タイトル:ヌメヌメと光る奴マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/10 19:47

●オープニング本文


 うちの女房はとにかくウネウネ、ヌメヌメした奴等が駄目である。
 カエルを見れば悲鳴をあげ、生きてるタコを見れば悪魔と言い、イカ刺しを喰ってりゃゲテモノぐい等と言う。必要以上に騒ぐ、何がそんなに嫌なのか理解できないが、とにかく騒ぐ。
 カエルはともかく、タコやイカは喰えば美味いんだから、もう少し友好的な関係を築けば人生に幸せが増えるだろうに、まぁ捕食者と非捕食者の関係が友好的なのかと問われれば、首を傾げるものであるが、見ただけでそうぎゃーぎゃーと騒がないでほしい。喧しいことこのうえない。間違いなく女房の欠点の一つだ。
 しかしまぁうちの女房の欠点といえば、そんなことぐらいであって、金使いも荒くなく、家事もしっかりこなし、夫もないがしろにもしない、世間一般の基準から考えればきっと良い嫁なんだろう。
 冴えないサラリーマンであるおれには勿体ないくらいだ、などと同期の友人達は言う――釣り合ってないとな。大きなお世話だ。
 まぁそんな勿体ない女を妻に持つ冴えないサラリーマンである俺は日曜の朝は当然のごとくベッドの中で惰眠を貪っていたりする。
 この歳になると寝る事が幸せ、眠りとは短い死であると誰かが言った、もしも死こそが真の幸せだというならば、人がこの世で懸命に生きる意味とはなんなのだろうか。
 死ねば全てが消えうせる。全てはやがて風に溶けて消えうせる。生の意味など、風前の塵に同じ。
 まどろみの中でそんな事をつらつらと考え思ったことは、
(「朝っぱらから阿呆らしい事を考えてしまった」)
 ということだった。
 もぞもぞと起き上がり、伸びをして欠伸を洩らし首の骨を鳴らす。最近、長く寝ると逆に疲れる。
 倦怠感に寝ぼけ眼で寝台の上に座り込んでいると不意に庭の方からどぎつい悲鳴が聞こえてきた。
 悲鳴は遠くなり近くなり、玄関の扉をあけ、廊下を抜け、寝室に飛び込んできた。
「きゃあああああああああああ!!」
 女房だった。顔面を蒼白にしてムンクのごとく叫んでいる。いや、正確にはムンクの叫びのごとく叫んでいる、か? ‥‥はてしなく、どうでも良いですね。
 とりあえずおれはよく息が続くもんだと思いつつ女房をみやっていた。おれと同い年なのだから今年でもう三十路だろうに、たいした体力だ。彼女はひとしきり脳髄を貫く超音波をまき散らしたあと、
「あ、あ、あ、あ、あ、あなた!」
「やぁ、おはよう」
「ええ、おはようございます‥‥じゃなくて、出たのよ!」
「出たって何が?」
「な、な、な、ナメクジ!」
 ‥‥なめくじぃ?
「そんなもん塩まいときゃ良いだろう」
 毎度思うが何がそこまで君を叫ばせるか。
「だ、だって、あんなの無理! こ、怖い、あ、あなたなんとかしてっ!!」
 そんなに怖いもんなのかねぇ?
 ‥‥仕方ない。
 おれは溜息をつくと置き上がり、寝台から降りた。
「で、どこに出たんだ?」
「に、に、に、庭っ! 庭にー!!」
「あいよ」
 台所から塩袋を持ち出すと、サンダルをはいて庭に出る。
 二度目の欠伸をしながら振り向くと、屋根より高いナメクジ殿がそこにいらっしゃった。
「‥‥‥‥」
 じゅるじゅると液体を飛び散らして、地面から煙を噴き上げ、犬サイズの数匹のナメクジも周囲を這いまわって、妙な液体を吐き出して、あちこちを溶かしてまわってらっしゃる。
「なるほど」
 確かにこりゃ怖い。
 愛犬が溶かされてスプラッタァな姿になっているのを見て思った。彼の冥福を祈るでもなく、ナメクジに怒りを燃やすでもなく、
(「死にたくねぇ!」)
 と。
 おれは回れ右すると家の中に飛び込んだ。
「あなた、退治してくれたっ?!」
 女房は期待にきらきらと目を輝かせ祈るように手を組んで俺を見上げていた。
「無茶のたまうな!」
「えー」
「おれは冴えないサラリーマンであって、スーパーマンでなければナメクジバスターでもない!」
「‥‥なめくじばすたぁ?」
「細かい事は気にするな! とにかく逃げるぞ! こいっ!」

●かくて依頼
 まだ若いオペレーターが言う。
「九州の某街に巨大ナメクジおよび小型ナメクジが出現しました。キメラです。大型一匹、小型は四匹であると報告があります。強酸を吐き出し様々なものを溶かします。また意外と素早いので注意してください。なお周囲の住民は既に避難しています」

●参加者一覧

御嶽眞奈(ga0068
30歳・♀・ST
シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
黒羽・勇斗(ga4812
27歳・♂・BM
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
絢文 桜子(ga6137
18歳・♀・ST
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG

●リプレイ本文

「ナメクジ〜‥バグアって何でもアリですね」
 藤宮紅緒(ga5157)が音符でも飛ばしそうな調子で建物の陰から道路に屯っている
ナメクジ型キメラ達の様子を窺っている。興味津々なのはちょっと美的センスが普通
とは違うかららしい。
「ナメクジねぇ‥‥そんなものまでキメラになるの〜? 面白そうだわ〜。是非とも
サンプル入手して調べてみたいわね〜」
 御嶽眞奈(ga0068)もまた興味を示して微笑んでいる。今回は採集用のタッパまで
持参との事だ。
「ナメクジ型キメラって奴もいるんだな。スライムがいるんだから、こういうのがい
て当然か?」
 建物の陰からナメクジの巨体を珍しそうに見やりつつ黒羽・勇斗(ga4812)が言っ
た。
「でもいつも見ている物より、かなり大きいわね」
 と神森 静(ga5165)。その体長は七メートルを超える。
「巨大ナメクジですか‥‥私的には、あまり直視したくない相手ですね」
 と言うのはシア・エルミナール(ga2453)である。
「私も軟体のそれを間近にするのは嫌ですけれど、そんなものを放置して置く事が心
の平穏に宜しくありません‥‥退治致しますわ」
 相当苦手なのだろう、悲壮感すら漂わせて絢文 桜子(ga6137)は言った。
「たかがナメクジ、されどナメクジ‥‥ってとこですかねぇ‥‥」
 周防 誠(ga7131)がそんな事を述べてみせた。
「とりあえずナメクジといえば塩だ! SES搭載の塩持って来い! そうすりゃあ
んなナマモノ一発で仕留められる!」
 無茶な事を言うのは九条・運(ga4694)だ。SESというのはエネルギー増幅機関
であり流石に塩には組み込み用がない、多分。御約束の冗句という奴である。
「SESのは貰えませんでしたけど、普通のお塩なら貰えました〜‥」
 と紅緒。
 一同は地図もまた申請し、どこか広い場所に誘き寄せて戦おうと検討したが近くに
適当な場所はなかった。
 ここでやるしか無さそうである。
 八人の傭兵達は仔細を打ち合わせるとナメクジ達を退治すべく建物の陰から飛び出
した。

●八人の傭兵VS巨大軟体生物
「いくぜ、デカブツ! 俺の動き、見切れるもんなら見切ってみな!」
黒羽は覚醒すると背中から黒き方羽を出現させ、瞬速縮地で加速すると長剣を両手
持ちにして大型ナメクジへと斬りかかった。見事、刃がヌメる表皮へと叩き込まれる。
しかし、皮に傷はつけたが弾力性のある体質のせいか衝撃が分散されてしまう。
「こいつ‥‥! くそっ!」
 手応えの無さに舌打ちしつつも続く一太刀を浴びせつつ飛び退く。入れ替わるよう
に弾丸の嵐が大型ナメクジへと向けて降り注いだ。
「くっくっくっ、Gキラーギドなんちゃらになりたかったのに龍人Gキラーになって
しまった男参上! ナメクジバスターではないがゴキメラバスターの力! 見せてく
れるわ!」
 九条運は「変身!」と声をあげるとその身を二対四枚の翼と二又の尻尾を持つ黄金
龍に変化させて間合いを詰め、SMGをフルオート射撃しながら吼え声をあげた。弾
丸は次々に命中するが、その軟体の前には常よりも効果が薄めだ。
 突っ込んできた黒羽に対して小型ナメクジ達が動いた。四匹は酸を十二連射して片
翼の獣人を溶かさんとする。
 黒羽は素早く体を捌いて飛来する酸のうち七発を回避する。しかし残りはかわし切
れずにもろに強酸を浴びる。獣の皮膚を発動させていたが酸の前にはどんな強固な装
甲も意味がない。
 猛烈な熱さが黒羽を襲い煙をあげて皮膚が侵食されてゆく。血達磨になり一気に瀕
死近くまで追い込まれる黒羽。
「損傷を確認、回復します」
 遠目にも仲間のピンチは明らかだった。絢文は練成治療を連続して発動させる。淡
い光に包まれ黒羽の細胞が活性化し傷が癒えてゆく。
 巨大ナメクが動いた。距離零まで詰めているのは黒羽だけであって、やはり黒羽が
狙われる。小型よりも鋭く飛ぶ強酸五連打、黒羽は回避し難きそれを咄嗟に飛び退い
て三発かわした。根性の成せる業か、後一発の所で踏みとどまる。
「うぅ‥‥! 黒羽さんを‥溶かさないで、くださいー‥‥!」
 紅緒がシエルクラインで弾幕を張りながら走る。銀蒼の小銃が巨大ナメクジを打っ
た。
(「速い‥‥」)
 御嶽は胸中で呟いていた。相手はナメクジだが事前に素早いと警告がなされるだけ
はあるようだ。敏捷に長ける黒羽でも回避しきれない。御嶽は練成治癒を連続して発
動させた。黒羽の傷が癒えてゆく。
「よくもやってくれた。懺悔の時間だ。覚悟はいいな? 容赦はしない」
 神森が洋弓リセルに矢を番える。ぎりぎりと音を立てて弦を引き絞ると小型ナメク
ジに狙いを定めて撃ち放った。小型のそれは咄嗟に反応し高速で横滑りして回避運動
に移る。矢はナメクジの体皮をかすめてアスファルトを打った。
「まいったね‥‥こいつは思ってた以上だ!」
 周防がSMGで弾丸をばら撒く。俊敏に動きまわるそれは悉くを回避してみせた。
速い。どうやら当てる為には接近する必要があるようだ。
 シア・エルミナールは小型になら多少は効くだろうかと塩をかけようしていたが、
それを成すには接近しなければならない。
 シアは考える。流石に回避を得意とはしない彼女が飛びこむのは止めた方が良いよ
うな気がした。恐らく普通に死ぬ。
 彼女は当てるの上手い。アウトレンジから強弾撃を発動させ神森が撃ったのとは別
の小型ナメクジを狙ってアーチェリーボウを放つ。直撃、だが敵はまだまだ元気そう
だ。
「一度に多数を相手にしないように、誘導しながら戦いましょう!」
 メンバーにそう声をかける。小型を担当する班には前に出て戦う者がいない。必然
的に大型担当班の方に集中してしまう。射撃で注意を惹く事ができるかどうか。
「くっ!」
 身体から白煙を噴き上げながら黒羽は剣の連撃を叩き込むと、瞬速縮地で飛び退い
て距離を離す。
 九条と紅緒がそれぞれ間合いを取りつつフルオート射撃で大型へと弾丸を叩き込む。
全弾命中。ナメクジの肉片が飛び散った。
 小型が動いた。二匹のナメクジから九条へと強酸が六発飛ぶ。四発回避。次いで大
型より強酸が五連射される。九割回避。僅か10メートルが生と死の境界線。降り注
がれる酸が防具の隙間より染み込み煙をあげて皮膚を焼く。このまま次を凌ぎ切れる
かどうか。
 残りの二匹の小型は滑るようにして矢の如く突進し、先の攻撃を受けた神森とシア
へとそれぞれ強酸を吐き出した。迫る強酸。避けられない。酸の直撃を受けて神森と
シアの身から白煙が噴き上がる。
 神森とシアはそれぞれ番えていた矢を解き放ち、さらに番えてもう一矢放つ。反撃
の矢はそれぞれ命中し、小型の身に突き立つ。
 絢文は九条に錬成治療を連続して入れて全快させる。後退した黒羽を周防が救急キッ
トで手早く応急手当し、御嶽が練成治療を二回入れて回復させた。
 黒羽は前線に戻ると剣風で衝撃波を巻き起こして大型を打つ。九条と紅緒の銃が焔
と共に弾丸を吐き出す。九条へと小型から六発、大型から五発強酸が飛ぶ。小型から
のを三発回避、大型からのも三発回避。五発の強酸がかわし切れずに九条の身に降り
注ぐ。酸が全身を溶かし焼き焦がす。かなり不味いか。
 残りの二匹が激しく動き回りながらそれぞれ神森とシアへと向けて強酸を三連射す
る。咄嗟に回避を試みる両名だが、相手の方が速い。全身を酸が溶かす。弓手の二人
はさらに不味い。
「シアさん、ターゲットを合わせます!」
 神森は矢を番えるとシアが戦っている小型へと狙いをつけと撃ち放った。狙い違わ
ず命中。次いでシアもまた強弾撃をかけた矢を命中させて小型ナメクジを打ち倒した。
 絢文は九条に錬成治療を連続して入れて回復させる。回復から手が離せない。
 そんな最中、電撃が飛んだ。
「さぁさぁさぁ、下等動物特有のしぶとさ、見せて御覧なさい――って言いたいけど
もう十分よ!」
 御嶽がスパークマシンをかざして小型に攻撃を仕掛ける。二条の電撃が軟体生物を
焼き焦がしその動きを強制停止させた。
 周防は回り込むようにして距離を詰めた。
 黒羽は突進すると大型ナメクジへと向かって跳躍し渾身の一撃を叩き込んだ。片手
半剣が大型の身を深く斬り裂く。着地と同時に縮地で後方に退いて距離を広げる。
 小型へと向けて九条が残弾を全て叩き込み、紅緒が大型の注意をひくように射撃、
リロードしながら前に出る。そろそろ流石の巨大ナメクジも動きが鈍ってきた。
 小型から六発が九条へ、大型から五発の強酸が紅緒に向かって飛ぶ。九条、ここに
来て覚醒したか、飛来する強酸を身をそらしてかわし、飛び退いてかわし、全弾を回
避してみせる。紅緒、なべの蓋を楯にして二発回避。四発命中。
 絢文が勝負に出た。超機械を解き放ち、蒼光の電磁嵐を巻き起こす。荒れ狂う二連
の電磁波はナメクジの体躯を爆裂させ、ついに打ち倒した。
 残った小型へと向かって神森とシアから矢が飛び、練力を全開にした周防のSMG
がトドメを刺す。最後の小型に向けては電波増幅された御嶽のスパークマシンが唸り
消し炭に変えた。

●戦い終わって
「ふははははは! 奴等の敗因はただ一つ! 溶解液しか使用しなかった事だ!」
 激闘の後、九条が夕日に向かってビシィッ! と指さして決めポーズを取り勝鬨を
あげている。
 疲労困憊となっている一同。絢文がキットを使って怪我人の治療に当っていた。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「はい、有難うございます。皆さん、お疲れ様でした」
 と神森。
「ああ、確かに疲れた。もうナメクジの相手は御免だな‥‥」
 冷えた缶コーヒーを飲みながら周防が呟いた。
「同感だ」
 清めに事前に調達した塩を撒きつつ黒羽。
「私、確信しました‥‥カタツムリの方がカッコいいです‥‥」
 と言うのは紅緒。そういうものなのだろうか。
 シアは傷口をミネラルウォーターで洗いつつ、
「シャワーなりお風呂なりに直行したいです」
「そうですねぇ、それにしても‥‥」
 神森が視線をやった先では「写真撮って〜、日付と場所書いて〜‥‥うふふっ」と
御嶽がサンプル採集に勤しんでいた。きっと持ち帰ったら色々研究するのだろう。
「あの御二人、タフですねぇ‥‥」
「いやまったく」
 ともあれ、街を襲った巨大ナメクジおよび小型ナメクジは八人の傭兵達により「滅・
殺!」され平和は取り戻されたのだった。
 しかしこの星からバグアが一掃されない限り、また第二、第三のキメラが街を襲う
だろう。
 頑張れラストホープの傭兵、戦え僕らの能力者、世界の命運は君たちの手にかかっ
ている。
 されど戦士達とて休息が必要である。そもそもに何故、彼等は命を賭してまで戦う
のか? 見知らぬ誰かの命を背負って戦わなければならない義務などあるものなのか。
 その問いにどう答えるのかはやはり人それぞれなれど、今回の話はこれにて一巻の
終わりであり、それはまた別の話とさせていただこう。

 了。