●リプレイ本文
ユーラシア大陸の東、中華の大地、山東省徳州の故城空軍基地、十台の軍用大型トラックに物資が満載されていた。
「我らがうまくやれば、その分市民達が楽になるのか‥‥」
護衛につく傭兵の一人、漸 王零(
ga2930)が静かに呟いた。ひそかに悪化が進む食糧事情を改善すべく河北省石家庄市にこの輸送隊が派遣される事が決定されていたのである。
(市民の皆さんに約束した以上、必ずこの糧食は守らねば。あの笑顔を曇らせるわけには、いきません)
そう決意を固めているのは夏 炎西(
ga4178)だ。
(ディフェンスは経験無いんだけど。ま、為るように為る、か)
綾河 零音(
gb9784)は胸中で呟く。
「ご飯やお菓子が少ないと凹むしシッカリ届けよ〜〜」
元気に言っているのはネージュ(
gb9408)だ。
「初めてでちょっと怖いところにきちゃったかもしれないけど、がんばりますよー!」
と答えてジェーン・ジェリア(
gc6575)。兄弟に傭兵がいるらしい。綾河が「お兄様には常日頃からお世話になっております」と一礼して挨拶し、ジェーンがそれに慌てたように何某かの言葉を応えていた。
(‥‥やっぱ背高いのって家系なのかな?)
綾河はジェーンを見てそんな事を思った。
ちなみにジェーンは今回がULT傭兵として初仕事なので、周りの人の動きを勉強です、との事らしい。近接戦が大好きだが、今回はちょっと自重する予定であったが、
「でも、いざとなったら相手を殴り倒しておけば間違いないって教わりました! 今の自分でどのくらいできるのかを見つけたいと思います!」
との事。
傭兵達は軍部から渡された情報を元に護衛の為の作戦を立てる。
「場所が場所だけに馬賊みたいだね〜〜半世紀以上昔に生息していたっていう」
ネージュは敵の騎馬キメラをそう評した。
「ケンタウロスでも模したのでしょうかねぇ」
斑鳩・八雲(
ga8672)が常のお気楽そうな笑顔を浮かべて言った。
「補給路を狙うゲリラ戦、とはまた、嫌らしい戦法です。計画的なものなら、敵の司令官はさぞ優秀なのでしょうね」
そう付け加えるように述べる。誰の戦略か。バグア・アジア軍の主だった将。
傭兵達は一通りの護衛計画を立て終えるとそれぞれ車両に乗り込んだ。
「運転手は運転がお仕事♪ トラックを守れる様に努力しますわ」
と言うのはミリハナク(
gc4008)だ。愛車のジーザリオの運転手を務める模様。今回は座席の幌は取り外され車上戦闘向きの仕様となっている。ロープを購入して車内に結び、転落防止の命綱とした。
「これ宜しかったら使ってくださいですの」
「有難うございますお姉様」
予備に持ち込んだ双眼鏡の一つを綾河へと手渡している。
「いつも御世話になります。宜しくお願いしますね」
「こちらこそよろしくです」
他方、こちらも幌が外されたジーザリオに乗り込みつつ夏が言い運転席でハンドルを握る那月 ケイ(
gc4469)と挨拶をかわしている。
一団は準備を整えると石家庄市を目指して出発したのだった。
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朝焼けの陽が照らす、広大な大陸の荒野を貫く一本の道。所々、爆撃等で吹き飛びクレーターが発生しているその道を時枝・悠(
ga8810)はゴーグルを装着し愛車の二輪――SE‐445Rだ――に跨って走っていた。エンジンと風切り音をBGMに荒野を貫く道を駆けてゆく。
(実際、未来の事を考えても仕方ない、のだろう)
少女はふとULTオペレーターのジャンヌ・ルイの言葉を思い出していた。
面倒な事情を知った所で仕事内容が変わる訳はなく、感情論で出せる能力が変わる性質でもない。
(だからまあ、いつも通りだ。今やるべき事を、今やろう)
そんな事を思う。隊は先行する時枝の単車を先頭に十台の輸送トラックが続き、その左右を二台のジーザリオが守っている。殿は二台のSE‐445Rが固めていた。縦長の五角形に囲む形である。
流石に十台ともなると列が長い。それなりに距離が離れていた。ユリア・ミフィーラル(
gc4963)はジーザリオのうち一台、ミリハナクが運転するそれの席で双眼鏡を用いて周囲を索敵していた。
「食料目当ての襲撃、なのかな? まあ何にせよ、キッチリ仕留めちゃわないとね」
そんな事を言った。いち早い発見とそれに対する迎撃が必要とされるだろう。
「半日くらいなら覚醒していられるか‥‥?」
夏は覚醒し双眼鏡を用いて前・右・後を双眼鏡で警戒している。後部座席ではネージュがキャンディーを口に含んで舐めつつ双眼鏡で周囲をチェックしていた。常時神経をすり減らしては適わないので適宜糖分補給である。
先頭は時枝が軍用ゴーグルの望遠機能を使って索敵し、一団の最後尾右方は445R搭乗の斑鳩が、最後尾左方は同じく445Rに乗る漸が警戒している。
一団の左面にはミリハナクがハンドルを握ってジーザリオを荒野を並走させ、ロープで身体を固定した綾河が双眼鏡を使って索敵している。同乗するジェーンやユリアも継続して警戒していたが、敵影らしきものは見えなかった。
「このまま石家庄市まで順調にドライブ‥‥ってワケにもいかねぇんだろうなぁ」
那月がジーザリオのハンドルを片手で保持しつつ言う。今の所は平和そのものであったが、男はそれが永遠に続くとは勿論これっぽっちも思ってはいなかった。
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気を張っている間は盗賊は仕掛けてこない、等とは昔誰かが言っていたが、キメラもそうなのか数時間を走行しても一向に姿を見せなかった。やがて陽は高く登り休憩時間となり、車が次々に停車してゆく。すぐ動けるように車上での休憩だ。
「食事の際に襲われない事を祈る」
夏はハートチョコをぼりぼりと食べつつグッドラックを発動していた。ここまでに結構練力使っているが、チョコパワーで回復といきたい所である。気力的に。
漸はバイクに跨ったまま地図を片手に走行ルートをチェック中。ミリハナクは昼食休憩用に握ったおにぎりを簡単な物ですけどと配って回っていた。シャケに梅干におかか、と寄り取り見どりである。
「お弁当‥‥! や、おにぎりで十分ですっ!」
那月が有難くいただいて齧りつき感激している。
「食事って大事だよなぁ‥‥うん」
男はそんな事をしみじみと呟いていた。
そのように足を止め休息している一団に向かって彼方より砂塵を巻き上げて半人半馬の鎧武人が迫って来ていた。八騎寄って等間隔で横一線に並走し、刀槍を手に黄色い暴風となって迫って来る。
初めに気づいたのは覚醒していた夏で次に時枝とユリアが気づいた。北西より体高三メートルを超えそうな騎馬――ではなく半人半馬の武人キメラが猛スピードで突っ込んで来ているではないか。夏とユリアはすぐさま無線に一報を入れ、那月が握飯を呑みこんでアクセルを踏み込みハンドルを回してジーザリオを急発進させる。
「やっぱり来ちまったか‥‥二時の方向へ発進、応援頼むっ」
四人乗りのジーザリオが迎撃に飛び出し、斑鳩が445Rのエンジンを吹かしそれを追う。
「バイクに乗ってショットガンとは、映画を思い出しますね。あれと違って、銃の効く敵で何よりですが」
斑鳩は鉄壁の笑顔のまま左手でハンドルを握りつつ右手にショットガン20を取り出す。
「寄られたら負ける、攻めろ〜!」
ジーザリオ上、ネージュが覚醒し拳銃のセーフティを外す。護衛は敵の射程に護衛対象を捉えさせる前に火力で撃ち滅ぼすのが重要だ。
「あまりトラックから離れ過ぎるなよ」
覚醒して漸が言った。バイクを移動させてはいるが飛び出さずに周辺を警戒している。一方に注意を引いて反対側からズドンというのもまた良くある話。時枝もまた敵影を良く観察しその数が八である事を確認してから単車のエンジンを吹かせて飛び出した。
ミリハナクはジーザリオを移動させているがトラックの周辺で守る側へと回った。
「あ〜‥‥始まった。お姉様、思う存分振り回してくださいませ」
綾河は超機械を準備しつつそんな事を言った。ジェーンもまた古風な小銃を取り出す。基本アホの子らしいが、銃のチョイスが渋いな。
距離が詰まってゆく。
那月はハンドルを切ってドリフトし武人達との正面衝突を避けんとする。夏、相対距離を測りつつ細工しておいた閃光手榴弾のピンを抜いて投擲する。ジーザリオが横に流れ、武人は目標を変えずにトラックへと真っ直ぐに突っ込む。
閃光手榴弾が爆裂して長剣、斬馬、双刃、三尖、槍の五体が閃光と爆音に呑まれた。
ネージュは練力を解放すると制圧射撃を発動、スピエガンドを構えて六連射。閃光を喰らった五体へと弾丸を叩き込み、青竜刀へと一発飛ばし青竜刀は回避。
間髪入れずに強弾撃を発動、左のS‐01を長剣へと向け連射。二連の弾丸が突き刺さって鮮血を噴出させる。
夏は戟、青竜刀、矛、槍の四体へと片っ端から電磁波を飛ばす。戟、青竜、矛が素早く駆け抜けて光嵐を回避し槍が直撃を受けて呑まれる。
制圧射撃を受けた五体は速度を鈍らせつつも軌道を転ずると那月車へと向かって駆け始める。
距離が詰まる。
斑鳩、トラックへと向かってくる青竜刀持ちへと番天印で三連射。
「堅い敵か‥‥これならどうだ!」
那月が運転しつつ練成弱体を発動する。青竜刀持ちはスライドして二発を避け、一発が命中。軌道を変更して突っ込んで来る。相対二〇、ショットガンを発砲。散弾が直撃し、しかし青竜刀はそのまま突っ込んで来る。斑鳩は銃を納め太刀を抜く。交差。突き出された刃と跳ね上げた太刀が激突して火花を散らす。両者そのまま突き抜け、武人が旋回して斑鳩を追い、その後方へ追いついて青竜刀を振り降ろした。斑鳩は頭上へ太刀を掲げて受け流すもバランスを崩す。
時枝、バイク搭乗中はスキルは使えない。オルタネイティブを戟と矛へそれぞれ三連射。戟は素早く機動して弾丸をかわし、矛が一発回避して二発直撃。壮絶な破壊力が炸裂して鮮血が散る。時枝、接触は避けたいので距離を取りたいが、向こうの方が足が速い。追いつかれた。矛が一閃されて時枝の身に命中しバランスを崩す。武人はもう一撃を叩き込んで時枝をバイクごと大地に横倒しに叩きつけた。
閃光と制圧射撃で鈍りつつも五体の武人が那月車へと向かってゆき、追いついて武器を次々に繰り出す。那月はバックミラーでその動きを確認しつつ先手必勝を発動、急ハンドルを切り、ブーストを点火。車体が流れて直後にタイヤが高速回転し土煙りをあげながら急加速してゆく。武人達の武器が次々に空を切った。
「これ以上の食料強奪はさせないよ」
ネージュ、トラックへと向かってくる戟持ちキメラへとDF‐700小銃を向け狙撃。四連射。足を狙う。戟持ちは二発の弾丸を素早く機動して回避し二発を受けながらも突っ込んで来る。
漸、バイクを走行させつつキャンサーの間合い。リロードしつつ六連射。三連の弾丸が火花を起こしながら武人に命中し、三発が虚空を貫いてゆく。
「‥‥さァって、ちょいとやってみっか?」
綾河もまた重ねるように白鴉を翳す。四連の電磁嵐が発生、戟キメラは素早く機動して全撃回避。
「‥‥速度と防御を両立って反則だと思う」
綾河はそんな呟きを漏らした。きっとあの戟持ちは三国に無双型。
相対距離四〇、ジェーン・ジュリア、基本近接戦ばっかりを練習してきたので銃は苦手との事、しかし、
(当たらないかもしれないけど、何もしないよりは良いよね!)
そんな訳で、908mmの小銃を構えて狙いをつけ連射。飛び出した弾丸を戟持ちは避けて避ける。
「このー! こっちくんなー!」
足を狙って剣を振り抜く。ソニックブームだ。唸りをあげて飛んだ衝撃波を戟持ちは回避。
「わーん! やっぱり当たんないよー!」
敵が速い。ミリハナクもまたジーザリオを片手で運転しつつシエルクラインで猛射しているが、戟武人は突進しながら回避、または直撃を受けても装甲で耐えて間合いを詰め長柄を振り降ろす。刃が唸りをあげてユリアへと振り降ろされ、ジェーンが剣を掲げて間に入る。炎剣に戟が激突して火花と共に衝撃を巻き起こし、続く連撃が閃光の如く奔ってジェーンを切り裂いた。
綾河が探査の眼を発動する。
漸、旋回するジーザリオの横手より詰め戟持ちの後方へバイクで迫って国士無双を振り抜く。刃が炸裂して戟持ちの脚部に炸裂、血飛沫が噴き上がった。
ミリハナクがシエルクラインを、ユリアが影撃ちを発動させてDF‐700の銃口を突きつけ猛射し、綾河が白氷の太刀を居合い抜きの要領で一閃させた。弾丸が次々に突き刺さって戟武人の身を破砕し綾河の太刀が炸裂して脚部から血飛沫を吹き上げる。よろめいた武人へジェーンがゼフォンを袈裟に振るって頭部へと太刀を叩き込んだ。武人が横倒しに転倒し動かなくなる。撃破。
荒野に投げ出された時枝は受け身を取って膝立ちになると猛撃と両断剣・絶を発動、追撃に迫る青竜刀へとオルタナティブをリロードしつつ猛射した。唸りをあげて弾丸が飛び出し、武人に炸裂してその上半身を爆砕しながら後方へと抜けてゆく。武人が鮮血を噴出しながら倒れた。
斑鳩はバイクを回転させるように旋回させると刀を一閃させて武人キメラへと痛打を与える。機動しながら激しく斬り合い、転倒するも突っ込んで来た所へ反撃して斬り倒す。
ネージュはスピエガンドをリロードしつつ再度制圧射撃を繰り出して動きを鈍らせてゆく。
「引け、馬愚悪!」
夏は超機械をかざすと動きの鈍っている長剣持ちの四肢の付け根へ電磁嵐を叩き込んで灼き焦がした。ネージュがS‐01を、那月がWM‐79を撃ち込んで長剣武人を撃破する。
動きが鈍っている武人達の攻撃の間をジーザリオがブーストで駆け抜けて行く。残り四匹。
時枝が猛撃を発動させて地上からオルタネイティブを猛射して斬馬武人を爆砕し、漸がキャンサーで、斑鳩が番天印で、クレアがDF‐700で集中射撃して双刃武人を撃ち殺す。ミリハナク、ジェーンが銃撃を、綾河が電磁嵐を連射して槍持ちへと痛打を与えた。
やがて閃光の影響が切れて那月車に槍と三尖刀が叩き込まれたが既に大勢は決しており、傭兵達からの猛攻を受けて生き残りの二匹のキメラも荒野に沈んだのだった。
噂の半人半馬の八旗は倒された。
「しかし‥‥敵はどれだけいるのだろうな‥‥」
漸がそんな事を呟いた。キメラは随分とこの中華の大地に放たれているようである。
「まぁ‥‥分らないからと言って問題はない‥‥出てきた奴を全て倒せばいいだけの話だ」
男は言って再び荒野の道を走り出すのだった。
数時間後、輸送団は石家庄市に辿りつき、十台のトラックに満載された物資は無事に市に引き渡されたのだった。
全体から見れば若干ではあっても確実に石家庄市の食糧事情は回復される事だろう。
傭兵達は、市からの感謝の言葉を背にそれぞれの帰路へと発つのであった。
了