGSをリロードする。
 鈴木は道路上の車の上を跳び移りながら移動している。Dへと狙いを定めると細身の剣を振るって黒の衝撃波を撃ち放つ。コブラは回避し鈴木は前進する。須佐、綾河、セラ、安原も接近している。赤槻は右手の路地の陰に身を隠している。
 相対距離三〇、コブラABCは先頭を駆ける須佐へと狙いを定めると顎を開く。綾河はコートの裏より石鹸水を詰めたビニル袋を取り出しその咥内を目がけて投擲した。
「これでも喰って黙ってろ、ヘビ!」
 総計八発の酸が須佐へと連射され、綾河はそれぞれへと投擲し、飛来した袋に対し各コブラは大剣を振るって叩き落とし、首を振ってかわし、酸と激突して空中で液体を撒き散らした。須佐は迫り来た七連の酸を身を低くして車体の合間に入って盾にしながら回避してゆく。抜群の運動性。全弾回避した。
 コブラDは鈴木へと目がけて酸を四連射、アローンが反応してガトリングシールドで援護射撃する。鈴木は車の天上を蹴って跳び、一発を回避し三発の直撃を受ける。液体が男に炸裂してその身に浸透し、皮膚を焼いて激痛と共に白煙を吹きあがらせた。負傷率四割三分。
「む」
 セラ、チームの盾となりたかった所だが、敵は余所を狙ってるらしい。基本、前に出ている者、殴りかかって来た者、殴りに来た者が複数いるなら火力が高く、脆そうな者をこちらの戦域のキメラは狙う。
「左端引きうけた!」
 鐘衣、左の歩道側を駆けつつ二刀の小太刀にエネルギーを集中させるとクロスするようにして振り払う。エアスマッシュだ。爆風が空間を貫いてコブラへと襲いかかりその身を直撃する。鐘衣、緊張感は無いが、車両残骸位置、敵の姿勢、使える空間の広さなど踏まえ良く見ている。もふりたいとわなわなしていた男とは思えない切れ味。人の鋭さは緊張感には拠らないらしい。
 ただその腕力は重くないようだ。衝撃波の直撃を受けつつもそれを突き破ってコブラ人が突撃して来る。
 駆ける安原は練力を全開に、目にも止まらぬ速度で大鎌を虚空に一閃させる。空間が断裂し衝撃が飛び出してコブラ人Bへと襲いかかってゆく。こちらもエアスマッシュ。コブラ人Bは斜め前方へと跳躍し、衝撃波が空間を貫いて抜けてゆく。外れた。
 須佐がコブラ人Cへと突進し、コブラ人がその手に持つ大剣を振り下ろす。男は半身になりつつ斜め前方へと入って剣撃を掻い潜り、身を捻りざまその脚部へと下段蹴りを繰り出す。ブースターで加速された右足が唸りキメラの身へと炸裂して猛烈な衝撃を巻き起こす。よろめいたそれへと須佐は身を切り返し左、右、左と中段、上段、と打ち分けて高速で蹴りを叩きこんでゆく。五撃目にスコルを敵の水月へと叩き込んで身を屈ませると跳躍し、練力を全開に真燕貫突を発動、その顔面へと二段蹴りをくれて吹き飛ばし、宙で回転ざまスコルからブーストを噴出して急降下して吹き飛んでいるコブラ人へと追撃を叩き込み、アスファルトの大地に叩きつけて爆砕する。撃破。
 鈴木、コブラ人Dへと迫る。コブラ人が大剣を袈裟に振るい、鈴木は流し斬りを発動、側面にスライドして踏み込みながらかわし、間合いに入りざまハミングバードを一閃させる。刃が炸裂してコブラの皮膚を強打する。紅蓮衝撃を発動、爆熱の光を巻き起こしながら返す刀で連斬、首筋を狙って薙ぎ払う。コブラは身を逸らして回避。
 班を組むセラもまたコブラ人Dへと接近している。赤黒いエネルギーを纏った光殻の盾を水平に、角をコブラDへと突き込む。
 コブラDは後退しながら素早く大剣を立て、盾のエッジと剣身が激突して激しく火花を散らす。
「ッシャ‥‥! 一気にッ! ブッ潰す!」
 横道から飛び出した赤槻が疾風脚を発動、瞬天速で加速しコブラDの後背へと踏み込んでいる。
「飛べェえ! 『貫通練拳』ッ!」
 肉薄した距離から繰り出された急所突きが付与された拳がコブラ人の背骨を強打し痛打を与え、同時、セラがアスファルトより破裂音をあげながら踏み込み、体当たりするように盾を繰り出しコブラ人の身へと炸裂させて衝撃を巻き起こした。
 態勢を崩したコブラDへと、鈴木がすかざす莫邪宝剣より光の刃を出現させその首筋へと斬りつけ、一撃が入ってコブラ人の首筋を灼き、赤槻が「行くぜェ! 『赤鬼・崩合‥‥拳』ッッ!」と裂帛の気合と共に練力を全開に右、左、右と三連撃を繰り出し、その足へと巨大な拳を炸裂させてゆく。
 コブラAへと迫る鐘衣。コブラ人は間合いに入ると大剣を振り上げ、鐘衣は即応してその攻撃を潰さんと左右の小太刀で衝撃波を巻き起こしてその腕へと直撃させる。が、軽い。多少鈍ったが風を切り裂いてコブラ人の大剣が振り降ろされ、鐘衣は疾風を発動素早く後退して回避、大剣がアスファルトを爆砕して破片を撒き散らす。鐘衣はステップして側面に入ると腕に光を宿して剣閃を巻き起こす。刃がコブラ人の身に炸裂してその皮膚を斬り裂いた。
 前進する安原へとコブラ人Bが迫り、オペレッタは援護射撃を発動、安原を援護する為にコブラBへとルナで弾丸を連射する。コブラ人Bは足を止めて身を捻って弾丸をかわす。
「まずは‥‥その動きを、止めましょうっ!」
 安原が足を狙って大鎌で薙ぎ払い、コブラ人は身を屈めて大剣の切っ先を下に左腕を刀身に添えて受け止める。火花を撒き散らしながら大鎌を跳ね上げ、振り上げた大剣を女目がけて振り下ろす。刃が安原に炸裂してその身を切り裂き鮮血を宙に舞わせた。負傷率三割七分。
「あぶねーなー、どこで死のうが勝手だが俺のいるところでは死んでくれるなよ?」
 アローン、言いつつ援護射撃、制圧射撃を発動。
「正面から当たって勝てる見込みは少なそうだし、ネ」
 オペレッタもまた援護射撃を継続。二人は安原を援護すべくガトリングシールドでコブラBへと弾幕を展開する。弾丸の嵐にコブラBが飛び退き、安原は目にも止まらぬ速度で大鎌を三度閃かせて空間を断ち爆風を巻き起こす。追いかけるように飛んだ衝撃波が次々にコブラBへと炸裂して強打し、須佐が跳躍して飛び込みスコルからバーニアを噴出させつつ豪速の蹴りでその頭部を打ち抜いた。コブラBが反撃に大剣で嵐の如く剣閃を巻き起こし、須佐は着地と同時に鉄甲で受け止め、身を沈めてかわし、後退してかわし、バク転してかわす。身を切り返して前方へと飛ぶと真燕貫突を発動、多段蹴りを叩きこんでコブラBもアスファルトに沈める。撃破。
 コブラDへは赤槻が後背から拳を振るって猛連打して態勢を崩させ、セラが盾で体当たりしエッジを叩きつけてさらに崩し、鈴木が流れるような動きで光の刃の四連撃をコブラへと叩き込んでその首を刎ね飛ばして打ち倒す。
 コブラAと斬り合う鐘衣は疾風で緩急をつけながら振るわれる大剣を後方に飛び退いてかわし、追撃に四連射された酸を四連の爆風を巻き起こして吹き飛ばしつつ、その顔面に炸裂させて衝撃を叩きこむ。
「壺に帰れ! 土に還れ! 星に帰れ!」
 よろめいているコブラAへと綾河が入って、紅蓮衝撃を発動、居合いの構えからゼフォンを一閃させてその身を切り裂く。血飛沫が舞う中、追撃に三連の剣閃を巻き起こし、コブラ人は横に跳んでかわし、後退しながら大剣で受け止め、払って打ち落とす。
 コブラAは粘ったが、次の瞬間、九名より集中攻撃を受け、滅多打ちにされて沈んだのだった。

●戦後
 他の傭兵隊も首尾良くキメラを撃退したようで、集合した一同はお互いの無事を確認した。
 そんな中、鐘衣が至福の表情を浮かべて鈴木をもふっている。
「えーと‥‥もふり、気持ち良い?」
 あっはっはーと笑いながら鈴木。その言葉に鐘衣は我に返り慌てて土下座する。
「もっともふっても良いんだよー」
 と鈴木は尻尾をぱたぱたとさせている。面白い子だなぁ、などと鐘衣に対して感慨を抱いたようだ。
(「こんな時に僕は何を‥‥でも、もふ‥‥」)
 と鐘衣。獣的なものが好きなのだろうか。
 安原はというと倒れた者達に対して弔いの祈りを捧げていた。人は勿論、キメラにも。
「‥‥命があったこと、それは‥‥変わらない‥‥ですよ、ね‥‥?」
 少女はそう呟く。それに対し年嵩の女傭兵が安原に言った。
「大抵のキメラにゃ知能はなく、善悪もまたない。言うなら――連中はそう創られて、連中の仕事をやってるだけさ。でも、あんたのそれ、あまり大っぴらには表には出さない方が良いかもしれない」
 煙を吐きながら言う。
「殺されてる奴等だっているだろう」
 その言葉に安原が何を考え、何を思ったかは本人のみが知る所である。
 かくて、キメラは撃退され街はつかの間の平和を取り戻す。
「今回は終わったが、多分これで終わりじゃねーんだろうなぁ‥‥王様はどんだけ我慢できるかってとこか。ま、雇われの俺には関係のない話だけど」
 アローンは最後に街を振り返って一瞥し呟き、以降は一度も振り返らずにその街から立ち去った。



 了