タイトル:【BK】風の終着点マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/05 12:10

●オープニング本文


 冬の九州、西園寺燐火は常の狩衣ではなく、黒の喪服に着替えて一つの墓の前に立っていた。
 黒い墓石には線香に備えられて火が灯されて白い煙があがっていた。
「兄さん‥‥」
 燐火は呟き、白煙に目を細めて閉じた。少し、目に染みた。
 拝んでいると不意に背後に気配を感じた。
「なるほど、これが俺の墓か」
 聞き覚えがあった。
「‥‥?!」
 振り返る。
「よぉチビ」
 何処かくたびれた壮年の男が、そこには立っていた。
「あ、悪霊退散ッ?!」
「幽霊なんて居るかよタコ」
「兄さん、処刑されたんじゃ‥‥っ?!」
「ま、正直、あのまま赤竜軍の影響力が健在ならヤバかったがね。風見鶏はクルクル廻る、とな」
「‥‥‥し、しぶとい」
「悪党はなかなか死なねぇんだよ。UPC准将は死んだがな」
「なんて野郎だ」
「さて、今の俺には名前が無い」
「はぁ」
「なんか適当なのあるか?」
「‥‥西園寺に戻す?」
「却下」
「それじゃあ北畠」
「却下」
「アッキー・ムラカーミ」
「全国の山田さんには申し訳ないが山田太郎にしておくか。俺が悪の大ボスだ。手始めに一家揃って俺を舐めている西園寺家を潰す」
「だー、もうっ、じゃあ顕家と山田からとって秋山とかどう」
「秋山か、どっかに騎兵の父で参謀とか居たナ。偉大な先人にあやかるのも悪くない。それにしよう」
「名前は」
「そうさな、正成とでも名乗っておくか」
「まさしげ?」
「まさしげに、とな」
「はぁ、何処で何をしてた人なんだか」
「バグア軍との海戦で島に流れ着いて記憶が所々喪失しているんだ。元は兵士らしい。そんな調子で南へ渡ろう、図南鵬翼。二度と会う事もあるまい」
「‥‥九州は?」
「俺はもういない方が良い。面倒な事になる。UPCが押してるし、うちの旅団も遠藤と不破の野郎が生きてりゃなんとかなるだろう」
「そう」
「亜里抄サンにヨロシク、ついでに平蔵のハゲにはとっととクタバレって言っといてくれ」
「‥‥良い歳して、何時まで経っても大人げない。兄さんってエターナル中二病なの、ほんとに准将とかやってたの、信じられない、最後まで駄目おっさんの駄目兄貴だ」
「そら悪かった。あばよ、お前も達者で暮らせ」
「まったく、もうっ!! どーすんだよこのお墓ーッ!!」


 五月。東南アジア、治安の悪い街の一角、空きビルであったその少し古びた建物に、何時の間にやら外国の会社が入って来ていた。
 企業名は『秋山警備保障』、対人からキメラまであらゆるガードを請け負っている会社らしい――というのが表向きで、裏では早速何かやってんじゃないか? という噂が広がりつつある会社である。
 そんなビルの中の社長室、例に拠って黒いグラスをかけ執務席に腰を降ろしている壮年の男がいた。左右には民族服に身を包んだ女と、筋骨隆々の剃髪の巨漢が並んでいる。他にも得体のしれない男達が十数人、部屋の内外でたむろっていた。会社というよりゴロツキの溜まり場である。だがゴロツキと違うのは、皆、隙だらけに見えてそうではないという事。能力者だ、と解る。それも正規の訓練を受けている者達。
「初めまして、俺は秋山正成という。よく来てくれたァ」
 何処かくたびれた雰囲気の男が言った。この男が社長であるらしい。
「今回は仕事の依頼だ。報酬は弾むが、それなりに腕が必要だ――ULT傭兵ならどうとでもなるとは思うがな」
 男は言った。
「東南アジアにはゼット運輸という表向きは運送会社だが、実態は海賊だという性質の悪い連中がいる。これには皆、大変迷惑している。バグアとも繋がりがある連中でな、なんと慣性制御装置を譲り受けたというんだ。嘘か本当か正確な所は解らないが、本当だったら海賊船が空飛ぶとか地域の迷惑極まりないだろう? 奴等がバグアから譲り受けた『装置』を自分達の船でも使えるようにと、いじくりまわしてるアジトの場所は先日掴んだ。お前等にはそれを潰してもらいたい」
 秋山は言う。
「しかし俺も鬼じゃねぇからな。連中の生死は不問で良い。必ずしも殺さなくて良い。捕縛してUPCにでも突き出せば追加報酬もあるだろうし、逃したら逃したらで連中の使い道はある。何処へ転んでも地獄にご招待してやるさ。だが、奴等も手練だ。手心加えてるとお前等の方の首が飛ぶかもしれん。だからどう動くかはお前達の好きにして良い。だが、奴等がバグア側から譲り受けた『装置』、こいつだけは必ず破壊しろ。綺麗事を言う訳じゃないが、海賊がアレを持つのは真実不味い。奴等の魚雷艇ごと必ず爆砕しろ。『装置』がどんな形しているのかわかれば切りとって自分等で使う手もあるが、まぁ形が解らん。自爆装置はあるだろうから下手に欲かくと自分達が巻き込まれてボンッってな事にもなりえる。怪我したくなけりゃ遠間から船ごと沈めな。沈めた後に水中武器でさらに粉砕だ。うちからも二名人員を出す。最初にも言ったが、危険な仕事だ。しかし報酬は弾もう。やるかい?」





■作戦
 太平洋に浮かぶ某島の海辺の洞穴に在る海賊のアジトを夜明け刻に襲撃します。目的は慣性制御装置の取り付けが進められているボートの破壊です。

 希望すれば非SESの狙撃銃を借り受ける事が出来ます。優れた技量の持ち主なら1.5キロm程度の射程で狙撃可能です。しかし能力者に対した場合、その破壊力は無力に近いです。

●簡易MAP

海海海海
■■▲■海
■■★■■海
■■▼■■■海
□□□□□□□海
□□□□□□□□海
←↓陸

■は岩山
▲には船で入る入江型の入り口があります。海水が満ちている為、歩いては侵入できません。
▼には普通に陸から歩いて入る型の入り口があります。
▲から★、▼にかけて洞穴で海賊達のアジトとなります。
□は草原です。青々とした膝丈程度の草花が一面に生い茂っています。

秋山からの情報によると、南北の入り口にはそれぞれ監視カメラが三台づつ、岩肌に巧妙にカモフラージュされて備え付けられているようです。
アジトの内部には電気が引かれていて監視室、休憩室、調理&ダイニング、倉庫、ドッグ等の部屋があり、細い通路で各部屋が結ばれているらしい。道幅は平均5m程度。

●アジト簡易MAP
■■■■■海■
■■■■■海■
■■■☆船海■
■■■□■■■
?休II★II倉?
■=■□■=■
■調II□II監■
■■■□■■■
■■■☆■■■
草原

「■」は岩壁
「□」は通路
「I」「―」 木製の普通のドア
「?」「☆」「★」 不明
入り口の監視カメラは別

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

 南国の島々だ。
 陽の光に煌めく翡翠の海が広がっている。ここは赤道付近、東南アジア。
 船上のアッシュ・リーゲン(ga3804)は船室で煙を燻らせつつ、警備保障のビルでのやり取りを思い出していた。
「初めまして、アッキーヤマさん、ヨロシクお願い致します」
 最初にビルでその男と会った時、アッシュはワザとらしく述べて右手を差し出した。その社長らしき男は「ああ、初めまして。よろしく頼むぜ、傭兵屋」と握手をしながらヌケヌケと答えてみせた。傍らに立つ大男は表情を変えなかった。何故なら初対面だからである。民族服姿の女が「こいつらは」とでも言いそうな表情で男達のやりとりを見ていた。
「どこかで見た顔が依頼者側にも相手側にもいるとは‥‥縁とは奇妙な物ですね」
 船室、席に腰かけている鳴神 伊織(ga0421)が言った。相変わらずの着物姿――ではなく、ダイバースーツに身を包んでいる。ビルで見た海賊達の写真、その顔ぶれは知っている。それは依頼人の側もだった。
「昨日の味方が今日の敵‥‥因果な商売ですねぇ」
 叢雲(ga2494)が苦笑していった。依頼人達もどうも臭うというか、あの空気には覚えがあった。幾つか見た顔もある。
「言っただろ。本気で暴くなら付き合う、ってよ」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)が言った。視線の先には翠の瞳の女の姿があった。ラナライエル・ミレニオン。
「これが最後かは判んねぇけど、あんたは見届けていい。エスコートさせて貰うぜ」
 金髪の男はそう言った。
「‥‥有難うございます」
 若い女はそう言って頭を下げた。相変わらず平坦な口調だったが、少し瞳が揺れていた。
「今は俺よりか真実に近い場所にいるみてぇだがな。社長さん、どっかで見たツラだ。いや、誰とは言わねぇけどな」
 男は言った。
「‥‥気紛れでしょう。解らないんです、何かを考えているのか、彼等が」
 とラナ。
「知人でも何でもねぇけど、生きててくれて良かったと思う」
「そう、ですか‥‥」
 女はそう言って目を伏せた。
(‥‥例の地下闘技場絡み、ですか)
 そんな中、斑鳩・八雲(ga8672)は相変わらずの微笑を浮かべて思っていた。叢雲も言っていたが思う。
(因果ですね)
 風が、吹いていた。
 誰かが言った。運命は風に流れる白雲であり旅人、忘れ去られた麗歌の旋律のように、青空を彼方へと漂って行く。
 辿り着く場所は、何処か。


 夜明け前。某島付近。
「別に怨みはありませんが、彼らもやり過ぎた‥‥という事でしょう」
 紺碧の薄闇の中で鳴神が呟いた。刀のSES機関に水が入らない様にビニルで包みエアタンクを背負う。咽頭マイクを首に巻いていた。付近では同様にダイバースーツを着込んだ斑鳩と秋山警備から来た女が準備していた。風宮のタンクはアッシュが手配したようだ。海から行く。アッシュは他に閃光手榴弾等も渡し作戦を打ち合わせておいた。
「海賊っつと俺も同族みてぇなモンだけどな、血筋的にな」
 デンマーク出身の男の声が無線から流れて来た。国籍通りにデーン人の末裔なのだろうか、と鳴神はふと思った。あちらは陸側だ。叢雲が言ってオペレーターのラナが無線で海陸の互いの位置をまとめて連絡している。海側のメンバーが鳴神、斑鳩、風宮で陸側はアンドレアス、叢雲、アッシュ、バーグラフである。
 傭兵達が立てた基本的な作戦は、海を本命に陸側から先にアジトに侵入、注意を引きつけつつ殲滅を目指す、というものだった。挟撃である。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
 海面に入る際に斑鳩が言った。海班の三名が海中を潜行し陸班の四名が草原に伏せる。ほぼ同時に進行予定だが、陸側が注意を惹きつける、との事なので陸側は近づいての電子魔術師よりも狙撃で先に仕掛ける事とした。電子魔術師は射程が短い。死角から接近する方法もあったが、カメラの視野範囲が確実には判明していない為狙撃でゆく事になった。
 海側、潜行しながら入江の洞穴へと侵入する。紺碧の海の底は、さほど深くはなかったが、暗闇だった。発信機から位置情報は出ているのでオペレーターのナビゲートに従って進んだ。しかし、海中から海面を見上げたが陸の監視カメラの位置は海中からでは目視は出来なかった。秋山からの情報では海側は陸の岩壁に二台、海中に一台で計三台らしい。敵のカメラが海中を見通せないなら、そのまま潜って抜けてしまえば良さそうだったが――さて、どうか。いずれにせよ海中からでは陸上のものへは手を出せない。合図と共に潰す為に適当な距離を取って海中で待機する。
 他方、叢雲はラナからの無線で全員が配置についた事を確認すると岩壁にある洞穴に目を凝らした。事前情報に拠れば、監視カメラが三台あるという事だ。位置も知らされている。だが視えなかった。岩肌にカモフラージュされているらしく遠間ではよく見えなかった。無線に連絡を飛ばしつつ隠密潜行を発動させて接近する。東の空が燃え紺碧と混ざって空を照らし、草原もうっすらと照らしてゆく、夜明けだ。光と闇が混ざる刻、黒い男がそれに紛れて接近する。
 やがて、叢雲の眼は岩肌に巧妙にカモフラージュされているレンズを捉えた。距離六〇、十字架銃の射程まで詰める。狙いを定める。アンドレアスが閃光弾を空へと放った。合図だ。オペレーターが無線で挟撃の始動を述べた。叢雲、速射。銃声が轟き次々に破壊音があがって三台のカメラが次々に破壊された。
「頼むぜエースども」
 男は言って練成超強化をバーグラフへとかけ、アジトへと侵入する。壁と床に仕掛けがないか注意を払う。入ってすぐに目の前の天井から轟音と共に道幅一杯、分厚い金属の塊が降りて来た。隔壁だ。
 アンドレアス、電子魔術師を発動、ここの隔壁は極めて原子的な造りだと直感した。制御板らしきものも見当たらない。恐らくは監視室からの操作しか受け付けないのだろう。電子的に外部から侵入して制御するのは難しそうだ。
「滑り込め!」
 男は言って加速する。隔壁が降り切る前に強引に突破せんとする。決断力と敏捷力の勝負。予め、無理そうな場合は強引に突っ込むと決めてかかっていたので判断は速かった。
 陸上班の四人は軋みをあげて降りる金属の壁が地につくよりも前に隙間を潜るようにして転がりこむ。アンドレアス、バーグラフ、叢雲、アッシュの順で隔壁をくぐり、アッシュが地を転がって抜けた次の瞬間に、金属の分厚い壁が轟音と共に土煙りをあけて大地に激突した。
「分断、は阻止できたが、退路が絶たれたな」
 バーグラフの声が響いた。


 一方の海側、合図と共に死角と予想される箇所から接近し風宮が電磁嵐を海中のカメラらしき陰へと発生させた。爆発が起こって破壊される。
 斑鳩、鳴神、風宮の三名はそのまま海中を潜航しながら洞窟の内部へと侵入した。
 比較的透明度は高い。左右に洞穴の岩壁が見えた。キメラなどの姿はなく、トラップ等もないようだった。
 オペレーターからの無線、陸側で隔壁が作動したらしい。斑鳩、鳴神、考える。センサーで引っかかったものに反応して作動等の可能性もあるが、居住空間として往来の頻繁な場所だとするなら、手動か、もしくは緊急体制に切り替えた、そんな所か。
 魚雷艇らしきものの下へと到着する。駆動音が聞こえる。ボートのエンジンに火が入れられた。しかし、敵はまだ動く様子がなかった。
 鳴神は離れて海中で待機し、斑鳩と風宮が上陸し船の奪取を試みるべくボートへと走る。
 岩の通路を駆けて甲板へと渡り、抜刀し盾を構えると慎重に船の内部へと侵入する。
 斑鳩が船室のドアを開き踏み込んだ瞬間、正面から弾幕の嵐が襲いかかり、横合いから頭部を狙って蛍火が一閃させた。
 斑鳩、警戒している。盾を構えて弾丸を受けつつ身を引いて蛍火をかわす。横に動いて射線を切ると風宮から練成治療が飛んで来た。衝撃による痛みが消えてゆく。
「きたぞ」
 硬質な男の声が聞こえた。
「あと三分」
「切り捨てろ。出せ!」
「折角作ったのになぁ。勘弁してもらいたいね。まったく‥‥!」
 斑鳩、敵の叫びを聞きつつ状況を把握せんとする。
(扉の向こう、少なくとも二人)
 キルゾーン、踏み込むには危険だ。しかし、男は相変わらずの微笑のまま練力を全開に解き放った。攻める。乗るか反るか、割と鉄火場を好む男だ。
 斑鳩が無線に状況を述べつつ風宮に合図を出す。女はアッシュから預けられていた閃光手榴弾を投げ込んだ。次の瞬間に轟音と共に閃光が爆裂する。斑鳩、猛撃を発動、開かれた扉の前に飛び出すと同時に音速波を打ち放ち、踏み込む。
 銃を持った男が飛び退き、蛍火を装備した男が横合いから詰めて来た。一撃、太刀で弾かんと掲げる。初撃を撃ち落とし、続く連撃も打ち落とす。閃光が効いているが、高速の三撃目、命中、血飛沫が散る。さらに猛連撃が繰り出されてゆく、敵も手練だ。
 ボートが動き始め、海中、鳴神は水中剣アロンダイトを作動させて水の刃を出現させると練力を全開に剣の紋章を刃へと吸収させエネルギーを極限まで集中させて振り抜いた。激流が逆巻き、凄まじい勢いで船底へと突き進んでゆく。ソニックブームだ。水が唸りをあげて船底に炸裂し、メトロニウム製のそれが轟音と共に陥没し、大穴が生じる。
 船はしかし止まらずそのまま走り続けたが、鳴神はすれ違いざまに水刃を一閃させスクリューを断ち切った。


 陸側より侵入した四名はボートを目指してアジド内を駆ける。不意に通路の左右より銃弾と光線が嵐のように襲いかかって来た。先頭のバーグラフへと集中して射撃が襲いかかる。巨漢は大盾を構えて集中射撃を堪え、叢雲は跳弾を発動させると十字架銃で猛射、アッシュもまた最前列へと出つつ強弾撃、影撃ち、跳弾を発動させてWI‐01小銃で光線が飛んで来た方を狙って発砲する。放たれた弾丸が壁に命中して跳ね、十字路の右通路の陰に居る射手へと襲いかかってゆく。小さく女の悲鳴があがった。アンドレアスはエネガンを手にバーグラフへと練成治療を発動させ、バーグラフは足を止めると大盾で防御を固めながら脇から小銃で撃ち返した。
「くそっ、テメェラか!」
 野太い男の声が響いた。
「やれやれ。お互い因果なものですねぇ。いつぞやの『BK』以来ですか?」
 叢雲が射撃しながら言った。相手の声に聞き覚えがある。社長のアルファとかいうのだろう。
「何処に雇われた?」
「ご想像にお任せします」
 その叢雲の言葉には別の声が答えた。
「舐めやがって、ぶっ殺す!!」
 通路の陰から二丁拳銃を構えた青年が身を乗り出し猛連射し、バーグラフがそれを狙って射撃する。叢雲の身から血飛沫があがり、青年の身からも血飛沫が噴出した。
 アンドレアスは練成治療を発動、叢雲はアッシュと共にさらに跳弾で射撃「勝負しねぇか、お嬢さん」アンドレアスもまた右通路へと目がけて光線を撃ち放った。
(エネガン撃ちあったらどっちが勝つかねぇ?)
 なーんてな、などと思いつつ注意ひきつけられたら味方の攻撃機会が増えると考える。
「良いでしょう、勝負ですお兄さん!」
 エルダとか言った女からはそんな声が返って来た。と同時、通路の陰からエネルギーガンの銃口だけが出されて光を爆裂させた。アンドレアスは横に動いて乱れ撃ちされる光線をかわしつつ光線を撃ち返す。
 石の通路に何かが転がった。
「フラッシュバン!」
 アッシュが叫ぶと同時、閃光と爆音が通路を襲った。
 弾幕が消える。
 バーグラフとアッシュが注意深く盾を構え、叢雲とアンドレアスもそれぞれ銃を手に次に敵が顔を出した瞬間を待ち受ける。
 一秒、二秒と時が過ぎてゆく。しかし、数秒待っても再び敵が通路から顔を出す事はなかった。
「右へいく。援護してくれ」
 バーグラフが言って、叢雲が弾幕で左通路の方へと弾丸をばらまいている間に盾を構えて前進する。アッシュ、アンドレスもそれに続いた。
 扉があけ放たれた左右の通路を覗きこむと、ちょうど最後尾であろうワイシャツ姿の女が奥の通路の角を北へと曲がった所が見えた。


「やるな」
「なんて事してくれる!」
 激しく傾き沈みゆく船内、斑鳩と蛍火の男が激しく斬撃と斬撃を応酬し、小銃を構えた男と風宮が激しく撃ち合う。船の奥の方から白衣を纏った男がケースを抱えて出て来て、声と共に閃光手榴弾を投擲した。爆音と共に光が炸裂し、瞬間、蛍火の男は斑鳩を突き飛ばし、風宮も体当たりして転ばせて傾く船室の隅へと押しやると甲板の方へと駆けてゆく。銃の男と白衣の男がそれに続き、斑鳩が太刀を一閃させてその背へと音速衝撃波を飛ばした。一撃は見事に命中し白衣の男が崩れかけたが、超機械が駆動して男はまたもとの加速を取り戻して船内から脱出して行った。
 鳴神が海上から洞穴内の通路からあがった時、三人の海賊達が沈みゆく船の甲板から次々に洞穴の桟橋へと跳躍していっていた。そのまま駆けてゆく。見逃すつもりはないので、太刀を取り出しビニルを払い練力を全開に猛烈な衝撃波を連射する。白衣をまとった男の背に次々に壮絶な破壊が炸裂し、しかし男は練成治療を連射しながら堪え、駆けて行った。


 陸側と海側も双方共に後を追ったが、双方共に海賊達の姿を再び捉える事は出来なかった。
 陸側メンバーが調べた所、休憩室と倉庫に脱出用の隠し通路が存在しており、そこから海賊達は逃げた様子だった。ちなみに海側のメンバーの先頭は北側の十字路に足を踏み入れた瞬間に底が抜け、落とし穴に落ちていた。
 救助された後に海側のメンバーは再びボートの場所へと戻ると、これを徹底的に破壊した。
 後の秋山社の調べでは装置の大部分はボートと共に破壊されたが、コアとなる部分が持ち去られた形跡がある、との事だった。




 了