●リプレイ本文
「さぁて、初陣だね。行くよ、betelgeuse!」
ユリア・ミフィーラル(
gc4963)は乗機F‐196‐betelgeuseへと声をかけつつエンジンのスロットルを上げる。加速し、翼が浮き、大空へと飛翔してゆく。次々に十機のKVが空へと舞い上がった。
「よ、今回はよろしく頼むぜー」
ユリアとロッテを組む事になったロジャー・藤原(
ga8212)が乗機のS‐01HSCをバンクさせて言った。ユリアの乗機であるスカイセイバーは、ロジャーにとって乗り換え候補の一つであり、HSCと同系のエンジンを積んだ新型機なのでその性能には興味があるらしい。
「うん、ロジャーさん、よろしくね!」
と笑って答えてユリア。なお興味がある事に対し「それから本人のむn‥‥ゲフンゲフン、にも」とか男が言っていたのは知らぬが仏である。
「KVに乗るのも久しぶりになりますか‥‥大事な役目みたいですし、失敗しない様にしたい物です」
十機のうち一機、CD‐016G‐伊邪那美を駆る鳴神 伊織(
ga0421)が言った。
「そうですね、現状は優勢ですから、ある意味駄目押しとも言えるでしょうかね」
というのは番場論子(
gb4628)だ。乗機はPT‐062。今回の攻勢、戦略的には生門たる石家庄市への止めの一撃となろう。既にその段階だ。
だが戦術的には敵も決死か、非常に強固な守備をみせており、これを破るは容易ではなさそうだった。女は言う。
「今回は『生門』石家庄市攻略が全体の目標であり、わたし達は石家庄一帯を守備する敵地上部隊への空対地爆撃を求められています。これは生門の攻略が成功するか否かを分ける事になるでしょう」
「そうだな‥‥『支援が上手く働かない場合、攻略は失敗する』だったか。責任重大だな」
翼を並べる一機、F‐104改‐春燕を駆る桂木 一馬(
gc1844)が頷き淡々と呟く。
「大きな戦いの一部分。その趨勢が今ボク達の手によって‥‥か」
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)はコクピットの中で呟いた。ドゥ的にはあまりそこは気にしたくない。何故か。
「大小がどうあれ、討つべき敵は討つ。それだけだ」
少年はそう言った。
「まぁ、敵の増援部隊は味方の空軍が抑えてくれそうだな。俺達は地上部隊の支援に徹する事としよう」
榊 兵衛(
ga0388)が言った。失敗は無いと、信用しているようだ。
やがて地平に無数の黒点と赤華が出現してゆく。地上で蠢き、鉄と火を交わす者達。
「さ、セカイを見に行こうね、イクシオン」
夢守 ルキア(
gb9436)は愛機H‐223B‐イクシオンへと呟き、
「さあ、今日も金儲けと行きますか」
リック・オルコット(
gc4548)は腕を鳴らした。
戦に赴く動機は人それぞれ。やがて無線からノイズが走る。
「――来てくれたか! こちら――だ。目標を回す! 早速だが支援を頼む!」
地上軍を率いる隊長の一人の叫びが飛び込んで来た。大地は既にかなり灼熱しているらしい。
「おう、対地攻撃なら海賊(バッカニア)に任せとけ!」
ロジャーが無線に応えて言った。最も、
(「俺の先祖はプライベーティアの方だけど」)
とこっそり胸中で呟いておく。一口に海賊と言っても実は色々だ。
「我等が抑える間になんとかして立て直したまえ」
シリウス・ガーランド(
ga5113)もまた言って、敵軍へ向かって高度を落としてゆく。
戦いが、始まった。
●
ルキア機イクシオン、高空より偵察用カメラを起動しつつ戦場を俯瞰する。
味方機及び同戦域の友軍の位置を把握、データ収集に務め統合しリンクして各機へと伝達する。HW等の脅威は見当たらない。が、
「わぁ‥‥敵対空砲、呆れるくらい沢山いるね。座標を回す。各機、気をつけて」
味方へとそう注意を飛ばす。
他方突入した低空、
『我の名はシリウス・ガーランド。歪んだ生を得た者共よ、消え行くまでの暫しの間、この名を刻んでおくが良い』
シリウス機KM‐S2、外部スピーカより声を発しつつ高度を下げると、地上で味方歩兵と激しく撃ちあい押し込んでいる敵歩兵の群れへと照準を回す。爆風を巻き起こして飛びながら機銃掃射。猛烈な勢いで放たれたSESの弾丸が敵兵を真っ二つ三つに叩き斬って薙ぎ倒し、大地を爆砕しながら土砂と共に肉塊を天へと向かって吹き上げてゆく。巻き起こった破壊の嵐に敵兵が叫びをあげて伏せ、その進撃が止まる。その間に味方歩兵は息を切らして走って後退し、態勢の立て直しにかかる。軍曹らしき男が声を枯らして叫んでいた。
無論、敵も黙ってはいない。バグア軍の対空砲が火を吹いた。シリウスの言葉と射撃に対し返答代わりに猛烈な勢いで砲弾の嵐を撃ち放つ。弾幕が厚い。シリウス機は弾丸を回避しつつも、多くがその装甲へと命中して火花を巻き起こしてゆく。
(「圧倒的な敵の数。どれだけ相手の主戦力を減らせるか。いや減らさないといけないんだ」)
ガンサイト、ドゥ・ヤフーリヴァはGF‐106のコクピットの内部、唸りをあげて襲い来る対空の砲弾の嵐の中で、蠢く地上の標的どもを睨む。
(「こっちが勝つ為にも、墜ちる位必死で‥‥! 当然、墜ちる前提は絶対ないけれど」)
命がかかってる。当然だが敵味方ともに死に物狂いだ。火力、武力、士気、戦術、あらゆる『力』の総量と運が勝る方が生き残り、敗れれば死ぬ。味方歩兵へと光線を連発して爆砕している蜥蜴型のキメラの群れを照準に納めるとガトリング砲のトリガーレバーを引く。激震と共に多身砲が猛烈な勢いで回転し焔と共に弾丸を吐きだしてゆく。百二十発の弾幕が地表を薙ぎ払い蜥蜴人達が血飛沫をあげながら吹き飛んでゆく。
ルキア機とロッテを組む一馬は周辺を飛びつつ低空を飛ぶヘリを発見すると、そちらへと翼を翻す。爆風を巻き起こして加速し距離を詰めてゆく。地上から高空へと弾丸が突き上がって来るが機体をロールさせて潜りぬけてゆく。ヘリの一機、捉えた、ロックオン。一馬は「FOX‐2」の言葉と共に発射ボタンを押し込む。煙と焔を噴出しながらミサイルが飛び出し、極超音速でヘリへと喰らいついて大爆発を巻き起こした。撃墜。
榊機、XF‐08D改2‐忠勝、超伝導アクチュエータを起動、機動力を強化しルキア機からのデータを元に弾雨の中をローリングしながら翔け抜けてゆく。速い。
「‥‥当たらぬよ! 高速で飛び回っている機体相手で戦っているのに比べれば、固定された場所からの攻撃など見切るのはさほど難しくないのでな」
榊、猛射を掻い潜りながらベクタード・スラストで機体を横滑りさせ砲弾を吐きだしている地上の対空砲をサイトに納める。127mm2連装ロケット弾、発射。素早く標的を移し連射。八発のロケット弾が次々に対空砲へと飛び直撃して大爆発を巻き起こして吹き飛ばす。天雷の如き爆撃。四門撃破。
鳴神機もまた榊機に続いて降下する。ガンサイト、地上を進撃してる戦車部隊へと合わせる。風の唸りをコクピット越しに感じつつ急降下し猛射。次の瞬間、天空から弾丸の雨が降り注ぎ戦車に穴が空き、ひしゃげ、大爆発を巻き起こして四散した。撃破。鳴神機はスライドしながら機首を上げ反撃の砲弾を回避しながら上空へと離脱してゆく。
「まずは比較的狙いやすくて、効果が大きいのから狙っていきたいね」
ユリア機とロジャー機は高空よりヘリを目がけて翼を翻した。ロジャー機が先行し対空弾幕を掻い潜りながら低空まで降下、ブレス・ノウを発動させ砲へと向けて二連のロケット弾を撃ち放つ。激しく焔を吹き出し煙と共に射出されたロケット弾が一直線に飛んでバグア軍の対空砲へと突き刺さり大爆発を巻き起こす。標的を移して連射。次々に砲を破壊してゆく。
その隙にユリア機は攻撃ヘリへと迫ると狙いをつけ高空よりロケット弾を撃ち降ろした。127mmの二連のロケット弾が極超音速で駆ける稲妻と化し攻撃ヘリへと突き刺さった。大爆発が巻き起こってミニガンで味方の歩兵を薙ぎ払っていたヘリはその勢いのまま弾丸を吐きだしながら駒のように回転しつつ落下してゆく。次の瞬間、大地に激突してひしゃげ大爆発を巻き起こしながら散った。撃破。
「こちらDOG1。さて、活きの良い84mmロケット弾を注文したのは誰だい? 168発、届に来たぜ?」
唸りをあげてPT‐062が飛ぶ。リック機だ。
「新規購入したグロームにおける性能の『蕾』が花開く様にしたいものですね」
番場が言った。こちらも乗機はPT‐062。空対地目標追尾システムを起動する。爆撃はPT‐062の真髄だ。二機のグロームが天より襲いかかり、高空からリック機が、降下しつつ番場機が、高速で飛び回っている敵ヘリへとそれぞれサイトを回しロケット弾を撃ち降ろす。
二機のPT‐062より煙を噴出しながらロケット弾が射出され、槍の如く飛んで次々にヘリへと突き刺さった。二機のヘリが大爆発を巻き起こしながらひしゃげ、破片を撒き散らしながら落下してゆく。地上に激突して親バグアの歩兵を曳き潰し、エンジンに引火して爆裂する焔と共に盛大に爆散した。撃破。
敵軍の全てのヘリが撃墜されロジャーは戦車へと目標を移し次々にロケット弾を射出して爆砕してゆく。
「‥‥ホント戦場は地獄だぜ」
低空を飛ぶ海賊の末裔は爆撃跡に何かを見たのか、呻くようにそう呟いた。
「深く考えたら負けさね。依頼を完遂する事だけ考えればよいさね」
リックは無線から流れて来た小隊仲間の呟きにそう言葉を返し、敵が群がっている場所へと高空から八連装ランチャーより二十四発のロケット弾を射出し大小の諸々をまとめて吹き飛ばしてゆく。
「空から見れば、キメラも人間も判別できない。ただ『攻撃目標』がそこにいるだけさね」
男はボタンを押してゆく。カチ、カチ、カチと妙に硬い音が耳に残るが塗りつぶす。仕事だ。
(「敵が化け物や人間かなんて関係ない。「依頼」を「完遂」して「金」を貰う。ただ、それだけさね」)
鋼と焔と荒れ狂う風が大地を呑みこんだ。
●
「元々が雷電そのものが敵前降下作戦での強襲を目的とした機体。加えて【忠勝】は俺が手塩に掛けて育てた愛機だ。多少の被弾程度で撃墜はせぬ!」
榊機が暴れ回って対空砲を潰して回っている。一馬機もまたスタビライザーを発動、加速して切り返すと砲へとキャノン砲を叩き込み爆砕してゆく。
「ルキアお知らせ機能、巨大キメラが進撃中だ。排除を」
ルキアは降下すると体長20mを誇る火炎の巨人の頭上を取り制動してロングレンジライフルのガンサイトに巨人を納める。
「目標を決めるスコープ、そんなショタっ子どう?」
言葉と共にファイア。錐揉むように回転するライフル弾が空間を貫いて真っ直ぐに伸び巨人の肩へと突き刺さった。鮮血が吹き上がり巨人が空へと向かって怒りの咆哮をあげる。
「他はともかく‥‥これだけは流石に少数だけでは厳しいですね」
鳴神機は砲を榊へと任せ巨人へと翼を翻す。照準に巨人を納めPRMSを起動、そのエネルギーを極限まで火力へと回す。スラスターライフルで猛射。弾丸が勢い良く吐きだされて巨人の身に炸裂し、増大された破壊力を叩きつけてゆく。皮膚に弾丸が突き刺さり血飛沫が噴出した。
「時間掛けると被害が大きくなるから、手早く行くよ!」
ユリア機もまたアサルトフォーミュラAを発動、巨人へと迫りながら機銃で猛射する。精度と破壊力が増大した弾丸が唸り巨人の身へと突き刺さってゆく。一気に倒し切りたい所。20mの巨躯を誇る巨人は腕を交差して弾丸を受けつつ低空を舞うユリア機へと向かい大地を蹴って跳躍する。弾丸の如く数十メートルを跳んだ巨人の腕が伸ばされコクピット一杯に迫って来る。ユリアは少し驚いたが、間一髪で急上昇してかわす。巨人が着地して大地が陥没し地響きが走った。飛び道具無しに翼ある者を叩き落とすは容易ではない。
「そのデカさなら当てるのは簡単だ――」
ロケット弾が炸裂し水属性の爆裂が巻き起こった。ロジャー、さらにFCSを機関砲に切り替える。ガンサイトの中、炎熱の巨人が振りむき牙を剥いて吼えている。アグレッシヴ・ファングを発動、SESエネルギーが急速に高まってゆきS‐01HSC‐フリントロックを眩い光輪が包み込む。
「――撃ち抜けフリントロックッ!!」
裂帛の叫びと共にトリガーレバーを引く。猛射。凄まじい勢いで弾丸が飛び、巨人が跳躍して爪を伸ばす。弾幕が走って巨人の左目を薙いで爪の先が虚空を切ってゆく。鮮血が噴出し、ロジャー機、かわした。
番場、周辺に味方がいない事を確認。巨人の着地の瞬間を狙う。ロケット弾を撃ち放ちツングースカ機銃で猛射。巨人の足で爆裂が巻き起こり弾幕が血飛沫を噴出させてゆく。リック機もまた空対地目標追尾システムを発動させ二十四連のロケット弾を連射して叩き込んでゆく。爆裂の華が咲き乱れた。
「発砲まで援護を頼む」
シリウス、弾幕を回避しつつドゥへと支援要請を発し200mmキャノンの砲身を伸ばす。ドゥはそれを受けてG‐193レーザー砲へとFCSを切り替えると対空砲へと迫り光線を猛射する。三条の蒼い光が炸裂して対空砲を吹き飛ばしてゆく。敵の反撃が消えた隙にシリウスはファルコン・スナイプを発動しガンサイトに炎熱の巨人を納めた。
「巨人の存在は御伽噺の中だけだ。早々に還りたまえ」
スピリットゴーストの四連キャノンが焔を吹き、四発の砲弾が唸りをあげて巨人へと襲いかかる。巨人は咄嗟に腕を交差させてガードせんとしたが、うち二発が腕をすり抜けて巨人の胸に炸裂し心臓を吹っ飛ばした。巨人の瞳から光が消え、鮮血をぶちまけながら倒れてゆく。撃破。
かくてバグア軍は地上最大の戦力を失い、北では増援隊が撃墜されていた。バグア軍は動きを鈍らせてゆき、代わってUPC軍が勢いを盛り返した。
その勢いは各所で戦線を破ってバグア軍を敗走させ、ついには石家庄空軍基地の制圧に成功する事なる。
『アンタ達が味方してるそいつら、いつにせよ植物人間になりかねない』
ドゥは敗走する親バグア兵の背へと向かってそう言葉を投げかけた。デマに限りなく近いが、けどドゥの中の確信である。
「‥‥必ずあいつ等は滅ぶ。あの力を使い続ける限り‥‥そうだろペレグジア」
少年はそう、呟いた。
やがて包囲の末に生門たる石家庄市そのものも陥落させ、十年十一月これをついに制圧したのだった。
夕焼けの基地。
「仕事の後の一杯は最高だな――ああ、こっちのは酒じゃないぞ?」
とロジャー。
「じゃあ、なにさね、それ?」
リックがスキットル片手に問いかける。
「紅茶」
海賊の末裔、ラム酒でぐぃっとやる訳ではないらしい。
なんとなく釈然としない物を感じつつもリックはスキットルに口つけて呷る。まぁ、些細な事だ。
「――生きて帰って飲む酒は格別だね、本当に」
ウイスキーが喉を焼きながら五臓へと落ちてゆく。
命の水だと言ったのは、誰だったか。
今はそれに同意しよう。
了