●オープニング本文
前回のリプレイを見る 熊本決戦の一翼であった酒呑童子山方面での戦いでは、村上旅団の不破大隊が暴れ回り、最前線の陣が陥落すると、後はそこから雪崩れ込んであっさりとケリがついた。
「あちらさんも勝ったみてぇだな」
くたびれた軍服に身を包む、死んだ魚のような目をした壮年の男が言った。UPC准将、村上顕家だ。
「はい。人類側の勝利です。熊本の方はかなり激しかったみたいですが、こちらはあっさりしたものでしたね閣下」
と答えて参謀長の遠藤大佐。
「勝利ってのは本来はそうあるべきだ。実際はあんまり贅沢言ってらんがね――さて、次だ。いくぞ」
「はっ」
九州の戦線は人類側有利で推移し始めていた。一時は熊本まで迫った戦線は総じて北へと押し上げられ、現在では大分の側からでは「うきは市」が最前線となった。
酒呑童子山一帯で快勝した村上独立混成旅団は大きな損害を受けなかった。その為、過去の大分国東市攻略で受けた傷をほぼ癒す事に成功した。補給を整えると、戦車、自走砲、歩兵輸送車を走らせ、空陸に三十機のKVを揃え、うきは市の攻略を助けるべく最前線の地へと迫ったのだった。
●
「右も左も陥落寸前ってのはどういう事だぁ?!」
うきは市の守備についているバグア軍の仮の司令室、まだ若く見える黄金の髪の青年が怒号をあげていた。乗馬服に身を包み腰にサーベルを吊り真紅の外套を翻す。魔竜達の王、獅子座の赤竜ルウェリン・アプ・ハウェルだ。
「八割押してた筈だぞ。王手をかけていたのはこちらだった筈だぞ。何故事ここに至るまで報告にこなかった! 『大将が戻って来る頃には平定して熊本まで押し返してますよ、ハハハ!』とかほざいてたスミスの奴はどうした!!」
「前線で踏ん張って指揮を取ってたら空爆に巻き込まれて死んだらしいナー。ちょー不運」
赤髪の男が答えて言った。ルウェリン第一の兵アナンタだ。
「あのロッキード大雪山降ろしタワケが! だから死亡フラグには気をつけろと言ったんだ!」
「や、そりゃあんまカンケーねぇと思うケド」
「だが第一なんで指揮官が狙われるまで押されて、そのうえ、いくらなんでもこの有様なんだよ!」
「ほら、また、カリマンタンからの連中だヨ。ムラカミとかフワとか言う連中? あいつらが来たらあっという間に大逆転だァ。あの時、大分で殺れなかったのが響いてるナァ」
「あの疫病神どもか! 何故、これほど強くなった? 流石に昔はここまでではなかったろう」
「負けないからだよ。装備が贅沢で火力があるってのも大きいが、兵が死なないから戦うごとに団が強くなる。あの指揮官が小賢しい。こっちが圧勝してる時には手の届く所にいねぇ。国東くらいだろ、五分でも仕掛けて来たの。有利じゃなきゃ仕掛けてこねぇし守らねぇ。熊本攻勢の時だってなんだかんだで正面には出てこなかった。で、有利になるとここぞとばかりに出て来て嵩にかかって攻めてきやがる。それで何時の間にか全体がひっくり返されてる」
「よく味方に刺されんな」
「調べてみると本当に一回も負けてねぇんだ連中。一度でも負ければこうはいかねーが‥‥」
「だが怨みは溜まる筈だ。第一なぜ一旅団だけでそこまでの装備を揃えられる?」
「そりゃあ、なんかチョロまかしてるんじゃねーノ? あとはまぁ、弱味でも握ってるとカ?」
「なるほど‥‥刺すならそこか」
「どこよ?」
「小賢しき者は自らの身より生じる錆で倒れるものだ。戦場で雌雄を決するよりも、政治で謀殺するのが良い」
「ひゃっほー、流石大将。正々堂々過ぎる。竜王の名が笑ってるネ」
「勝てば良い。それとも貴様は負けたいか?」
「冗談。這いつくばってでも勝つのが良い。で、方針はそれとして当面はどう凌ぐヨ」
ルウェリンはしばし沈黙すると言った。
「俺がうきはに入ったという情報は敵に洩れてはいないな?」
「まぁこっそり入ったから、多分ナ」
「連中は、なるほど、最精鋭なのだろう。だが、あくまで一般の人間レベルでの話だ。最大の問題はそれではない。奴等が強いのは集まって来るLH傭兵が強いからだ。そして村上とやらはその使いどころを知っている。だから負けない」
ルウェリンは言った。
「しかし――この傭兵の運用を封じればどうなるか?」
「‥‥そりゃ、でも、どうやって?」
「奴等の欠点は数が少ない事だ。本命と見せかけた囮で吊りだしておいて、一方で刺せば良い。『傭兵がいる戦場』では敗北しても、『傭兵がいない戦場』で全て勝てば、こちらが押せる、とまではいかずとも圧倒的に押される事は無い。だから、一点を根拠として戦うな」
「そりゃ‥‥いけんのか? 問題沢山あり過ぎなような気が。第一、補給はどーすんの?」
「しばらくの間だけ掻き乱せれば良い。一ヶ月か、二ヶ月か、その間に奴等の頭を奴等の手によって潰して貰う」
「あ〜‥‥あー、だから謀殺、ね。つまり、博打か‥‥奴等が押し勝つか、こちらが枯渇する前に奴等の頭を潰せるかってトコ? 本命に見せかける囮ってのは誰がやるんだ?」
「予備戦力のうち俺を除いた全てを叩きつける」
「マジデ。そりゃまた、おもいきったネ大将」
「元より博打だというのにここで躊躇ってどうするのだ」
「そりゃそーか。でもよぉ、マジで大将一騎? 大丈夫?」
「俺を誰だと思っている?」
空の鬼神ルウェリン・アプ・ハウェル。阿呆だが戦にかけてはベラボウに強い。
「エース以外の相手なら十分過ぎてお釣りが来るケド、でも一騎だぜ? もし読まれて合わせられたら流石に終わりじゃねーか。ほんと思いきってるってかクレイジーなレベルでは」
「その時はその時だ。それぐらいやらなければ裏を突けん。貴様等は防御に徹しろ。竜頭と強化タロスで編成。竜頭で突っ込んで掻き乱し、他は遠距離から支援砲撃。KVが迫って来たらブーストで空へ逃げろ。マッハ8を出せる機体はあちらにない。装甲や燃料が危なくなったら、即退却。敵を消耗させられればそれで良い。KVとやらは長時間ブースト出来んし、それをしなくても長時間戦う事が出来ない。倒す必要はないのだ。戦闘の継続を不能にし軍の前進速度を鈍らせればそれで良い。それを繰り返して時間を稼ぐ」
「了解。でも時間稼ぎっていうけどサ、殺れそうな敵だったら殺っちまっても良いんだロ?」
「無論だ。だが、見誤るなよ」
「誰に言ってんダ」
「ならば行け。ここが正念場よ」
「応」
●
「――中央正面全機だと?」
旅団司令部。村上はその報を聞いて眉を顰めた。
「閣下」
「ありえん。うきはの指揮官はスミスとか言う奴だったか。そこまでボンクラなのか?」
「今入った情報によりますと、先の空爆で戦死していたようです」
参謀の遠藤はそう言った。
「なに? そりゃあ‥‥なるほど、だから急に手ごたえがなくなったのか」
「閣下、好機です。ここで敵を破れば福岡の中心まで一気に迫れます。九州全土の奪還を我等の手で!」
「良いだろう。不破に命令を出せ。総攻めだ。一気に突き破る」
●リプレイ本文
白皇院・聖(
gb2044)はULTより西王母で出撃できるよう許可を准将の村上に求めたが、却下された。
曰く、前線に出せば最優先で狙って来るのは明白であり、撃破されて爆発四散する確率が極めて高い事、ならばと後方に置いても西王母の為だけに護衛を割く事はできなく、ワームの一機でも突っ込んで来たらやはり防げない、莫大な損害が出るだけで出す意味が無い。との事。
KVの実際の値段は傭兵が支払う搭乗権の値段とは比較にならない。西王母は特に高価だ。その出撃が簡単に許可されないのは小規模戦では運用が難しく、コストに見合った効果が望めないからだ。敵が遅滞戦術を採ろうとしている事など味方の誰も知らないのでわざわざそこまでして持ち出す必然性が無い。
故に白皇院は今回は居残りとなった。(代替え機というのがあるが、搭乗機選択を間違えた等の明らかなミスでの搭乗ではない。そこを譲っても『危険』戦域だ。軍の代替え機で出て死ぬのは、良くない)
「頑張って下さい‥‥神の御加護を」
白皇院は無念そうに九州へ向かう仲間達を見送ったのだった。
●
時は少し流れて九州の最前線。
「ハッ丁度良い、かどうかは分かんねぇが大分での雪辱、ココで果たさせて貰うぜ」
総攻撃との指令を受け取ったアッシュ・リーゲン(
ga3804)は吐き捨てると愛機リアノンのコクピットに乗り込む。システムが起動しSESエンジンが唸りをあげ鋼鉄の巨人が動き出す。アッシュ機を含めその数三十。報告によれば敵は九機、数の上ではかなり優勢だったが。
「‥‥さすがに前回の戦いで敵も学んだようだな。強化型のタロス九機とはさすがに大盤振る舞いだが」
榊 兵衛(
ga0388)が言った。質の上ではかなりの物を揃えて来ていた。しかし、それだけに、貴重な戦力を投入する割には杜撰な攻め方と思えた。
「指揮官不在で総攻撃‥‥ただの自棄ともとれるけども」
敵の動きに対して井出 一真(
ga6977)が呟いた。何処となく不安を感じる。
(基地指令がやられて、自棄になった‥‥? 否、そんな連中じゃないはずだ。きっと、何か、ある)
アレックス(
gb3735)もまたそんな予感を覚えていた。
「‥‥まあ、良い。ここで一体でも多くの敵機を片付けられれば、この戦線の戦いもずいぶんと楽になるだろうしな」
槍兵衛はそう言った。
KV各機は軍の先頭に立って進撃し、日田市とうきは市を繋ぐ街道でワーム九機と遭遇した。KV側の周囲には畑が広がっており、ワーム達は点在する民家密集地点に入ってそれを盾に構えていた。
「あれはもしや竜頭‥‥獅子座が来ているのか?」
彼方の敵勢を見やって言うのは鹿嶋 悠(
gb1333)だ。
『獅子座? FRがうきはに入ったとの報告は受けていないが‥‥』
不破の声が無線から流れて来る。
腹心だからといって必ず一緒に行動するとは限らない。大分でも最初はルウェリンは不在だった。特に不自然ではない。
(しかし‥‥)
鹿嶋は考え、そして首を振った。
(‥‥いや、ここで考えても仕方ない。もし罠ならば食い破るのみ)
「正面と左翼に竜頭が各一機‥‥ですか」
飯島 修司(
ga7951)が呟いた。あれの戦闘能力の高さは良く知っている。
「少佐、味方右翼への支援を重視しておいた方が無難かと」
『中央は?』
「我々が破ります」
『解った。任せた』
と不破。七機となっているがこの中央隊への信頼は厚いらしい。最精鋭だ。
短い指示が出てKVが地上を駆ける。八機が右翼に、八機が左翼に、七機が中央に展開し、不破の空戦隊六機が右翼を支援すべく低空に舞う。鹿嶋は竜頭対応メンバーへと飽和攻撃を呼び掛けた。一同はそれを了承する。
「ダチ連中が『力』を貸してくれたンだ。必ずあの魔竜を倒さなきゃな」
アレックスが呟き、そして激突の時が迫った。
●
中央に構えるのは竜頭が一機、タロスが二機。
相対距離六〇〇、タロスの二機は家屋の陰よりキャノンを構えて砲弾を撃ち放ち、竜頭はバーニアを噴出して飛び出し加速前進しつつ砲を放つ。
狙われたのは先頭正面、飯島機。十八連の砲弾が雨の如く襲いかかる。距離がある。しかし数が多い。されども前進しながら素早く機動して砲弾の嵐を次々に掻い潜ってゆく。大地に砲弾が炸裂して次々に巨大な焔を噴出した。凄まじい破壊力だ。
飯島機は爆ぜる大地を駆け十四発をかわし、直撃コースに来た四発を盾で止める。壮絶な超爆発が盾を焼くが頑強さに物を言わせて弾き飛ばし突き進んでゆく。無傷――無傷。まさに『悪魔(ディアブロ)』。砲でどうにかするのは無理らしい。竜頭が長剣を抜き放ち、その刀身に真紅の光を纏わせた。
他方、終夜・無月(
ga3084)機は前進しつつアハトアハトを三連射し二機のタロスが隠れている辺りの家屋を光線で吹き飛ばしている。アレックス機もまた迂回しつつ相対四〇〇に入るとバルカンで薙ぎ払って家屋を潰す。
(悪ィな。弁償は、UPCに請求してくれよな)
古来より基本的に出る物では無い。故に領土に敵を踏み込ませる軍隊はよろしくないと兵書に言う。まぁ事ここに至ってはどうしようもない。榊機、井出機、鹿嶋機、アッシュ機も前進してゆく。
「‥‥では、参りますか。龍と悪魔が舞い踊るに相応しい、戦場へ、ね」
中央飯島、迫り来る竜頭との距離が詰まるとブーストを発動し猛加速。真紅の竜頭が剣と大盾を構えて弾丸の如く突っ込み、真紅のディアブロが盾と剣を構え矢の如く踏み込む。PFを発動、護剣で稲妻の如く斬りかかる。竜頭は大盾で受け、カウンターに赤光剣を振るって一瞬で空間を断裂し、飯島機が素早く翳した盾と激突して壮絶な衝撃が巻き起こった。大気が震え、火花が散り、轟音が巻き起こる。赤光剣の衝撃は盾で受けても抜けて来るが、飯島機、壮絶にタフだ。損傷は軽微。大分の時点で既に半端じゃなかったが、剣閃の鋭さに限れば電子支援も無しに魔竜に互する程に化物になっている。反撃の太刀を再度繰り出す。しかし竜頭側もがっしりとブロック。竜頭アナンタ、攻撃も半端ではないが、しかし特に優れるのは防御と回避。魔竜と五分の剣閃では一対一では魔竜は殺れない。
しかし一対一で戦っている訳ではない。前進中の終夜機、アハトをリロードしつつ竜頭を挟みこまんと詰めており、鹿嶋機はブースト機動で竜頭の右側面へと回り込んでいる。飯島機が三度目を仕掛ける瞬間に合わせアテナイとスラスターライフルで猛射。竜頭はスラスターを斜めに一瞬吹かせて急機動、飯島機の剣と鹿嶋機よりの弾幕を残像すら発生させん勢いでスライドして回避。竜頭はスピーカより笑い声をあげている。
(挑発か)
胸中で呟き鹿嶋。アナンタとしても傭兵達の大半は自らに引き付けておきたい所らしい。
榊機は前進中、相対距離三五〇まで詰めるとギアツィントを構え砲撃。砲弾が次々に降り注いで家屋を爆砕し吹き飛ばしてゆく。
巻き上がる煙の彼方、銀のタロスは肩部の砲を構えると猛連射した。榊、超伝導アクチュエータを発動、降り注ぐ六連の砲弾を弧を描くように機動して悉く回避してゆく。速い。
飯島機は飛び退いた竜頭へとブースト突撃し、シールドチャージか機槍の二択の構え――と見せかけ、そのまま敵の盾の右端へと突っ込んだ。体当たりだ。盾と盾が激突して機体が流れる。
同時、終夜機もまた踏み込んでいた。戦場状況、敵機、他の二機がまだフリー。そちらにも抑えが入るまでは消費練力を鑑みて切り札は切らず爆槍で行く。慎重だ。敵に対して驕りも無く油断も無く、隙も無くさんとし、実際、攻・守・カウンターと隙の無い意識。竜頭へと全身全霊を込めて槍を繰り出す。烈波を巻き起こして穂先が飛んだ。
竜頭より笑い声が消えた。光が赤雷の如く奔り槍と激突、爆炎を吹き上げながら穂先が斜め下方へと叩き落とされる。次の瞬間には体当たりした飯島機が強引に竜頭の左面へと回り込んだ。頭上に構えた護剣を落雷の如くに大盾持つ腕を狙って振り降ろす。竜頭は、その間に後背へと回り込もうとしている鹿嶋機にも背後を取られぬように斜め後ろに飛び退いて、その動きで併せて刃をかわさんとする。護剣が竜頭の腕の端を掠めて削り、火花を巻き起こしながら抜けてゆく。間髪入れずにアレックスが竜頭が跳んだ先へと刺すように機銃と荷電銃を猛射した。猛烈な弾幕と荷電光波が迫る。竜頭は素早く大盾を翳して止めた。鹿嶋機、ブースト機動でスライドしつつSライフルで逆サイドから猛射する。竜頭、呑まれた。肩の装甲を弾丸が叩き、瞬く間に火花を巻き起こす。飯島、終夜の両機が仕掛ける。竜頭は穿たれつつも宙へと跳びあがって弾幕をかわし、飯島機がバーニアを噴出しながら跳躍し追尾。壮絶な速度で護剣を一閃させ、竜頭が大盾を向けて止める。終夜は地上よりアハトを向けると斜め下より光線を飛ばし、竜頭を撃ち抜いた。竜頭は反撃を必要最低限に防御専念し、再生させて癒してゆく。
「あの大盾は‥‥!」
蒼い鋼鉄獣が地を駆けてる。井出機蒼翼号だ。崩壊した家屋の陰より現れたタロスが構える大盾を見て呟きを洩らす。
「正面からではそうそう突き破れそうにないですね‥‥いや、でもこれなら‥‥?」
井出、大盾に対して策有だ。しかし、まだ距離がある。相対距離四〇〇。黄金のタロスの左面へと逸れつつ十式バルカンで猛射。タロスはまた別に家屋の陰へと飛び込んだ。猛烈な弾幕に家々が薙ぎ払われ、六連の砲弾が井出機へと飛来する。蒼の阿修羅は突進しながら爆炎が巻き起こる大地を駆け抜けてゆく。速い。
アッシュ機は前進中。二四〇進んで距離は後、三六〇。
(遮蔽物が無ければ奴らも前に出ざるを得ないだろう、とは思うが‥‥)
仲間のKVの攻撃によって家屋は次々に破壊されていっている。もうそろそろ全滅だ。その様に少々心が痛むが勘弁して貰うしかないと思いつつも別の予感も感じていた。
(――まさか連中、徹底的に砲撃戦か?)
前に出て来る気配は今の所まったくなかった。
●
金銀のタロス、『KVが迫って来たらブーストで空へ逃げろ』とのルウェリンの指示を受けている。しかし、金銀タロス二機に向かって来ているのは三機のみ。竜頭アナンタが一機で四機を止めている。全体が三体七で二対三なら、破壊を狙うなら行くしかない戦力比。
されど、ルウェリン曰く『倒す必要はない』。このタロスAIではなくエース機だ。人が乗っている。槍の紋章を掲げる雷電とスカイブルーの翼を持つ阿修羅、強敵との情報があり、距離があるとはいえまったく砲弾が当たらない事からもそれは確か。
二機のタロスは迷う事なくまだ健在な家屋の陰に飛び込んでスクリーンとすると、背を向けバーニアを吹かせ一気に空へと跳び上がった。赤輝を纏って超加速、彼方へ飛翔してゆく。その背に向け榊機が対空砲を、井出機が機銃を、アッシュ機が射程外だが駄目元でレーザーキャノンを撃ち放ったが、金銀のタロス達は素早くスライドして避けてゆく。背を向けているが既に空で、距離があり、あちらも速い。当たらない。瞬く間に距離が開いてゆく。榊、井出、アッシュ、逃さぬような策は特に無いらしい。追いつけなかった。
●
VS竜頭、飯島機が盾を引き付ける間、アレックス機が右面へと回り込んでいる。肉を斬らせて骨を断つ、の勢いでブースト&アクチュエータを発動させて飛翔突撃。
「ここで魔竜に届かんのなら、竜王になんて挑めねぇからなッ!」
捨て身の勢いでハイディフェンダーを袈裟に一閃。竜頭が素早く長剣を翳す。剣と剣が激突して猛烈な衝撃と火花を撒き散らす。その瞬間、終夜、光の刃を抜いた。近距離からさらにブーストを発動して距離を殺し、レーザーブレード雪村で斬りかかる。さらに敵の軌道を予測して後背へと回り込んだ鹿嶋機が魔剣を構え時間差で疾風の如くに打ち込む。
竜頭、この猛攻、終夜機の右の光剣を急降下して回避し、機体を捻って鹿嶋機の突きをかわす。その動きに合わせてさらに終夜は左の内臓雪村を解き放った。巨大な光が噴出し壮絶な一撃が竜頭の装甲を灼き削り飛ばしてゆく。一撃、入った。
態勢を崩した竜頭へと飯島機がすかさず爆槍を繰り出し、大盾と激突して爆焔が吹き上がり、アレックスは敵味方エースの動きをよく見極めて追撃の護剣を突き出す。
「及ばねェなら、少しでも自分から近付くしかない!」
鈍い音と手ごたえ。竜頭の胴部に切っ先が喰いんで装甲を割り衝撃巻き起こした。鹿嶋機、ブースト機動で三度背後に入る。竜頭のブースターを狙っている。衝撃に崩れている所へ狙いを研ぎ澄ませて一閃。必殺の一撃。濃赤色の地獄の刃が竜頭のブースターの一基へと直撃し、砕いてその半ばまでを貫いた。
終夜、操縦部と動力部を狙っている。再度巨大な光を発生させ最上段に振り上げ、振り下ろす。落雷の如く光が奔る。さらに左。壮絶な破壊の光嵐が巻き起こってゆく。アナタン機は赤光を纏って機動し直撃だけはさけるが、かわしきれずに次々に装甲に光刃を喰らい猛烈な勢いで削られてゆく。四機は猛撃を繰り出し包囲態勢から滅多斬りにしてゆく。
さしものアナンタ機もこれは抗しきれないと判断した。猛烈な赤光を放ち、無事なブースターを吹かして再度宙へと跳び上がる。だが竜頭と交戦経験豊富な飯島、そのタイミングを読んでいた。間髪入れずにスパークワイヤーを放ち、竜頭の足をからめ取る。だが竜頭は剣に赤光を宿し即座に一閃させて断ち切る。しかし一瞬止まった。生と死の境界線。
「手前ェは逃がさんッ!」
さらにその上からアレックス機と終夜機よりもスパークワイヤーが飛んだ。竜頭の身が絡め取られる。
ブースト機動で跳躍した鹿嶋機が竜頭の上に出て魔剣を振り上げている。
「落ちろッ!」
次の瞬間、大盾と魔剣が激突し、ワイヤーが引かれて竜頭の身が大地に叩きつけられた。
『冗談――!』
飯島機の爆槍が竜頭の身を貫いて超爆発を巻き起こし、終夜機が超威力の雪村で嵐の如く滅多斬りにし、鹿嶋機が魔剣をアレックス機が護剣を叩き込む。必殺の態勢。完全に囲んだ。
次の瞬間、真紅の竜頭は壮絶な超爆発を巻き起こした。常の爆発ではない。自爆だ。壮絶な破壊の嵐が、囲んでいた四機へと襲いかかった。
魔竜アナンタは北九州の大地に沈んだ。しかし金銀のタロスは逃げおおせ右翼と左翼も大破を出す事なく撤退した。
KVには消耗の少ない機体もあったが、中央だけで見てもアレックス機、鹿嶋機の損傷は激しく(終夜機は反撃に備えていたのでブースト機動でかわし、飯島機は直撃を受けたがまだまだ大丈夫だった)また練力消費が多大な機体も多かった。
タロス隊を退けたKV隊であったが、その直後にルウェリンが旅団本隊急襲の報を聞く。
ただちに迎撃に向かったが、ルウェリンを退けさせられたのは地上軍に夥しい損害を発生させた後であった。
了