●リプレイ本文
「まさか、飛行クラブの皆さんと、一緒の戦場で飛ぶことになるとは、思っても見ませんでしたよ」
と、元は航空自衛隊のパイロットであった伊藤 毅(
ga2610)が言った。
それにUSAの空挺師団所属であったクラーク・エアハルト(
ga4961)が答える。
「言われてみれば、今回の依頼は知り合いが多いですね。シャスール隊から自分も含めて三人ですか」
ブリーフィングルームに集まったメンバーには知り合い同士の者も多いのか、そんな会話がかわされている。
「今回の仕事はヘルメットワーム十機が相手らしい」
ディスプレイを指先で叩いてソード(
ga6675)が言った。
答えるのは漸 王零(
ga2930)だ。
「こちらも十機。一応対等な勝負だ。退くわけにはいかんな」
それに平坂 桃香(
ga1831)が所感を述べる。
「あまり余裕はありませんが、まぁ何とかなるでしょう。何とかしなければなりませんしね」
「ここで敵ワームを食い止めなければ、敵の思うままだからな」
榊兵衛(
ga0388)が頷く。
「何としてもやり遂げなくてはならないだろう」
●闇に対して燃える炎
途中ソードの機体配備に手違いがあり、あわや九機での出撃となりかけるなどの場面もあったが、最低限の武装を取り揃え、なんとか無事に十機のKVが南の空へと向かって飛んだ。
「かつて世界を守る為に戦った方々を護る為の戦い、ですね」
前方に広がる青い空と翠の海、そしてHoN基地のある島を眺め間 空海(
ga0178)は呟いた。
「‥‥ナイトウォッチャーは見張るだけ炎のじゃないわ。ボク達の行く末を照らす灯火でもあるの。そう簡単にはやらせはしない」
ヴァシュカ(
ga7064)が言う。
「そうですね‥‥不安があるのも確かですが、力持つ者の務めを果たしに参りましょう」
間は頷き、一行は基地を越えさらに南へと駒を進めた。
●音速を超えて
距離はおよそ一万五千程か、特に注意して索敵していた麓みゆり(
ga2049)が蒼空の中にともすれば埃と見間違うような点を発見する。
「前方敵機!」
弾かれるように各機動いていた。機首を下げ、あるいは上げ、エンジンが咆哮し、KVが加速する。
「ミスは僚機の死に直結する、故に常に冷静に」
時任 絃也(
ga0983) が注意を飛ばす。Hワームの方もやる気らしく、真っ直ぐに突っ込んでくる。音速の世界の相対速度は瞬きすれば全てが変わる。あっという間に距離が詰まり両軍の武装が焔を吹いた。
誰よりも先んじて仕掛けたのは平坂桃香だ。アルファ小隊に属する彼女は射程距離内に入るとブーストし、連装ロケット弾ランチャーを四発撃ち放つと同時に急旋回に移る。ロケット弾がHワームに全弾命中し大爆発が巻き起こる。
四機のHワームが爆炎を裂いて飛びだし100程の距離を詰め平坂機に向かって閃光の嵐を浴びせかける。ブーストからの急激な旋回に機体と少女の身体が悲鳴をあげていたが、その甲斐あったか風の如く宙を翔け抜けHワームから放たれた八条の閃光のうち五割強を置き去りにする。
命中打により激震が平坂機を襲ったが損傷率三割三分、まだいける。
そのほぼ同時期に麓機が攻撃を仕掛けていた。天空方向よりロールしながら機首を地上へと向けブーストしながら急降下する。煙をあげるHワームに対してガドリング砲を撒き散らし、元来た方向へと音速を超えて抜けてゆく。スプリットSからの一撃離脱だ。五十発程の弾幕はかろうじて機影を捕えていたがHワームはまだ墜ちない。
兵衛もまた狙い澄ましてSRD‐02で遠距離から攻撃を仕掛けていたが距離がある為紙一重で当たらない。性能が常より落ちているソード機のSRDも外れていた。
●左翼
二番手に仕掛けていたのは左翼の漸王零だった。素早く対象をガンサイトに収めると敵右翼へ向け遠距離からSRD‐02を発砲。空を切り裂いて飛んだ弾丸は、しかしHワームに回避された。距離が遠い。
三機のHワームが間合いを詰め、漸機に向かってプロトン砲とフェザー砲を猛射する。襲い来る爆光に対して漸機は急旋回し六発中四発をかわして見せる。装甲に少し傷がついたがまだまだ余裕だ。
「ターゲットロック‥‥『滋藤』、FOX‐1!」
「チャーリー3エンゲージ、FOX−2! FOX−2!」
Hワームが攻撃を仕掛けると同時に間機と伊藤機も攻撃を仕掛けていた。
間はブレス・ノウを発動させるとS‐01よりHMを撃ち放った。音速を超えて二発のミサイルが飛び、狙い澄まされたそれは見事にHワームを直撃する。ターゲットを合わせて伊藤機が放った二発の誘導弾もHワームを直撃し大きな打撃を与えた。
●右翼
右翼では先手を取ったのはHワームだった。三機は相対距離400まで間合いを詰めると、先頭をゆくクラーク・エアハルトに向けて一斉に閃光を解き放った。六条の光の帯は全弾命中しクラーク機を呑み込む。
だが、しかし重ね張りされた装甲はその猛攻を耐え抜いた。のみならず、全弾命中した割には損傷率3割弱程度、非常に頑丈だ。
「Crash、FOX‐2!」
エアハルトが吼えた。高速型AAMでお返しとばかりに猛撃を加える。解き放たれた三連のミサイルが全弾命中し大爆発を巻き起こす。
痛烈な打撃を受け煙を噴き出しているワームへと向け時任が追撃をかけた。
アグレッシヴファングを発動させ副兵装2で攻撃し――ようとするも、咄嗟に気づく、そこに装備されているのは煙幕銃だ。煙幕に攻撃力は乗らないし射程は0となるので遠距離からでは届かない。
時任絃也は冷静な男である。慌てず騒がず即座にロケット弾ランチャーに切り替え遠距離から攻撃をしかける。しかし、やはり遠い。Hワームは急降下して全弾回避してみせた。
急降下したHワームをヴァシュカ機が追いかける。射程距離に捉えロックオンするとブレス・ノウを発動させAAMを解き放つ。2連の誘導弾がHワームを直撃し打撃を与えた。
●中央2
ブーストを継続し急旋回しながら平坂機が敵のど真ん中に切り込む。煙幕銃を用いて空域に煙をまき散らすと、音速移動で機体を横に滑らせながら先に打撃を与えたHワームへとロックサイトを合わせる。大分無茶な機動だ。機体にも搭乗者にも半端ではない負荷がかかっている。だが、その為の能力者でありKVだ。
「アルファ1、FOX‐2! FOX−2!」
煙を切り裂いて二連のミサイルが飛び、Hワームを直撃する。ワームは燃え盛る火の球と化し、破片をまき散らしながら爆散してゆく。
その様子を察知した三機のHワームは百メートル程後退して煙から抜け出すと再び慣性制御で切り返して平坂機に猛攻を加えた。
平坂機はアフターバーナーを吹かせて機体をロールさせると、避けた避けた当った避けた当った紙一重で避けた。流石に煙を楯にしてこのレベルの機体にブースト機動されるとなかなか当てられない。しかし損傷率五割五分、黄色ランプだ。
ブースト機動で舞い戻ってきた麓機が高空からダイヴし肉薄してガトリング砲を撒き散らす。麓は平坂機に攻撃が集中しているのを察知し、離脱せずにそのままHワームを追い回して攻撃を続行する。百発中五十発程度の弾丸が命中した。
雷撃の腕が伸びた。榊兵衛が間合いを詰め試作型G放電装置で攻撃を仕掛ける。二連の電撃嵐は狙い違わず麓機が追い回すワームを捉えその装甲を焦がす。
そこへブーストをかけてソード機が突っ込んだ。一気に肉薄するとロケット弾ランチャーを叩き込む。常より武装の威力は落ちているがその機体自体は健在だ。爆風が巻き起こりHワームの装甲を穿つ。ソード機は煙幕をまき散らしながら飛んだ。
●左翼2
漸機は距離400から先にリロードしたSRD‐02で牽制する。発砲、リロード、発砲、二回攻撃、一発命中。なかなか重い一撃だ。
Hワームの反撃、漸機は急降下して宙を焼き尽くす程の光線の嵐を、避けた避けた避けた当った当った直撃回避当った避けた。損傷率五割五分。このままでは少し不味いか。
「――こちらの御相手を願います」
間空海が敵右翼と中央部の間に斬り込んだ。近距離からミサイルを連射する。全弾命中。ワームを爆散させる。
「グットキル、グットキル!」
伊藤は歓声を上げつつ攻撃に移る。
「チャーリー3、FOX‐2!」
二発発射、一発命中。爆炎を裂いてワームが飛びだす。まだまだ健在のようだった。
●右翼2
時任は無線で合図を入れようかと考えたがヴァシュカの作戦に準ずる場合、まだその時ではない。ブーストをかけて急上昇するとスライスターンから肉薄し格闘戦を仕掛ける。
敵機の後方につけガトリングを猛射。慣性制御が翻る。五十発程度の弾丸を叩き込めたかどうか。
Hワームがクラーク・エアハルトを猛射した。九回攻撃、九発命中。光の奔流がバイバーの厚い装甲を吹き飛ばす。損傷率が七割を超えた。レッドランプが一気に点灯する。
エアハルトはブーストとスタビライザーを発動させた。音速機動で手負いの一機をロックオンし短距離AAMを一発放って撃墜すると、別の一機にUKAAMを二発放ってから急旋回し距離を広げにかかる。
ヴァシュカはブレス・ノウを発動させエアハルトのターゲットに合わせてAAMを三発発射した。ロックされた誘導弾が音速を超えて飛びHワームに突き刺さる。全弾命中。しかし、まだ墜ちない。
●中央3
例え煙の中だろうが当てる奴は当てる。ブースト機動を続ける平坂機はミサイル一発を置き土産に煙幕が消える前に音速で離脱した。
誘導弾の直撃を受けて満身創痍になったワームと無傷の二機が煙の中から飛び出す。平坂機は遠く彼方、麓機もソード機も煙の中。榊機へと狙いを定めると光線を猛射した。榊は急旋回して避けようとするが、避けられない。閃光の嵐が榊機の装甲を吹き飛ばしてゆく。三機合わせて六回攻撃六発命中、損傷率五割強。不味い、距離が遠くても避けられない。
麓機はブーストしながらガトリングで格闘戦を仕掛ける。リロード、一回攻撃、一発命中、まだ墜ちない。
「むぅ‥‥!」
榊兵衛は思考する。この戦い、生き残る事を第一とすべき。生きていれば捲土重来を図る機会もあるかも知れない。
ならばここは距離をおくべきか、三機から集中砲火を喰らっては墜ちる。
しかし――榊は判断した。三機から攻撃を喰らっては墜ちるが一機相手ならば耐えられる。ここが今回の戦いの勝敗の分かれ目、命は前に出て拾うもの、槍の兵衛、漢の見せどころだ。
「この一撃は我が怒りなり! 思う存分喰らうがいい!」
榊は咆哮を上げると、煙を噴く自機を駆り、ガトリングをまき散らしながら突撃した。焔と共に吐き出される猛烈な弾幕の嵐がHワームの装甲を穿ち、蜂の巣にして南海に叩き落とす。
「中央、敵機、残り二!」
ソードはハイマニューバを機動させると煙幕から飛び出しロケット弾ランチャーを撃ち放った。
●左翼3
(「戦況とは流動的だ。そして我方は押しつつある。しかし次の攻撃は耐えられるか? 解らん。なら押せる時は一気に押すべきか」)
漸王零はそう判断するとブーストとスタビライザーを発動させた。光の翼を纏いHワームへと音速で突っ込む。
「【闇影の狂鬼神】たる我をなめるなよ。その魂残さず聖闇の許へ還してやろう」
交差する間際、機体を素早くローリングさせHワームを斬り刻む。色々神業な気もするが彼はやってみせた。光の翼はHワームの装甲を抉り取ると圧倒的な破壊力で爆散させる。
残りのHワームの光線は漸機に全弾命中したが、一機だけの攻撃だ。ぎりぎり墜ちない。
「滋藤、FOX‐1!」
「チャーリー3、FOX‐2!」
間機から三連のミサイルが、ブレス・ノウを発動させた伊藤機からも三連のミサイルが飛び、大爆発がHワームを呑み込んだ。
●右翼3
「デルタよりアルファ、ブラボー各機へ、頃合だ合流してくれ」
格闘戦を続けながら時任が言う。ガトリングを猛射してHワームの行く手へと弾をばらまく。
Hワームからヴァシュカへと光線が六連射されたが、彼女の機体も固い。損傷率三割七分。まだいける。
舞い戻ってきたエアハルトが誘導弾を一発放ち、再び旋回して距離を離す。ヴァシュカがブレス・ノウを発動させてミサイルの残弾を全て叩き込んだ。
●終局へ
合流の指示が出ていたがここで合流に移ると榊機が不味い。平坂機は中央へと舞い戻るとロケット弾ランチャーを二連射する。四発のロケット弾がソード機の攻撃で弱っていた敵を一気に叩き落とした。
左翼では漸機がきっちりトドメを刺していたが、満身創痍の為退避に移る。
中央のHワームが反撃し榊機へと光線が三連射されていたがなんとか耐えきる。
右翼、時任のガトリングは全弾外れた。ヴァシュカへと光線が六連射されるが、彼女の機体の装甲は厚い。凌ぎ切る。
榊機は流石に退避した。麓機が加速して右翼の敵に格闘戦を仕掛けるも回避される。そこへエアハルトが一撃離脱してミサイルを当てたところにヴァシュカがライフルを連射した。ミサイルは弾切れだ。が、これは両方外れた。
同様にミサイルを全弾撃ち尽くした間はブーストをかけると音速機動で中央へと向かいレーザー砲を猛射する。六条の閃光がHワームを撃ち抜いた。ソード機がハイマニューバを機動させロケット弾ランチャーを六発叩き込み、ブーストで突っ込んできた伊藤機が肉薄しミサイルとレーザー砲を放つ。ミサイルは当たったがレーザーは外れた。
平坂機は右翼へ飛ぶとロケット弾ランチャーで攻撃を仕掛け、一機を撃墜し、もう一機に打撃を与えた。時任はロケット弾に切り替えるがそれでも厳しい、当たらない。ブースト不能になった麓機も同様だ。漸と榊の両機は退避中。
Hワームからの三連射を浴びてヴァシュカ機の装甲が吹っ飛んだ。損傷率九割三分、赤いランプが明滅し、警告音がけたたましく鳴っているがなんとか飛んでる。
中央のHワームは平坂機の後背へと迫りプロトン砲を二連射する。直撃、直撃。損傷率七割八分。
そのさらに後背から間機が迫りレーザー砲を連射して爆散させた。
最後のHワームへクラーク・エアハルトが再び迫りAAMを二連射する。直撃したがまだ墜ちない。伊藤機のレーザー砲は外れ、ミサイルを撃ち尽くすと厳しい。
ヴァシュカ機もやはりミサイルがないと厳しい。退避に移る。
そんな中、ソード機が迫った。サイトに敵影を捉えるとロケット弾を撃ち放ち見事直撃させる。
最後のHワームは黒煙をあげて南海へと墜落していった。
作戦終了後、基地に帰還した一同は熱烈な歓喜の声で迎えられた。
「同数のヘルメットワーム相手に完封か。大したもんだ‥‥これからは、お前達の時代だろう。空を頼むぜ、エースども」
エアハルトが淹れたコーヒーを飲みながら眼を細め、かつてのエースはそう言ったという。