タイトル:【ODNK】決戦の裏でマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/09 07:41

●オープニング本文


 北九州の戦線。
「正直、勝てるとは思っていなかったな」
 故・村上顕家の後に新たに旅団長となった大佐の遠藤正道が言った。東北出身の壮年の男である。齢は四十と半ばだ。ルウェリンを討った功績で中佐に昇進した不破真治はおろか、かつて旅団を率いていた故村上顕家中将(『戦死』した事により二階級特進とされた)よりも大分年上だ。
「指揮するからには全部勝つつもりでやって欲しかったですよ。トップが軽々しく『勝てるとは思っていなかった』と言うのは頂けません。士気に関わります」
 不破真治が言った。
「君に対してはぐらいは良いだろう‥‥? 無論、私とて気持ちの上ではそうするが‥‥戦において百戦百勝など‥‥‥‥――前任はやっていたか」
「ええ、独立隊となって以来は、ずっと不敗のままで逝きました」
 その右腕であった若き中佐はそう言う。
 遠藤は思う。
(やりづらい‥‥‥‥)
 前任者の村上顕家は勝率十割、最近ならともかく初期から中期の頃の人類劣勢の頃のバグア軍を相手にしていながらありえない数字だ。それだけに彼の幕下だった者達は不敗のまま逝った村上を神格化してしまっている。遠藤の一挙手一投足は常に村上と比較され、そして――ほぼ、あらゆる面で劣っていると判断されていた。遠藤は決して無能ではない。そうでなければその村上が参謀長に抜擢してつけたりなどしない。村上は万能の神などではない、そうであったなら謀殺されてなどいない。幾つかの点に限れば実際には遠藤の方が勝っている能力もあるのだが、死亡した者は美化される。不敗となればなおさらだ。
(まいったな‥‥)
 遠藤は思う。せめて後任者の為に一敗くらいはしてから逝って欲しかった、とかつての上官に対して望むのは酷だろうか。恐らく、遠藤以外誰もそんな事は望まぬだろう。
 おまけに不破と同格だったハラザーフ・ホスローが姿を消した為に旅団内ではKV戦隊を率いるこの若造、もとい不破真治が絶対の力を持ったナンバー2であり、しかも大分戦後の参加の遠藤よりも村上隊所属としてはずっと古参なのだ。不破は村上隊が独立隊となった時からの生き残りで最古参の一人に挙げられる。どんな激戦でも常に最前線で戦い抜いて来たので兵達からの信頼も遠藤とは比べ物にならない程に厚い。
「しかし‥‥君は、良くルウェリン隊と戦って大破させられて無事だったね‥‥いや、優秀な仲間を失うのかと肝が冷えたものだが」
「事前に死なぬよう、とクギを刺されていたからでしょうな。頭に血が昇ったままだったら危なかった」
 余計な事を、と遠藤は思う。遠藤はこの部下には甘いが上司には厳しい若者が苦手だった。心から納得させなければ従わないし、無理にやらせれば独断専行する。やりづらくて仕方ない。
(人員の整理は出来ぬものか‥‥)
 遠藤正道は頭を捻るのだった。


 実際の所、前任が生きていた頃は基本の戦略は前任がほとんど一人で決めていて遠藤は全体を眺めて問題になりそうな箇所を指摘するだけで良かった。
(だが、これからは己(おれ)が一から全てやらねばならん)
 四千と半ばの兵の未来が遠藤の頭脳にかかっている。
 幸いな事にこちら方面で最凶の敵だった竜王ルウェリンとその配下の著名なエース達は皆討たれている――実際、良く勝ったものだ。真っ向勝負でぶちやぶるとは鬼神の群れだった。
 しかし、村上旅団改め遠藤旅団のKV隊の主力は傭兵である。これは戦力が一定でなく、大きく変動するのが珠に傷で、主軸にして戦略を立てるには博打過ぎる。
(軍のKV隊を主力にしたい‥‥攻勢に出る為には軍のKVを温存して一度の出撃可能数を増やしておかねば‥‥諸葛孔明じみた戦術など己には使えない以上、しばらく修理と補給が追いつくのを待つしかない。無理は良くない‥‥そもそも、前任とてそういうやり方だった。あれが強かったのは戦略で常に優位に立っていたからだ。ここは下手なプライドなど捨ててそれに習うのが良いだろう。まずはしっかり足場を固めて一呼吸だ)
 地図を睨み、顎髭を撫でながら壮年の男はそんな事を思う。
「大佐、春日の包囲網に阻まれ孤立した敵ワーム部隊が朝倉市近辺で暴れ回っているとの報告が」
 不破真治が言った。
「春日では現在ダム・ダル軍との戦いが決戦が行われており、これの後背に敵を置いておくのは少数といえども好ましくありません」
「うん‥‥確かにそうだな」
「幸い敵の航空戦力は本星型のエース機も含まれていますがHWが五機程度で、後は陸戦型の重HWが五機程です。KV隊に出撃許可をいただければ、ただちに撃滅して御覧にいれましょう」
「うん‥‥そうだな」
 遠藤は頷き。
「出撃を許可する。ただちに赤竜軍の残党ワームを掃討してくれたまえ」
「はっ」
「ただし、君と相良君を除いて軍のKVの出撃は不許可とする。温存しておきたい」
「‥‥はっ」
「さらに傭兵隊のKVの出動許可も申請しない」
「‥‥は?」
「前任の『戦死』以降、旅団が使用出来る資金が激減している。以前と同じだけの兵器を供給・維持するだけの軍資金が捻出出来ないのだよ」
「し、しかし‥‥それではどうやってワームを倒せと? 二機だけで十機撃破せよとおっしゃられますか?」
「竜王を破ったのならそれくらい出来るだろう? と言いたいが私も鬼ではない。歩兵なら傭兵は出して良い」
「‥‥まさか大佐」
「うん、陸のワームは歩兵で倒してくれ。君等なら出来ると私は信じているよ」
 絶句している不破を見上げて旅団長は淡々と続ける。
「後の為だよ。今切り詰めなくて何処で切り詰めるんだ? 頑張れエース。抗議は受け付けない。命令だ。やれ。灰色の錬金術師はもういない。君なら、解るだろう?」
 遠藤正道はそう言ったのだった。


「あはっ♪ いきなりハードだねー!」
 本人曰くウクライナと中国のハーフだという若い女が言った。ブルーファントムの『歩くG弾頭』ことチェラル・ウィリンである。
「‥‥無理言って御免ねチェラルちゃん、皆を援護してあげて欲しいの」
 と相良裕子。
「おっけー裕子、任せて任せて、皆と一緒にちょちょいっと転ばしてくるよー」
 あっはっはーと快活に笑ってチェラル。悲壮感は欠片も無い。
「無茶な命令ですまん、だがこちら、俺が用意出来た最大戦力、御存知人類のトップエース、ブルーファントムのチェラル軍曹だ。その力は折り紙つきだ。必ず強力な援護を約束してくれるだろう。空は俺と相良軍曹で気合いで抑えるので地上を彼女と一緒によろしく頼む」
 傭兵隊の隊長はそう言って傭兵達へと頭を下げたのだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

「そう。村上大佐‥‥もとい、中将は、亡くなったのね。不敗のまま逝くとは、あの人らしい」
 リン=アスターナ(ga4615)が彼方を眺めつつ言った。
 地平の彼方より超巨大な――生身で相対すればHWの大きさは凄まじい――ワームの群れが押し寄せて来ている。
「村上司令の戦死がこのような形で響いてくるとは‥‥実際生身でHWと戦え、などとは正気の沙汰ではありませんわね。まあ、任務ですから最善は尽くさせて頂きますけれど」
 と言うのはクラリッサ・メディスン(ga0853)だ。
「HWを生身で、か。随分と無茶を言う。新しい指揮官に試されているかのようだな‥‥」
 レティ・クリムゾン(ga8679)が言った。勝って良し、負けても損害は軽微で終わる試金石ならば、結果を残し、傭兵の価値を知ってもらおう、と女は思う。
「生身で重HWのお相手ですか‥‥心して掛かりませんとね!」
 バイクに跨っているロジー・ビィ(ga1031)が言った。後部座席にはアンドレアス・ラーセン(ga6523)が乗っている。
「はっ、無茶振りもいいとこだがよ」
 黄金の髪のロッカーはそう言った。カタぁつけねぇとな、と思う。
「あの闘技場がこんなオチに繋がるとはね‥‥」
 呟き、一つ首を振る。今は集中だ。
「村上さんは戦死‥‥か、私は道化も良い所ですね。体よく利用された‥‥という事ですし」
 鳴神 伊織(ga0421)が彼方を眺めながらぽつりと呟いた。
「‥‥先日の闘技場の時に見かけたハラザーフ。やはり、なのですかね」
 と叢雲(ga2494)。やれやれ、因果応報ですかねぇ、と呟きつつ男は嘆息する。
「無茶でも何でも、こうきっぱり言い切る人は個人的に嫌いじゃないですよ」
 ジーザリオのハンドルを握っているシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が言った。達成可能だと思って出した指示だろうから、と思う。実際、似たような前例が無い訳ではない。そしてその前例にはシン自身が居た。
(その根拠を、前例を作ってしまった者の一人として、快く全力で戦う)
 ワームを蹴散らせと言うなら蹴散らすまでだ。
「まあ、過去に生身でゴーレムとやり合ったこともあるし、別に驚く程のことでもないわなぁ」
 翠の肥満(ga2348)はそう言った。随分と昔にも生身でワームを相手にした経験がある。上級職の力を手に入れた今、あの頃に比べれば相対的にトンデモ具合は減少している――と楽であるが、敵方も強力さを増している。
「‥‥今回も随分と無茶振りなので、後の考え事は戦いを終えた後にしますか」
 鳴神の女はそう言った。さりげなく翠の肥満が昔ゴーレムと戦った時に彼女もまた共に戦っている。その後も何度かワームとは戦っている。無茶振りはいつもの事と言えばいつもの事だ。ゴーレムなら斬れる、というか斬った。並のワームなら刀と銃が届く相手なら問題無い。
 問題はワームと一口に言ってもその性能はピンキリな事だ。情報からすると今回のワームはかなり改造強化されている気配なのが問題である。
「でもこの面子なら、負ける気がしませんくてよ‥‥不謹慎ですけれど‥‥何故かわくわくしますわね」
 銀髪の女はそう言ってくすっと笑った。
「ま、乗りかかった船。何より顔見知りがこれだけ多いのは頼もしいわ。やってやろうじゃないの‥‥!」
 リンもまたそう言って気合いを入れる。女は翠の肥満、ロジー、アンドレアスへと視線をやると言った。
「無事に戻ってこないと隊長が頭抱える事態になりそうだし、しぶとく生き延びましょ」
 大きな作戦が控えている。ここで倒れると後に影響が出てしまう。風が吹けば桶屋が儲かるように、闘技場が今この状況へと繋がったように、世界はリンクしている。
「フム、そうですな。手札を減らすのはよろしくない。とりあえず死なない程度に暴れて、お金貰って帰りましょう」
 翠の肥満が緊張感はまったくのゼロな様子で頷き言った。過信か? それともただのお気楽か? 否、それとは少し違う。勝算は既に立てられている。
 一同は作戦を打ち合わせる。
「作戦の土台と狙いは良いな。構想は限り無くベストに近いと思う。流石だ」
 不破真治はそう評した。手放しに褒めている。最高クラスの評価だろう。
「問題は細部の実行力だが‥‥ううむ、実際にやってみないと解らん、か?」
 少し不安そうに唸っている。どんなに優れた戦術も実際にそれを実行出来なければ意味が無い。意図通りに発動しない優れた作戦は意図通りに発動する万歳突撃に劣る時がある。
「なあ不破、大将の弔いとか、墓ってのはどうなってる? せめて手向けの一つくらいは、と思ってんだが」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)が言った。
「まさか墓すら無いなんて事は‥‥無いよな?」
 男の言葉に中佐はしばし沈黙してから、
「‥‥墓は、ある‥‥そうだな、これが終わったら場所を教えよう‥‥無事に生き延びたら行ってみると良い」
 そう言った。
「チェラル、今回も一緒に頑張ろうね」
 勇姫 凛(ga5063)が言ってチェラルとパンっと手を合わせている。
「えへへ、うん、よっろしくー! 頑張ろ〜!」
 恋人が駆けつけてくれたのが嬉しいのかチェラルは笑顔を見せて言った。
「でも凛君も無茶はしちゃ駄目だよ?」
「解ってる。大丈夫」
 勇姫は思う。
(一緒にいられるなら凛、いつもの何倍の力だって出せるから)
 気力は全開、十分だ。チェラルとは普段一緒にいられ無い分、依頼で関われるなら力になりたい。それが、危険な戦いなら、尚更だから。もちろん、あんな危険な奴らを、放っておけないという事もあるが。
(何気に人類側のトップエースの方が二人も一つの所にいるのを見かけるのは珍しい気もしますね)
 鳴神はチェラル等の様子を眺めながらそんな事を胸中で呟いた。ブルーファントムが集まっているのは報告書に載るような任務では確かに少ない。
「では頼んだ。武運を祈る」
 不破と相良はKVに乗り込み空へと飛翔してゆく。
 地平の彼方、全長十五mを超えるHW五機が地上より僅かに浮き土煙を巻き起こしながら迫り来る。
 それぞれ二本の巨大なアームを持ち左からドリル、ガトリング砲、レーザーブレード、大砲、射出槍&粘着爆糸と武装が違う。うち大砲型だけはアームがなく背面に砲塔がついてその先から砲が伸びていた。
「さて、新しいクライアントからはそれなりに期待されてる様だからな、信頼と実績の傭兵屋としては良い所を見せたいモンだね」
 アッシュが言った。傭兵達は三班に別れHW達を迎え撃つべく走り出してゆく。
 傭兵側の編成。
 歩兵は鳴神、クラリッサ、アッシュ、藤村 瑠亥(ga3862)、リン、夢姫、レティ、チェラルの八名だ。
 バイク搭乗者はロジーとアンドレアスがタンデム、一人乗りは翠の肥満と叢雲。シンはジーザリオに搭乗している。
 各員の機動。
 鳴神、向かって最右のHWへと向かい、クラリッサ、アッシュ、リンが同様にそれに続いて射出槍型へと向かう。リンは撹乱班が別のWの引き離しに成功するまでは仕掛けない予定。レティはクラリッサの直衛についた。
 勇姫は特に目標は無い、瞬速縮地で加速しつつローラーブレードで荒野を蹴って中央を駆ける。
 藤村は向かって最左のドリル型へと向かい、チェラルがそれに合わせて駆ける。
 バイク搭乗のロジー、アンドレアスを後部座席に乗せている都合上、彼にだけは手を出させてはいけないと考える。
(なるべく距離を取り、『一番近く』には居ないよう心掛けなければ‥‥)
 前に出るのは抑え目にしつつ剣豪型へと向かう。
 同じくバイクを操る叢雲はロジーの少し後方をついてゆく。
 翠の肥満、攪乱班が敵分断後、他の班員と射出槍&粘着爆糸型に接近・誘引し、排除にかかる予定。攻性操作による弱体化を図るまで敵射程外の状態を維持し射出型を引っ張りたい所。
 とりあえず分断されるまではあまり前に出ない形か。
 シン、ジーザリオでドリル型を誘導して他班と離れたい所。車両を飛ばす。
 翠の肥満は射程外でという意識があるようだが、他の撹乱班メンバーは突っ込む感じである。
 一番速いのは車両に搭乗しドリルを狙って駆けているシン、次ぐのはバイク勢はロジーは一番近くに位置しないようにしていて、叢雲はその後ろ、翠の肥満の突出は撹乱班の分断後であるから、二番手は歩兵の中央、勇姫か。
 ドリル型と機銃型はシンに、剣豪型と大砲型は勇姫へ、射出型は鳴神へとターゲットを合わせた。
 相対距離一〇〇、大砲型は前進しながら勇姫へと砲撃を開始。轟音と共に超巨大な砲弾が音速を超えて飛んで来る。
 勇姫は瞬速縮地を発動、エッジを立てるようにブレードの車輪を斜めに地を蹴って方向転換し加速する。紙一重、爆風を巻き起こしながら徹甲弾が身体のすぐ脇の空間を貫き、荒野を突き抜け大地に突き刺さって文字通り爆砕した。飛び散った破片が勇姫の背中を叩く。
「‥‥簡単には、捕らえられないんだからなっ!」
 捕えられると軽く死ねそうだが、KVに当てる連中だ、避けるのもまた容易くはない。超巨大なHWの背の砲塔が高速で回り、その大口径から焔が吹き出し、鉄塊が次々と極超音速で飛んで来る。四連射。
 勇姫は縮地を連発しながら一発かわして二発目直撃、壮絶な破壊力。装甲と骨が砕ける嫌な音を響かせながらダンプに轢かれたかの如く少年の身が宙へと吹っ飛んでゆく。大砲型はさらに連射し、宙に飛ばされている少年へと二発、三発と追加で砲弾が直撃させて、さらにふっ飛ばされてゆく。勇姫の身体が荒野に叩きつけられ、しかし少年は受け身を取ってすぐに起き上がった。負傷率七割。流石にベテラン、超改造のワームが相手でもそう簡単にはやられない。痛みを堪えつつ再び荒野を駆けてゆく。
 他方、相対距離七〇、銃器型VS、ジーザリオ搭乗、シン・ブラウ・シュッツ。全長一五mを超えるその巨大なワームが両腕の多身砲を向け、壮絶なマズルフラッシュと共に500mlのペットボトルサイズの弾丸を嵐の如く二〇連発猛射。
 シン、素早くハンドルを切る。が、敵の精度は壮絶だ。避けられない。徹甲弾が嵐の如くに車両に襲いかかり一瞬で穴だらけにして爆砕する。次の瞬間、エンジンに引火し超爆発を巻き起こしてジーザリオが爆裂大破四散した。経費で落とせるかどうか経理部の姐御との死闘を予約完了。生き延びたらまた別のバトルだ。シンは爆発前に咄嗟に運転席から転がり出るが、さらにそこへ八〇連発の徹甲弾の嵐が襲いかかり、巨大な砲弾が肩に炸裂して態勢が崩れ、さらに次々に腹、腿、脛へと数十発が直撃してゆき天地が回転して荒野に叩きつけられる。生身の歩兵など塵のように叩き伏せる衝撃力。それでも負傷率七割六分、タフだ。前の戦のダメージが残っている――シン、覚醒で練力が1減って現在の残り17である。弾幕が収まると跳ね上がり二丁の光線銃を抜き放って前進する。
 先頭は藤村とチェラルに入れ替わっている。ドリル、剣豪、大砲、機銃の四機がそちらへと流れてゆく。
「厄介極まりない銃撃だ、そちらは頼むぞと‥‥」
 藤村はドリル型へ、チェラルは機銃型へと向かう。
 翠の肥満がバイクを加速させ鳴神を抜いて前へと出た。射出型が反応してそちらへ流れる。翠の肥満は射出型の射程に入るよりも前にハンドルを切って方向を切り替えHWを吊り出してゆく。
 距離が詰まる。
 ドリル型VS藤村。超巨大な十五mのワームが二本の巨大なワームを振り上げその先端に取り付けられているこれまた大木の幹のように巨大なドリルを螺旋に音をあげて回転させて繰り出す。
 藤村は荒野を駆けながら加速すると右のドリル突きを加速して掻い潜ってかわし、続く左のドリルの薙ぎ払いは後退は控えてる、跳躍は控えてる、体捌きとフットワークでかわすには相手の武器がでかすぎるので、迅雷を発動させて猛加速、斜め前方へと稲妻の如く突き抜けながらかわした。
「簡単なお仕事だ自動人形‥‥風穴開けれれば終わるぞ?」
 銃撃型を対角にするようにドリル型の側面を取った漆黒の男が、構える二刀小太刀を鈍く輝かせながら言った。
 暴風の如くに剣閃を閃かせて五連斬、凶悪な斬撃を叩き込んで火花と共に装甲の破片を周囲へと撒き散らす。全撃命中。
(堅い――が、通るか?)
 既にHWの装甲をも一刀両断、とまではいかないが、削り取る事は可能なレベル。それなりに被害を与えている模様。
 ドリル型は猛烈に赤く輝くと重力を無視した動きで回転しざまに左のドリルで薙ぎ払い、回避先へと追尾しながら右のドリルを振り下ろす。藤村は光の軌跡を宙に曳きながら瞬間移動したが如き速度で薙ぎ払いを掻い潜り、続く振り下ろしには残像を残しながら斜め前へと踏み込んで突き抜ける。黒い男の残像をドリルが貫いてゆき、勢い余って大地を爆砕して土砂を吹き上げる。まったく当てられる気がしない。ドリル型には難し過ぎるお仕事だ。
 他方、チェラルは銃器型へと攻撃を仕掛けんとしていたが、剣豪型に肉薄されて超速の連斬を仕掛けられていた。
 チェラルは一撃目を後方に飛び退いてかわし、二撃目に対してはバイクから飛び降りたアンドレアスが大砲型を射程に入れてタコヤキを掲げて攻性操作を発動、自身と大砲型とを光のラインで結んで操作し剣豪型へと向けて砲撃を撃ち放たせていた。凄まじい衝撃力を秘めた徹甲弾が唸りをあげて飛び、轟音と共に剣豪型に炸裂してFFが展開するもその衝撃で態勢が崩れた。切っ先が逸れた剣豪型の二撃目をチェラルは余裕を持って回避。
 ロジーは翠の肥満を追いかけている射出型へと向かっている。叢雲はアンドレアスの攻性操作に合わせて前に出てその囮になるように剣豪型へと突撃している、アームの関節部を狙って罪人の十字架を構え榴弾を五連射。爆音と共に榴弾が鋭く飛んで三発外れて二発命中。関節部に直撃した榴弾が大爆発を巻き起こして紅蓮の華を咲かせた。
 剣豪型は標的を叢雲へと向き直ると左のアームで薙ぎ払うように大木の程の大きさの超巨大の光の剣を一閃させる。宙を猛然と灼きながら光の極大剣が叢雲へと迫り、叢雲は咄嗟にバイクから飛び降りる。刃が宙へ飛んだ男の半身を掠めて灼きつくしながら抜け、地に落ちた叢雲へとさらに左のアームを振り上げ落雷の如くに振り下ろす。
「そこだっ!」
 側面に詰めていた勇姫が練力を全開に銃突を発動、叢雲の位置を元に軌道を先読みして合わせ大鎌「紫苑」を一閃させる。豪速で振り下ろされるアームへ横手より大鎌が振り下ろされ、その先端が直撃して轟音と共に猛烈な衝撃を巻き起こす。弾かれて光の刃の軌道が逸れ、叢雲は地を転がりながらその一閃を回避しつつ起き上がる。最初に受けた一発で負傷率四割一分。ドリルや爆槍程に一撃必殺ではないがまぁ雪村ですねという程度の破壊力。連続で受けるとちょっと不味い。アンドレアスはエネルギーガンを抜き放つと練成治療を連打。叢雲の身から痛みが引き傷が癒えてゆく。負傷率一分まで回復。練成治療は相変わらず偉大だ。
 ロジーは射出型の近くで戦おうとすると間合いが離れ過ぎになりそうなのでUターン。バイクで荒野を駆けつつエネルギーガンを三連射。光が剣豪型のHWへと向かって飛ぶ。HWは赤く輝きながら素早くスライドしてかわしてかわしてかわす。速い。今回のワームは超改造のワーム。普通にKVとやりあってる連中だ。易くは無いらしい。
 チェラルは機銃型へと瞬天速で入ると練力を全開に残像を発生させる動きで十四連の猛連撃を炸裂させ壮絶な破壊を巻き起こしている。その破壊に動きを鈍らせている所へシンは詰めるとLichtでHWの右のアームへと狙いをつけて五連射。凶悪な破壊力を秘めた光が空を灼いて奔り次々に炸裂して腕を穿ち、そして自重に耐えかねるようにHWの右アームが圧し折れた。KV以上と言われる必殺技程の殲滅力は無いが、通常射撃でも十分凶悪だ。
 他方、VS射出型。翠の肥満は射程ぎりぎりの所をバイクで走行中。鳴神はスノードロップをHWのやや上方へと向け突撃しながら五連射。クラリッサもまた前進、レティはクラリッサと共に前進しつつ鳴神の射撃にタイミングを合わせて貫通弾を装填したシエルクラインを向け百連猛射、弾幕を張る。リン、瞬天速と疾風脚を発動し突っ込む。
 弾丸が唸りをあげて飛び、射出型は赤輝を纏って前進しながらスライドし弾丸の雨をかわすも全てはかわしきれずに穿たれてゆく。
 HWの右側面へと回り込まんとするリンへとHWは素早く回転しつつ左の粘着爆糸のアームを向ける。アッシュ、銃口を狙いたいがHWが横に回転した為、射出口と角度が合わない。
 蜘蛛の糸に似た巨大な爆糸の塊がリンへと四連射され、リンは脚部から光を噴出しつつ駆けて正面から飛来する糸を身を沈めてかわし、斜め前へと跳んでかわし、三発目を身を捻ってかわし、四発目が直撃し、全身が糸の塊に飲み込まれて絡められ速度が落ちる。
 リンは糸を払いつつ急所突きを発動させると貫通弾が込められたショットガンをHWへと向け四連猛射。散弾の嵐がHWへと襲いかかってゆく。HWは鋭く横にスライドして三連の散弾を回避、最後のそれがHWの端へと叩き込まれてゆく。アッシュは強弾撃を発動させるとその付近へと狙いをつけてWI‐01小銃で猛射、弾丸が唸りをあげて飛ぶが、次々と虚空へと抜けてゆく。五発の弾丸のうち一発がHWの装甲に突き刺さった。速い。
 射出型がスライドしながら猛然と爆槍をリンへと向け、間合いを詰めたクラリッサがペンサイズの超機械を翳して攻性操作を発動させた。
 白衣を纏い全身から黄金色の光を発するクラリッサとHWの間を眩く輝く線が繋いだ。女の周囲に浮かぶ映像紋章が目まぐるしく動き出す。
 HWは動きを止めると左のアームを上へと向けると自身へと向けて折り曲げ、そこから白の爆糸を自身へと解き放つ。爆糸がHWの背に付着した。
「微塵に散れ‥‥!」
 動きが止まった瞬間に鳴神がHWの横手より飛び込んだ。鳴神は黒刀を八双に猛撃と剣劇を発動、残像を発生させながら嵐の如く剣閃を奔らせる。黒雷の如く奔った刃の嵐が動きの止まった巨大ワームへと次々に炸裂し、その装甲を壮絶な勢いで斬り裂きながら抜けてゆく。
「千丈の堤、蟻の一穴から崩壊す‥‥って言うでしょ? 生憎と私たちは酷く性質の悪い蟻なのよね!」
 リンもまた動きの止まったHWへと駆けると、先にショットガンの散弾とアッシュの弾丸が突き刺さった辺りへと肉薄する。弾丸に穿たれた穴の一つを狙ってナイフを一閃させて装甲を切り裂く。
 クラリッサはペンサイズ型の超機械とエネルギーガンを取り出しつつ退避を呼び掛け、翠の肥満はバイクを減速させると車体を傾け片足を地面へと伸ばし、土煙を上げながら後輪をスライドさせてUターンし停車する。盾のついた多身砲を構える。跳弾を発動、角度を計算してHWの左腕の筒の中に飛び込む弾道をイメージ、ガトリングシールドで猛射。三〇連の弾丸の嵐が撃ち放たれ、次々に大地に当たって跳ね返りHWの射出口へと襲いかかってゆく。大半が外れて装甲を削り、数発がHWの筒の中へと飛び込んでゆく、が、爆発はしない。弾丸では無理な模様。
「チェッ、爆発はしないか」
 舌打ちし、弾幕をHWへと叩き込んでその装甲に火花を巻き起こしてゆく。
「しっかし、キメラと違って頑丈だね! タマ代をただ無駄にしてるだけなんじゃないかと思えてきちゃうぜ!」
 その装甲の頑強さに舌を巻きつつ言う。
「支援だけが能ではありませんわよ。エレクトロリンカーの名がダテではない事を証明して見せますわね」
 再び攻性操作を発動させてペンサイズの超機械を砕きつつ、エネルギーガンを構えてクラリッサが言った。
 HWは再度自身へとアームを向け、動きが止まっているそれへと鳴神とリンが小銃とショットガンで猛射しながら後退、レティはシエルクラインで、翠の肥満はガトリングシールドで弾幕を張りつつ、アッシュは強弾撃と影撃ちを発動し貫通弾を装填、小銃を構えて鳴神に滅多斬りにされた箇所へと狙いをつけて発砲しぶち抜いた。
 再度粘着爆糸が放たれた瞬間、クラリッサはエネルギーガンのトリガーを引いた。眩い光線が宙を貫いて飛び、爆糸に塗れているHWへと突き刺さる。糸が一瞬で燃え上がり次の瞬間壮絶な超爆発が巻き起こった。爆音と爆風が荒野を揺るがし、HWの装甲が吹き飛んで炎上し、さらに動力部に引火して連続して大爆発を巻き起こしてゆく。浮遊していた巨体が荒野に叩きつけられ、炎上し動かなくなる。撃破。
 大砲型は叢雲の側面へと回り込むと砲撃を発射。叢雲は先手必勝を発動、瞬天速で砲弾の一発を瞬間移動したが如き速度でかわす。特大の徹甲弾が先程男が立っていた空間を貫き、大地に突き刺さって爆砕し土砂を天へと吹き上げる。
 ターゲットが勇姫へと移り、剣豪型がレーザーブレードを一閃させ、大砲型がスライドしつつ砲弾を撃ち放つ。勇姫もまた瞬速縮地を発生させて加速すると間合いを外して剣閃と砲弾を回避。ロジーが二刀小太刀を振るって音速波を巻き起こして剣豪型へと突っ込み、叢雲は急所突きを発動、リロードしつつ十字架銃から榴弾を猛射した。音速波をHWは赤く輝いて横にスライドして回避し、五連の榴弾のうち二発が剣豪型のアームの間接に炸裂し、装甲を削り取る。ロジーは強刃と剣劇を発動、地を蹴って跳躍するとアームの間接部へと二刀を残像を残す動きで嵐の如く閃かせる。銀の小太刀が榴弾の衝撃に揺らぐ間接へと連続で入って強烈な破壊力を炸裂させて圧し折った。次の瞬間、横手から特大の砲弾がロジーへと向かって飛び身に炸裂し鈍い音を発生させながら吹き飛ばしてゆく。すかさず剣豪型が残りの腕一本で追撃の剣閃を振り降ろし、縮地で突っ込んだ勇姫が獣突を発動しながら鎌を一閃させる。一撃が空を切り、大砲型が追撃の二連の砲弾を直撃させてさらに吹き飛ばし、剣豪型が目標を勇姫へと変更して二連の剣閃を閃かせる。縮地を発動させるも間に合わずに斬り裂かれて連撃が勇姫へと直撃し負傷率十二割九分、少年の身が虚空へと吹っ飛ばされてゆく。アンドレアスはエネガンを翳して練成治療を六連打、勇姫の身から痛みが引き細胞が再生してゆく。負傷率九分まで回復。ロジーは宙で身を捌くと足から着地、負傷率三割四分。態勢を立て直すと小太刀を振るって音速波を巻き起こして突っ込んでゆく。凛もまた着地すると縮地で加速し大鎌を構えて突っ込んでゆく。剣豪型は迫り来る音速波をかわし、大鎌の一閃をスライドして回避し、残像を発生させつつ突っ込んで来たロジーの強刃からの剣劇を超高速でバックしてかわす。慣性制御は伊達じゃない。
 他方、ドリル&機銃組。
 藤村はドリル型を機銃型の間に挟まんと左へと回り込みつつ、ドリル型は右へスライドし、機銃型はチェラルからの猛撃を受けて衝撃に動きを鈍らせつつも、左へとスライド、藤村への射線を通し側面へ回り込む。圧倒的な精度の機銃の一本を向けて巨大な弾丸を嵐の如くに猛射。
 藤村は荒野を疾風の如くに駆けながら弾幕の嵐を掻い潜ってゆき、その駆ける先へとドリル型が赤輝を纏いつつ間合いを詰め唸りをあげてドリルの切っ先を繰り出す。藤村は地を蹴って跳躍すると練力を全開に何も無い宙へと小太刀を突き刺し、それを始点に回転しながらさらに跳躍する、回転舞だ。ドリルが虚空を貫き男はドリル型の上へと降り立った。
「さて、どう攻撃する?」
 呟きつつ二体のワームの様子を見る。ドリル型はアームを上に伸ばして間接を曲げ人が背を掻く要領でドリルを突き出し、機銃型もまたアームを上にあげてから関節を曲げ構わず撃った。藤村はワームの背上をかけてドリルの切っ先をかわし、人外魔境のフットワークで身を捌きながら巨大な弾丸の嵐を掻い潜ってゆく。弾幕がドリル型の装甲に激突し赤い障壁が展開した。FFだ。それを貫けない弾丸はあっさりと吹き飛んでゆく。
 藤村は真燕貫突を発動、ワームの背へと連続で刃を突き込み掘り進んでゆく。
(精密機械だ、表面を切るより、奥に損傷を与えた方が有効そうだな)
 男は胸中で呟きつつ弾丸とドリルをかわしながら装甲を除去し中の回路を狙う。強いとか速いとか言うレベルじゃない。何かがおかしい。
 もう一人の何かがおかしいペネトレイターは十四連の猛撃を機銃型へと叩き込み、そこへシンがエネルギーガンで猛射して六連の光線を全弾直撃させ機銃型を爆砕した。撃破。
「まあ、こっちはこっちで大変だけど、上のお二方はどうなっとるかな、と‥‥?」
 翠の肥満が上空へと視線を奔らせると、紺碧の色のロングボウがイビルアイズと共に数千発の小型誘導弾の嵐を解き放って空に超爆裂を巻き起こしていた。強FFを纏った本星型HWが爆炎を裂いて飛び出しイビルアイズへとプロトン砲を六連射して直撃させてゆく。四機のHWもまたそれに続き淡紅色の光線を一機五連で二十連射した。あちらもあちらで派手にやりあっているようだ。
 大砲型が勇姫へと砲弾を撃ち放ち、勇姫は縮地でかわし、ロジーが剣豪型へ斬りつけて剣豪型はかわしざまに五連の剣嵐をロジーへと叩き込み、大砲型が四連の巨大な砲弾を全弾直撃させて女をまた木の葉の如く吹き飛ばしてゆく。負傷率十六割三分。アンドレアスは練力を全開に練成治療を六連打。宙で昏倒していたロジーの傷が癒え、再びその瞳に光が戻る。身を捌いて荒野に着地して負傷率四割三分。練成治療無効化フィールドをバグア軍は開発すべき。
 叢雲が隙を捉えて榴弾で猛射して腕部関節へと三発を直撃させて爆炎を撒き散らし、勇姫が縮地で加速して大鎌で猛攻を仕掛け一発を直撃させ、ロジーが踏み込んで小太刀を振るって一発を直撃させて剣豪型の残ったアームも圧し折った。
 藤村はドリルをかわしながら装甲を除去し、中の回路へと二小太刀を突き刺してさらに奥までを抉り掘り抜いた。漏電が発生して炎が膨れ上がり、藤村は光を纏って加速しワームの背から跳躍した。背後でドリル型ワームが超爆発を巻き起こしながら四散した。撃破。
 チェラルは大砲型へと突っ込むと猛打を与えて動きを鈍らせシンが突撃しながらエネガンで連射し、レティがシエルクラインで翠の肥満がガトリング砲で弾幕を張り、アッシュが強弾撃を継続発動しながら緑色小銃で猛射する。リンが瞬天速で加速して入ってショットガンで散弾を叩き込み、ナイフを突きこんで傷口を広げ、クラリッサが攻性操作を発動して動きを止めつつ剣豪型へと砲弾を発射させつつ、鳴神が肉薄して黒刀を振るって大砲型を斬り刻んで爆砕した。
 アームを失った剣豪型は赤く輝くと加速して体当たりで吹き飛ばさんと攻撃を仕掛けて来たが、勇姫には縮地でかわされ、ロジーは吹き飛ばすも致命打にはならず、逆にカウンターで小太刀を突き込まれて掻きまわされ回路から漏電が発生し、爆裂と共に大破したのだった。




 空の戦いは、それからまだしばらく続いていたが、やがて不破真治と相良裕子が五体のHWを誘導弾の嵐で押し切って撃破した。
 かくて陸上の五機の重HWは撃破され、空の五機のHWもまた撃墜され、朝倉市で暴れ回っていた赤竜軍の残党は掃討されたのだった。
「中佐、新任指揮官へ伝言を頼みたい」
 戦闘の後にレティが言った。
「今回は勝てたが、全ての傭兵に同じ事が出来るとは思わないでもらいたい。無理が利くのが傭兵だが、それを常識にされるのは困る。可能な限り上手く使って欲しい、とな」
「了解した。伝えておこう――承知の上でやってそうな部分もあるので、聞いて貰えるかどうかは解らんが」
 不破真治はそんな事を言ったのだった。




 戦後。
 赤い陽が差す九州K県の墓地。
「村上、アンタが残したモノの行く末、確かめさせて貰うぜ」
 アッシュ・リーゲンは日本酒を手に村上顕家の墓を訪れていた。栓を開き、墓石へと酒をかけながら言う。
「いずれ俺もそっちに行く、それまで先に飲っててくれ、ゆっくりとな‥‥」
「ま、のんびり行け。あんまり早くに行くと尋ね人はそこにはいねぇぜ」
 だるそうな声が響いた。アッシュが振り向くと、どこかくたびれた造作の壮年の男が禁煙パイプを咥えて立っていた。
「良い墓だろ? なかなか気に入ってるんだ」
「アンタ」
「まだ姿を見せるつもりはなかったんだが、マァ墓の前まで来られちゃ仕方ねぇ、こいつはオフレコだぜ傭兵屋」
 趣味が悪いとアッシュが言うと男はクッと喉で笑った。
「悪党ってのはしぶといんだ。不正で処刑された人間が二階級特進なんてするものかね? ま、あのまま赤竜軍の影響力が維持されたらヤバかったがな‥‥だがルウェリンは死んだ」
 風見鶏はくるくる回る、と男は言った。
 幾つか言葉を交わしてから男はアッシュへと言った。
「不破の野郎、最後の最後で蹴りやがったようだが、赤竜軍は壊滅し春日もアレだ、後は遠藤でもなんとかなるだろう。悪の栄えた試し無しとな。汚い事には無理が出る。既に土台が出来たのなら、後は綺麗な連中に渡した方が長い目で見れば良い。死人は墓から出ちゃあいかん――もっとも、お前さんとはもしかしたらまた何処かで会うかもしれないがな」
 男はアッシュ・リーゲンへとそう述べると赤く染まった境内へと消えて行った。
 カラスが鳴いて鐘の音が遠くに響き渡っている。



 了