タイトル:鉄筋買い付けの護衛?マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/06 15:44

●オープニング本文


 コンクリートのブロックの上にジュースの缶を置きおよそ七十メートルほど距離をとる。
 振り返り、片膝をつき腕を伸ばして狙撃銃を構える。
 息を止め、狙いをつけ、引き金をひいて発砲。轟く銃声と共に放たれた弾丸は空き缶に直撃し吹き飛ばした。
 僕はその光景を見て嘆息した。
「んー、当たったじゃないか。なんで溜息なんてついてるんだい?」
 声に振り替えると金髪碧眼の中尉殿がいた。
 ここは吹き荒ぶ荒野の果ての果て。砂塵舞い上がるインドの辺境。流れる川の彼方へゆかんと鉄の大橋を絶賛建設中の工事現場さ。
「練習で外れるのなら納得がいくんだ」
 僕はディアドラ中尉にヤマト君とカタカナっぽく呼ばれ続ける山門浩志、十五歳。ちょっと前までは日本の中学校に通っていた筈なんだけど巡り巡って今じゃUPC軍の兵士だ。
「練習じゃあ当たるのに、なんで実戦だと当たらないわけ?」
 あまりの当たらなさ具合に最近ちょっと泣きそうだ。
「気合が足りないんじゃないか?」
 と中尉。
 気合一つで当てられれば苦労はないと思うんだけど、でも僕に気合が足りてるかといえば疑問なわけで、やっぱ気合が足りてないから当たらないのかなぁ?
 僕が俯き加減に思考の沼に浸かっていると慌てたように中尉が言った。
「うそうそ、冗談だって! ヤマト君は気合は足りてるよ。いざっていう時には結構勇気あるし、何より落ち着いてるしさ」
「じゃあ、なんで当たらないの?」
「んー‥‥」
 ディアドラはこめかみの辺りに指をあてて視線を巡らせ、
「運がないから?」
 気合よりももっと嫌な答えをくださった。運なんてどーしろってのさ。
「まーとにかくヤマト君、お仕事の時間だ」
「仕事?」
 どうせなら任務って言って欲しいなぁなんて思いつつ、
「どうも鉄筋技能士さんのお話しによると橋を作る為の鉄骨が足りてなかったんだって」
「足りてなかったってどういうこと?」
「発注は正しかった。けれども検品が正しくなかった。ちょろまかされたんだな」
 ディアドラの言によれば割と結構あることらしい。
「おやっさんの話じゃ数が少なくてもなんとか出来なくもないって話だけど、強度に不安が残っちゃあ勿体ないだろう? そういう訳で君、これから近場の街へ行って鉄筋買い付けてくるぞ」
「買い付けって僕達が?」
「道中キメラが出るだろう? おやっさん達だけじゃ行かせられない。護衛が必要だろう、という訳だ」
 なるほど、一応筋は通っている。
 だけどディアドラが妙に楽しそうなんだよなぁ。
「ディアドラ‥‥なんか隠してない?」
「べ、別にぃ? 街に新しく料理が美味いと評判の食堂が出来たらしいからついでに飲み食いしてこようなんてこれっぽっちも考えてないぞ!」
「食べてくるんだね」
「偶には美味しいもの食べたい!」
 子供かアンタは。
「大体ディアドラはこの間休暇とって街いったばっかじゃん」
「ヤマト君‥‥」
 ディアドラは解ってないな、とばかりに嘆息すると言った。
「オネーさんがキミに良い言葉をおしえたげよう」
「良い言葉?」
「軍隊用語にこういうものがある‥‥そう、『そこはそれ、これはこれ』と!」
 絶対に軍隊用語じゃないと思います。
「真面目だなぁヤマト君は。それじゃー君は食べにはいかないんだね? 折角おごってあげようかと思ってたのに」
 奢り、それは至高の言葉であると死んだひいじいちゃんが言っていた。
 僕は嘆息し、一つ首をふると、
「ディアドラ‥‥僕の国にこういう言葉があるんだ」
 真っ直ぐにディアドラを見据えて言った。
「『腹が減っては戦は出来ぬ』」
「ヤマト君は中途半端に真面目だなぁ」
 ほっとけ。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA

●リプレイ本文


 インドの外れにある某街。
 様々な文化がごった煮になった夜の街、その食堂は木造りの建物でなかなか広く、円形の卓が一定の間隔で並べ置かれ、仕事帰りらしき人々でそれなりの混雑をみせていた。
「何て素敵な仕事だろう」
 がやがやという食堂の喧騒の中、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が呟いた。タダ飯が食べられて、タダ酒が飲め、仲間の芸をタダで見物することができる。仕事の合間の息抜きにはちょうど良い。
「日本にはこんな言葉があります。『据え膳食わねば男の恥じ』お腹一杯ごちそうになりますよー」
 着物姿の美少女? である鏑木 硯(ga0280)が卓につきつつ笑って言う。
「は、は、は、遠慮はいらないぜお嬢ちゃん、どーんと来なさい」
 金髪の中尉が胸を張って答える。
「サクっと護衛後にゃタダ飯とは、流石尉官」
 とシーヴ・フェルセン(ga5638)。
「三途のリバーには持っていけないからねー、使えるところで使わないと」
「ディアドラ中尉出っ腹‥‥じゃねぇ、太っ腹でやがるです」
「‥‥シーヴ、それは人によってはとても危険な言い間違いだぞ君」
 幾分顔をひきつらせてディアドラが言った。
「そういえばこの前体重が一キロ増えたとか嘆いてましたもんね」
「沈黙は金と言う言葉を知らないのかな君は、このこのっ」
 メニューで叩き倒されるヤマト少年。
「またヤマト殿‥‥普段もそんな調子で姉さんに迷惑かけてないだろうな?」
 さりげなくディアドラの隣の席を確保した皐月・B・マイア(ga5514)が言った。
(「い、何時の間に。じゃなくて、主にかけられてるのは、僕の方だと思うんですけど」)
 少年は胸中で叫んでいた。ありえない、何故この少女はうちの上官殿を敬愛し続けられるのだろう?
「ディアドラ‥‥一体どんなトリック使ったんだい?」
「失敬な。人徳とゆー奴だよ君。私達は既に仲良しさんなのだ」
 ねーなどと言いつつ中尉は上機嫌にマイアに話しかけている。一体この前何があったのか、それは神ですら解らない。
 首を傾げているヤマトにシーヴが耳打ちする。
「皐月は未だ中尉の付き人だと思ってやがるようで‥‥逞しく生きやがれです、ヤマト」
「付き人‥‥って僕がかいっ?」
 愕然とするヤマトの肩をシーヴはぽんと叩いたのだった。

●乾杯しましょう
「最初はやはりビールで。黒ビールあったら嬉しいのですけど‥‥あるかな」
 レーゲン・シュナイダー(ga4458)がメニューと睨めっこしている。
「あ、黒ビールならさっきメニューの端にありましたよ」
 私もビールにしようかしらと呟きつつ竜王 まり絵(ga5231)。
「あ、そうですか? じゃあ私は黒ビールで。あとインドで一般的なカレーをチャパティで頂きたいです。あ、でもでも、ナンも捨てがたいです。迷います‥‥どっちがお勧めですか?」
 それに少年が言う。
「ナンのが良いんじゃないですか? ナンとなく」
「‥‥ヤマトさん、春先の木漏れ日がブリザードです。季節が冬に逆戻りですよ」
 レーゲン思わず眼鏡がずり落ちるの図である。
「本当に何でもあるんだな‥‥あ、姉さんは何を頼む?」
「何にしようかなー、これだけあると逆に迷うな」
「そういえば大概のモンは食えるっつー話ですが、流石にシュールストレミング料理はねぇです?」
「シュールストレミング?」
 がやがやと各自料理や飲み物を注文する。一通りグラスが行き渡った所でフェブ・ル・アール(ga0655)が言った。
「では中尉殿、お一つ音頭など取って頂ければ嬉しくあります」
「音頭?」
「他の皆も、何か乾杯したい物があったら言うといいにゃー」
「ああ、乾杯の挨拶か‥‥うーん、指名されては仕方ない、それじゃあ一つ」
 言いつつディアドラはグラスを手に持ち立ち上がり、
「えー皆さん、本日はお疲れ様です。ご指名により僭越ながら私、ディアドラが乾杯の音頭を取らせていただきます。
 近頃ではキメラやらバグアやらめっきりヤな感じの世の中になっておりますが、そんな中でも我々は図太く生き抜いております。皆さんとあれば、これからもきっと愉快にやってゆけると私は確信しております。という訳で今夜も愉しくやりましょう。各自、杯を捧げるものを列挙の後、乾杯をご唱和願います。では一番、ヤマト君から」
「え、僕ですかっ? えーと、それじゃ健康に」
「んじゃ俺は出会いに」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)が言った。
「鉄筋護衛の成功と、素敵な方々との出会いに」
 とレーゲン。
「線香の昆布汁と、我々の武運を祈って」
 とフェヴ。
「シーヴはヤマトの有るやら無ぇやらの運に」
 とフェルセン。他の一同も次々に述べてゆく。
 全員が言い終えるのを確認すると、最後にディアドラが言った。
「愛すべき戦友達と、今という刻に杯を捧げよう、乾杯!」
『乾杯!』
 声と共にグラスをあげ、口をつける。一気に飲み干す者、半分程まで飲む者、少し口を濡らす程度の者、様々だ。
「ん、シーヴ、どうしたんだ? そんな顔して」
 ディアドラが問いかける。
 常の無表情の中に何ともいえぬ微妙そうな色合いを浮かべて少女は言った。
「普通と言うほどまっとうでもなく、変と言うほど変でもねぇ、微妙どころでした」
「もっとおかしなの期待してたのか?」
 こくりと頷くシーヴ。
「ふふふ、御免なー、一応、隊長だからね。TPOは弁えないと」
 あくまでこの中尉アレな感じであるらしい。一言では表わしづらいテンションだ。
 一方卓の反対側では、
「ところでフェブさん昆布汁ってなんですか?」
 鏑木が眼鏡姐さんに問いかけていた。
 グラスを片手にフェブ・ル・アール答えて曰く、
「いや、話せば長くなるんだがー。オーストラリアに、そんな異名を持つ凄腕のゲリラがいたのにゃー」
「なんだか良いダシとれそうなゲリラですね」
「いやぁあれは煮ても焼いても喰えないんじゃないかな? しかし、元気してるかなー? 昆布汁」
 間違った異名とはこうして広まってゆくものらしい。多分、そのゲリラは変更された異名に黄昏ていることだろう。

●宴会だ、よろしい、ならば宴会だ
「胃壁をアルコールから守りましょう」
 良い感じに酔いが回ってきた頃合いで竜王がディアドラの前にドンと白色の液体が入ったコップをおいた。
「これは‥‥ヨーグルト?」
「いいえケフィアです」
「ミ、ミレニアムな響きだなぁ」
「牛乳嫌い?」
「いやそういう訳じゃないんだが、というかこれはケフィアなのでは」
「大きくなれませんよ?」
「私は既に十分な気がするんだがなぁ、えーと」
 竜王まり絵、かなり天然であるらしい。

「今日は姉さんに、とっておきの演奏を聴かせたくて‥‥その、聴いてくれる‥‥?」
 スパニッシュギターを持ってマイアが言った。
「おぉ、ギター弾けるのかい。踊りと音楽やってるとは聞いてたけど‥‥凄いなぁ。私は、そういうの、さっぱりだからね」
 ディアドラはうぉっほんと咳払いすると、にひっと笑い、
「それじゃー楽士殿、是非聴かせてくれ、最高の奴を頼むよ?」
 偉ぶって言ってみせた。
 少女は頷くとギターを弾く為の準備を整え構えた。
 一拍の間の後に流れるように響く弦の音。フランドルのバイレ、明るく躍動感に溢れる舞踏の曲だ。
 マイアの指先は鮮やかに動く。超一流とまではいかないが、優れた演奏だ。地中海の青い空と吹き渡る風が脳裏に浮かぶようだった。
 曲が終わると拍手が鳴り響いた。メンバーだけではなく、食堂の他の客も拍手している。
「‥‥どうだった?」
「最高だった!」
 中尉は親指を上げ片目を瞑って言った。
 そんな中、不意にアッシュがマイアに問いかけた。
「一曲、リクエストしても良いか?」

●舞刃
 彼等は軽く打ち合わせるとそれを始めた。
「気の弱いヤツは目ぇ隠しといた方が良いぜ?」
 アッシュが言った。
「射撃系だと予想はしていたが‥‥」
 ホアキン・デ・ラ・ロサは酒場の壁際に立ち、両手と頭の上に林檎を乗せていた。
「動かすんじゃねぇぞ、特に頭、な」
 アッシュは布を自身の目が隠れるように結びながら言った。
 抜き放つのはナイフ。指の間に挟む四つの刃。記憶のみで撃ち抜こうというのか。
「良いぜ、始めてくれ」
 マイアの指先が踊る。弦楽器の調べが酒場に響き渡った。曲は徐々に徐々に激しくなってゆく。
 一際強く少女が弦を掻きならした時、男の腕が閃いた。
 アンダースローで放たれた白刃が宙を裂いて飛び、ホアキンの左手にある林檎に突き立ち吹き飛ばす。続いて放たれた左の一閃が右の林檎を撃ち抜く。上げられた両手がXを描くように振り下ろされ、二本のナイフが頭部の林檎に同時に突き立ち吹き飛ばした。
 一瞬の静寂の後、酒場は万雷の拍手に包まれる。
「どうよ!」
「残念だ。失敗したら殴り倒そうとハリセンを用意していたのに」
 ホアキンが取りだしたハリセンで一つ手を叩きつつ笑った。

●それはまるで隠し芸の如く
「あー、上手くとれてますかねぇ?」
 カメラの様子を心配しながらレーゲン。宴会が始ってから思い出にと色々撮っているのだが、先ほどのは速度が早かった為、上手くカメラに収められたかどうか。
「現像してからのお楽しみ、ってやつですね」
 と鏑木。
「もしかしたら思いっきりピントがづれてたりするかも‥‥」
「それはそれで面白いかもしれませんよ?」
 竜王が言う。
「そうですねー」
 くすくすと女達(一名除く)は、笑い合う。
「さて、ここで真打ち登場でありやがるです」
 シーヴが立ち上がり、一台のテーブルの前に進み出た。敷かれた白いテーブルクロス、その上に乗るのはグラスや皿等の食器の数々。
「おー、乗ってる食器は動かさず、テーブルクロスだけ引き抜くって奴かい。結構難しいって聞くけど大丈夫なのか?」
 ほろ酔い加減のディアドラが上機嫌で問いかける。
「任せておけでやがるです」
 シーヴは威風堂々と、眉一つ動かさず、純白の敷布に手をかけた。
 鎮まる喧騒、高まる緊張、酒場中の注目が、一人の少女に注がれ、次の瞬間、その手が雷光の如く動いた。
 白い布が引き抜かれ、グラスと食器が宙を舞い――そして、ガシャガッシャーンと盛大な音を立てて食器とグラスが砕け散る。
 間。
 世界が止まった。
「――予想通りでやがるです」
 淡々とシーヴ=フェルセンは呟いた。
「ならやるなーっ!!」
 スパーン! と何処から取り出したのかハリセンで後頭部を打ち抜くディアドラ。
 それを契機にどっと喧騒が戻ってくる。
 シーヴは頭をちょいちょいと擦りつつ、ディアドラを振り返り見て
「『奢り』は全て含まれやがるですね、中尉?」
「シーヴ、恐ろしい子‥‥ッ!!」
 ズガーン、と白眼を剥き雷を背負ってディアドラは言ったのだった。

●カレーなる流れに身を任せ
 大分夜も更けた頃、フェブ・ル・アールは大きく息を吸い込み言った。
「希望島印度化計画ー! ラスホプを印度に!?」
 しーてしまえっ、と合いの手を入れる鏑木。
「余興その八、『激辛カレー対決』にゃー!」
 カレーの皿持ちビシィ! と彼方を指すフェブ。その傍らでどんどんパフーと楽器を鳴らす着物姿の一見美少女、お疲れ様です。
「ルールを説明するッ!」
 フェブ姉はおっしゃりました。
「この店で一番辛いカレーを使用するっ! お代わりごとにどんどん辛くして行くのだー! 最後まで残れた人の勝ちねー。勝った人は中尉殿か私がチューしたげるよー」
「ナンデスト?」
 そんなの聞いてないぞっとディアドラ。
「良いではありませんか、それくらい」
 眼鏡を光らせ、きりっとした軍人口調で言うフェブ。
「そ、それくらいって言うけどな?」
「さー盛り上がってまいりました!」
 どんどんパフーと、歓声。
「‥‥いかん、空気読めって言葉が聞こえる!」
 頭を抱えるディアドラ。
「では中尉殿にも御快諾いただいた所で競技に移りたいと思います! 審判ー!」
「了解!」
 ホアキンが店主から激辛カレーの盛られた皿を検分し差異がないかチェックを入れてから選手達に配布する。
 参加者は鏑木、フェブ、アッシュ、シーヴ、ヤマト(なんで僕もっ?!)の五名だ。
 準備が出来たところでディアドラが言う。
「なお追加ルールとして最下位の方には黒酢をベースに、ケール・クロレラ・ピーマン・セロリ・ホウレン草・大葉(以下略)がもれなく配合された竜王まり絵さんの秘汁『特製まり絵汁』が進呈されます」
 はぁ?! と目を剥く一同。
「え? 毒物飲料? 罰ゲーム用? なんですの、それ」
 健康に良いんですってーと、星マークあたりを飛ばしながら微笑み、毒々しい液体が入ったグラスを手にして小首を傾げてみせる竜王。
 一斉に参加者達から悲鳴があがる。ディアドラが言った。
「さー盛り上がってまいりました! 審判!」
「了解、レディー‥‥ファイ!」
 ホアキンの掛け声と共に店主がフライパンをおたまで叩き、地獄の決闘が開始された。

●カレーなる最果てへ
「手料理って作り手さんの気持ちが篭っていて美味しいので大好きです」
 撮影の傍ら、ほんわかとチャイを啜るレーゲン。
「ん〜、とっても美味しいのです‥‥」
「この【カレーなる鮨】も意外になかなかいける」
 競技者たちが苦戦するカレーをネタに握ってもらった鮨に舌鼓を打ちつつホアキン。
 一方、
「クチ‥‥が、っ‥‥ノドが‥ッ‥!!?」
 激辛カレーを前にアッシュが悶えている。
「な、なんとか次‥‥」
 その皿をホアキン・デ・ラ・ロサはひょいと見やり、
「いや駄目駄目、まだそこ、ほんの少し残ってるよー」
「お前は鬼かー!」
 その姿はやたらと愉しそうだったと参加者たちは後に語る。被害妄想か事実だったのかはきっとレーゲンの写真が証明してくれるだろう。
「う‥‥」
 無表情に額に大粒の汗を浮かべながら、シーヴがスプーンを握りしめてぷるぷると震えている。
「おいシーヴ、顔色がなんだかとってもヤバ気になってるんだが、本気で大丈夫か?」
 問いかけるディアドラを少女は何処か虚ろな目で見返して言った。
「カレーは‥‥辛ぇ‥‥」
「駄目だーっ!!」
 シーヴ、レフェリーストップ。
 ちなみにヤマトとフェブは早々にリタイアしている。一番にリタイアしたヤマトはまり絵汁の犠牲となり、テーブルに突っ伏してピクリとも動かない。相当打撃的な味だったようだ。
「やるからには‥‥勝ちにいく!」
 鏑木の瞳が真紅に染まった。辛さすら超越した痛みさえもねじ伏せ一気にラストスパートをかける。
 そんな中、フライパンの音が響き渡った。
「ゴーング! 終了ですっ! さー勝者は?!」
 結果。
 一位、鏑木、二位、アッシュ、三位、シーヴ、四位、フェヴ、五位、ヤマト、となった。
 やはり覚醒すると強いらしい。
 かくて優勝者には女二人から祝福の口づけが贈られ、インドの夜は更けていったのだった。


 ちなみに――アッシュの誘いはドレスには嬉しそうだったが「明日、帰りもあるの忘れてないか? 隊長として頷けない」との事で駄目だった模様。